「気がついた!」
スノーフリアの宿で、一行は青年を看病するために一晩すごした。
なにより情報が何一つつかめていないハイデルベルグのことも聞けるかと、期待半分で朝から青年のいる一室に全員が集まっていた。
うっ・・・・と唸り声を上げた青年を見て、スタンが歓喜の声を上げた。
「ここは・・・・」
「ウッドロウさん、大丈夫ですか」
目を開けてすぐきょろきょろと部屋を見回すと、声をかけたスタンの方を見て「君は確か・・・・」と弱弱しい声でつぶやいた。
「スタンです。雪山でウッドロウさんに助けていただいた」
「ああ・・・あのときの・・・・」
スタンのことを思い出したのか、上を向きながら納得したような顔をした。
「忘れられてたんだ・・・」
「言っちゃダメよ!」
後ろの方でひそひそと話す二人の声を聞いて、スタンはふぅ、とため息をついた。









my way of living 28
〜雪国の楽しさとガングロ王子のお茶目〜









とりあえず気を取り直したスタンは、首をかしげているウッドロウに向かって笑顔を送った。
強くなったものだ。
「はい、そうです。いったいどうしたんですか?」
「見ての通りだ。ハイデルベルグは攻撃を受け、私は単身、落ち延びてきた」
スタンが問いかけると、上半身だけなんとか起き上がったウッドロウが苦笑いして答えた。
ウッドロウの言葉を聞いて、やはりそうか・・・・とそこにいたほとんど全員が難しい顔をした。
「グレバムは・・・神の眼はファンダリアにあるんですか?」
「神の眼?あれは神の眼というのか。おそらく王城にあるだろう。だが、いまや城は奴らの拠点となっている」
『おぬし、王家の血か?ソーディアン使いなのか?』
『こ、この男が王!?』
クレメンテの急な質問を聞いて、ディムロスが思い切り驚いた。
もちろん、周りで話を聞いていたスタンやたちも驚いている。
まさか相手が王族とは、と。
「資質だけは受け継いでいる。山小屋では嫌われていたようだが・・・・。まぁ、よろしく頼むよ、ディムロス君」
このメンバーでは数少ない−−−むしろスタンだけか?−−−爽やかな笑顔を顔いっぱいに浮かべながら、ウッドロウがいった。
『あ、ああ・・・・』
「うわーディムさんてば酷ーい!人を見た目で判断したのね!」
『ち、そういうのではなく・・・』
『ディムロスってば酷ーい☆』
『だからそういうことではなく』
『まだまだ若いのぅ☆』
『・・・・・』
『典型的ないじめられっこね』
、シャルティエ、クレメンテにいじめられ、ディムロスは無言になってしまった。
最後のアトワイトの慰めにもならない言葉もまた痛い。
そんなソーディアン+@(酷)の会話を聞いてしばらく泣きそうになっていたスタンだったが、笑うルーティたちを無視して話をもとへ戻した。
「じゃあ、俺の名前がわかったのも・・・・」
「ディムロスくんの声が聞こえたものでな。だますつもりは無かったのだが・・・」
すまない、とバツが悪そうに言うウッドロウに、スタンがいいですよ!と焦りながら返した。
話がひと段落すると、クレメンテがウッドロウに『ファンダリアにはイクティノスがおったはずじゃが?』と質問をした。
「・・・・残念ながらイクティノスは敵の手に渡ってしまった」
「そうか、厄介だな・・・向こうもソーディアン持ちか」
深刻な顔で自分の手を見つめながらいったウッドロウの言葉を聞いて、リオンが顔をしかめた。
しん・・と静まり返った室内で、スタンがふっと顔を上げた。
「ハイデルベルグへ行こう!神の眼のありかがわかってるんだ!」
「そうね・・・・こんなチャンス、めったにないじゃない!」
スタンが気合を入れるように言うと、ルーティも同じように息巻いた。
フィリアやマリーも行く気満々に頷くと、リオンが呆れたようにため息をついた。
「やれやれ、呆れた能天気どもだ・・・・わかったよ、付き合ってやる」
「とーかなんとかいって本当は付き合いいいんだからなぁ坊ちゃんはv」
「・・・・・なにバカなことを言ってるんだ単細胞」
きゃは☆とわざとらしく笑いながらいったに、リオンが気持ち悪いと顔をしかめながらつっこんだ。
「素直じゃないなぁ〜。ま、そんなところも好きだけど」
「誰か、医者を呼んできてくれ。中枢神経がイカれたらしい」
「オイ」
くるりと背を向けていったリオンにが裏手つっこみを入れた。
二人のやりとりを見てくすくすと笑うと、ウッドロウが「それでは」と全員に声をかけた。
