神の卵は順調に進んでいる。
このままでいけば、あと3時間たらずで地上に落ちる。
そろそろリアラたちが来る頃だ。
「つーわけでそこ、お茶セット片付けて消える」
「消えるのはお前だレイン」
「むしろ消えろレイン」
「君たちなんなの?ツンデレ?それとも単なる野次馬?」
性質の悪いことこの上ない。
結局どこまでも有害な二人は、私のことを鼻で笑ってから午後ティーセット片付け始めた。
つーかこの悪趣味な部屋で呑気にお茶してる神経がわからん。
・・・この世界きっての悪役じゃな。
アホな二人のちまちました行動を見てたら、移動するための装置が発動してる音が聞こえてきた。
ようやく来たみたいだ。
さ、演技演技。
エルレインモードおーん。メタモルフォーゼ!
・・・なんて心の中でいつも唱えてることは、誰も知らないだろう。
知られてたら恥だ。
「エルレイン!お前の好きなようには、させない!!」
威勢がいいねぇ、カイル。
さ、顔を緩めるわけには行かない。
本番スタートだ。
「なぜ、ここへ?君達に神は殺せはしないのに」
毎度思うけど、聖女の私ってキモイ。
もうリアラがいらんこと言ってくれたおかげで、半分くらい素を出してるけど。
「見くびるんじゃないよ!もちろん、戦うためにここに来たんだ。あたし達自身の意思で!」
「・・・・・それがどのような結果をもたらすのか、わかっているというのに?」
最後まで意地悪だ。
もとより性格悪いけど。
じっと私を見ていたカイルが、ゆっくり口を開いた。
「覚悟は・・・・・できている」
いい、目だ。
笑いそうになってこらえる。
いつもみたいな、子犬みたいな顔をしていたリアラが、カイルのこの一言で表情を変えた。
君も覚悟を決めてきたんだね。
いっぱい悩んで、いっぱい考えたんだろう。
最初の頃より、ずっとずっといい顔してる。
「エルレイン。私たちは、人々の救済という同じ使命を背負った存在・・・けれど、彼らと過ごした日々の中で、私は知ったわ。人々は救いなど必要としないということを。はるか先にある幸せを信じて、苦しみや悲しみを乗り越えてゆける、強さを持っているということを」
「・・・」
「あなただって、その答えに行き着いたはず。・・・でなければあんなこといわないわ」
しまった、先に発言しておくんだった。
うっかり成長したな〜なんて浸ってたらサプライズ落とされた。
絶対バルバトスたち奥で笑ってるよ。
「・・・私もまた、知った」
こうなったら、無理やり軌道修正だ。
「人はもろく、はかない存在だと。自らの手で苦しみを生み出しながら、それを消すことすら出来ない。だからこそ人は神によって守られ、神によって生かされ、そして、神によって救われるべきだ」
「・・・ヘッ、冗談じゃねえ!」
よし、戻ったぞ。
内心ガッツポーズだ。裏じゃきっと舌打ちのオンパレードだろう。
ざまみろ。
「俺たちが欲しいのは、まやかしの幸せじゃない!例え小さくても、本物が欲しいんだ!」
「なにが幸せで、何が不幸せか。それを決めんのは私たちでしょ!神様なんか、お呼びじゃないっての!」
「確かに生きることは苦しさ。でも、だからこそ、その中に幸せを見つけることが出来るんだ!」
「幸せとは誰かに与えられるものではない!自らの手でつかんでこそ価値があるんだ!」
なんかこう、集団リンチされてる心境になる。
ちょ、辛いな、これ。
そんな口々に言わなくても。分かるけどさ、気持ち高ぶってるのも。
けど演技続行だ。
ここでボロだしたら水の泡だしな。
「神の救いこそが、真の救い・・・・・・それが分からないとは・・・」
それこそクソ食らえ、って内心思ってること、バレてないかとひやひやですけどね!
