一夜あけて空の上。あまり遠くまで空間移動できなかったバルバトスのおかげで、あれから随分と時間がたっていた。
「はーーーなーーーせーーーー!」
「煩いガキだな」
脇にかるがるもたれながら、はじたばたと暴れていた。バルバトスにもたれている時点で嫌な予感がしてならなかった所為か、いつもなら諦めてボケでもかましそうなところをとにかく暴れて抵抗している。・・しかも、いる場所が場所だ。暗い。そして廊下の作りも変だ。
かなり煩いのか、バルバトスはご機嫌斜めに眉間にしわを寄せている。
「大体ここどこだよ?!もんのすんごく悪趣味!変態趣味!根暗趣味ーー!」
「・・・作った本人の前でここまでいうか。たいした根性だなガキ」
シュンッ、という音と共に、は開けた部屋に連れて行かれていた。丁度悪趣味と叫びだしたころあいだ。
「ゲッ・・・・」
入ってすぐ目の前に立っていたのは、ほんの数ヶ月前に、自分が殺した男だった。
しかも、かなり不機嫌そうだ。







my way of living 54
〜ボケしかいないネプチューン・・・?〜








バルバトスに持たれたまま、は固まっていた。顔は引きつっている。
それもそのはず、目の前にいるのは金髪ロンゲでめちゃくちゃ目つきの悪い、天上王ミクトランが眉間にしわを寄せて今にも一人殺しそうなほど殺気だっている。さすがに自分の作ったところを悪趣味変態趣味根暗趣味といわれて頭にきたようだ。というか元々短気そうだ。
ミクトランは固まったをギロリと睨むと、次にバルバトスの方へ目を向けた。
「なんなんだこれは」
「あの女の命令だ。こいつはお前が世話をしろ」
しかめっつらのミクトランに、バルバトスはかなり楽しそうに、笑いを堪えるかのように口元を歪めながら言った。
ミクトランはそれを聞くとピクリと眉を動かし、を指差した。
「・・・・何故私がこんなものを」
「もの言うな!」
「黙れ」
「きぃーーー!」
「煩い」
有無を言わせないミクトランの声に、は押し黙って「むぅ・・・」と小さく唸った。
ミクトランはまだバルバトスと話している。バルバトスはもう完璧に口が笑っている。
「あの女にやらせればいいだろう」
「それは本人に言え。・・・・ほら、ご本人の登場だ」
怒りが頂点に達しそうなミクトランにバルバトスが言い返した時、空気がゆがんだような感覚がした。ミクトランで面白がっていたバルバトスは何事かをすぐに察すると、一番の空間の歪みが生じるであろう場所を見てにやりと笑った。
「これはどういうことだ」
「やっとこちらに来たのですね、
「ミクトランしかとかよエルレイン」
ギッと睨みを聞かせてきたミクトランを見事に無視したエルレインに、がすばやくつっこみをいれた。なんだか会話がてんやわんやだ。
バルバトスはかなり楽しそうだが。
エルレインがのつっこみすら無視していると、ミクトランがますます苛立った声で「おい」とエルレインに声をかけた。
「何故私がこんなガキの世話をしなければならないんだ」
「この子に向こうとつながれては困るのです。あの戦い、本当ならば天上軍が勝利を収め、そしてはこのダイクロフトへ来るはずだった・・・」
「はぁ?」
ミクトランに一言ずばっと返したエルレインは、その後舌打ちしそうな勢いで顔をしかめ、暗い声で語りだした。
はわけのわからないエルレインの言葉をきいて、何の話だと首をかしげた。
「あなたは最初からこちらにくるはずだったのです。それが何の間違いでか、地上軍の方へ飛んでいってしまった」
「そりゃハロルドの大砲の所為だ・・・」
「だったらそのまま地上軍に渡しておけばいいだろうが。こんなガキ、いても邪魔なだけだ」
「今の世に一番いらないランキング1位独占のお前にだけはいわれたかないよ」
がいつもの調子でボケ返すと、ミクトランは刺すように睨んできた。うっ、とが怯むと、ミクトランはフンと鼻であしらった。
「どこでとった集計だか知らんが、私には関係ないな」
「話を戻していいですか?」
「勝手に話しとけば?」
一応エルレインが了承を得ようと二人に声をかけると、がミクトランとにらみ合いながら冷たく返事を返した。ミクトランは「いらない」の一点張りだ。
