朝食を済ませると、カイルたち一行はリーネを後にした。
「リーネのむら。いいところだったなぁ・・・・。骨休めができたし。リリスさんの料理もおいしかったし」
「うんうん。予想以上に・・・あ、いやいや。すっげー美味かった〜・・・・」
ほのぼの遠い目をしながら言ったロニに、が同じようにほのぼのしながら頷いた。
そんな二人の目の前ではカイルとリアラが仲むつまじく歩いている。
「あのシチューのことか?田舎風の味付けで、洗礼されていなかったが」
「なぁんだよジューダス。おまえ全部たいらげた上に、おかわりまでしてたじゃないか」
「う、うるさい!誰もうまくなかったとはいってないだろ!」
「きゃははははは!坊ちゃんかぁ〜わいい〜〜〜〜☆」
「・・・・っ」
ロニのつっこみに辛くも言い訳をしたジューダスだったが、にさらに追い込まれた。
その後、真っ赤になったジューダスが剣を引き抜いてを追いかけた。朝から元気なことだ。
my way of living 43
〜青春〜はね♪心の〜痣♪〜
「ふぅ・・・・」
リーネから出て数十分。ロニがため息をついた。
いつもなら迷惑なくらいにカイルとじゃれつきギャーギャー煩く喚いているロニがだ。不思議に思ったのか、ジューダスがちらりと顔を覗きながらロニに問いかけた。
「どうした?めずらしく静かじゃないか。拾い食いでもしてあたったのか?」
「ふん。ほっとけ。俺だってなァ・・・色々あるんだよ・・・」
というと、切なそうな顔をしたままふぅ、とまたため息をついた。珍しくシリアスなロニの雰囲気に、ジューダスが「ほお」と声を上げた。
「お前も悩むような頭をもっていたんだな。そんな風には見えないが」
「だめよジューダス!ロニッたらナンパに失敗したの。優しくしてあげて?」
「そうよジューダス、優しくしてあげてv」
ひそひそと小声で話しかけてきたリアラの声を聞くと、ジューダスが呆れたようにため息をついた。
ちなみには会話が始まったところから口を押さえて含み笑いでの大爆笑だ。
「何かと思えばそんなことか・・・くだらんな」
ふん、と鼻であしらったジューダスに、カイルがぐっと手を握り「ロニにとっては死活問題なんだよ!」と叫んだ。が、目は笑っている。
「生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ!」
「ってお前らうるさいぞー!見てろよ〜〜〜〜ノイシュタットで敗者復活戦だ!!まってろよぉ!ノイシュタットーーー!!」
全員につっこみをいれたところで、ロニは一人両手を挙げてうおーーーーー!!!と叫び始めた。
は腹をかかえて大爆笑し、ジューダスに至っては他人の振りをしてさっさと移動中だ。
「な、なんだ!いきなり霧が・・・・」
楽しい空気が一転、いきなり現れた濃い霧にまっさきに気がついたカイルが驚いてキョロキョロと周りを見回した。リアラもいきなり現れた深い霧に、少し怖気づいている。
「どうやら白雲の尾根にはいったようだな」
「はくうんの、おね・・・?」
周りを見回してぽつりと言ったジューダスの言葉を、リアラが首をかしげながら繰り返した。
「このあたりはな、18年前にベルクラントに攻撃を受けて、地形がかわっちまったんだ。地形が変われば気候も変わる。それが、この一年中消えない濃い霧だ」
ぴっと人差し指をあげてぺらぺらと説明しだしたロニに驚いてか、それとも容姿や性格に似合わない博識な面のロニに驚いてか、とカイルとリアラがへぇ〜と声を上げた。
まず間違いなくは後者だろう。
とりあえず、そんな裏事情はおいておくとして、ロニの言葉を聞いてリアラが「すっごーい!」と声をあげた。
「すっごーいロニ!物知りなのね!」
「ホント、俺なら20へぇーあげちゃう」
「ん?ああ、神団で働いている時に図書館に美人の史書がいてな。おちかずきになるために必死こいて勉強したんだが・・・・まさかこんなところで役に立つとはな〜」
あっはっはっ。とロニが笑いながら話すと、辺りにはしらけた空気が流れた。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・カイル、ノイシュタットへは南東の方角に進むんだ」
「わかった」
「っておい!なんだよお前らその顔は!」
