とりあえずこれだけは外せねぇ!と、みんなの夢見て回ってた。
一番の楽しみは、そりゃーもちろんリオン君だ。
「・・・またか。悪夢はいつも、ここからはじまるな。シャル」
リオンかーわーいーいー!
見えないところでじたばた騒ぐ。だって声ステキだし。かわいーし。
グリーンリバー氏の声で口説かれたら、私一発で落ちる自信がある。
さて私の出番だ。
ひゃほーい!と浮かれてる心をなんとか沈めて、リオンの前にぷかぷか浮いた。
・・・演技上手くなったなー私。
台本に無い台詞リアラに言われたときには、どうやってリオンの正体明かそうかめっちゃ焦ったけど。
「愚かな・・・。なぜ、お前はなおも傷つこうとする?ただ一言「未来を変えたい」そう言えば、この苦しみから逃げられるというのに。卑劣な裏切り者ではなく、人々の記憶に長くとどまる英雄としてたたえられるのだぞ?おまえの愛するものも、手に入れることができるのだぞ?愛と名誉・・・その両方を目の前にしておまえはなぜ、それを拒む?」
「・・・なぜ?・・・フッ、貴様は・・・なにも・・・わかっていない。僕は・・・この結末を・・・覚悟していた・・・」
おー。
かっこいいね。ナイト気取りか。いや違うか。
「・・・マリアンの・・・命こそ・・・僕の、すべて・・・」
うんうん。知ってる。
「・・・そのため・・・なら・・・どんな・・・ののしりも・・・甘んじて、うける・・・」
かぁっこいー。
かーわーいーいー!もうマジテンション上がる!
むさいオッサンよりやっぱ若くて綺麗な男の子だよね!・・・ショタでは断じてない!
癒しがないんだよ、癒しが。
ミクトランかっけーけど。
ここまで愛されてみたいもんだねぇ。いや違う違う。
「だから、願えと言っているのだ。お前の望む未来を。名誉と愛、両方を手に入れる未来を」
「・・・そんな、もの・・・欲しく・・・ない・・・貴様の、作り出す・・・まやかしの、愛や・・・名誉など・・・なんの、意味もない・・・」
「・・・この悪夢を永遠に繰り返すというのだな?リオン・マグナス」
「・・・フッ。だから・・・貴様は・・・なにも、わかって・・・ない・・・」
いやー、わかっちゃいるけどやめられな・・・すいません。
リオンがぐっとふんばって立ち上がる。
「・・・僕は・・・僕は、リオンでは・・・・・・ない」
そこ否定はして欲しくなかったかな。
いや仕方ないっちゃー仕方ないけどさ。
「・・・僕は・・・・・・ジューダスだ・・・!」
覚悟は決まってます、ってか。
この子も蘇ってくれたら、おねーさん超うれしーんだけど。
まぁ、無理は言わないさ。
選んだというのなら、そのまま進めばいい。
いくらでも過去を変えることなんて出来たのにね。
バカな子。
それゆえに益々愛しい子。愛でたい。お持ち帰りしたい。
「・・・ならば、望み通り永遠の悪夢を・・・」
「やめろッ!」
カイルが叫んで飛び出してくる。
他の面々も飛び出してきた。
リアラが、またあの顔で私を見てる。
いい加減にしたらどうかな。
君と私は、敵だと認識したらいい。
「これ以上、好き勝手にはさせないぞ!」
「なぜ、お前たちはその男をかばい立てする?その男・・・リオンは、私利私欲のために仲間を捨てた裏切り者なのだぞ?」
「リオン?そんなヤツのことは知らねえな」
ロニ、かっこいいんだけど、どうせとぼけるなら私利私欲のあたりもつっこんであげてほしかった。
いや、一々つっこんだらギャグになるか?
「あたしたちは、ただ仲間を助けるだけさ。ジューダスっていう、大切な仲間をね!」
「おまえたち・・・」
「その男はおまえたちを、またいつ裏切るかわからないのだぞ?すべてを知った今でもなお、そのようなものを信じられるというのか?」
いい感じに信頼関係が生まれてる。
うらやましい限りだ。
挑戦的に笑うナナリーやロニたちの中から、一人真っ直ぐ私を見ていたカイルが、声を張り上げた。
ホントこの子可愛いんだけど。どうしてくれよう。
リアラ変わってくれないかなー。
・・・そしたら私、ジューダスにフォーリンラブだっただろう。声で。声で。顔で。
「知ってるとか、知らないとか、関係ない!俺は、ジューダスを信じてる!今までもそうだった!そして、これからもだ!」
「カイル・・・」
叔父ちゃんが感動して言葉もでないらしいよ。
麗しい友情もいいけど、ちょっと危ない空気に取れなくも無い。
何度も言ってるけど、私ホント聖女無理だよ。無理。
「さぁ、戻ろ、ジューダス!俺たちの世界へ!」
「そして、続けましょう。わたしたちの歴史を・・・」
「・・・ああ!」
すっげー嬉しそうにジューダスが頷く。
歳相応で可愛らしいこと。うむ。くるしゅうない。(あれ?違う?)