「いらないといいますけど、バルバトスが天上軍へ寝返るはずだったあの戦い・・・・勝敗を変えたのはこの子です」
「悪戯でも仕掛けて混乱でもさせたのか」
「あ、よくわかってるねー俺の性格」
「ガキのやることなど高が知れてる」
「バカいえ。俺の華麗なる歌声にみんな翻弄されたのさ」
「違います」
ボケのとミクトランの所為で、かなり話しが脱線している。エルレインはイライラしはじめ、バルバトスに至っては笑いを堪えようと空いた手で口を押さえている。
「天上軍から出た大量のモンスターのレンズを使って、軍師に晶術を撃ったのです。それも、上級晶術を」
「信じられるか」
「せめてかじりくらい信じろよ」
真剣に話すエルレインに、ミクトランが呆れ顔をしながら即答でかえした。はその後さらにミクトランに即行つっこんだ。
エルレインは「本当です」というと、ミクトランを冷たく睨んだ。
「とにかくこの子は地上軍に渡せない。こちらの出方も全て把握しているでしょうし」
「わかるわけないじゃん」
「・・・だそうだが」
しらっと言ってのけたの言葉を聞いて、ミクトランが顔をしかめながらエルレインの方を見た。
エルレインはミクトランへの怒りも混じってか、眉を引きつらせながらを睨んだ。
「・・・。1000年後の人間でしょうあなた?歴史の勉強はしなかったのですか?」
「ちょっとはしたさ。でも忘れた」
あんなブッとい本全部覚えられるかっつーの。と、さも当たり前のようにが言うと、エルレインははー・・・・と疲れたようにため息をついた。
「後はよろしく」
「おい、逃げるな」
額を押さえながらそそくさと帰ろうとするエルレインのマントを踏んでミクトランがそれを阻止すると、エルレインはまだなにかあるのかと顔をしかめながら振り向いた。そして
「それが出来ないというのなら、この話はなかったことにします。バルバトス、天上軍に渡したモンスターを全て未来へ戻し、その子を地上軍へ返してきてください。ついでにダイクロフトの攻略法でもなんでも、昔の仲間たちと世間話を楽しんできなさい」
「ああ、わかった」
「待て、わかった。こいつをこちらで預かる」
真顔で話を進めるエルレインに、かなり楽しそうにバルバトスが返事を返すと、ミクトランが焦ったように手をだして止めた。
エルレインはそうですか、と言って勝ち誇ったように微笑むと、「また来ます」といってさっさと消えていった。
エルレインがいなくなったあと、ミクトランは盛大にため息をついた。
は言い負かされるミクトランを初めて見たものだから笑いを堪えきれず、バルバトスと笑っている。
しばらく笑っていた二人だったが、ミクトランに睨まれて笑うのをやめた。かなり機嫌が悪そうだ。
「こいつはどうする?牢屋にでもぶちこんどくか?」
「・・向こうに私の私室がある。そこにでも放り投げておけ」
をひょいと持ち上げてバルバトスが問いかけると、ミクトランはまた疲れたような顔をしてぶっきらぼうに命令した。
バルバトスにネコのように持ち上げられたは私室、という言葉を聞くと、ゲッと顔をしかめた。
「ゲッ、おっさんの部屋かよ」
「牢屋に行きたいか?」
「喜んで使わせていただきます」
冗談の通じなさそうな声で返してきたミクトランに、は即答で答え、頭をさげた。


ミクトランの私室とやらは、普段あまり使われていないようだった。
広い部屋のどまんなかにベッドが一つ。その向こう側には大きな机があり、さらにその隣には大きな本棚があった。綺麗に掃除されていて、シーツにはしわ一つない。
廊下より全然悪趣味ではないその部屋を見て、はほっと胸をなでおろした。安心するところがどこか違っているのは気のせいか。
とりあえずバルバトスは本当にをそこに放り投げると、さっさと部屋を出て行こうとした。
「あ、なあオッサン」
「バルバトスだ」
「かわんかいじゃん。これからなにすんの?」
床にころんと座りながら、急にこれからの用事を問いかけてきたに首をかしげると、バルバトスは「色々だ」と答えた。
「なぜそんなことを聞くんだ」
「なんとなく」
「・・・・」
