突然のことだった。


衝撃を受けて体が跳ねた。
自動車事故なのか工事現場からなにか落ちてきたのかなにかぶっ飛んできたのか。
原因もわからないまま、ありえなく近いアスファルトとそこに流れる自分の血を眺めてた。
んだけど。
『目覚めなさい・・・エルレイン。リアラ』
「・・・はい」
「・・・・・・・・・・・・はい?」


意識を取り戻したかと思ったら、聖女だった。


周りは真っ黒な世界。
そこに、ご大層な衣装を着た自分と可愛らしい少女がいる。
目の前には白い光の塊だ。
・・・ようこそここへ〜クッククック?
違う。
青い鳥渡すような立場にはなってるけど!
なにこれ!と叫びたい衝動に駆られながら、若干緊張ぎみのリアラを見る。
・・・小さいなぁ。可愛いなぁ。細いなぁなに食ってんだこいつ。
「はっ!」
「え!?」
「あ、すいませ・・・」
驚かせてしまった。
物凄く不振な目で見られてる。やめて、傷つくから。我に返っただけ。
似たような空気を出していた白い光の塊が、こほんと咳をつく。
器用だな。
『私の聖女・・・人々を幸福に導く術を私に・・・。そして全ての人々を幸福へと導きなさい・・・』
「(もっとしゃきしゃき喋れっての)」
つっこんでもよろしいか。
ポケットがあったら、確実に手ェつっこんで不良立ちしてたことだろう。
ぴかっと光が強くなる。
「うっぜぇ・・・」
「えっ!?」
また驚かれた。
けど、こうも眩しいと目に悪そうだ。
上司(?)に健康害されたというか身体的に嫌がらせを受けた場合、パワハラと受け取っていいのか。ん?パワハラ?立場逆?
ともかく、となりでリアラがめっちゃ驚いてる。
「いやこれ確実にうざいっしょ」
「え・・・あの・・・」
「・・・いい子だね、君。負けちゃだめだよ」
うん、色々。
しみじみしながら頭をなでてる間にも、ぴっかぴっか光ってるフォルトゥナ。
リアラはフォルトゥナと私を交互に見ておろおろしてる。
可愛い・・・この子すっげー可愛い・・・。
萌え〜なんて浸ってる間にも、どんどん光は強くなる。
「・・・っぜーな公害ィイ!!」
「公害!?」
リアクションよし。
は!?なんてフォルトゥナの声を最後に聞いて、私とリアラは光に飲み込まれた。


あれから私たちが飛ばされたのは、私がゲームで歩き回ったフィールドの、10年後の世界。
アイグレッテの街のど真ん中。しかも空中だった。
「マジありえねーしなんだあのおばはん。他人任せで丸投げした挙句羞恥プレイか」
「あ、あの・・・」
「とりあえず適当にレンズ集めて具現化させて、ボコっとく?」
「ぇえ!?だだだだめ!!そんなことしたら、私たちも死んでしまうわ!!」
「あ、そっか。まだ若いもんねリアラ。青春したいよね〜うんうん思春期っていいなぁ」
ぶんぶん手を振って焦るリアラの頭をなでて、あの頃はよかったなとしみじみ頷く。
いやそういうことでもなくて!とリアラが私の服をつかんだところで、下から悲鳴が上がった。
「な、なんだぁ!?ありゃあ!」
「聖女だ・・・聖女様がご光臨なさった・・・!!」
「・・・なんか勝手なこと言われて」
ないから!
うーん。いいつっこみしてる。
びしぃっと私につっこんだリアラは、あの!と声を上げた下民ども(あ、本性が)に顔を向け、ぐっと胸の前で手を握った。
可愛〜い。緊張しちゃって。
声をかけてきたのは、ストレイライズの関係者らしい。
若いのからじじばばまで揃ってる。
「あなた方は、神よりつかわされた聖女様ですか?」
「あ、あの・・・私たちは・・・」
緊張しすぎて上手く喋れないらしい。
可愛いな〜と眺めていれば、キラキラ目を輝かせた下民ども(もういいや)が好き勝手言い始めた。
「おお!声も美しい!」
「見ろ!あの神々しいお姿!!」
「どうやって宙に浮いておられるのか・・・」
「聖女様!こちらを!私にもその御姿をお見せください!!」
「あ、あの!」
「聖女様!」
リアラの声なんぞ聞こえねーよ!なノリでわあわあ騒ぐ下民ども。
今思った。
私、聖女に向いてないね!(わー今更!)
