先の騒乱時の英雄たちとバルバトス、それからジューダスなんて協力者を得たあとの私は、しばらくは大人しくしていようとアタモニ神団で過ごしていた。
いや、別にどこでどう過ごしてようが、時間自由にどこでも移動なんてステキスキルを持ってるから、好きに行動できる。
けどあえてサボるのがミソだろう!
・・・はい勘違いー。
「エルレイン様。お時間です」
「はい(はい)。(めんどいけど)行きましょう」
恭しく頭を下げるのは、最初下っ端兵だったのに気付いたら忠実な僕になってたガープ以下略。
全然可愛くないけど、心意気や根性は素晴らしいもんだから好きにさせてる。
なんてったって私に害のあることは絶対にしない。
権力に物言わせて好き勝手のさばってた幹部たちは、あること無いことステキ聖女パワーでぶちまけて処理済みだ。
何が大変って、アタモニ神団の改変が一番大変だった。
何度スタンとルーティに愚痴りにいったことか。
何度フィリアの部屋に逃げ込んだことか。
何度ウッドロウに勉強見てもらったことか。
政治経済歴史なんでもござれださすが王族。ところでお前暇ないよね!・・・私を理由にサボりやがって!
まー、そんなこんなで、とうとう私にとっちゃあ運命の、日。
本編のエルレインなんて言ってたっけ?
・・・忘れたから、もう毎度適当にやってる。
アイグレッテの広場に出て、周りを護衛に囲まれながら歩く。
なんかあっても死ぬことはないからいらないと声をかけるのも日課だ。
渋々護衛たちが離れていくのも。
護衛たちが離れてすぐ、人々が集ってくるのも。
「お待ちしておりました!」
「おぉ・・・エルレイン様をこの目で・・・!」
崇拝する側の脳内が、時折気になる。
・・・私に様つけるか、私に。
しまった聖女だった。表面。
「敬称などつけないでください。私はただ、神の慈悲をこの地へ下ろす役割を果たしているだけですから」
こっぱずかしくて仕方ないんだよ!
下僕どもは、言っても聞かないから無視だ。一度シメたけど譲らなかった。
気さく過ぎてダメ!とかよく注意をうけるけど、私だって譲れない。
純粋な聖女でない私に、素直に崇められてろっていうのが間違ってる。
反則的な力使ってのさばってるに過ぎないんだから。
「全ての人々に、神の加護があらんことを・・・」
加護でいーんだろーか?なんて毎度思いながらやってる。
何を一番勉強しなきゃならんて、宗教関係の勉強だった。フィリアにお勉強しなさい!とか叱られるわけだ。
頭痛くなるから未だにしたことない。
ちょっとした自慢だ。(ボム食らいかけましたけど、ね)
ぱっと輝いて光が降り注いだかと思えば、周りから上がる喜びの声。
気分いーね、と思うのはこういうときだ。
色々お礼言われてたら、急に横から叫ばれた。
「それのペンダントを返せ!それはあの子のだ!」
カイルだ。
カイルは私のこと覚えてない・・・んだろう。そりゃそうだ。
記憶を無くした6歳のあの事件以来、カイルとは会わないようにしていた。
ルーティとかスタンに写真貰って萌え萌えして、おこぼれを他のみんなに見せてたくらい。
おかげでバルバトスに呆れられ・・・いやいや、そんなことを言ってる場合じゃない。
「貴様、無礼ではないか!エルレイン様の御前であるぞ!」
「かまいません。下がりなさい」
危ない危ない。
危うくカイルが牢獄入り再びを果たすところだった。
多分、ジューダスが何とかして助けるんだろうけど。
「あの子・・・というのは、貴方と同じ年頃の女の子のことですか?」
「そうだ!それは、あの子のペンダントなんだろう!?あの子はそのペンダントを物凄く大切にしているんだ!」
めっちゃ一生懸命だ。
めっちゃ可愛い。
やばい。笑ってしまった。
カイルどころかロニまでむっとしてる。
「それはそうでしょう。私もとても大切にしています」
「だから・・・!え?私も?」
「ええ。これは確かに、私のものです。彼女も同じものを持っていますが」
「あの子を知ってるの!?」
「ええ。生まれた頃から暫く、一緒に過ごしましたからね」
懐かしい。
多分、この騒ぎに便乗して大神殿に入ってるはずだ。
ぱぁっと顔を輝かせるカイルを退かせて(というか背にかばってか)ロニが前に出てくる。
そのまま勢いよく頭を下げた。
「す、すいません!コイツ口の利き方を知らないもんで・・・」
「かまいません。あの子のために一生懸命になったのでしょう?あなた方は、あの子のご友人で?」
「い、いえ!知り合い・・・です」
