山小屋を出発したカイルたちは山を越え−−−といっても坑道を抜けたのだが−−−白雲の尾根を脱出した。
お昼ごろにはノイシュタットにつきそうだというジューダスの言葉に、ジューダス以外の4人が浮き足立っていた。はずだった。
「ノイシュタットか〜・・・・忘れてた・・・・」
次につくんだっけな、と頭の中で今までの情報からそれを再度確認し、はがくりと肩を落とした。
(泣かないように気をつけよう)
よし、と心の中で決意をしただが、後にそれを思い返し、そこまで追い詰められていたのか自分、と自己嫌悪に浸るのだった。








my way of living 44
〜不吉な番号だな〜。っていうかもうすぐ50話越えるってばよ〜








ジューダスの言ったとおり、一行は昼ごろにノイシュタットへとついた。
カイルとリアラは「うわぁ・・・!」と歓喜の声を出してあたりを物珍しそうに見回し、ロニはというとカイルたちよりは落ち着いていたが、それでも「ほ〜」と声をだして街を見回していた。
とジューダスは変わり果てたノイシュタットを見て、思わず顔をしかめた。嫌悪感を抱いたというよりは、複雑な心境になりすぎてどんな顔をしたらいいのかよくわからないといったところだ。
「・・・随分変わってしまったな」
「なんか・・実際見ると驚いちゃうね。悲しいっていうか明るくなって嬉しいっていうか・・・・」
どっちだろう。と言っただったが、一番思っていることは、おそらく二人とも同じ。ジューダスもも、一気に見知らぬ街へと変化してしまったノイシュタットを見て困惑しているのだろう。
街は当時より3分の一も小さく見えた。昔の名残の残るところもあるが、ほとんどがつぶれていたり整備されたりと変わってしまっていた。
「公園、なくなっちゃったんだ。桜好きだったのになぁ・・・」
残念そうに言うにつられて、ジューダスも公園のあった方向を見た。
自分たちにとっては何ヶ月か前の話し、公園でノイシュタットの子供たちとお昼を食べ、アイスをおごり、最後にレースをした記憶がある。
そういえば自分に喧嘩を売ってきた子供はなんと言っただろうか、と思い返し、ジューダスは頭を回転させた。
は渡さないとわけの分からないことを言っていたな。たしか名前は−−−−)
「ジューダス!昼飯くいっぱぐれるぞ!」
数メートル前からロニに声をかけられ、ジューダスはハッと我に返った。「わかった」とそっけなく返すと、ジューダスは飲食店に入っていこうとする仲間たちの後を追って歩き始めた。


「なんだありゃ?」
「なにか、あったのかな?」
昼食を取り、おなかも満たされたところで一行は元気よく港へと向かった。
向かったまではよかったのだが、船乗り場の方に数名の人だかりができていた。なにかあったらしい。
首をかしげたカイルが人だかりへと駆けて行ったので、全員で慌ててカイルの後を追いかけた。
「ねえ、なにかあったの?」
「船の修理が、まだ終わらないそうなんです」
真ん中に立っていた女性に問いかけると、そんな答えが返ってきた。周りにいる人たちも困ったような顔をしたり怒った顔をしたりで、話を聞かせていた船員はもうすっかり青ざめていた。見ているこちらがかわいそうに思えるくらいだ。
とりあえずその場から離れると、ロニが「どうするよカイル」と肩を竦めながらカイルに問いかけた。
「この調子じゃ、いつ船がでるかわかったもんじゃないぜ」
「だが、ハイデルベルグへは海路を使っていく他方法がない。ひたすら待つしかないだろう」
ジューダスが言うと、カイルが腕を組んでう〜ん・・・と唸った。
「ただまってるだけっていうのも退屈だし、どうしよっか」
と言ってカイルが全員を見回したときだった。カイルの後ろから、ヒゲを生やした商人風の男が現れた。
「すいません、よろしいですか?いずれも腕の立つ旅の武芸者とお見受けしますが・・・」
「あれれ、やっぱりそう見えちゃう?へへへ・・・いやぁ、まいったなぁ!英雄としてのカンロクみたいなものが、こう自然に出ちゃうって感じ?」
頭をかきながら照れくさそうにカイルが言うと、商人風の男は「英雄のカンロク・・・?おお、感じます、感じますとも!」とわざとらしくカイルをおだてた。
「いかにもといった勇ましい顔つきをしていらっしゃる!ところで、その英雄様方におりいってお願いがあるのですが・・・・聞いてはいただけけませんでしょうか?」
「OK、OK!なんでも言ってよ。英雄かいるさまが、ひょひょいっと片付けちゃうから!」
ぐっと腕を挙げて息巻くカイルに満足したように笑うと、「まあ、ここではなんですので、気が向きましたら私どものあばら家へ、お越しくださいませ」と人が良さそうに言い残し、さっさと街の中へ消えていった。
「市街地の、北の方にございます。いつでも、お好きな時に、いらしてください。・・・だーって。ぅうぅうネコなで声が気持ち悪い〜〜っ」
耳を押さえてうえっと吐くマネをがすると、ジューダスが「アホか」と言って顔をしかめた。
ああいうの嫌いなの?と聞いてくるリアラに「気持ち悪すぎる」とまだ顔をしかめながらが言うと、逆にリアラはくすくすと笑い出した。
「・・・おい、カイル。まさかさっきの話、受けるつもりじゃないだろうな?」
そんな3人の会話を気にもせず、ロニがおそるおそるといった感じでカイルに問いかけると、カイルはまだ気をよくしているのか、胸を張って「もちろん!」と返してきた。
「引き受けるさ!困ってる人を助けるのが、英雄ってモンだろ!さ、行こうぜ。困ってる人が、英雄を待ちわびてるんだからさ!」
ばっと腕をあげると、るんるんとスキップしだしそうなカイルをロニとリアラでなんとか食い止めながら歩き始めた。
目の前を行く3人の面白い行動を見て笑いながら、もさりげなく浮き足立っていた。
それを見たジューダスはまため息をつき、「スキップするなよ」と先に釘をさした。
しかし、もうすぐだ♪とつい今しがたまで嬉しそうにしていただったが、商人の家に近づくにつれてだんだんと表情を暗くしていった。
「・・・?どうした?」
「・・・・。気付かない?こっちって・・・」
