ヒューゴをいじり倒すのは僕の幼い頃からの趣味であり習慣だけど、仕事についてからは時折立場が逆転するようになった。
というか、仕事の話をしているときは逆だ。
「また失敗したのか」
「任務自体は成功しました」
「言い訳はきかん。これで任務成功などと甘ったれたことを言うな。最年少の天才剣士だの陛下直々に招かれた客員剣士だの・・・いつもながら周りに甘やかされて驕ったな。リオン。ここはお前の猫かぶりが通用する場所ではない」
チッ!
仕事で失敗したのは確かに自分の実力だから、文句なんて言い返せない。
睨んでもヒューゴはニヤニヤ笑うだけだ。
そりゃー気分いいだろう。
昔から頭痛の種だった僕を好きなだけコケ下ろしていじれるんだから。
「次は確実に成功させます」
「どうだか。今回の任務でもそう言っていたしな」
こいつ上司に持つと最悪だな!!
舌打ちを何とかこらえてグダグダ続くヒューゴの嫌味を聞くだけ聞いて、退室した。
ずかずか廊下を歩く僕は、もうみんなになれられたことだろう。
「チクショウあの油頭!!次こそ目にもの見せてやる!!」
『坊ちゃん、その意気ですよ。ただ気合入りすぎは慢性の元ですから、気をつけてくださいね』
「分かってる!!ヒューゴぎゃふんといわせるまで気は抜かない!」
多分、任務ごと失敗してないのはシャルがいるからじゃないのかな。
やつ当たってごめんシャル。
けど城の備品に蹴りいれるわけにもいかないからなー。
城にいる顔見知りが、まーたかリオンなんて茶化してくる。
うっさいあのオッサン帰ったらローブに青海苔仕掛ける!と息巻く僕を見て笑う。
その悪戯はやめとけよ、と。
・・・悪戯やめたら真面目っこになるだろーが!
「僕のアイデンティティが無くなる」
「お前、多分その所為で馬鹿にされるんだと思うぞ」
好きにしたらいーさふーん!
いーからメシでも食おうなんて誘われて、街に出る。
四六時中ヒューゴへの悪戯考えられたあの頃とは違って、最近は仕事のことで頭がいっぱいになることのほうが多い。
これは病気かな、と心配したら、前が病気だなんて言う人言う人につっこまれた。
いいや生活習慣だ。
とにかく食事を取りながら愚痴って、思うが侭ヒューゴを貶す。
毎度あんまりな僕の言いように、周りは笑うか呆れるかのどちらかだ。
ずっと街中での任務ばかりだった僕は、初めて外に出されることになった。
小隊一つもたされてるけど、盗人捕らえるのも慣れてきたけど、街の外ってことで結構興奮する。
外に出たことがないわけじゃないんだけど。
「魔物を殺すのは初めてなんですか?」
「うん。・・・あんまりいい気分じゃないな」
僕に付けられた兵士たちのうち、何人かとは打ち解けてる。
その内老兵といえるじーさんが結構世話好きで、最初の任務のときから経験不足の僕に何かと指導してくれた。
頼りになるけど、頼り切るわけにはいかない。
指揮を取るものが下と馴れ合いすぎるのはよくないこともさすがに知ってる。
ああ、僕仕事してるんだなーとこういう時思う。
だって仕事以外じゃはっちゃけてるし。
「その割りに冷静ですね」
「仕事は仕事だ。失敗するわけにはいかない」
「あまり、力みすぎないよう心がけましょう。見えるものも見えなくなりますよ」
「・・・うん。そうだな。分かった」
年よりは物を知ってるから素晴らしい。
時折出てくる魔物を蹴散らしながら、被害にあってるという村につく。
まー小さな村だ。田舎だ。
聞き込みに回れば、何十分かたったところで兵士が走ってきた。
どうやらどっかの家に引きこもってるらしい。
アホだなーと思わずぼやけば、ラッキーと思いましょうなんてこちらも呆れながら返された。
そりゃ呆れるだろう。
こんだけ兵士いるってーのに、わざわざ立てこもるか、普通。
人質がいるとはいえ、ずっと囲んでいれば取り押さえられるのなんて確実だ。
怪我人を出すわけにはいかないとも分かっているけど、こちらとしちゃあちょっとの怪我くらい謝って済むだろう根性だ。
まぁ、ヒューゴに嫌味言われないためにがんばるけどさ。
兵士たちに周りを包囲させて、窓という窓にも兵士を配置させる。
距離は、とってるけど。
裏口も鍵がかかってて入れず、表もがっちり閉められてた。
中からは子供の泣き声が聞こえる。
そこの家の旦那の話じゃ、まだ若い奥さんと息子がいるらしい。
泣きながら助けてくれって、そりゃ助けるけどどーなっても責任は取れないかな。なんて。
「どうします、リオン様」
「・・・」
こう着状態だ。
食料が尽きるまで交代制で見守る(いや見張り?)のもいいだろう。
多分数時間で痺れをきらせた犯人が出てくるはずだ。
分かってるけど、人質になった人たちの精神状態がそこまで持つか。
交渉してみれば、要求だけつきつけてくる。
金と馬を用意しろってお前・・・。
人質はなした瞬間ブッコロだ。
「要求を呑む。馬と金を用意しろ」
「リオン様・・・」
「人質を解放させるのが優先だろう?」
にやーっと笑う僕を見て、こいつなに企んでやがるって目しかなくなる。
別に?
