「え?教えてたじゃなくて?」
「はわわわわ・・・」
マティーニの言葉に、リアラが眉を潜めた。
はさっと青ざめて慌てて言葉にならない言葉をくちばしったが、リアラの目はマティーニの方にしかむけられてはいなかった。
「そうよ。が先生で、私たちが生徒。だっての方が歳う」
あーーーー!!!っとアランが来たーーー!!」
マティーニの言葉を遮って、が大声をあげた。酒場の入り口の方では指を差されて大声で名前を呼ばれたアランがべたっと扉にひっついている。
「そ、そんなに騒がなくても良いだろ!俺が来たってだけで!」
恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらが扉から離れると、外からさらに「ーーーーーー!!!」と騒ぐ数名が入ってきた。
ノイシュタットにいた頃、丁度年齢も上のほうでよくのことを覚えている数名だった。
リアラの質問を上手い具合にあやむうやにできたは、とりあえずほっとため息をついた。







my way of living 46
〜なんちゃって教師危うし!ノイシュタットキッズと駄々っ子〜









アランと残りのカルアミルク、キングスバレイ、ジントニック、ソルティドッグ、ニコラシカ、プースカフェがやってくると、この同窓会のようなあつまりは一気に盛り上がった。それぞれ成人しているので酒を片手に昔話だ。
「それでってば、カルアミルクと一緒に金持ちのおばさんを庭に作った落とし穴に落としたんだよな」
「だ、だってあのおばさん、外面よくして家の中で拾った子供を奴隷にしてたんだぞっ」
「そうだそうだっ」
「あと喧嘩売ってきた金持ちの子供たちをキングスバレイとシメた事件もあったよね」
「あの時のキングスバレイは怖かったよナァ・・・。いつもの温厚さは何処にいったって感じで」
「なんだよ自分ばっかりっ。だっていつもより嫌味は多いし毒舌だしで酷かったじゃないかっ」
等々。次々でてくると他10人の起こした事件や悪戯の多さに、カイルとリアラは思わず苦笑いした。
大分酒が回ってきたのか、全員テンションは絶頂だ。
「あ、ってばいつの間にかお酒飲んで!」
「大丈夫。シャンパンにオレンジジュース入った奴だから軽い軽い」
いつの間にやら周りと同じく酒を持ち出していたにカイルがいち早く気付いたが、怒られた本人はへらへら笑って平気平気とそればかり言っている。
まったく、とカイルとリアラの二人がに呆れていると、宿の出入り口からロニとジューダスがやってきた。
酒場の中でもあまりに大勢いるその団体を見つけて、二人は顔をしかめた。
「なんかすんげー集まりだな」
の昔の教え子だってさ」
がたっとカイルの隣の椅子に座りながらあくびを一つしていたロニだったが、カイルの一言を聞いて大きく開いていた口をぱっと閉じた。
心中アホがーーー!!と叫んでいただったがカイルに届くはずもなく、ジューダスにただ冷たく見下されているだけだった。
「はあ?お前いったいいくつなんだよ?」
「いやんロニってば☆女性に歳を聞くもんじゃなくってよ!」
「やめろ気持ち悪い」
「俺も・・・自分でいってはきそう・・・・」
げそっと心底気持ち悪そうな顔でつっこみをいれたジューダスと同じく、も青ざめながらウエッと吐く真似をした。
それをみたロニ以外の全員はどっと笑い、も一緒になって大笑いした。
未だ疑うような目つきをしているロニだったが、その後のあまりの会話に年齢のことなどすっかり頭からとばしてしまった。
「あれ最高だったよな。アランとが自称マッハ少年に喧嘩売ってさ」
「あー覚えてる覚えてる。それでレースするぞとかいって走り出して、走りながら二人でボケてマッハ少年(自称)を笑いすぎで走れなくして」
「で、自分たちも可笑しくなって笑いだして、結局決着つかなかったあれだろ?かっこ悪いよなー」
「ソルティドッグとで魚屋のおじさんに「ネコにも魚をわけてあげてよ!」とか言って遊んでたよな」
「いい加減おじさんが折れてネコに魚あげてたよな」
「あと、ジントニックと一緒に桜の木に登ってさ〜」
「あーあー!管理人のおじさんに叩き落されたアレ!」
「コングマンをリンチした時も凄かったけど、街のど真ん中にモンスター連れ込んだときも酷い騒ぎになったよなー」
「あれよくけが人でなかったよな」
うんうん、と頷きながら、全員当時のことを思い出してくすくすと笑い出した。
だがジューダスも聞いたことがないような数々の悪戯および事件を聞いて、ロニとジューダスはじと目でを見みていた。
「・・・・・なにやってるんだお前は」
「あはははは。いや、子供たちを育てる環境は生き生き出来るところが一番いいって言うし・・・・ねえ?ロニ?」
「一番生き生きしてたのはお前だろ」
ロニのつっこみすら笑ってが誤魔化していると、モスコーミュールが「笑って誤魔化すな!」とつっこんできた。