わけがわからん。バルバトスは心から思った。
「・・・・ナンパか?」
「帰れ」
とりあえずボケをかましてみたバルバトスは、に思い切りつっこまれた。のは単なる条件反射だ。
それから暇ーーー!と騒ぎ出したを見て「ああ」と頷くと、バルバトスはにやりと笑った。
「なんならあの女に頼んで、1000年後からおもちゃでも持ってきてもらうか?」
「いらん!ガキ扱いするな!ままごとを一人でやっても寒いだけだ!」
「どっちだ」
ほしいんだかほしくないんだかよくわからない返事を返してきたに、バルバトスはつっこみかえした。
これ以上相手をする時間もなくなったのか、それとも面倒になったのか、バルバトスは「昼寝でもしてろ」というとさっさと部屋を出ていった。
「・・・・つまんなーい」
地上軍今頃どうしてるかな、と考えてすぐ、はばたりと後ろに倒れた。気を失ったわけではなく、単にやることがなくて転がっただけだ。
シャルティエもハロルドも誰もいないダイクロフトで、知っている顔といえばバルバトスと・・・ミクトラン。
そういえば全然違うよな、と先ほどのミクトランの顔を思い浮かべて、ははぁー・・・とため息をついた。エルレインがバックについているから無碍にされないだけであって、地上軍としてあっていたらどうなっていただろうか・・・おそらく何も考えずに殺されるだろう。
なにかと優しかったあの頃のミクトランの面影は少しもみられず、・・・過去なのだからあたりまえかとは頭を整理した。
「なんかもう、わけわかんないや・・・・」
しばらく会うこともないだろうと思っていたミクトランにこんなに早く会ってしまったせいか、の精神はかなりまいっているようだ。
ふらりと立ち上がると、はベッドにどさっと倒れこんだ。ふかふかして寝心地がいい。
全部忘れて眠れるかもしれない、と、うとうとしながら考えて、はそのまま意識を手放した。


『何故・・・・・・!何故だ・・・!・・・!!』
「!?」
目の前に、腕をおさえながら苦しそうに顔を歪めるミクトランがいる。それだけでどっと冷や汗が流れた。
自分の手には真っ赤に染まったカトラスがある。
ミクトランを見て、それからまたカトラスに目を戻すと、カトラスはベルセリオスに変わっていた。
『・・・私を、斬るのか
やけに落ち着いたミクトランの声が聞こえる。こわばる首を何とか動かして前を見ると、あの時と同じ、ミクトランが腕をおさえながらゆっくりと立ち上がっていた。
「・・・嫌だ・・・」
なんとか口をついて出た言葉は震えていて、ほとんどつぶやきにも近い。しかし弱弱しい声すら気にする余裕もなく、は極度の緊張で固まった足で後ずさりながら、中々動いてくれない首を左右に振った。

遠くで叫び声が聞こえる。

『こうなるなら、あのとき断ってくれれば良かったのに・・』
「・・・・!」
『そういうことは・・・・もっと早く言って欲しかったな・・・・』
持っていたベルセリオスから手を離すと、は血だらけのミクトランに手を伸ばした。
ミクトランの目はもう閉じていた。
スタンたちが駆け寄ってくるのがぼやけて見える。
身体が後ろに倒れるのと同時に、頭の奥が引っ張られるような感じがしてはハッと目を開けた。
「やっと起きたか」
「ギャァアッ!?」
開けたとたん、視界にミクトランがうつっては思わず大声をあげながら後ろにザッと下がった。
寝転がりながらやるのだから器用だ。
ミクトランは煩さに顔をしかめると、不機嫌そうにため息をついた。
「誰もお前みたいなガキは襲わん」
「んなこと期待してねえよ!」
がばりと起き上がって、がバシッとベッドを叩くと、ミクトランの後ろからくっくっという笑い声が聞こえてきた。バルバトスだ。
ミクトランがなんだ、と、やはり顔をしかめながらバルバトスの方を振りむくと、バルバトスは笑いを堪えながら「いや、なんでもない」とだけ言って怒るのを静止させるように手をだしてきた。
「まさか、本当に昼寝してるとは思わなかった」
「普通、誘拐されてきてすぐに寝れるものか?しかも人の部屋で」
「うっさいなー。俺の神経は図太いんだよ!それにこのベッドすんごい寝心地いいし〜v」
