その頃一方、ジューダスたちは・・・・・?


「来たな怪獣!俺の剣をくらえーーー!!」
カラカラと、すぐにでも喉が渇いてしまいそうなほどの暑さの中、子供たちの明るい声が小さな村の一角でわいわいとこだまする。
子供たちは木を削って作られた小さな剣を持って、全員が全員背の高い青年と骨を被った怪しげな少年を取り囲んでいた。
「オイこらジューダス!お前怪獣役なんだからしっかりしろよなっ!」
「全然怖く無いじゃん!」
盛り上げるだけ盛り上げたにもかかわらず、無反応にただ突っ立っているだけのジューダスに、子供たちがブーイングを投げた。が、投げられた当人はむすっとした顔でしらんぷりだ。というか、むしろ不機嫌に近い。
「・・・・・」
「・・・ある意味怖ぇよ、そりゃ・・・・」
ブーイングをなげられてさらにむっつりしてしまったジューダスを見て、ロニがぼそりとつっこんだ。







my way of living 50
〜おやまあ、いつの間にか50話にきとるっちゃんね〜








子供たちとの特訓―――曰く、モンスターと戦うための訓練らしい―――を終えたジューダスとロニは、木陰に入って休んでいた。
「あっ、エリスちゃん!」
今の今まで「もう動けねえ〜喋れねえ〜〜」とぐずっていたロニは、数メートル先を歩く女の子を目ざとく発見すると「今日も可愛いね〜v」と手を振りながらにこにこと声をかけた。声をかけられたエリスはというと、顔を引きつらせると「あ、はい・・ありがとうございます」とぺこりと頭を下げながら言い、そそくさと通り過ぎていった。女の子で潤おされたのか、ロニは手を組みながら機嫌よく声を弾ませている。
「う〜ん・・・・やっぱ、疲れた心と体にゃ美女が一番!」
「流されておいてよく言う・・・」
「うるせ!」
そんなロニを見てジューダスがふぅ、とため息をつくと、図星を付かれたことを自分で分かっているロニは即答でつっこみ返した。
「お二人さん、休憩したんなら水汲み手伝っておくれよ」
エリスがいなくなった次は、バケツを3つ持った赤い髪の女性が現れた。声をかけられ、バケツを見た瞬間二人がげっと顔をしかめると、女性はにーっこりと笑って再度、「もちろん、やるよね?」と問いかけてきた。
「・・・オイ、ナナリー。俺たち自分のやることはもうしっかりとやったんだぜ?しかもくたくたになってやっと休んでるっていうのに」
やるの?やらないの?
ロニの言葉を遮って、赤い髪の女性・・・・ナナリーが、少し声を上げて再度聞き返してきた。さりげなく「夕飯」とつぶやくことも忘れない。
ロニとジューダスはため息をつくと、重い腰をよいしょと上げて先を歩くナナリーの後ろについていった。
村を少し離れたところに、5歳くらいの子供の身長ほどもある草が、ぼうぼうと生えているところがある。大体のときは、ポープタウンではそこを流れる川の水をとる。
「さ・て・と。川はどこかな・・・・」
いつもなら子供たちがとりにいくのだが、生憎と今は別の仕事をまかされていてそれは無理だった。変わりに抜擢された・・・・というか、残ったのがこの3人だったというだけなのだが、結局押し付けられるように水汲みをまかされてしまっていたのだった。もっとも、押し付けられたと感じるのはナナリー以外の二人で、その二人も「押し付ける」という表現は、このホープタウンではいきすぎた表現だということを100も承知なのだが。
いかんせん、暑い中動いた後だったので、半分八つ当たり気味だった。
「はぁーあ。ったくよー。毎回水の匂いでわかれー!とかいわれっけど、んなもん分かる方がおかしいって」
がさがさと草を避けて川を探しながら、ロニがジューダスの隣で「わかるわけないじゃん」とぶつくさ文句を言った。ジューダスはロニの言葉をきくとふとある人物のことを思い出し、ふっと口元を緩めた。
「あいつなら、わかるかもしれないな」
「ん?カイルか?」
「いや・・」
「あぁ、 か。たしかに、あいつならすーぐにみつけそうだ」
ロニもその人物のことを思い出したのか、遠くを眺めてそれからぷっと吹き出した。その後ナナリーがさっさと川を探り出し、ロニとジューダスに「おーい!あったよ!」とうしろから声をかけてきた。今日も無事にご飯が食べられそうだ。