「それでは私も、同行させてもらおう。少なくとも君らよりは、ファンダリアの地理に詳しいはずだ」
「でも、お体が・・・・」
「心配ない。少し疲れていただけだ」
心配そうに見るスタンに笑顔を返すと、スタンもウッドロウに気押しされて頷いた。
「僕の足をひっぱるなよ。こいつらだけでも面倒が多いんだからな・・・」
「へー。リオンも大変だね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・お前のことだ痴呆娘」
「ええ?!こいつらって複数形だろ!?」
主にお前だ!」
「そげなーー!?嘘こくな!」
「どこの人間だ貴様」
「とりあえずここにいるってことは確かな人間」
「人間でもないやつに人間といった僕がバカだった」
「え?リオンてバカだったの。あはははははははは!」
「・・・とりあえずどこまでその幼稚な返事を繰り返すつもりだ?」
「とりあえずこういう返事の方がムカつくって事にリオンが気付くまで」
の言葉を最後に、二人は手で押し合いへし合いを始めた。
ぐぬぬぬぬぬ・・・・と競り合う二人をルーティとスタンでなんとかなだめていると、ウッドロウが声を上げて笑った。
「わかっている。せいぜい、気をつけよう」
はぁ、と疲れてうなだれるルーティとスタン。
とても楽しそうに笑うとあまりの恥ずかしさのため不機嫌なリオン。
いつもののほほんとした笑顔でみんなのやりとりを見るフィリアとマリー。
このなんともいえないパーティーに、まともそうなウッドロウが加算された。


「これから先のことを説明しよう。ハイデルベルグへの道は二通りある」
宿を出てすぐ、ティルソの森へそのまま向かおうとする全員にウッドロウが静止をかけ話始めた。
「このまま西へ進み、ティルソの森を抜け、サイリルの町を越えるのが一つ目のルート。だが、こちらにはグレバムの軍が展開しているため、進むのは困難だ。もう一つはハイデルベルグの背後にそびえる山脈から街に潜入するルート。この街の北にある洞窟から凍結した川を遡ってハイデルベルグの裏に回る。こちらは道こそ険しいが、グレバムの軍に気付かれる心配はない」
「・・・・・わんもあぷりーず?」
はついてくるだけでいいよ」
苦笑いしながら言ったスタンと一緒に、フィリアやマリー、ウッドロウも笑った。
あ、そう?よかったー。と真面目に答えたに呆れてため息をつくと、リオンは話を戻した。
「本当に言いきれるか?」
「北にある氷の大河は毛皮のマントがなければ凍えてしまうほどの寒さだ。それに凍った川を歩くなど、この国の民でもなければ思いつきはしまい?」
「ふん、道理だな。いいだろう、そっちで行く」
言ってさっさと歩き出したリオンを見て、スタンが肩を竦ませた。
「私はどうやら歓迎されてないようだね」
「違うよ。もっともなこと言われて悔しいんだよ。こんなしっかりした意見言う人いなくかったから、むしろ歓迎してるよきっと。あの態度はもう認められたんじゃないかな?」
人差し指を顎につけながらそういうと、はウッドロウと顔を合わせて抑えたようにくすくすと笑った。
「素直じゃないんだな」
「うん。かわいいでしょ」
「なにをやっているんだお前ら。日が暮れる前にさっさと行くぞ」
「はーい」
先に歩いていた仲間たちが振り向き二人を呼ぶと、二人は笑いながら仲間たちの元へと走った。
今までのの行動を知っているため、二人の微妙な笑顔を見てリオンは顔をしかめた。


「あの宿屋の女の人、綺麗だったな〜・・」
歩き始めて数十分。スタンが遠い目をしながら言った。
ルーティのオーラがなんとなく殺気じみているのは気のせいだろう。
「お前はああいうのが好みなのか?」
「へー。そうなんだ」
それを聞いてリオンとが悪戯っぽく笑いながらスタンを茶かした。
二人に茶かされると、スタンは慌てて手を振り焦ったように言い訳をした。
「ち、違うよ。ただ、綺麗だったなー・・・って」
「・・・・フッ。若いな」
「ブッッ」
くすっと笑ってウッドロウがそういうと、が思い切り噴出した。
手を口にあてて必死に笑いを堪えている。
なんだ汚い、とリオンが顔をしかめながら文句を言うと、「だ、だって!!」と手を離しとうとう大笑いしだした。
「若いなって!若いなって!いくつだよウッドロウ王!」
「私は23だが・・・・ってくん、私は王子ではあるが、王ではないよ」
「あれ?そうだったっけ?」
