次の日、は朝早く、まだ暗いうちからシャルティエにたたき起こされた。
「バカかお前!今日は早いって言ってただろ!?」
「うぅ〜〜〜朝は弱いんだよぅ・・・・・」







my way of living 53
〜絶対に許せないことって、やっぱありますよねぇ〜








しかられながらもなんとか支度を整えると、は先を走るシャルティエに続いてラディスロウの中を突っ走った。外に出ると、そこにはもう既に集まったソーディアンチームの面々、そしてハロルドがいた。門の外にはさらに大勢の兵士たちがいる。
「今回の総大将はカーレルさんなわけだ」
一番前を歩くカーレルの横に並ぶと、は始めて知ったといわんばかりにカーレルに話しかけた。回りではディムロスたちがまた呆れかえっている。
カーレルはそんなにクスッと笑うと、すっと頭に手を伸ばしてきた。
「おはよう。寝癖がついたままだよ」
「ギャア!シャルのばかー!」
「なんでだよ!元わといえばお前が悪いんだろうがっ」
八つ当たりでシャルティエにどなっただったが、シャルティエには上手くつっこみ返された。もはや地上軍の名物だろうか。
それから地上軍の団体は、暗い中を朝食のパンをかじりながら延々と歩いた。
パンを食べ終わると、暇になったとハロルドはなにか遊びはないかとあたりを見回し始めた。
「さすがに、今は悪戯禁止だ」
それにいち早く気付いたカーレルが二人にだめ、というと、ハロルドもも大人しくそれにしたがった。
それにしても、暇はつぶせはしない。
「ねえねえ、熟語じゃなくていいから漢字4文字だして遊ぶってのはどうよ。弱肉強食〜とか給食当番〜とか」
「なにそれ?」
「今俺が考えた。ねーシャルもやろう!」
「なんで僕が」
と、ハロルドが首をかしげシャルティエが嫌な顔をしたが、結局それ以外やることもなかったので、その謎の言葉遊びをすることになった。
順番は、言いだしっぺの、シャルティエと続き、最後にハロルドだ。
「じゃーまずは王道から。焼肉定食!」
「一瞬即発・・・」
「因循姑息」
「食物連鎖ー!」
「自己破綻」
「天衣無縫〜」
「暴飲暴食☆」
「上下関係」
「神出鬼没〜」
「桃〜色ー吐ー息〜〜♪」
「無実無名」
「猪突猛進☆」
「天・体・観・測☆」
「人間不信」
「鼓腹撃壌ー!」
「透〜明〜人間〜♪」
「自己満足」
「天真爛漫!」
「桜並木道〜♪」
「死体遺棄」
「朝三苦四〜」
「自家栽培!」
「執行猶予」
「傍若無人〜☆」
「・・・・」
「・・・・」
「もうそろそろつくよ、3人とも」
「「はぁ〜い」」
「はいっ」
何故普通にいえるのか。カーレルとシャルティエ以外のソーディアンチーム面々その他は、なんともいえないその状況になすすべもなく、ただ呆然としながら歩いていた。とりあえず、関わるのは止めておこう。
カーレルの言うとおり、行く先には目的地の古い建物が見えた。1000年後にはない、珍しい形をしている。
その建物の手前に、低い丘があった。丘というほど高くもなく、地面より2メートルほど高いだけの土の山だ。
カーレルたちがそこで立ち止まると、後ろから付いてきていた兵士たちはぞろぞろとその前に出て行った。相対する側には、たくさんのモンスターを引き連れた天上人らしき集団がいる。
カーレルたちを守るように坂の前に列になって兵士たちが並ぶと、それぞれ別のところにディムロス、イクティノス、クレメンテ、シャルティエと位置付いた。アトワイトは医療班と待機だ。
はハロルドとカーレルと共に丘の上に残り、その横にはハロルドが昨日創った謎の大砲が運ばれていた。
「相手との距離は約300メートル〜ってとこね」
「で、どうするの?いつ戦闘始めるの?」
「まだだよ」
目測で距離を測ったハロルドの横から、が首をかしげながら問いかけた。その問いかけには、カーレルが敵陣を見ながら「花火が上がったら戦闘開始」と、細かなところまで答えてくれた。
地上軍の建物を挟んで、天上軍との距離は約300メートル。それだけの距離があいているというのに、辺りには重苦しい緊張が流れていた。敵の数はこちらの倍。どう見てもこちらの方が不利だ。モンスターがいるせいもあるのだろう。
だれもがじっと目を凝らし、その瞬間を待っていた。しんと思い沈黙が流れた、数秒後

ヒュ・・・・・ドンッッ!!

