近場の建物から攻め入ってみれば、死体がごろごろ転がっていた。
どうやら襲撃にでもあったみたいだな。
「剣で斬られた後がある」
「つまり、人為的ってこと?」
「だろう。魔物でなく犯人は人だ」
「ひどい・・・どうしてこんなことを」
「それを調べるのが僕らの仕事だろ」
アホだなスタン。
感情が先立つタイプか。
別のところに転がってる死体を見に行ったマリーが、こっちもダメだと首を振る。
死体を見る限り、どうやら随分時間が経過してるみたいだけど。
「とりあえず空気悪いから換気しよう」
「なんでそんな呑気!?」
まさかのスタンにつっこまれた。
つーか、こんな腐ったしょっぱい臭いに囲まれてたら鼻が死ぬ。
お前10時間ここに残ってるかと問いかけたら、即効で嫌ですと首を振られた。チッ。
窓開けまくってからさらに奥に入れば、シスターと子供たちがこぞって隠れてた。
随分脅えていたみたいだけど、話せば通じるしでそこまで混乱はしていないようだ。
わけもわからないまま襲撃を受けた・・・と。
「一体なにを思って犯行に及んだんだか」
「お宝でしょー。お宝。もしくはガルド」
「まー、一番妥当か」
「教会は本がたくさんある。欲しい本があったのかもしれない」
「素直に正面きって借りろって話だな」
「シャイだったかもしれないぞ?」
「うんそうだな」
・・・マリーに一々つっこんでたら終わらないって、僕もう学んだよ。
ルーティが捌けよって目で見てくる。じゃーお前がやれよ。
スタンはひたすら苦笑いしながら、時折険しい表情で周りを警戒していた。
本殿(?)に入れば、すでにはびこっている魔物たち。
ウザイとなぎ払い奥に進めば、明らか怪しい石が浮かんでた。
「・・・オブジェ?」
「少しまがまがしいけど、かっこいいな」
「アトラクションには使えるんじゃないか?」
「そうか。リオンは頭がいいな」
「マリーの視野の広さには負けるよ」
「ねぇ、どっからつっこめばいーのよ」
「とりあえず真面目に仕事しよう?」
・・・スタンに諌められるなんて。
それもそーだななんてマリーはあっさりスルーだけど。
とりあえず変な模様の浮かんでる扉の前に立ってみたけど、これ、なんだろう。
シャルでつついてみたら弾かれた。
『ちょ、坊ちゃんひどっ!』
「だって触ったら痛いかもしれないだろ」
『じゃー僕の心配もして!』
「大丈夫シャルは無機物だから」
「いやちょっとは心配してあげようよ」
『シャルティエ・・・なんつーマスターを』
ぺしりとスタンに裏手を食らう。
ついでに余計なこと言ってくるディムロスを睨んでから、もっぺんシャルで・・・今度は振りかぶって斬ってみた。
けど弾かれる。
「ふむ。結界かな」
「明らか結界じゃない」
「調べてみないと分からないだろ」
「だ、誰か・・・誰かそこにいるんですか?」
中から息も絶え絶えな声が聞こえてきた。
人がいる!とスタンが叫ぶ。
黙るよう口の前に人差し指を当てて、黙らせた。
「ただの通りすがりだ。気にするな」
「たっ助けてください!!1ヶ月前からここに閉じ込められて」
「そうか。けど僕らはただの通りすがりだから」
「助けなさいよ!!」
「えー・・・めんど」
「リオン、任務だろ?仕事はちゃんとやれって言ったのはお前じゃないか!」
ルーティにつっこまれてダルさ全開にしてたら、今度はスタンが怒り出した。
今助けます!なんてスタンはそのまま、扉の向こうの誰かに叫ぶ。
「これで罠だったらどうするんだ?」
「そんなの助けてみないと分からないだろ!?それに、困ってる人がいるのに放ってなんておけないよ!」
うわーなにこいつ。
正義感の塊とかマジで勘弁してほしいんだけど。
「じゃー勝手にやれよ」
「・・・ああ、勝手にやるよ!」
しかも怒り出すと。
まったく。これだから正義感の強いやつは嫌いなんだ。
鬱陶しいったらない。
扉の前から下がれば、スタンとルーティが中にいる人物に声をかけ会話を始める。
聞いてる限り、襲撃の祭閉じ込められた被害者・・・といったところか。
「リオンはまだ疑ってるのか?」
「情報が少なすぎるよ。この結界らしいものについても、正しい情報がつかめていない」
「けど、どうやら宝を隠してるらしいぞ。その所為で襲撃されたんじゃないのか?」
「多分。でも、だ・・・1ヶ月も部屋に監禁されてて、あの元気はどうだ?メシ食ってたのか?僕だったら1週間もせずに死ねる」
「1週間は早すぎだ。でも、確かに食事は大事だな。どうやって生きてきたんだろう?水?」
「・・・みずっぱらのオッサンに10ガルド」
「ダメだリオン。賭けにならない」