の変化に気付いたジューダスが何事かと声をかけると、はジューダスの方を向いて自分たちの歩いていく方向を指差した。その方向と自分の中にある記憶を見据えて、ジューダスはああ、と納得した。
もしかしなくとも、この方向にある建物はイレーヌの屋敷のある方向だ。
まさか残っているとは・・・と言ったジューダスだったが、目の前に古い大きな屋敷が現れたため、否定する言葉は全て無駄となってしまった。
「・・・・残ってるよ」
「・・・・そうだな」
とりあえずカイルたちに何か言われる前に、二人は足を進めた。


「おお、お待ちしておりましたぞ!かならずきてくださるものと信じておりました!」
カイルたちが入ってくると、先ほどの商人がにっこりと笑いながら屋敷へと招き入れた。
どやどやとカイルたちが屋敷の置くへと入っていく中、は一人たちどまり、青い顔をして肩を抱いた。
(懐かしい・・・・)
それでも、身体の振るえは止まらなかった。ゾクゾクと寒気がし、は床にしゃがみこんだ。
「・・・大丈夫か?」
「ジューダス・・・」
肩を抱いてしゃがみこんだに、ジューダスが一緒になってしゃがみこんで声をかけてきた。
今までの彼からは予想もできないその行動に、は一瞬頭が真っ白になった。驚きのあまりとはいえ酷い扱いだ。
「ごめん・・俺、外で待ってる・・・」
『そのほうがいいね・・・・無理しちゃだめだよ』
普段喋ることをしないシャルティエにまで心配されて、は苦笑いしながらゆっくりと外へ出て行った。
外はまぶしいくらいの快晴だった。
外へ出て屋敷から離れると、はベンチに腰かけほっと息をついた。
久しぶりに中を見てみたい気もする。が、それ以上にあそこにいてはどうにかなりそうだった。
泣かないと街へ入る前に決めていた自分に、は心の中で拍手を送った。
先ほどの決意が、ありえないほど遠くに思えた。
少し離れたところから屋敷を見直して、は酷く複雑な心境になった。周りの風景の違いの所為か、それとも年季が入った所為か、そこは余計に懐かしい場所のように思えるし、別の場所にも見える。
相変わらず庭の桜はあるのだろうかと頭を動かしたところで、屋敷の中からカイルたちが出てきた。
ジューダスがすぐにこちらに気付き、なんだか怒ったような足取りでこちらにずんずんと歩いてきた。
近くへ来ると、やはり表情が強張っていた。
「よかったな。お前は入らなくて正解だ」
ジューダスに言われた意味が分からなかったが、後の彼の説明により、は何故ジューダスが怒っているのかがわかった。
カイルの引き受けた依頼というのが宝探しで、その宝というのがイレーヌの遺書にしか書かれていなかった話らしい。
全ての話を聞いたは一瞬むっとした表情になったが、それからすぐにケラケラと笑い始めた。
「なんだ、気持ち悪い」
「だ、だって、ジューダスがそこまで怒ってくれるんだもん。なんかこっちが拍子抜けしたっていうか・・・。ま、とにかくありがと」
「・・・なんで礼を言われなくちゃならないんだ」
笑いを堪えながら礼を言ったにジューダスが低い声で唸りギロリと睨んだが、イレーヌさんの代わり、と軽く流されてしまった。
けだるそうに「はぁ・・・・」とため息をつくと、ジューダスはカイルに標準を変え、嫌味を言い始めた。
「いいか?僕はこんなことはさっさと終わらせたいんだ。さっさと行くぞ」
「ププーッ!付き合いのいい男・・・」
「おいっ・・・」
「あははははっ」
折角のカイルへの嫌味も皮肉もあったものではない。によってぶち壊された。いつものことだ。
一緒になって笑うロニたちを一睨みすると、ジューダスはさっさと歩いていった。
「ジューダスどうしたの?」
その後ろからカイルとロニが「待てよー!」といいながらジューダスを追いかける中、同じように追いかけようとしたにリアラがこそこそと話しかけてきた。ジューダスが先ほどからぴりぴりしているわけが分からないらしい。
リアラに問いかけられたはリアラから視線をジューダスに戻すと、ぷっと笑ってリアラの耳元に口を持っていった。
「あいつ、すんごい照れ屋なんだ」
言って、笑いながらさっさと歩き出したに、リアラは「え?」と首をかしげた。話しのつじつまが合わないというか、途中経過の説明もなければ誰がわかるだろうか。
しかし、歩きながらしばらく考えていたリアラは、理解できたのかぽんと手をたたいて「ああ!」と叫んだ。
・・・リアラが本当の意味で理解できたかどうかは、本人しか分からない。



ノイシュタットを出てすぐのこと、はまた懐かしいような悲しいような、複雑な感情に襲われていた。
今自分たちが歩いている道から少しそれたところ。
初めてこの世界へ来て、初めてモンスターに会い、初めて人の死に出会い、そして
(・・・バルックさんに会った場所・・・)
ノイシュタットから出てきたから余計になのか、は胸からぐっとのぼって来る思いにどうにかなりそうになった。
目を放したいような放したくないような、微妙な感情の中でどうすることもできず、ただその場所を、歩きながら眺めていた。
「・・・おい?」
ジューダスに声をかけられたがは気付かず、息をするのを忘れるほどにそこだけを見ていた。
すぱん。という音と共に頭に走った軽い痛みにハッと我を取り戻し、はやっと前を見ることが出来た。
「首を悪くするつもりか?」
「あ・・・ごめん」
「は・・・?」
「・・・・ぅお?」
しかめっ面でつっこんできたジューダスにが謝った。
らしくないその反応に、ジューダスの方はしかめっ面から一気に眉をひそめて口を開けてのマヌケ面へと変化だ。
言った本人もなにをしたのか分かってなかったのか、逆にジューダスに「なにをした?」と聞き返すかのように声をだし首をかしげた。
しばらく二人して立ち止まり、固まると、・・・言うことが思い浮かばなかったのか、とりあえず二人とも歩き出した。
「・・・・」
『坊ちゃん、今なにを言えばいいんだって考えてません?』
「煩いっ」
急なシャルティエのつっこみに、ジューダスは思わず少し大きな声でつっこんでしまった。はっとして周りを見回してみると、カイルとロニとリアラの3人がこちらを見て不思議そうな顔をしており、ジューダスは冷や汗をかいた。
