大変な問題児を抱えたダイクロフト。
が来てから、早数日が立っていた。
「ぶーーーん。さあまいりましたピンクのパンツ!(昔の競輪か競馬かなんかの名前。お父さんに聞いてみよう/やめれ)コーナーに入ってぇ・・・抜いたー!抜きました!どうどう一位でゴーーーーーーール!!」
「うるさい!」
神の眼の置いてある最上階の部屋は、いまや子供の遊び場と化していた。
my way of living 55
〜ここまでくると本当、ありえないですね〜
今日で何度目になるか、ミクトランはに怒鳴り声を上げていた。
は怒られてふくれると、厚紙で作った車や馬や木をもう特等席になっている窓の前の段の上にばらばらと置いた。
これからの作戦をミクトランと立てていた軍師たちは、みなその怒鳴り声にびくついている。
が、どこでここまで慣れたのか、は一人いじけるだけでとどまっている。
「いい加減、遊ぶなら部屋で遊んでいろ!」
「ベッドの上ノリだらけになってもいいのか?」
「・・・・貴様な・・・」
挑発的にが言い返すと、ミクトランは怒りで肩を震わせた。そこに入ってきたのは、いつも二人にブレーキをかける役になりゆきでなってしまったバルバトスだ。このままいくと、下手したらゴツイお母さんのできあがりだ。それだけは是非とも避けて欲しい。
「ガキ相手に熱くなられるな、天上の王よ。お前も、人の邪魔をするな。暇ならコーヒーでも入れて来い」
「ブーブー」
「その指ぶち抜くぞ」
「4名様にコーヒー入りマァス☆」
中指を立ててブーイングをするに、バルバトスが斧をきらりと光らせた。それを見てサッと手を額に当てると、はさっさとミクトランの一応私室に入っていった。いったいどこの店員の真似か。
そしてここで一つ問題があった。バルバトスを入れると5人だ。一人分少ない。どうするつもりなのか。
しばらくすると、は砂糖とミルクと一緒に4人分のコーヒーを運んできた。集まった軍師二人にくばり、バルバトスにくばる。ミクトランの分がない。残りの一つはもちろん、自分のものだ。
「・・・今日はなにをするんだ?」
いつものことなのか、ミクトランはため息をつきながらに問いかけた。
「うわっ、ノリ悪いナァ。まったくこれだから暴君野郎は・・・・」
「何か言ったか?」
「イーエナニモー?」
ぎろりとにらみをきかせてきたミクトランに片言で返事を返すと、はぱっとハンカチをとりだした。
「ここに取り出しますは何の変哲もないハンカチ。そしてレンズ。さーあこれに念じると・・・・あーら不思議☆水芸だあっ」
「・・・・で?」
手のひらサイズのアクアスパイクを出したに大して驚かず、ミクトランは流すように話を進めた。
はノリ悪いナァとまた言うと、今度はポケットからコーヒーカップをとりだした。
「これをこうしてこの中に・・・」
「私だけ水か」
「3分間レンジに入れて、インスタントの粉を入れればさあできあがり☆って手順だよ。さーあできあがったものはこちらに〜・・・・」
「・・・・」
引っ張ってきたカートの2段目からもう一つコーヒーを取り出したに、ミクトランがものすごく不機嫌な顔をした。
はその顔を見て笑うと、「冗談冗談」と手をひらひらさせながら流した。
「ちゃんとマメから取ってあるよ。キット使って。冷めないうちにさあ飲め!」
「冷めさせるようなことをしているのはどこのどいつだ」
「めちゃくちゃ心温まるだろう」
「氷点下まで落ちた」
などというやりとりはもはやあたりまえになっていた。いつの間にコーヒーを覚えたのか、は日課のようにやっている。
というのも、暇だ暇だと騒ぐにミクトランが本気で怒りかけ、それを止めようとバルバトスが適当に「そんなに暇ならコーヒーでも入れて来い」と、あくまで冗談でいったつもりが、こうなってしまったのだった。
やることが一つできても案外丸く収まったのだから、それはそれでまあいいかとどうでもよさそうに流すのはさすが、神経図太そうなだけある。