突っ込みを受けてしゅんとなったを全員が笑っていると、アランがふと「そういえばさ」と話しだした。
はあいつの最後を見たの?」
「あいつって?」
「リオンだよ」
リオンという名前を聞いて、ロニとジューダスとが固まった。
ミモザたちはさして動揺した様子もなく、「あーいたなぁそういえば」と懐かしそうに遠い目をするだけだ。
「なんか色々な噂が耳に入るからさ、本当のところどうなのかなって」
「お前らは、その・・どう思ってるんだ?」
比較的声が暗くならないように気を使いながらが問いかけると、全員顔を見合わせた後にうーんと唸って首をかしげた。
「裏切りものって一番言われてるけど、私はどうだろうなって思うな。遊んでてそんな感じに思えなかったし」
「ていうか実際世界が終わるかもしれなかったっつーのも後々知ったことだったし、あの時暗くなったな〜ぐらいにしか思ってなかったもんな」
「それあんただけ。いつベルクラントで撃たれるかってびっくびくだったわよ。ま、バカみたいにおどおどした金持ちの奴ら見返せてなんか気持ちよかったけど」
「それも問題ある発言だと思うよ」
「まあでもさあ、世界がどうなろうが結構遠い話しにしか思えなかったよな。あんな毎日送ってたから、あれ以上どうなろうと生きてけるとか思ってたし」
「それに結局、ノイシュタットにとってはいい薬になってくれたしな」
「なによりバーガー奢ってくれたしv」
「ニコラシカはまた〜〜そこかよ〜」
てへ、と笑いながら言ったニコラシカに、プースカフェがズバッと裏手ツッコミをいれた。
だがニコラシカの言葉がきっかけになったかのように、他も次々と「そうだな」と言って笑った。
「あんまり笑わない奴だったけどさ、結構面白かったよな」
「ツッコミ上手かったよね〜そういえば」
モスコーミュールとマティーニがケラケラ笑いながら言うと、そういえばさ、とソルティドッグが何かを思い出したように目を輝かせた。
「アランとのとりあいしたよな」
「あーー!あったーー!」
ソルティドッグがにやりと笑いながら言うと、アランを抜かすほか全員がどっと笑い出した。
ロニやカイルたちは噂に聞く人物の人物像が次々に崩されていき、おろおろと話をきくばかりだ。
ジューダスが顔を抑えながらはぁ、とため息をつく横で、が「そうだったなー」とげらげらと笑った。
「でもリオンて別にが好きだったわけじゃなかったんじゃなかったっけ?」
「そうそう。こいつの勝手な勘違い」
「な、なんだよっ。あの時の俺は必死だったの!」
アランを指差しながらが言うと、アランは顔を真っ赤にしながら言い訳した。
そんなアランを見て全員がまた笑ったのだが、本人はあくまで「本気だったんだー!」と突き通した。
かぁ〜わいいやつ〜〜とアランがおちょくられている横で、プースカフェがまた「そういえば」と声を上げた。
「レースしたよね、それで」
「そうそう」
プースカフェが酒を一口口に含んでほのぼのしながら言うと、ミモザが笑いながらうんうんと頷いた。
アランが真っ赤になってジントニックやカルアミルクたちに茶化されていると、モスコーミュールが「そういえば」と机に肘を突きながら喋りだした。
「あれってさ、本当はリオンの勝ちだったんだよね」
「え?!そうだったのか?!」
モスコーミュールの意外な告白に、アランがガタッと立ち上がりながら問い返した。モスコーミュールはというと、どこまでも呑気に「うん」と頷いてその時のことを思い出すように話しだした。
「俺しっかり見てたもん。ほんの少しだけだったけど、リオンの方が早く入ってたんだ。はリオン側に立ってたからよく分からなかったかもしれないけど」
「へ〜。そうだったんだ。ま、いいじゃん。リオンは別の人に惚ブホッ!!」
が酒を飲みながら言おうとしていた言葉を、ジューダスが思い切り足を踏んで遮った。
がジューダスを無言で睨んだが、ジューダスはそっぽをむいてしらんぷりした。
そんなこんなで会話が続いていたところで、ロニが「なあ」と水をさすように声をかけた。
「さっきから聞いてて妙に思ったんだが、はリオンにあったことがあるのか?」
「え、いや、あの、その」
一番聞いてほしくなかったことを聞かれて、は口ごもった。
そんなロニとを見てか、アランが首をかしげながら「聞いてないのか?」とロニに声をかけた。
はリオンやスタン=エルロンたちと旅してたんだよ」
「ええ!?父さんたちと?!」
「マジかよ?!」
「ぅおぁああ〜〜〜アランのヴァカーーーーっ」
一番なってはならない状況に陥ってしまったは、思わず心の声を言葉にしてしまった。
言ったアランは訳も分からずに首を絞められている。
スタンの名前がでて過剰反応したカイルをなだめると、とりあえずはロニに向き直った。
「・・・どういうことだ?お前、どう見たってカイルと同じくらいだろ?」
「若作りのプロですから」