ホープタウンに戻ると、水の方の帰りを待っていた子供たちが冷たく歓迎してくれた。ナナリーには熱烈歓迎をしている。そんな対応の違いにロニがぎゃーっと騒ぎ出したのだが、ジューダスは心ここにあらず、といった感じでぼーっとしていた。
「ジューダス?どうしたんだ?」
「・・・なんでもない」
そんなジューダスに気付いたロニがお?と動きを止めてジューダスに問いかけたが、ジューダスはふいとそっぽを向いてしまった。それをみたロニは「ははーん」というと、にやりと笑って「なあ、ジューダス」とジューダスに声をかけた。
のこと、心配なんだろ?」
「誰があんなやつのことっ。トラブルメーカーがいない分、ここのほうが楽かもしれんな」
一度ロニのほうへばっと振り返ったジューダスだったが、それからはっと嘲笑すると背を向けてしまった。
「とーかなんとか憎まれ口たたいちゃって〜。大丈夫とか言ってても、本当は心配で心配でたまらないくせに〜♪」
「ふん、心配というと、今頃あいつに巻き込まれて大変な目にあっている人間が心配だな」
「そんなこといって、が一人ぼっちだったらどうするんだよ」
「あいつは運と勘だけで生きている。どうせまた、どこかに上手い具合にもぐりこんで、今頃悪戯をして楽しんでるだろう。・・・お前こそ、カイルの心配をしなくてもいいのか」
「ぅおぁああ〜〜〜〜言うなバカーーーーー!!」
上手くロニに返したジューダスだったが、地雷を踏んだらしくロニはまたぎゃーぎゃー煩く騒ぎ始めた。顔をしかめて、とりあえず木陰に避難でもしようとしたジューダスだったが、すぐ傍にある噴水に、足をぶつけて前につんのめった。
「・・・チッ」
いつもの彼ならばありえないその行動に、思わずロニはカイルのことまでふっとばして固まってしまった。これは動揺してると見ていいのか。とりあえず舌打ちをしたジューダスをぷっと笑った。
「素直じゃねーの」
本人にも聞こえる声で言ったのだが、ジューダスは不機嫌そのもののむっつり顔で木陰までさっさと移動していった。それを見てロニがにやにやと笑っていると、ナナリーが隣にやってきてジューダスを見て一言。
「むっつりジューダス」
と、すけべロニ。
・・・・こうして、彼らに新たなあだ名(称号)がついた。ロニの称号がいつごろ決まっていたのかは、未だ解明されていない。



所変わって(約)1000年前。かわりすぎだろうというところは都合よく無視だ。
が来てすぐに話し合われたとある作戦は、その後ハロルドの言っていた通り6日後ということが決定された。
戦いに参加する兵士たちは皆身体を休め、女たちは食料を栽培したり、残りの軍関係者たちは武器の調整をしたりと皆仕事をしている。そんななか、おそらく遊んでいるのは子供たちだけだろう。だがその子供たちも、最近元気をなくしていた。
「みんな元気ないね」
「最近食料が不足がちだったからじゃないのか?戦いの前は、大体兵士たちの方に優先的に運ばれるから」
シャルティエにラディスロウを案内されながら、は最下層の一般人や位の低い兵士たちが共用で使っている広場を見渡した。シャルティエは少佐としての地位があるためか、周りからは時々声を掛けられている。そして、ぽつりぽつりと目に留まる子供たちのほとんどが腰を下ろしてぼんやりとどこかを見つめていた。
「ふーん・・・室内栽培とかしてないの?ここって」
「室内栽培だって?そんなものに電気回せるほど、ここに余裕あると思うのかい?」
「つったって、レンズの一つでもありゃあ結構な力でるだろーが」
「そんなこといわれても、僕には管轄外」
「シャル冷たいっ」
「シャルっていうな」
身体をしならせて言ったに、やっぱりシャルティエは冷たく返した。ぴしゃりと言い返されたはむーっとふてくされると、「じゃあ何て呼べってんだよ」とシャルティエに逆に問いかけた。
「私の名はピエール・ド・シャルティエ。ま、シャルティエさまとでも呼んでくれたまえ」
「うわー頭悪そう」
「お前なっ」
