初めてウッドロウに会ったときの思い出は、それはもう頭にガッツリ残ってる。
いや、みんな濃すぎて残ってない人もいないけど。
スタンとルーティの名前でさっくり謁見する時間をとってもらって、口の堅い護衛や家臣だけを残して全てを教えた。
これからおこること、これからしなければならないこと。
最初は難色示してたけど、スタンとルーティ、それからフィリアと・・・一番はマリーという後ろ盾があったからだろう。
世界の未来の存続のためという、明らか嘘くさい私の話をその場で信じてくれた。
王という役職の彼はもっとも判断が難しいにもかかわらず。
「では、そろそろ彼らが来るということだね」
「うん。彼らが無理やり城に入ってきた時を狙って、レンズ教団によこせやーって話に来るから。あとは例の計画通りに」
「わかった。エルレインはともかく、その間君はどうする?」
「こいつから空間移動の力を貰っている。問題ない」
「一応攻め入る手はずになってるから、騒ぎの後兵士たちをすぐ見れるよう、ことが起きたら謁見の間の前へ集めて欲しいかな」
「そうだな。アルイツ将軍に伝えておこう」
攻めても殺しはしないことになってる。
城の一部を破壊するけど、そこら辺直す費用はこちらもちだ。
聖女パワーで金なんてさっくりよ!
今は一応会議ってことになってるから会議室にはいるけれど、やってることは半分以上お茶会だ。
リーネのリリスから届けられた(スタンが話しつけといてくれたらしい)手紙と写真を出せば、喜んでくいついてきた。
「益々スタンに似てきたな」
「せっかちなところはルーティそっくりだけど」
「聖女殿はお悩みのようだぞ。どうするんだ」
「ふふふ。これからどんどん悩んでいくがいーよ」
「悪役じみてるな」
ウッドロウに笑われた。
さて、そんな呑気な会合を過ごして一ヶ月とちょっと。
ファンダリアにカイルたちが付いたとの報告が、あちらから届いた。
今から飛行竜で行けば良いタイミングだろう。
ウッドロウもしっかり考えてくれていて、謁見の日時を正式な形で届けてくれた。
つーわけで下僕従えてin雪国だ。
「ハイデルベルグは相変わらず、活気がいいね〜」
「観光は今度にしてください、エルレイン様」
「いやもう裏道まで回ってるけどさ」
いつの間に!
危ないからとあれほど!とか言う小言を全部右から左へ流す。
一々聞いてたら終わらない。だから私は大丈夫だっつーの。
はいはいと流して、むっつりしてる下僕たちを散らばせた。
今回は手順を踏んで城に入り、謁見の間にどかりと座ったウッドロウの元へいく。
二人して目だけで笑った。
私たちの間柄は、非公式だ。
台本どおりの台詞を並べて、同じくウッドロウが台本通り返してくる。
交渉が決裂したまま話し合いは終わり、私は諦めてません、な顔で謁見の間を後にした。
階段を下りていけば、見える金髪。
私を見たリアラが、目を丸くした。
「エルレイン・・・!」
小さな声でリアラがささやく。
あ、とロニとカイルも口をあけた。
私はにっこり微笑んで会釈する。
「お久しぶりですね。またお会いできて光栄です」
「い、いえ!こちらこそ!」
動揺しすぎだろう。
リアラは困惑した表情で私を見ている。
「それでは、また」
目礼して歩き出せば、後ろからぶしつけな視線をビシバシ受ける。
言いたいことがあるなら、言えば良い。
けれどまだリアラには
「待って!」
あれ?結構口開ける余裕が出来てた?