「ひど〜い坊ちゃん!俺の優しい心遣いを無駄にしようってーの?」
わざとらしく身体をしならせたを見て、カイルたちはなんだまたか、という顔になり前を向いて歩き始めた。
それを見てホッとジューダスが息をついていると、とシャルティエがくすくすと笑いだした。
「・・・なんだ」
ギロリと睨みを聞かせたジューダスだったが、結局二人を煽ることにしかならず、二人はますます笑い始めた。
「いやー?あんなに焦るリ・・・ジューダスなんて初めてみたなぁ〜と思って☆」
『久々でしたよ。坊ちゃんが冷や汗かくところ見るのなんて』
「やかましい」
同時に似たようなことを言ってきたとシャルティエをすぱんっと一刀両断すると、ジューダスはむっつりしながらスタスタと歩き始めた。
ごめんごめんと笑いながら謝ってきたにジューダスはまだムスッとした顔をしていたが、一応歩く早さは遅めた。シャルティエとまだ喋りたかったのだろうか。
ふぅ、とため息をつくと、ジューダスは前を向いたまま「どうしたんだ」とに問いかてきた。
「最近情緒不安定だぞ」
「ああ〜・・・そう?」
『そうとしか言いようがないよ。笑ってたかと思ったらいきなり泣きだしたり、悲しそうな顔したり真っ青になったり』
追い討ちをかけるようにシャルティエが言うと、は「そうなのかな〜?」と言って首をかしげた。
ちなみにジューダスが「泣いたのか・・・?」と問いかけたが、きれいに無視された。
『ま・・・・気持ちはわからなくもないけどね』
場所が場所だし、というシャルティエに、はあははと軽く笑った。
「なぁーんだ。わかってんならいいじゃん」
「お前が分かっていないんだ。・・・自分で理解しない限り、いつまでもそのままだぞ」
「そうやって、ジューダスはジューダスとして自分をわりきっちゃったのかな?」
頭の後ろに手を組んでが言うと、ジューダスが無言になった。
あ・・・というと、は組んでいた手を外して焦ったようにジューダスを見た。
「ごめん・・・・なんか、意地悪な言い方だったね」
両手を肩まで挙げて目を泳がせながら言ったに、ジューダスはまたため息をついた。
「別にいい。情緒不安定の単細胞バカになに言っても通じないことくらい、考えなかった僕がバカだった」
「お前ね・・・・」
ふん、と鼻であしらうと、ジューダスは呆れた顔をしたを置いて歩く速度を速めた。
「後は自分で考えるんだな。僕は一切手はださない」
「・・・なに、ジューダス。助けてくれるつもりだったの?」
ジューダスの言葉を聞いたが立ち止まって驚いたような声で言うと、ジューダスははたっとして一瞬立ち止まった。
「・・・・・・ぶっ!!」
「〜〜〜煩い、笑うな!」
「だ、だってーー!」
あーははははは可笑しすぎ!!と腹を抱えて笑うに、ジューダスは顔を赤くして睨むだけで何もいいかえせはしなかった。
いい加減にしろこの痴呆娘!とジューダスが怒鳴ったところで、ようやくは笑うのをやめた。
はー、と笑いすぎで息をついたを置いてけぼりにして、ジューダスはやはり早足で歩き出した。
それに気付くと、は急いでジューダスの隣へ走って追いついた。
「ありがと」
「礼を言われる筋合いはない」
「坊ちゃんは優しすぎるんだよ」
「だからっ・・・・」
目を合わせないようにしてに受け答えしていたジューダスだったが、そろそろ堪忍袋の緒が切れかけていた。
怒りに腕を震わせ、ぐっと拳を握ったジューダスだったが、その拳をお見舞いする前にが喋りだした。
「お前もまだ引きずってんだな。・・・ま、お互い下手に力まずにがんばろうや」
「・・・。・・・・フン」
腰に手を当てて歩きながらながらのんきに言ってのけたに、ジューダスは鼻であしらって返した。
その後「いつからお前は僕の心を読めるようになったんだ?」と嫌味を言い、カイルたちに追いつくまでぎゃーぎゃーと二人はじゃれあった。


「古い廃坑っていうとさ・・・やっぱり、おばけとかでるのかな?」
廃坑の入り口を前にして、カイルがごくりと喉をならしながらつぶやいた。それに過剰反応したのが、いわずとしれたロニだった。
「な、ななななななぁーにいってるんだよカイル君っ。そ、そんなものこの世にあるわけがないじゃないか〜〜!あ、あははははははは!」
急に大声を出してバカみたいに笑い出したロニを見て、ジューダスが怪訝そうな顔をした。リアラも少し引いている。
「いや〜わっかんねえよ〜〜〜ロニ。世の中には科学でも解析しきれない不思議なことが溢れてるんだから」
「そ、そんなわけあるか!そんなこと俺は信じないぞ!科学で解明できないようなものなんてこの世にはないんだー!」
「あ、そういえばおばけって、科学的にも証明できるものなんだってね。ビデオカメラ使った実験とか色々あるよね〜」
「う、うそだーーーー!!!」
「・・・遊ぶな」
思い切り露骨に怖がるロニを面白がって、が遊びだした。それを見かねてかそれともロニの煩さに嫌気が差したのか、ジューダスが止めに入った。カイルは慣れっこなのかリアラと楽しそうにお化け雑談をしている。(「友達になれるかな?」「え・・・それはどうだろう・・」)
とりあえず中に入ったカイルたちだったが、にひっついて歩くロニにを抜かす全員が呆れた。
「・・・・」
「ん?どうしたの?ジューダス・・・」
「なんでもない・・・先を急ごう・・・」
中に入ってすぐ、立ち止まって動こうとしないジューダスにカイルが声をかけた。が、すぐになんでもないと返され、カイルはとりあえずあたりを見回してみた。真っ暗で何も見えない。電気をつけようか、と、昔オベロン社で売り出していたレンズ起動式のライトをつけると、ロニがほっとため息をついた。
・・・が、ロニが安心したのもつかの間だった。
「・・・林の中からおばけがにょ〜ろにょろ♪」
「あぎゃぁぁあああああああっっ!!!」
「煩い。とりあえずその変な歌をやめろ単細胞」
がいきなり歌いだし、それに驚いたロニが大声で叫んだ。しかも、歌はしょうのないものだ。保育園児でも驚かない。むしろじゃんけんの準備をしだすだろう。