リアラはひたすらおろおろして、どうしたものかと下を見てる。
そんなに優しいからだめ・・・いや聖女ならいいのか?・・・いいのか。(うわホント向いてねぇ私)
とりあえずだ。
イラつくから黙らせよう。
「静まりなさい」
腹から声を出せば、案外響くもんだ。
しんと静まり返る。
リアラは隣で目をぱちくりさせながら(かーわーいーいー)私を見てる。
「私はエルレイン。この子はリアラ。私たちは幸福をもたらす神、フォルトゥナより生まれしもの」
ホント低のいいパシリだよコノヤロー。
おぉ、とか間抜けな声がまたしたから上がる。
とりあえずそれっぽく両手を挙げてみた。
「私たちはフォルトゥナに代わり、人々に幸福をもたらしにきました。・・・神の慈悲を・・・」
・・・なんて言うべ。
「・・・ここへ!」
浮かばなかった。
若干呆れた空気がリアラから流れてる。
けど、次の瞬間にはそれもふっとんでた。
ちょこっとふんばってみたら、ペンダントが輝いて自分まで光り出す。
その光は下々の者たちに降り注ぎ、そこらじゅうから歓喜の声が上がった。
「・・・すごい!」
「目が・・・私の目が!」
「腕が動くぞ!!」
「腰が痛くない!」
最後の誰だ。
・・・とにかく本当に奇跡が起こったっぽい。
ぽかんとしていたリアラは、周りの人々を見て、悔しそうに眉根を寄せた。
そんな顔も可愛い。
聖女様ー聖女サマーなんて崇められてちょっといい気に浸って。
気付いたら輝きの聖女とか勝手な称号が与えられてた。
「ところで」
「はい、なんでしょう!」
もう一度声を上げれば、すぐさま反応する下民たち。
間抜けな面を見下ろして、私はにっこり微笑んで見せた。
「リアラのスカートの中身を見た者、正直に前に出なさい。今なら3分の2ボコりで許して差し上げます」
ダメーーー!!
リアラから生まれて初めて、右ストレート食らった。


「とりあえずそれっぽく見えるように堂々立って、適当にゆっくり敬語で喋っとけばなんとかなるもんだね」
「・・・」
あれやこれやと騒がれて、つれてこられたストレイライズ大神殿。
私たちにはかなり大きな客室が与えられて、今はのんびり過ごしてた。
私の変わりようにかなり驚いたらしいリアラに事の次第を教えれば、物凄く白い目で見られて・・・とまあそれが上の会話なんだけど。
まーとりあえず気張らずいこーよと手を振れば、がくりと頭を落とされた。
「・・・なぜそんなに呑気なの・・・?」
「だって好きでなったわけじゃないし。元々、エルレインになる前は普通の女だったしね」
「え?」
ついこぼしてしまった言葉に、リアラがきょとんとする。
ああまずったなと苦笑いしながら、私は手を振った。
「前世、っていうのかな。それが残ってるから」
「前世・・・転生、ということ?」
「そうなるかな。だから純粋な君とは違う。聖女なんて肩凝る職業むいてる性格じゃないしねー」
「・・・職業ではないわ」
結構冷たくつっこんでくる。
この子実はすっげー怖いんじゃ、と思いながらも表に出さずけらけら笑ってたら、リアラはアンニュイにため息をついた。
「でも・・・貴方の力は本物だわ。私は・・・なにもできない・・・」
「それは早とちりってものだ、若者よ」
胸の前で手を握りながら暗い表情をするリアラ。
その頭をぽんと叩きながら声をかければ、睨むように見られた。
あ、睨まれた、かな。
「恐らくヤツは、私と君とで見た目や力に差を付けることによって、人々を導くやり方に幅を持たせようとしたんだよ」
「はば・・・?」
「そう。私は力押しでなんでもできる。見た目も成人してるから、大体の融通も利くしそれっぽく見える」
「対する私は・・・力は未熟で、見た目も子供」
そっとペンダントに手を添えて、わざわざ話に乗ってくれるリアラ。
いい子だ。
聞くだけで留まるやる気のないヤツとは違うねぇ。
・・・ズバリ私さ!