「全軍、攻撃始め!」
ウォォォォオオオオオオオオ!!!という怒涛とともに、両方の軍がまるで波のようにそれぞれに向かって走り出した。
初めて目の前で戦争というものを見たは、そのすさまじい光景に息をするのも忘れた。好奇心でそわそわしていたのも忘れるくらいに。
勢い良くぶつかった最前線の兵士たちは、モンスターや天上人たちと激しい攻防戦を繰り広げ、その分倒れる人もどんどんと増えていった。モンスターの使った晶術でもう何人の兵士が死んだか。時間が進むにつれて、戦場の悲惨さは増していった。
ソーディアンチームの中で、ディムロスは一人前線にいって戦っている。さすが、突撃兵・核弾頭との異名をもつだけはある。
アトワイトは後ろの方で、衛生兵たちに運ばれてくるけが人を手当てしていた。クレメンテは一応、アトワイトの傍で指示をだすだけにとどまっている。少し前に出たそうだ。
シャルティエは何匹かモンスターを倒して自慢げに胸を張ったが、隙を狙われ危うく怪我をするところをイクティノスに助けられていた。
ところどころで怒る爆発に、数名の兵士たちが宙を舞う。小型の竜のようなモンスターが大きな大刀を一振りするだけで、2・3人の兵士が体から血を噴出した。最前線では、今でも何十人という兵士たちが次々攻撃をうけ、倒れていってる。
一番最初に衝突があったところは、兵士やモンスターの死体があたりまえのようにごろごろころがっていた。その上をモンスターがなんの躊躇もなく歩き、そして、天上人も、仲間の地上人までもがその上を走り回り、剣を交えさせ、爆発を起こし、晶術で吹き飛び、何百もの弓が雨のように降り注いだ。
「・・・・・」
なんて。
なんて悲惨なのだろうか。
目の前で、たくさんの命がさらさらおちる砂のように消えていく。・・・そうとしかいいようのないくらい、簡単にたくさんの人やモンスターが死んでいく。一瞬でも目を離せば、何十人何百人という数の最期を見逃しそうなくらいだ。
は青ざめ、口を手で押さえた。血の匂いがこんなにも濃いところを、未だかつて経験したことはない。
それになんと残酷な絵なのだろうか。学校の授業で見せられた絵や写真どころの問題ではなかった。
返り血を浴びて真っ赤にそまりながら、人々やモンスターはただがむしゃらに戦っている。
人やモンスターの屍を積み上げて、盾にするものまでいる。腕を斬られ、苦しみに悲鳴を上げる人を、人が何の躊躇もなく首を斬りおとして命を絶つ。とあるモンスターは、一人の人にいくつもの太い針を投げつけ、急所を外しながら楽しむようになぶり殺している。中には斬りおとした首を持って、まるで勲章でも貰ったかのように得意げに胸をはり、高笑いをするものまでいる。生きた人間を大刀で串刺しにし、高々ともちあげ、それを振り回して武器にしているモンスターまで現れた。串刺しにされた兵士は、ただ悲鳴をあげながら振り回されるばかりだ。
下では、アトワイトが声を張り上げて衛生兵たちに指示を出して慌しく動いている。あまりに精神的ダメージが大きすぎて、壊れる兵士も後を絶たない。衛生兵に剣を振り回し、何処を見ているのか分からないうつろな目で、だらりと涎をたらしているものもいる。
これが殺し合い。これが戦争。
個人的な恨みがあってもなくても、無差別に目の前にいる敵軍の相手を殺していく。いくら残酷な殺し方をしても、相当なことがない限りお咎めは無い。この戦争に、ルールはない。もともと一方的な天上人のやり方に、地上人が売った喧嘩だ。どちらにも、ルールを作ってまで惜しむ心などほとんどないに等しい。特に地上人は、怒りを抑えきれもしないだろう。
はこの状況を見て泣きそうになっていた。唯一の救いは、シャルティエやディムロスたちとともに前線で戦わずにすんだことだろうか。
前線にでれば、嫌でもこの地獄のような光景を、さらに近くで見なければならない。なにより、命があるかどうかわからない。
地上軍は天上軍よりも何倍か少ない。もともと不利な戦いだったが、ここでとうとう、状態が悪化するような事態が起きた。
「カーレル中将!今、500人もの兵士が、天上軍側に寝返りました!」
「とうとう動いたか・・・」
一人の兵士が、カーレルの下へ走って報告にきた。例の裏切り者―――バルバトスが、とうとう天上軍側に寝返ったのだ。
