「よぅ。お目覚めかいお姫様」
目が覚めると、木製の天井とともに明るい金髪が目に入ってきた。ジョニーだ。
にっこりと笑いながらの顔の左右に両手をついている。
「・・・・・。ルーティ、ジョニーさんがお前のこと呼んでるぜ?」
しばらくぼんやりとジョニーを眺めると、は隣のベッドに座ってスタンとじゃれていたルーティに話を振った。
もちろんジョニーのへんてこな言動を見ていたルーティはすぐさま反応した。
「ぁあら、そうなの?姫ならここにいるわヨー☆」
「おやおやおや・・・・別の姫がひっかかっちまったよ」
「大変ですね」
「どういう意味よ!!」
心底同情したように言ったスタンに、ルーティがつっこんだ。
my way of living 35
〜なつかしのカレ!?トラブルメーカーはセンチメンタルあい・えぬ・じー☆(まだまだ続いてました)〜
いや、別に・・・と誤魔化しているスタンと全然誤魔化しきれてなく怒り出したルーティたちの手前で、ジョニーが「つれないねぇ」と肩を竦ませた。
「だーって俺姫じゃないもーん」
「女の子はみんなお姫様になれるんだぜぇ?☆」
「うわーい相変わらずハイテンション☆」
起き上がったにジョニーがウィンクしながらお姫様説を語ると、はズビッと親指をだしながら同じくハイテンションで返した。
とりあえず腹になにか入れよう、ということになり、スタンたちのやりとりをほのぼの眺めていたウッドロウ、フィリア、マリー、チェルシーたちも腰をあげた。
「ほれ、行こうぜ。立てるか?」
「馬鹿にすんなよ?立てる立てる・・・はず」
「ないだろうが。海ん中で気絶してたのはどこのどいつだ?ほら」
というとジョニーはに手を出した。
引っ張られながらなんとか立ち上がると、は海の中で動けなくなっていたことを知っていたジョニーを見て首をかしげた。
「なんで体動かなかったこと知ってるんだ?スタンたちにでも聞いた?」
「違う違う。俺がお前を助けたの」
廊下を歩きながらが問いかけると、ジョニーは手をひらひらさせながら答えた。
それを聞いたはげっ、と言って顔をしかめ、「マジで?」とジョニーに聞いた。
「マジで」
「うわぁ〜〜。助けられるなんて恥だ〜〜」
「おいおい、なんだそりゃ」
両手を頭にもってきて恥だと言い出したに、ジョニーが笑いながらつっこんだ。
食堂につくと、仲間たちはもうすでに食事を取っていた。
早く歩けないのにプラスして遊びながら来たのだからあたりまえだろう。
「そういえばジョニーさんに会ったのって久しぶりだね。久しぶりー」
「遅ッ!」
手を振りながら久しぶり〜というにスタンがつっこんだ。・・・がいつも通り無視された。
ジョニーは笑って「久しぶり〜」とやり返している。
ルーティが呆れ、他の仲間たちが笑っていると、はあることに気がついた。
「・・・・・マスター!?」
食堂とつながってあるバーのカウンターに、例のマスターがいたのだ。
何故、と驚きながらもカウンターへ行くと、マスターはちらりとを見た後、椅子の方へ視線をやった。
座れということなのだろう。
ジョニーがお茶らけながら(「さあとうぞ、お座りくださいお嬢様」と)椅子を引くと、はにへら、と笑いながら言葉に甘え椅子に座った。
「・・なににする?」
マスターが始めて喋った!!と、スタンたちが驚く中、は片肘をついて人差し指を上げた。
「ミモザ」
「「酒たのむなーーー!!」」
スタンとルーティのみごとなダブルつっこみが入り、他の仲間たちがブッと噴出して笑い出した。
ジョニーはというと、の隣に座り腹を抱えて大笑いしている。
「え〜〜〜。酒つってもシャンパンじゃん。オレンジジュースも入ってるし大丈夫大丈夫」
「俺が奢ってやるよ」
「ジョニーさん太っ腹ぁ☆」
「ジョニーさん!」
喜ぶとは裏腹に、スタンたちは心配した。
が、ジョニーはにっこり笑って見せるだけで止めようとはしなかった。
「マスター、シャンパンは子供用で」
「まてやゴルァ!!」
そのにっこりとした笑顔のまま人差し指をぴっと上げて子供用と指定しだしたジョニーにが裏手突っ込みを入れると、ジョニーは笑いながら「ナイス裏手つっこみ」と返した。
まったく・・・と言ってが肘を突いていた方の手に顎を乗せてため息をついていると、マスターがふっ・・と笑いながら何かを持ち出した。
「こ、これは・・・・・!マスター、もともとそのつもりだったのか!!」
「いじめだーーーー!!!」
マスターの手にあるのは、某ネコ型ロボットの絵が付いているシャンパン。(シャンペン?シャンメリー?)
