カイルたちの時代に付いた私たちは、これまで会ってきた英雄たちに意見を貰おうと、イクシフォスラーで世界中を飛び回っていた。
ウッドロウさんにも、フィリアさんにも会った。
それでも、カイルは心を決めてくれない。
今日はクレスタに行って、スタンさんとルーティさんに会おうということになった。
これで、心を決めてくれたらいい。
きっとカイルは選んでくれるんだろう。
世界を。
みんなの未来を。
「じゃあ、俺たちは席をはずすか」
「そうだね」
「うん・・・。みんな、ごめん」
「いーって」
本当に謝らなければならないのは、私のほう。
ロニが私の頭を軽く叩いて扉に向かっていく。
目があったら笑い返された。
バレバレ、か。
カイルとスタンさんたちの話は、ほんの1・2時間で終わってしまったみたい。
少し歩いてくるって孤児院を出て行ったカイル。
まだ、心は決まらなかったみたい。
中に入って休みなさいと声をかけられて、全員で中に入る。
ハロルドはイクシフォスラーの改造するとかなんとかで、町の外に出て行ったけど。
・・・宇宙まで行くって。
それだけで済めばいいんだけど・・・。
「飛べ〜飛べ〜イクシフォスラー♪燃料吹き上げ打ち落とせー!」
「「「何を!?」」」
物凄く心配になってきた。
改造って、なにするつもりなのハロルド!?
ついついロニとナナリーとつっこんじゃったけど、ぐふふって笑うだけだ。
こ、怖い・・・!
「ここは聖女として、ハロルドを止めるべきじゃ・・・」
「待った!杖構えちゃダメ!」
「落ち着けリアラ!いくらハロルドでも・・・多分!大丈夫だから!恐らく!」
「普段メス研ぐわ薬混ぜるわ、不安を煽ることしかしてないがな・・・」
「「ジューダス!!」」
やっぱり不安だ。
ため息をついたジューダスが、そこまでバカじゃない、なんて一応・・・一応、言ってくれたけど。
とにかく中に入ろうと苦笑いしてるスタンさんに声かけられて、全員ため息ついちゃう。
・・・頼むよハロルド。
嫌そうな顔をしてた・・・というか、気まずくてしょうがないって顔をしていたジューダスは、笑顔のスタンさんに無理やりひっぱられてく。
こいつ全然変わってない・・・!て顔のジューダスは、私たちのいい笑いの種になったけど。
「話はカイルから聞いたわ。随分ご大層な旅をしてたみたいじゃない」
「いや〜ま〜・・・。最初はこんなこと、なるとは思ってなかったんスけどね」
ちらりと、ロニが私を見る。
すいません。
私が一番気まずいです。
ルーティさんが苦笑いしてる。
対するスタンさんは、呑気に笑ってた。
「いーんじゃないか?カイルも大切なものを見つけられたみたいだし。それに家を出る前と今と比べたら物凄く成長してるじゃないか」
「あんたは呑気でいいわね・・・」
「ルーティは心配しすぎなんだよ。カイルだってもう15だ。あいつは、ちゃんと答えを出すさ。だから安心して」
私に笑いかけてくれるスタンさん。
改めて、すごい人だと思う。
こんなにも簡単に人を安心させてくれる。
カイルが、この人たちの息子だっていうのも頷ける。
・・・すごーく嬉しそーに和やかな顔したジューダスが、はっきり言って面白いんだけど。
旅の話を聞かせてってせがまれて、みんなであんなことがあった、こんなことがあったって二人に聞かせた。
ロニがふられた話とか。
ナナリーが関節技決めた話だとか。
ジューダスがニンジンとピーマン食べれないことだとか。
ハロルドが夜な夜なメス研いでたことだとか。
ゾーディアンマズダーカイルとか。
その時は辛かったことも、話してみると面白かったり、懐かしく思えたり。
とっても不思議だ。
でも、とても暖かくて幸せに思える。
こうしてみんなで思い出を作っていけることが。