以下、ロニによるへの10の質問だ。
Q1 「じゃあ一体いくつなんだよ?」
A1 「だぁから女性に年齢きくなっつの」

Q2 「お前女性ってガラかよっ。女性って言うのはもっとこう大人でおしとやかでなぁ・・・」
A2 「つくもんついててさげるもんさげてねえんだから女だろ」

Q3 「・・・・・・本当にお前女か?」
A3 「確かめてみる?」

Q4 「いや、いい・・・・遠慮する・・・・。で、話しに戻るがいくつなんだ?」
A4 「いやぁここの酒は最高だな☆」

Q5 「いくつなんだ?」
A5 「ここの酒は最高だな☆」

Q6 「・・・・飲んで良いのか、酒」
A6 「飲みもんは呑むためにあるんだからいいだろうがよ?」

Q7 「・・・・いくつなんだ?」
A7 「酒最高☆」

Q8 「聞かれるとまずいのか?」
A8 「ホタテよりしじみのほうが美味しくないことは確かだね」(しじみ好きさんすみません。単なる逃げ言葉です)

Q9 「お前何者なんだ?」
A9 「でッス☆」

Q10「お前にまともに問いかけたオレがバカだったよ・・・・」
A10「ようやくわかったかいバカ野郎☆」

にっこり笑うに、ロニはがくっと肩を落とした。
そんな二人のやりとりを見て相変わらずだなと全員が笑うと、今度はカイルがに「父さんて、どんな人だった?!」と問いかけてきた。
「うーん。天然でアホで騙されやすくて、性格真っ直ぐなんだけど頑固でどこまでも田舎者のお調子者だったかなぁ。朝はとにかく寝坊してルーティに色々とやられてたね。俺と低血圧同盟結んでた」
「う、うわー・・・」
「カイルって、ルーティとスタンをちょうどたして半分に割ったくらいだよ。面白いくらい似てる」
二人を思い出したかのようにくすくすと笑うに、カイルは顔を赤くしながら頭をかいた。
それでルーティさんと知り合いだったのか、というロニに「そうだよ」と答えると、一山越えた・・・・とは内心ため息をついた。
また色々と教えてあげるよというと、カイルはにっこり笑って「うん!」と嬉しそうに頷いた。
「でも本当、に合えてよかった・・」
「こいつ未だにねらいなんだぜ」
「な、何言ってんだよ!」
にししと笑いながらジントニックが茶化すと、アランは真っ赤になりながらジントニックが肩においてきた手を払った。
全員が「そうそう」と言って笑い出すと、アランはますます赤くなって「お前らなー!」と叫んだ。
「でもあの騒乱の後、アランずっとのこと心配してたんだよ。・・・・みんながもう諦めろっていくら言っても」
とキングスバレイが言うと、ミモザがカクテルを飲みながら「してたしてた」と頷いた。
「そうそう。は生きてるかな、大丈夫かなってほとんど毎日」
「何年かたってもたまーにのこと言ってたよな」
ニコラシカが笑いながらミモザの後につづくと、ソルティドッグがにやりと笑いながらアランをつついた。
「な、なな何だよっ!お前らだって話題にだしてただろっ」
「そっか・・・可愛いやつだなぁアラン〜〜〜〜」
「だ、こ、子ども扱いするなよな!」
ぎゅーーーっとアランの頭をが抱きしめると、アランはまた赤くなってじたばた暴れた。
その後なんとかに開放されると、アランは赤い顔のままで「全く・・・・」とため息をついた。
「そういえばさ、アランがいい男になったら結婚考えるっていってたじゃん」
「あー言ってたね。で、、どうするの?いい男に育ってるわよ〜〜」
ミモザとプースカフェがお茶らけながら言うと、アランは赤い顔をさらに赤くして「なに言ってるんだよ!」と二人につっこんだ。
はそんな3人を見て笑うと、だめだめと言って手をふった。
「とある事情があってね〜。人とお付き合いってわけにゃあいかなくなっちゃったのよ」
「なんだそれ?とうとう犯罪犯したとか?」
「むしろお前を犯すぞモスコーミュール」
手を挙げて威嚇しながらが言うと、モスコーミュールは「きゃーーっ!犯されるーー!」と甲高い声をあげてお茶らけた。
冗談だよといって全員で笑っていると、カイルたちが「もう寝るね!」と言って戻っていった。
時計を見るともう10時すぎだ。