は叫んでつっぷしたが、スタンたちは大爆笑だ。
なりきってマスターに乗っていたジョニーも一緒になって笑っている。
マスターはというと、ふぅ、とため息をつき、またもなにやらとりだした。
「今度は某ハムスターの?!某美少女戦士の!?某空飛ぶきんぎょの!?某アンパンの!?っていくつあるんだよマスターー!!」
次々と取り出してくるマスターに反応してがパッケージ(?)の絵の解説をし、最終的につっこんだ。
ちなみに絵柄が違うだけで種類は変わっていない。はしばらくふてくされていたが、ふとマスターの方を見るとぼそりとつぶやいた。
「・・・・きんぎょで」
「頼んでるし」
結局は某空飛ぶきんぎょの注意報の絵が描いてあるものを頼み、マスターはさっさとミモザを作った。
スタンのつっこみは都合よく無視され、スタンは「なれたよ慣れたよ」と一人いじけた。
たんっ、と目の前におかれた飲み物を一口飲むと、はぷはーっ・・・と言い満足そうに笑った。
「いいねぇこれ」
「俺のおごりなんだから、もちろん旨いさ」
「あっはっはっ。そうかもね」
しばらくするとジョニーも飲みだし、二人はのんびりとすごした。にとっては久々に。
「あ、おいスタン!」
「あれ?ジョニーさん。どうしたんですか?」
夕食を取ったスタンたちが食堂を出て2時間後、廊下で偶然ジョニーに会った。
ジョニーは部屋へ向かって歩いていたスタンを止めると、「どこにいるか知らねえか?」と苦笑いしながら問いかけた。
「え??一緒に飲んでたんじゃないんですか?・・・未成年なのに」
「男がちっちゃいこと気にすんなって!あー・・・まあ、あれだ。俺が寝てる間にひょーっといなくなっちまった」
しっかりマスターにかけるものまで借りて、と、言ってジョニーは布を被るジェスチャーをした。
結局そんなオチかとスタンが笑い、「知りませんよ」と答えると、ジョニーは「おう、とめて悪かったな」と言ってそそくさとその場を去ろうとした。
「あ、なら外かも知れませんよ。暇さえあれば甲板にでてましたから」
「そーか。サンキュ」
ひらひらと手を振ると、ジョニーは甲板の方へ向かって行った。
後ろで笑いながらため息をついているスタンに気付かずに。
「お〜寒っ」
甲板へでると、まず冷たい風がびゅぅっとふいてきた。
震え上がって両手で二の腕を抱くと、ジョニーは辺りを見回した。らしき人影どころか人っ子一人いない。
ここでもないだろうか・・・・と諦めたようにため息をついたとき、ふと見張りが登る上り台に続くはしごが目に入った。
第六感、というのだろうか、ジョニーはなんとなく気になってはしごを上ってみた。
−−−いた。
「」
「ん?」
柱にもたれてぽつんと一人座りこみ、ぼんやりとどこかを眺めていたをジョニーが呼ぶと、はゆっくり振り向いた。
あらジョニーさん、といいながら薄く笑ったを見て、ジョニーは違和感を覚えた。
さっきまではこんな表情じゃなかったのに、と思いながらふと手を見ると、暗くて分かりづらかったが確かにところどころから血がでていた。
「お前、手どうしたんだ!?」
急いで近寄って手をばっと掴んだジョニーは、その手に刻まれた傷の多さにさらに驚いた。
よくよく見ると、反対側で上を向かせながら置いている手も血まみれだ。
明らかに刃物で切ったものとは異なる傷を見て、ジョニーは顔をゆがませた。
「なにやったんだ、!」
「これ」
「レンズ・・・?」
疲労の見える顔でにへら、と笑いながら取り出したのは一つのレンズだった。
これでどうやってこんな傷か付いたのか、ジョニーには理解できなかった。
「みんなにヒミツでね、晶術の特訓してたの」
「晶術!?って、お前、晶術はソーディアンをもっているやつじゃなきゃ・・・」
「それができるんだなぁ。ソーディアンを開発したハロルド・ベルセリオス博士が書いた本を・・・みつけてね。んでやってたら何故か今日はこんなに」
と言って手をぱっとジョニーの前に出してきたを見て、ジョニーははー・・・とため息をついた。
首をかしげるの隣に座ると、ジョニーはにどうした、とやぶからぼうに問いかけた。
「なんだよ急に、どうしたってさ」
「おちこんでるかと思った」