無表情で会話をしたジューダスとカイルに、ロニが思い切りつっこみを入れた。
それからぎゃーぎゃーと騒ぎ出したロニを無視して、カイルとジューダスはさっさと霧の中を歩いていった。
はぷぷぷと一人で笑い、リアラがそれを見て「楽しそうね」と言った。
「うん。まさかここまでしらけた空気になるとは・・・!プププーッ」
「ふふふっ。確かに」
今のは中々だったね、と話しながら歩いていると、前から「おーい」とロニに声をかけられた。
おいていくぞと言われて、二人は急いでカイルたちにおいついた。
「はぐれちゃったら大変だからね、ちゃんと見失わないように歩かなきゃ」
「ごめんなさい」
「とーか何とか言っちゃって、一番危ないのはカイルじゃない?」
素直に謝ったリアラとは正反対に、はにやりと笑いながらカイルに茶々をいれた。
「お前も同じくらい危ない」
「だとコラッ!」
が、その横からジューダスにため息をつきながらつっこまれたために、の入れた茶々は違う笑いへと変わってしまった。
がるるるるるるるとがジューダスとにらみ合っていると、リアラがくすくすと笑い出した。
「本当に、二人って仲がいいわよね」
「いいわけあるか」
リアラが言ってすぐ、ジューダスが即答でそれを否定すると、がはっと息を吸って後ずさった。
「そんなっ、ジューダス!私のことは遊びだったのね!!」
「誰がお前で遊んだ」
「酷いっ、酷いわっ!うわーーーんっめそめそ」
「奥さん〜、そんな酷い男たぁわかれちまいな?あなたがそんするだけですよぉ」
「いい加減にしろこの大根役者どもがっ」
酷い男に騙された女役のとどこかの相談テレフォンを行っている初代ガングロ司会者役のロニ。
二人が上手い具合に大根役者ぶりを発揮したところで、ジューダスが声をあげた。
カンカンに怒っているジューダスに二人が大喜びしてきゃーきゃーと騒いでいると、カイルが「あ!」と声を上げた。
見て!と指差した先には、あまり整備されてなさそうな坑道の入り口があった。
へ〜と声を上げながらロニが近づき、それに続いて全員が入り口の前までくると、ジューダスがふと喋りだした。
「ここら辺にはこういうものが多いのかもしれないな。カイル、ノイシュタットへ行くには坑道の中を行った方が早いときもあるだろう」
「っていわれても、道もわからないのに入って迷っちゃったらどうするのさ」
もっともな事をカイルがいい、ロニとジューダスとリアラがうーんと頭を抱えた。
4人が頭を抱えだした頃、先ほどからキョロキョロとあたりを見回していたが「大丈夫だよ」と言い出した。
「ここ入っていけばノイシュタットへ行けるよ」
「え!?道知ってるの!?」
「もっちろん。世界のほとんどは回ったことあるし」
ここら辺は特に・・・というの言葉の裏には、ゲームで迷いまくったという苦い経験があった。
心の中で涙を呑むと、はカイルたちの先頭をきって歩き始めた。
「・・・・なんで道を知ってるんだ」
坑道の中を歩き始めてしばらく、ジューダスがさりげなくの隣へやってきて声をかけた。
後ろではカイルがリアラとロニとなにやら楽しそうに話している。
「言っただろ?オリャ世界のほとんどを回ったことがあるって」
「それは18年前の話しだろうが」
お茶らけるにジューダスがむすっとしながら突っ込みを入れると、はケラケラ笑って「まあまあ」となだめた。
「とある事情があってね。俺の国にこの世界を記す物があったんだよ」
「・・・・。それはどうでもいいとして、この道であってるのか?」
「てめぇ・・・まさかそれが一番聞きたかったんじゃないだろうな」
「それ以外なにを聞けというんだ」
しれっと言ってのけたジューダスに、がきぃーーー!!!と怒って暴れだした。
「あってるよ!まったくもぅ」
「それならいいんだがな」
「けっ」
珍しくジューダスがをいじめるという現象が起きたか。が、結局開けた部屋でジューダスは罰として大きな箱を動かす羽目になった。
それからまたぎゃーぎゃーと騒ぎながら先頭を二人で歩き、ひと段落着いた時、がそういえば、と言いだした。
「こうやってジューダスと先頭歩くのってさ、なんか久しぶりじゃない?」
「・・・そうだったか?」
「そーだよ」
首をかしげたジューダスの隣で、は懐かしそうに目を細めて笑った。
