報告することにプラスしてお荷物までつけながら、僕らはダリルシェイドに戻った。
ここは全然変わってないな・・・。
『坊ちゃん。まだ1週間も経ってませんよ』
「・・・なんかもう老ける・・・」
『・・・わからなくもないがな』
「あら、アレは・・・酷すぎますわ。お魚をあんな不衛生な箱に、そのまま乗せておくなんて・・・!」
「フィ、フィリアっ、あれ市場じゃ当たり前のことだから!」
「てか声下げなさいよ。聞こえるわよ」
田舎者以上にやばい。箱入り娘。
伊達じゃないな・・・と遠い目をしてぼやいたら、アンタもなんとかしなさいよなんて顔引きつらせてルーティが言ってきた。
「僕は何もしない。反対していたしスタンが責任取るとか言ってたし。お前もほっとけばいーだろ」
「・・・それもそーね。でも一緒に歩いてる以上下手なことしてほしくないんだけど」
「距離とって歩けば良い」
「だからアンタさっきから早歩きなわけ」
すたすたすたと歩く僕に、無理やり歩調を合わせてるルーティ。
もちろんだとガッツリ頷いたら、ため息と共に頷かれた。
そりゃー、周りの目もアレだし、言ってることもアレだしで・・・うん。
隣り歩いてるスタンはすごいと思う。
マリーは迷子になりそうだからか、ルーティが手を繋いで歩いてる。
それでも余所見し放題だけど。
ルーティと、ため息が被った。
「あたしこの先が不安だわ」
「うん僕も。もう諦めた方が精神的に楽だな。・・・贈る喜びプライスレスか・・・やるなアタモニ神団」
贈る側だけの価値じゃない
得にならないプレゼントなんていらない!と腕を上げて叫び出すルーティ。
ああ、ヒス女も無理だな。
まともなの僕だけか悲しい。
もーガチでたるいなーなんて早歩きしてたら、城にあっさりついた。
さくさく進んで謁見しなきゃならない。
とりあえず報告書書いて提出しないとだから、適当に街回ってろとルーティたちを追い払っ・・・おうとしたんだけど。
テメー一人で楽してんじゃぬぇーよって目で見られたかと思ったら、あたしらの監視役でもあるんでしょーなんてまさかのキラーパスを受けて・・・城に侵入された。
そりゃないよ。
「とゆーわけでお前らは放置する。僕の傍じゃないところでのんびり過ごしてろそこでメシも食えるし飲み物も売ってる」
「おっ、丁度腹減ってたとこなんだ♪なぁ、なんか食ってこよう!」
「あー・・・あたしそんなでもないからパス。いってらっしゃい」
こいつの作業見てるわ、なんて言い出すルーティ。
完全に逃げやがった。
そっかーなんてあっさり頷いたスタンは、フィリアとマリーをつれて隣りの食堂に行く。
「・・・逃げたー」
「あんたこそ」
「おっ、リオンお帰り!もう任務終わったのか?」
「いや、一足遅かった。多分これから長期任務だな」
二人でじとーっとにらみ合ってたら、ここにきてから友人になった兵士が声をかけてきた。
そのままどっかり隣りに座る。休憩時間らしい。
頭ふって質問に答えたら、マジ?なんてしかめ面だ。
「お前がいなくなったら誰がヒューゴに悪戯するんだよ」
「多分陛下たちが?ノリノリだったし今頃どーなってるかなー」
「てゆーか・・・なに?悪戯って」
首傾げてる僕の横から、すごい(ひどい)顔したルーティが声を上げる。
にやっと笑った兵士は、なにお前教えてないのか?なんてわざとらしく聞いてくる。
だってそんなに仲良くないし。
「こいつ、ガキの頃からヒューゴに悪戯しまくってんだ。で、その悪戯の話しで俺たちは盛り上がるってわけ」
「毎朝ヒューゴの顔見ちゃあ、昨日は成功したとか失敗したとか。な」
「だってマジ受けるしさー」
メッチャ軽いなお前。
こういうことしたんだぜこいつーなんてベラベラルーティに喋り出すし。
はさんで喋られるのは正直鬱陶しいけど、まー、報告書は書けなくもないし書く。
書く。
書く。
・・・飽きたなぁ。
「これこれ。最後まで書きなさい」
「サリバン!いつからいたんだ?」