だがそれにしても、一緒に寝返った兵士の予想以上の数に、カーレルは思わず眉を潜めた。そこまで多くの兵士たちが向こう側についてしまうと、ますますこちらにとっては不利になる。寝返るだけではなくそこまで人を集めたかと、裏切りを考えた主犯が憎いほどだ。
カーレルが思考をめぐらせているうちにも、寝返った兵士たちは天上軍として地上軍に刃を向けていた。
はそれを見ると、目を見開いて信じられない、という顔をした。
「なんで?!今まで仲間だったのに、どうしてすぐに敵として戦えるの?!」
「もともと地上軍にいても不利なだけで、未だに勝敗はつかめずじまい。向こうに尽きたい気もわからなくもないけどね」
「でもなんで!」
「前線で戦ったものにしかわからないんじゃないの〜?生きるか死ぬかの瀬戸際で、どうせなら天上軍の犬に成り下がってでも、生きた方がましってね」
「そんな・・・」
打ちのめされたように表情をゆがませ、下を向いたに、ハロルドはため息をつくと妙に冷めた目をした。
「しかたないわよ。きっと、今戦ってる地上軍の兵士たちもわかってる。どんな気持ちかって。なにがなんでも生きてやろうって、あいつらはこの状況でそっちを選んだって。あそこで戦っていれば、そう思うのもしょうがないって。・・・だからああやって戦ってられるのよ」
若くて真っ直ぐな性格でもしてないかぎりはね。と、機械の作り方でも教えるかのように、淡白にハロルドは話した。まるで、心にもないようなことを言ってるように聞こえなくもない。
は顔をあげると、地上軍と寝返った兵士たちの戦っている方を見た。
なんて悲しい戦いなのだろうか。
「・・・・」
「なんて・・・辛い戦いだ。さっきまで仲間として一緒に戦っていたのに、数秒後にはもう敵同士だなんて・・・・。なにも・・・・みんなっ、なにも感じないのか?!」
「喚くんじゃないわよ、恥ずかしいわね」
泣きそうな声でが叫ぶと、ハロルドはきゅっと眉を潜めてつっこんできた。でも!というに、ハロルドは「しかたないわ」と、丁度地上軍と寝返った地上軍たちが戦っている方向をみながら答えた。
「なにも感じないわけないじゃない。全員ぎりぎりのところで、ふんばってがんばってんのよ」
「・・・・」
「・・・さぁて、兄貴、そろそろ私の出番かしら?」
「ああ、そうだな」
ハロルドとの話を聞かない振りしていたカーレルは、ハロルドに声をかけられると穏やかに返事を返した。
が押し黙って下を向いている間に、ハロルドは運んできていた大砲を、どこかに向けて撃つ準備をし始めた。
「ねえ
大砲の準備をしながら、ハロルドがまだうつむくに声をかけた。
「戦争の、手っ取り早い終わらせ方、教えてあげようか」
「なに・・?」
ハロルドが何気なく言うと、は顔を上げてふと息を吸いながら聞き返した。ハロルドはの方を見てにやりと笑うと、照準を合わせて一言いった。
「敵の大将をブッ倒しちゃうのよ。そうしたら、戦争は終わるわ」
「・・・・そういえば、無双でも敵の大将倒すと戦い終わってたよな」
ハロルドの言葉を聞いてぼそりとがつぶやいたが、ハロルドたちにの言葉は理解できなかった。あたりまえだ。ゲームなどここにはない。
とりあえずハロルドは照準を合わせると、よし、と言って登っていた台から降りた。
「つまりは、そういうこと」
ぽち、とありきたりな赤いボタンを押すと、アンテナの中心についていた棒の先に、光が集まり始めた。
似たようなものを、は見たことがあった。ただし、それよりは2周りほど小さいものだが。
「コレってもしかして・・・・」
「集積レンズ砲。レンズの力を集めて、一気にぶっ放しちゃう素敵な大砲よ☆」
ぱちんと一つウィンクすると、ハロルドは光が溜まったかどうか横についていた画面で確認した。
「集積レンズ砲、発射!」
ぽち、ともう一度ボタンを押すと、アンテナの先に溜まった光が一気に天上軍側に発射された。その威力は、数ヶ月前が見たものにほとんどちかいものだった。
ドォォォォォォォッッッッ!!と大きな音がしたかと思うと、目の前がカッとオレンジ色に光った。
「うわっ」
爆風で、は吹き飛びかけた。なんとか両足でふんばりそれを堪えると、次に見えてきたのは、先程よりもさらに悲惨な・・・・むしろ、人やモンスターの数が減ってスッキリしたような風景だった。