「途中からいつの間にかスタンが一番先頭を歩いててさ、ルーティと騒いだりマントふまれてのけぞったり。あの旅する前はずっと仕事で先頭歩いてたしさー」
「それでいつもお前が邪魔をしてくれていたんだな、そういえば」
「そうそう。ありがたく思えよ〜」
「嫌味を言われているのがわからないのか?おめでたいやつだな」
うんうん頷きながらがジューダスに返すと、ジューダスはふぅ、と肩をおとした。
「ボケてんだよつっこめよ!」
「わかってやっているんだ」
「きぃぃぃぃいいいいいいい!!む〜か〜つ〜く〜〜〜〜〜!!このプリーーーン!!」
「誰がプリンだ痴呆娘!」
両手を挙げて怒りをあらわにした。対するジューダスはいつでも攻撃できるように腕が腰あたりまで上がっている。
「あーあ。またやってるよあの二人」
「本当に、仲がいいんだか悪いんだか・・・・」
「とっても良いのよきっと。喧嘩するほど仲がいいっていうじゃない」
と、後ろからは好き放題。とりあえず、狭い坑道内での大きな喧嘩はよしてほしいなと、さりげなくロニがつぶやいた。
「あっ、見てよ、あそこに山小屋がある!」
坑道からでてすぐ、橋の向こう側に小さな山小屋が見えた。それを目ざとく見つけると、カイルはうきうきと嬉しそうに指差した。
「ちょうどいい。今日はこれくらいにして、あそこで休むとするか」
こきこきと首を鳴らしながら、ロニが空を見て提案した。もう随分歩いたのか、すっかりあたりは暗くなっていた。タダでさえ霧が深いのに・・と思わず文句を言いたくなるほど霧がなかったため、とりあえず5人は山小屋を目指した。
「よかった。暗くなってさらに霧まであったら、周りなんて全然見えないもの」
「霧って朝方出るものだしね。いくら気候が変わったっていっても、さすがに夜になると少しは薄くなるもんなんじゃないかな?」
等々、雑談をしているうちに、山小屋はもう目の前へと迫っていた。
「おれ、山小屋って入るの初めてだよ!へぇ〜。こうなってるんだぁ・・・・」
一番乗り〜!といって中に入っていったカイルは、さっそく中を見回して歓喜のため息をついた。続いてリアラ、ロニと入ってくると、ロニがさっさと火をつけてあくびをした。
「元気だねぇお前は。ふわぁ〜あ・・・。霧の山道ってのは、歩くだけで疲れるな」
う〜っと唸りながら今度は腰を鳴らしたロニと同じように、リアラがペタンと座り込んで「そうね・・・」と眠たそうにあくびをした。
「眠たかったら仮眠をとれ。僕が見張りをやる」
それを見たジューダスはため息をつくと、全員に向かってさっさと寝ろ、と言ってきた。
「いいの?ジューダスだって疲れているんじゃ・・・」
「かわって欲しくなったら起こす。それまで身体を休めておけ」
「そうそうジューダスなら大丈夫。しょっちゅうこういうことしてて慣れてるから」
「お前な・・・」
横からが口を挟んでそういうと、ジューダスが低い声でうなるように声をあげた。変なことを言うな、とでも言いたいのだろう。下手に問い詰められては困るからだ。
だがはさほど気にしたような様子も見せずにふっと笑うと、「それに」と言葉を続けた。
「俺も一緒に番してるから、こいつが寝ても大丈夫」
「「お前が一番心配だ」」
ロニとジューダスが見事な連携つっこみを決めたところで、会話は終わった。
気がつけばカイルはもう眠っていた。呆れたロニも一緒になって眠りだし、リアラも「おやすみなさい」というところんと寝転がって眠った。
「・・・・まったく良く眠る。あいつにそっくりだな」
全員が寝静まった後、ジューダスが様子を見てふう、とため息をついた。
「ほんと、カイルってばスタンそっくり」
『だね。僕も始めてみた時驚いたけど、こんなところまで似てるなんて・・・。やっぱり親子だね』
くすくすと笑いながらがジューダスに相槌をうつと、シャルティエがジューダスの背中から呆れたような声を出してきた。
「・・・シャル?まずいぞ。あいつらがいる前で」
『いいじゃないですか坊ちゃん。ちょっとだけでもお話しましょうよ。僕、ずっと暇だったんですから』
「そうだよジューダス。ちょっとくらいいいじゃん。俺も話したいし」
「『ねー』」
二人が声を合わせてそういうと、ジューダスは諦めたようにため息をつき、「少しだけだからな」と了承した。
「しかしおまえもそう思うか?あいつにそっくりだと」
