スタンとルーティからの手紙で、リアラたちがクレスタについたことを知った。
ラグナ遺跡に二人で出かけたことも。
それ以来、二人ともとても生き生きと生活していることも。
・・・昔の自分たちみたいに、覚悟を決めた目をしていることも。
「・・・最後の仕上げ、これで終了と」
「ならば、いよいよか」
「そうだな・・・。この生活もこれで終わりか」
「君たち満喫しすぎね」
人のベッドでお菓子食いながら本読んでんじゃねーよ天上王。
バルバトスなんてどっから持ってきたのか、いや確実に分かるけど、昔懐かしいボム作って遊んでるし。
「それじゃあ1年延ばしましょうか。卵投下」
「いやいやすっげーしらけるから!空気読めてないから!しかもなに卵投下ってやな響!」
「なんなら10年後にしろ」
子供出来てたらどーすんの!?
そこに着目するか
めっちゃ気になって絶対見に行っちゃうじゃん!と叫ぶ私にミクトランがつっこんでくる。
だってそうだろ!と返せばそうですねぇ、とおっとりフィリアが返してきた。
ちくしょー自分は関係ないからって呑気な。
ため息をついたバルバトスが、火薬の入った袋を投げて遊び出す。
誤って床に落ちたら舐めて掃除させてやろう。
「あら、いいですわね、ルーティ。毎日リオンさんをおちょくって遊んでるみたいですわ。うらやましい
「・・・なんか怖いよフィリア。つーか、私には哀れで仕方ないんだけど」
手紙によれば、疎遠な感じで逃げまくってたジューダスをスタンが毎度捕獲→無理やり家に連行→駄弁りや手伝いに借り出されるの手順で、今じゃすっかり馴染んじゃってるらしい。
昔みたいなやり取りできてすっごく楽しい!なんてイラつく感想まで添えられてた。
ますます神の卵おとしずらくなってんじゃねーかよ。
・・・きっと他のみんなには、生暖かい目で見られてるんだろうな。
がんばれジューダス。明日があるさ。
壊そうとしてるの私だけど。
「はぁー・・・。いっそ一思いに落とすか」
「そうしろ。グダグダしていても決まらん」
自分判断早いよな。とっとと死ににいってとっとと帰ってくるくらい。
あらあらと呑気に笑っていたフィリアが、ぽすりと手を叩いた。
嫌な予感しかしない。
「それじゃああいさつ回りに行かないと」
「いや、どーせみんな忘れちゃうから」
「そういう問題ではありませんわ。挨拶は基本です。さ、準備をして」
「なんの?菓子折り?ご協力感謝しますって、スタンたちはともかく国ごと巻き込んだウッドロウにお菓子持ってけって?」
「ジョニーさんはお酒がいいでしょうかね?」
「酒ならコングマンだろう」
「スタンはともかく、ルーティは金だろうな」
なんでこいつらこんなにノリノリなんだ。
特に天上王自重しろ。お前立場考えろ。
そうですわねーとかフィリアはとにかくわが道突き進んでる。
頼むからつっこみ救援求む。リオン、君に決めたい。
・・・無理か。
「レイン、なにをぼさっとしてる。とっとと行くぞ」
「え・・・マジでその方向で決まったわけ?」
「膳は急げですわ、レイン」
「親玉がそんなでどうする。しゃきっとしろ」
「あんたらの所為で気抜けるんだけどな!」
どうせ誰も聞いてやしない。
わいわい盛り上がりながら、私を引っ張って外に出る濃いメンバー。
頼むから、街のど真ん中に真っ黒い光で現れないで欲しい。めっちゃ住人驚いてる。しかも集られた。
適当に聖女パワー使ってから、お菓子やら酒やら色々買い込む。
挨拶まわりですか?なんて勘のいい店の亭主に、苦笑いを返しておいた。
それからは、また聖女パワーで異空間に全員集合だ。
スタンとルーティは都合上、遅れてくるけど。
「そうか・・・とうとうか」
「うん。色々とお世話になりました」
「こちらこそ、と返しておくべきかな、ここは」
やっぱり濃いぜウッドロウ。
雪国育ちは強く育つのか。
いやそんなことないはずだルーティやフィリアという例がいる。
「寂しくなるな。レインからもらえるカイルの写真、楽しみにしてたのに」
「マリー、私より写真なんだね」
「レインがいなくなるのも寂しいぞ?」
天然て怖い。
そうですわねーアルバムが15歳で終わってしまいますわって、乗るなフィリア。
私たちのやり取りを見てけらけら笑ってるウッドロウ。
強制的に連れてきたコングマンとチェルシーが呆れ顔してる。
「んじゃあ、別れと再生の門出だ。ぱーっと一曲披露するぜ」
「頼むからしびれないのがいいかな」
「眠るのもやめろ」
「・・・つーか普通にミクトランがいるのがありえねぇ」
「コングマンさん、小さなことを気にしていてはだめですわ」
「ものっすごく大きいですぅ・・・」
うん本当に。