「え?知らない?日本語で遊ぼうとかでやってるよ?オバケの後から豆腐〜屋〜がプープー♪」
「知るか」
「やめれー!」
ロニの叫び声にカイルとリアラは耳を塞ぎ、はケラケラと笑っている。そんな中冷静につっこみを入れるジューダスはある意味凄いだろう。
むしろこれは慣れなのだろうか。・・・長年の彼の苦労がこんなところで見事に発揮された。
「人気のない廃坑って、ぶきみだよな。なにかでそうなきがする・・・」
ロニにつられてか、カイルやリアラまでもが眉をひそめながら肩を竦めてあたりをみまわした。
「いいかみんな、よーくきけよ、おばけとかでたら、まずは俺にいうんだ」
そんなカイルたちに、ロニが顔を近づけてひそひそと内緒話をするかのようにささやいた。
「え?ロニが、やっつけてくれるの?」
「いや、逃げる。一番最初ににげたいだけだ」
期待を目にリアラが問いかけたが、ロニは拍子抜けするような答えを真顔で言ってきた。その声も誰かの言葉をかりたとしたら・・・マジだ。
「安心してロニ!」
・・・!」
「オバケがでたら真っ先にロニを盾にして俺たちだけで逃げるから」
「ひぎゃーーーー!!!」
にやりと笑ったに、ロニはもはや言葉もだせずにいた。一瞬まぶしそうに目を細めてみていたものが、次の瞬間には涙目だ。
ジューダスまでもが、それに同意したかのように小さく笑った。ロニはこの事実を知らない。
それから中を探索している間、ロニはにくっつき、面白がったはロニといっしょに「おばけなんてないさ」を延々熱唱していた。
「おばけなんてな〜いさ♪」
「おばけなんて嘘だ・・・」
「寝っぼけった人が♪見間違〜えた〜のさ♪」
「そうだっ!そうに違いない!」
「黙れ」
「だけどちょっとだけどちょっとぼ〜くで〜も怖いな♪」
「怖がるな僕っ!前を見るんだ!」
「まずお前が前を見ろっ」
るんるんとスキップしながら歩くにしがみつくロニはしっかりと目をつぶっている。ジューダスが少しイライラしながらつっこんでいたが、ロニは相変わらずしがみつくばかりだ。
「面白いな〜ロニは。でるわけないじゃんオバケなんて」
「なっ、だっ、わ、わわわ分かってるってのそれくらい!」
「透〜明〜人間〜♪現る現る〜♪」
「っぎゃーーーっっ!」
「・・・・全っ然分かってないじゃん」
に遊ばれているロニに、いい加減カイルまでもが呆れたようにつっこみをいれてきた。リアラは懸命に笑いを堪えている。
それにしても歌が古すぎるのはどうだろうか。ジューダスはとりあえずため息をついてみたが、状況が変わることはなかった。
「ねえ、宝物ってなんだと思う?やっぱり、伝説の剣みたいなのかな?」
話を変えるためか、それとも天然か・・・・おそらく天然なのだろうが、カイルがにこにこと楽しそうに笑いながら全員に問いかけてきた。
「ソーディアンみたいなものか?そんなのつまんねえよ。もっとこう、誰も見たこと無いようなすんごいものがいいよ。たとえば・・・・美女とか、美女とか、美女とか・・・」
「それってロニのほしいものじゃない。だったら、私は英雄がいいな」
「ああっ!なんだよリアラ。英雄ならここにいるだろっ」
と暗い空気は何処へ行ったのやら、3人はがやがやと楽しそうに話し始めた。それを見たジューダスは呆れたようにため息をつくと、「まったく、お前たちの思考は理解できんな」と肩を竦めた。
「宝箱に人が入ってるわけがないだろう」
「やぁねジューダス、冗談に決まってるじゃない。ね、ロニ」
心底呆れた風なジューダスにリアラがくすくすと笑いながら返した。が、
「・・え?冗談なの?」
ロニの間の抜けた顔を見て、カイルとリアラがぷっと笑った。引かないだけ少し神経が図太くなった・・・という話は置いておいて、とりあえず、ロニはカイルとリアラに「なに言ってるんだよ」とバカにされた。
カイルやロニたちが宝探しを再会した頃、まだその話題について考えていたらしいが小さく口を開いた。
「・・・全部・・・・か・・・して・・・・・」
消えそうな声でがつぶやいたのを聞いて、ジューダスはふと後ろを振り返った。
思いつめたような顔をしたがいたが、ジューダスが首をかしげているのを見ると「なに?」と言ってにっこり笑った。
全部・・の後に何が続いたのか、それは聞き取れなかったが、とりあえずジューダスは聞かなかったことにしておいた。
オバケの話しから気がそれて元気が出たのか、ロニが「よーし」といって気合を入れた。
「お宝っていうからには、どっかにかくしてあるんだろうな。たとえば、秘密の隠し部屋とか。怪しいところは、片っ端から調べてみようぜ!」
「おーう!」
気合を入れたロニと一緒になって、カイルが楽しそうに手を挙げた。
その後すぐに「おば」となにやら言おうとしたの口を、ジューダスががばっと塞いだのをリアラは目撃した。
嬉々として怪しいところを片っ端から調べ初めて約数分。ロニの幸せは続かなかった。
リアラが叫び声をあげたのだ。
「きゃっ!いま、そこに人影が」
「どどどどどうしたリアラ!おおばけがでたのか?!なにがあったかいってくれ!ぎゃーー!やっぱりやめてくれーー!!おばけなんかいるはずがないっっ!いるはずがないんだ〜〜〜〜っっ」
はっと息を呑んだリアラよりも図体のでかいロニが、リアラよりもデカイ悲鳴をあげながらあたふたと騒ぎ始めた。
カイルとはそれをみて大爆笑中だ。見かねたジューダスが混乱が大きくなる前にと、少し大きめな声でロニとリアラに声をかけた。
「二人とも落ち着け!リアラ、お前が見たのは自分の影だ」
「・・・え?そ、そーだ!ジュ、ジューダスの言うとおりだ〜!ま、まったく人騒がせだナァ」
「あっ!ひっどーいロニ!私、おばけだなんていってないわ!」
一人言い逃れをしようとしていた一番騒いでいたロニに、リアラがぷくっと顔をふくらませながら怒った。
が、そこはカイルの「ロニはおばけが怖いから・・・許してあげて、リアラ」の一言で簡単に収まった。最年長の面目丸つぶれだ。
そんなことにも気がつかないのか、ロニはまたもびくびくと縮こまりながら歩き始めた。
「まったく・・・・しょうがないなぁ。みんな、こっちだよ。多分」
「え?、道を知ってるの?」