ぴかっとリアラがペンダントを光らせて、自力で私の作り出した世界から出る。
ほぅ。ここまで成長しましたか。
前のリアラだったら、確実に閉じ込められたままだったろう。
彼女の力しかり、精神力しかり。
順調に成長してきてくれたらしい。喜ばしい限りだ。
「わからない・・・なぜ、自ら苦しい道を選ぶ?神の力でまどろんでいれば、あらゆる望みがかなうというのに」
「そんなのでかなった望みに、いったい、どんな価値があるっていうんだい?価値なんてありゃしないよ!自分の手でつかんでこそ、価値があるのさ!」
よーしよく言ったナナリー。
君もあれから成長したのね。最初は中々に切なかった。
ナナリー節がきいてなくて。
リアラがはっとした顔でナナリーを見てる。けどナナリーは気付かない。
ねぇ、リアラ。
わかったかな。あの時の言葉の意味。
まだ君はわかっていなかったようだからね。
「・・・いつも正しい道を選べはしない以上、誰にだってつらい過去や悲しい思い出はある。でも、取り返しようのない過ちも、数え切れないほどの後悔も、その全てが僕らの生きてきた証なんだ。それを否定することはだれにもできない。いや・・・・・・させはしない!」
うん。いいこと言いやがる。
悪役ってホント損ばかりだ。
今更やめる気もないし、あんなご大層なこと言える気もしないからやり方変えはしないけど。
「お前達はそうかもしれん。だが・・・彼らは違う。人々はみな苦しみからの解放を望んだ。自らの欲望が、かなえられることを望んだのだ」
「いいえ、人々はただ忘れているだけよ」
おや。
真っ向から否定したね。
「いつわりの幸福の無意味さを。そして、歴史という人の営みの中にこそ本当の幸福があるということを。そのことに、いつかなからず気付くわ。カイルたちのように」
強くなったものだ。
彼らと共に旅をさせて、本当によかった。
ルーティに報告しておくとしよう。きっと喜ぶ。・・・無礼講でまた二日酔いかな。
「だから、俺たちはお前に奪われた歴史を取り返す!そして、俺たちの幸せをとりもどす!絶対に!」
「・・・無駄なあがきは、よすがいい。お前たちが、どう思おうとなに一つ変えられはしない」
私もいー感じに悪役に染まってきたな。
たまに練習してるところ、バルバトスに目撃されてそのたび唱術食らわせてたけど。
そして笑われておちょくられてみんなにバラされてまたおちょくられて、枕を涙で濡らしたこともあったけど。
「いいえ、変えられるわ。人の思いの力は、なんだって出来る。だから・・・!今から時間移動をするわ。時代は・・・天地戦争のころ」
「歴史を元に戻そうってわけか!!」
「やってやろうじゃないか!」
「望むところだ!」
おーおー。盛り上がってらっしゃる。
大いに結構。
さあ、とっとと行ってくれ。
さすがに力使いまくって演技しまくって疲れた。
こんな怪しい部屋の演出までしてるけど、実は幻覚だ。
未だ地上では、人形のような人たちが生活を続けてる。
「リアラ、いこう!俺たちの歴史を、取り戻しに!」
「ええ!」
カイルと頷きあったリアラは、ペンダントに手を添える。
カッと輝く光の中で、私をじっと見つめるリアラと、目があった気がした。
「・・・まだまだ精進しなよ。君たちは、未来を手に入れなければならないんだから」
最後の最後に力及ばず、では困る。
そうなれば作戦建て直し。
悪の組織から、未来レスキュー隊に名前変更だ。今以上に間抜けだから却下と一度ボツ食らってる。
「先は長いなー」
暫く休めるから、まあいいけど。
まぁなんつーか、1000年前は中々に楽しめた。
何が楽しいって、新たに入った濃い口、いや彼らの仲間、ハロルドだ。
一癖二癖はいった言葉でジューダスとやり取りしてるのなんて、マジで面白い。
カイルとロニは主におちょくられっぱなしなあたりとか。
もちろん悪の組織側に属してる(むしろ筆頭じゃん)私は、ミクトランの部屋でぷかぷか浮かびながら彼らの行動を眺めてるだけなんだけど。
あー傍観者って楽。
「・・・こちらは会議中なんだがな」
「気にせずどーぞ。他の皆さんもなれたもんでしょ」
「気が散る」
怒られた。
バルバトスは笑いながら斧磨いてる。やる気満々だ。
「では、捕らえたアトワイト・エックスとラヴィル・クレメンテは・・・」
「奴らと共に閉じ込めておけ。出してやる牢などない」
奴らっつーのは、ベルクラント開発チームだ。
一緒にしたってーと頼んだら、まーいーかと軽く返された。
一々警備するのもめんどうだろう。人件費もかかる。
・・・天上人て、上流階級のあつまりなんだよな?
