ウィィィィィィン・・・・と、何か大きなものが動くような音がした。
「さあ諸君、見てみたまえ。世界が変わる第一歩だ」
ベルクラントの操縦室。ヒューゴの声が響いた瞬間、空の上だというのに地響きがした気がした。
my way of living 33
〜女は度胸と根性だ!!〜
シュンッッとか細い音がしたかと思うと、下からカッとしゅう色の光が見えた。
(これがあのベルクラント・・・・!!)
ダリルシェイドの近くにあった山が、一瞬にしてなくなり、代わりに大きなクレーターができていた。
無くなった山の土はふわりふわりと空へ浮かび上がり、とうとう自分たちのいるダイクロフトまでやってきた。
横で止まったかと思うと、浮いてきた土はむくむくと膨れ上がり、蜘蛛の巣状に空を覆った。
(こんなことが本当にあるのか・・・・?)
記憶が戻った所為でか、は余計にこの別の世界のことを客観視していた。
ゲームの中で見ていた世界が、その世界で起こっていたことが、今時分の目の前で起きているのだ。
不思議な感覚を感じながら、は動く気力を失くしていた。
目の前でではないが、確かにリオンは死んだ。
スタンたちはここにはいない。
ただ人の手によって動かされている機械が周りで絶えず動き、外に見える風景といえば蜘蛛の巣状に広がった新たな地面と果てしなく広がる空。
夢ではないのか、と、はふと考えた。
普通に考えて、これはありえることではない。
自分はゲームの中にいるはずの人物たちと冒険をし、その世界を歩き、そして今ここにいる。
いったいどうやってここまできたのか。なぜこの戦いに巻き込まれているのか。
横たわったまま、は頭をフル回転させた。
(・・・・・何考えてるんだろう。これって現実逃避?いや、でもこれって現実なのかなぁ。夢・・・でもないよな、リアルに痛い。マジで痛い。ていうかなんだよこれ!?動けよ身体!!つか邪魔そこのおっさん!!普通に許せんぞこの状況!!)
・・・と、心の中でいくら叫んでも声も出ず、身体も動きもしない。
ちなみに八つ当たりされたおっさんとは地上を見てにやけているヒューゴのことだ。
(っだーーーー!!!もうなんだって俺がこんなとこきてこんなことされなきゃならんのだ!!?大体俺はたんにTODをやろうとしていただけなのに!!オイこらフォルトゥナ!!いや、まだいないか?だったらアタモニ神!!いるんだったらどうにかせいや!!)
とうとう神様にまで八つ当たりをするしまつだ。
(あーあ。ほーんと・・・なんでこんなことになったんだか・・・・・。リオーン。のヴァーカ。バーか。バカバカバカバカバカバカバカバカバカ)
ヒューゴとイレーヌたちが何かを話している間中、は馬鹿を連発していた。
(バーーカ。バァーーカ。ヴァーーーーーーーーーーーカ。・・・ってオイ、つっこみなしかよ。ここで「誰がヴァカだこの痴呆娘!!」だろうが!)
とが一人で葛藤(?)していると、ヒューゴたちがなにやら話しながら二人に近づいてきた。
(あー寒。俺一人でなにやってんだろ・・・・。リオンー。つまんないよー。早くこいよ。なにやってんだよ。シャルまでつれてっちゃ遊ぶ相手いないだろうが。もう「帰れ!」でもなんでもいいからでてこいよ・・・・このバカリオン!)
「とりあえず今日はダイクロフトへ移動しよう。この子は・・・」
「私たちで運びますわ、ヒューゴさま」
を運ぶのをイレーヌとバルックが申し出ると、ヒューゴは少し考えた後に「そうか、頼もう」と言ってレンブラント爺にマリアンを運ぶよう命じていた。
イレーヌたちに運ばれるとあってほっとため息・・・はつけないが安心したは、かすかに感じる浮遊感に身を任せた。
「意識が戻ったままだな。しばらく眠らせておこうか」
(げぇ!?やめれアホーーー!!)