「なにか?」
くるりと振り向けば、やはり困惑した表情のままのリアラ。
カイルたちがおろおろ私たちを見ている。
リアラは、ペンダントに手を置いたまま私の元までゆっくり歩いてきた。
「私、貴方の考えてることが分からない。あれではいけなかったの?なにが違ったの?」
「・・・」
まだまだ、だな。やはり。
ジューダスがいないのが残念でしょうがない。彼おちょくりたいけど立場じゃないしなーもったいない。
まあ、まだまだ機会はあるだろう。
「あなたならすぐにでも・・・」
「英雄を見つけて、その力にすがって導きを出す。・・・そういうことかな?」
嫌味臭いだろう。
リアラの表情が強張る。
私は、ふっと笑った。
「話をするには、まだ早すぎるようだね」
「エルレイン・・・!私は・・・!」
「ごきげんよう、リアラ。私は私のやり方を突き通していきますよ」
リアラに敬語なんて使ったことはない。
突き放すような私の態度に、リアラは傷ついた顔をした。
なんでだ。
・・・あれか、最初のころフレンドリーすぎたか。いやしかしリアラがガンガンつっこんで勝手についてきただけだしな。
ひな鳥みたいな。
マジ可愛かった。・・・いやいや。
まー、支障はないだろう。
今度こそ、とめる声はかからなかった。


時間を見て、そろそろ行くという合図をウッドロウに送る。
下僕たちの準備も万端だ。
「行くよ」
「は!」
一声かければ、起動し始める飛行竜。
今頃ウッドロウは、みんなに手伝ってもらってフィリア特性生傷と血のりを装備していることだろう。
なんつー王様だ。やらせたの私だけど。
飛行竜で城の塔につっこむ。
整備するのに立ち入り禁止!なんつーお触書しておいたから誰もいない。はずだ。バカじゃないかぎり。
飛行竜から降りれば、手はず通り誰もいなかった。
さすがウッドロウ。いらん仕事は増やさない。
ガープを先頭に進んでいけば、謁見の間へと続く大広間に兵士たちがいた。
最小限に抑えたらしい。小隊二つ程度だ。
どこまでの人間がこの茶番劇を知っているのやら。ウッドロウのヤツ、手回ししまくったか。
カイルたちの中にはジューダスがいる。
少しでも怪しまれれば危ういかもしれないけど、死人を出す気は毛頭ない。
どの道アタモニ神団がやったとバレるのだから、私は堂々、守られながら先へと進んだ。
「道を開いてください」
「出来ません!!エルレイン殿、何故このようなことを!」
「全ては、人々の幸福のため。完全なる神を光臨させ、完全なる幸福を人々に与えるためです。・・・怪我人は出したくありません。そこを退いてください」
今にも剣を抜きそうなアホ下僕たちを退かして、前に出る。
焦られたけど無視だ。
目の前に並ぶ兵士たちが、剣を抜く。
王のためなら死もいとわないと。愛されてるねぇウッドロウ。
「・・・仕方ありませんね。眠っていてください」
最初からそのつもりではあったけど。
手を上げて力を使えば、ちりじりに吹き飛ぶ兵士たち。
すまぬ。あとで打撲とか治すから。
しっかり開いた道をガープやバルバトスたちと共に歩く。
もう少ししたら来るだろう援軍(平均年齢16)を抑えるために、サブノックが残った。
「よろしくお願いしますよ、サブノック」
「は!お任せください、エルレイン様!」
お前どんだけ酔狂だ。
うっとりした目で見ないで欲しい。頬染めないで欲しい。
ちょいキモ親父をさらっと見なかったことにして、奥に進んだ。
いるのはウッドロウと数人の兵士。
震えちゃってまぁ。可哀想に。
「いいのですか?あなたの護衛に新兵など」
「度胸がついて一石二鳥だろう。慣れも必要な立場になるかもしれない」
ものっそ呑気に話し始める私たち(いや一応の緊張感はあるけどね)も私たち。
だけどウッドロウの言葉を聞いた兵士たちが、感動してウッドロウを眺めてる。
おいおい、守れって。
上手いなこいつって目で見たら、くすっと笑われた。
余裕だなオイ。
「レンズを私たちにゆずってください。必ずや、ファンダリアの民を幸福に導くと誓います」
「それは無理だと、先ほどもお断りしたはずだ。我が国は自分たちの力で幸福を手にする。他から与えられた幸福に意味などないさ」
惚れてまうやろー。
大笑いしそうになったけど、ここ数年で身についたポーカーフェイスで乗り切った。
向こうも同じようだけど、目が笑ってる。・・・多分私もだろうな。
「そうですか・・・では仕方ありません」
儚げに目を伏せる演技、とやりこんで、周りの兵士たちを同じくぶっ飛ばす。
壁にぶつかる前に眠らせたから、大丈夫。・・・後々痛いだけさ!