のあしらい方がほんの少しだけ身に付いたミクトランは、前よりはストレスも溜まらないようだ。
その内軍師たちもいなくなり、ミクトランは一人で仕事をし始める。バルバトスもどこかに行き、は一人暇そうにしていた。
「今度は何作ろうかなぁ・・・。マグナムセイバーでもつくるか?曲線難しいからネオトライラガーもいいなぁ」
今更ミニ四駆というのもどうかと思うが、悲しいことにつっこみはいなかった。
のんびり窓辺で寝そべりながら、ネオトライラガー作りに挑戦していただったが、急に、外が騒がしくなった。
何事か?と首をかしげていると、しばらくしてシャッと言う音と共にどやどやと人が入ってきた。
入ってきたのは、アトワイトとクレメンテだ。
「あー!おじいちゃん!アトワ姉さん!」
「!」
「無事だったのね!」
「二人は無事そうじゃないね!」
はっきりいうと、捕まっている。だがは嬉しそうに二人に駆けていこうとした。
しかし。
「ブッ!」
あと2・3メートルもなくなったとき、の目の前に腕が現れ、それが丁度鼻の辺りにぶつかった。思いっきり顔をぶつけたはそのまま後ろに倒れこんで半べそ状態だ。アトワイトとクレメンテが「あ!」と声をあげた。
だれだ!とうらめしそうな目で見上げた先には、ミクトラン。冷たくこちらを見下ろしている。
「仲間のところへ駆け寄ってすぐ、晶術を使って逃がされたのではたまらないからな」
フン、と鼻で笑いながらミクトランが言うと、が怒ってがばっと立ち上がった。
「だからといって乙女の顔にラリアットかますな!」
「乙女なんてガラじゃないだろう」
「大体晶術だったら離れたところから・・・・あ、できんじゃん」
「こいつらごと切り刻むがな」
ミクトランのつっこみに「しまったー!」と騒ぐだったが、アトワイトとクレメンテはそれどころではなかった。
なんでこいつはミクトランと仲がよくなってるんだ?
「ねえ・・・、これはどういうこと?」
「俺のことをこっちへ送ってきた奴が、地上軍に俺がいると厄介だから〜とかいって、こいつゆすってここにいさせてるの」
「ゆすられているわけっじゃない、ガキが」
「でも俺のこと殺せないじゃん」
ミクトランを指差しながらがいうと、ミクトランはその指をびしっっと叩き落とした。
アトワイトたちはその説明を聞いて・・・なんとか合点がいったようだ。ならば未来に起こることもわかるだろう。
そしてこの様子を見て、どうやらミクトランにはこの先の未来を教えてはいないようだと二人は判断した。
「このものたち、どうしましょう?」
兵士の一人が前に出て、ミクトランに指示を扇いだ。
「裏切り者たちと同じ部屋にでも入れておけ」
「は・・」
「ええーー!折角来たのにー?!」
興味なさそうに背を向け、一言言ったミクトランに、返事を返そうとした兵士の声をさえぎってが不満そうな声をあげた。
「どうやら遊びに来たわけでもないらしい者どもに、茶などだしてどうするのだ?」
とっている間にも、アトワイトたちは引っ張られていった。
「!」
「あ!アトワ姉さん!おじいちゃん!あ〜〜〜もう〜〜っっ。ミクトランのケチ!」
がいじけたように言うと、ミクトランは無表情で振り返り、ぐっと首をつかんできた。急な行動に、は受身もなにも取れはしない。
「あの女との約束さえなければ、お前のような奴はすぐにでも殺してやれるのに・・・」
初めて本気の殺意を送られて、はゾッと背筋を凍らせた。
今まで、どこかで前のようなことになるのを期待していたのだと再認識させられた瞬間だった。
まだ、心の中には期待がある。ここまできて、まだ。
ミクトランが手を離すと、はゴホゴホとむせながら床に座り込んだ。ミクトランは相変わらず冷たく見下ろすばかりだ。
「地上軍から来たのなら少しは役に立つかと思いきや・・・まさかこんなガキだとは。無駄な時間ばかりついやして計画が遅れるばかりだ・・」