「・・・・なんで?」
おちゃらけるに、ジョニーが顔に手を持っていきながらめずらしく真剣な声で言うと、は急に静かになった。
そんなを横目で見ると、ジョニーは気づいてないのか?と逆に聞き返した。
「海ん中でも思ったけど、前と違うなーと思ってな」
「違うかねぇ」
「違うね」
のんびりと話すに、ジョニーがきっぱりといった。
ジョニーの言葉を聞くと、はけらけら笑いながら「いうね〜」と冗談交じりで返した。
「前より全然覇気がないっつーか生気がないっつーか・・・・。ボケもぎこちないし、行動の落差ありすぎ」
「あはははは。やっぱ?」
自分で自覚していたのか、なおも笑って返してきたにジョニーは肩を竦ませながら「バレバレだぜ」といった。
「何があった?」
ふいに真剣な声で聞いてきたジョニーに、はしばらく黙り込むと静かに「色々・・・かな」と答えた。
「色々ありすぎて、混乱してる。と思う。よくわからん」
「まったくお前さんらしいというかなんというか・・・なんなら俺が聞いてやるぜ?」
「うわ〜〜ジョニーさんてば小姑!」
「小姑ぉ?おいおいそこまではいってないぜ」
おちゃらけたにジョニーがつっこむと、は大笑いしてしばらくとまらなかった。
ジョニーも少し笑うと、ふぅ、とため息をついた。
「・・・エレノア」
「へ?」
「エレノアの話し、したことあったっけな」
急にエレノア、と言い出したジョニーに、なにごとか、と首をかしげ、は笑うのをやめた。
ジョニーは懐かしそうに微笑み、遠くを見ている。
「エレノアさんて確か・・・ジョニーさんが惚れてたけど手の早いフェイトさんに結局取られちゃって最終的にいらんおやじに殺されちゃった悲惨な人?」
「うーんわかりやすい説明だナァ」
あくまで視点の説明を聞いて、ジョニーは笑った。とくにフェイトの部分を。
「エレノアってのがな、これがまた気が強い女でな・・・・。アクアヴェイルじゃ珍しい方だった」
「だろうね」
「似てるんだ」
「はい?」
エレノアの話からいきなり似ていると言われ、は首をかしげて「誰に」と聞き返した。
ジョニーはの方を見て苦笑いすると、お前に、と一言言って顔を前へ戻した。
「いや、これといって見ためが似てるとかボケ具合がにてるとか・・っていうかエレノアはこんなボケはしないし、ここまで活発っていうかうるさいっていうかそんな感じじゃなかったけど」
「さりげなく貶してませんこと?」
「なんていうかなー。オーラ、っていうか・・・・気が強いんだけどもろいようなそんなような違うような、気持ちの面で感じが似てる」
「うわーいわけわかんねー」
「俺もわけわかんなくなってきた」
うーん・・とエレノアを思い出すようにわかりずらい説明をしたジョニーにがつっこむと、二人は顔を見合わせて大笑いした。
「とにかく、それだからなんとなくほっとけねえんだよ。なにより危なっかしくてジョニーさんみてらんないっ」
「あはははは。そりゃどーも」
身体をしならせて両手を胸の前でくんだジョニーを見て、がまた大笑いした。
「・・・あんまり溜め込むなよ」
「まぁ、なるべくね・・・」
が曖昧に返事を返すと、ジョニーはそうかい、といってよいしょと立ち上がった。
「あんまり遅くまでいるなよ」
おう、とが言う前に、ジョニーは頭をぽんと叩いて下りていった。
「・・・・・」
残されたは、また前を向いてぼんやりとした。数分後、誰かさんから手を怪我していることを聞いて急いでやってきたルーティとフィリアが現れるまで。
次の日、船は無事ダリルシェイドについた。
さっそく報告をしようとセインガルド王のところへ向かってみると、国王にすでにマリアンから話をきいていたと返されてしまった。
マリアンが無事に帰っていたことにとスタンが安心していると、ラディスロウに乗っていた助手が現れた。
「無事だったんですか!」
スタンが抱きつく勢いで大喜びしていると、助手の方もにっこりと笑い、それからなにかの資料を取り出した。
「ええ、ぎりぎりでリトラー様が逃がしてくれたのです。それよりみなさんに、リトラー様からの指示があります。会議室へ」