兵士たちが眠ったのを確かめてから、ようやく私は息をついた。
ガープがウッドロウに頭を下げて、先にレンズのしまってある部屋に入っていく。
「こんな茶番劇でよろしいのか?」
「うん、かなり助かる。あー肩凝った」
「ぶっちゃけ、下手につっこまれそうな気もしなくもないんだがなぁ。国総出で6人の子供たちを騙すなんて」
「王様がぶっちゃけとか言わない。いーじゃん騙せたら」
「下手をすれば後がないのだからな。協力が取れなければ強制的にこちらが動いていただけの話だ」
肩をすくませた私の隣に並んで、バルバトスが斧を落とす。
まぁそれもそれで嫌だからねーとかウッドロウは超呑気に笑ってる。
先の騒乱時の英雄たちって、みんな変だ。
・・・まともな精神じゃダイクロフトつっこむなんてできねーわな。
「ウッドロウ様、エルレイン殿、援軍が到着しました。彼らも城に入った模様です」
「ああ、ご苦労」
「いやいやあっさり流すなそこ。将軍さん、アンタここに来てどーすんの」
「実は、君の持ってきたフィリア特性生傷と血のりを大層気に入ってね。彼もみねうちされて倒れこんでみたいらしい」
「・・・王も王なら」
「家臣も家臣か・・・」
どうしよう。
バルバトスとのシンクロ率が400%くらいだ。合体しちゃう。絶対やだ。
中々にそわそわしている将軍が、剣を抜き取ってよろしく頼む、とバルバトスに声をかけた。
バルバトスはあきれ放題だ。
斧を構えたかと思えば、一気に踏み込んでざっくりやってあげる。
「ぐあぁぁあああ!!」
「おー名演技」
「ふむ。私もああいう感じでいーんだろうな」
「いやアレ以上の名演技されてもこっちがビビるから」
髭撫でながらアホなこと言わないで欲しい。
けらけら笑ったウッドロウは、騒がしい声が聞こえてきたところで椅子から立ち上がった。
「さあ、演技を開始しようか」
「18年前の肉体でないのが悲しいところだがな」
「それは同感だ」
「じゃ、私はレンズ運んでますんで。あとよろしくー」
すらりと剣を取るウッドロウ。
本来は戦うなんてこと計画になかったんだけど、本人たちがどうしても!と譲らなかった。
ストレス、溜まってるのかな。
・・・国王相手に本気でうてるやつ早々いないわな。
めっちゃ楽しそうにニヤニヤ笑いながら対峙している野郎どもを無視して、私は奥の部屋に進む。
ガープがせっせとトンボでかき集めてた。
「ご苦労様。それくらいでいいよ」
「は!」
一々返事が堅苦しい。
文句言っても直らない。聖女パワー使ってやろうか。
・・・でもタメ語のガープとか、今更だと果てしなくウザイな。
とりあえずレンズごと一気にワープして、一旦飛行竜に戻る。
他の下僕たちに、いつでも飛べる準備しといてーと声をかけておいた。
先に飛び出そうが移動できるから問題ない。
じゃ行ってきマースと声上げたら、ガープがどうしてもついていく!とかのたまいだした。
護衛魂たぎりすぎだろう。
移動したのは、先ほどまでレンズをおいていた部屋だ。
「ぐああぁぁぁぁ!」
「おーナイス演技」
「やるな・・・」
「・・・」
この子もちーっとずれてる。
ウッドロウ!なんてステキボイスが聞こえてきて、きゃーっと一人ではしゃいだ。
「お、お前は、バルバトス!」
「ほう、またあったな小僧。カイルといったか。貴様とは、妙な縁があるらしい」
バルバトスもノリノリだ。
さっきまでウッドロウと戦ってた所為か、声に張りがある。
ミクトランと(例の肥満対策に)戦っても、ボロボロに負けるから面白くないもんな。
実力の差がありすぎて悲しくなってくる。
さて、そろそろ出番だろう。
ガープもそこらに身を隠した。
「フィリアさんに続いて、ウッドロウさんまで・・・このままでは・・・時の流れに大きなひずみが生じて・・・・・・!まさか、これは全部、あの人の仕業なの・・・!?」
「だとしたらなんだというの?・・・リアラ」
まぁ、普通に気付かれた。
わざわざ光を放っての演出に、何も知らないカイルたちがうろたえる。
ウッドロウ笑いださないだろうな。
・・・見事な死んだフリだ。いや生きてるか。
さすがのリオンも、フィリア特性生傷と血のり+役者気取りウッドロウの名演技は見抜けなかったらしい。
頼もしい限りだ、後ろ盾。
バルバトスの後ろから、私は目を細めてウッドロウ(ある意味仮死)を眺めた。
「なるほど・・・実にあなたらしい。どんな英雄であれ容赦はしないということか・・・」
「あの時素直にレンズをわたしていれば、こんな目にあわずにすんだものを」
くくくと悪役笑いするバルバトス。
似合いすぎてる。
カイルたちに続いて兵士たちが入ってきて、私は思わず眉根を寄せた。
「サブノックは・・・」
「役目を終えたようです」
いつの間にやらサブノックを抱えて現れるガープ。
ガープに抱えられてるサブノックは血だらけで、真っ青な顔でぐったりしてた。
半分以上、仮面で隠れてるけど。
・・・選んでいけよ、被り物。
ガープがバルバトスにサブノックを渡す。
すっげぇ微妙な光景だ。
「どうする?」
律儀にサブノックを受け取ったバルバトスが私に顔を向ける。
死ぬ前に逃げる術なんて、いくらでもあっただろうに。
わざわざ死ぬ必要なんてまったくなかった。
「・・・愚かな・・・」
「なっ!?仲間になんてことを!」
なんか勝手に解釈されてる。
ちょっと待って、勘違いってこう、アレだろ?チキンな主人公がすっげー最強に勘違いされるとかそういうさ!