つまりマリーも同じこと考えたと。
うんうん二人で頷きあってたら、スタンとルーティが目の前で浮いてる石に攻撃仕掛け始めた。
飛んだり跳ねたり唱術食らわせたりと。
間抜けだ。
「マリー、あれどう思う?」
「・・・本心で?」
「ぶっちゃけて」
「意味が無い気がする・・・」
「最初の一撃で気付くべきだよな」
「二人とも一生懸命なんだろう」
・・・お前って、ホント心広いよな。
僕には無理だな、と思わずぼやけば、私も無理だな、とマリーが頷いた。
多分、思ってることはすれ違いまくってることだろう。
「ん?リオン?」
『坊ちゃん?どーするんですか?』
「いや。ちょっと気になることがあって」
少しそれて、壁の前に立つ。
唱力を溜めて・・・ぶちかました。
どーんと大きな音を立てて壁が崩れる。
壁の向こうから加齢臭が漂ってきた。一ヶ月間風呂入ってないなもしかして。
オッサン。やっぱ水っぱらか。
「・・・ってリオンーーー!!?」
「あ、あんたなにやっちゃって・・・!?」
「いや、扉に結界がはってあるのなら、壁はどうかなーと」
「どどどどうって!どうしてくれるんですかーー!?」
「助かったならいいだろ。大体、シスターや子供たち以外は全員殺されてる。神殿が機能するのは不可能だ」
「そ、そんな・・・」
さっと血の気を引かせてうなだれるおっさん。
おいリオン、なんてスタンが顔をしかめる。
なんだよ。本当のこと言ったまでだろ。
「それで?一体何故襲撃なんぞにあったんだ。僕らはセインガルド王の命でここに来た。ソーディアンマスターが必要になると聞いてきたんだが、何か知ってるか?」
「そ・・・それは・・・恐らく神の眼かと」
『『『神の眼!?』』』
オッサンの言葉に、ソーディアンたちが声をハモらせる。
一体なんだ?なんて思うわけが無い。
知ってるし。
ルーティたちが説明受けてる間に、オッサンに神の眼の安置されてる部屋まで案内するよう話を通した。
着いた地下にある部屋は、銅像以外もぬけの殻だった。
「ご丁寧に逃走経路まで残していったわけか」
「じゃーこの後を追っていくか?」
「いや、無駄だな。多分ダリルシェイドから海路を使って、なるべく遠くへ逃げるはずだ。一旦帰る」
「フィリア!?」
マリーと逃げ後見て話し合ってたら、後ろでオッサンが叫び出す。
見れば銅像に話しかけてた。
・・・どーすんだよあれ。
「さすがに1ヶ月監禁されてただけあるな・・・」
「違います!!あの、どなたかパナシーアボトルは・・・!」
「アイテム袋を忘れた」
「絶望した!!」
ん?どっかで聞いたことある台詞?
神よ!なんてそのままお祈り始めるおっさん。
呆れ顔したルーティが、しょーがないわねーなんて言いながらポシェットに手をつっこんだ。
「・・・持ってるし」
「使うの勿体無いでしょ」
「じゃー何のために持ってるんだよ?」
「もしものときのために決まってんでしょ」
こいつに常識が通じないのも分かった。
ルーティがどばどばパナシーアボトルぶっ掛ければ、見る見るうちに人になっていく銅像。
可愛いけどめんどくさそーな女だ。
「お待ちくださいグレバム様!!いけませんわそんな・・・!!」
「フィリア!」
「おい、落ち着け女。そこには誰もいない」
「え!?」
あー・・・トロイ。
色々とめんどうになって投げていれば、勝手に周りが話を進めてくれる。
僕はマリーと傍観だ。
「お前はいいのか?」
「めんどうだ。それに私は戦う方が好きだし」
「・・・うん。それっぽい」
しみじみうなずく。
しかも、気付いたらフィリア付いてくるとか言い出した。
いや、なんつーかだ。
「正直面倒見切れない」
「ほんっと正直ね!!」
「お前らかばいきれるか?外は魔物がうじゃうじゃしてるんだぞ。それに旅だってそんなに甘いものじゃない。箱入りどんくさ娘を連れて行くなんて、それこそ見殺しにするのと同じだぞ」
「そこまで言うなよ」
「じゃあ、どうしても連れてくというならお前が守れよ。アンタも、僕に迷惑をかけるな」
「は・・・はい・・・」
ったくめんどうな。
言えばフィリアはしょんぼりしながら頷く。
さーとっとと帰って報告だと踵を返せば、マリーが意気揚々とし始めた。
多分、ここにくるまでに蹴散らしたから早々魔物はいないと思うな。
オッサンはシスターや子供たちとともに、救助が来るのをここで待つことにするらしい。
とりあえず、風呂に入っておけと忠告しておいた。
オッサンに容赦なさすぎだとマリーにつっこまれた。
しまったヒューゴでつい・・・。
「リオン、あそこまで言うことないんじゃないか?」