胸をはって言い切ったシャルティエに、が思いッきり顔をしかめながらつっこんだ。
「僕のほうが位が上なんだから、そう呼ぶのがあたりまえなの!」
「本当にそうなの?」
「う・・・ど、どうなんだろう・・・いや、多分・・・・・・・」
「頼りなっ」
「うるさい!」
の言葉に思わず首をかしげたシャルティエだったが、が引きながらつっこむと顔を赤くしながらさらにつっこみ返してきた。
はげらげら笑うと、「まーいいじゃん」と手をひらひらさせながらシャルティエをなだめた。あまり効果はない。
「とーにーかーく、位が低いことは本当なんだから、シャルティエ少佐、くらいで呼べよな」
「子供だからわかりませーん」
「そこまで頭が悪いのかこのクソガキ・・・っ」
はい、と手を上げてしらばっくれるに、シャルティエは肩を戦慄かせながらつっこんだ。はそれを見てにやりと笑うと、さらに
「私〜コトバ、ワーカリマセ〜ン」
「下手ななまりをつけるな!」
「いだっ!」
結局、ディムロスに続いてシャルティエにまでゲンコツをくらわされてしまうだった。
酷い・・・といいながら頭を抑えるは「シャルでいいじゃーーん!」と駄々をこねまくり、いい加減シャルティエは両手で耳を塞いだ。
それから外へ出ると、は実際体験する地上軍の基地を見渡して「うわぁ・・・・!」と声をあげた。
「すげえ・・・・本物の地上軍基地だ!」
「そこまで驚くものかな。天上軍のダイクロフトに比べたら、狸の洞穴の集まりみたいなものだけどね」
「みんなが一生懸命がんばって作ったところなんだから、文句いわない!」
どこか捻くれた答えばかり返すシャルティエに、はずびっと指をさしながらつっこんだ。シャルティエはやれやれと肩を竦めると、「まずはこっちから回ろう」といって近くの穴へ入っていった。
「シャルってば可愛い顔してるのに、そのひねくれ具合が似合わないんだよなぁ〜」
「そんなことどうだっていいだろ。大体、男が可愛いって言われても嬉しくない。ついでにシャルっていうな!」
「細かいな〜まったく。別にいいじゃん、上に見られようとしなくても。シャルはシャルだよ」
「・・・・・」
さらりと、あくまで呑気にが言うと、シャルティエは口をつぐんだ。
「あ、その顔、お前に何が分かるって感じ」
返事が返ってこなかったせいか、はシャルティエをひょいと覗いてにししと笑いながら顔を指差した。シャルティエはむっとすると、ぱっと手を払ってすたすたと早歩きし始めた。
「うるさい。大人にはな、色々あるんだ!」
「・・・シャルって大人なの?」
ぐっと手を握って力説したシャルティエに、が真顔で聞き返した。ぴたりととまってしばらく沈黙すると、シャルティエはの頭をゲンコツでぐりぐりとおさえつけた。
「お・ま・え・な〜〜〜」
「あーはははははっ!いてててっ」
逃げるように早く歩いただったが、コンパスの違いにより結局半泣きになるまでぐりぐりと頭をおさえつけられた。「ぎゃ〜〜〜っ」と叫ぶその悲鳴は、長く続くトンネルの置くまで聞こえていたとかいないとか。
トンネルの外にでるまで続いたシャルティエによる半泣きの刑が終わると、は「鬼畜〜〜〜」といいながら頭をかかえてしゃがみこんでいた。
ふん、とシャルティエが鼻であしらっていると、基地の出入り口から青い髪をたっぷりとのばした、筋骨隆々の大きな斧をもった男がのしのしと歩いてきた。シャルティエたちに気付くと、おや、と少し目を開いて「これはこれは・・」とシャルティエにむかっていやらしい笑みを浮かべた。
「奇跡の少女とデートでも?」
「まさか」
「ひどっ!」
即答で返したシャルティエに、しゃがんで頭を伏せていたも顔をあげた。そこで自分の目の前に立っている男と眼がうと、は驚いたように目を見開いた。
「初めまして、奇跡の少女。私の名前は、バルバトス=ゲーティアと申します」
「うわー・・シャルより紳士だ」
「オイ」
立ち上がったにバルバトスがお辞儀をしながら自己紹介すると、は驚いたように呆けながら素直な感想をのべた。