「けどそれがどういう意味を持ってるというの?」
その分気も強いらしいけど。
私はテーブルに頬杖ついて、表情を緩めた。
「人々を幸福へと導く道筋を、どうしても私とリアラでは変えなければ成せないだろ。それぞれ違う方法で人々を導く方法を考えろってこと」
「それぞれ、違う方法で・・・」
「そう。あの人・・・人?が最初からやり方を決めていたなら、私たちは同じ力で同じ姿・・・もしくは二人合わせた“一人”の状態で、指示に従ってただ動けばいいだけだったはず」
「つまりフォルトゥナは、幸福への導きは一つではないと考え、私たちにそれぞれ違いを持たせた・・・ということ?」
そういうこと、と頷けば、リアラは感慨深く〜と思わせる顔でふかーくため息をつく。
だからってなんで私がこんな・・・チィッ、みたいな感じか。
私だったら暴動起こしてるな。
「ま、適当にやってこうか」
「え?」
「テキトーでいいんだよ。テキトーで。気張ったって何が変わるわけじゃあるまい。人の欲なんて留まるところを知らない。それを全て幸福にしようだなんて、最初から間違ってるんだ」
胸糞悪い。
人形にでもするしかないだろう。
一人ひとり付き合ってたらそれこそ終わらない。
「誰もが幸せになろうとするから、摩擦が生まれる。そこで落ちるか落ちないかの違い。あちらを立ててこちらも立ててなんて無理さ。目に見える幸福をちらつかせてフォルトゥナを復活させたって、逆に不幸な人ランキングが明るみに出て堂々巡りで終わりじゃない」
ねー、と、窓にとまってる鳥に話しかける。
当たり前だけどシカトだ。・・・クッキー食べるかな。
ぽかんとしながら私の話を聞いていたリアラは、ぎゅっと眉根を寄せた。
「なら、あなたは何のために聖女と名乗ったの?」
「役割を宛てられたから」
「やる気が無いなら、最初からやらなければよかったじゃない!なんで人々に期待させた後でそんなこと言うの!?」
聖女としての考えなのか、それとも嫉妬から来た言葉なのか。
後者でないのなら、この子はまだダメだ。
ひたりとリアラの目を見れば、リアラは私を睨みながら口をつぐんだ。
「この矛盾が分からないうちは、君に人々を幸福にする術なんて思いつきはしない」
「っ!」
「学んできたらいい。悩んで悩んで考えて、君の答えを見つけるんだ。その答えが、君を聖女にする」
リアラの額を指で突きながら、言う。
話の通りにいくのなら、リアラも私も消えるんだろう。
それでも元人であった私は、アレが一番正しかったと思える。
真面目な話は正直疲れる。
これくらいでいっかなーと息をついて力を抜いて、席をたった。
「どこへいくの?」
「んー、とりあえずこの街の人たちのお悩み解決に」
さくっと終わらせて次の街行かないとなーと言いながら、両手を伸ばす。
リアラも席をたった。
「やる気がないんじゃないの?」
「だから終わらせるのさ。とりあえず適当にやってそれなりになってきたらフケる。ちまちまちまちま幸福振りまいてるから、その間に君も好きに過ごしたら?」
言えばがくーっとうなだれるリアラ。
サボる気満々っ・・・とかぼやかれた。
人生はアイスクリームみたいなもんさ。なめるすべを学ばないとね!byチャーリー・ブ○ウン!
負け犬最高。
「さて、まずは力の差で身の程をしらせないと。アメで洗脳終えたらなにしよーかなー」
ちょっと待ってぇぇぇえええええええええええ!!!?