泣きそうになった。
・・・ジューダスがやけに二人に構われて、危うくボロだしかけたり慌てたりしてるのを見てると・・・特に。
なんで構われてるのかしらっていうか、バレてない?それ、意味無くない?スカスカ仮面。
時折この人大丈夫かなって思う。
「へぇ〜。聖女様と名高いエルレインがねぇ。クレスタにも来たことあるのよ。教会立てたいとか言って。ついでに奇跡もいくつか起こしていったわね」
「へー?そうだったんスか?」
「ああ、きてるきてる」
何故だかスタンさんがルーティさんに殴られた。
いってーな、なんかむかついたのよ、とそのまま乳繰り合いに発展だ。
ジューダスが呆れ顔でため息ついてる。変わってないんだろうなぁ、このやり取り。
「とてもこんなことするような人には見えなかったけど」
「そーだなぁ。どちらかっていうと、人里離れたところでのんびりしてそうだ」
「あんたね・・・」
「スタンさん・・・」
「どーやったらそんな答えに行き着くんですか・・・」
・・・いえ、核心ど真ん中よ。
あなどりがたし英雄スタン。さすがだわ。
「でも、話を聞いてると辻褄が合わない気がする」
「ほぉ。お前でもそう思うのか」
「おい、ジューダス」
「・・・」
昔のノリでやっちゃったんだろう。
けどスタンさんは気にしてない。ルーティさんなんてあっさり流してる。
いいのかな、これ。
「なんかさー、リアラを守るために動いてる気がしないか?」
「ちょっとスタン」
「いーだろちょっとくらい」
二人の言動も気になるけど、言われたことがもっと気になる。
私を、守るため?
「神から与えられた役目を終えれば、あいつもリアラも死ぬことはない・・・」
「だから、エルレインは何が何でも神を復活させようとしてる、ってこと?」
「だが、それだけでは説明が付かない。ただ単に神を復活させることだけが目的なら、リアラと手を組んで行動したらいい」
「そりゃそうだが・・・なんだかなー。スタンさんの言ってることも、あながち間違いじゃねーような気がしてきたんだよなぁ」
「・・・うん」
ロニの言葉に、ナナリーが眉根を寄せながら頷く。
説明はできないけどさ、とぼやくロニに、私も頷いた。
「・・・願えばかなう」
一体、何を言いたかったのか。
私の・・・願いは・・・。
「え、えーっと、俺、ちょっと外に出てくるよ。ガゼルさんに頼まれたことがあってさ」
「とっとと行ってらっしゃい」
「・・・なんかスタンさん、足引きずってねーか?」
「片方義足だもの。当たり前よ」
「いえ、そーじゃなくて、なんか、義足じゃない方が・・・?」
昔、バルバトスに襲われたときに切り落とされた足。
その後療養にアイグレッテで過ごしたスタンさんは、帰ってきて記憶をなくしてたカイルに旅の途中で怪我をした、って言ってたらしいんだけど・・・。
そっちじゃない足に、明らかにぐりぐり潰された後があった。
・・・なにか気に食わないことしたのかな、スタンさん。
「さてと、夕飯の支度でもしましょうかね」
「あ、私手伝うよ」
「俺も!」
「あーら、それじゃあ二人には洗濯物取り込んできてもらおうかしらね。ガキどもに邪魔されるから気をつけなさいよ」
立ち上がるルーティさんに、手を上げるナナリーとロニ。
にやっと笑ったルーティさんの言葉を聞いて、ロニが苦笑いした。
ナナリーはそういうの得意と笑い返してる。
ホープタウン出身は伊達じゃない。
「リアラ、ジューダス。あんたたちはこっち手伝って」
「もちろん!ね、ジューダス」
「・・・」
文句とか嫌味が9割だけど、それなりに喋るというかある意味お喋りではあるジューダスが、無言。
むすーっとしながら立ち上がるジューダスを見て、ルーティさんはくすりと笑った。
ねぇ、ホント、バレてるんじゃ・・・?