の心境を知ってか知らずか、ヒューゴはの目に手を添えるた。
(暗・・・・)
ヒューゴの手が目にかぶさったところで、の意識はとぎれた。
次にが気が付いたときは、広い部屋のベッドに横たわり、イレーヌとバルックに頭をなでられているときだった。
二人ともなにやら表情を固めている。
「この子を巻き込んでしまったわね・・・」
「できればこんなことに巻き込みたくなかったが・・・・下にいるよりはここにいる方が安全だ」
「ごめんね。しばらくここで眠っていてね・・・」
(そんな!!俺だけ助かるっての!?)
二人の言葉を聞いて、は信じられないと驚愕した。
それが子供を思う親の心情そのままのものだったのだが、それを受ける側のとしてはどうにも理解できなかった。
なにより地上には仲間や友人たちがいる。イレーヌはノイシュタットの子供たちまでも見捨てようというのか、と、は二人に怒りすら覚えた。
しばらく見つめられていたかと思うと、イレーヌが急にぽろぽろと涙を流しだした。
「イレーヌ・・・・」
「ごめっ、ごめんなさいっ・・・」
バルックに肩を抱かれたが、イレーヌは一向に止まろうとはしなかった。
「この子・・・・許してくれるかしら?今から私たちがやろうとしてることに・・」
「許しては・・・・くれないかもしれないな。それでも、俺たちはやらなければならない」
「分かってるわ・・・・」
「この子のためでもある・・・。この子には幸せになってほしい」
言うと、バルックはの頭を優しくなでた。
イレーヌはを見ると、一層涙を流した。
「ごめん・・・・・ごめんね・・・・・・。でも、もうこれしか方法がないの・・・・・私たちを許してね・・・・・」
表情すら出せなくなったを抱き上げると、イレーヌはぎゅっとを抱きしめながら泣いた。
「俺は許してくれなんて言わない・・・。ただ、お前だけは、どうか・・・」
そういうとバルックは、イレーヌごとを抱きしめた。
腕を回しただけの簡単なものだったが、は肩に感じた重みを何故か強く意識した。
よくわからないが、なにかつながったものをは感じた気がした。
それからもうこの二人とは長くいられないのだろうか、ということをふと頭によぎらせた。
考えたくない。
考えたくない。
考えたくない。
(そうだよ・・・考えたくない。イレーヌさんとバルックさんに会えなくなるなんてそんなの・・・!!)
「・・・・・?」
「泣いているのか・・?」
何かの感触があったのか、イレーヌとバルックが顔を離した。
何事か?と思っていたは、バルックの言葉を聞いて初めて涙を流せていることに気付いた。
よくよく顔に意識をもっていくと、つ・・・と一筋、涙が伝っている感触がある。
「悲しいの?」
「俺たちの言葉が通じてるのか?!」
バルックとイレーヌに言葉をかけられるたび、はぼろぼろと涙を流した。
(通じてる・・・・通じてる・・!?)
は自分でも驚いていた。身体は未だに動かないし、顔の表情だって動いているとは思えない。
意識だけ体のどこかで固まっているような感覚だ。
それがやっと外とつながったのだから、その分喜びも大きかった。
(イレーヌさん、バルックさん、もうやめて帰ろう?俺、こんなところにいるのはもう嫌だ!)
声をだそうと試みても、出るのは涙だけだった。
(くそっ・・・・なんで・・・・!!!)
悔しさで余計に涙が出そうだった。二人はそんなを見てどう思ったのか、驚いたような表情から悲しそうな表情へとうつっていた。
「ごめんね、。でも大丈夫よ。あなただけは無事だから・・・」
「ヒューゴさまなら、お前を大事にしてくれる・・・」
(違う!!そんなこと言ってるんじゃない!!どうしてそういう方に考えるかな!?)