「お、もうこんな時間か。よくカイルのやつ起きてたな・・・・。俺も、そろっと寝るわ」
「ああ、おやすみロニ」
「あんまり遅くなって明日寝坊すんなよ?」
最後まで釘をさすロニに笑うと、はOKOK!といって手を振った。
ロニがいなくなると、話は急にイレーヌのことにとんだ。
「そういえばさ、イレーヌさんもいなくなっちゃったんだよな」
カルアミルクがふと言った言葉に、がびくりと肩を慄かせた。
ジューダスは話を聞いているので、の反応を見て静かに目をふせた。
「ほんと、どこにいっちゃったんだろうって話題になったよね。あんなにノイシュタットのことを思っていてくれた人が帰ってこないなんて、死んじゃったんじゃないかって・・・・」
「やめてよ縁起でもない・・・・。ねえ、なにかしらない?」
やはりというか、必然的に話しはに振られた。
はミモザに声を掛けられると、青くなっていた顔をぱっと上げて全員の顔を見渡した。
全員なんだろうかと首をかしげていると、は急にぽろぽろ涙を流し始めた。
「え、え??」
「ごめ・・・・・ごめ・・・んっ・・・・」
急に泣き出したにジューダスも驚いたのか、無言だったが目を大きく開いていた。
アランが「どうしたの?どうしたんだよ??」とおろおろしながら心配そうにの頭をなでていると、はしゃくりあげながらなんとか言葉を発した。
「ごめっ・・・・ごめんね・・・みんな・・・ごめん・・イレーヌさん、守れなかっ・・・・っ」
の言葉を聞いて、全員すぐにの言わんとすることを察した。
守れなかったというの言葉はどういうことか細かく理解できなかったようだが、イレーヌがいないということに全員が表情を暗くした。
そうか・・・・とつぶやいたの横では、がまだ涙をぼろぼろとおとしていた。
「や、やめてよ〜!泣かないでよっ。そんな風にされたら・・・私たちまで・・・っ・・・・」
ミモザがをなだめようと明るく話しかけながら肩に手を置いたが、同じようにぼろぼろと涙を流し始めてしまった。
「そうだよっ、泣くなよっ」
「やだよ・・・泣き止んでよ・・・・」
の周りにわらわらと寄ってくるところは、昔のままだった。
ミモザを始めにマティーニ、プースカフェと泣き出すと、キングスバレイがいつの間にやら涙を流していた。
なにお前まで泣いてんだよというソルティドッグやジントニックたちもみんながみんな涙目だ。
「ねえ、自分ひとりで罪を背負わないでよ。イレーヌさんを守れなかったのは俺たちも同じだよ」
ミモザたちと一緒に泣くに、アランが優しく話しかけた。
の言葉を聞いて顔を上げたに、アランはにっこり笑った。
「俺はやイレーヌさんを失ったこの何年間、自分の力の無さを償う気持ちでノイシュタットを幸せで豊かな街にしたいと思ってがんばってた。もイレーヌさんのために十分悲しんだ。もうそれくらいでいいじゃないか。十分だよ」
「そうだよ。悲しんでたって始まらないって、嫌な気持ちも不幸せな状況も、全部吹き飛ばして笑おうって、私たちに言ったのはだよ」
「女は度胸と根性だろ、!」
「そうだよ、何一人で自己嫌悪浸って泣いてるのさ。一緒に頑張ろう」
もう苦しまなくて良いよ、と全員に言われて、は余計に涙を流した。
アホだろお前ら!というと、はがしがしと腕で涙を拭いて「へへっ」と嬉しそうに笑った。
「・・・・ま、とりあえず、ありがと、みんな」
「なにあらたまってるのさ気持ち悪い」
「あっ、ひっでー!」
アランがつっこむと、はがーーっっと怒り出した。昔と何一つ変わらない反応に、全員がどっと笑い出した。
大きくなってもかわんないなというに対して、元子供たち(現大人たち)は「おあいこだよ」と言ってまた笑った。
「・・・とりあえず、酔いをさましてこい。明日が大変だぞ」
「げっ。ちょっと風に当たってくる」
話しにひと段落着いたところで、ジューダスがため息をつきながら忠告をしてきた。
やばっといって立ち上がると、アランが「まって」と声をかけた。
「俺も行こうか?」
「ん?・・・いや、いいよ」
どうやらついてくるらしいジューダスを見て、は苦笑いしながらアランの申し出を断った。