ちょっとはらはらしながらお手伝いを始めて、ルーティさんにあれこれ構われながらご飯を作った。
まともな料理が作れるようになったのか、とかいうジューダスの呟きが、そりゃあもう不安を煽ったけど。
もう何十年(?)もやってるんだから、私より全然手馴れてる。
ことことスープを煮込んでいたら、散歩に出てたカイルと、足ぐりぐりされてたスタンさんが一緒に帰ってきた。
少し、カイルが立ち直ってる。
二人でお話でもしてきたのかな。
「ただいま〜」
「ただいまー!」
「はいおかえり。手洗ってうがいしてきなさい」
「ちぇ。俺まで子ども扱いかよ」
「アンタなんてガキと変わりないわよ」
酷い言いようだ。
なんだよーなによーとそのまま痴話げんか始めるんだから、仲がいいんだか悪いんだか。
「おかえりなさい、カイル」
「あ、うん。リアラ、ただいま」
私の挨拶に、カイルがちょっと照れくさそうに返事を返してくる。
なんか、いいな。今の。
家族になったみたい。
「ちょっとあんたたち。何二人して照れてんのよ」
「え!?」
「べ、別に照れてなんてないよ!」
「おほほほほ。ジューダスの目は誤魔化せても、母さんの目は誤魔化せないんだから」
ジューダス引き合いに出されてびくついてますから!ルーティさん!
しかもその後睨まないのジューダス。
スタンさんはけらけら笑ってる。とめて欲しい。
「未来のお嫁さんでしょー。挨拶くらいで照れてたんじゃ、この先やってけないわよ」
「みみみみ未来の嫁!?」
「ルーティさん!」
「おーっほほほほほっ!」
「なんだその下品な笑い声は・・・」
「なぁんですって?ジューダス、聞こえてるわよ」
「うっ」
地獄耳だ。
スタンさんとカイルが同情した目でジューダスを見てる。
びくっと肩を揺らしたジューダスは一歩後ずさり。
ルーティさんは、にやりとジューダスを見下ろした。
「リアラ、ジューダスのスープはニンジンとピーマンとたまねぎ多め、肉は一つでいいわよ」
「はーい♪」
「ッおい、リアラ!」
「だって未来のお母様だもん。それにジューダス、ちゃんと栄養取らないと・・・カルシウム不足は仮面に悪いわ
仮面は僕の一部じゃない!!
真顔でボケを飛ばしたら、物凄くステキにつっこみ返された。
うん、やっぱりジューダスはこうじゃないと。
みんな私たちのやり取りを見て笑ってる。
私も笑ったけど、ジューダスはむっつりしてた。
「洗濯物、しまっときましたよ、ルーティさん」
「ありがと。じゃ、ご飯にしましょっか!」
「わーい!」
「カイル、僕の隣で食べよう!」
「よーしロニ、今日は飲むぞ!」
ルーティさんの一言から、ロニたちと一緒に降りてきた子供たちが騒ぎ出す。
むっつりしてたジューダスはスタンさんとルーティさんにはさまれて座って、野菜食えだの酒飲めだの絡まれまくってた。
「昔、君に良く似たやつと一緒に旅をしていたんだ」
子供たちが眠ってしまってからも、私たちはリビングにいた。
ジューダスは逃げたそうだったけど逃がしてもらえなかった。
スタンさんの一言に、ジューダスが面白いくらいにうろたえる。
じーっと見られてちゃそれもそうだろう。スタンさんは穏やかに笑ってるけど。
ジューダス、多分、バレてるよ。
みんなそんな顔してる。
「すっごく感じ悪くって、性格悪くて口も悪くても〜〜最悪のヤツだったけどね!」
「えー、そうか?ただ単に不器用だっただけさ。照れ屋で天邪鬼で、なんだかんだいってみんなのこと心配してたし、面倒見もよかったしさ」
「「絶対勘違いよ(だ)」」
ジューダス・・・そんなだからバレるんだって。
ルーティさんそっくりのしらけ面でスタンさんを見てる。
ただすぐ、二人にじーっと見られて目を泳がせてたけど。
「言うこときつかったけど、リオンとの旅は楽しかったな」
「あんたはね。私なんて散々よ。ことあるごとに電流びりびりだし。ヒス女だの性格ブスだの女じゃないだの・・・!」
「うん。仕方ないと思う」
なんですって
いいえなんでも!
「父さん・・・」
「ルーティさん・・・」
やり取り面白すぎる。
ハロルドが隠しもせずけらけら笑い、ジューダスが呆れたようにため息をついた。
多分、懐かしいとか思ってるんだろうな。
緊張してるみたいだけど、空気がやわらかい。
結局二人を見て笑ってる。
まったく仕方のないやつらだな、なんて、今にも聞こえてきそうだ。
「父さんは、リオンのことどう思ってるの?」
ちらりとジューダスを見て、カイルが問いかける。
余計なことを・・・!なんて顔をするのは、ジューダスとロニだ。
ナナリーが呆れ顔してるし。ハロルドは・・・なんで解析君出してるの・・・?