物凄い勢いで、後ろからタックル食らった。



アイグレッテの人たちにちまちま幸福もたらしたあと(強制的に)、今は機能してるのか微妙なセインガルド国の街や村、フィッツガルドにアクアヴェイル、ファンダリア・・・現在いるカルバレイスと回っていた。
リアラと神団の下僕たち何人かと。
「さて、ここら辺でいいかな」
「・・・いつも思うけど・・・どこにそんな体力が・・・」
「よく食べてよく寝る?ほらリアラ、しゃきっと立って。私より若いんでしょーが」
「分かったわ。洗脳のためでしょう絶対にそう!」
「失礼な。安息に包まれた隠居生活のために決まってるじゃないか
目的だけ年寄りじみてる・・・!!
本当に失礼な。
砂漠越えで息も絶え絶えなリアラが、ずしゃりとその場にうずくまる。
つっこみスキル、また上がってないだろうか。
「エルレイン様・・・本当にこんな土地の者たちにまでご慈悲を?」
「当たり前でしょう。人類皆平等を掲げてるストレイライズ神団の者なら、それくらい察しなさい」
どいつもこいつも自分で手一杯かよ。
大体教団の方針なんて私には無関係。
アウトオブ眼中だ。
「そうですね・・・。ここでの活動を終えれば、ストレイライズ神団は・・・」
「この旅を終えた後はどうなるおつもりで?我々としては、アイグレッテを中心に、是非エルレイン様とリアラ様のお力で世界を導いていっていただきたい」
「ふむ。力に物言わせて世界を手中に収め、権力に人々巻いて自由にのさばるのも楽しそうですが・・・」
全然違うから!!
言ってることはズバリそうじゃん
ほら、彼らも目をそらしてることだし。
下僕どもを見るリアラの目が、氷点下いきそうなほど冷めてる。
「私はのんびりまったり、静かなところで過ごしたいですね。自由に」
「・・・あなた結局それなのね・・・」
ぐったりと、それこそ戦闘不能くらいにリアラがうなだれてる。
下僕どもはそそくさと活動を開始。
まったく軟弱なと息をついて、聖女がきたぞーとふれまわってる下僕たちを待った。
カルバレイスの人々は信仰心なんて皆無だから、そうそう集まらないんだよね。
それなりに信仰心ありそうな他でもそうだったし、信仰心皆無なチェリクなんて随分待たされた。
最初からすがりに来る人間と、自分で何とかしてやるぜ!っていう人間に分かれる。
半信半疑なのもあるんだろう。そりゃそうだ。
だから強制的に幸せふりまけば、アーラ簡単、みたいな。
誰だって望みがかなえば嬉しい。
さて、少しは人が集まってきた。
とりあえずウザイ暑さは唱術でなんとかなるとして、適当に近くに見物に来てた人たちから奇跡起こしてみた。
そこから少しずつ集まる愚かな住民たち。
中には胡散臭そうにしている人もいるけど、恩を仇で返す人間なんて早々いないから強制的に幸福ばらまく。
力があれば何でも出来る。
溺れてしまうもの、仕方ないんだろうなと今だから思える。
有頂天になってもいいけれど、それはそれで危ないだろう。
お決まりのバカにはなりたくないし。
なにより生まれたてな所為で、どーこーいう欲が無い。
だってここじゃ私の歴史なんてないし。友達も親もいないし。
やりたいことも見つからない。いや、隠居生活か。
「エルレイン。下手なサービスはしちゃだめだから。・・・言ったそばからなにやろうとしてるの!」
「・・・チィッ」
リアラも常時見張ってるしなー・・・。
とりあえず集まってきた人たちからアレコレ奇跡を起こしてやる。
ちょろいもんだ。
ついでに水源を無理やり作って周りを沸かせて、畑なんかも出来るよう、一部の土地の土に少し手を加えた。
持っていた種を投げてにょきにょき成長させれば、はい終わり。
周りは有頂天だ。
中にナナリーがいた。
最初は物凄く疑ってかかっていたうちの一人だったのに、今じゃすっかり私たちを聖女扱いしている。
「すごいよ聖女様!ここの土地じゃ、絶対に作物を育てるなんて無理だったのに・・・!」
「見て!冷たい水だよ!」
「気持ちいい!」
おかしい。
これがあのナナリー?