助手に言われたとおり会議室へ移動すると、今度はコングマンが入ってきた。
「あれ!?なんであいつここにいるんだ!?」
「コングマンさんも手伝ってくれてたんだよ」
そういえばまだ詳しい話を教えてなかったね、とスタンとが話していると、コングマンがものすごい剣幕でおい!!と全員に怒鳴ってきた。
「イレーヌさんは!?イレーヌさんはどうした!!」
「・・・」
「あっ・・・・イレーヌさん・・・は・・・」
隣で眉をひそめ、固まってしまったに気付いたスタンは、騒ぎを鎮めようと慌ててコングマンに声をかけた。
が、話す言葉が見つからず、そのまま固まってしまった。
ウッドロウやフィリアたちも事情をしっているため、暗い顔をしてを見ていた。
そのただならぬ空気に、コングマンは「まさか!!」と大声をあげた。
「まさか・・・・・・まさかお前たちが!!?」
「お前!!!」
怒りを含んだ声でコングマンが言うと、が今までにないくらいの速さでコングマンに飛び掛った。
いきなりのことでスタンたちは止めることもできず、コングマンはに首をガッとつかまれ、そのまま後ろへ倒れこんだ。
怒りで我を忘れているのか、の手の力には加減がなく、目は怒気と殺気に満ち溢れ爛々としていた。
「お前・・・それ以上言ったら・・・・・!!!」
「!!」
「−−−っ」
スタンに呼ばれて、はハッと息を呑んだ。ゆっくりと手を離すと、コングマンがむせ込んだ。
はコングマンの上にのったまま目を見開いて手を見つめると、慌ててコングマンから降りた。
「ごっ、ごめんっ・・。俺・・・・・・。・・・・・!!」
弱弱しい声でコングマンに謝ると、は急に走り出し会議室を出て行った。
「あっ、!!」
が走り出してすぐ、スタンたちも走り出した。
「ちょっとまて!こりゃいったいどういうことだ!」
「だぁあ!」
「先行ってるわよ!」
がばっと起き上がったコングマンにスタンが足をつかまれ転んだが、ルーティたちは気にせず追いかけていった。
捕まったスタンは一人でコングマンに説明することになり、頭に血が上っていそうなコングマンを見て少し引いていた。その後うつむくと、はっきりとした声でコングマンにことを伝えた。
「イレーヌさんは、死にました」
「なんだとぉ!!?」
「自分から、海に身を投げたんです。は・・・ミクトランに動かなくさせられた体でなんとか逃げてきて、それで・・・」
それ以降、またうつむいてしまったスタンを見ると、コングマンは胡坐をかいて座り静かに問いかけた。
「・・・あいつ、イレーヌさんが死んだとこ見たのか」
「・・・はい、みました。身を投げようとした瞬間現れて・・・・。落ちた後、窓が閉まるまで助けに行くって聞かなくて・・」
「・・・・」
しばらく沈黙が続くと、コングマンはすっと立ち上がった。
「行くぞ」
「え?どこに?」
「あいつのところに決まってんだろうが!」
すっとぼけたスタンにコングマンが怒鳴ってつっこみを入れると、スタンは慌てて立ち上がり「は、はい!」と返事を返した。
二人が走っていった後には、資料を持って固まっている助手だけが残った。
は城の右側の影にうずくまっていた。
コングマンに慌てて謝った時、泣きそうになって思わず走って逃げてしまったのだ。
(・・・あー・・・かっこわり)
ふぅ、とため息をつくと、また出てきそうになった涙を腕をぎゅっとつかむことで我慢した。
遠くでばたばたという慌しい音が聞こえたかと思うと、ルーティの「いた!!」という声が聞こえた。
ばたばたという足音は近くまで来ると、目の前で止まった。
「・・・」
「さん・・・」
ルーティとフィリアだ。足音からして、おそらくウッドロウとマリーとジョニー、チェルシーまでいるのだろう。
そんなみんなでこなくても・・・と心中つっこんだが、とても言いだせる空気ではなかったのであえては口には出さないでおいた。
「・・・」
あとから来たのはスタンとコングマンか、肩で息をしながら名前を呼んできた。
がゆっくりと顔をあげると、仲間たちが色々な表情を浮かべてこちらを眺めていた。
「あー、ごめんねコングマン。さっきのあれ、八つ当たりしちゃった」
「八つ当たりかよ!」