シャルティエからのツッコミを無視すると、は慌てて「あ、です。よろしく」と不思議な心境になりながらバルバトスに自己紹介をした。こいつはエルレインと仲間のバルバトスではないか・・・?と一瞬考えたが、前に自分たちの目の前に現れたときのバルバトスとどこか雰囲気が違ったのを見て、これは過去のバルバトスなのだろうと勝手に解釈した。
とシャルティエのやりとりを見てくすりと笑うと、バルバトスは「それでは」といってさっさとラディスロウに入っていった。
それをがぽかんと見つめていると、シャルティエは隣で顔をしかめ、ふぅ、とため息をついた。
「まったく、裏切り者の分際でなに紳士面してんだか・・・」
「え?って、どういうこと?」
「リトラー指令の話しを聞いていなかったのか?」
なんのことやら、と首をかしげたを見て、シャルティエは呆れたように問い返してきた。頷くにため息をつくと、さっき話してただろうがと頭をかかえながらも説明をしてくれた。
「だから、さっき裏切り者がこの中にいるから、そいつをぶっ倒すって話ししてただろ?」
「えーっと?あーうん、してたしてた。」
めんどくさそうに話すシャルティエに、はしばらく考え込んでからこくこくと頷いた。作戦の部分から説明せずにすむとわかったシャルティエは、ため息をつくとバルバトスの入っていったラディスロウを指差した。
「その裏切り者があいつ、バルバトス=ゲーティアなんだ」
「えー?そうだったんだ。へー」
「・・・・なんか、知ってたって感じの言い方だな、お前」
わざとらしいの話し方に、シャルティエは眉を潜めてを睨む。は誤魔化すように笑うと、「だって未来から来たし」とシャルティエにトドメの一言(?)をだした。
「なんだよ、知ってるならいちいち説明させるなよな」
「いいじゃん。いつバルバトスが裏切ったなんて今が何年の何月何日かも知らないんだから分かるはずもないし。ていうか、シャルって案外優しいんだね(こっちでも)」
なんだかんだいって面倒見いいし。というに小さく息を詰まらせると、シャルティエは「あたりまえだろ。紳士なんだから」とふんぞり返りながら言い返した。
「照〜れちゃって素直じゃないんだから。そういう時は・・・・・・わ・・・・・・わ・・・・・・・・・・・・どうするんだろう?」
「結局分からないのかよ」
ソーディアンのシャルティエよりもキッツイオリジナルのつっこみをうけると、は可笑しそうにげらげらと笑い声をあげた。
「ていうかさ、中にいる人間相手になんでそこまで力入れるの?」
「・・・あいつがそれほどの実力持ってるからに決まってるだろ」
憎憎しそうに言ったシャルティエの言葉を聞くと、は「あ、なるほど」と簡単に納得した。わかっているのかどうかが怪しい。
「でもさ、どうやって天上軍から応援を準備してもらってるとかっていう情報手に入れたの?」
「そりゃあ色々さ」
「大体あいつが向こうに寝返ったんだったらさ、どうしてここの場所がばれてないのさ」
「さあ、教えてないんだろ?ここの場所を教えるだけ教えたら仲間に入れてもらうどころか殺されました―――なんてことになったらしゃれになんないし」
「あー、なるほど。交換条件てやつ」
「ま、そういうことだよ」
やっと全てを理解したを見ると、シャルティエは偉そうに胸を張った。その後に「・・・まぬけ」とまた痛くつっこまれ、腹いせに思い切り固めた雪だまを痛くプレゼントしてきた。


「そういえばさ、俺の服いつもと違わない?」
「・・・・今更気付いたのかよ」
全部を回り終えてラディスロウに戻ってきたは、出入り口で雪を払おうとしていつもと服装が違っていることに気付いた。
ハイネックの服の上に足元まであるねずみ色のコート。黒いふわふわしたファーが首と手の先についている。ズボンは太ももの上までしかない短いものとはちがって、ちゃんと下まである長いものだ。特別な布でできたブーツは、コートにあわせてなのかそうではないのか、黒だった。
今更そこまで服装が変わっていたことに気付き、笑って誤魔化そうとするを、思わずつっこんだシャルティエは呆れが止まらないらしくじと目で見ていた。
そのうち俺の服どこー?!と騒ぎだすを「止まれ、クソガキ」といって止めると、
「今あんな薄着してたら、ここじゃ生きていけないぞ」