奥を指差してがスタスタ歩き始めたので、全員が驚いた。
とりあえず先へと進むについていきながらカイルが問いかけると、は「まあね」と曖昧に答えた。
「もう俺の庭みたいなもんよ」
「だったら最初から道教えろよ!」
「いやぁ〜ロニの慌てっぷりが面白くって☆」
あはっと笑いながら頭に手をやったに、ロニが後ろから思い切り「ぅをい!」と突っ込みを入れた。
それを軽く流されロニが沈んでいると、目の前に大きな機械が現れた。
「これ、なに?」
「これは『レンズ起動型エンジン』といって、レンズからエネルギーを引き出して動力に変える機械だ。これをさどうさせれば、行動無いの設備を再び動かすことが出来る」
「っ、だよ。って俺が言おうとしてたんだ」
ここまで一行を誘導したが話す前にジューダスが説明をいれた。ところどころ説明をしようとするにも構わずだ。
何故かばちばちと火花を散らし始めた二人に、作動させるにはどうすればいいの?とリアラが問いかけると、がジューダスが機械を構っているうちに「それはね」と説明をし始めた。
「そのタンクにレンズを入れればいいんだよ。数は200」
「200って・・・レンズ200枚!?そんなに必要なのかよ!?」
ぴっと指を2本挙げながら言うのあまりにも多いその数を聞いてロニが大声をあげたが、その横からジューダスが「文句を言っても仕方がないだろう」と不機嫌そうに返してきた。
「大丈夫。ここはレンズを掘るためにあったようなところだから。そこらじゅうにころがってるよ。トロッコの中でも覗けば一気に30個くらい手に入るんじゃないかな?」
「マジかよ・・・・」
「とにかくレンズを探すぞ」
とりあえず持っていたレンズ100枚を入れると、一行は廃坑の奥へと進んでいった。
「・・・なあ、カイル、不思議だと思わないか?なんでや・・・特にジューダスは、ここの設備についてこんなにも詳しいんだ?やっぱりあいつ・・・隠し事してるような気がするんだよな・・・」
「え?なんで?今までずっと一緒にいたけど、全然いいやつじゃん」
「・・・そうだな。ここまできて、あーだこーだいっててもしょうがねーよな」
なんて会話を後ろの方でこそこそとしているとは露とも知らず、ジューダスはとトロッコの中をあさっていた。
「なんで僕がこんなことを・・・・」
「まあまあがんばろうやジューダス。可愛い甥っ子のためにね〜v」
「煩い・・・」
「今に始まったことじゃないだろ☆」
「今すぐにでも終わらせてやろうか?」
「いやんジューダス怖ぁい!」
「・・・・」
「だっから無言で吐く真似すんなつの!」
ずばしっとの裏手が決まったところで、リアラが笑い始めた。
俺だって気持ち悪いんだ!と主張するだったが、ジューダスはうえ・・と効果音がでそうなほどの「吐きそうな顔」をひたすら作っていた。
「・・・あんなの見て、怪しいと思う方がおかしいのかもしれないな」
「あんなのを見るからこそますます怪しいとか思わないんだ?」
しみじみ言ったロニに、カイルが珍しく頭を使った返事を返した。


その後、もう100個レンズを集めた一行はさっさとエンジンを起動させ、廃坑の設備を復活させた。
設備の復活した廃坑は外よりも明るく電気で照らされ、ロニもオバケに怯えることはなくなった。
チッと舌打ちをしたはとっとと爆弾を作ると、崩れた瓦礫によって進めなかった階段を開通させ、さらにその奥にあったヒビの入った壁すらも爆発させた。カイルたちだけならば何時間かかっただろうか。
「この先に宝が・・・・」
開けた壁の向こうにあった通路を見て、カイルが目をきらきら輝かせ胸を弾ませながら言った。
それを見たがジューダスに「よかったね。孫におもちゃあげる気分?」といってぶん殴られていたが、特に気がつきもせずカイルやリアラやロニは中へと進んでいった。
中へと進むと、暗い洞窟の中にぽつんと赤い宝箱が置いてあった。置いてあるというよりは、運び忘れて落ちていたといった方がいいくらい、それはぽつんと一つ存在していた。
宝箱を見たカイルは、その宝箱の小ささになんとなく期待を裏切られたような残念そうな顔をしながら手をのばした。
「これが・・・宝なの?いったい、なんなんだろ?」
「この鉱山だけで採掘できる、特殊な鉱山だ。状態を安定させるため、それに入ってる」
ぱかっと箱を開けた中には、ジューダスのいったとおり何の変哲もない石ころが入っているだけだった。
「特殊な鉱石?それじゃ、ただの石っころなの?」
「・・・・お前たち、ベルクランとは知っているな」
暗い中、うつむいて話しだしたジューダスの声を最後に、の意識は別のところへと飛んでいた。
次になにやら言っているロニの声も聞こえなくなっている。
数ヶ月間、スタンたちと旅をしてきた所為でところどころこの旅の記憶が曖昧になっていたが、ここから先のことをは今ここではっきりと思い出していた。
行ってはいけない。
泣いてしまう。
泣いてしまう。
意識的に思っていても、身体はもうそちらの方へと行きたがっているかのようだった。呼吸をするのが苦しい。頭がくらくらする。足が浮いているような感覚に陥る。
身体がふらついて、気を抜けば地面にくずれてしまいそうだ。カイルたちがいる以上、そんなことをしてはいけない。
「・・・・ねえ、あっち、明るくない?」
の丁度背中に当たる方、洞窟の奥で唯一光っているそこを、リアラがふと指さした。
それを聞いたはびくりと肩を揺らす。
「確かに・・・まだなにかあるのか?」
ロニの不思議そうな声と共に、全員が動き出す音がした。
は地面のごつごつとした岩を見ることしか出来ず、まだ頭を朦朧とさせていた。
「おい」
「っ!?」
全員が歩き出しても下を向いて動こうとしないに気付いて、ジューダスが声をかけた。
声をかけられ全身で動揺するを見て、ジューダスはなにごとかと首をかしげたが、「なんでもない」と手で制され大人しくカイルたちの元へと向かった。
明るいところへ出て分かったが、なんでもないといえるほどの顔色はよろしくはなかった。なんなんだとやはり首をかしげたジューダスだったが、奥にある石碑に気付くと、岩肌から差し込む陽気と地面に咲く花に気を取られているカイルたちの間をすり抜けてそこへと向かった。