まぁ使わないに越したことは無いだろう。戦争中なんて生活潤すのは難しいだろうし。
話し合いを終えて出て行く幹部の面々。
ミクトランはめんどくさそうにため息をついて、だらりとソファに座っている。
「ブラック」
「バルバトスー」
「お前が出せ」
聖女パワーあるだろ、とかやる気なく言われる。
舌打ちして指を一振り。
ほっかほかのコーヒーがミクトランの前に現れた。
「二度も繰り返すと、さすがに飽きるな」
「しょーがない。今回は骨のある攻めかたされるから、安心しなよ」
「・・・最終的に殺される予定に安心するか?普通」
しないだろうなぁ。
どーせ歴史の修正かかるからって、本当に私好き勝手やってる。
この戦争負けてくれって頼んだときには、私が殺されかけたけど。
さすがに正しい歴史じゃアンタ死人だとは言わなかった。その内バレそうだ。
未だにそこだけはオーケーくれない。
けど、どの道どんなにがんばったって、カイルたちが乱入してきた今、ミクトランの死は確定した。
正直、悲しいかな。
「・・・さぁて。そろそろ俺の出番だな」
「デフォルトで悪人面だよ、バルバトス」
「生まれの不幸を呪うしかないだろう」
「貴様らこそ子宮からやり直して来い」
生まれた頃から根性悪いと。
・・・この命では確かにそうだけどさ。
子宮から生まれてないもーんなんて返したら、思い切り顔をしかめられた。
はっ。ざまみろ。
「生まれの話はともかく、ガキどもは本当に来れるのか」
「ああ。けど戦うのはバルバトスになるだろうね。今度はソーディアンチームが全員で君に挑みに来るって」
「つまらん。見飽きた」
わがまま言うなオッサン。
どうせなら役割交代しないかとかバルバトスに持ちかけてる。
面白そうだがソーディアン相手じゃ無理だな、と返すあたりバルバトスも大人になったというか。
・・・大人か。
「だがディムロスとは戦うつもりなんだろう?」
「当たり前だ。そのためにここにいるようなものだしな」
「前のときは邪魔も入らず、一対一で勝負出来たけど・・・今回は邪魔はいりまくるよ?」
「まぁ、それも一興だろう」
つまり強いのと戦えればそれでいーと。
こいつも大概、戦闘マニアだ。
「そろそろ殺す気でいかなければならないだろうな」
「そうか・・・。そこまできてるかな」
「見たところ、中々に腕を上げていた」
楽しみだ、と遠い目をしてにやりと笑うバルバトス。
悪役面だな、悪役面だ、とミクトランとぼそぼそ頷きあってたら、やっぱり睨まれた。
笑うしかない。
稽古でもしようかと斧を振り出した。
頼むから室内で振るなと思う。多分威嚇とか仕返しの意味がこめられてるんだろう。
ミクトランなんて顔しかめまくりだ。
「レイン」
「なに?」
「暇だろう」
「暇だな」
・・・だってここじゃ私やることないし。
モンスター提供したくらいだし。あとはミクトラン自分でやるとかいうし。
バルバトスはバルバトスで気合入れて鍛錬の日々だし。
正直、スタンたちのとこ行って酒でも飲んでようかと思ったくらいだ。傍観してるだけも疲れる。
「なら私の相手をしろ」
「・・・目がやらしーよ、オッサン」
睨まれた。
・・・でもホントやらしーんだもん!