当たり前のこと考えてるだけだけど。
なるべく大人しい馬を用意させろと小声で言えば、兵士は頭を下げて村長の下までいった。
野次馬を散らせて、兵士も下げさせる。ただし表だけだ。
包丁片手に幼児を連れて出てきた男は、びくびくしながら僕らをきょろきょろ見た。
「準備はいいか、シャル」
『任せてください、坊ちゃん』
頼もしい相棒だ。
村長から袋いっぱいのガルドを受け取って、馬を引きながら男の下へ行く。
「子供と交換だ」
「交換した瞬間切りつける気じゃねーだろうな」
「子供が怪我を負う。利益にならないことはしない主義だ」
馬の手綱を持たせて、子供を受け取る。
袋を渡して僕は離れた。
警戒しながら僕らを見ていた男が、馬に乗る。
僕は子供を父親である男性に渡した。
「はっ!ザマミロってんだ!!」
「お前がな。ピコハン!!」
馬で男が走り出した瞬間、唱術を発動させる。
ぴこぴこーんとステキな音を立てて男の頭に命中したピコピコハンマーは、地面に落ちると消えた。
兵士たちが走って気絶した男を捕まえに行く。
わっと村人たちが歓声を上げた。
「上々」
『ですね!これでヒューゴに文句言われませんよ』
「ああ。引き上げるぞ!」
あーにやつく。
気持ちいいくらいぴったりに返事を返してきた兵士たちを連れて、僕は意気揚々と村を出た。
「帰ったら何しよう。とりあえず今日は敷地内に入った瞬間カマでも落としてやろうか」
『ここは間抜けにタライでもいーんじゃないですか?』
「タライか・・・それも面白い。うーん。どうしようかな。久々に寝室の入り口にニス塗り捲っておこうか」
『全部やっちゃったらどうです?任務成功祝いに!』
「いいな。久々に全力で行くか。じゃ、椅子は釘で固めておこう。ドアノブにも電流流すか。前ボツにした風呂にガラス沈めるのもやってみようかな」
『わーさすがにそれは止めようかな』
「いいだろ。多分気付くさそこに行き着くまでに疲労困憊していなければ」
もうルンルンだ。
いつも仕掛けている悪戯の計画にも、かなりの熱が入る。
うーん。楽しみになってきたなぁ。
そろそろ材料買い足しにいかないとなぁ。
「まずは報告書ですよ、リオン様」
「う・・・。じゃ、完璧の一言をアクアヴェイル風に書いてヤツの脳細胞を活性化させてあげようか。我ながら良い息子」
「仕事は真面目にしてくださいね。リオン様」
「・・・ちぇ」
仕事ってつまんない。
世話好きの老兵は笑ってるけど、他のやつらは若干青い。
多分僕のヒューゴいじめ具合に思うところがあるんだろう。遠い目したり手合わせたりしてるやつがいる。
まー、見慣れたかな。
―― said 部下
我らが上司リオン・マグナス、ことエミリオ・カトレットは、見目は大層美しい。
見るからに美少年で、時折女性に間違えられてはむすっとしているくらい美しい。
仕事をするときはキリっと、それ以外は年相応の微笑ましい顔も見せる、大変魅力的な少年だ。
父親であるヒューゴに対する鬼畜としか言えない悪戯の数々を抜かせば。
彼と仲良くなれば、漏れなくその悪事の数々を聞くことが出来る。
そうでなくともしょっちゅうソーディアンと作戦会議を立てているので、聞き耳さえ立てればげんなりする内容が聞こえてくる。
彼の父親でなくて本当によかった。
・・・と、彼を知る者の間では言われまくっている。
最近では毎日皆ヒューゴの顔を見て、昨日はマシだったんだ、今日はやつれてるな酷かったんだろう、などと勝手な憶測が飛び交う。
リオンの機嫌でもそれが分かるが、ヒューゴのほうが心動かされる(要は楽しい)ので皆ヒューゴを観察する。