ルーティさんまで呆れちゃってるんだから、これ、もう確定なんじゃないかな。
スタンさんはそんな周りの空気も気にせず、呑気にうーんなんて唸ってる。
「俺は、リオンのこと好きだよ」
いきなりの発言にジューダスが噴出しかける。
ただ咽た。
ルーティさんがはいはいと背中叩いてあげてる。・・・ジューダス、ファイト。
へーなんて嬉しそうに言ってるカイルと、ニコニコ笑ってるスタンさんは本当に親子だ。
私も、ついつい笑っちゃったけど。
「あの時のリオンの決断は、本当に辛いものだったと思う。俺が同じ立場だったら・・・って、何度も考えたよ。あの洞窟でリオンに会った時は、どうしてってそればかりだったけど」
「・・・」
「・・・そうね。今だからこそ、大切な人と世界どちらをとるか、なんていわれたら世界、なんて言えるけど・・・」
「世界と、一番大切な人。どちらをとっても、結局は辛い思いをしなければならない。だとしたら、自分はどっちを取るか・・・。俺、本当にギリギリまで答えなんて出せないと思う。いや、ギリギリでも、出せるかどうか」
「・・・そっか」
スタンさんとルーティさんの言葉を聞いて、カイルが頭を下げる。
今、まさにカイルはその決断のときだ。
ジューダスは愛する人を取った。
けど、カイルには世界を取ってもらいたい。
これは私の・・・願いだ。
「だから俺は、リオンに恥じないように生きたい」
両手を組んで、スタンさんが頷く。
その目には、強い輝きがあった。
ルーティさんの目にも、そしてこれまで出会ってきた、フィリアさん、ウッドロウさん、ソーディアンチームの人たちにも。
誰もが引かれる英雄の輝き。
この人たちは、辛い決断や戦いを乗り越えて、そして英雄になったんだ。
・・・出会えて本当に良かったと思う。
「リオンが命をかけて守ったマリアンさんを、助けたい。本当は見捨てたくなかった世界を、絶対に助けてやるって、そう思ったよ。俺がミクトランに勝てたのは、たくさんの人の助けもあったけど・・・リオンとの出来事もとても大きかったと思う。リオンが俺たちの後押しをしてくれたんだ。リオンがいなかったら、俺はきっと中途半端な気持ちのままで戦いに挑んでたんじゃないかな」
「・・・あいつとの戦いは、そりゃあ辛かったわ」
ぽつりと、ルーティさんが声を上げる。
ジューダスが腕を組んだまま、視線を落とした。
「今まで仲間だと思ってたのに、急にあんなことになって。しかも弟よ?弟。知らないままいさせてくれたらよかったのに。ホント、性格悪いったらないわ」
少し涙声で言って、ルーティさんは首を振る。
ジューダスは眉根を寄せた。
スタンさんは苦笑いだ。
「でもね、あいつのおかげで覚悟が決まったのは確かだわ。それまで世界の危機だなんていわれても、いまいちピンとこなかったのよね。どっか遠くの世界の話みたいでさ。まさかアトワイト持ってるからって、私がそんなことに巻き込まれるとも思ってなかったから」
この孤児院立て直すことで頭がいっぱいだったしね、と笑うルーティさん。
そういえばそうだったなぁ、と、スタンさんが懐かしそうに微笑んで遠い目をした。
「本気で行くしかない、って思ったの。もう誰も亡くしたくないって」
笑みを失くして、静かに言うルーティさん。
その目には、スタンさんと同じ覚悟がある。
こくりと、カイルが頷いた。
「あんなお別れもう嫌だから。私に出来ることだったら、なんでもやってやる!ってね。捨てられたっていうのに、死ぬ寸前で弟だ何て教えてくるあいつの尻拭いは嫌だったけど。がむしゃらになったわ。それこそ本当に世界がお先真っ暗になっちゃって」
「空中大地で覆われたもんなぁ」
「・・・こんなヤツ中心にやってたら特にね」
一気にしらけ顔になるルーティさん。
うん、お疲れ様です。
私どころか、ロニとハロルドとナナリーまで頷いた。
ジューダスは微妙にため息だ。
「本当に今更だけど、一言くらい言って欲しかったわね」