『ええ。あそこまで似られると、もう非の打ちようがないですね。少しせっかちなところはルーティ似ですけど』
背中からシャルティエを抜き出しジューダスが問いかけると、シャルティエは話せなかった分を取り返すかのように喋りだした。
「でもなんにでも興味持つ田舎者っぽさはスタンそのままだよね〜」
そんなシャルティエを少し笑うと、は足に肘をつきながら言った。
「誰かがついてないとすぐに騙されてすぐに人生終わりになりそうなところもな」
最終的なダメだしをジューダスがすると、とシャルティエが可笑しそうにくすくすと笑った。
『なんだか二人とも、本人がいないのをいいことにいいたいこと言ってません?』
「あったりまえじゃん」
悪戯っぽい声でシャルティエが問いかけると、がくすくす笑いながら同じく悪戯っぽい声で返した。
ジューダスも同じだったらしく、ふん、と鼻であしらっては笑っていた。
「・・・・スタン、そしてカイル。運命とは皮肉なものだな。僕はこの旅であいつを・・・カイルを・・・・」
そういってぎゅっとシャルティエを握ったジューダスを見て、が「ジューダス・・・」と思わずつぶやいた。
「・・・きっと大丈夫だよ。だからそんな思いつめたような顔すんな」
「・・・」
「一人じゃない。俺もシャルもついてる。全部一人で抱え込もうとするなよ・・・。ゆっくりゆっくり進んでいこう」
「でもお前は・・・・・・僕は・・・・・」
言いにくそうに言葉をにごらせたジューダスに、が「あほ」といった。もちろんそれを聞いたジューダスは一気にむっつり顔だ。
「変なこと考えてんじゃねーよ。俺はお前が悪いことをしたとは思っていない。それはみんなも一緒だ。たまには休めよ・・・頼りないかもしれないけどさ・・・。俺がみじめじゃん・・・」
「・・・?」
「俺はね、ジューダス。お前を・・・」
「どうした、ジューダス、?」
急に変わったの雰囲気に首をかしげるジューダスに、が一言言おうとした時、ロニがむくりと起き上がった。
ばっと後ろを振り向くと、ジューダスは自分の影にシャルティエを隠した。
「なんでもない、寝ていろ」
すっと立ち上がると共に、ジューダスはバッとマントを鞘ごととってに手渡した。いつの間にやらシャルティエをその布に包んでだ。
「外は冷える。これをもっていけ」
「・・・え?・・・・あっ、ああ。サンキュー」
ジューダスの言わんとしていることが分かったは、ジューダスからそのマントをなるべく焦らないように慎重に受け取った。
「なんだ、外に行くのか?」
「うん、今ジューダスに外に行きたい〜〜!って話してたんだ」
ジューダスの方をなにやら疑うような目で見ていたロニが、外へ出て行こうとするに声をかけた。
ぎくっと心臓を煽られたがなんとか平常心をたもつと、はあくまで自然に対応した。
「危ねぇからな、あんまり遠くへ行くなよ?」
「OK」
最後はいつも通りにっと笑って見せれば、ロニも疑わずそのまま外へとだしてくれた。
外に出てほっと一息つくと、は橋の架かっている川まで行ってどさりと座った。
「あ〜〜〜びびったーー!つっかれたーー!!」
『ほんと、なんてタイミング悪いんだろうね、あいつっ』
折角坊ちゃんと話してたのに・・・と至極残念そうに怨めしそうに言うシャルティエに少し笑うと、は霧の所為で見えない空を仰いだ。
うをー、空見えねぇ〜と当たり前のことをいって面白がっているに、シャルティエがねぇ、と話しかけた。
『、無理してない?』
「え?どこが?全然普通じゃない?」
『嘘。絶対無理してる』
靴を脱いで足を川につっこんでいるは、ジューダスのマントの上に置いたシャルティエに「え〜〜」と笑いながら答えた。
「どこがさ?」
『全部だよ。言葉とかはそれほど・・・でもないか。言葉もなんとなく前と違ってるし、周りの空気が・・・全然違う。ぴりぴりしてる』
「・・・・」
はぐらかそうとお茶らけながらシャルティエに答えていただったが、シャルティエの方は容赦なく追い詰めていった。
『なにかがまんしてて、今にもはちきれそうって感じかなぁ?坊ちゃんももう分かってるよ』
「・・・うっそー」
『ほんと』
どこまでも軽く答えるだったが、言葉とは裏腹に声は少し低くなっていた。
なんだよーとふてくされたように頬を膨らませると、シャルティエを鞘に入れて抱え込んだ。