「そんなに・・・全てを自分の支配に置くのが望みかよ?」
独り言のようにつぶやいたミクトランの言葉を聞いて、少しだけ息を整えたはミクトランを見上げ、まだむせながらキッと睨みつけた。
ミクトランはフン、と鼻であしらうと、机にむかってつかつか歩きながら「ああ、そうだとも」とわざとらしく明るい声で答えた。
「全ての人間は、本来王である私の元にひれ伏しているはずだった。それがなんの間違いか、こんな大事にまでなってしまった。それを元に戻すだけだ」
の方を振り向いて、ミクトランは酷く楽しそうに笑った。その言葉を、行動を見たは愕然とし、それから同情するように目を細めた。
「やっぱり、そういう答えをだすんだ・・・・」
やけに悲しそうな声が二人だけの空間に響く。珍しくはうつむき、泣きそうな顔で笑みを浮かべた。
顔を上げても、ミクトランはただ冷たい目で見下ろしてくるばかりだ。
「・・・なんで、そんなに人の上に立ちたいと思うんだ?結局そんなことしたって、今以上に人は離れていくばかりなのに」
「煩い」
「・・・・わかっていてやってるんだ。それならなおさらだね。なんの必要があるんだよ」
「必要などない」
の言葉を、それまで聞きたくなさそうに聞いていたミクトランが、一気に命を吹き返したようにきらりと目を光らせた。
「私はその位置につく力がある。必然的に、自然に私は全ての王としてこの世に君臨する」
「なるほど、逃げるには一番最適な方法だ。天才と呼ばれるほどの頭脳を駆使すればできないこともない」
ミクトランの言葉を聞いて、は急に考察でもするかのように喋りだした。ミクトランはその言葉を聞いて顔をしかめている。
歩きながら話しだしたはくるりとミクトランの方を向くと、相対するように睨み付けて来るミクトランにまっすぐ目を向けた。
「なんでそこまで遠ざかろうとするの?意味がないって分かってるのに。全ての者を自分から遠ざけて、見下して。そこまでして上にのぼってあんたはどうしたいの?どうなりたいの?・・・いったい、なににそこまで怯えてるんだ?」
「煩い、黙れっ」
が最後まで言い終わるや否や、ミクトランは声を荒げた。は驚いてびくっと肩を慄かせた。
ミクトランが近づくたびは後ろに下がり、とうとう壁に背中がはりついた。いつかの時のように、ミクトランは壁にダンッと腕をついた。
「人の上にたつことの何が悪い・・・?権力欲、支配欲、誰にでもある欲だ。怯えている?1000年後の私がお前にそうとでも言ったのか?そうだとしたら残念だったな。私に怖いものなどない。全て力で手に入るこの世界で、私に出来ないことはない」
ぎらぎらと目を輝かせながら話すその姿は、まるで自分に言い聞かせているかのようだ。
ミクトランは言いたいことだけ言うと、表情だけ緩ませ、目線は鋭いままでに顔を近づけてきた。
ずいと近づいて笑うミクトランに、は怯え半分、負けん気半分な目を返すばかりだ。
「・・・お前こそ、何を期待している?そんな風に言えば、私が心を入れ替えて地上軍と和解しようとするとでも思ったのか?それとも、お前が惚れた・・・未来の私になるとでも思ったのか?」
最後の言葉を聞いて、は目の色を変えた。
両手でミクトランの手をバッと払うと、はキッとミクトランを睨み返した。
「・・・ああ、期待してたよ。顔も声もしぐさも、全部、あいつと同じなんだからっ」
だんだんと大きくなる声を抑えることもできないまま、は感情的に言葉をだしていた。
ミクトランはどんと押されたあと、その場から動かず冷めた目でを見ている。
「考えも、言うことも、全部一緒だ・・・・。でもやっぱり違う。あいつじゃないって・・・過去のお前はお前だって・・・・それくらい・・・・それくらいわかってるっ・・!」
言うだけ言うと、は泣きそうになりながらいつも使っている部屋に向かって走り出した。
(なんでこんな時代にいなきゃならないんだよっ。なんでここにつれてきたんだよっ!エルレインのバカ!)