大げさに動けばソレっぽく見えるんだから、聖女っていうのは大概演技しやすいのかもしれない。
単純に、私ってば女優じゃんとか調子こいたら毒舌食らわされたんだけど。某三人に。
「神はもうすぐ光臨する・・・・・そう、完全な形で、完全な救いを人々にもたらす・・・それを邪魔するというのなら、私の手で、君達を神の元へ還してやろう。それが、私が君達に与えられる唯一の救い・・・・・・」
あの、恥ずかしいんでとっとと先に進んで欲しいんですけど。
絶対裏で笑われてる。爆笑の類で。
私に睨みを利かせてる彼らを、むしろ睨みたいくらい。
「俺もみんなと同じ気持ちだ。だから、ここまでこられたんだ・・・!俺たちは、神の救いなんか必要としていない!もう迷ったりはしない!俺達の手で必ず、神を倒す!」
よーしカイル行動が遅い。
じゃなくて。
カイルの声を皮切りに、次々仕掛けられる攻撃。
ちょっと待った。大事なこと忘れてた。
・・・私戦いなんてしたことないんだけど!!
バルバトスに基礎とか習ったくらいだよ!?護身術とかいってミクトランに遊ばれてたくらいだよ!?
どーするよこの状況!
スタンたちと遅くまで飲んだ所為で二日酔いだし!
ウ○ンの力がないどうしよーってなげいてたらフィリアに笑顔で変な薬渡されたし!
ソレ飲んだ所為かつい30分前まで気持ち悪いわ頭痛いわ何だわで寝込んでたし!
どーにかしてよ、この状況!!
「・・・ん?」
「でやぁああ!!」
「あれ?」
なんか、体が軽い。
カイルたちの動きが分かるというか、少し遅い?
ついでに力も上がってると。
・・・フィリア、何飲ませやがった・・・!!
「ディバインセイバー!」
唱術は面白がってばしばし使ってたんで、なれてます。
にしてもこの強さはなんなのか。
薬草入れまくったな、フィリア!どーりで不味いわけだよ!ポー○ョンにも負けない味だった!むしろ勝ってた!
ついでにバルバトスとミクトランのおかげでもあるんだろう。
私、ホントに恵まれてたな・・・。
これじゃフォルトゥナ前の前座にもならないところだった。
たくさんの協力者たちにしみじみ感謝してたら、攻撃をモロにくらった。
もちろん痛い。
メッチャ痛い。
てゆーか集団リンチなくねぇ!?マジなくね!?
いやー!と悲鳴上げたいところをなんとかふんばって、攻撃いなしたり仕返したりとする。
けど、多勢に無勢だ。
なにより経験の差もやっぱりあるんだろう。
最強フィリアの特別薬(ドクロ印確実だ)は、小さな英雄たちの前に破れた。
腕が上がらない。
足も。
頭ももう動きそうに無い。
「・・・エルレイン・・・」
リアラが呼んでる。
そんな悲しそうな声上げなくてもいいのに。
私と君が共に過ごしたのは、ほんの一年たらずだ。
私の私利私欲にまみれた野望をことごとくつっこんで打ち破いて、文句ばかり言ってたのに。
私に嫉妬して気付かず嫉み続けて、本当は辛かったことも知ってる。
思えば最初から、私たちは正反対の二人だった。
「随分と無様な負け方だな、レイン」
「っバルバトス!?」
「な、なんで!?あの時死んだんじゃ・・・!!」
「お遊びはここまでだ」
「ミクトラン!?」
ちょ、おーい・・・。
なにやってんの君たち。
物凄く普通に出てきて私を見下ろしてくる。
メッチャ楽しそうだ。ニヤニヤ笑ってやがる。
思い切り顔しかめて睨み返したら、可笑しそうに笑ったバルバトスがしゃがみこんできた。
背中に腕を回されて、ぐっと起き上がらされる。
い、痛いんですけど・・・。
「なんであんたがここにいるわけ?特にミクトラン」
「こいつのふざけた遊戯に最後まで付き合っただけの話だ」
「くそ・・・エルレインを倒したっていうのに!」
焦った顔のカイルが、剣を構える。
他の面々も武器を構える中、リアラだけが私を見つめていた。
困惑の中に、心配を混ぜて。
「どういうこと?遊戯って何?」
「言ったはずだ、小さな聖女。お前たちはコイツの手のひらの上で踊らされていると」
「どういう意味だ!!」
「少しは自分で考えたらどうなんだ?感謝の一つでもしろ。この私まで手駒として使われたんだ」
ちょっとーオッサン、いつまでそのネタ引きずってんだよ。
大体最初アレだったくらいで、途中から超ノリノリだったじゃないか。
「・・・全てはエルレインの策の中。だとしたらそいつは、何を考えて僕らと敵対していたんだ」
こらこらリオン。
そこはつっこんじゃだめなところでしょう。
バルバトスがめっちゃ楽しそうに笑ってる。ミクトランも同じくだ。
やめてくれ。すっげー嫌な予感しかしない。
「「お前たちに神を倒させるための策だ」」
「・・・ぶっころ・・・」
「まだ喋れたか」
「詰めが甘いな。だからこんなバカに踊らされるんだ」
ミクトランぜってー凹ます!!