「こいつになにを言ってもしょうがないぞ」
「なんてったって痴呆娘だもんね」
首をかしげたの横から、リオンとスタンが茶々を入れた。
なんだーー!!とが怒ると、それを見ていた全員が笑った。
「面白いな、この集まりは」
「緊張感を削ぐ人が二人もいるからね」
笑っているウッドロウに、ルーティが肩を竦めながら言った。
その日、結局氷の大河の一歩手前まで行ったところで日が落ち始め、一行はそこで一晩野宿をしていくことにした。
「ほぅ、このミーストビートのポワレは絶品だな」
食事当番に回っていたのが丁度マリーだったため、運よくウッドロウはマリーの料理にありつけた。
感心しているウッドロウに、もう一杯目を食べ終えたがすごいでしょ、と声をかけてきた。
「マリーさんは料理が上手だからね。マリーさんおかわりーーー!!」
「あ、俺も!」
「・・・暴食」
「「何!?」」
ものすごい勢いでポワレを食べ終わった二人に、リオンがボソリと言った。
しっかり皿を受け取りながらリオンの方を向くと、二人は違う!と言い張った。
「俺はスタンほどじゃない!」
「あー、なんだよそれ!だっていっぱい食べるくせに!!」
「スタンには負けるもーん」
「いっぱい食べるのはな、いいことなんだぞ!いっぱい食べれば成長だって・・・・あ!」
「あ!」
「「リオン、いっぱい食べろ!!」」
「なんでそういく!!」
2杯目ももう終わらせながらスタンとがリオンに言うと、リオンが青筋を立てながら怒鳴った。
その後始まった大食い大会では、やはりスタンが優勝した。
「剣もできて料理も上手いとは・・・すごいねマリーくんは」
「それほどではない。私を言うならルーティだって、剣もできれば金にもうるさいし、スタンは剣もできるし騙されやすいし、は剣もできてボケもするし、リオンは口は悪いが天才剣士だ。フィリアなんてよくつっこみに爆弾を使う」
「マリー、それ褒めてない」
マリーのこの天然にはもう慣れたのか、ルーティは機械的につっこんだ。



次の日、日が昇ると一行はすぐ活動を開始させた。
氷の大河までは本当にすぐについたのだが、周りはすべて雪、氷。
ウッドロウからソーサラーリングを受け取ったスタンは、ルーティに睨まれながらもふさがっている道を溶かしは進んでいった。
「ちょっとスタン、あんまり使うんじゃないわよ!」
「分かってるよー。もー、お金のことになるとすぐにこうなんだから・・・」
何か言った?
「なーんにも!」
相変わらずのやりとりに、リオンがため息をつき他の全員が笑った。
「すっげーここの雪。全然手つけられてない!」
「はしゃぐな犬」
ひゃっほーうと新雪の上を歩くに、リオンが眉をひそめながらつっこんだ。
「てい」
べしゃ
「・・・貴様!!」
「ゆきがっせーん☆あははははははははは!!」
つっこまれた腹いせにが雪球を当てると、リオンは怒って剣を抜きながら追いかけてきた。
が、いかんせん地方の娘のは雪の上の走り方には慣れており、リオンは中々距離を縮めることができなかった。
「やーいやーいここまでオブフゥウッッ!!!
「フンッ。雑魚が」
「やったなーー!」
「うわー、楽しそうー・・・いって!!なにすんだよー!」
「やーい」
「未熟者が」
「このっ!」
歩きながら雪合戦を始めてしまった二人に巻き込まれ、そのうちメンバーのほとんどが雪合戦を始めてしまった。
クソも寒いこの雪山でおおはしゃぎする仲間たちを見て、ウッドロウは最初呆気にとられ、とうとう笑い出した。
「本当に、面白い集まりだな」
「ええ、みなさん楽しそうですわ」
「君は参加しないのか?」
「私、あまり身体を動かすのは得意じゃないので・・・。なにより参加したら最後、なにをされるかわかりませんから」
「なにか?」
のほほんと二人がその騒乱を見ながら歩いていると、スタンがルーティととリオンによって雪に埋められていた。
「ほら、あの通り」
「おや、本当だ。これは危険だな」
危険という言葉とはかけ離れた呑気さでウッドロウが言うと、同じくのほほんとしたフィリアがそれを眺めて微笑んだ。
会話とは不釣合いな雰囲気とテンポで話す二人には、危険の危の字もあたりはしなかった。
そのうち疲れたのか、雪合戦をやめると、一行は無言で氷の大河を歩いた。
「最近、一日がすぎるのが早く感じられるな・・・」
「老けるな」
「本当に、神殿にいる時とは比べ物にならないくらい一日が早く感じられますわ・・・」