素でコングマンがつっこむと、は表面上だけにへら、と笑った。
「みんなもわざわざ追いかけてきちゃって〜。ごめんね、先戻ってて。体動かないから後で」
「放っとけるわけないでしょ!」
へらへら笑いながら先に戻れとが言うと、ルーティが大声をあげた。
はあまりの剣幕に「はいっ」といって引いている。
ルーティが言った後、周りにいた仲間たちも口々に言いだした。
「そうだよ、放っておけるわけ無いじゃないか!」
「一人で溜め込むのはよくないですわ」
「話すと楽になるぞ」
「水臭いぜ、」
「さっきのはもとわといえば俺が悪いしよ・・・・まぁなんだ、なんかあったんなら話せよ。聞いてやるから」
「それともくんは、私たちには話せないとでもいうのかな?」
最後、ウッドロウの脅しで幕を閉じた仲間たちの言葉を聞いて、は固まっていた。
密かに腕を掴んでいる力が増えていたが、誰もそれには気付いていなかった。
固まったまま中々喋りだそうとしないを見て、ルーティが膝をつきふわっと抱きしめた。
「泣いて良いのよ。強がってないで。泣いちゃいなさいよ我慢せずに。みてるこっちが痛々しいわ・・・」
「・・・・・・ぅっ・・・」
ルーティがぎゅっと腕に力を入れながら言うと、はぼろぼろと涙を流しルーティの肩に顔をうずめた。
たまにでる嗚咽はその悲しさを物語っているようで、余計にを痛々しく見せた。
「俺・・・助けられなかった・・・」
ぽつりと、が泣きながらつぶやいた。
それに気付いたルーティが、手を肩に残してゆっくり身体を離した。
それからは堰を切ったように、どんどんと言葉が続いた。
「イレーヌさんとバルックさんね、どっからきたかもわからない見ず知らずの俺のことすっごくよく面倒見てくれたんだ。一緒に買い物行ったり、食事したり、剣の稽古したり、子供たちと遊んだりバカいったり・・・。こんな得体の知れない奴にだよ?二人とも・・・本当の父さんと母さんみたいにすごく優しくしてくれた・・・」
「・・・・」
「本当に・・優しくて・・・。俺、ここに来たとき確かにわくわくしたけど、本当はとても怖かった。目がさめたら人は死んでるし、モンスターはいるし。いつも何か起こるんじゃないかってびくびくしてた。・・・なにより、知ってる人が誰もいないこの世界は、どこにいてもすっごく寂しかった・・・」
誰も一歩も動かずに、静かにの話しを聞いていた。
は懐かしそうに微笑んで、膝に顎をついて話を続けた。
「イレーヌさんとバルックさんはそんな時、何もしらないふりしてずっとそばにいてくれた。泣きたいの我慢しててもすぐにばれて、仕事で疲れてても俺のことあやしてくれた・・・」
「・・・」
コングマンが思わず名前を呼んだ。はコングマンの方を見て微笑むと、今度は上を向いて楽しそうに笑った。
「リオンはね、ダリルシェイドについて、一番最初に友達になったんだ。・・・・といっても、最初は無理やりだったけどね」
くすくす笑うと、今度は懐かしそうに目を細めた。
「それでも、リオンは飽きずに相手してくれて、俺が一人でバカみたいに何か抱え込んでるとすぐにそばにきて、ひねくれたやり方だったけどなぐさめたり元気付けたりしてくれた。シャルもよく相手してくれて、俺にとっては気の良いお兄ちゃんみたいだった」
リオンの話になるとスタンとルーティはうつむき、フィリアたちは眉をひそめた。
「イレーヌさんやバルックさんがいたから、俺はこの世界でもがんばれた。リオンがいてくれたから、俺は二人と離れても寂しくないって思えた。ヒューゴさんもレンブラント爺さんもみんなみんな・・・。なのに俺は・・・・・誰も助けられなかった・・・」
と言うと、はぽろぽろと涙を流しながら自傷気味に笑い、全員の方へ顔を向けてかすれ声で話しだした。
「俺、助けられたかもしれないのにだよ・・・・?!命張ってでもイレーヌさんたちを止めて。リオンの役だって、俺が変わりにやってれば・・・そうすれば・・・・!!!」
悔しそうに顔をゆがませると、は両手を顔の前まで持ってきた。
がしっと額をむしるようにつかむと、元々うずくまっていた身体をさらに小さくした。
「俺は結局何もできない!!自分ばかり助かって・・・!!もう、こんなの嫌だ・・・・・!」