と的確なつっこみをいれてきた。それにおお、といって手をぽんとうつと、は「なるほどそれでか!」と納得した。だがスノーフリアで買ったコートがあったはず、と思い返し、シャルティエに問いかけると、長時間雪にさらされて、すっかり濡れてしまっていたらしいことを聞いた。さすがは安物だ。
「んで、俺の服はどちらに?」
そういえば城に入った時すでに冷たかった気が・・・・と思い返しながらがシャルティエに問いかけると、シャルティエは「今頃部屋においてあるんじゃないか?ご丁寧に洗濯までして」と適当に返してきた。
なら行ってみようかとシャルティエの部屋へいってみると、テーブルの上に、ご丁寧にもきちんとたたまれて服が置いてあった。
それに驚いて二人してぽかんと見ていると、先に我に返ったが大事そうに服を持って鞄にしまいこんだ。
「なんだ、その服大事なものなのか?」
それを見ていたシャルティエは首をかしげて、行動をみるからにどこまでも適当でがさつそうなに意外だと言わんばかりに問いかけた。
はうなずくと、外されていた指輪を全部手につけて立ち上がった。
「これはね、俺の大切な人が買ってくれたものなんだ。だから大事なの」
「単にがめついだけなんじゃないのか、お前」
「うっわひでー!きーずーつーいーたー」
「うそ臭っ!」
と、とシャルティエがぎゃーぎゃー騒いでいると、シュッと言う音と共にイクティノスが部屋に入ってきた。
イクティノスを見てぱっと動きを止めると、シャルティエはを無視してイクティノスに挨拶をした。
「冷たいなぁ〜シャル」
「だぁから、シャルっていうな!」
「まあまあ、いいじゃないですか。未来から来てすぐに、慣れろというのは酷でしょう」
「そうだよねー。さっすがイクティン!」
「ガキ扱いされてるんだよ、気づけっ」
「あいて!」
「イ、イク・・・・・・?」
とっくの昔につけられていたあだ名を知らなかったイクティノスは、の口から出てきたイクティンというあだ名を聞いて思わず固まってしまった。
シャルティエは「このバカッ」といってを小突いたが、は「なにがさ?」とわざとなんだか天然なんだかとりあえず首をかしげた。
「お前全っっ然直そうとしてないだろ!」
「むー。いいじゃんよ、別に。階級なんて戦争終われば関係なくなるんだから」
「そりゃあ軍を抜けた人間だけだっ」
「じゃあシャルはずっと残るの?」
「う・・・・・・・・」
「やーい、いいかえせないでやーんの」
「・・・こんのクソガキー!」
べー、と舌をだしたに、シャルティエは青筋を立てると一発ぶん殴ろうと手を伸ばした。が、に素早く逃げられてしまい、イクティノスがぽかんと口を開けて見守る中、室内で鬼ごっこが展開された。
ぎゃーぎゃーと子供のように二人が騒いでいると、イクティノスはそのうち可笑しそうに笑い出した。
「ど、どうしたんですか、イクティノス少将っ」
腹を抱えて声まで出して笑うまで至ったイクティノスに驚いて、シャルティエが慌ててイクティノスに声をかけた。首をかしげると慌てふためいたシャルティエの二人を前にして、イクティノスはまたぷっと吹き出した。
「もー、なんで笑ってるのさ」
「い、いや、すみません。あんまりにも二人が面白くて・・・・」
笑いをこらえながら答えたイクティノスに、シャルティエがかっと顔を赤くさせた。
「敬語なんて使わないでよイクティン!俺の方が階級とかいうの下なんだし。それに俺、オリジナルのみんなと会えてすっごく嬉しいんだ!帰ったらみんなに自慢したろ♪」
うきうきと声を弾ませて言ったをくすくす笑うと、イクティノスは「そういえば」と問いかけた。
は、どうしてこの時代に飛んできたんですか?」
「敬語ー」
「あ、す、すみません」
イクティノスがつい敬語で問いかけると、は可笑しそうに笑いながらイクティノスを指差した。
さらに敬語で謝ってしまったイクティノスをが笑っていると、シャルティエが無言で睨んできた。
「まったく、可愛い顔してきついんだから・・・」
「だから可愛いは余計だっ」
怒るシャルティエを適当にあしらうと、はイクティノスに向き合って椅子に座り、にこにこ機嫌良さそうに笑みを浮かべた。