目の前には大きな穴。直撃を受けた場所からどれだけも離れていないところにいた兵士やモンスターは、爆風で吹き飛んでいる。これだけの威力をいっきにぶちまけたのだ、天上軍の大将も生きてはいまい・・・・。
というのは、甘い考えだったらしい。
「まだ戦いが続いてる?!」
「チッ・・・・やりそこねたみたいね」
「この一発のために随分と溜めたのにな」
「まだいけるわよ」
カーレルとハロルドの会話についていけず、は首をかしげた。残念そうな顔をするカーレルとしたうちをしたハロルドは、後ろで控えていた兵士になにやら伝えると、集積レンズ砲を見たり戦況をみたりとそれぞれ動き出した。
「ねえ、もっかいどかーんとやっちゃわないの?」
「やるわよ。でも、これいっぱつ撃つのに、400個のレンズが必要なのよね」
「400!?」
さらりと言ったハロルドの言葉を聞いて、は声を裏返らせた。ハロルドは気にせず集積レンズ砲をいじっている。
「そうよ。残りのモンスターがどれだけいるか知らないけど、とりあえずレンズ拾わせて、溜まり次第もう一発ぶちかますわ」
「でもその間に攻撃受けたら・・・・?」
「可能性がないとはいえないわね」
「ダメじゃん!」
「しょうがないっしょ。それしか方法がないんだから」
のツッコミに肩をすくませると、ハロルドはまた集積レンズ砲をいじくりはじめた。つまり、もともと下で戦っている兵士たちは単なるレンズ集めと足止めなだけだ。それも、この状況ではどうしようもないだろう。なるべく早いうちに、大将の首を取った方が勝ちだ。
戦況は、一時地上軍が有利に立ったものの、また段々と天上軍が追い上げてきていた。
「・・・ねえハロルド、戦いを終わらせるには、敵の将軍をブッ倒せばいいんだよね」
「そうよ・・・て、、あんた、つっこむ気じゃないでしょうね?」
真っ直ぐ戦場を見てハロルドに問いかけたに、ハロルドが訝しげな視線を送った。
まさか、というと、はハロルドの方を向いて集積レンズ砲を見回した。
「今のところ集まってるレンズは?」
「まだなにもないわ」
「敵の大将の位置がつかめたぞ、ハロルド」
の問いかけにハロルドがため息をつきながら答えた時だった。カーレルが、一人の兵士から伝達を受けた。
ハロルドはカーレルの言葉にぴくりと反応すると、真剣な顔つきに戻ってカーレルのところまで駆け寄った。
「で、どこにいるってのよ、敵の大将さんは?」
「目測が少しずれていた。さっき撃った所の左端・・・・あそこの集団だ」
腰に手をおいて聞くハロルドに、カーレルは指をさして場所を教えた。大きくあいた穴の左側に、少数ながら集まった集団がいる。反対側にもいるが、そちらよりは人数が多いようだ。
「OK。次こそあてて・・・・・」
と、ハロルドがそちらを見ながら頷いた時だった。
「え・・・ちょ、ちょっと、!」
ハロルドの後ろから、が戦場のど真ん中へ一目散に駆けて行った。あまりの速さに、ハロルドもカーレルさえもを止めることはできなかった。いくら声をかけても、振り向こうともしない。
そこから動くわけにはいかないハロルドが、傍にいた兵士に「あの子連れ戻して!早く!!」と背中を押しながら指示を出したが、はもう前線近くまで走っていた。
「はぁ・・・はっ・・・・・」
肩で息をしながら、はあたりをみまわした。戦いの激しい場所から、少しずれたところだ。地面には見渡す限り、天上軍と地上軍の人間と、モンスターたちの死骸しか見当たらない。
胸に手を添えながら息を整えると、は目を閉じた。
遠くから、ハロルドの呼ぶ声と兵士の足音、剣の交わる音、悲鳴、兵士たちの気合の入った声が聞こえる。
一瞬、の周りから音が消える。
次の瞬間、モンスターたちの死骸は数枚のレンズになって次々と浮き始めた。
「・・・・バーンストライク!!」
目を開いてが見た先は、天上軍の軍師のいる集団。声高らかに叫んだ瞬間、の頭上からどこからともなくいくつもの隕石が振ってきた。隕石がヒュッと風を切る音が聞こえる。
一瞬のうちにその集団に近づいたかと思うと、次の瞬間、ドォォォォォオオッッとものすごい音をたてて地面につっこんでいた。
中級の晶術でここまで威力をだせるのは、レンズの数の多さだろうか。