誓ったところで指の一本も動かないけど。
はあ!?と声を上げるのはロニとナナリー。
リアラが目を丸くしてる。カイルもぽかんとしてる。
ハロルドとジューダスが、思い切り顔をしかめた。
「なにそれ?じゃあそいつは、私たちに神様倒させるために、わざわざこんな七面倒なことしてたってわけ?」
「その通り」
「なんの意味があって?十分な力持ってんだから、自分でやればいいじゃない」
「・・・ソーディアンチームが束になっても苦戦した、天上王が味方ならば・・・」
「詰まらんことには手をかさん」
「子供か!!」
ナイスジューダスっつーか、こっちも十分つまらなかったと思うんだけどな。
ミクトランの返事を聞いて、みんな酷い顔になった。
美人が台無しだぞー。
「・・・なんで?」
リアラがぽつりとつぶやく。
泣きそうだ。
「なんでそんなことしたの!だったら、最初から私たちと一緒に・・・!!」
「最初の頃のお前なら、真っ向から否定していただろう、リアラ?」
いやらしー笑みを浮かべて、痛いところをつくバルバトス。
リアラがはっと息を吸って口ごもる。
確かに・・・とジューダスがつぶやいて、みんな微妙な顔でリアラを見た。
なんか、いたたまれないんだけど・・・。
「で、でも!それだったらわざわざこんな戦いしなくったって・・・!!」
「神は強いぞ」
慌てて声を上げるカイル(愛だねぇ)に、バルバトスがにべもなく返す。
カイルたちの表情が強張った。
「お前たちを成長させる必要があったからな。俺たちはいい壁になっただろう?」
「なによりお前たちの覚悟を見る必要があった。ここまで来たのなら、もう十分だろう」
で、ミクトランが話を落とすと。
・・・なんだよ、チームワークなんて見せ付けやがって。腹の立つ。
ぷんすか内心怒ってたら、がぽっとバルバトスに瓶をつっこまれる。
何かと思ったらエリクシールだった。
ちょっとー、これ、彼らに渡るはずの物だったんじゃなかろうなー?
「げほっ・・・!!」
「罵れる元気は出ただろう」
「っぜーな筋肉!私の苦労を台無しにしやがって!!」
「・・・あれ、本当にエルレイン?」
「あれが私の知ってるエルレインかな・・・」
そこうるさい!
物凄く生暖かい視線を感じる。
けどとりあえず、このニヤニヤ笑ってるやつらをなんとかしたい。
「お前の役目は終わっただろう」
「シナリオどおり進んでよかったな」
「ああ、ありがとうって違うから!まだフォルトゥナ倒してないし!」
「どうせこいつらが倒す」
「倒せなければ私たちでやればいいだけの話だ」
「おいコラ。私は戦いなんて慣れてないんだぞ」
「「鍛えてやる」」
「お呼びじゃない!」
むしろ結構だ。
視線に呆れた空気が加算された。
・・・いつもこのノリで悪かったな!