せめて、18年前ならよかったのに。
バタンと扉をしめると、それから、は一度も外にでてこなくなった。バルバトスは間の悪いことに、出かけていてこの事態を知らなかった。
それから一夜明けて、夕食朝食昼食と、3食ぬかしているのにもかかわらずは部屋からでてこなかった。
あの後、ミクトランが気にして見に行くはずもなかったのだが、さすがにここまでくると死んでいるのではないかと気にし始めた。
死なれては、エルレインになにをされるかわかったものではない。
「・・・チッ」
舌打ちをすると、あまり手が付けられていなかった仕事の書類やらなにやらをほったらかしにし、ミクトランは部屋にむかった。
自室なのだからノックもなしに部屋に入ると、はいつも隣の部屋にいるときと同じように、窓辺に座っていた。
ただし、いつもの何十倍もぼんやりしながら。
「おい」
ミクトランが声をかけたが、は無視した。気付いているのかすらわからない。ただ、一ミリも動かずにずっと外を眺めてる。
今度はため息をつくと、ミクトランはのいる窓に近づいていった。
「おい、無視するな」
もう一度呼びかけても無視をするにミクトランが苛立ちながら声をかけると、ちらりとだけミクトランを見て、はまた顔を外に戻した。
ミクトランは舌打ちをすると、「なにがしたいんだ」とイライラしながらに問いかけた。
「・・・なにも」
「・・・。とりあえず食事だけでも取れ。死なれたら今以上に迷惑だ」
無表情で、なんの感情も感じさせない声を出すに、ミクトランはイライラしながら命令した。
昨日のやりとりで、ここまでなるものかと逆に感心するくらいの変化だ。
指示をだしても動きそうにないを見てため息をつくと、ミクトランは諦めて仕事に戻ろうとした。
しかし後ろに振り向いた瞬間、に「なあ」と声をかけられた。今度は何だと振り返ると、今度はちゃんとこちらを向いたと目があった。
「今からなにしても、殺さないって誓うか?」
「・・・・・・。行動による」
「殺さないか?」
「行動による」
2度同じことを聞いてきたに、ミクトランも同じ答えを返した。はため息をつくと、ミクトランに「変なことしないから、目つぶって」と言ってきた。かなり怪しい。
悪戯じゃないだろうな、と怪訝そうな顔をしながら嫌嫌ミクトランは目を閉じた。なにをしてくるか分からない分、ミクトランは「ロクでもないことだったら本当に殺す」と思いながらじっとしていた。
「・・・?」
身体に触れる感触に、ミクトランは首をかしげて目をあけた。顔を下ろすと、は抱きついてきている。
「おい、コラっ・・・!」
「あっ・・・」
慣れていないのか、驚いてミクトランはを引き剥がした。
は離れた拍子に目からぽろりと涙を落とし、急いで顔を伏せた。
「俺・・・」
うつむいたまま、がぽつりとつぶやいた。
それに気付いたミクトランは動きを止めて、表情のみえないを見た。
「俺・・・・未来でお前のこと・・・殺した」
「・・・・・」
突然そんなことを言われても。というのがまず第一の気持ちだ。誰でも驚く。次に、ミクトランは惚れてたんじゃないのか?という疑問にぶちあたった。
このいつもうるさいの状態を見ると、なにかあったのだろうことはすぐに察せたようだ。
とりあえずどうしたらいいのかわからなかったミクトランは、肩に置いたままだった手を引き剥がすこともできず、どうしようかとそのまま立っていた。
「ごめん」
「・・・・」
「ごめん・・・」
だんだんとの声が泣きそうにかすれていく。ぐずる音が聞こえたかと思うと、下からぽたりぽたりと涙の落ちる音がした。
「ごめんなさい・・・・ごめん・・・」
掠れて小さくなっていった声は、やがて聞こえなくなった。どうしたのかともう少し引き離して顔を覗いててみると、はそのまま眠っていた。
「・・・・はぁ・・・」
どうして天上の王として、暴君としておそれられている自分の前でこうまで無防備になれるのか。昨日あれだけ殺されそうな目にあっておいてと、ミクトランはあきれ返った。おそらくこの様子では、昨日から一睡もしていなかったのだろう。
こういう手のタイプは苦手だ。