「今来たところだよ。どうだった?ストレイライズ神殿は」
かたんと前にある椅子を引いて、対面に座り込むサリバン。
今日も良い感じにじーさんだ。和みオーラが出てる。
「うーん・・・。金のかかってそうな無駄にデカイ建物も文句いいたいところだけど、一番は怪しいオブジェかな。是非我が家に欲しい
やめなさいよ
「ならそのオブジェについてたくさんこと書いたらいい。半分以上は埋められるだろう?」
「それいーな。そいつを使ってアレコレやってやると分かるくらいに書こう♪」
「ちょ、無視?ねぇ無視?あんたも笑顔で見てないで止めなさいよ!」
「面白いからやだ
一人つっこみうろたえるルーティ。
イイ笑顔で答えた兵士にぐっと親指上げといた。上げ返された。
さー書いて書いてとサリバンに手をふられて、さくさく書き始める。
怪しいオブジェについて。
本ちょろまかしてきたから、作りから使用方法までバッチリ書ける。
「書けた!」
「・・・」
めっちゃ達成感あるな。これ。
輝く笑顔の僕を、ルーティは白い目で、サリバンは和んだ目で見てきた。
「どれ。・・・ぉお!これでしばらく飽きなさそうじゃな。長期任務に就くのだろう?」
「ああ。けど陛下ならきっと・・・ね」
「ふっふっふっ」
二人してニヤニヤ笑う。いや兵士も。
ひたすら呆れてたルーティは、もうそっぽ向いてた。
じゃー僕これ提出してくると立って、そそくさと談話室を出る。
向こうにスタンたちの姿が見えた。・・・多分後々ルーティに愚痴られるんだろうな。
まーいっかと報告書を渡しに行けば、おかえりーと迎えられる。
けど報告書を見てすぐ、なんだ長期任務につくのかとがっかりされた。
最近のヒューゴは、僕がいるときと違って生き生きしてるらしい。
陛下に直接報告に行けと指示を出されて、仕方無しにルーティたちを連れ戻しに行く。
暴走気味の箱入り娘は、この際無視でいいだろう。
陛下の前で変なことしたら切捨てりゃいい。
・・・僕?
許されてるからいーんだよ。
そんなわけで謁見の間へ行けば、ご苦労、なんてねぎらいの言葉でなく「おかえりリオン。待っておったぞ」なんて若干浮き足立った陛下に朗らかに声をかけられた。
こんなフレンドリーでいいのかな。まーいっか。
神の眼についての報告を終えれば、陛下はさすがに真面目な顔をする。
船用意するから行ってらっしゃいと指示を出されて、あーやっぱ長期任務かーと思いながらも頭を下げた。
顔を上げれば、なんかもうイイ笑顔の陛下がいる。
「時にリオンよ。おぬしの知恵を借りたい」
「はい。僕に出来ることならなんでも!」
「よし、こちらに来い」
「はっ!」
「・・・なんであんな気合いっぱい?」
「・・・世の中知らないほうが幸せなこともあるのよ」
後ろから何か聞こえてきたけど、全員無視だ。
あーでこーでこうやったんだけど効かなくてな、とこそこそ言ってくる陛下。
あーそこはこうしてこうやって、と僕もこれまでの経験からきた知識を陛下にお渡しする。
ふっ。
「ふふふ・・・」
「ふっふっふっふっふっ」
「先ほど提出した報告書に、ストレイライズ神殿で見つけた面白いオブジェの詳細を書いておきました。よろしければ・・・お楽しみの参考にでも」
「うむ。見ておこう」
下がってよい、と何故だか頭を撫でられ背中を押される。
じゃーいよいよ帰るぞ!と僕は意気揚々と外に出た。
久々にかましてくれよー期待してるぞーなんて、鬱憤たまり放題のオッサンたちにちょくちょく声をかけられる。
時間がないから微妙かも!とそれでも笑顔で返しておいた。
「なぁリオン。一体何をするんだ?なんかみんなすごい笑顔だったけど」
「僕の趣味。みんな楽しみにしてるんだ」
「リオンの趣味はなんなんだ?」
「ヒューゴへの悪戯!」
スタンとマリーの質問に答えれば、上がる「えっ」という声。
あら、なんて間抜けな声を上げたフィリアが、おっとり首をかしげた。
「リオンさんが悪戯だなんて・・・人は見かけによらないものですね」