外に出ると、街にはところどころにある街灯しかもう明かりはついていなかった。空には満面の星。
明日は晴れだな〜などと呑気なことを言いながら歩くに、ジューダスはまたため息をついた。
「どうしてついてきたんだ・・・なんて聞いてもアレか、意味無いか」
「ほぉ、答えがわかったのか?珍しく」
「あのな。・・・あそこに一人じゃいずらいんだろ」
皮肉ったジューダスに嫌味っぽくが言い返すと、ジューダスは「フン・・・」と鼻であしらった。図星らしい。
ま、そりゃそうだよなぁーと言って歩いていたは、ふと立ち止まった。イレーヌの屋敷の前だ。
「・・・・なあ、俺ってもう、苦しまなくてもいいのかな」
「・・・さあな」
屋敷を見上げながらぽつりといったに、ジューダスは曖昧な返事を返した。
が、は気にしていないのか、ぼんやりとしながら「そうか」とだけ返した。
「だめだよなぁ、やっぱ。俺ってば色々としすぎて・・・」
一人ごとのようにいうと、はがしがしと頭を掻いた。
「イレーヌたちのことか?」
「全部だよ」
質問の答えをもらったジューダスだったが、のとびとびの言葉にわけがわからんと眉を潜めた。
よいしょ、といって道の端に座ると、は屋敷をまた見上げた。
「俺は全ての人を裏切ってここまで来た。イレーヌさんも・・・バルックさんも・・・」
「・・・どういうことだ」
ますますわけの分からないことを言うに、やっぱりジューダスは不機嫌そうな声で問い返した。
はジューダスの方を向くことも無くうつむくと、またぽろぽろと涙をおとしだした。
「イレーヌさん、待ってろって俺に言ったんだ。ダイクロフトで・・・待ってろって・・・」
イレーヌが落ちた時のことを思い出したのか、は片手で顔を覆い肩を振るわせた。
「イレーヌさん、待ってろって、戻ってくるって言ったのに。バルックさんも、また・・花見、やろうって、言ったのに・・・」