「きっと世界を変えてみせるわ。だから待っててね」
「帰ってきたら、また皆で桜を見よう」
もう止められない。もう通じない。
そう悟って、は途中で叫ぶのをやめた。
まだ手の届くところにいるのに、二人にはもうなにも通じないと、は諦めた。
「さあ、もう行かなきゃ」
「ああ・・・そうだな」
そう言うと、二人はベッドから立ち上がった。
(止めることすらできないんだ・・・。この身体、もう動かない。もう、二人を止められない)
「じゃあね、」
「またな」
一回づつ頭をなでると、二人は部屋から出て行った。
(・・・・)
『泣きたいときに・・・泣けるようになっておきたいじゃんよ?』
(・・・・・泣きたいときなのになぁ・・・・。泣けねえじゃん。意味ねー)
もうすっかり止まってしまった涙も、すっかり冷めてしまった心も、全部投げ出してはただ動かない身体をそのままにしていた。
抵抗すらやめると、むしろ眠たくもなってくる。
うつらうつらしだしたころ、部屋の扉が開いた。
「さすがに今回は動けないかな?」
(・・・・なんだよ、おっさんか)
イレーヌたちと入れ替わりでも待っていたのか、ヒューゴはイレーヌたちが出て行ってから数秒もたたないうちに入ってきた。
「最後の挨拶はすんだか・・・・おやおや、グレてるのかな?」
(いや、なんで分かるんだよお前)
そこで冷静につっこみをいれるのもどうかと思うが、表情のないの心境判断をするヒューゴもどうだろうか。
とりあえずヒューゴは勝手に心境判断−−−しかも当たっている−−−をすると、ベッドに腰掛けた。
「彼らのことか。それならば心配ない。彼らなら立派にやってくれるだろう」
(だからなんでわかるんだっつの)
「そりゃあ君をこんな風にしたのは私だからね。全部分かるよ」
(・・・・じゃあおっさんてのも?)
「もちろん」
(うそこけ!!)
にっこりと笑いながらヒューゴが頷くと、はつっこみながらも(し、しまったぁぁぁぁあああああ)と心の中でのた打ち回った。
そんなを見てさらに笑うと、ヒューゴはさてと、と言って立ち上がった。
「そろそろ行かなくては。君と遊ぶのはまた後だ」
(あーあーそうかよ。ったく惚れたとか抜かしといて随分な扱いだな)
「まあそう怒らないでくれ。私は表上、冷血なヒューゴ・ジルクリフトなのだから」
そう言って不敵に笑うと、ヒューゴは額に一つキスをして部屋を出て行った。
(勝手なこと抜かしやがって!つかいちいち恥ずかしいやつーーー!!!そういえば最後の挨拶とかって・・・)
ヒューゴの最初の言葉を思い返し、はハッとした。
(もしかして、イレーヌさんたちどっか出るのか!?だからさっきまで二人だけがここに・・・?ちょっとまてよ!!)
ふざけんじゃない、とは今までに無いくらい身体に力を入れた。
(うーーーーごーーーーーけーーーーーーーーー!!!)
ぐぐ・・・・と腕が動いたかと思うと、すぐにぱたりと落ちてしまった。
(くっそこの・・・・・・女は度胸と根性だーーーーーー!!!!!)
全く関係無いのだが、掛け声としてその時は力を発揮した。
(っっだー・・・・はー・・・・やっと、ここまで・・・・)
扉までたどりつくと、は少しだけ扉を開けて外の様子を伺った。
「ヒューゴ様、やはりこれは間違っております」
レンブラント爺の声だ。
「ほう、間違いだというと?」
「こんな方法で、本当に世界が救われるとお思いですか?坊ちゃんも・・・・」
「お前は、リオンの行動を否定するのか?」
レンブラントの言葉をさえぎって、ヒューゴが有無を言わせないような声色で言った。
いえ、決してそんなことは・・・・と言ったが、レンブラントはヒューゴをまっすぐに見据えてまたはっきりと「しかし違います」といった。
「やはりこのような方法で世界が変わると、救えるとは思えません。私は今まで本当に一生懸命なあなた様をみて・・・」
「お前の言いたいことならわかっている。ただ・・・今更そういわれても困るのだよ」
そう言ってふぅ、とため息をつくと、ヒューゴは残っていたオベロン社の社員にレンブラントを捕まえさせた。
「迷いがなくなるよう、いいものをあげよう。私からのプレゼントだ」
「ヒュ、ヒューゴさっ・・・・」
ざらざらと白い粉を、ヒューゴはレンブラントの口に無理やり流し込んだ。
薬のようだ。
(あれって・・・・?−−−−!!)