二人を睨みつけていれば、ぐいと腕を引っ張られる。
何かと思ったら無理やり二人に立たされた。
これじゃ囚われた宇宙人だ。・・・確かに人外だけどこれはない。
「用事も済んだ。行くか」
「は?どこに」
「ダイクロフトでいいんじゃないのか」
「今更逆戻り!?見届けてもいないのに!?」
「あのエルレインがボケ倒されてる・・・!」
リアラ、感心してる場合じゃないから!
にやーっとミクトランが笑う。
絶対嫌なこと考えてる。
「別に私たちだけで戻ってもいいんだぞ。その代わり、戻ったあかつきにはダイクロフトとベルクラント土産に地上軍に寝返るけどな」
「とことん自由だな、オイ!それでいーのか天上王!」
「どーせ修正されるならかまわんだろう。好き勝手過ごしてやる」
「どうする?レイン。こんなこと言ってるが」
「ああ・・・もうアホばかりだ・・・」
つっこみが足りない。
ジューダスに助けもとめようか。だめだこっち見るなオーラ出してる。
なんか可哀想になってきたんだけど、なんてナナリーの呟きが聞こえた。
同情するなら助けてくれ。
「こいつらが神を倒したなら、自動的に全てが元に戻る」
「心配せずとも結果を待っていればいい」
「・・・1000年前でかよ」
「いいだろう。ここまで茶番に付き合わせたんだ。今度はこちらの茶番に付き合え」
ホント茶番だよ。
つっこんでも笑われるだけだ。
それはそれで面白そーって、ハロルド君もつっこめ!君の時代だ!
「エルレイン」
リアラに声をかけられて、顔を上げる。
随分穏やかな声だと思ったら、顔も穏やかだった。
「ありがとう」
礼を言われて、顔をしかめてしまう。
私はただ物語をたどっただけだ。
リアラを見ていたバルバトスとミクトランが、またニヤニヤ笑いながら私を見る。
こいつら顔ぶっつぶしてやろうか。
「よかったなレイン。妹分に礼を言われて」
「がんばった甲斐があったな?レイン。自分の命も顧みずに」
「よぉーし貴様ら表出ろ。ぶっ飛ばしてやる」
「今までと180度性格が違うな・・・」
ロニ、余計なこと口走るな。
私は生まれて此の方この性格だ。
うおりゃ!と腕ほどいて一発ずつ入れても、全然きくわけがない。
「そういうわけでこいつは貰っていく」
「もういらんだろう」
「いらん言うな!」
「ええ、つれてっちゃっていいわ」
「リアラ・・・」
泣きそうだ。
アホ二人どころか、リアラまで笑ってる。
こら、ハロルド、君まで笑うな。
「エルレイン」
また声をかけられる。
「のんびりまったり隠居生活、楽しんできて」
覚えてたのか。
・・・そりゃそうか。ことあるごとに言ってはつっこまれてた。
一気に毒気を抜かれて、私は脱力した。
お前昔からそんなこと言ってたのかなんて呆れてるバルバトスは、もう一度どついておいたけど。
「わかった。あとをよろしく頼むよ」
「ええ、任せて!」
がっつり笑顔で返された。
しかもカイルはおろおろしながら、えーっとありがとう!なんて言ってくる。
苦笑いを返せば、ロニが気の抜けきった顔でため息をつく。
「なーんか、変なことになっちまったなぁ」
「・・・最初から変だったみたいだけどね」
ソレは言わない約束だ、ナナリー。
「ま、とにかく神をぶっ倒しちゃいましょう。ミクトランが好き勝手する前にね」
「博士頼もしー」
「やっぱやめたわ。明日出直しましょう」
「今帰ったら地上に落下して、全員お陀仏だろうが」
多分博士って呼ばれたのが気に食わなかったんだろう。
あっさり踵返すハロルドの服捕獲して、ジューダスが顔を引きつらせながらつっこむ。
とっとと行けなんてつめたい返事をもらって、せっかくスタンたちに会わせたのにと返しておいた。