「あるだろ。適さない人間を無理に連れまわして、その分支障を出してなんになるんだ。互いに損ばかりでいいことなんて一つも無い」
「そりゃ、フィリアには辛いかもしれないけどさ・・・みんなで補い合えばいいじゃんか。グレバムの顔を知ってるのもフィリアだけなんだし」
あのオッサンなんてそれこそ連れて行きたくはないな。
ため息をつけば、スタンはやっぱりむすっとした。
「補い合うなんてアホくさい。自分の役割を把握して、きちんとこなせばそれで済むじゃないか」
「それが出来ない人がいるし、それに自分に無いものを持ってる人なんてたくさんいるだろ?そういうところを補い合って、互いに支えあって生きていくのが普通なんじゃないか」
「普通ね。それは私生活に関してだろ」
あくまで仕事なんですけど。
任務なんですけど。
そこのところ頭につっこまないと理解できないのか、こいつは。
どうせ言ったって考えを変えるつもりは無いんだろう。
僕だって変えるつもりなんか無い。
「お前はそう思っていればいい。僕はそうは思わない。使えない人間が役職に付いたって、結局無駄を増やして迷惑を増やして終わりなんだ。自分に与えられた役目をこなすなんてこと、仕事じゃ当たり前のことだろ。自分の好きなようにやるのは結構だ。好きなことをやるのも結構だ。けど、適さない場所で適さない仕事を無理にやって、周りに迷惑をかけるのは普通なんかじゃない。我侭な子供だ」
「・・・」
兵士やってればそれくらい当たり前になる。
少しの失敗だって大きな失敗に繋がる。怪我なんてもちろん。連携なんかも。
任務に対して必要なのは、支えあい補い合うことなんかじゃない。
チームワーク・・・連携が取れるかどうか。
取るために最低限の力があるものたちかどうか、だろう。
それがなければ、僕なんて今までの任務ほとんど失敗してただろうし。
あーあ。サリバンたちと任務に付きたかった。
「・・・リオンってすごいよな」
「は?」
黙り込んでたスタンが、急に変なことを言い始める。
顔を見たら真面目に言ってるようだった。
こいつ、大丈夫か。
「俺、今まで羊の世話とか畑くらいしかしてなかったから、そういうところまで頭が働かなかったよ。うん、確かにそうだ。戦える力もないフィリアに、戦ってもらうわけにもいかないし・・・」
いや、そんなの皆知ってるから。
分かってるから連れてくるなって言って・・・こいつ気付いてなかったのか。
どうしよう。シャルに愚痴りたい。コイツダメだって。
「でも、それでもフィリアは連れて行くよ。フィリア、すごく後悔してるみたいだし。それに役に立ちたいって思ってるみたいだし。責任感の強い子だから、きっと大丈夫さ」
「なにが大丈夫なんだか」
ああ、黙っとけばよかった。
スタンはめっちゃおろおろしながら、それはーあのーそのーなんて言ってるし。
・・・少しは考えてから言えよ。
「と、とにかく!フィリアは俺が守る。リオンの手は借りないし迷惑も掛けない」
「ふぅん」
「だから頼むよ。何かあったら、俺が責任を取るからさ」
僕に頼み込んでることはまだ分かる。
けど、なに言ってんだこいつ。
「なんでお前が責任を取るんだよ?」
「え?」
「だから、なんで赤の他人の責任を、お前が取るんだって聞いてるんだ」
聞き逃すなんてアホをやらかすスタンに、呆れながらもう一度問いかける。
えー?なんて首をかしげたスタンは、ぽりぽり頬をかいてへらりと笑った。
「そりゃー、俺が言いだしっぺだし。フィリアに責任を取らせるなんて出来ないし」
「あいつが付いてきたいと言い出したんだろ」
「そりゃそーだけど・・・うーん。俺が即効いーよって言っちゃったしさぁ。いーよって言ったなら、俺にも責任あるだろ」
それを言ったら、僕が承諾した時点で僕まで責任を追う羽目になる。
・・・まー、スタンに取らせればいいよな。
一生僕の下僕とか。捨て身でヒューゴ潰すとか。うん。それよさそうだ。
でもとりあえず。
「・・・お前って変」
「え?どこが?」
「全体的に」
「ルーティには負けると思うけど」
「それは否定しないかな」
二人して聞こえてないか、ルーティをチラ見してしまった。
どうやら聞いてなかったらしい。
なんだか笑えてくる。
「?なにが面白いんだ二人とも?」
「い、いや、なんでもないですよ」
「ああ。箸が転がっても笑えるお年頃なんだ」
真後ろにいたマリーは、適当に言いくるめておいた。
(まぁ!外がこんなに不潔なところだったなんて・・・)(・・・なんかもう離れたいわ)(賛成しといてか?)(その場のノリってあんでしょ)