クスリを飲まされてすぐ、レンブラントに変化がおきた。
それをみると、社員たちも手を離し、レンブラントから離れていった。
「は・・・・・はひ・・・・・・は・・・・・っ・・・」
「さあレンブラント、お前はミックハイルへ行ってくれ。そこのワープゲートからいける」
なにやら奇妙な石やら板やらが並んだところをヒューゴが指差すと、レンブラントはふらふらしながらそこへ向かっていった。
イレーヌは口元を右手で押さえ、眉をひそめている。
「バルック、君はヘルレイオスへ。恐らく奴らが来るとしたら、レンブラントの次に君のところへ行くだろう。イレーヌはクラウディスへ。守護竜の全ての管理はそこで行われている」
「「はい」」
(!!)
イレーヌとバルックは返事をすると、それぞれ違う場所からゲートへ入り、光と共に消えていった。
そしてヒューゴも、マリアンとオベロン社の社員をつれるとゲートの中へと消えていった。
誰もいなくなったダイクロフトの中で、は動こうか動くまいか迷っていた。
(ゲートもあるしなぁ。なんとか、身体動かないかなっと)
先ほどので味をしめたのか、はなんとか立ち上がった。
(うっし。なんとか立った・・・・。急がないと・・!!先にバルックさんが危ないんだよな・・・)
ふらふらと倒れそうになりながらも、はなんとかワープゲートまでたどり着いた。
(ここに入れば・・・・)
バルックと同じようにワープゲートに入り込んだ、が、何の反応も起こらなかった。
(な・・・・・なんで!?なんでいけないんだよ!!)
何度繰り返しても、ワープゲートは作動しなかった。
(クソ・・・!!どうしたら・・・・!!)
ふと目に入ったのは、飛行竜に似た生き物だった。飛行竜とは比べ物にならないくらい小さなものだ。
「た・・・のむ・・・!ヘル・・・レ・・イオス!」
がなんとかその生き物に近づくと、生き物は一鳴きし、首を下げた。
「うっ・・・・わっ・・!!」
を背中に乗せると、その生き物はバッと翼を広げ、ダイクロフトを飛び出した。
(ヘルレイオス・・・・どこだ!?)
びゅうびゅうと強い風を受けながらも、は周りを見回した。
それらしき建物も何もみえなかったが、竜のような形をした生き物はぐんぐん進んでいった。
「おま・・え、わか・・?」
とぎれとぎれが質問すると、竜のような生き物はギャアと一鳴きした。
そのままは生き物につれられて、三角の建物までとんでいった。
(ここがヘルレイオスか・・・?とにかく、いってみるしかない)
「さ・・・んきゅっ、・・な」
出る声をなんとか使って礼を言うと、生き物はまた一鳴きした。
(急がなくちゃ!!ってどこだよここ!!わけわかんねえよバルックさん!!つかアホミク!!)