『だってさっきの言葉、なんだか自分に言ってるようだった。アレ聞いたらあ〜そうかな〜?ってさ』
「シャル勘よすぎ」
『君ほどじゃないさ』
なんとなく余裕を感じされられ、はますますふてくされた。シャルティエが何とかなだめると、ふくれっつらをやっと元にもどした。
『・・・なにかあったの?っていうか、本当に、あいつのこと・・・ミクトランのこと』
「好きだよ。・・・大好きだよ。今でも・・・めっちゃくちゃ好き・・・・」
『・・・・そっか』
「ついさっき起こったことなのに、もう18年も立ってるなんて・・・そんなの考えられないし、割り切れなくて・・・・」
苦しそうに息を詰まらせて言うに、シャルティエも同じように暗い声で『・・そうだろうね・・・』と相槌をかえした。
「本当は、毎日笑ってるのつらいんだ。いっぱい泣きたいし何もしたくなくなることなんていくらでもあるけど。・・でも、リオンががんばってるから・・・俺も負けてられないって・・・」
『うん・・』
「俺、リオンを助けたいと思ってここに戻ってきたはずなのに・・・頭がいっぱいになっちゃって、ぐちゃぐちゃでわけわかんなくて、なんかもう、嫌だ・・・」
そういうと、はぎゅっと足ごと縮まってシャルティエも一緒に抱きしめた。
それからなにも言わなくなったに、シャルティエが話しかけた。
『?あの・・さ、本当に・・・なにがあったの?』
「・・・。シャルはあの後に起きたんだっけね」
ぱっと顔を上げて言ったの言葉に、シャルティエが『あの後?』と不思議そうに返した。
『あの後って・・・イレーヌたちが死んだ後・・・?』
「・・・。それもある。でも俺ね、一番やっちゃいけないことやった。リオンと比べ物にならないくらい酷いこと・・・」
それからしばらく考え込むかのようにうつむくと、はシャルティエにゆっくりと打ち明けた。
「俺っ・・・・・・ミクトランは、俺が殺した」
『そんな・・・・だって、ミクトランのこと好きだって』
「好きだったよ。でも、あの時ははっきりいってスタンたちの方を助けなきゃって、それ一身で・・・いや、自分で殺したかったのかもしれない」
『そんな・・・』
「殺した後で気付いた。もの凄い喪失感と、わけの分からない感情が溢れてきて・・・・。立ってられなかった。出血なんて関係無しで。ただ悲しいんだなって、スタンに支えられながら考えた。最後のあいつの顔、ものすごくよく覚えてる」
泣きそうな顔で話すに何も言わず、シャルティエは静かに話を聞いていた。
目の前にその場面を思い浮かべたのか、は眉をぎゅっとよせた。
「俺が剣を向けて殺すって言った時、あいつ、すごく傷ついた顔してた。そこで気付くべきだったんだ。なんでズキって胸の辺りが痛んだのか。あいつは武器すらないのに・・・分かってたんだ、俺に殺されることも、俺が本気であいつを殺すことも・・・」
『・・・・』
「走ってつっこんでいったとき、最後に、あいつ笑ったんだ。いつもみせてくれてたみたいな優しい顔して。それ見たら、無性に腹が立って、大声で、叫んで・・・っ無我夢中で・・・・斬ってた・・・・」
ぼろぼろと涙を流すと、掠れた声で、それでも吐き出すようにシャルティエに話した。
「泣きそうになったけど、あいつの身体を斬って血を浴びて、あいつが倒れてくの見たときに、変に怒りも涙もひっこんでいった」
本当に不思議そうに言うはうつろな目をして、涙もいつの間にやら止まっていた。
「最後に交わした言葉なんてほとんど覚えてない・・・わけないけど。思い出すたび忘れようとしてて。あいつが目ぇ閉じた時、ああ終わったんだって。全部終わったって、なにも感じなかった。ただくらくらしてもう動きたくなくて・・・・。今じゃこんなに悲しいのに・・・」
『・・・』
「あんなの望んでなかったんだっ。本当は、大声出して今すぐにでも泣きたいのに、大声だそうとしてもでないし、涙もでてこなくなるんだ・・・っ」
そういうの目は、涙をいっぱいに含んで涙目になっていた。それでも落ちてくる気配はなく、さきほどぼろぼろとでてきた粒が嘘のようだった。
「なんで・・・なんでこんな泣き方しか出来ないんだろう・・・なんであいつに一言でも・・・・・」
はまたぎゅっと足をもってきて縮こまった。手には力が入り、感情が多く出すぎたのか身体は小さく震えていた。