まず、自分に好意を持っているという時点で信じられなかった。好意を持っていたとしても、権力かなにかを狙っての、うわべだけの好意しかミクトランは知らなかった。
とにかくどうにも扱いづらい子供をベッドに寝かせると、ミクトランはさっさと部屋を出て行った。
目が覚めたら、死なれる前にしっかり食事を食わせようとその時の行動を想像しながら。
数時間後、はぱっちり目がさめた。久々にすっきりした気がする。
「・・・・・」
あれから何時間たったのか、とりあえず明るいところを見るとまだ寝てから2・3時間ほどしかたっていないらしい。だがとにかく目が覚めてしまった。
しばらくぼんやりして、はハッと気がついた。その2・3時間前、かなり自分は恥ずかしいことをしなかっただろうか。
「あー・・・すっきりしたのって・・まさかアレの所為・・・・」
思い返して、は頭から思い切り布団を被った。恥ずかしくてとても向こうに出て行く気になれない。
熱くなった顔をそろりと出すと、ははぁ〜・・・とため息をついてがしがしと頭をかいた。
というか、もしかしてベッドに入れてくれたのは奴だろうか。奴なんだろうか。考えた末、・・・・考えるのをやめた。
ベッドから出て窓にいくと、いつものように段に登って座った。色々な気持ちが溢れすぎてる、と、は深呼吸した。
「・・・・久々に歌うかぁ」
鬱憤晴らしに。憂さ晴らしに。気晴らしに。とにかく歌いてえ、とは窓を開けて伸びをした。一気に冷たい風が入ってきたが、ここまで空気の調節が回っているのか、空気がうすれることもなければ死ぬほど寒い風も入って来なかった。
「3番、いきマァス」
一人で勝手に順番を言うと、窓の外の風を何日かぶりに受けながらは微笑み、息を吸った。
今は遠い世界の、故郷の歌。
何度も何度も聴いた歌は、もう歌詞をみずとも歌える。
元々歌は好きで、はしょっちゅう人目もはばからず歌っていたが。
静かで、切なくて、でも暖かな歌。
心情そのままの恋の歌を、は自分のペースで歌う。感情を込めて。
歌を歌い終わった頃、部屋の扉が開く。
びっくりしてそちらの方を見ると、同じく驚いた顔をしたミクトランがいた。
「・・・っくりしたー」
「その顔見てこっちが驚いた」
「俺の顔はどんなだっ!」
がつっこみ返すと、珍しく、ミクトランが普通に笑った。はその顔を見てさらに驚いた。
(やばっ・・・)
同じ顔だ、と、はすぐに目をそらした。違う人物だと分かっているのに、妙に心拍数が上がっていくのが分かる。
窓から勢いよく入ってくる風をうけて、は頭を冷やした。
「今の歌はなんだ?」
「ん?鬼塚ちひろって人の歌で、眩暈」
「ほーぉ。今の方の私にまで惚れて歌ったのか?」
「バカいえ。お前のオヤジギャグのあまりの寒さに眩暈起こした方がまだ近いっての」
ミクトランの冗談にくくっと笑いながらはさらに冗談で返した。
それを聞いたミクトランがお前こそオヤジギャグ、とつっこむと、は「あ」と声をあげた。
天然かと呆れるミクトランに、「うっさい」と、は可笑しくなって笑いながら返した。
「いい歌だ・・・意外と聞ける声だな」
「はいはい、お褒めにあずかり光栄でございます〜。ご要望と在らばいつでも歌ってみせましょう」
至極意外そうに言ったミクトランにがおどけて深々礼をすると、ミクトランはまたフッと笑って偉そうに胸をはった。
「・・・プッ、ははっ!どうしたんだよお前、すっげーノリよくなってねえ?」
堪えきれなくなったのか、はとうとう腹をかかえて大笑いしだした。ミクトランは少し笑うと、それからすぐに顔をしかめて肩を竦めた。
「お前相手にまともにやってたんじゃ、身体がもたないことがわかったからな。真面目に話してるとあほらしくなってくる」
「あ、なーるほど」
「納得してないで少しは直す努力をしろ」
ぽんと手を叩いて納得したの頭をミクトランがガスッと殴ると、面白いぐらい間よく、新人の青年兵士が食事を運んできた。
バルバトスは、1日あけて帰ってきて驚いた。
今目の前では何が起きているのだろうか。
「じゃ、バリチッチしようよ」
「知らん」