戦場から声が消える。戦っていた兵士たちは皆、隕石の落ちた方を見た。
「・・・・そんな」
「あれは・・・・晶術?」
とは誰が言ったのか。
戦っていたシャルティエやディムロスたちも、今起きた出来事をよく把握できないでいた。とにかく、どこからか隕石が落ちてきた。
だがそれもつかの間、まだ、軍師は生きている。周りの兵士たちに助けられ、なんとか生きていた。
それを見た天上軍は「おおおおお!!!」と気合を入れなおし、また地上軍の兵士たちと戦闘を開始した。
に気付いたモンスターの数匹が、大刀を構えながらに近づいてきた。アヴェンジャーたちだ。
後ろからは追いかけてきた兵士がやっと追いついたようだ。だがモンスターを見て怖気づいている。不幸なことに彼は武器をもっていなかった。
逃げられないことを悟ると、―――もっとも最初から逃げる気もない―――はカトラスを抜き取った。相手の数は、3匹。他は別のところに標的を移した。
声を発することもなく、戦闘は開始された。まず目の前のアヴェンジャーが切りかかってくると、はカトラスで大刀を流し、アヴェンジャーの内側に入った。そしてぶつかるほどの至近距離から、一気に突きを食らわせた。突く瞬間に回転をかけ、近距離での攻撃を有利にする、空手の特有の突きだ。手の方は、ヒューゴに買って貰ったナックル状の指輪のおかげで全く痛くない。
後ろに退いたアヴェンジャーを一斬りすると、は右から襲い掛かってきたアヴェンジャーの大刀をカトラスで受け止めた。だが、
「!!?」
もう一匹に、後ろからざっくりと斬られた。今日はいつもの戦闘服ではなく、こちらについてから着ていた灰色のコートだった。防御などできるわけがない。膝を突いて崩れると、アヴェンジャーたちは大刀を上げた。
ヒュッと大刀を下げた瞬間、は横に飛び退いた。ザッと倒れこんで背中がずきりと痛んだが、とにかく堪えては立ち上がった。
「・・・・ヒール」
ぽつりとつぶやくと、傷が少し癒えたようだ。だがまだ完全に治りきらず、くっきりと背中にあとが残っている。
それでも刺すような痛みから解放されたは、手っ取り早く今の状況をつかめていないアヴェンジャーに斬り込んだ。
左腕を斬りおとすと、もう一匹のアヴェンジャーがに切りかかってきた。はそれを素早くバックステップして避けると、そのまままた前に飛び出てそのアヴェンジャーの左腕を斬りおとした。
大刀を持つ手をなくしたアヴェンジャーたちは混乱したが、残りの手をめちゃくちゃに振って攻撃をしてきた。は走って一定の距離をとると、カトラスを前に構えてアヴェンジャーたちを威嚇した。
アヴェンジャーたちは気にせず、彼らなりの最高の速度で、にゆっくりと近づいてきた。
「アクアスパイク」
距離をとって威嚇したのは、このためだった。が晶術を唱えると、どこからともなく3段に連なった水の壁が現れアヴェンジャーたちにつっこんでいった。
「凍りつけ、フリーズハンターッ」
凍りつきはしなかったが、アヴェンジャーたちは氷につらぬかれ、どさどさとその場に崩れ落ちた。
は息を整えると、瀕死状態のアヴェンジャーたちをまたいでさらに前へ歩いた。先ほどまで左側にいた敵側の軍師は、今は右側の他の団体と合体したようだ。先ほどの攻撃でのこった兵士を含めた集団は、さきほどよりも多く兵士がついている。
後ろではハロルドがまだ何か叫んでいる。だがは足を止めなかった。横では地上軍、天上軍、皆が戦っている。
モンスターたちは、もうほとんど生きてはいない。最初の衝突から数時間、ほとんど死に絶えた。天上軍の人間の変わりに。それと同じ数の地上人を傷つけて。今ではもう哀れな亡骸でしかないモンスターたちの死骸の中心で、はカトラスを鞘にしまった。
「・・・古より伝わりし浄化の炎・・・・」
が軍師のいる一点を見つめながら言葉をつぶやくと、周りからは青白い光が空に向かってぶわっと光り始めた。風が下から吹いているわけでもないのに、髪はふわふわと上に向かってなびき、長いコートは地面から浮いて見える。
それからありえないほどの数のレンズが、を中心に浮かび始めた。今まで前線だったそこで戦い、そして果てたモンスターたちの、存在していた証の残骸・・・・レンズが、次々と浮かび上がる。