めっちゃ驚かれた。
「まさか貴様・・・!!」
「あいつらもグルだぞ」
「ぇえ!?父さんも!?」
「ルーティにウッドロウ、フィリアにコングマンにジョニーにチェルシー、他は・・・リリスもか?」
「ちなみにフィリアは一番の協力者だな。スタンとルーティは手紙のやり取りがほとんどだったが・・・レインはガキの頃、お前の面倒を嬉々としてみていたぞ、カイル」
「ぇぇぇええええええええ!!?」
「ずるいエルレイン!」
「いやそーゆー問題じゃないから。突っ込みどころ違うから。がんばれよリオン!」
「僕はリオンじゃない!ジューダスだ!」
「もーそのネタいらねーよ!」
段々収拾付かなくなってくる。
はいはいーいいからとっとと終わらせるよ、とナナリーが声をかけて、ようやく収まった。
ぐだぐだなまま挨拶もそこそこに、1000年前へ逆戻り。
ミクトランは宣言通り、ダイクロフトとベルクラント土産に地上軍に寝返った。
ありえねぇ。
そのままさくっと天地戦争は終結。
青空と自由の権利を手に入れた人々は、それはもうたくましく生活していった。
「・・・マジでこうなるとは・・・」
「いいだろう。お前の望んでいた隠居生活だ」
「というか、歴史の修正はいつかかるんだ?このまま1000年隠居生活か」
ミクトランの最もな言葉に、思わず全員固まってしまう。
天地戦争を終えてすぐ、あらかた落ち着いた頃合を見計らって逃げてきた私たち。
生活はなんとかなるし、どーせなら不老不死にしやがれとか言われてもう軽く数十年くらいひっそりと暮らしてる。
・・・ガチで1000年後かな、歴史の修正。
「まぁ、いっか。なんかもうどーでもいーや」
「言うと思ったが」
「適当だな」
いや君たちに言われたくないし。
言い返せば笑われた。こいつらも、よくここまで丸くなったもんだ。
「のんびり過ごしていこう」
「年一子供を作って数えていくのはどうだ」
「それも面白そうだな。村一つ作れる」
「却下」
私に死ねといいたいのか。
・・・大体あいてこいつらかよ。
絶対まともなガキできない。
舌打ちしてるあたり、本気だったのか。
なんか実行されそうで怖いんだけど、暇だし。
そんなこんなでとんでもなく緩い生活を続けて、1000年。
色々手を加えて神の眼の騒乱は自動的に起こったし、特に大きな事件もなく、緩やかに毎日が過ぎていった。
幸せ、なんだろうな。
悟り開けそうだけど。
「おい、面白いものがあるぞ」
見飽きた強面が、外から私とミクトランを呼ぶ。
何事かとめっぽう刺激に弱くなった私たちは、呼ばれるままに外に出た。
「・・・神の卵あるし」
「ようやくだな」
「そろそろ飽きたな」
いい加減飽きるよそりゃあ。
段々とこちらに近づいてきている神の卵。
きっと、どこかでスタンたちもこの光景を見ているんだろう。イクシフォスラーさっきつっこんでった。
「・・・どうやら終わったようだぞ」
随分と高い位置で、神の卵が光り始める。
羽化とは違う光だ。
あれは、きっとレンズを壊した光。
これから歴史の修正が始まる。
「バルバトス、ミクトラン」
世界が歪んできた。
もう時間はないだろう。
「最後まで付き合ってくれて・・・ありがとう。私、幸せだった」
期待なんてしてなかった。
エルレインなんて、敵役に生まれ変わったと知ったときに。
何もせず死んでいくか、話の通り進んで消えていくか、それとも好き勝手動いてやりたいようにやるか。
選んだのは、彼らの引き立て役。
下手に動いて失敗するのが怖かった。頭良くないし。
だから、ここまで一緒にいてくれる人がいるなんて、思ってもいなかった。