「親指あげてさ、チッチッチッチッ・バリチッチ・5!とかやって遊ぶ奴」
「却下」
「じゃあマジカルバナナ!」
「つまらん」
「うー、007!」
「本当に撃つぞ。しかも何故古い遊びばかりなんだ」
「狙い撃ち?!リンダさま?!」
なぜ様付けなのか・・・はどうでもいいとして、邪険にを扱っていたミクトランが、いつの間にか打ち解けている。
前以上にじゃれつかれて・・というか、バルバトス並に遊び相手として見られているのはどういうことか。そこまで見られるほど、彼は人に気を許すような人物ではないはずだ。
「あ、おっちゃんおかえりー!」
「バルバトスだ」
もう名前の突っ込みは癖のようなものか。とりあえず出入り口で呆然としていたバルバトスは、ちょこちょこと騒いでいるにいち早く見つけられた。
「早かったな」
「ああ・・・」
この謎について問いかけるべきか。・・・とりあえずバルバトスはやめておいた。
そのままこれからの話を普通にしようとするミクトランに、さきほどまでうろついていたはひっついてこなかった。というか、どこかに消えていた。
こんどはどこに消えてなにを企んでいるんだ、とバルバトスがちらちら周りを見回していると、は奥の部屋からコーヒーを持って戻ってきた。
なんなんだ、ここは。
バルバトスが困惑しているうちに、はさっさとコーヒーを置いて自慢げに笑っている。しつけを一つ覚えた保育園児のようだ。
いつの間に保育所に変わったんだ、とバルバトスが唖然としている横では、ミクトランが「ちょっとうすい」とダメだしまでしている。
本当になにが起きたのか。彼はまったくしらなかった。
「あれー?どうしたんだバルバトス。固まってるぞー。おーい。おっさーん。もう歳なのか?」
「アルツハイマーか」
「おじいちゃーん」
「違うっ」
二人の年寄り発言にカッと我に返ったバルバトスは、もうどうでもよくなっていた。天上王がどう変わろうと、自分には関係ない。とりあえず笑っておけ状態に達した。
「はぁー・・・・。本当に、お前がいると何が起こるかわからん・・・」
呆れながら笑うという器用な行動をとるバルバトスに、はにーっと笑って「でも」と言った。
「そのほうが楽しいだろ」
ここはつっこむべきか考えて、バルバトスはくくっと笑った。どうやら自分までほだされてしまったようだ。
「ボケの爪が甘いな」
「うわ!ボケについてのダメだしまでくらっちゃったよ!どうするミクトラン!」
「とりあえず技を磨け」
「これ以上笑いを取ったらお前ら全員腹壊すぞ!」
誰が壊すか、とつっこんで、とりあえずそのコントに3人はオチをつけた。
久々に心から笑ったは、これからのことなど露とも考えていなかった。ただ楽しくてしょうがないという気持ちで、頭はいっぱいだった。
「なあバトー」
「バ・ル・バ・ト・ス・だ」
「いいじゃん。長いんだもん。バルバトスバルバドスバルバドベスドバベスバス」
「わかった。わかったから止まれ」
まだちょっぴりうろたえながらもなんとか今の状況に慣れようと一生懸命なバルバトスに気付きもせず、は「変なバトー」と指をさして笑っていた。
人を指差して笑ってはいけない。
続く
−−−−−−−−−−−−−−−
・・・。なんか、すんごい酷い話しだナァ。こんなでいいのかしら。やっぱりスランプだ・・・・(涙)
テスト終わって気持ちが落ち着けばなんとかなるかな・・・。なるよね!!うん!なるはずさ!!(自分で言ってるよ)
ミクトランとバルバトスがほだされてます。ええ、史上初ていうかありえません。
まあでもこれくらいやらなきゃ・・・後々響く・・・・・(コラコラ)
ていうか第一部で1000年前に同じこと言われて惚れた発言させるんじゃなかったーー!(後の祭り)無理ーーーー!(後の祭り)
バルバトスの新しいあだ名も決まったことだし・・・・(ほだしすぎ)
いや〜。テスト期間中に書いてたんだこれ。(待て)うん、まあがんばったよ自分(コラ)
ではでは☆(うわ誤魔化した)ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!