「これは・・・!・・・・・・・ふふふっ、はははは!」
石碑に近づいて急に笑い出したジューダスに驚いて、リアラが「ジューダス?」と声を上げた。
だがその声も聞こえていないのか、ジューダスは頭をふりながら「・・・・何て皮肉な」と言って石碑に触れた。
「こんなものがあるとはな・・・・」
「いったいなんだってんだよ?どれどれ・・・」
後ろからやってきたロニやカイルたちと入れ替わるように、ジューダスが後ろへさがった。
もいつの間にやらジューダスの隣に並んで石碑を見ていた。
ロニが石碑の一番上にある文字の列を指でなぞりながらそれを読み上げる。
「このこうざんにあるこうせきをつかえば、レンズのちからをおおいにたかめることができるようになります・・・・」
はゆっくり顔をあげた。やはり、これはあの人の書いたものだと、言葉に出さずとも表情に表れていた。
『そうすれば、生産力は増大し、すべての人々が、豊かな暮らしをおくれるようになるでしょう。鉱石は、ノイシュタットの貧富の差をなくせる、奇跡の石となるのです。この奇跡の石は、光との化学反応によってのみ、作られるもののようです。偶然光が差し込むよう岩がつらなっていて、偶然、この場所に石があった・・・・これはきっと、神様からの贈り物なのでしょう。ですから、この場所をこわさぬよう、大切に守っていってください。この場所を守ることは、そのまま、ノイシュタットの人たちを守ることになるのですから。これを読む、未来の誰かへ。オベロン社、ノイシュタット支部長、イレーヌ=レンブラントより』
それを石碑に刻んでいる時のイレーヌの顔が、目の前に浮かぶようだった。
は聞いている途中で耐え切れず、後ろを向いてそこから少し離れた。
まるでイレーヌがいるかのような懐かしいその文字列は、確かにあのころの彼女が書いたもので、にとっては余計に泣ける要素になってしまった。悲しいのではなく、暖かいとだけ感じられる文章だった。
口を押さえて懸命に嗚咽を抑えていたをジューダスがちらりと覗き込んだ。
ぼろぼろとおちる涙までは堪えられなかったらしく、の顔は涙ですっかりぬれてしまっていた。
「なるほどねぇ・・・確かに鉱石は、兵器だけじゃない、工場や船にも使えるもんな俺たちはそのことに頭が回らなかった。これじゃ、兵器を作った奴と同じだな」
「オベロン社も同じさ。そして・・・・イレーヌもな・・・。彼女たちは道をあやまった。理想の実現を急ぐあまり、即効性を求めて劇薬を選んだんだ」
まるで昔を後悔するかのようなジューダスの口調には誰も気付かず、静かな空気だけがそこにながれた。
そして、ジューダスの隣で背を向けているに気がつきはしたが、全員何が起きたのかまでは想像してはいなかったようだ。
「神の眼の騒乱の話しか。そうだな・・・こんな風に考えられる人が・・・いったいなんで・・・」
「けれど・・・イレーヌさんの思いは嘘じゃなかったと思う。ノイシュタットに住む人たちのことを考えて、鉱石を掘っていた。そして、この場所があらされ、鉱石がなくならないようメッセージを残していった。だから、ここはこんなにキレイなのよ。まるで・・・宝物みたいに」
周りに咲いている花やさりげなく流れる小川を見回していったリアラに、ロニが「宝物・・・・か」と同じく周りを見回しながらつぶやいた。
「案外、こっちが本物の宝かもしれないな」
「そうだね!きっとそうだよ!」
うんうんと満面の笑みを浮かべてカイルが頷いていると、ジューダスがふんと鼻で笑った。
「本当の、宝・・・。・・・安っぽい台詞だな」
「へっ!うーるせぇよ・・・」
「だが、安っぽいものもたまにはいい」
「ジューダス・・・」
そっぽを向きながら言ったジューダスに、リアラが微笑んだ。が、その横から、トラブルメーカーが思い切り空気をぶち壊した。
「たまにならいいけど、ちょっとくさいぞジューダス」
「煩い。泣いている奴に言われたくない」
「言うなバカっ!」
「ええ!?泣いてるの!?」
口を押さえていた手を放してジューダスに食ってかかっただったが、逆に「誤魔化してやったんだ」というような目で見られ、言い返せなくなった。その上カイルたちまでもが驚いたりはやしたてたりと大騒ぎだ。
「ど、どうしたんだよ。お前、案外泣き虫だな〜」
「違う!」
一生懸命涙をふき取りながら、笑っているロニに言い返しただったが、結局「イレーヌの言葉に感動して泣いた」ことにされてしまった。
「さて、本当の宝も見られたことだし、街に戻るとしますか」
「うん!」
「お前たちは先にいってろ。後から行く」
元気よく帰ろうと言った矢先にジューダスにそう言われ、カイルは「あらら」と転びかけた。リアクションがいいのは誰に似たのだろうか。
こいつをなんとかしてくと言ったジューダスに納得すると、3人は「気をつけてね」やら「手ぇだすなよ」やら好き勝手言いながらその場を出て行った。
「・・・・さあ、好きなだけ泣け」
「ンな風に言われて泣けるかよバカ」
カイルたちがいなくなったのを確認したジューダスは振り向きながらに言った。
そこですかさずがつっこむと、「折角人が・・・」とぶつくさいいながらジューダスが歩いてきた。
「・・・なんだよ」
「バカ面してないで、とっととイレーヌの石碑に行ってこい」
「すぐそこじゃんよ」
「こうでも言わなきゃそのすぐそこにさえも行こうとしないだろう」
ふてくされているを言いくるめると、ジューダスは勝ち誇ったようにふんと鼻であしらった。
きぃーーーっっと怒るだけ怒ると、はゆっくりイレーヌの石碑の方を向いた。3歩ほど歩けばもう石碑だ。
1歩。
2歩。
「・・・。イレーヌさん」
文章を読み返して、止まっていた涙がまた溢れてきた。最近泣きすぎだなと思い返して、来る途中で情緒不安定だといわれたことを思い出す。
全く持ってその通りだと思い返しながら、は石碑を指でなぞった。
彼女らしい文章に自然と笑みがこぼれる。

『これを読む、未来の誰かへ』

「イレーヌさん・・・石碑、読んだよ」