なんだかんだいって、助けてくれた。
いつも傍にいてくれた。支えてくれた。
これだけ一緒に過ごしたら、もう家族どころじゃない、かな。
らしくないけど素直になって、二人に笑みを向ける。
私を見てしかめ面するのはミクトラン。
眉を上げるのはバルバトス。
けど結局二人は笑う。
「次に会う機会があればいいと言ったら、笑うか」
「色んな意味でね」
「なら俺は素直になっておこう。・・・俺も、幸せだった」
ミクトランの言葉に肩をすくませれば、似合わない笑顔浮かべてバルバトスが言ってくる。
くしゃくしゃに頭なでられて、抱きつき返しておいた。
息をついたミクトランが、同じように頭をなでてくる。
ぼさぼさだな、私の頭。鳥の巣にされたらどうしてくれる。
「最後くらい言ってやる。共にいられてよかった・・・レイン」
もうすっかり聞きなれた私の愛称。
エルレインじゃなく、レイン。
ミクトランにも抱きつけば、しっかり抱き返してくれた。
目の前が段々と白くなっていく。
まだ消えないうちに、二人の手を、握った。
悪いけど、涙は持ち合わせてないんだ
「――そう。世界中回ってきたんだ。どーりでいい顔してるわけだ」
「へへ」
「しっかりお嫁さんまで連れてね〜」
「ちょ、母さん!」
にやにや笑うルーティに、リアラとカイルが顔を真っ赤にする。
あははと笑うスタンと共に、ルーティとロニも笑った。
「でも、もう一度旅に出ようと思うんだ」
「え?なんで?」
「まだ懲りてないの?まぁ、若いうちはたくさん旅して損はないとは思うけど・・・」
「まぁ、それもそうなんだけどさ」
肩をすくませるルーティに、カイルは苦笑いを返す。
リアラも苦笑した。
息をついたロニが、実はと声を上げる。
「リアラの姉貴を探してるんです」
「リアラのお姉さん?」
「はい。エルレイン、ていうんですけど・・・。生きてるかどうかは、分からないんです」
眉を下げて暗い表情をするリアラ。
つられて、カイルとロニも沈んだ表情になる。
エルレイン?とスタンが首をかしげた。
「エルレイン・・・て、もしかして、レインのことかな?」
「ああ・・・。そういえばあいつ、そんな名前だったかしらね」
「え!?」
「父さん、母さん、知ってるの!?」
「うん。知ってる知ってる。妹ってリアラのことだったんだなー。確かに可愛いや」
あっさり肯定されて、リアラたちは呆気に取られる。
・・・やったぁ!と叫んだカイルが、リアラの手を取った。
ぽかんとしていたリアラも、眼を潤ませてうん!と頷く。
「で、どこにいるんですか?」
「どこだったかな〜。確か山奥だった気がするけど」
「ネコにんの村よ。あいつら、暇だからって村一つ作ってのんびり村長してるじゃない」
「ネコにん?!」
「村長!?」
「というか、あいつら・・・?」
驚くカイルとロニ。
リアラが首をかしげると、スタンがぷっと笑い、ルーティが心底呆れ返った顔でため息をついた。
「そう、あいつ“ら”よ」
「行ってみればわかるよ。驚くから」
「・・・なんか、嫌な予感がする・・・」
「・・・俺もだ」
「・・・私も」
微妙な表情で顔を合わせるリアラ、カイル、ロニ。
スタンとルーティは三人を見てくすくす笑い、行ってみたらと声をかけてきた。
「うん、そうだな。行ってみよう!」
「ええ!・・・とりあえず、出会いがしらはエンシェントノヴァかしら。クレイジーコメット練習しておこうかな」
「リアラーーー!!?」
「お前ちょっと落ち着け!!キャラ忘れてるから!!」
驚くカイルとロニのつっこみを聞いて、リアラは笑い出す。
それくらい決めても大丈夫大丈夫と流すルーティに、いやまずいだろ!?とカイルがつっこんだ。