今更冷静になったのか、真っ赤な顔でカイルがとぎまぎ答える。
あーやっぱかわいーなーと、もう小母さん感覚で笑ってしまう。
「そうですか・・・あなたは優しい方なのですね」
いい子に育った。さすがスタンとルーティの子供。
カイルどころか、ロニまで赤くなってる。・・・がんばれ兄貴。明日があるさ。
「あなたのような人にこそ、アタモニ神の加護がもたらされるでしょう。あなたたちのお名前をうかがってもよろしいですか?」
知ってるけど。
いい返事を返して、気をつけのポーズで答えるロニとカイル。
うんうん、いい子達に育った。ルーティたちに手紙送っておこう。
「エルレイン様、失礼ですが、もうお時間が・・・」
「そうですか・・・。わかりました。それでは皆さん、今日のところはここで失礼します。この街の人々に偉大なる神アタモニのご加護があらんことを・・・」
声をかければまた騒ぎ出す民衆たち。
呑気なものだ。
崇められるのも悪くないけど、一々気を使うのはめんどうだな。
「あの子のこと、よろしくね」
「え・・・」
小さな声で言ったけど、聞こえたのかな。
カイルにもう一度笑みを向けて、下僕たち(うんもう下僕でいーよね!)と共に神殿へ戻った。
お疲れさまっしたーと適当に挨拶して部屋に戻れば、窓際に立ってるバルバトス。
こいつも随分エンジョイしてるよな、今の生。
楽しそうに英雄狩りしちゃあ、帰ってきて報告してくる。
スタンたちのときはみんなで念入りに作戦会議立てて、一々めんどうなとか文句言ってたけど。
それでも、よく働いてくれている。
・・・同じく憎まれ役と分かっているのにね。
天職かと言ったら斧で殴られたけど。
「今日だったか」
「ああ。恐らく今頃、大聖堂にいるフィリアにリアラが接触してるはず――どうやら、接触したようだよ」
軽い連絡用の小鳥が、もうすでに窓にとまってる。
フィリアからのメモが足についていた。
笑って手紙を燃やす。
「本当にいいのか?随分気に入っているようだが」
「今更だろう。気に入ってるからこそ、さ」
「・・・ドサドだな」
「るせーぞ適職悪役男」
自覚は結構あるけれど!
他人に言われると、腹立つ。
「さて、そろそろよろしく頼むよ。殺さないようにな」
「難しい注文ばかりつける。まぁ、やりがいはあるがな」
二人していやーな笑い方をして、斧を担いだバルバトスが黒い光の中に消えていく。
ちなみにあの光の色、悪役なら白はないだろとか注文付けられて黒にした。オプションで雷つき。
どんだけやる気満々だと爆笑した思い出がある。
やるなら徹底的にと、バルバトスとは特にアレコレ話し合ったな。
あいつ、あれで結構ノリがいいというか、悪戯好きというか・・・小さな頃遊べなかったくちか。
大聖堂での騒ぎが聞こえないよう、さりげなく結界を張っておく。
作中じゃあ混乱していたのかなんなのか、全然気付かれてなかったというか対処がかなり遅かったけど、下手に邪魔されたらたまったもんじゃない。
お疲れ様と小さなメモに一言書いて、水とエサつついてる鳥の足にくくりつけた。
窓から覗き込めば、微妙に砂埃を上げている大聖堂。
ふっと息をついて、笑った。
「まだまだ始まったばかりだよ」
何を学ぶかな。
何を学べるかな。
ここまで、これるかな。
「早く会いたいけど、楽しみは後だよな」
笑いが止まらなくなりそうだ。
ここにくるまで、長かった。
次の手まわしもそろそろしておかないといけないかもしれない。
「・・・ミクトランこえーなー」
なんてったってラスボス。
まぁ、やるっきゃない。
わーわー騒ぐ声が聞こえる。
若くて元気な声だ。・・・嫌な表現だ。
腹部から血を流したフィリアが、ロニとカイルっつーかロニに運ばれていく。
その後を追うのは、久々に見るリアラ。
そして真っ黒く変色(?)してる骨付きリオン。ことジューダス。
見るたび思うが、他に着る服なかったんだろうか。
「私ですら変えたぞ、衣装・・・」
教団の衣装ではあるけど、前より重くないしちょっと若作り。
髪型もだっさい三つ編みだらけから、日替わりだったりする。今は気に入ってるから、もっぱら耳の上辺りでお花作って垂れ流し。
若く見えることの何が悪い。
デフォルト20代後半とか、結構凹む。
どうせなら若々しい方が・・・まあ、いいか。
ぶぉんと嫌な音を立てて、バルバトスが戻ってくる。
お疲れと声をかければ、にやにや楽しそうな(キモイ)笑みを浮かべながら、ああと返してきた。
思ったより手ごたえあったのかな?