「そーお?どっからどーみてもクソガキじゃない」
「ヒスっぽそーなルーティよりマシだな」
『坊ちゃんテンション高いですね』
「久々の悪戯だからな!」
スキップしそうだ。
ルーティは後ろでスタンに押さえられてる。
そんなに楽しいのか?と聞いてくるマリーには、もちろん!とガッツリ頷いといた。
楽しくなけりゃやらない。
「今日はなにをしよーか。寝室の扉をまず瞬間接着剤で止めておこう。あとはぶーぶークッションだろ。階段も一段薄いのに変えておくか」
『ストックありましたっけ?』
「あと3枚あるから余裕!」
他の板と見分けが付かないように色塗ってある力作だ。
休暇に物凄くがんばって作った。我ながら素晴らしく器用だ。
るんるんと体を弾ませながら歩いてたら、マリーにほんわかされた。
「リオンもまだ子供なんだな」
「そりゃー二十歳すぎるまで成人とは認められないし。だったらソレを活かして生活するまでだろ」
「明らかに活かすところ、間違ってるわよね・・・」
「全然。ふふふ。後はなにしてやろーかなー。インク瓶の中身ウィスキーに変えとこう。あ、時計の短針と長針交換するのもいいな」
「見たらびっくりするだろうな」
「ああ!とりあえず3時間くらいで出来るようにしないと」
くすくす笑うマリー以外、苦笑いだったり顔引きつらせてたり。
アイテム集めて暇つぶしとけと指示出したけど、面白そうだからなんて理由で結局全員付いてきた。
「あんた剣士やめて大工になったら?」
「スキルアップには繋がるけど、給料安いから材料費が足りなくなるな」
「リオン。時計の針交換しておいたぞ」
「ってマリーさん手伝ってるんですかー!?」
「クッションもスタンバイOKですわ」
「フィリアまで!?」
「結構楽しいですわね。悪戯」
ふふふ、なんて驚くスタンを笑い飛ばすフィリア。
うむ。
お前もいい性格してるな。少し仲良くなれそう。
使用人たちはみんながんばってるなーなんて顔で見てきて、いつもながら苦笑いのマリアンが、旦那様が帰るまでとお茶とおやつ用意してくれた。
そっか。マリアンのプリンも食いおさめだ。
寝室よーし執務室よーし階段よーしと点検し終えてから、広間に移動した。
ブーブークッションもしっかり分かりづらく配置されてるな。うん。上出来。
「わーいマリアンのプリンだ」
「リオンプリン好きなの?」
「甘いものは大体?マリアンのプリンは得に美味くて好きなんだ」
「へー。いただきまーす。・・・んむ。ぉお!ホントだ美味い!」
「だろ?」
「うん。美味いな。レシピを貰ってもいいか?」
是非もらうがいーよ
マリー素晴らしい!
持つなら料理上手な奥さんだな。
家の妹料理上手いよ、なんて言い出すスタン。いや・・・スタンの妹って・・・アレだろ?
ちょっと怖いな。ついでにバカッス・・・じゃなかったバッカスと結婚する予定だし邪魔しないっての。
「お前いいのか?僕の兄になるんだぞ。(この僕が)お前の弟になるんだ」
「弟か〜。きっと楽しいんだろーなー。一緒に剣の修行したりさ、ちょっと冒険出てみたりして♪」
「・・・お前の弟はめんどくさそうだなー」
「えー!なんでだよいーじゃん!」
いや、めんどそう。
しらけ面してそっぽ向けば、固いこと言うなよーなんてぐらぐらゆすられる。
いや、10人中8人くらいは頷くと思う。
あんたじゃねーなんてルーティまで頷いた。・・・ルーティじゃな。
「アンタの弟になるくらいならフィリアの弟になったほうが全然いいわよ」
「いいか?」
「・・・撤回ってできる?」
「え?呼びましたか?」
「「呼んでない」」
よかったプリンに夢中で。
マリーはレシピ受け取ってる。よっし。旅の途中でもこのプリンが食える。
なんだよーいーじゃんかよーなんて、スタンは頬膨らませていじけてる。
お前いくつだよ。
「じゃー誰の弟ならいーんだよ?」
「うーん。マリーの息子」
話題跳ね飛んでんじゃない!