『ダメじゃないか・・・・。あそこにいれば・・・・安心だったのに・・・・・』

『悪い子。まってなさいって、言ったのに』


ふと頭をよぎったのは、二人が苦笑いしながら自分を最後に叱った言葉だった。二人の言葉の通り、ダイクロフトに残っていれば少なくとも最後の最後までは安全だっただろう。
だがは、二人のいいつけをやぶり、さらにスタンたちの味方についた。結果的にはイレーヌたちの意思をついだことにはなるが、やはり違うと、心の中ではいつも葛藤していた。なにより一番許せていないのは・・・・あのことだろう。
とうとう両手で顔を抑えてうつむいたを見て、ジューダスがため息をついた。
「言葉がばらばらだな」
「ばらばらにもなるわこんなの・・・・」
ジューダスのつっこみになげやりに答えたに、ジューダスはまたため息をついた。
の隣にストンと座ると、ぽんとの頭に手を置いた。
「泣きたいだけ泣いておけ。・・・それから酔いをさませ」
「・・・どうも」
声もださずにただ泣くの隣に、ジューダスはなにをするでもなく暇そうに座っていた。
数十秒ほど泣くと、は泣いていたのが嘘のようにけろりとしていた。
お前本当にさっきまで泣いていたのか・・?とジューダスが怪訝そうに問いかけると、は「あったぼー。何見てたんだよお前」と逆に問い返してきた。
「リオンは偉いよな。自分の守るものちゃんと守れて」
「・・・・僕は・・・・。僕は、偉くなんか無い」
あーあ、と後ろに手をついてふんぞり返りながら言うに、ジューダスはむすっとしながら返した。
そんなジューダスにお前口数少なすぎ、とがつっこむと、ジューダスは「お前が多すぎるんだ」とムッとしながら返した。
「偉いよあんたは。オリャ最後の最後まで大事なものを守れなかった。むしろ・・・・いや、ジューダスはすごいよ。ちゃんと、自分のやりたいことをやりとげた」
「裏切り者とののしられてもか」
の言葉を否定的に返すと、ジューダスは鋭い目つきでを見た。
呆れてため息をつくよりもそれを通り越してぷっと笑うと、は「アホだね」とジューダスに返した。
「確かにそんな風に言われると腹立つけどさ」
「いや、腹が立つとか言う問題じゃないだろ」
「俺はリオンのことを知ってるもん。裏切りなんて思えないし、例え誰かに間違ってるといわれても自分の道を突き通したリオンは凄いと俺は思う」
ジューダスの言葉を遮ってまで反抗期の子供のように言い返したに、今度はジューダスが「アホか」と言った。
呆れて話しにならんなとジューダスが言うと、は「ひどっ!」と声を上げた。
「本当のこといったんだから良いじゃないか。大体歴史がかわってもしミクトランが勝っていたら、リオンは今頃英雄だぜ?」
「そんな寒い歴史は、考えたくもないな」
「・・・確かに、寒いかも。リオン・・・じゃなかった、ジューダスって時々おいしいこというよなぁ」
「ときどきじゃなくいつもだ。お前が寒すぎるだけだろ」
「かー!ムカツクなー!」
ぱっぱっと服についた小石を払いながらジューダスが立ち上がると、も怒りながら同じように立ち上がった。
酔いもさめたし帰るかと言うジューダスは、どこかよそよそしかった。ただ、機嫌はいつもよりよかった。
酒場へつくと、ジントニックを中心に全員キャーキャーと騒いでいた。
すっげー・・・と呆れを通り越して感心しているの隣で、ジューダスがげんなりとした。
「あ、お帰り〜〜」
「ただいま〜〜じゃなくて、お前ら飲み過ぎ。そろっとお開きにしようぜ。もう日にち変わってんじゃん」
「「えええええええ〜〜〜」」
「駄々こねるんじゃない!」
モスコーミュールとジントニックが声をそろえて駄々をこねると、がズバッとつっこみを入れた。
それを全員で笑うと、「しょうがないからお開きにしようか」とマティーニが収拾をつけた。