バルバトスが笑いながら光の中に消えていく。
野郎・・・!
ああもう、彼のペットも後で回収しないと。
つーか、あいつ私の部屋に死体放置していやしねーだろーな。
あいつのことだから、今頃私の部屋で一人お茶を楽しんでそうだ。
いや、もしくはフィリアに生傷と血のりの出来栄えを報告しに行ったか。
・・・今はとりあえずどうでもいいか。
「エルレイン!あなたは間違っているわ!こんなやり方で、人々は救えはしない!」
「・・・ではお前はどうする?いまだに何も見出せないお前に、救いが語れるとでもいうのか?」
「そ、それは・・・・」
無理だよね。
未だに、私が最初手がけたあの方法が正しいとか思っちゃってるんだから。
自分の力の無さからくる劣等感。
始めのころから持っていたようだけど、まだ乗り越えられないらしい。
少しいじりすぎたか。
いや、完全に乗り越えられないのなら意味がない。
リアラがダメだというのなら、私は私の手でフォルトゥナを倒そう。
ルーティとスタンには悪いけど、お嫁さんゲットならなかったと伝えてから。
「ど、どうなってんだ?!なんでエルレインがここに!?それに、リアラ、どうして君はエルレインのことを・・・」
「わかんねえことだらけだが、一つだけはっきりしてることがあるぜ。それは、あの女が黒幕だってことだ!いくぞッ!覚悟しろエルレイン!」
混乱してるカイルとは裏腹に、冷静に動き出すロニ。
けどハルバードを手につっこんできたロニは、私が力を使う前にガープにぶっ飛ばされていた。
うん、わかるけどお手柔らかにね?
「っく・・・こいつ!」
「エルレイン様には、指一本触れさせん」
聞いてて恥ずかしくなってくる。
ウッドロウが一瞬震えた。わかってるよ、私が守られるようなキャラじゃないって事くらい!
「ならばッ!」
ウッドロウを見ていたジューダスが、剣を抜いて走ってくる。
けど結局、ロニもろともガープにぶっ飛ばされた。
おいおい。素早さ取り得の最強へたれ客員剣士はどうした。
シャルティエ大人しく使っとけっての。
「人々の救いは神の願い。それを邪魔するものは誰であれ、容赦はしない」
正しくは正反対な私の願い。
邪魔するものは誰であれ、完膚なきまでぶっ潰す!
この前ルーティたちと飲んだとき豪語したら、めっちゃ喜ばれた。
・・・好きだよね、こういうノリ。
「リアラ、君のいるべき時代へ帰るといい」
「嫌っ! わたしはまだ――!!」
言葉の途中で、リアラは光の中に消えていく。
すぐさまカイルが飛び込み、続けてロニとジューダスも飛び込んでいった。
見てるだけなら面白いんだけどな。この子たち。
和むわ。
「さて、怪我人はいるか?」
「ウッドロウ、見た目君が一番の重症だ」
陛下ーーーー!!?