青白い光とレンズはを円状に囲み、そこだけ別の空間のように、そしてさらに広がって煌々と光り輝いた。
ハロルドはそれを見て、今までにないくらいに驚いた顔をした。
の異変に気付いた天上軍の兵士たちは、地上軍の兵士たちなど後回しにして、すぐさまの方へと走り出した。また先ほどのようなものを打ち込まれては困る。兵士がいくらいても、軍師を守りきれなくなってしまう。
一部の天上軍兵士たちは、カーレルたちに向かって走り出していたが、大体はの方へ向かっていた。
だが天上軍の兵士たちは、足元にあるレンズによって前に進めなくなる。円状に浮き上がって範囲を拡大していたレンズの集団は、走り出した兵士たちの足元にまで及んでいた。それも、死んだモンスターたちの死骸からできるものなのだから大した規模だ。
急いで止めろ!という天上軍の兵士の声に反応して、その場でさらに地上軍と天上軍の戦いが激化した。だが一方では、レンズの光が拡大して身体を押されてきている。
天上軍と地上軍のせめぎ合いが、絶頂に達した時だった。
「行け・・・・!!エンシェントノヴァ!!!」
が叫んだ瞬間、宙に浮いていたレンズが全て空にスッと消えた。急に光が消えたことに兵士たちは拍子抜けし、誰一人剣を振ろうとするものはいなくなった。
はじっと空を見ている。
失敗か・・・・天上軍がほっとし、地上軍が士気を低下させたときだった。雪しか降らせない、ハロルドの発明によりできた雲が、丁度天上軍の軍師たちのいるあたりで赤い光りを発しながらぐるぐると渦を巻き始めた。
まさかっ・・!と誰もが息を呑んだ時だった。集積レンズ砲のときよりも大きい、赤い火柱が地上に落ちた。瞬間、
ドォォォォォォォォォォオオオオオッッッッッッ
地響きと共に、けたたましい音があたりを支配した。
爆風で何百人もの兵士たちが吹き飛び、近くにあった森も、少し盛り上がった丘も、ぽっかりとあいた穴が威力を物語るかのように、火柱と共に消えていた。
天上軍の軍師は、見る影もない。
瞬間、地上軍からも天上軍からも、「ォォォォォオオオオオ!!!」という叫び声があがった。
やけをおこした天上軍は近くにいる地上軍の兵士に剣を向け、晶術をつかったにまで剣を向けようとつっこんでくるものが現れた。
はさきほどの晶術で体力をなくしたのか、がくりと膝をつくとそのままぺたんとその場に座り込んだ。走ってくる両群の兵士以外、自分の下には誰かの死体だ。周りにもいくつも倒れている。色のない大地はさらに暗い色に染まり、周りでこだまする声も音も、遠くでの出来事のように思えた。
それからゆっくりと、徐々に耳の近くまで音が戻ってきた。かと思うと、は誰かにがくがくと肩をゆらされた。

「おい!しっかりしろ!!クソッ」
「シャルティエ、そいつをハロルドのところまで運べ!イクティノスは私とこい!バルバトスを撃ちに行く!!」
「「はい!!」」
肩を揺らしたのはシャルティエだった。カンカンと音を鳴らしながら、の周りではたくさんの兵士たちが戦っている。
ディムロスたちは天上軍の兵士がに危害を加える前に、走りこんで食い止めてくれたようだ。
「オイ、おい!!しっかりしろよ!立てって!クソッ、世話のやける!!」
引っ張っても頬を叩いても動きそうにない、放心したままのの様子を見ると、シャルティエは舌打ちしてを抱きかかえた。一刻も早くこの場を離れなければ、下手をしたら大怪我をしてしまう。なにより、兵士たちが無駄に戦うことになる。
!大丈夫なの!?」
「ああ、背中から少し出血してるみたいだけど、気を失ってるだけだ。あと宜しく!」
を抱えたシャルティエはできるだけ早く走ると、まっさきに駆け寄ってきたハロルドにを手渡し、それからすぐに戦場に戻っていった。



「だ、だからごめんてよぅ」
壁によりかかりながら、は腕を組んでつんとしているハロルドとシャルティエに謝りまくっていた。
あれから、地上軍は一気に天上軍を追い返した。といっても、軍師をなくした団体には、結局どうすることもできなかったのだろうが。
ディムロスはイクティノスの援護をうけ、見事にバルバトスを討ち取った。多くの犠牲を失ったこと以外は、全て順調にいったのだ。亡くなった兵士たちを手厚く葬った後・・・・・今、ラディスロウの中ではお祭り騒ぎが始まっていた。