「あ、俺ね、みんなで戦ってた時に敵方に喧嘩売って、んで吹っ飛ばされてきたの」
「ということは、別れもそこそこに仲間たちとはぐれてしまったんですか・・・」
の話しを聞くと、イクティノスは気の毒そうな顔をした。イクティノスの顔を見てはっとすると、は慌てて「んな顔するなって!平気平気」とにっこり笑った。
そして、シャルティエはシャルティエで、別のところに視点を向けていた。
「ふーん。元々喧嘩してるってのに、煽られただけでこんなガキに手ぇだすなんて、随分短気な奴だなぁ」
「うんうん、そーだよねぇ。たかだかババァなんて陳腐な言葉に反応しちゃってさ。年増なの気にしてるからってあんまりだよ・・これから楽しいところだったのに・・・・・・ケッ」
腕を組んで呆れたようにため息をついたシャルティエと同じように、も腕を組んでため息をついた。ただし、ふてくされながら。
だがシャルティエとイクティノスは、の言葉を聞くと、なんですと?といわんばかりにぽかんと口を開けた。
「・・・・・」
「・・・年増、って、女性に・・・・?」
イクティノスがもしや・・とに問いかけると、はさらりと「うん、そうだよ」と肯定し、それを見た二人はさらに呆れて顔をしかめた。女性は怖いからナァと、どんな経験からかぼそりとイクティノスがつぶやく。
それは普通に怒るって・・・というシャルティエには、「宗教関係の女でも、やっぱ気にするところは気にするんだなぁ」とうんうん唸っ
た。
宗教という言葉を聞いた二人は、単に下品な言葉使いに反応しただけなのでは・・・?というつっこみを口に出そうとし、同時にひっこめた。
こいつに言っても、無駄だ。
・・・・早くも悟ったらしい。
なんだかんだ言ってイクティノスと上手く打ち解けたは、それからシャルティエとイクティノスと色々と話をした。ただ、未来のことについては下手に話せないので、―――これもかなり問題だと思えるが―――簡単な質問にしか答えはしなかった。
ここにジューダスがいたら間違いなく「この馬鹿者!」とつっこまれていただろう。
「それじゃあ、私の将来のマスターは王族の方なのか・・」
というと、イクティノスは遠い目をした。
丁度話題は未来のこと、しかも、間違いなく群の中でも数名しか知らないであろう、ソーディアンについての話題だった。
「そうだよ。笑顔が素敵なガングロさ☆」
「ガン・・・・?」
「ねえねえ!僕のマスターはどんな?イクティノス少将みたいな王族関係とか?それとも、名のある貴族?めちゃくちゃ有名な剣士に使われるっていうのもいいなぁ〜」
「うーん当たらずとも遠からず!」
「はあ?なんだよそれ」
イクティノスの話を聞いてうっとりと自分の世界につかってしまったシャルティエに、は苦笑いしながら返事を返した。
期待が外れると予感したのか、顔をしかめたシャルティエだったが、「そんな悪くは無いよ」というの言葉に少し表情を緩めた。
「(元は冴えない生真面目考古学者だけど)とある国の国王に側近として仕えてて、でっかいレンズ会社の総帥で、めちゃくちゃ金持ちの成金のチマタで話題だった素敵なおじさまの息子がシャルのマスター」
「わかりずらっ!」
「シャルのそのリアクションの良さが好きだよ」
息もつかずにべらべらべらと語ったに、シャルティエは思い切りよくつっこみをいれた。がそれにぐっと親指を突き出し、イクティノスが二人のやり取りを見てくすくす笑っていると、シャッという音と共にディムロスとアトワイトが入ってきた。
めずらしく笑っているイクティノスを見てん?と言う顔をすると、ディムロスは持っていた資料から目を離して穏やかな表情を見せた。
いつもスタンにつっこんでいる声とゲームでの印象しかなかったは、その顔に一瞬目を奪われた。いうまでもないが色々な意味で。
「随分盛り上がっているようだな」
「ええ、この子とシャルティエのやりとりがあんまりにも面白くって」
まだくすくす笑いながら言うイクティノスに、シャルティエがあっと声をあげた。
「あっ、酷いですよイクティノス少将!」
「いやーそう?タッグ組もうかシャル☆」
「絶対に断る!」
「酷っ!」