「楽しかった?」
「話にならん。が・・・見込みはある」
「そっか」
それくらいコイツに言わせたなら、上々だ。
一人ひとり相手では簡単に殺せるなと言われて、まだまだこれからだってと笑って返しておいた。
お茶でも飲めばとお茶を出してれば、コンコンと扉をノックされる。
どうしたと声をかければ、すぐ返事が帰ってきた。
「エルレイン様。賊が侵入したようです」
「ああ・・・放っておいていいよ。予定通りだから」
「では例の?」
「そう。一応体面てもんがあるから、使えないの二・三人回しといてくれればいい」
「御意に」
忠義厚くて結構だ。
よくやるなと、またバルバトスに笑われた。



「――で、どうだった?フィリア」
「ええ。とても気持ちの良い子たちでしたわ。スタンとルーティにそっくりです」
時間を置いて会いに行けば、すっかり綺麗に着替えてのほほんとお茶していたフィリア。
くすくす笑ったフィリアは、私たちにもお茶を出してくれた。
さっきまで飲んでたからみずっ腹になりそうだ。
「あの人も・・・貴方の言ったとおり、参加されるようですね」
「うん。今度こそ、なんて、今頃肩に力入りすぎてつっこみまくってる頃だろうさ」
仮面ストーカー生で聞きたかったな。
「素直に手を貸さないあたり、お前だな・・・」
「優しさだけが全てじゃない。彼らには辛いくらいのものが必要だ」
下手に落ち着けば崩れるだろう。
リアラの精神は、今はまだそこまで強くない。
フィリアがカップを置いてくすくす笑った。
「今後の成長が楽しみですね」
「ですねー」
「計画通り進めばいいが」
一人捻くれてるバルバトス。
見た目そのままの性格がにじみ出てますわ、とか朗らかな笑顔でつっこんでるフィリアが、恐ろしい。
さすが色物集団の一人だ。伊達じゃない。
バルバトスの顔引きつってるし。
「本当に斬ってやればよかった」
「おや。それじゃあみねうち?」
「ええ。リオンさんに気付かれてしまうのは不味いかと思って、先に特殊メイクで傷もつけておいたんです。あとはフィリア製血のりですわ」
めがね印の袋を取り出されて、顔が引きつる。
この人研究費違う方向に毎度使いすぎだ。今回は助かったけど。
じゃーそれウッドロウのとこに持ってっていい?と聞けば、快く頷いてくれた。
是非使え、と。
・・・学者肌の人って、どっかおかしいのかな・・・。




よーしと気合入れて、思い切って移動してみた。
で、
「えーっと・・・出会いが肝心だと思って、調子のって勢いだけでぶっ飛んできました」
「ほぉ〜〜〜・・・。そのナリで」
ナリ言うな。
・・・結果。しちゃいけない失敗した。
お風呂上り天上王とまさかのドッキリ☆遭遇なんだぜ!
泣くかと思った。
それから彼が服着て(タオル一枚じゃさすがに威厳が)お話できる状況作って、今に至る。
ものっそ殺気立ってる天上王と正座させられてる聖女の図。
を、呆れながらも絶対内心爆笑しながら見てるのは、腕を組んで無言のバルバトスだ。
他には誰もいない。
危害を加えるとか・・・無理とか思われてるんだろうな。
聖女舐めんなよ!とかいえたら気分いいと思う。
「それで?約1000年と飛んで10年先の未来から来たなどと言う自称聖女殿は、天上の王である私に一体何の用が?」
「要約してお伝えいたしますと、神ぶっ倒す喜劇に役者として参加していただきたい所存でございます」
ふざけるな
大マジッス!!
泣きそうだ。
怒られた。
バルバトスがさりげなく噴出してる。こらえきれなくなったかにらまれたぞざまーみろ!
目をほそーくしたミクトランが、また私を見る。
へびににらまれたかえる・・・!
「で」
「?」
「こちらに何の利益があるというんだ。くだらないことを言う暇があるなら、自分で動け」
「いやごもっともなんスけど、こっちも事情があるンすよ」
「まずそのふざけた言葉遣いを直せ殺すぞ
ミクトランこえぇぇぇぇええええええ!!!!!
さりげなく自分の周りだけシールド張って(痛いのはいや!)、立ち上がる。
ふらつかないように足にヒールまでさりげなくかけた。
おま、聖女だぞ私!箱入りだお!
・・・キャラを忘れちゃいけない。
「歴史の修正がかかれば全てはなかったことになる」
貴様と私が出会ったこともか?
どんだけ嫌いだよ私のことすみません!!