なんというかしょっぱい。
そして哀愁漂う。
例え巷でダンディなおじさまとか女性に人気がある美中年(?)だとしても。
世の父親の苦労を一身に背負ったかのようなヒューゴには、ヒューゴを見守り隊(主に健康面)というものもひそかに出来ていたりする。
ちなみに発足させたのは国王だ。
子供がいなかったからちょっぴりジェラシーらしい。本人曰く。
多分2割くらいの同情もあるだろう。
見ていて時折、本当に可哀想になる。
息子のリオンが表に出るようになってから、嫌に親近感を持たれたヒューゴの人付き合いが広がったという噂だ。
ある意味父の役に立っている息子だが、その息子が一番父に被害をこうむっているのでなんともいえないだろう。
哀れとしか言えない。
リオンについている通り名は数知れず、だ。
天才剣士はもちろん、天使の反抗期、親不孝の化身、父の敵、魔王の使者、etc。
最も多く使われて・・・というか浸透しているのは、鬼畜の凹児様。
おーじと読んで凹児。
書かないと分からないが誰もが納得していた。
彼は凹児だ。まうごとなき凹児だ。つけたのは国王だ。
そんな鬼畜凹児、ではなくリオン・マグナスは、現在私たちの指揮を取り盗賊団の討伐中。
まだまだ不慣れなところもあるが、古くから兵士として残っているサリバン氏がなにかと世話を焼いてあげているのでそれなりに形になっている。
恐らく彼の才能もあってのことだろう。
ヒューゴにやっていることはアレだが、彼は確かに勉学に励み、剣術の稽古に励み、と努力している。
ある意味近寄りがたい少年ではあるものの、慣れればこちらに被害もないので普通の少年だと分かる。
力の使い方を間違えすぎてる部分には、あえて誰もつっこまない。
面白いから。
今も、任務は成功したものの、こちらに出た怪我人の多さに悔しそうな顔をしている。
盗賊たちの中には、すでに息絶えた者もいた。
完璧に任務を遂行できなかった場合、ここぞとばかりにリオンを罵倒しているヒューゴの所為だろう。
彼は完ぺき主義に近い。
「チクショウ・・・!!」
まだ年若い所為か、短気だ。
歴史的な価値もあるソーディアンで、そこらの木をついて八つ当たりを始める。
不機嫌な彼はそれはもう厄介で、癇癪を起こす子供そのものだ。
まだまだ子供で、癇癪を起こす年頃でもあるが。
剣士としての誇りがあるなら、それは出すべきものではないだろう。
主にやっかみの所為で、一部の人間からの彼への風当たりは強い。
彼は眼中にいれていないようだが。
そんな風にカリカリして周りに当り散らすようでは、また影口を叩くものが出てくるだろう。
こんなことを考える私は、もう彼に随分侵食されているらしい。
弟か息子を見るような気分にさせる彼が原因だろう。
彼を敵視するものと友好的に捉えるものとで見事に分割(3:7)されているが、私は後者だ。
貴族の出身でないのが大きな理由かもしれない。自分は実力主義だ。
「リオン様、指示を」
「・・・チッ!分かってる!」
この中で、最初から彼の味方でいてくれるサリバンにあの態度。
彼を良く思わない者たちにとっては、恰好のネタだろう。
見ればもうこそこそささやきあっている者たちがいる。
彼は誰にどう見られようが、気にする人間ではないようだけれど。
ついでに陰口叩くやつらを睨んでるやつ・・・もしくは呆れてるヤツらの方が多い。
なんてったって、リオンはセインガルド城きっての娯楽作成者。
ストレス溜まるオッサンたちの強い味方だ。
イラつきながら指示を出すリオンに従い、それぞれ動き始める。
リオンはむすっとしたまま腕を組み、ため息をついた頭を振った。