「そうだなぁ。本当に今更だけど、仲間なんだしさ。本当に辛いことは、相談してほしかったな」
「だっつーにあのガキは。僕は仲間なんていらない〜とか言っちゃってさ。本当は寂しがりのくせに」
「あはは。それリオンがいたら殴られてるぞ」
二人ともけらけら笑ってるけど、ジューダスがすっごく小さくなってる。
かわいそうなくらい小さくなってる。
ちらっと見られてるあたり、ホント、ジューダス・・・いたたまれないわ。そんな仮面じゃ・・・ね。
「けど、リオンらしいよ」
「そーね。根暗ネガティブ捻くれもののお坊ちゃまには、あんなやり方しか思いつかなかったでしょーよ」
「ルーティ・・・」
つんとしながら辛らつな事を言うルーティさんに、スタンさんが苦笑いする。
ジューダスがさりげなくルーティさんを睨んだ。
ジューダス、ホントやめなさいって。
「でも、あいつがいきなり世界のために!とか言い出したら、それはそれで気持ち悪いわ」
「あはははは!に、似合わない・・・!」
「・・・!」
・・・可哀想に。
みんな同情した目でジューダスを見る。
物凄く、納得できるけど。
「あいつが選んだのなら、もうしょうがないでしょ。むかつくし勝手すぎだしぶん殴りたいとは思うけど。でも・・・マリアンさんを見捨てて私たちについてたら、多分あたし、なにやってんのよ!って、殴ってたと思う」
「・・・素直じゃないよなぁ。ルーティも」
「100%本心よ」
ふん!とそっぽを向くルーティさん。
スタンさんはくすくす笑ってる。
むっすーとしたジューダスの頬が、少し赤くなってて笑えた。
カイルたちもくすくす笑ってる。
「じゃあさ、ジュ・・・リオンがもし、急に今現れたらどうする?」
カイルーーーー!!!?
ロニとナナリーがすっごく顔を引きつらせてる。
ジューダスも椅子ごと下がりそうになってた。ふんばって。がんばって。
ハロルド、お願いだからニヤニヤ笑って解析君かまってないで、その頭脳でこの人を止めて・・・!
私、泣きそうだ。
「おかえり、って、言うな」
案外さらっとスタンさんが流した。
ジューダスがぎょっとした顔でスタンさんを見てる。
カイルはにこにこだ。頼むよカイル・・・!
「それでこれまであったこといっぱい話すんだ。ルーティと結婚して孤児院をやってることとか、カイルが15歳になって、俺たちみたいに仲間と旅してることとか。ウッドロウやフィリアや、マリーさんとかコングマンとかジョニーさんも呼んで、みんなでパーティ開いたりもしたいな」
「素直に参加するわけないじゃない。どーせ尻尾巻いて逃げるわよ」
「そうかなー?喜ぶと思うんだけどなー」
ルーティさんの言葉に、ジューダスが思い切り顔を引きつらせる。
スタンさんはのんびり首をかしげたけど。ホント、どうしよう。
「じゃあ、母さんは?」
殴る
「・・・うわぁ」
ロニが引きつった声を上げる。
ルーティさんのビンタ、相当痛いらしいもんね。
ジューダスは思い切り顔しかめてて、カイルも、少し気にくわなそうに眉根を寄せていた。
気合たっぷりに即答したルーティさんは、いじけた顔で目を逸らす。
「殴って殴ってボコボコにして、いっぱい悪口言って、立ち直れなくしてやるわよ」
「ルーティのは愛情の裏返しだもんな」
「うっさいわねー。違うわよ!ホンッキでボコ殴りにしてやるんだから!」
「・・・うわぁ・・・」
ロニどころかカイルまで引きつった声を上げる。
ジューダスをちらちら見ながら。
ジューダスは、しかめ面のすえため息だ。
「・・・あの生意気が少しは直ってるようだったら、おかえりって出迎えてやるわ」
最後にぼそっと付け加える。
ソレを聞いてカイルが満面の笑みだ。分かりやすい。
スタンさんも同じく笑顔だ。分かりやすい。
ジューダスは、照れた顔でそっぽを向いた。・・・分かりやすすぎだわ。
「ねぇジューダス」
今度は何する気、カイル。
「もしリオンがこの場にいたら、なんて言うと思う?」
お願いだから口閉じて、カイル・・・!!