あれからが気がついたのは、地上軍基地に帰っている途中だった。集積レンズ砲の台の上に乗せられて、ガラガラとでこぼこの道を歩いている時にはハッと眼が覚めた。
起きて早速、集積レンズ砲のアンテナのような部分に頭をぶつけたは周りの笑いを買い、そしてハロルドに痛く怒られた。
それから今まで、ずっとハロルドとシャルティエは怒ったままだった。
「ハロルド〜〜〜。シャル〜〜〜〜」
「まったく・・・・」
「しょうのない子ね・・・・」
泣きべそをかきはじめたに呆れて折れたのか、ハロルドもシャルティエもため息をつくと「わかったわかった」とをあしらった。
ぱっと顔を輝かせただったが、その後のハロルドとシャルティエの行動は、まったく同じだった。ニヤリと・・・怪しく笑みを浮かべる。
「なーんていってすぐに許すとでも思った?ったくアンタは考えなしにつっこんで行って〜〜〜〜〜っっ」
「いででででで!!ハロルド!ぞれ痛い゛!!」
「痛くしてんだからあたりまえでしょ!」
「そうだこの能無し!これくらい受けて当然だ!」
「ぎにゃーーーっっ!!い゛じめ反対ーーー!!」
ハロルドが腕を回して首をしめると、シャルティエはゲンコツでの頭をぐりぐりとおさえつけた。かなりきびしい。そして痛い。
しばらく立って気が済むと、二人は失神しそうなをやっと解放した。
「うぅ・・・・死ぬ・・・・」
「あそこで死ななかった分幸せと思いなさい。結果がよかったからどうにかなったものの」
「ていうか、お前晶術が使えるのか?」
ハロルドの言葉をさえぎってシャルティエがに問いかけると、ハロルドはシャルティエをキッと睨んだ。シャルティエは一瞬引いたが、後の祭りと開き直った。
はお祝いにとくばられたジュースを飲むと、「うん」といってこくんと頷いた。
「俺、ハロルドの書いた本見てやり方覚えたんだよ」
「へ〜、私の書いた本で?いつか晶術について書くのかしらねぇ」
「じゃないかなぁ。だって書き出しに、『これは私のたんなる暇つぶしなので、そんなに真剣に読んでもどうしようもない』なんて文が・・・」
「・・・・・私ね」
「・・・・どう考えてもハロルドだな」
ハロルドと一緒になってシャルティエが頷くと、ハロルドはシャルティエに蹴りを一発入れた。
おぉお・・・・と唸るシャルティエを放って、ハロルドはと晶術について語りだした。大体のところ、難しい言葉ではついていけてなかった。
そして本日何度目になるか、最初とまったく同じ台詞で、兵士の一人が演説しだした。もちろん内容は、本日の戦いがいかにすばらしかったか、だ。
「というわけで、もいっかいかんぱーーーい!」
という兵士の声に合わせて、そこにいたほとんどが「かんぱーーーい!!」と返した。みんなにこにこと笑ってとても楽しそうだ。
「・・・・どうしてかんぱいなのかなぁ」
「なんでよ。戦いに勝ったんだから、乾杯してあたりまえでしょ?」
「だって、あんなにたくさんの人が死んだんだよ?自分の友達や家族がいた人もいるんだろうに、どうしてみんなあんな風に笑って祝えるんだ・・」
ドンちゃん騒ぎをする兵士たちのほうを寂しそうに見ながらが言うと、ハロルドが戦いの時のようにため息をついた。
「あんたのその発言は、軍紀を乱すわ」
「軍紀って、だってハロルドっ」
「確かに」
が信じられない、というようにハロルドに言い返そうとすると、ハロルドは以上に大声をだしてそれを止めた。
有無を言わせないハロルドの空気に、はしかたなく口をつぐんだ。
「確かに、あんたの言ってることも一理あるわ。でもさっきも言ったでしょう?・・・みんな、ちゃんとわかってるって。ただ、それを一度考えてしまうと、次に戦う時にどうしても気持ちの部分で隙ができてしまう。だから、なるべくそれは話題にしないで、むしろ喜ばしいことだって、次に生かす活力にしようって、みんなそうしてるんじゃない。あんたの言ってることは、平和な時にしか通用しないものだわ」
「・・・・」
痛烈、以外のなにものでもない現実だった。今この時代はそう考えざるを経ない。この場にいて、は改めてそれを実感させられた。後で「なんて愚かな」とか、「話し合いで解決をしたら」とか、否定をすることはとても簡単だ。だが今の状況は、の考えていたような状況とは全く持って違う。昔の日本のことならば、そのときいたとしてもいくらでも否定できたかもしれないが。・・・いや、ある意味それも難しいことかもしれない。