ところどころ迷いながらも、は上へ上へと進んでいった。
ヘルレイオスの最上階で、弓を引くヒュッという音と剣のこすれ合う嫌な音が鳴り響いていた。
「えい!!」
「ぐぉっ」
ピンク色の髪をした少女が弓を打ち、それがバルックへとあたった。
怯んだ隙を狙って、ウッドロウが切り込む。
「はぁぁあっっ!!」
「うわあぁぁぁぁっっ」
ザンッとバルックに思い切り剣がささった。
「っ!バルッ・・・・ク、さん!!!」
シャッと扉が開き、それとともに肩で息をするが入ってきた。
「さん!?」
「くん!」
そこにいたフィリアとウッドロウが驚き、ピンク色の髪をした少女は「え、えーっと?」とおろおろしていた。
の目には、血だらけで剣が刺さったバルックしか入らない。
「バルック・・・さん!!」
「・・・・何故・・ここに・・・?」
が駆け寄るのと同時に、ウッドロウは剣から手を離した。
どさりと地面におちたバルックを起こすと、バルックは息も絶え絶えになりながらに問いかけてきた。
「死・・・・んじゃ、やだ・・・・!!」
が泣きそうな顔をすると、バルックはふっと顔をゆるませた。
「そんなことで・・・・ここまで・・?その・・身体で・・・?」
「俺は・・・死なない・・け・・ど、バ・・ルック・・さん・・は・・・・!」
「ダメじゃないか・・・・。あそこにいれば・・・・安心だったのに・・・・・」
だめだといいながらも嬉しそうに笑うバルックに、はぶんぶん首をふった。
「ちが・・・・違う・・・・・。俺は・・・・・・」
「言葉も・・・戻ってきたか・・・・。もう・・大丈夫・・だね・・・」
「バルックさ・・・・!!」
段々と身体が動くようになってきたとは逆に、バルックは段々と苦しそうに顔をゆがませ、肩で息をしはじめた。
「ファンダリアの・・・王よ・・・・どうか・・・この世界を頼む・・・・」
「ああ、承知した」
ウッドロウの方を向くと、バルックはとぎれとぎれにウッドロウに言った。
それを聞いて安心したのか、ホッとしたような顔をしてため息をついた。
「・・・・最後に・・会えてよかった・・・・・」
「バルックさん・・・・・・!!」
「この剣を・・・抜いてくれないか・・・?苦しくて・・・・しょうがない・・」
「嫌だよ・・・・嫌だよ・・!!!」
がしがみついて首をふっていると、バルックはウッドロウの方を見た。
「・・・・くん、すまない」
「ウッドロ・・・・・?」
急に謝ったウッドロウに気を取られ、顔を上げた瞬間、ウッドロウはバルックに刺さっていた剣を一気に引き抜いた。
引き抜かれた瞬間、傷口から血がバーッと飛び散った。
「止まれ・・・・止まれよ!!!」
「愛してるよ・・・。私の・・・・可愛い・・・・娘・・・・」
「バルックさん!!」
何度も呼びかけたが、バルックはもうなにも返してこなかった。すぅ・・と息を引き取った後、の方を向いていた首もくたりと横へ落ちた。
(そんな・・・そんな・・・・・・!!)
「う・・・・あぁぁぁあああああああ!!」
は声を上げて泣いた。こんな風に泣くのは初めてだった。
フィリアもウッドロウも一緒にいた少女もバルックを見つめ、沈黙していた。
「・・・さん」
「っぅ・・・・くっ・・・」
しばらくして、フィリアが声をかけてきた。
も少し落ち着き始めてきたらしく、しゃくりあげてはいたもののもう声を上げて泣いてはいなかった。
ぐいっと手で涙をふき取ると、ふらふらと立ち上がってフィリアを見た。
「もういいのですか?」
「時間・・・ないんだろ?それにまだ・・・・・」
そこではハッとした。スタンたちがいない。
「スタンたちは・・?」
「あ、はい。スタンさんたちは別々に行動していて・・・・今頃はクラウディスの方かと・・・さん!?」
「俺、行く!!」
「くん!!」
ウッドロウとフィリアの声がしたが、は構わず走った。
「大丈夫だから!フィリアたちは・・・・そっちをやってて!」
聞こえたかどうかはわからないが、出る限りの声で叫ぶと、は外へと飛び出した。
「ごめん、またよろしく。今度はクラウディスへ連れて行って」
が言うと、竜のような生き物は一つ鳴いて首を下げた。
(今度こそ間に合ってくれ・・・・!!)