私まで逃げ出したくなる。
ジューダスの焦りマックスだ。もろもろの事情で固まってる。
ロニがお疲れ、な視線を投げた。
ナナリーはもう投げたのか、ハロルドの解析君を覗き込んでる。
とめて。お願いだから。誰か止めて。
・・・ルーティさんとスタンさんが、じーっとジューダスを見つめた。
「・・・ありがとう」
ぽそっと、ジューダスが言う。
スタンさんとカイルが表情を緩めた。
「それと、出会えてよかった、と。・・・恐らく、そう言うんじゃないのか」
「ふふふ。そっか」
「最初からそんくらい素直なら、もっと可愛げもあったのにね」
「お前に言われたくない」
「何か言った?ジューダス」
「いや。気のせいだ」
お願いだからこちらの心臓を煽らないで欲しい。
聞こえなかった振りしてくれてるみたいだけど、ルーティさん。
スタンさんの笑みが全てを物語ってますから。
「そうそう、リオンが守ったマリアンさんて人な。今、アイグレッテの宿で働いてるんだ」
「え?そうなの?」
「生きてたんですね。ダリルシェイドはあの時、外郭大地の落石で随分な被害を受けたから・・・」
「運が良かったのか、あいつの呪いかなんかなのか。偶然ヒューゴ邸に戻ったところだったみたいよ。一番被害の少なかったね」
思わずジューダスを見てしまう。
小さく首を振られた。そっか。違うんだ。
・・・ていうか、もう、確定ね。
ナナリーが苦笑いしてる。
私も苦笑いだ。
ロニが諦めた顔で、開き直ったように笑った。
じゃー神の卵が出る前に一度行かないとな、なんて言い出す。
そーしたらいいよ、と笑顔でジューダスに言うスタンさんに、ジューダスが顔を逸らしながらこっくり頷いた。
そろそろ寝ようということになって、片付けるから先に寝なさいと二人に部屋を追い出される。
階段を登りながら、みんなジューダスの肩叩いてた。
よかったねジューダス!なんて爆弾投下しまくったカイルは、ものっすごく睨まれた後脱力されてたけど。
変わりにロニがどついてた。
「いってー。なんでだよ」
「ふふふ。いつバレるかってみんなハラハラしてたからね」
「え?・・・バレるかな。大丈夫だと思うんだけどなぁ。あんな仮面してるしさ」
リオンがあんな仮面するわけないって言いそう、だなんて。
時折カイルは核心をつく。
・・・何があったのかな、ジューダス。(いやあったといえばあったけど)
「ねぇ、リアラ」
「なに?カイル」
「・・・ううん。やっぱり、なんでもない」
まだ迷ってるカイル。
もう逃げることをやめたカイル。
いろんな人の話を聞いて、きっと答えが出かけてるんだろう。
私は・・・カイルが選んだのなら、と今はそう思ってる。
世界を選んで欲しい、とも思うけど。
「・・・じゃあ、おやすみ、リアラ」
「うん。おやすみなさい、カイル」
手をぎゅっと握られる。
明日、神の卵が現れるかもしれない。
明後日かもしれない。
10年後かもしれない。
私たちは、いつ離れ離れになるのか、わからない。
カイルの真っ直ぐな青い目が私を見てる。
私もカイルをじっと見つめ返す。
今、この時が、とても愛おしいと思う。
ずっとずっと、続いていけばと。
カイルと一緒に歳をとって、みんなでおしゃべりしたり遊んだり。
そういう当たり前の一つ一つが、酷く愛しい。
「・・・私の願い」
カイルと、共にいたい。
共に幸せになりたい。
「・・・願えば、かなう」
明日、カイルと一緒に願いに行こう。
私たちが初めて出会った、ラグナ遺跡に。









身勝手な幸福論