呆れたようにため息をついたミクトランにガーッと言い返すと、は手を上に挙げてぼすっとベッドにつっこんだ。
また寝転がるなと怒られたはいじけながら起き上がったが、ミクトランの方はもっと気に入らないような顔をしていた。
「んで、どうしたんだよ。俺を起こして」
「地上軍基地の場所を教えろ」
「やだ」
「このクソガキ・・・こちらが手をだせないからといっていい気になりおって・・・・」
即答で断ったにミクトランが青筋を立てたが、はそのまましらんぷりしていた。
・・のだが、ガキという言葉が気に入らなかったのか、バッとミクトランの方に顔を戻すと「失礼な!」と大声をあげて指差した。
「ガキガキと!俺は16だっ!」
「・・・」
「・・・」
「・・・見えん」
「なに!?」
「結局ガキにかわりはない」
「だとゴラッ!」
バルバトスの一言に始まり、ミクトランまで驚いた顔をしていたが、さっさと顔をしかめるとさらに毒舌を浴びせてきた。
それにけんか腰で答えるもどうかと思うが、ミクトランは余裕面でフンッとあしらっていた。行動が子供だと思うのは気のせいか。
がるるるるといつまでもミクトランに喧嘩をうるを見ていたバルバトスは、笑いが収まった頃にいらない口を挟んできた。
「いくら時代が違うとはいえ、惚れていた男にその態度は可愛くないだろう」
「お前が可愛いとか言うな!キモイ!!」
確かに。
・・・初めてこの時代のミクトランとの気があった瞬間だった。口元に手をやり、必死に笑いをこらえながら言うバルバトスはそれすら面白いらしい。かなりの勢いで笑っている。
「・・・というか、私に・・・このガキが?」
めちゃくちゃ嫌そうにミクトランがを指差した。そこで、はハッと気付いた。
「ていうか本人の前でそういうこというなーーー!!!」
アホだろお前ーー!とバルバトスを真っ赤になりながらが指差すと、バルバトスはとうとう噴出した。案外おちゃめさんだ。(キモいこと言うな)
「別にいいだろう。減るものでもない」
「問題が増えるんだバカ!!」
「ほぉ、そういうことを言うのはこの口か?」
「ぐにゃぁぁぁぁ゛ッ、いひゃいぃぃいっ」
ギャーギャーととバルバトスが荒れる中、ミクトランはずっと嫌そうに顔をしかめていた。本当に、やっかいなものをおしつけられた。
「惚れようが惚れまいが関係ないが、とりあえず私に迷惑だけはかけるな」
「ハッ。自惚れてんじゃねえよ。1000前と1000後じゃ、違いすぎて見る気にもなんねえよ」
肩を竦ませながらが嘲笑すると、しばらく部屋の空気が止まった。次に動いたのは、ミクトランの殺気だった。
「なら目をつぶしてやろうか」
「冗談です冗談。冗だ・・・・うわーーん!来るなバカーーー!!目ぇ盗られるーー!・・・バルバトスアターック!」
ぱきぱきと指をならしながら近づいてくるミクトランから逃げると、はベッドを一周してバルバトスの後ろに立ち、背中を思い切り押した。が、バルバトスはつゆとも動かない。
「動いてないぞ」
「動けよ人として!」
「人ではあるが、俺は俺だ。お前の指図では動かん」
「あ、口動いた!動いてやんのー、やーいやーいやーい!」
「・・・ガキの相手は疲れる」
「俺だって恥ずかしいっつの!ここはつっこめよ!さりげなくつっこめよ!」
どこまでも煩いに、バルバトスは何度目かのため息をつき、ミクトランはめんどくさそうに顔をしかめた。
それから地上軍の場所が突き止められそうにないとわかると、ミクトランはさっさと部屋を出て行った。残ったのはやる事のない暇人二人組みだ。
「・・・・・なんでこんなむさいオッサンと二人・・・」
「それはこちらの台詞だ」
はあ〜・・・とため息をついたに、バルバトスがむっとしながら返してきた。
その発言についてとくに謝りもしないまま、は「なあなあ」とバルバトスに話しかけた。ものすごく緊張感がない。
「なんであんた、あいつに地上軍の基地の場所教えないんだ?」
「ベルクラントでそのまま打ち崩されては困る。決着を付けたい奴がいるからな」
「あー。ディムさんね。好きだねぇあんたも」
きらりと危なく目を光らせながら言うバルバトスに、は呆れたように目を細めながら返した。バルバトスは考えただけでも楽しくなるのか、にやりと口元に笑みを浮かべている。