「そうか息子になりたいか。よし今すぐ出て行け」
「おかえりなさい父上!」
「父じゃない」
輝かんばかりの笑顔で迎えてやったのに、ヒューゴの奴はあっさり蹴りやがる。
舌打ちしたら舌打ちし返された。
うわーなにこいつら、て顔するなルーティ。
「それで?どうなった」
「ん。安置されていた神の眼は盗まれた後だった。これから船で・・・・・・・・・後を追う」
「情報収集もせずになにをしていた」
おやつ食べてましたが、なにか?
今すぐ行け!
真顔で返したら怒鳴り返された。
血圧上がりすぎですよーなんて手を振ればやかましいなんてつっこまれる。
やっぱヒューゴが一番だな。
うわ素直ーなんて声も聞こえたけど無視だ。
「まふぁのこってふかふぁ無理」
「口の中にものを入れて喋るな!」
「あーしっかり父親なんだー」
「躾はしっかりしてるんだな」
「それでコレって・・・」
「甘えてらっしゃるんですよ」
好き勝手言い過ぎだろ。
けどヒューゴが顔引きつらせてるからよしとしよう。たまには役に立つな!
まーまー父上も一休みして、と手を振れば、やっぱり舌打ちだ。
ガラ悪いな中年。
マリアンが笑顔で紅茶を出して、ため息をついたヒューゴはいつもの席に向かった。
そのまま座る――かと思いきや、しっかりクッションはぐって確かめやがった。
「甘いな。そう何度も引っかかると思うか」
「チッ!!この10年間で56回は騙せたのに!
「数リアル!!」
「わざわざ言うなァ!!」
拳握って叫んだら、スタンと共につっこまれた。
フン。タダでは立たないさ!
しっかりプリンを食べ終えたマリーが、きょとりと首をかしげる。
「数を数えてたのか?」
「ああ。全部悪戯日記に記してある」
「そんなくだらない日記をつける暇があったら、少しは勉強しろ!」
「やだなぁストレス発散じゃないですか。勉強はしっかり決められた時間決められたカリキュラムを終えていましたよ?日時が変わるまで残業しちゃう父上と違って
「あああぁぁぁぁあああああああ平穏な日々が!!」
ハゲそうだな。
頭抱えてがりがりかきむしってる父上。
なんつーか
「見るに耐えないのでやめてください」
笑顔で行ったら、無言でこっちにやってきた。
もちろん僕は即効立ち上がって逃げる。
「待てエミリ・・・リオン!!」
「あはははは!名前言い間違えてましたよ父上ー」
「うるさい父と呼ぶな!!」
「ちょ、リオン!?」
「気にしないでください。いつものことですから」
スタンたちへの説明はマリアンに任せて大丈夫そうだ。
全力で広間から出て階段へ。
例の場所を踏まないように、かつヒューゴがそこをしっかり踏むよう軌道に気をつけて駆け上がる。
同じく駆け上がってきたヒューゴが、ばきっがたーん!と音を立てて階段の仕掛けに嵌った。
「あっははははははははは!!は、嵌ったーーー!!」
「・・・おのれリオンーーーー!!!」
「じゃ☆僕は任務に行ってきます!足切り落とさない程度にがんばって抜けてくださいね♪」
しゅびっと手を上げて、ヒューゴに捕まらないぎりぎりのラインをゆっくり、ゆーっくり通って下に降りる。
物凄くがんばって腕伸ばしてくるヒューゴが超楽しい。
「 ぅお の るぇ リオーーーーン!!!」
「あははははっ!!ぶっざまー!超楽しい!おーい!お前ら行くぞー!行く前にこれ見てけ!」
「とっとと行け!!」
「あははははははは!!」
爆笑だ。
呼ばれて出てきたスタンたちが、階段に嵌ってるヒューゴを見てうわぁと声を上げる。
ルーティは噴出してこらえた。
よし行こうと踵を返せば、いってらっしゃいませと見送ってくれる使用人たち。
いってきまーすと笑顔で手を振って外に出た。
「あー楽しかった!」
『今日も見事に嵌りましたねー、ヒューゴ♪』
「ああ!明日は相当不機嫌だぞ!」
みんな喜ぶな!








(まったくあいつは毎度毎度懲りず・・・に・・・・・・エミリォォォォォオオオオオオオオオ!!)(あー坊ちゃんまたやったんだ)(ええ。色々!)