ぐんぐんとスピードを上げる生き物から振り落とされないように懸命にしがみつきながら、はただただ祈っていた。
「ここがそうなのか」
クラウディスにたどり着いたスタンたちは、モンスターをなぎ払いながらもなんとか最上階まで進んでいた。
間違いないというアトワイトの言葉と、『奥に装置があるはずだ』というディムロスの言葉を聞いて、スタンたちは奥へと歩いていった。
「それ以上来ないで!!」
「イレーヌさん!?」
奥の装置の前に、イレーヌが立っていた。
イレーヌはスタンたちを見ると、「やはりあたなたちだったのね・・・」と悲しそうに微笑んだ。
「だけどこれ以上、ヒューゴ様の邪魔をさせるわけにはいかないわ」
「イレーヌさん、どうしてなんです!!どうして地上を破壊するヒューゴに味方するんです!」
「地上に救いはないわ」
「なんのことです」
憎憎しそうに言うイレーヌを見て、スタンが眉をひそめた。
「あなただってみてきたでしょ?富と貧困・・・。この格差は・・・どうしてもうまらないわ!!富のあるものは、さらに富を蓄えようと、貧しきものをしいたげる。貧しきものはさらに貧しくなっていく。だから一度全てをご破算にするの。全てを破壊しなくてはならないの」
今までのイレーヌからは想像もできないような言葉を聞いて、スタンは驚いた。
「そんなのって、そんなのってダメだよイレーヌさん!」
「あなたにはわからないでしょうね・・・貧相にやぶれたもものの気持ちが・・・」
「分からなくても結構よ!あんたたちがやっているのは殺戮だわ。私たちはそれをやめさせる」
「私はそれを阻んでみせる!」
スタンの言葉に耳をかさないイレーヌと、それでも言葉をかけようとするスタンたちを見かねてルーティが口をはさんだ。
ルーティの言葉をイレーヌがそのまま返すと、ルーティは「威勢は良いけど、戦いの経験はあるのかしら?」と皮肉んだ。
「ここには古代技術を使った武器があるの。剣と違ってコレならっ、私にもあつかえる」
横においていた小型の大砲のようなものを構えると、イレーヌは無差別に弾を撃ち込んできた。
『あれは・・・レンズ爆弾の発射装置だわ!』
「気をつけてマリー!爆弾よ!」
「わかった!」
「ルーティ!」
戦闘態勢に入るルーティとマリーを見てスタンが慌てて声をかけた。しかしルーティはイレーヌを睨んだまま、スタンに答えた。
「あんたには戦えなんていわないわよ、スタン。戦いたくない相手だっているかもしれない・・・・。だけど・・・それが倒さなければなければならない相手なら、誰かが倒さなきゃならないのよ・・・。」
そう悲しそうに言ったルーティに、スタンはなにもかえせなかった。
「邪魔はさせない!」
叫ぶと、イレーヌはさらにレンズ爆弾を撃ってきた。
「・・・っはぁ・・・・はぁ・・・・」
はひたすらクラウディスの中を走っていた。
動かなくなりそうな身体を引きずりながら、それでも最上階へ登ろうとただそれしか考えていなかった。
(ここって・・・やっぱりカイルたちが来た・・・!)
クラウディスの構造は、少し違ったもののラグナ遺跡とほとんどが同じ構造だった。
木に囲まれた階段を登る途中、ベルクラントの中で聞いた嫌な機会音が外から聞こえてきた。
(まさか、また!!?)
窓は無かったが、シュンッというか細い音が聞こえたかと思うと、下の方から大きな爆発音が聞こえてきた。
「クソ・・!!」
動かなくなりそうな身体を引っ張って、は階段を登りきった。
「また人が死んだよ、イレーヌさん。お金持ちも、貧乏人も、悪い人も良い人も、皆今の攻撃で死んだ。皆いきなり巻き込まれて」
「だけど・・・だけどこれは・・・」
階段を登った向こう側で、イレーヌとスタンたちがいた。
イレーヌがまだ生きていたことにホッとするのと同時に、スタンの言葉を聞いてはギリッと歯軋りをした。
(なんとかして・・・・あそこまで・・!!)