「ただ俺は・・・あいつを幸せにしたかっただけなのに・・・」
今更だけど。と、たまにすごく寂しそうな顔してると、すごく悲しくなる。ちょっとでも笑っててほしかったと、はまた涙をぼろぼろ落としながらうずくまった。
それだけだったのに。と、顔を膝に落としながら言った。
シャルティエは『そっか・・・』というと、しばらくだまりこんだ。
『・・・は、自分が許せないんだね。だから無性に腹が立ったり、大声だして泣けなかったりするんだよ』
「・・・?」
シャルティエの言葉を聞くと、は顔を上げて首をかしげた。
『泣く資格なんてないって、どこかで思ってるんじゃないのかな。他の誰かがやっていたら、きっとは大声で泣いていたはずだよ』
「・・・・。そうかもしれない」
『自分は相手を裏切るって、理解しないうちに身体が動いていたのに、逆に向こうに悟られちゃって、どうしようもない自分が許せなかったんだね』
「・・うんっ・・・」
子供をあやすように優しく言ってくるシャルティエの言葉に、また涙が出そうになるのを抑えながらはかろうじて頷いた。
『どうしたらいいかなんて僕にはわからない・・・けど、少しずつでもいっぱい泣いて、ゆっくり考えられるくらいまず心をおちつかせよう?』
「うん・・・・うんっ・・・・」
『余裕がないうちから考えようとしたって、結局何も出来ないから。素直に悲しもうよ。君に余裕がとりもどせるくらい』
シャルティエの言葉に、は何度も頷いた。
ぎゅっとシャルティエを抱きしめると、はしばらく何も喋らなくなった。
「・・・俺、あんな風になることを望んでたわけじゃない」
『うん、そうだね。みんなあんなこと絶対に望まない』
敵であった相手のことを言っているのにも関わらず、シャルティエは文句も言わず最後まで話を聞いた。
は腕で乱暴に涙をふきとると、シャルティエにむかってにっこりと笑った。
「ありがとシャル。なんか話せてすっきりした」
『そう?よかったよ。僕、こういうときだけは本当に身体があったらって思うよ。言葉しかだせなくて、ずっと傍にいてあやすことすらできないんだから』
あーあ。といじけたように言うシャルティエの声を聞いて、はぷっと笑った。
「そう?俺は今のままでも十分だと思うけどな。なんかシャルって大人!って感じで、いつも俺やリオンを周りから包んで守ってくれてるっていうか」
『そう?』
「そうだよ。なんかお兄ちゃんもったようなお母さんもったようなって感じ」
『え〜。お母さんは嫌だな』
「あははははっ」
心底嫌そうな声を出したシャルティエにが笑っていると、山小屋からロニがひょっこり顔をだした。
少しでも仮眠をとっておけ、という言葉を聞いて、とりあえずは返事を返しておいた。
『あーびっくりした。本当に、あいつって間が悪いよな』
「そうかもね。でもいいこと教えてあげるよシャル」
『なになに??』
ロニもカイルも、まだシャルティエの声は聞こえない。と誰も居ないのにコアクリスタルに口を近づけて小声で言ったに、シャルティエが『ほんと?!』と歓喜の声をあげた。山小屋に入ると、ロニがいつものような笑いではなく苦笑いをしてきた。
ああ、やっぱり喧嘩したんだろうなとその顔を見て察すると、は「おつかれ」と言ってロニに笑い返した。
「すまねえ、」
「へ?」
ぼそっとだが急に謝ってきたロニに首をかしげたが、ロニはまた苦笑いして「なんでもない。さっさと寝とけ」と返してきた。
まだ首をかしげながら頷いてジューダスの隣へ行くと、マントをシャルティエを返そうか迷った挙句、起こすのもなにかと思いそのままマントごとかかえて寝転がった。それから急速に、意識は飛んでいった。
「仮眠とって、疲れも取れたし、一気にノイシュタットまで行こうぜ!」
「・・・・」
「あ、あれ?みんな、どうしたの?」
元気よく両手を挙げて一人盛り上がったカイルだったが、周りからの反応が何も無いことに気付くと「え?何?何??」とおろおろし始めた。
「・・・いや、お前はきらくでいいなと思ってよ」
ふあ・・・と、言葉の最後の方をあくびと同時に声をあげたロニは、そのまま伸びてまたあくびをした。
ロニのいっていることが理解できずに首をかしげるカイルを、リアラが可笑しそうに笑った。
「ふふっ!でもそれがカイルのいいところ、でしょ?」
「まあ、な」