「俺まだといたいっ」
「まぁたアランの駄々が始まったー」
「変わんないなこいつ」
口をとがらせてふてくされるアランに、そこにいた全員が呆れて苦笑いした。二人がいなくなった後随分と飲んでいたようだ。
しょうがないなというと、の腕をひっぱって立たせた。
「送ってってやるから、さっさと帰るぞ」
「えー」
「いいの?」
まだ駄々をこねるアランの顔をテーブルにがつんと押し付けると、キングスバレイがひょっこり顔をだした。
いいのいいのというと、はにやりと笑った。
「出来の悪い生徒でも、ちゃんと世話しないと怒られちゃうからね」
「あははははっ」
「なんだよそれーっ」
言ってまわりと笑い出したに、アランがさらにふてくされた。
いじけるアランをなんとかなだめると、は「よいしょ」と引っ張り挙げた。
「ごめんジューダス、こいつ片付けてくるわ。先寝てて」
「なんか死体でも埋めに行くような言い方だね」
手を挙げて申し訳なさそうにあやまったに、カルアミルクがつっこんだ。
「ああ。・・・気をつけろよアラン」
「アラン限定かよ!」
に返事をした後あらんにこっそり忠告をしたジューダスに、が突っ込みを入れた。
それを見て全員がげらげらと笑うと、とりあえず酒場を後にした。
ジューダスはその危ない団体を見送ると、ため息をついて宿屋の方へと入っていった。
〜〜〜。なんかちっちゃくない?」
「お前の背が伸びたんだ畜生ーー!!」
相変わらず外でもコントをするに、元子供たちはずっと笑いっぱなしだった。
「ところでさ、ジューダスって人、ずっと気になってたんだけど・・・・」
「あ、俺も気になった」
「ああ、あいつがどうかしたか?」
ミモザから始まり、ほとんど全員が気になる気になるといいだしたので、は首をかしげた。わざとらしい。
「なんか昔あったことがあるような・・・・」
「ていうかさ、。もしかしてあいつって・・・・・・・リオン?」
ずばり、と言ったアランに、がにやりと笑って「正解」というと、周りにいたミモザやプースカフェたちが「ええーー!!」と叫んだ。
「まさか・・・!」
「あー、だから会ったことあるなんて思ったんだ」
「お前ら、嫌だとか思わないのか?」
納得、と頷いている元子供たちにが問いかけると、全員が顔をしかめた。
「そりゃ思うさ」
「・・・・そうか」
さらりと答えたジントニックにがうつむきながら相槌を返すと、ジントニックは「変な風に思うなよ」と肩を竦めながら返してきた。
「なんで俺たちだってわかってるのに、あいつなんにも喋んないんだよ」
「ほんと、あったまきちゃうなぁ」
「キングスバレイ、お前、怒ってるかどうかわからない」
「でもさー。ちょっとくらい話したかったわよね。ちょっと、今度あったときは絶対になんか話せってリオンに言っておいてね。絶対よ!」
等々、言いたい放題いってはいるが、はその言葉を聞いて笑った。
「OK。伝えておくよ」
そうこうしてどんどんと進むにつれて一人、また一人といなくなり、とうとうはアランと二人きりになった。
「なあ、どうしていい男になったのに俺じゃだめなの?」
二人きりになったとたん、これだ。と、はため息をついた。
なんなんだよ、とぶーたれるアランに、は「お前たちなら教えても良いかもな」と言って苦笑いした。
「教える・・・?って、なにを?」
お茶らけているわりにどこか雰囲気の違うに気付いてか、アランがきょとんとしながら聞き返した。
「俺がお前に嫁にもらわれない理由。イレーヌさんのことも、リオンのことも、この18年間のことも全部教えるよ。だからそれ、他の全員にも伝えてほしいんだ」
「・・・・うん。わかった」
なにやら深刻な話しになりそうだと察知したのか、アランは真面目な顔になってこくりと頷いた。