「お前はもっと俊敏に動けっ」
「あははははははははははは!」
「煩い!」
ウッドロウとフィリアにつっこんだ後、笑いだしたにもリオンはつっこみを入れた。
「だって、リオンつっこみ上手すぎ!!」
「誰の所為でここまでなったと思ってるんだ」
「もとからつっこみは上手かったじゃん」
「どこかのバカの所為でそうなったんだ」
「誰だ?スタンかー。もー、ダメだなぁ」
この大馬鹿が
「俺かっ!?」
それ以外だれがいるこのバカがっ、と言うリオンの言葉からじゃれあいが勃発した二人だったが、丁度お昼を迎えたためにそのやり取りは中断された。
昼食をとると、体力の回復したスタンやルーティたちもよくじゃれあうようになった。
「うわ!ここすげー!川凍ってるよ!?」
「ここはすべってわたるしかない。割れる心配もないし、モンスターもでないから安心して進もう」
「さすがガングロ王子☆」
「ガングロ・・・?」
すっかりナビの役目を果たしているウッドロウにがお茶らけ、スタンがの言葉に首をかしげた。
ガングロと聞いてウッドロウが大笑いしていたのだが、はリオンによってシャルティエで殴られていた。
「なんでいきなりガングロなのよ」
「だってガングロじゃんよ。ていうか雪国生まれなのになんでガングロ・・・?」
「ガングロから離れろ」
早い会話についていけてなかったウッドロウだったが、本人はとくに気に留めることなくマイペースに答えた。
「昔から放浪癖があってよく外にでていたから、その所為じゃないかな?」
「それはやいたの?
「フフフッ。どうだろうね?」
「素敵だぜ王子☆」
ボケをかましたウッドロウにルーティが困惑した表情で問いかけると、素敵な笑顔で返された。
そんなちゃめっけ全開なウッドロウにがズビッと親指を立てると、ウッドロウは可笑しそうに笑った。
そんな仲間たちのやり取りを見て、アホが増えた・・・・・と一人うなだれ、リオンは自分の選択が間違っていたかもしれないと今更ながらに後悔した。
失礼極まりないが、今までの彼の苦労を見るとその気持ちも分からなくも無いだろう。(哀)
とにかく川を渡ろうと足を踏み入れたところ、スタンが思い切りしりもちをついた。
それに大爆笑して次々と足を踏み入れたのだが、ほとんど全員が転んでしまった。
「うわっ」
「あ、リオンもこけた〜」
「〜〜〜氷にひびを入れるほど大きく転んだお前が言うなッッ!」
二人して氷の上に座り、指を刺しあいながらギャーギャーと騒いだ。
そのうち慣れたのか、は氷の上をすいすいとすべって遊びだした。
「あはははは!これ面白ーーーい!」
「まあさん、お上手ですね」
「そういうフィリアだって上手くすべってるじゃん。スタンへったクソ〜〜!」
「煩いっ!」
未だケツすべりのスタンに、が大笑いしながら茶々を入れた。
「わっ」
「おっと、大丈夫かい?」
「ああ、すまない」
ようやく氷の上に立てたマリーが転びそうになったとき、ウッドロウが腕をつかんでそれを食い止めた。
マリーがほっと胸をなでおろしながら礼を言うと、ウッドロウはそれほどのことでもない、とやんわり言葉をかえした。
「なーなーリオン、あの二人どう思う?」
そんな二人のやや後ろで、がリオンに並びながら話しかけた。
「別に、どうも思わない」
「どんかんだなー坊ちゃんは。絶対ウッドロウマリーさんに気があるって!」
「お前はどうしてそう他人のことには敏感なんだ?」
「さあ?人のって見てると面白いからじゃない?ところでいつまで寝転がってんの?」
「・・・・煩い!!」
中々立てずに寝転がっていたリオンとともに寝転がっていたがそういうと、リオンが顔を赤くしながら怒った。










続く
−−−−−−−−−−−−−−−−
とうとう30話近くまできてしまいました〜。どこまで続くこの話。(きっとこの2・3倍)
ガングロ王子と大ハシャギですね主人公。
ていうかウッドロウ・・・・・ちゃめっけ多くなったなぁ〜・・・(お前の所為だろ)
氷の大河ではスタンがケツすべりをしていたような気がしたので・・・・・ププッッ。
リオンとか結構苦労して立ってそう!(コラ)なんだかんだ言って最初に立てたマリーの次くらいに立ってそう(笑)
で、最後がスタン。フィリアは案外上手かったりとか。したら面白いな(オイ)
なんか馴れ初めって感じでした〜。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!!