土下座しても許してくれなさそうだ。
はぁーとため息をつく天上王。
ドンペリでも飲みながら聞いてくれと頼めば、ホント聖女かとつっこまれた。
でも聞いてくれる姿勢にはなるんだから脱力しかける。
いいのか、それ。
・・・まあいいか。
それでこうこうこういう事情でしてーこうこうこうしてほしいんだけど、と話していけば、酒飲みながら嫌そうな顔を益々歪ませていく天上王。
「モンスターとかその他の支援もするから、お願いします!」
「今でも十分足りている」
「最近悩んでる運動不足による肥満を解消してあげるから、よろっぶねーーー!!
殺す
「なんで!?」
「当たり前だろうが、バカ・・・」
いきなりグラス投げられた挙句剣構えられた。
呆れてないで助けろよ!なんてバルバトスに声かけても自分で何とかしろとかしか言われない。
「何とかできるけどさ!」
「ほぉーう。随分な自信だな」
「えー。だって所詮人間じゃん」
「ディバインパウ」
「クレイジーコメット!」
「室内で唱術をかますな!!」
どどーんと唱術で起きたエネルギーがそこら中にぶつかって、破壊のかぎりを尽くす。
やんだころには酷い有様だった。
「・・・どうするつもりだ」
「直せるし。この通り」
レンズの力で一発さくりだ。
綺麗に治った部屋(住人込み)を見て、目を丸くするミクトラン。
私はにやりと笑って、両手を広げて見せた。
「信じて下さるかな?」
「・・・それとこれとは話が違うがな」
「チィッ!」
「こら。聖女が舌打ちするな」
思い切りやったらバルバトスに叱られた。
だってさーと腕を振れば、だからダメなんだろうだ・か・ら、と呆れられる。
なにこいつマジむかつくー。
「とにかく、あなたにお願いしたい」
「・・・」
物凄くやる気なさそうにため息つかれた。
力でツルのもおだてて落とす・・・いや違ったおだてて乗せるのも、ダメな気がする。
やれば違うかもしれないけど。
ダメならダメで、それでも利用させてもらうだけだ。
けれどどうせなら、本人から承諾を得た方がいい。
「・・・いいだろう」
「!」
「神に挑むというのも面白い。どの道私のやるべきことに変わりは無いのだしな。ただし、邪魔はするな。余計なこともしなくていい」
「ありがとう!十分だ!」
直球モーションかける前に承諾された。
最大ともいえる難関(あれ?)を越えられて、本当に安心だ。
だらしなく顔緩めてよかったーとだらけまくってたら、可笑しそうに笑われた。
レ、レア・・・!(止まれ私)
いやでも、こんな良い男の微笑とか貴重じゃん。
近くにいるのなんてバルバトスとかだぜ。たまに会えるスタンとかが癒しなんだぜ。
惚れてまうやろー!とか叫んだら多分また殺す、といわれる。
やめとこう。
「お前は何故そこまでする?神を殺せば、お前も死ぬ。たとえ妹のような存在だとはいえ、そこまでする価値があるとも思えん」
「うん?・・・うーん。そんなに不思議?」
「自覚ないあたり病じゃないかと邪推する」
「しないでー私至って正常」
リオンの嫌味とか性格の悪さ、こいつからきてるんじゃなかろうか。
白い目で見てくるミクトランを適当に流して、私は息をついた。
「別に、これといって明確な答えはないけど」
「なんの病だ?」
脳みそを使ってはいけない病だ
ないから!!
失礼にもほどがある。
特にバルバトス。
「別に答えなんてなくてもいーだろ。私の好きな結末だから進める。やりたいからやる。それだけだ」
腕組んでふんぞり返って言い切れば、眉をへしゃげてなんだこいつ、な顔をするミクトラン。
ぷっと吹き出したかと思えば、あははと声を上げて笑い出した。
レレレレアーー!?
バルバトスも一緒になって笑ってる。
・・・ぶっちゃけ、オッサンたちの爆笑聞いてても癒えない。そんなこととても言えない。
「やりたいからやる、ね」
「らしいといえばらしいが」
「度を越えてるだろう。自ら死を選ぶとは・・・マゾか」
「ああ、そちらの病だったか」
「だから違うと言うに!」
なにこのたちの悪い二人!
悪役抜擢して、正解だな。私の目に狂いは無い。
知ってるからだけど。
とにかく、天上王ミクトランへのつながりも(思わぬ騒動がありつつ)もてた。
慣れた1000年前の空気はバルバトスも気に入ったらしくて、しょっちゅう愚痴りに遊びにとミクトランの元に行く私についてきて、二人でいりびたりまくることになるんだけど。
一月に一度の間隔でミクトランがキレる以外は、結構楽しい。
これでこちら側の役者は揃った。
これより私たちは、運命に挑む。










手繰り寄せる縁