「バカはほっといて出発するぞ。ノイシュタットまでまだあるかなら。・・・・お前もとっとと起きろっ」
「いでっ!」
となりでまだジューダスのマントをもちながらうつらうつらしていたをジューダスがどついた。
なんだよー!とそのまま二人がじゃれあい始めるのだが、カイルはカイルでわけもわからずばかにされていることに気付き、
「な、なんなんだよ〜!」
「ま、出発しようぜ」
叫ぶカイルにウィンクしながら、ロニはさっさと荷物をもった。
全員が小屋の外へとでてからジューダスはシャルティエをかつぎマントをとりつけた。
『ねえねえ坊ちゃん、いいこと教えてあげます』
「シャル!?馬鹿者っ、こんなところで喋るな」
『いいんですよ。あいつらには、僕の声、聞こえてませんから』
うきうきと声をはずませて言ったシャルティエの言葉に、ジューダスが「何・・?」と驚愕した。
「本当だよ。カイルはそのうち聞こえるようになるけど、他には絶対に聞こえないから」
「だから、なんでお前がそれを知ってるんだ」
「言っただろ?少し先の未来が分かるって」
ねー、と、またシャルティエと声をそろえて言うに、ジューダスはため息をついた。
「ねえロニ、ノイシュタットって、どんなところか知ってる?」
歩いて数時間、カイルがふとノイシュタットのことをロニに問いかけた。が、聞かれたロニは「うーんと・・・どうだったかなぁ」と頼りない返事だ。
「産業が発展している、豊かな街だ。もっとも、貧富の差が激しくて、住民の心の中は豊かとはいえない状態だったがな」
「おう!それそれ!なんかそんな感じの街だよ」
「適当に相槌をうつな。今のは昔の話しだ。先の騒乱の後に改革が断行されて、今では豊かですみやすい街になっている」
ジューダスに会わせて相槌をうったロニに、ジューダスが容赦なくつっこんだ。
はロニと一緒になって「いじめだ〜」とさりげなく復讐中だ。
「へぇ〜。ジューダス、随分詳しいじゃんか」
「昔、ノイシュタットに知り合いがいた。・・それだけだ」
カイルの問いかけに少しうつむいて返したジューダス。なんだ?と首をかしげたカイルだったが、その後とぎゃーぎゃー騒ぎ出したジューダスを見てなんでもないだろう、と特に気にもしなくなった。
「ねえねえ。これ、ずーっともって歩いてるけど重くない?」
リアラが指差したこれ、とは、アンスズーンから拝借し、その後ルーティからうけとった例のギターだ。
ルーティから受け取って以来、一度もケースの外にだしていなかったそれを思い出すと、は「ああ」といいながらギターをとりだした。
「これ、一応武器なんだよ。その所為か全然重くないし。持ってても苦にならないかな?なんなら敵が出てきた時に使ってでも・・・」
「うわっ!モンスターだ!」
「マジかよ!?」
いきなり霧の中から現れたモンスターにカイルが驚くと、ロニが嘘だろ!?とつっこみをいれた。
敵がでてきたら・・と言った張本人は呑気に笑っている。
「それじゃあ使ってみましょうか?」
というと、はすばやくケースを背中から下ろし、ばっとギターを取り出した。
「イッツ・ショーターイム☆行くぜ、ナンバー1!しびれルンバ☆しびれるぜ〜〜〜♪イェーーーーーイ☆」
「だあああああぁぁぁぁぁぁぁっっ」
敵どころかロニまでもがしびれている。いや、ロニの場合はあまりのアホさに別の意味でしびれているといった方がいいか。
カイルは笑ってその場から動き出せず、リアラは後ろで腹をかかえてあまりの可笑しさに声もでないらしい。
ジューダスはそのあまりの惨劇に呆れてものもいえず、改めて自分は何故こんなやつらと・・・となつかしい言葉を頭の中でリピートさせた。
「なーに固まってんだよ。敵はちゃんとしびれてるぜ?どーりゃせいっ!」
「どんな掛け声だ!」
ぼかっとしびれて動けなくなっているモンスターをギターでぶんなぐると、はとりあえず仕留めた一匹をぺいっと逃がした。
やっと自分をとりもどしたカイルたちも戦い始め、でやー!と大きな気合をだしながらモンスターの中へつっこんでいった。
「くらえ!フレイムドライブ!!」
ロニが前を守っているうちに晶術をくりだしたカイル。剣を空に掲げると、その先から炎の球がいくつも生まれてモンスターを撃った。やったか?!と思わず叫んだカイルだったが、モンスターはさしてダメージを受けてなくぴんぴん動いていた。