即答で、しかも力を込めて断ってきたシャルティエに、がまたさらにリアクションをとった。
「そんな、シャルッ!私のことは遊びだったのね!!」
「遊んでるのはお前の方だろ!」
「まだ子供の私で遊ぶだけ遊んで、さらにその後の全責任を私にかぶせてきたと全員にいいふらしてやる!」
「冗談でもやめろ!」
「じゃあ今度から事あるごとに腕に突進して、『酷い!私のことは遊びだったのね!!』ってさっきみたいに言って泣いて逃げてやるっ!」
「もっとやめろ!」
「ならそれを言った後すぐにイクティンとラブラブになってやるー!!」
「いや、私はまきこまないでほしいな」
「そう?んー、じゃあどうしようかなぁ」
「いい加減にしろこのクソガキっ」
イクティノスの言葉だけは聞き入れて次のネタを考え始めたに、シャルティエがそこら辺にあった薄っぺらい本を丸めてスパンッと頭を叩いた。これがハリセンなら言うこと無しだ。
とりあえず目の前で起きたどうしようもないやり取りを目にすると、ディムロスは意外そうにシャルティエたちを見回し、それから先に噴出していたアトワイトと一緒になってぷっと笑い始めた。
「見ろ!ディムロス中将まで呆れて・・・・あれ?」
「見ろ!ディムさんにまで受けてるぜシャル!いけるよ俺たち!」
「いけるかよっ!」
結局、最後の最後までは叩かれていた。
それから「なにを話していたんだ?」というディムロスの問いかけに、考えもせずにが「マスターはどんな人って話し」と言うと、察しの良いディムロスはすぐにソーディアンのことだと気付き、眉をくっと潜めた。
「お前たち、それが重大なことだと分かっているのか?」
「あ・・・すみません」
と、シャルティエとイクティノスはすぐに謝ったのだが、喋りに喋っていた当の本人は飄々とし、「別にいいじゃんそれくらい」と呑気に言ってのけるしまつだった。
はぁ?アホか?といわんばかりに(絶対違う)顔をしかめたディムロスに、は逆に「細かいなー」と言い返していた。
「この先すぐのこととか話してないし、それくらい言ったって、結局皆忘れてるもん。気にすること無いって」
「忘れるって・・・1000年も立てば普通忘れるでしょ・・・」
「あ、そっか。長いなー」
すっかり呆れながらシャルティエがつっこむと、は今気付いたかのように手をぽんと叩いた。それを見た4人は、イクティノス以外全員呆れてため息をついた。
「・・・・緊張感の無い子ね」
「それ1000年後のアトワ姉さんに同じこと言われた」
「アトワ・・・?」
聞いたことも無いあだ名を聞いてアトワイトは首をかしげたが、王族がマスターだというイクティノスと成金(失礼な)の息子がマスターだというシャルティエの話を聞いていてか、アトワイトも「ねえ、私のマスターってどんな人?」ととうとう問いかけた。
おい、と顔をしかめたディムロスだったが、アトワイトは「いいじゃない、ちょっとくらい」と笑い、も同じように「いいじゃんいいじゃん!」と煽り、結局ディムロスを無視して話は進行されていった。
「アトワイトのマスターはシャルのマスターのお姉ちゃんなんだけど、とある理由で、まだ赤ん坊のころに母親に孤児院に預けられて・・・」
「へぇ・・。それじゃあ結構複雑なのね」
「なんか、大変そうだなぁ」
「シャルも複雑だよ」
アトワイトのマスターの話を聞いて眉を潜めたシャルティエにがにやりと笑いながら蛇足をつけると、シャルティエは「げっ」と顔をしかめた。
「まあとりあえず。姉っていうくらいだから女なんだけど、これがまた気が強くってがさつでがめつくて口が悪くて根性ひんまがってて」
「・・・・・・なんか、すごい子ね」
「うーん、まあ、勝ち気でひねくれ物なんだけど、本当はめちゃくちゃ優しくって傷つきやすくて、つぶれそうな孤児院のために独りでお金ためようなんて無謀なこと考える思いやりのある子だよ。ひねくれすぎて回りには気づかれずらいんだけど」
「ふーん・・・・そういう子なわけね」
その後、かなり遅いがフォローを入れたの言葉を聞くと、アトワイトはふふっと笑った。相手にする1000年後が少し楽しみになったのだろうか。