ほらみろ見事な混沌だ。
やらかした張本人は呑気に笑ってる。
はぁーとため息をついて地面に降りれば、血塗れの王様が笑顔でやってきた。
「さ、これを綺麗にしてくれないか。フィリアのことだから、本物の血に近いものだろうしね」
「・・・はぁ。強いわけだよ」
「これくらいやっていないと中々な」
「毎日ブラックジョーク!!?」
ファンダリア恐ろしい。
雪も解けないわけだ。
ウッドロウの血のりと生傷を消して服も元に戻してから、怪我人がいないかを確認する。
うろたえてる兵士たちの治療を終えて一息つく。
例の将軍なんて生傷と血のり見せてわいわいやってた。
どんだけ気さくだ、ファンダリア。
「では、あとは手はず通り」
「うん。ありがとう」
「なに、また世界の存続に協力できて嬉しいよ。私はもう自由に身動きが取れないからな」
前もそうだと思ったんだけど
前は前、今は今
さあ、時計塔を治さなければとか逃げられる。
おーいと声をかけても、笑ってやっぱり逃げられた。
アイグレッテに帰れば、おかえりなさーいと迎えてくれるフィリア。無言ながら迎えてくれるバルバトス。
他下僕たちがレンズ運んでくれてるから、私はすることがない。
「お疲れ様です」
「うん。疲れた」
「あの男なら、飛行竜の中にいるぞ」
サブノックか。
さすがに私の部屋とかフィリアの部屋には置かなかったらしい。
こいつ、見た目の割りに紳士的なところがありまくる。
天は二物を与えないって本当だよ。
「サブノックさんのことは、本当に残念でした・・・」
「・・・うん。けど、歴史が戻れば全てはなかったことになる。彼も全て忘れて、自分の道を歩むだろうさ」
「どうだかな」
せめて希望くらい持たせて欲しいんだけど、一瞬で崩されるってどうだろう。
コノヤロウとバルバトスを睨むけど、バルバトスは笑うだけだ。
あの悪役ごっこの後にこうも和んだ場面にいると、その似合わなさが特に明るみにでまくってるな。
「あいつも、そして他のやつらも、皆お前についてきたからこそああなったんだ。お前が消滅した後の世界では、一生下っ端の使えない兵士として曖昧な人生を歩んでいるだろうよ」
「お前なー。少しは可能性ってものを信じてやれよ」
「可能性な」
くくくと笑ってお茶を飲むバルバトス。
無駄に優雅に飲むな。腹の立つ。
何故だかフィリアが物凄く可笑しそうにくすくすくすくす笑い出す。
睨んでも全然止まらない。
「フィーリア」
「す、すみません・・・っ」
なにがそんなに面白かったのか。
この人のツボわからんとだらければ、バルバトスにまで笑われた。



わざわざストレイライズ大神殿にまで運んだレンズは、結果海の底に沈んだ。
リアラを追いかけてきたカイルは、見事英雄となった。
通るべき道を通って、なるべき彼らになっていく。
人の成長を見るのは面白いものがあるけれど、どこかで違うよなーと思ってる自分も、いる。
だって私は、結局イレギュラーだ。
「レイン」
「れいん?」
ダイクロフトでのんびり過ごしてたら、バルバトスに呼ばれた。
変な呼び名で。
なに言ってんだこいつと思ってみれば、バルバトスはくっと笑う。
「お前の名前は長すぎる」
それ失礼だと思うんですけど。
ニヤニヤ笑ったバルバトスが、ぽいと地上軍の報告書を投げてくる。
天上軍の働きって、文明進んでるだけあって素晴らしいもんだ。
「ま、私もたるい名前だと思っちゃいるけど」
「まず似合ってもいないがな」
「るせーぞロン毛」
鼻で笑いやがるミクトラン。
仕事しろ仕事、とつっこめばやっぱり嘲笑された。むかつく・・・!
「大体君の名前だって長いだろーがよ」
「文字数は同じだな」
「ついでにミクトランも」
「名前負けしてないがな」
そろそろ殴ってもいいかな。
バルバトスに羽交い絞めにされた。
「じゃ、レインで。君はそーだな、トス」
バレーか
「バルバトスで十分だろう」
いいつっこみしてる。
「じゃー天上王殿は〜・・・ランちゃんv」
レイン消えろ
殺気送られたけど、笑ってしまう。
バルバトスも爆笑してペン投げられてた。か、壁に刺さって・・・!?
なんというか、こいつらとも随分馴染んでしまったものだ。
恐ろしくフレンドリーだよ。どーするよ悪の組織側。
「次の戦いの後、この時代の俺が地上軍を裏切る。ソーディアンの開発が進められるのはその後だ」
「そうか・・・。高々剣でなにが出来るというのか。消えろレイン」
「曲者ぞろいのソーディアンチームが、コアクリスタルに意識を投与する。曲者の剣には違いない」
「なんとも嫌な代物だ。さすがはハロルド・ベルセリオス・・・恐れ入るよ。レイン消えろ」
「それひどすぎない?私どんだけ嫌われてるよ!」
これでも傷つくんですけど。
つっこめば、やっぱり二人に笑われた。
和みすぎだと思う。










二重三重の布石