「つーか何言ってんだアンタ」
「暇なんだろう」
「暇だけど」
「あの話、受けてやっても構わんぞ」
あ、ちくしょ卑怯な。
いや別にかまやしないんだけど。
「いちおー生まれたてだから処女なんだけどなー」
「余計なこと言うな聖女」
つっこむなら助けろよバルバトス。
いや、こいつも楽しんでる。
ものっそ面白そうにニヤニヤ笑いながら見てる。
「どうする?」
艶っぽい顔して舐めるように見られる。
正直、キモイ。
言ったら殺すとか消えろ連発とかされるからやめよう。(傷つきます)
腕を伸ばされて引っ張られて、ぷかぷか浮いてたのにソファにダイブだ。
やわらかいのは分かるけど痛い。
「まー、せっかくステキな体に作ってもらったんだから使いようだとは思うけど」
「そういう問題か。聖女魂はどうした」
「アホ言え私ほど聖女に向いてないやつもいないだろう」
「「否定はしない」」
一人くらいしてくれ。
・・・三人しかいないよ今。
下僕たちがキレて切り刻みにくるかも、と言えば、あんな雑魚に誰がやられるとか呆れ顔される。
そりゃ君たちの基準がおかしいんだ。
「どうする?レイン」
「うーむ。考えてる間くらいセクハラすんな」
「遅いお前が悪い」
「バルバトスーつっこんでねーで助けろよ」
大体そんなさっくり決められるか。
「死亡フラグOKでいーの?」
「・・・まぁ、受け入れてやろう」
どの道修正がかかればなかったことになる、とかさっくり返される。
いやうん、修正かかったら・・・どの道死ぬんだけど。言えるわけない。
さあ選べ、と遊んでる気満々な面がとうとう剥がれ出てくる。
私も人のこと言えやしないが、こいつもホントに子供だ。
遊ぶのは楽しいけどな!
「いい男がお相手だってのは確かにお得だけどなー」
「そうだろう」
「・・・顔だけはいいのに。顔だけは」
「そっくりそのまま返すぞ」
「お褒めいただきこーえーです」
睨まれた。
笑ってしまう。
こういうやりとり、面白いんだよな。捻くれてるヤツしかいない集まりだから。
「減らず口だな。可愛くない」
「だったら差し押さえたら?」
あ。
しまった誘い受けだ。
にやーっとミクトランが笑ってる。
待て。誘い受けは男なのに超可愛いとかツンデレが使うアヴィリティだ私じゃ効果が現れない。
「そうだな。そうしよう」
「おーいバルバトスー。呆れてないでとめろって」
「自業自得だ、アホ・・・」
とりあえず、ここで食うのはよしてほしいかな。
行ったらバルバトスに自重しろと叩かれた。
天地戦争時代の歴史改ざん(テイクU)は、カイルたちによって阻止された。
バルバトスは私に怪我なおさせながら、先の騒乱時代でチェックメイトされてくるとかものっそ楽しそうに斧改造してる。
とうとうここまで来ちゃったかー。
今は亡き彼とも、思えば長い付き合いだったな、とか感傷に浸るはずだったのに。
「なんで君は当たり前のように私の部屋でお茶してるわけ?ミクトラン」
「別にいいだろう。わざわざ死んでやるまでもない」
いやそうだけど。
・・・ミクトランのヤツ、カーレルと死ぬ寸前でパフォーマンスだけして逃げてきやがった。
お前、コアクリスタルに人格投与しないと先の騒乱起きないじゃないか。
そこらへんしっかりやってきたらしい。
こっそり地上軍の武器庫進入して。
おま・・・天上王!
「潔くないな。天上の王と呼ばれた男が」
「馬鹿馬鹿しい喜劇に付き合ってやったんだ。道筋を変えさえしなければ、好きにしようと文句はないだろう」
「まぁ・・・ないけど」
釈然としないんですよ。
言っても鼻で笑われる。
「寂しがりやのお前に付き合ってやるんだ。感謝しろ」
「だれが寂しがりやだよ」
それはバルバトスだ。
殴られた。
・・・なんだよー!寂しがりやじゃん誰かのとこか私のとこに入り浸って戦う以外は飲んだりのんびりしたりしてるくせに!