石碑を全部抱え込むように、はぺたんと顔をつけて抱きついた。本来ならば冷たいであろう岩は、隙間から入る光によってとても暖かかった。
まるでイレーヌに抱かれているようだ・・何てくさいことは思わなかったにしろ、はそこにいるイレーヌの存在に心が温かくなった。
岩から離れると同時に、酷い罪悪感が襲ってきた。
何度も何度も足りないくらいに、岩に向かって謝りたい衝動に駆られた。
「・・・終わったんなら、行くぞ」
「・・・ああ。ごめ・・・ありがとう」
ぽんぽん謝ってしまいそうになる自分をなんとか抑えると、はジューダスにぎこちなく笑った。ちらりと石碑を見ると、後ろ髪を引かれるような想いでその場を後にした。


「よう。もう用は済んだのか?」
鉱山を出てすぐ、とジューダスはロニに声をかけられた。びっくりして立ち止まった二人の前には、にっこり笑ったカイルとリアラもいた。
どうやら待っていてくれたらしい3人に礼を言うと、は「さっさと依頼を終わらせよう!」と元気に声をかけ、ノイシュタットへと出発した。
「イレーヌさんか・・・口先だけじゃなくて、心からノイシュタットの民を救いたいって思いが伝わってきた・・・・きっと美しい心の持ち主なんだろうな・・・俺感動しちまったよ・・・・・。ん?なんだよみんな、驚いたような顔して。俺になんかついてるか?」
胸に手を置いてしみじみと語ったロニに、全員が全員驚いたような顔をしていた。ただ一人、この後に何が起こるかを思い出して笑い出すものもいたが。
「いや、女性の外見ではなく内面をみるという概念が、お前にあるのを知って驚いているだけだ」
カイルたちを代表して、ジューダスがロニの質問に的確に答えた。それを聞いたロニはなっ!と言って身体を引き、その後一歩前進して自分の趣味について力説しだした。
「ったーく失礼なやつだな!こう見えても俺は、美しいものに弱いんだぞ!?」
「美女とか」
「美女とか」
「美女とか」
「美女とかにな」
「なぁんだよみんな・・・!あーそーだよ!そのとーりだよ!イレーヌさんて美人だろうな〜とか考えたよ!ケッ!悪かったな畜生!」
美女とか、と連発されたロニはふてくされ、いじけて先に歩いて行ってしまった。
そんなロニの後をカイルとリアラが追いかけ、とジューダスは後ろから笑っていた。ジューダスはもちろん含み笑いだ。
なんだかなんだと騒いでいるうちに一行はノイシュタットへと着き、拾ってきた石・・・しかもそこら辺に落ちていたのもだから鉱石かどうかは定かではないモノ−−−が「やろうぜ」とニヤリと笑いながら仕組んだ−−−を持ち、さっさと依頼人の商人の屋敷へと向かった。
「オベロン社跡地のこの屋敷を買い取ったら、金庫に遺言状が入っておって。それにしてもあのバカども、ちょっとおたてたら飛んで行きよった。奴らが途中で野たれ死んだところで、こっちの被害は1ガルドもない。我ながら、上手くやったものだ」
「相変わらず商売上手でいらっしゃる。あやかりたいものですなぁ。ホーッホッホッホッ!」
とは屋敷の中からの声だ。商人たちが話しているというのは丸分かりだ。
下品な笑い声を聞いてロニが顔をしかめ、憎憎しそうにチッ!と舌打ちした。
「あいつら勝手なこと言いやがって」
「気にするな。こっちは約束どおり宝を手に入れてきたんだ。さっさと報酬をもらいに行くぞ」
「そうそうさっさと終わらせちゃおう。早いうちにネタをばらしちゃうような詐欺の初心者どもには、食らわせる皿どころか毒すらないってね」
・・・・何気に毒舌ね」
「昔どっかのだれかにも言われたヨ☆」
嫌味を言ったジューダスに続き、はっ、と嘲笑ったにリアラがつっこむと、は笑いながらぐっと親指を突き出した。
ジューダスが「バカはほっといていくぞ」とそこで話を流すと、怒るを放って全員屋敷へと入った。
「おお、お待ちしておりましたぞ!怪我などされていないかと、そればかりが心配で・・・・」
「ケッ、ウソこけ!」
にっこりと人の良さそうな顔で熱烈歓迎をしてくれた商人だったが、腹のうちがバレていてはその顔も意味がない。
小さく毒づいたロニの横でがくすくす笑っていると、ジューダスが剣の先で小突いてきた。
「ところで、お約束の品は、持ち帰っていただけましたかな?」
「ああ、もちろんさ。ほら、コレ!」
にっこりと可愛い笑顔でカイルが渡したものは、石。
商人は思わず顔を引きつらせ、両手で石を持ったまま固まってしまった。
「・・・これが、本当に宝なのですか?」
かろうじて作った笑顔で問いかけたが、全員がしらけた顔をし、ロニが肩を竦ませながら「これしかそれらしいものは無かったぜ?」と答えた。
「・・・あの、これはいったい、なんなんでしょうか?」
「知らない!」
またも元気よくカイルに返され、商人はさらに顔を引きつらせた。
「俺たちはただ宝をもってこいと言われただけなんでねぇ」
「・・・ふっ」
ワザとらしく、さらに白い歯を輝かせながらにっこりと笑って言い返したロニの言葉を聞いて、ジューダスが思わず噴出した。
一番笑わなそうなジューダスが崩れた所為か、リアラやカイル、までもがくすくすと笑い始めた。
「そ、それはそうですが・・・」
追い詰められた商人は隣に立っている男をすがるように見た、隣に立っている男もなす術が無いのか目があった瞬間情けない顔をして目を泳がせた。
「さ、約束のものはもってきたんだ。報酬をいただきたいんだが?」
「・・・し、しかし、なんなのか分からないものなら、宝とは呼べないのではないかと・・・・」
「・・・・この期におよんで、まだ何かもってこいというのか?」
どすを効かせることを通り越して、冷たい声で不機嫌そうに言った目の据わったジューダスを見ると、商人は「ひっ!」と息を呑んだ。
「な、なんでもありません!どどどど、どうぞお受け取りを!」
「やったぁ!」
「んじゃ、そういうことで」
すちゃっと額の辺りで手を振ると、ロニは報酬をもらったカイルをつれてさっさと屋敷を出て行った。
その後に続いて、、ジューダス、リアラと屋敷を出て行き、全員がいなくなった後からは商人の情けない泣き声が聞こえてきた。
「あはははっ!ね、あの顔みた!?」