「あいつと殺りあうために俺はここまできた。そのためならば、なんでもしよう」
「ストーカーもほどほどにね」
「ストーカーではない」
めっ、と保育園児を叱るようにが言うと、バルバトスは即答で返事を返してきた。この話しだけはゆずれないらしい。眉間にしわを寄せて睨んでいる。というかストーカー呼ばわりされれば誰でも怒る。
そんなバルバトスを見るとはまた「好きだねぇ〜」と苦笑いした。
「俺はそのためにあいつに力を貸し、そして数々の英雄と呼ばれたものたちと戦ってきた・・・無駄にはせん。必ず奴の首を取る」
「その数々の英雄に手をだしてきたってところは許せないなぁ」
「変な言い方をするな」
ぐっと拳を握って言うバルバトスに、が気の抜けるような声でわざとらしくおどけて見せた。案の定、バルバトスは顔をしかめてつっこみだ。
「ま、でも・・・勝負を、あくまで一対一で正等にやろうとする考えは好きだな」
アトワイト攫ってまで、とは口にださず、は思ったとおりのことを口から出していた。敵にまでこれなのだから呆れたものだ。
バルバトスは面食らうと、くくっと笑って「そうか」と返してきた。
「ガキのくせに言う」
「ガキガキいうな!」
丁度がバルバトスにズバッとつっこみを入れるのと同時に、天上軍の新兵らしき青年が昼食を運んで部屋の中に入ってきた。
食べ物を目の前にして一気ににこにこ笑顔に変わるを見て、バルバトスが呆れたのはいうまでもない。


「・・・・」
「・・・・」
「・・・なんの用だ」
「暇」
「部屋で寝てろ」
いつの間にやら部屋からでてきて、は最初つれてこられた部屋にいた。
部屋の端っこにある窓の高さにあわせた、丁度子供心をくすぐる高さの段があったため、そこにはちょこんと座ってミクトランをぼんやり眺めたり空を眺めたりしていた。
いるだけでも邪魔に感じるのか・・・・単に今のイライラの元がだからなのだろうが、とにかくミクトランはを邪険に払った。
即答で寝てろと返されたは「やだ〜〜〜〜っっ」と駄々をこね、段の上でじたばたと手足を動かした。
「もう寝飽きた。バルバトスのオッサンもいなくなっちゃうしさー。ここにいるだけでもいいでしょ、なんもしないから」
「いるだけで邪魔だ」
「おや〜?それって俺のこと意識して」
「るわけないだろ。ただでさえ邪魔なお前を牢屋でなくちゃんとした部屋においているのだから、駄々をこねるな」
「いいじゃんか。ケチ。もっと邪魔するぞ」
「十分邪魔だ」
ふくれっつらしていじけるに、ミクトランは顔もむけずに眉間にしわを寄せながらイライラと答えた。
まだいじけてが座り続けていると、ミクトランはその内無視することに決めたらしく、もうなにも喋らなくなった。
はそれを肯定ととってにっと笑い、部屋の中をゆっくりと見回した。よくよく見ると、安定した状態ではあるが部屋の奥に神の眼があった。ここは例の部屋なのだろうか。
どきっとして、はきょろきょろと隅から隅まで見渡した。随分と雰囲気や内装が違うが、確かにあの時戦った部屋に良く似ている。
もともとここでミクトランは仕事をしていたのかと思うと、妙な気分になった。
ミクトランの方を見てみると、画面相手になにやらぶつくさ話している。通信機だろうか。じゃなければ変質者かPCオタクだ。
神の眼のすぐ横にいるからいつでも明るいのかな、などと無意味なことを考えながら、画面の横にならぶ色々なボタンに目を向けた。
まったくもってなんなのだかわからない。
とりあえず、机の上に山ほどの書類があるのは分かる。なんの書類かはわからない。
ぼけーっとミクトランを眺めていただったが、その内飽きて外に視線を向けた。
窓の外は、地上では見られなかった青空がどこまでも広がっている。白い雲が互いにかさなりあって、影を作る様がすぐ近くで見れる。
そして不自然なところにある地面に、は視線を移した。他はどうかは分からないが、ダイクロフト周辺すべて外郭に覆われていた。
緑もくそもあったものではない。が、人やモンスターが普通に歩いているのが見える。