言うと、は頭を下ろした。
声を押し殺して泣くになにも言えず、肩をつかんでいるルーティ以外はただ固まっていた。
「・・・・どうして、みんな死んじゃったんだろうね」
「スタン・・・!」
ふと話し始めたスタンに、ルーティが批判するように名を呼んだ。みんななにをいいだすんだ、と驚いた表情でスタンを見ている。
が、スタンはそれを無視して、今はもう青白い光しかださない空を仰ぎながら話しを進めた。
「イレーヌさんもバルックさんもレンブラントさんもヒューゴもリオンも。みんな、俺たちがもっと何かしてれば助かったかもしれない」
スタンがそういうと、ルーティもウッドロウもフィリアもマリーもうつむいた。
は腕にますます力を入れた。
「・・・でも、俺たちは生きてる。生きてるんだよ、」
「・・・・」
空を仰いでいたスタンが顔をおろしてを見た。
は地面をじっと眺めている。
「どういういきさつであろうと、俺たちは生き残ってしまった。だからさ、・・・・なんにもできない、じゃなくて、これからやっていこうよ」
「スタン・・・」
「これから始めれば良い。過ぎてしまったことをいつまでもウジウジ考えてたって終わらないよ。自分だけ生き残ってしまったことを後悔するくらいなら、その分、これからがんばっていけばいいじゃないか。うーん・・・なんか、上手くいえないけど・・・」
「・・・いいよ」
頭をぽりぽりと掻いていたスタンに、がぐすぐす鼻を鳴らしながら声をかけた。
頭を上げて、とても穏やかな顔をしている。
「ありがとう、スタン・・・。俺、自分を見失ってた。あんまりにも腹立たしくてむしゃくしゃしてて、コングマンに当たっちゃうし。もー最低だよな」
最低、というの声は、先ほどとはうってかわって明るかった。
まだ涙声ではあるが、それでも元のらしい言葉に全員が笑みをこぼした。
「まだ悲しいけど・・・悲しむのは、休むのはまだすこし先だね。今はまだやりたいこともやらなきゃならないこともいっぱいあるし!」
「でも、とりあえず今は休みなさい。あんた無理しすぎ」
ぐっと手を握り言ったのおでこをルーティがピンっとはじいた。
いて、と言いながら額を押さえると、はてへへへと笑った。
「あんたはマリアンの手伝いでもしてきてあげなさい」
「えー」
「いいから言うこと聞きなさい」
「へ、へい・・・・」
が脅えながら頷くと、ルーティはよし、といってすくっと立ち上がった。
そんな二人のやり取りを見て苦笑いしたり大笑いしたりとそれぞれ反応すると、初めて息を吸った、と錯覚するほど一気に張り詰めていた空気がとけた。
さーもどろもどろ、と背伸びをしながら歩き出したスタンだったが、しばらく進んだところでが座ったまま声をかけてきた。
「なぁ、スタン。リオンは・・・・死んだのか」
暗い中、座ったまま空を眺めているの表情は見えなかった。
スタンはを見てからうつむきしばらくすると、また顔をあげて静かに答えた。
「ああ、死んだよ。・・・・あの海底洞窟の中で・・・」
「・・・・・そうか」
普段と変わらない声だったが、悲しそうな空気までは誰も隠せはしなかった。
をおいて会議室に戻る途中、ジョニーは「あーあ」と大きくため息をついた。
「あいつ、きっと信じないぜ」
「・・・リオンですか」
「・・・しょうがないわよ」
それきり、会議室に入るまで誰も口を開かなかった。
続く
−−−−−−−−−−−−−−−−
ふ〜。無駄に長かった・・・(待て)
ルパン見ながらは編集できませんね。いつも以上にきっと誤字があるだろう・・・(コラ)
あと2つくらいで終わ・・・・らせたいなぁ(待て)本当はコレが一歩手前だったのにぃー(駄々こねんな)
ついでに主人公の容姿がリオンやルーティに似ている理由が、単に前回の話でマリアンに「エミリオかと思った」発言させたかっただけだったりするのは小さな秘密・・・(大きいから)
さーあ主人公本領発揮?!の前にもう少しだけセンチメンタルI・N・G−☆(帰れ)
えー・・・ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました。(礼)