ふーん、とイクティノスとシャルティエがそれに頷いている部屋の隅では、ディムロスがまだ意地を張ってそっぽを向いている。
「ディムロスは聞かなくていいの?」
「別に気にならん」
「・・・一番面白いのに」
ふん、とアトワイトの言葉を鼻であしらったディムロスの後にがぼそりとつぶやくと、一瞬、部屋の空気が止まった。
「僕、聞きたい」
「私も」
「あ、それじゃあ私も」
「お前らなっ」
シャルティエ、アトワイト、イクティノスと続いて手を上げていくと、ディムロスがくわっと怒って声をあげた。がそれを見て「今のディムさんらしい!」と大笑いすると、ディムロスは余計に顔をむすっとさせてそっぽを向いた。
「まあまあディムロス、そんなに意地はらなくってもいいじゃない」
「そうだよディムさん。どうせ忘れてんだし」
「俺は聞いたら忘れん方なんだっ」
「とーか言っといて、1000年後はしっかりと俺のこと忘れてたよ」
肩を竦めてが言うと、3人がぷっと吹き出した。それも含め、言い返せなくてぐぬぬぬ・・・と顔をこわばらせているディムロスに、アトワイトがくすくす笑いながら近づいていった。
「どうせ忘れるなら、いいんじゃないの?折角なんだし聞いちゃいましょうよ」
「む・・・・・・」
「はい決定ー」
アトワイトの言葉に答えられず口を濁したディムロスに、がさっさと決定を下した。
おい!とまったをかけるディムロスを無視して、と他3名は円になって話しに参加しだした。こんな時だけすばらしいチームワークだ。
「ディムさんのマスターは・・・」
「マスターは・・・・?」
「ププッ。・・・じ、実は、レンズも知らないようなめちゃくちゃな田舎者!」
「「「・・・・プッ」」」
「わ、笑うな!」
笑いながら告白をしたの言葉をきくと、3人とも思わず噴出した。それから声も出ないくらいに爆笑する3人に、ディムロスが真っ赤になりながらつっこみをいれていたが、まったく効果はなかった。
「それがすっごいお調子者で、騙されやすいからって最初アトワ姉さんのマスターに使いッパシリにされたりして・・・・・世間知らずでバカがつくほどお人よしでまぬけで毎日みんなからかまわれてて、天然で寝起きが悪くて」
「なんで俺がそんな・・・・」
「あ、それディムさん良く言ってた。でもね、あいつは根がすっごくまっすぐなやつで、純粋で、自分の信念は曲げなくて。なんていうのかな、アホだけど、分かること分かってるって感じのやつ」
「よくわからん」
「まぁ、期待しておいていいってことだよ」
ため息をつきながら将来の自分の生活に不安をよぎらせているディムロスにがケラケラ笑っていると、アトワイトが横からフフフ・・・と笑いながら入ってきた。
「そしては、ちょっぴり素直じゃないわね」
「なにい?!俺ほど素直な人間はいないぞ!」
アトワイトの言葉にくるりと勢いよく振り向きながらが言うと、アトワイトは「あら〜そうかしら〜?」とにこにこにこにこ笑いながら言い返してきた。
「いらないところが素直すぎなんですね」
「だからイクティン敬語ー!」
「く、癖なんだっ」
にそのままのテンションでつっこまれると、イクティノスは無理矢理に言葉をだして喋った。
詰まりながら喋るイクティノスを見て、そこにいた全員が声を上げて笑った。
・・・・その中でディムロスは、上手く逃げれた(つっこまれずにすんだ)とさりげなく胸をなでおろすのだった。








続く
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また意味の無い・・・・。(だって遊びたい年頃なんd/終了)
いやーなんていうかもう話しありえない。
こんなの現実やってたら今頃主人公切り殺されてますね☆(星飛ばしてる場合じゃねえ)
まあ・・・・まあ、いっか。(コラ)いちおうソーディアンチームと話せてるし!!
最初シャルティエだけと話が普通にできるようにしちゃおうかなぁと思ったんですが、それじゃあ生生しくて俺の許容範囲超えて・・・。
ま、坊ちゃんが楽しい反応してくれたからイッカー☆(よかねえよ)
ではでは、ここまで読んでくださったかた、ありがとうございましたー!