(・・・なんでこんな高いところにいるのに息できるんだろう)
そういえば、と思い返し、は基本的な問題に気付いた。これだけ高度があれば、普通空気が少なく地上より寒いはずだ。
だが建物の中にいる自分はともかく、外を歩いている人々はどうしているのだろうか。
それとも長時間外ですごして、もうその環境になれているのだろうか。・・・・かなりありえない話しだ。氷点下までいく温度になれる人間がいるならば見てみたい。ちなみに外郭を歩いている人々はみな薄着だ。
(どうしよう・・・)
暇な今、その真実がかなり知りたい。が、ミクトランに聞くのはどうやら無理そうだ。だが、聞きたい。
しょうのない葛藤で、は首を右へ左へと忙しく動かしていた。
その内諦めて一人でうぅーん・・・と唸っていると、バルバトスが帰ってきた。はバルバトスが帰ってくると、おもちゃを発見した子供のように目を輝かせた。
「あ!オッサン!」
「バルバトスだ」
「いいじゃんもう年なんだし。・・・独身だけど」
「うるさい」
痛いところをついてきたに、バルバトスが唸るようにつっこみかえしてきた。はまあまあというと、バルバトスを手招きした。
「なにやってたの?」
「モンスターの具合を見てきた。過去につれてきて嫌な変化が現れては困るからな」
ふーん、と、バルバトスの言葉に興味なさそうに返事をかえすと、は今しがた考えていた謎の質問をした。
バルバトスはは?という顔をすると、呆れたようにため息をついた。
「お前、外殻の上を歩いたことはあるのだろう?」
「あるよ。でもそのときそんなこと考えてる余裕なかったんだもん」
子供のような言い方に、バルバトスは顔をしかめた。考えろよ、とでも顔に書いてありそうだ。
「・・・。あれは歩いてもなんの支障もでないよう、常に空気の循環が行われている。温度もいつも一定だ」
「へー。じゃあ春も夏も冬も関係ないんだ。つまんないのー」
色々な意味で便利なその機能を、つまらないの一言でが終わらせると、ミクトランが一瞬手元を狂わせた。が、二人とも気付かなかった。
雪で遊べない、やら海も川もない、やらいいだしただったが、ミクトランは完璧無視だ。バルバトスは「ガキの我儘だろ」とミクトランの様子をちらちら伺いながら相手をしている。
「あーあ。やることなーい。ねえねえあっちむいてほいやろうよ」
「断る」
「じゃだるまさんがころんだ」
「断る」
「ぐりこ」
「断る」
「あーもーなにがいいんだー!わかったグリンピース!」
「・・・なんだそれは」
「ぐりんぐりんぱりん、とかやって、同じの出たらドン!ていう遊び」
「・・・つまらん」
「なんて我儘なっ!」
どっちがだ、と、思わずミクトランもつっこみかけていた。やはり二人はそれに気付いていない。バルバトスも美味しいところを見逃す。
とりあえずミクトランと同じつっこみを入れたバルバトスは、によって「暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇」と暇を連発されていた。
かなり困ったお子様がダイクロフトにやってきてしまったようだ。・・これがいなくて楽だというジューダスの気持ちが分かる気がする。
一瞬本気で地上軍にを返そうかと考えたミクトランだった。







続く
−−−−−−−−−−−−−−
―――のかよ。と思われた方も多いでしょう。結構続きます。そこはかとなく続きます。
なんというか、バルバトスがかなり甘いですね〜。保育園に教育自習にきた保父さん(性格悪し)みたいな?わかりずらっ。
ていうかよくよく考えると、ミクトランもバルバトスも書いているうちにボケだということが判明したんで、かなり痛いんですよねこの3人。
だって話が進まない。エルレインのようにいらないくらいに話が脱線していく・・・・!!!
ていうかグリンピースって遊び知ってるかな?もしかして俺の地区だけにしかない?!
・・・。さあさあ次はどのようなお話になるのでしょうか(微妙なノリだな)
俺にもわかりません(こら)ではでは、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます〜〜。