はいそうですかって素直にうなずけるほど出来た人間じゃなかったはずだよね!?(あ、めっちゃ失礼だ)
今は吹き出てる水や作物育ち放題の土地を見て、周りと一緒になってはしゃいでる。
「・・・そうか」
血反吐吐くような苦労や悲しい思いをしてきたとしても、それを覆す奇跡を簡単に起こしてしまったから。
何の苦労もなく手に入れてしまったから。
人々は、困難に立ち向かう心を忘れてしまったんだ。
これまでの不幸を理不尽に思うより、悔しがるより、目の前の幸福によって盲目になる。
「・・・なにより私が間違えてたんだ」
適当に幸福を振りまいて世界中の人を幸せにして、そこから新たに問題が生まれたとしたら?
人々はまた私を頼る。
自分たちでなにもしようとしない。
考えようとしない。
本当に本当の洗脳の始まりだ。
適当に働いたからもーいいでしょはい終わり!なんて、出来るわけなかったんだ。
「フォルトゥナの思う壺・・・か」
「エルレイン・・・?」
自嘲する私を、リアラが不思議そうな顔で見てくる。
私はリアラに顔を向けた。
「リアラ。今のこの状況を、世界をどう思う?」
「え?・・・みんな、とても幸せそう。今まで会ってきた人たちも。少なくとも、今は幸せだと思うわ。全ての人を幸せに・・・というには、また何度も世界を回らないといけないかもしれないけど・・・。やっぱり、あなたは私と違って・・・本当の聖」
「違う」
暗い表情になるリアラに、私は一言返す。
え?と、また顔を上げてリアラは怪訝な顔をした。
「違うって・・・エルレイン?」
「違うんだよ、リアラ。これは本当の幸福の形じゃない。・・・わかる?」
問いかけても、リアラは困惑するだけだ。
わからないわと首を振るリアラを見て、やっぱりか、と私は息をついた。
「エルレイン・・・?」
「もうやめた」
「え!?や、やめたって・・・」
「聖女様!」
うろたえてるリアラの向こうから、笑顔全開のナナリーが声をかけてくる。
笑みを浮かべてはいと返事を返すと、ありがとう!!と大声で礼を言われた。
そんなこと、言われる筋合いなんて本当に無い。
「アンタのおかげで、ここの生活も潤うよ!本当にありがとう!」
「・・・いいえ。私には人より少し力があっただけ。本来はあってはならないことだったんですよ」
「それでも、それを人のために使って旅をしてきたんだろう?だったら、十分じゃないか。あたしはアンタを尊敬するよ!」
「いいえ、しないでください」
「へ?」
即座に首を振る私を、ナナリーがぽかんとした顔で見る。
私は力を使って浮かび上がった。
全員が何事かと私を見る。
「ナナリー、これは本当に正しい形だと思う?」
「え・・・?なんで、あたしの名前・・・」
「みなさん、よく覚えておいてください。これは正しい形ではない」
「エ、エルレイン様!?一体何を・・・」
ついてきた下僕たちが、うろたえ始める。
もう遅い。
私やリアラをダシにのさばっていた時代は、もう終わりを告げるんだ。
「真の幸福とは、幸せとは、一体何なのか。苦労もせず手に入れた幸福に、価値はありますか?あなた方は、今までどのようにして生きてきましたか?今こうして簡単に幸福を手に入れた・・・あなたたちのその生に、一体何の意味があるのか」
全員が、私を見て怪訝な顔をする。
私も大概言うことずばずば言う性格だけど、失礼な発言だろう。
構わない。
憎まれ役、買って出ようじゃないか。
「よく、考えて」
人の歴史は、こんな風に刻まれてはいけない。
「エルレイン!!」
「リアラ。お目付け役はもう終わり。私は私の道を行く。・・・君は、君の道を見つけなさい」
そうして最後に、私を越えて幸せを手にしたらいい。
歴史を変える英雄と共に、仲間たちと共に、このふざけた茶番劇に終幕を与えにきたらいい。
「また会おう」
「ッ待って!エルレイン!!」
困惑したままのリアラに、笑みを向ける。
私はそのまま、光の中に消えた。




「――さて、一からやり直しだ」
めんどーこの上ないけど、仕方ない。
・・・なによりジューダスがいないと始まらないよね!!
そんなわけで、私のなりきり聖女生活が始まる。









くだらなくすばらしき愛すべき世界