こんなやつらとずっと一緒だったんだな、なんてコングマンに肩を叩かれる。
ジョニーさんの歌をBGMに(裏方聖女ってちょっ、おま、喧嘩売ってんだろ)、ばしばし背中たたきあった。
アホかなんてやっぱりバルバトスに呆れられる。
ミクトランには笑われた。
「お、みんな久しぶりー」
「随分と濃いメンバーね。疲れそうだわ」
「変わってよ。もう疲れたよ私は」
「あんたトップでしょ。気張りなさいよ最後まで」
会って早速叱られた。
・・・レイン負けないっ。
散々みんなにいじられてからかわれていじりかえして。
これまであった話なんかを振り返ってみる。しょせん年寄りの集まりだ。
けど最後だって分かってる分、楽しんだ。
こんだけ濃いメンバーじゃ、楽しくないわけも無いけど。
朝まで飲み明かすのは体力的に無理かな。・・・神の卵、勢いで落とすつもりだから。
「それじゃあみんな、今までありがとうございました」
「どういたしまして。お疲れ様、レイン」
すっかりレインという呼び名が定着してしまった。
笑顔で言ったスタンが、私の頭をなでる。
まぁリリスより年下だろうけどさ。
「最後の最後に失敗しましたなんて、やめてよね」
「大丈夫。そうなったらみんなを引っ張り出すから」
「おいおい。私たちは現役を引退してるんだよ?」
「ウッドロウ様が行くというのなら、私も行きますけどね!」
苦笑いするウッドロウの隣で、チェルシーがぐっと拳を握る。
冗談だと笑えば冗談ですませてよねとルーティにどつかれた。
「しっかり、決めてきてくれ」
「がんばれよ、レイン。私たちも地上から見守ってる」
「ファイト一発!です!」
「気分が落ちたら、歌って応援してやるよ」
「記念に銅像立ててやるよ。山小屋の横にでもな」
「ははっ。それだけはごめん」
「なんだとぅ!?」
コングマンのちょっといらない声援を拒否れば、くわっと強面を向けられる。
汚いからやめて、気分落ちる。
もう歌もいっぱいです。
わいわい騒ぎが始まれば、ルーティがぱんぱん手を叩いてソレを止める。
緊張感のまったくないやり取りに、自然と笑いが起きた。
明日、神の卵を星につっこませる空気じゃない。
「無理はしないでくださいね」
フィリアにそっと両手を持たれる。
思えば、同じ教団にいたからって理由で随分と一緒に時間を過ごした。
何度も心をゆるがせた私を、支えてくれた一人だ。
「うん」
頷けば微笑まれる。
和むというよりも、安心する笑みだ。
さすがは、英雄。
「最愛の友レインに、神のご加護がありますように」
泣きそうになるからやめてほしいな。
お祈りを終えゆっくり瞳を開けるフィリアに、苦笑した。
「その神を明日ぶっ倒すつもりなんだけどね」
捻くれた私に出来る、精一杯の強がりだ。
フィリアどころかみんなにも笑われる。
もう、そんなに笑うなっつーの。
「神はフォルトゥナだけではありませんわ」
「そーそー。大体そいつ生まれたてでしょ。フィリアのとこの神様とは、年季が違うのよ、年季が」
「年季て」
そういう問題か。
体育会系のノリだ。
笑ってたスタンが、私とフィリアの手の上に自分の手をのせてくる。
どうしたのかと顔を見れば、にっこり笑い返された。
「俺もお祈りするよ」
本当に・・・惚れてまうやろー。(あー久々に言ったこれ)
きょとんとしていたフィリアが、くすくす笑い出す。
そういうことならと、ウッドロウにマリー、ルーティ、チェルシーにコングマンにジョニーと。
みんな手を乗せてきた。
でこぼこの、酷い山の出来上がりだ。
「俺たちの仲間、レインに」
「神の加護があらんことを」
仲間、とまで言ってくれた。
全員が私のために目を閉じ、祈りを捧げてくれてる。
本当に、惚れちゃうだろ、あんたら。
涙よりに先に、かっこ悪いことに鼻水出てきて、慌ててすすったら笑われた。
「がんばってこい」
「いってらっしゃい」
「ああ!いってきます」
スタンとルーティに声をかけられて、大きく頷く。
みんなに見送られて、私は神の卵に移動した。
「・・・あれ?なんで君たちいるわけ」
「協力した分の報酬を受けてない」
菓子折り寄越せってか天上王。
がめつすぎだろ。フィリアは見送ってくれたぞ。
「ここまで付き合ったんだ。最後くらい見届けてやる」
・・・ミクトランよりは素直だけどね。
なんとも言いがたい二人に、私は笑ってしまう。
泣き虫だの不細工顔だの、散々いじられてやり返して三人で収まってしまった。
なんつーか、予想以上の進み具合だなぁ。
もっとオンリーロンリー聖女かと思ってた。
「どれだけ無様に終わるか見ものだな」
「途中ヤツらに加担してやろうか」
お前ら帰れよ!!
果てしなく人選、間違えたけど。









つぎはぎだらけの幸福論