「くそ!もう一度!」
「バカ!何度も撃ってTPを無駄にするな!」
「そうだぞカイル!大切なのは愛情と火加減だ!!」
ロニの後からぐっと手を握りながら力説してきたに、ロニが思わず「ぇえ!?」と驚いた声をあげた。
「そうか!わかったよ!!」
「わかるなカイルー!!」
ロニの悲痛な叫びは、の「わかってくれたかカイル!」という言葉にかき消された。
ジューダスはため息をついてさっさとモンスターに斬りかかり、リアラはというと3人のやりとりに笑いすぎて動けなくなっている。
これでいいのかこのパーティ。
とりあえずもう一度カイルは晶術を使おうと集中し始めたため、はなるべくダメージを与えないようにギターで受身をとったり歌を歌ったりしていた。
「いくぞ!・・・バーンストライク!!」
「うそ!?」
カイルが叫んだ瞬間、上空から火柱がドーン、ドーン、ドーンッと落ちてきた。
急いで横に飛びのいたとジューダスはその威力に驚きをかくせず、口をぽかんと開き、ロニにいたっては「嘘だろ・・」と無意識に声にだしていた。
火柱の消えた後にはレンズしか残っておらず、カイルはリアラと「すごいすごい!」と大喜びだ。
「本当にやっちゃったよ。愛情と火加げブフッ!」
「アホなことをあいつに教えるな」
「なんだよ。成功したんだからいーだろー?」
後ろからすぱんと頭を叩いてきたジューダスにがぶーぶーとブーイングを送ったが、ジューダスは何処吹く風だ。
喜んではねるカイルとリアラとロニを気にもせず、はレンズの散らばる焦げた地面へと歩いていった。
「・・・あーあ・・・」
かわいそうに、というと、は一つ一つ丁寧にレンズを拾っていった。
後ろに立ったジューダスはそれを見て、「またか」とため息をついた。
「相変わらずだな」
「変わりたくもないね。俺はモンスターだからって殺すって考えには未だについていく気はない。ましてや今のは・・・いや、なんでもないよ」
ふん、とふてくされたように口をとがらせながら返事をかえしたに、ジューダスがふぅ、とため息をついた。
「・・・だれも変われとはいってない。お前はそのままでいい」
「・・・・・。そりゃどーも」
照れ隠しのためか少しぶっきらぼうに答えたは、小さな声で「たまにくっさいこというんだよなこの坊ちゃんは・・」とつぶやいた。
ジューダスはその言葉を聞いてはいないが、耳まで赤くしてるを見て口だけで笑った。
「おーいジューダス、!追いてっちゃうよ!」
「今行く!」
もう移動し始めていたカイルたちに呼ばれ、が大声で返事を返した。
レンズを全部拾いあつめ鞄へ入れると、はギターをそのままに、ジューダスと早足で歩いた。
「とうとうあいつに弟子入りでもしたのか?」
レンズを拾ったことを刺しているジューダスの言葉を聞いて、すぐにルーティの顔が浮かんだ。
それから病気にでもかかったかのようにレンズをむさぼり取っていたルーティを思い出し、は思わず噴出し片腕をあげた。
「おう。もらえるもんはもらっとけってのが師匠の口癖でね」
「もらえないものまでもらっていただろ、あいつの場合」
「あははっ!違いない!」
呆れたようにため息をつきながら言ったジューダスの言葉を聞いて、は大声をあげて笑った。昨日とは違い気持ちよく、自分でも面白いくらいに今日は笑えているとそこでふと思い返した。
「やっとお前らしくなってきたな」
ぼそっと言ったジューダスの言葉を聞いて、思わずは止まった。それからふっと息を吐いて笑うと、ジューダスの隣にてこてこ歩いて追いついた。
「さんきゅ」
続く
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終わった〜。あーシャル〜〜〜vv大好きだーーー!!!(止まれ)
もう早くこれが書きたくて書きたくて書きたくて書いちゃいましたよ。(長い)とくに愛情と火加減・・・・(嘘)
うわーい時間が無い☆と思って編集にちょっと・・・随分手を抜いてますが、えー、すみません(結局謝るのかよ)
次はノイシュタットだー!うわーいまた大変なことになるぞ〜〜(コラコラ)
ではでは、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました〜(礼)
ていうか、副題の歌分かる人いますか?