がくがくと震える膝を左手で押さえ、右手は壁を掴み、は一歩一歩進んでいった。
「これがイレーヌさんの本当の望みなのか!?ヒューゴはまた撃つよ。今度は、ノイシュタットかもしれない」
「やめて」
「いじわるしてた子どもがいたね。イレーヌさんを慕ってた子供がいたね。皆一緒に死んでしまうんだよ!それがイレーヌさんの本当の望みなの!?」
「やめて!」
「みんなまとめて殺してしまうのか!?」
「そんなつもりじゃなかった!!・・こんな・・はずじゃ・・・でも他に・・方法がなかったのよ!」
スタンの言葉を聞いて、イレーヌは泣き叫んた。
座り込んで泣くイレーヌに、スタンは言葉をかけた。
「違うよイレーヌさん・・・この方法が間違っているんだ」
「スタンくん・・・?」
子供に言い聞かせるようにいったスタンの言葉を聞いて、イレーヌが顔をあげた。
「今ならまだ間に合う。ヒューゴの命令なんか、聞くのは辞めるんだ!」
スタンがそういい終えると、イレーヌはゆっくりと立ち上がって微笑んだ。
「ありがとうスタン君・・・。でも、だめ。もうまにあわないわ」
立ち上がったイレーヌは後ろへゆっくりと下がり、壁にあった窓をあけた。
「窓をあけてなにをするつもりだ」
「私はヒューゴさまの計画にに心を奪われ。何かか違うと思っていたけど、新しい世界をつくるには、一度破壊が必要だと思った」
「みんなヒューゴに踊らされていたんだ」
悲しそうにうつむくイレーヌに、スタンが言い返した。スタンの言葉を聞いたイレーヌは、「そうね・・・・」と悲しそうに微笑んだ。
「・・・だけど、ヒューゴ様に従って地上破壊を協力したは事実よ。私はもう・・・戻れないわ」
「まさか・・・イレーヌさん!」
窓からくる風を受けながら、イレーヌが下を見た。
スタンが声をかけると、にっこりと微笑みながらイレーヌが振り向いた。
「さようなら、スタン君。あなたたちに・・・新しい世界を・・・お願いするわ!」
「まって!!!」
「・・・!?」
身を投げようとしたイレーヌに向かって、スタンたちの後ろからが静止をかけた。
全員が驚いて振り返ると、壁に手をつけながら懸命に立っているがいた。
「イレーヌ・・・さん・・・!!」
「・・・どうやってここまで!?あなたは動けなかったはずよ!?」
なんとか前へと必死に歩いているを見て、一番驚いていたのはイレーヌだった。
つい数時間前まで表情すらかわらなかったが、今は歩いてまでいるのだから。
イレーヌの言葉を聞いてもスタンたちは理解できなかったようだが、急に現れたに心底驚いていた。
「小さな・・竜がいた・・・・。イレーヌさん・・死な・・ないで・・・・!!」
肩で息をしながら必死に喋るを見て、イレーヌが顔をゆがませ泣きそうになった。
肩を震わせうつむくと、イレーヌは泣き笑いをし、顔をあげた。
「そんな身体で、ここまできてくれたの・・・?」
「だって、イレーヌさんたちが・・・!!」
「悪い子。まってなさいって、言ったのに」
「でも・・・!!」
「ありがとう・・・」
喋りながら一歩一歩進んできたが丁度ルーティたちの横まで並んだとき、イレーヌは本当に嬉しそうに笑った。
それまでと違う表情を浮かべたイレーヌに気を取られ、もスタンたちも思わず止まってしまった。
「大好きよ。だから・・・・・ごめんね」
「っ!!イレーヌさん!!」
涙を流しながらにっこりと笑うと、イレーヌはそのまま後ろへ倒れた。
窓から落ちたのだ。
「イレーヌさん!?イレーヌさん!!!!」
「だめよ!!」
「、止まるんだ!!!」
窓まで走り出したを、スタンとルーティがすんでのところで止めた。
「嫌だ!!離せ!!!助けなきゃ・・・!イレーヌさんが・・!!っイレーヌさん!!イレーヌさん!!!」
両腕を掴まれていたが、は二人が本気で押さえつけなければならないほど暴れた。
そのうちルーティがマリーに窓を閉めるよう指示をだすと、マリーは急いで窓を閉めるボタンを押した。
「イレーヌ・・・・さん・・・・」
窓がしまると、は力が抜けたようにペタンと座り込んだ。