「金を渡す時だろ〜?苦虫噛み潰したような顔してたな」
腹を抱えて大爆笑するカイルに続いてロニが商人の顔の真似をしさらに笑いを煽っていると、リアラが「ねぇ、ジューダス」とジューダスに声をかけた。
「これで、よかったのよね?」
「お前たちにしては上出来だ」
「本当、ジューダスにしては上出来な褒め言葉だ」
「やかましい」
がふざけてジューダスと同じような口調で言うと、ジューダスは顔を赤くして肘鉄を食らわせた。
「さて、これで暇もつぶせたことだし、船着場に行ってみるか?」
「うん、そうだね!」
苦むの横でさっさと話を終わらせたカイルたちだったが、歩き出して数歩目に「ちぃょっとむわったー!」と後ろから止められた。
「そんなら先に装備品買いに行こうよ。どーせ船のるチケットならあるんだし」
「そうだね。今のうちにそろえておかなきゃ」
じゃ、いこう!と、の助言?を受けたカイルがまた嬉々として歩き出した。
ただこの後、防具屋や武器屋へ行った一行が、装備品の値段の高さを見て頭をひねらせたのはまた別の話し。


買い物を済ませてここはノイシュタット港。装備品も新たに財布はからっぽ。気分は爽快なカイルたち(一部抜かす)は修理をしていた船へと向かった。
・・が。
「ええ!?まだ修理が終わってない?!」
「はい、そうなんです。修理に必要な材料がまだ届いてなくて。本当に、申しわけありません」
と、何度も頭を下げられてはさすがのカイルたちも無理には怒れず、仕方なくすごすごと港を後にした。
「これからどうする?」
「とりあえず宿を探すしかねぇだろ・・・」
「お金、ないのに?」
「「あっ」」
「バカどもが・・・・」
とぼとぼと歩きながら宿を探そうかと話していたロニたちは、リアラの言葉に思わずマヌケな声を上げた。
ジューダスに呆れたように突っ込みを入れられると、ロニもカイルも「なんだよ!」と声をあげた。
「装備品買ってるときジューダス何も言わなかっただろ!」
「そーだ!ジューダスも同罪だ!」
「わけのわからない罪をきせるな!」
「あはははははっ」
「笑うな痴呆娘!」
その後ロニとカイルとぎゃーぎゃーじゃれあい始めたジューダスたちを眺め、は笑いリアラはどうしようかとおろおろした。
「ジューダス、本当に怒ったようにカイルたちとじゃれて・・・・」
「あれは本当にじゃれてるんだよ、リアラ」
そっ・・・と手を頬に添えて言うリアラに、ひらひらと手をふりながらがつっこんだ。
いい加減止めに入らなければならないだろう、とリアラがあまりにも心配するので、は「しょうがないなぁ」と言ってため息をついた。
「今日は野宿で過ごすしか仕方がないだろう。どこかのバカが後のことも考えずに物を買うから・・・」
「なんだよ!じゃあ止めなかったジューダスは悪くないのかよっ」
「俺は野宿なんて絶対嫌だからな!」
「はーいシャラーップ」
少し本気が入ってきた3人の間にが割ってはいると、3人ははたっとしてとりあえず喧嘩をやめた。
「宿代のことなら俺にまかせとけって。なんのためにコレがあるんだよ?」
「こ、これって・・・・・」
これ、といってが持ち上げたのは、愛用(期間数日)のギター。まさか・・・・と言うロニとジューダスの予感は、見事的中した。
「コレで稼ぐっつったら歌しかないだろ」
「絶対無理だ」
「だとゴラっ」
即答で無理だと言ったジューダスには、もれなくギターが頭にプレゼントされた。ここで骨が見事に活躍だ。
コホンと咳を一つすると、は「まあまかせとけって」と軽く言ってのけた。
「某有名吟遊詩人、ジョニーさまの一番弟子のこのさまが、見事5人分の宿代を稼いでみせる!」
「その師匠というのが一番問題なんだ」
「ばーかいうでねぇだ!って、まあ見てろって。ここじゃなんだから、人の集まる中央へ移動しようぜ」
自信満々でウィンクまでするに、不安が隠せない、と4人は表情に出しにだしていた。
本当に大丈夫なのか?と何度もロニやカイルに問いかけられたが、は「余裕余裕」と返すだけで止める気はないようだ。
「まったく、女に金稼がせるなんて甲斐性ないやつらだよなぁ。リアラ、こういう男にひっかかっちゃいけないぞ」
「え?う、うん・・・」
「なんだよそれ!」
「そうだ!俺は決して甲斐性なしじゃないぞー!」
押されて頷くリアラの後ろから、ぞくぞくと甲斐性なしと呼ばれた男どもが意義をとなえた。一名例外もいるが。
そのまま後ろ向きで歩きロニとカイルに喧嘩を売り始めたは目の前に迫る人物には露とも気付きはしなかった。
「や〜い甲斐性なし甲斐性な−−−−っうわ!」
「ぉわっ!」
どんっ、という大きい音と共に、が膝をついて前のめりに倒れた。ぶつかった相手も倒れてしまったようだ。ギターが当たったのなら相当痛そうだ。
いててて・・・と膝をさすると、は仲間たちに呆れられながらも急いで振り向き相手に謝った。
「ごめんなさい!大丈夫ですかっ!」
「ああ、はい、なんとか・・・って、え?」
え?と相手に言われて、も思わずえ?と返した。顔を上げて相手を見てみたが、見覚えのない20代くらいの青年だ。
「その指輪・・・」
「指輪?」
青年は指を凝視したあと、視線を顔へと移した。
「ああああーーーーーー!!!!!!」
「へ?ええ??」
指をさして大声をあげる青年に、はただただ首をかしげた。








続く
−−−−−−−−−−−−−−−
なんていうか・・・・先丸見え〜〜〜。
どうしようもないですねぇ。まったくオチをつけれないからって・・・・(待て)
さーてもうぎりぎり限界だぞ〜。学校のレポート片付けなきゃ☆(先にやれよ)
笛!の原稿やらなくちゃ☆(もうすぐ締め切りだぞ)
・・・・はぁ。なんか、自由に文が書ける時間がほしいです。受験生逆万歳☆(帰れ)
ていうか今回もなんだかせんちめんたるアイ☆エヌ☆ジー☆でしたねぇ〜〜。もう主人公泣きまくり。あったりまえか〜。泣くだけ泣け!(待て)
つか・・勝手に商人のいる屋敷イレーヌさんの屋敷とかほざいちゃったけど、いいのかな?アレってオベロン社の支社・・・まいっか(オイ)
ではでは!ここまでお付き合いいただいた方、ありがとうございました〜。