それはともかく、いつまでもしけっぽい空気が流れていると、ハロルドが急にパンと手を叩いた。
「ハイ!いつまでもくどくどいってないで、とっととご飯食べるわよ!下手するとくいっぱぐれちゃう」
「とくに、食い意地のはったどっかの誰かにとられそう」
「誰のことだよ!」
そんなハロルドにのってシャルティエがをちゃかすと、は両手をあげてぎゃー!と騒ぎ出した。
いつもの調子をとりもどしたと、上手く調子を取り戻させたハロルドとシャルティエは、それから夕飯のおかずの争奪戦をした。


夕食を取り終わった3人は、熱気にあてられてラディスロウの外に出ていた。食べ過ぎた所為か、おなかをさすりながらときどき「うっ・・・」と唸り声をあげる。
「あー!コートが少し変わってる!しかもこっちの方がかっけー!」
「あんたがつぶれてるうちに、アトワイトが縫っといたのよ」
違和感なく動けることに気付いて、は今更になってやぶけたコートが変形していることに気付いた。背中を刺されて破けた部分から、コートは真っ直ぐ下まで裂けていて、開きすぎて変にならないよう、上からグラデーションでもかけるかのように、黒くて太い皮のベルトのようなものが左右から縫い付けられていた。
傷は痛みもなにも感じないどころか、跡までなくなっている。ハロルド曰く、「私がキュアを使ったのよ」だとか。なら最初から使って欲しかった。
「マジで?後でお礼いいにいかなきゃ」
「お前がお礼?うわーキモ〜」
「酷っ!!」
すたすた歩きながらじゃれあっていると、はどん、と誰かにぶつかった。
「あ、すいませ・・・・・・・ぇえ?!」
素っ頓狂な声をあげたの背中にぶつかっていたのは、バルバトス。昼間の戦いで確かにディムロスが倒したはずの、だ。
ハロルドもシャルティエも絶句していたが、その内ハッと我に帰って「え?!」やら「な、なんで!」やらそれぞれ叫び声をあげた。
逃げようとしたの腕は、しっかりとバルバトスに掴まれている。
「は、離せよ!変態ー!幽霊ー!おばけーーー!!」
「生憎だが俺は、幽霊でもオバケでもましてや変態でもない。お前なら、理由がわかるだろう?」
くくっと笑うバルバトスの言葉を聞いて、はすぐに今日死んだバルバトスではないと気付いた。
ハッとバルバトスと目を合わせたはすぐ次の行動に出ていた。
「ハロルド、シャル、逃げて!こいつ昼間のとは違う!!」
「どういうことだよっ・・・・うわっ!?」
ブンッ、とバルバトスが斧を一振りすると、シャルティエとハロルドは見えない剣圧かなにかで後ろ気吹き飛ばされた。
バルバトスは高笑いすると、を引き連れたまま、黒い空間に入っていった。
!」
「シャ、シャルーー!ハロルドーーー!!」
こんなん嫌だーーーーー!と思わず本音を言ってしまったは、そのまま黒い空間の中にすいこまれ、影も形もなくなった。
バルバトスと共に。一番嫌な要点だろうか。
がばっと顔を見合わせると、シャルティエとハロルドは「大変だ!」と言って一目散にラディスロウの中に駆けていった。






続く
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ムフー。終わったー(なんだそりゃ)
ていうかバルバトスでシメかよ、見たいな感じですねぇ。しかも途中夢見すぎだし!
んな不思議パワーあるかよ!普通の人間にっ!(なら書き直せよ)
しかも今回少しグロイし!苦手な方ごめんなさいね〜〜。え?文下手だからわかりずらくて大丈夫だったって?
そいつぁ〜よかった〜☆(喜ぶな)
いやいや、実は去年の修学旅行で沖縄行って、戦争の実体験話し聞いてから絶対にこういうのは書きたいとは思ってたんです・・・。戦争なんてやるもんじゃないよ。でもやっぱ無理ッスね。体験談より全然しょぼいのなんのー!
はぁ〜あ。あと数年、数十年したらまた戦争が起きそうな感じ。今不況だし。でもそんなん絶対に嫌だーーー!!
ハイ、失礼しました。ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!