するりと腕を離すと、スタンとルーティは窓を見つめたまま動かなくなってしまったを悲しそうに見た。
「・・・・」
大きく目を開いたままぼーっと窓を見つめているにスタンが声をかけたが、はピクリとも反応しなかった。
『・・・スタン、守護竜の破壊装置がそこにある。自爆スイッチを押すんだ』
「・・・わかった・・」
ディムロスの言葉に頷くと、スタンは守護竜の自爆スイッチを押した。
スイッチを押したのと同時に、外のあちこちからパンッパパパンッッと爆竹のような音がした。
「あら・・・?」
「近くにも守護竜が来ていたのか?」
クラウディスのすぐ外でパパパンッという音が聞こえ、ルーティとマリーがそれに反応した。
二人の言葉を聞くと、先ほどまでピクリとも動かなかったががばっと顔をあげた。
「まさか・・!!」
「え、!!?」
「待ちなさい!」
ダッと走り出したに驚くと、スタンたちは急に走り出したを急いで追いかけた。
そのまま外まで走ると、は急に立ち止まった。
「うわっ、っとと!」
「もう!いったいどうしたっていうのよ!」
「・・・・・これは」
ぼうぜんとが立ち尽くしている目の前では、なにかの肉片がとびちっていた。
よくよく見るとうろこのようなものがついているものもある。
「・・・これって・・・」
「・・・俺をダイクロフトからつれてきてくれたんだ・・・。守護竜だったなんて・・・・・・」
スタンの問いかけに答えると、は飛び散った肉片まで歩いていき、その一つをしゃがんで拾い上げた。
「ごめんね・・・俺がこんなところにつれてこなければ・・・・ごめんね・・・・・」
ごめん、と謝り泣きながら、はその肉片をぎゅっとだきしめた。
暖かさもなにも感じられなかったが、自分を乗せてきてくれた小さな身体のうろこの感触は、確かに手に残っていた。
その一つ一つを丁寧に集めると、はその山の前にペタンと座り込んでしまった。
「・・・」
「もう・・・疲れたや。なんか、身体が動かなくて」
「ヒューゴに何かされたのか?」
「わからない。気付いたら声も出なかった」
目線もなにも動かさず、だんだんと感情のない言葉だけが返された。
そんなをマリーが見ていると、後ろでスタンたちが通信機をかまっていた。
「ウッドロウさんたち大丈夫かな?」
「ウッドロウたちなら大丈夫だよ。バルックさんを倒してイクティノスのことかまってた」
「・・・・・」
スタンたちの言葉を聞いて、がさらりと言葉を返した。
の言葉を聞くと、スタンもルーティも信じられないものを見るような目でを見た。 そんなスタンたちのことは気にせず、はただぼーっと子竜を集めた山を見ている。
中身がなくなってしまったようなを見て、スタンもルーティも悲しそうに顔をゆがめた。
マリーがそっと肩に手を置くと、をゆっくり立たせた。
「とりあえず、ウッドロウたちと合流しよう。ここでは危ない・・・・」
「そうね・・・」
「ああ・・・」
蜘蛛の巣状だった外郭も今ではただっ広い荒野のように空に広がり、スタンたちはさらに顔をゆがませた。
マリーを手伝ってを歩かせようとしたルーティが、思ってもいなかったほどかかってきた体重を腕に感じて目を伏せた。
続く
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
やっとこさここまでかけました〜〜〜。いや、ていうか今ぶっちゃけなきそうです(こんなんで泣ける自分がすごいと思いきや実は↓)
好きなキャラが死んだときは本当に辛い・・・(待て)ゲームやっててこの二人倒すたびに一旦やめてました(笑)
これも書いてる途中で、バルックさんが死んだところで書くのをやめてしまいました。
なんてったって午前2時(待て)
・・・起きてられっかゴルァア!!(知るか)ついでにこの進み方はドラマCDです。
さーてさて次はヒューゴでもシメ・・・・倒しにいくか☆(苦しいな)落ちた後が楽しみでしょうがないです〜〜。
ではでは。ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました。(礼)