ソレ言ったら、ミクトランも結構そうかもしれないけど。
コイツの場合は誰かしら必ず傍にいるけれど。
よしと気合入れて、とりあえずミクトランに抱きついてみた。
「そんなこと言うやつには思い切り甘えるぞ」
「子供かレイン」
「よしよし」
「ノリよすぎだろう天上王・・・!」
「・・・ここだけカオスですわねー」
実はいたフィリアが、現実逃避し始める。
戻って来い、なんてバルバトスにつっこまれて、ため息をついた。
「私、18年前貴方と戦った一人なんですけど・・・」
「知らんな。私は1000年前から来たんだ」
「リオンさんの性格の形成過程を見た気がしますわ」
そうだろう。
私も一緒にいてそう思ったし。
面白そうですしみなさんにも会わせましょうか、とか笑顔でのたまい出すフィリア。
いやそれさすがにルーティからつっこみくるんじゃ、とつっこめば、全員からくるとさらにバルバトスにつっこまれた。
なんならガキどもに会って来てやるとか更なるボケを重ねる天上王には、レインアッパー(ただの私のアッパー)食らわせといた。
「つーことは、バルバトスも死んだフリだけして返って来るってことか」
「さあ、それはどうだろうな」
ミクトランの膝を枕にしながらぼやけば、笑って不穏なこと言い出すバルバトス。
しかめ面したら、もとよりその予定だっただろうがと笑われた。
ミクトランにまで笑われる。
一番に計画無視したヤツが笑うなっての。
「随分面倒な役を長いことやったからな。死ぬことに未練もない。そろそろ降りてもいいだろう」
「・・・ふーん。それでいいならいーけど」
本人が望むならそれでいいだろう。
私に止める資格なんてない。
何故だか、ミクトランが笑い出す。
バルバトスどころか、フィリアまで笑い出した。
「なんでみんな笑ってるわけ?」
「いいや。別に」
「そうだな。別に」
「ええ。別になんでも」
「全員そろってエリ○か」
もう古いネタだぞ。
つっこんでも笑われる。
スタスタこちらにやってきたバルバトスが、ばすばす私の頭を叩いた。
「これが世界を引っ掻き回してる張本人だと知ったら、カイルたちはなんと言うか」
「そうですわねぇ。きっと驚いた後に、一緒に旅しようと言うんじゃないですか?スタンとルーティの血をしっかり受け継いでいますから」
「なんかすげーバカにされてる」
「天上王ですら使った親玉がこれじゃな」
ミクトランにまで頭ばすばす叩かれる。
この加減のなさはわざとだな。わざとだろ。
つっこんだらやっぱり笑われた。
結局、役目を終えたバルバトスはボロボロだったけど返って来た。
むかついたから1日放置しておいたら、またみんなに笑われたけど。性格悪いな全員して。
とりあえず、最終調整に回らなければならないだろう。
「隕石でも落とせばどうだ。1000年前はそれで人工が半分に減ったしな」
「ふむ。じゃ、それでいこうか」
「軽いですよ、レイン。こう、もう少し悪役なら捻りを入れるかそれっぽく対処しないと・・・」
「ノリすぎだろう元英雄」
「今は悪の組織の後ろ盾ですもの」
メッチャ笑顔で毎度のってるものね、フィリアさん・・・。
怪しい爆弾作って投下しまくるわけだ。恐ろしい。
みんなで少し引いてから、そうだなーと頭を捻らせた。
まあ、捻らせなくとも、言われなくとも、最初からやることなんて決まっていた。
「隕石に模した神の卵を作る。レンズで。そこが最終決戦の場だ」
全ての布石は出揃った。
あとは、発動させて機を見て卵を出現させるだけ。
私の、長いんだか短いんだかわからない聖女人生もそこで終わり。
「寂しくなりますね・・・。アタモニ神団も、一度崩れかけたところからようやくここまで来たのに」
「がんばりゃいーじゃないの。ここまで立て直せるって分かったんだしさ」
「それもそうですわね・・・。出来れば、また貴方と共に教団を引っ張っていきたいですわ」
そら無理だ。
「例え私が蘇ったとしても、今度は隠居生活をエンジョイするさ」
「いいえ。無理やり引き入れます」
「「・・・」」
「伊達にクレメンテ扱ってないな」
笑顔で豪語された。
バルバトスまで黙り込んでるよ。天上王あきれ返ってるよ。
地上人て恐ろしいね、いやあいつが恐ろしいんだろ、何か言いました?いいえ、なんて。
バカなやり取りを繰り返すこの日常。
惜しくもあるけど、本来なかったものだ。
私は今を楽しむだけ楽しんで、死んでいこう。
正しく物語を進めて、全ての茶番に幕を下ろすために。
別の道を選べばよかったなんて・・・今更考えられもしないよ。
型破りなワルツを舞え