が宿屋に戻ったのは、それから1時間半も立ってからだった。
「何をしてたんだ」
宿屋に入って階段を登ろうとした時、は急にジューダスに声をかけられた。
入浴はすませたらしいが、仮面はついたままだ。なんとも不思議な光景だ。
「ぅおぉう!ジューダス!起きてたのか」
「ガキが襲われてるから先生を止めてくれなんて呼ばれたときに、迅速に行動ができるようにな」
「逆で考えろよ!」
ふんと鼻先で笑いながら言ったジューダスにがつっこむと、ジューダスは「逆はありえないだろ」とさらりと返してきた。
た、確かに・・・とそこで納得するもどうかと思うが、とりあえずそこには二人だけしないなかったのでそれ以上突っ込みは入らなかった。
会話もなく二人して沈黙していると、どちらともなく「・・アホらし」といって自分の部屋に入っていった。



次の日、は相当な寝不足顔で・・・・とはいかず、むしろ睡眠時間が少なすぎて逆にすっきりとしたような顔をしていた。
さっさと朝食をすませた5人は、荷物をまとめると「さー、出発だ!」というカイルの掛け声と共に宿を後にした。
ーーーー!」
「よお、お前ら。おはよ」
船に乗ってすぐ、は下から声を掛けられた。よくよく見ると昨日より人数が増えている。
呑気にあくびをしながら言葉を返したを笑ったり呆れたりすると、元子供たちは「また来いよ!」と声をかけてきた。
「今度はゆっくりね」
「OK。今度は誰か、色のある話でもきかせろよ。一生独身しかいない生徒ばかりだったなんて俺嫌だぞ」
「いってろよバカ」
両手を腰につけ、呆れた顔をしたアランにつっこみ返されると、は船の手すりに腕と顎をのせながらにししと笑った。
「それに、ミモザはもう男いるもんな」
「「ぬわにーーー!!?」」
モナコーミュールの言葉を聞くと、とロニが過剰反応をした。ミモザがモナコーミュールに「いわないでよバカッ!」と言っていたが後の祭りだ。
何故にロニまで・・・とカイルとリアラが驚いてさらに引いている。
船の手すりから身を乗り出すほどに驚くと、二人は口々に「待て!誰だ!どいつだ!!」と叫びに叫んだ。
「ミモザ!今すぐ出せ!!そいつに合わせろ!!」
「ええ!?無理に決まってんじゃん!」
「アホばっか言ってないで、まともに旅しろよ!」
即答でミモザに断られると、今度はソルティドッグから笑いながら突っ込みを受けた。
おうよ、と腕をあげたに、今度はマティーニが声をかけた。
「おやつは300ガルドまでだからねー」
「そこかよ!」
「あーごめん、500ガルド分買っちゃった!」
「買ったのかよ!」
アランは律儀に二人につっこみを入れた。船ではロニが「その所為で泊まれなかったのかーー!」とをぐらぐら揺らしていた。
バカいえ!5人で650ガルドだ!と言い返しただったが、「ほとんどだろうが」とさらにつっこまれて行き場をなくした。
「アラン〜ツッコミが一定でつまんないぞ〜」
「逃げんな!」
どこまでもボケに走るにロニが懸命につっこみを入れていたが、もうそろそろ疲れてきたようだ。
上手く出した裏手も今は下がっている。がくりと手すりに腕をついたロニを、下からみんな同情の眼差しで見ていた。
「ジューダス!」
船が出る寸前、アランがジューダスを呼んだ。
呼ばれたジューダスが素直に顔を見せると、そこにいた全員がジューダスに向かってにっこりと笑っていてジューダスは面食らった。
を頼むぞ」
「・・・・ああ」
アランがはっきりというと、そうくると思っていなかったらしいジューダスは少し反応を遅らせて頷いた。
頷いたジューダスを見て満足気に笑うと、アランや他の元子供たち(しつこいなそれ)は手を振った。
「リ・・・ジューダス、今度来たらちゃんと話くらいしなさいよ!」
「二人とも元気でね!また会おうね!」
何故か自分まで手を振る対象に含まれていることにジューダスはさらに驚いていたが、元子供たち(だからしつこいって)は可笑しそうに笑って手を振るばかりだ。
「ばいばーい!・・・ほらジューダス、お前も返事!」
「・・・・ああ」
言われてからやっと、ジューダスは手を挙げるだけの挨拶をした。
どこかであった光景に、はくすくすと笑い、アランたちも同じように笑った。
「あ、アラン!約束、守れなくてごめんな!」
思い出したように、が急いで手すりから身を乗り出していった。
そんなをみて、アランは苦笑いするとすぐに言葉を返した。
「いいよ!」
「元気でな!」
「もちのろんで!」
の言葉に腕をぐっとだして答えると、アランは仲間たちと一緒にまた手を振った。
見えなくなるまで手を振ると、全員しんと静まり返った。
「・・・そうだ、みんなに教えなくちゃならないことがあるんだ」
「え?なに?」
「教えなくちゃならないこと?」
船の行った方向をぼんやり眺めながらアランが思い出したように言うと、全員なにごとだと首をかしげた。
とリオンとイレーヌさんのこと、とアランが言うと、全員すぐに興味を示し、とりあえず場所をかえようということになった。
昨日話された全てを思い出して、アランは胸が重くなったような気がした。だがすぐ、みんなも受け入れるだろう、と意を決したように頷き、深呼吸をした。
「・・・さみしいね」
誰がいったかはわからないが、その一言を聞いて、全員がもう一度船の行ってしまった方向を振り向いた。
絶対と言ってした約束は果たされなかったアランだったが、18年ぶりに合って今しがたまで見てきたの言葉や行動を思い出して、心だけは晴れていた。
「みんな、おちついて聞いて。はね」
今はもう活気のなくなってしまった港で、アランは別の場所へ移動しようとしていた昔からの仲間たちに声をかけた。
これから話す話はどれも暗いことばかりだというのにアランの声は自分でも分かるくらいに落ち着き・・・むしろ、明るかった。
この出会いは、きっと運命だと、後ろを振り向いた仲間たちの顔を見ながらアランは「出会えたこと」に少しだけ心を弾ませた。
毎日見せてくれたあの笑顔を、自分はきっと忘れない。
そう思うとアランは少しだけ泣きたくなった。







続く
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・・・なんていうか、終わり、どうした?(まずそこから入るのかよ)
何が起きたんでしょう。最近くらいのバッカ。
ていうかテスト勉強しようよ自分レポート未だに終わってねえし(待てコラ)
でも中途半端は嫌いなんだーーー!!
コレを書いたら勉強するさ!ああするさ!!テスト期間中って無駄に頭使うからネタ浮かんで来るんだよ!!
次からはギャグにとぶもーーーん。
ていうか坊ちゃんが微妙に変化してきていることに、誰か気付いてくれているでしょうか。
さーどんどん変化させるぞー(コラコラ)
あうっ!親が来た!!(とっとと帰れ)

・・・・・なんて時期に書いたものです。(勉強してろよ)
ではでは、ここまでお付き合いいただき感謝です!!ほんとつまんなくてすみません!!(とうとう謝りだしたかよ)