あんまりにも酷いときは役立たず!だの未熟者!だの叱咤が飛ぶが、今日はそれほどでもないらしい。
何より彼は理性的だ。(ヒューゴ以外では)
誰よりも先に己の非を悔やむ。
「結果は結果です。受け入れるしか仕方ありますまい」
「・・・」
帰還するための準備が整い、街までの道を歩く途中。
サリバンの言葉を聞いて、イラついた様子だったリオンが眉根を寄せる。
どちらかというと、叱られた子供の顔だ。
口を尖らせたまましゅんと眉を落としたリオンは、ちらりとサリバンを見てすねたように顔を逸らした。
「・・・ごめん」
サリバンが笑みを浮かべる。
聞こえてしまった私までにやついてしまう。
結局のところ、この少年は酷く素直で不器用で、そしてとても愛らしい。
彼の本質に気付けた者だけだろう。
リオンの愛らしさを見守り隊に入隊しているのは。
ちなみに発足させたのは、王妃だ。
・・・この国大丈夫か。
城に戻った私たちは、捕らえた盗賊たちを上の指示に従い処理する。
大体は牢獄にぶち込んで終わりだ。
報告書を書くのはリオンで、彼の手伝いにサリバンが出向いたり、気まぐれに他の兵士たちが顔を出したりもしている。
城での彼は(ヒューゴの前を除き・・・でもないか)とても無邪気で、年相応に近い年齢の友人たちと笑って雑談したりもしている。
サリバンには昔話や雑談以外に、経験から語る仕事の話を。
もはや孫認識らしい。サリバン氏曰く。
ちなみにサリバン氏は、リオンの愛らしさを見守り隊のNo.2だ。
最初から目をつけていたらしい。自分は出遅れた。
確かに愛でたくなるというか、何故ヒューゴに対してアレなのかと誰もが首を捻る。
本心からくる憎しみ。
反抗期ゆえの行き過ぎた非行。いや非道。
行き過ぎた愛の裏返し。
賛否両論(?)だ。
・・・なにしたヒューゴ、と最初の頃は話題に上がってもいたが。
今も報告書を出しにいったリオンが、ヒューゴとあーだこーだ言い合っている。
売り言葉に買い言葉。常時嫌味さりげなく罵倒。
7将軍や陛下たちが、時折遠くから微笑ましく眺めてる様が異様だ。
あれは親子の会話じゃない。ある意味。
親だからこそなのかもしれない、と私は思ってはいるが。
「あれほど成功させると口にして結果がコレか。未熟者が」
「貴方と違ってまだ若いので。僕には明日があるんです」
「私に明日がないといいたいと?」
「えっ・・・通じませんでしたか?すみません・・・」
「本気で謝るな。お前はそれが上司に対する態度なのか」
「誠意が伝わりませんでしたか。やはり僕は未熟者です。ええ未熟者ですとも。というわけで本日は」
「帰さんからな」
「ッチィ!!」
「舌打ちが聞こえたぞ、リオン・マグナス!」
「え?難聴ですか?気をつけてください。早い人は30からといいますから」
心配そうな顔とは裏腹に嫌味が多すぎる。
顔を引きつらせたヒューゴは、ごほんと咳をしてからつらつら嫌味を並べ始めた。
対するリオンは今にも噛み付きそうな顔でヒューゴを睨みあげている。
アレが彼らの普通だ。
皆今日もやってるなーくらいで普通にスルーしてる。
「・・・あれで親子というのだから不思議だ」
「家庭それぞれ、形があるものだよ」
サリバン氏は時折、悟りの境地に入る。
私は出くわしたことなどないが、あれでいてヒューゴはリオンのことを思ってはいるらしい。多分。一応。
リオンの前では散々嫌味を言うわ罵るわ怒鳴るわしているのに、本人のいないところでは息子自慢。
しかし本人自覚無し。
リオンの実力を一番理解しているのは、彼を育てたヒューゴなのだろう。
育てたというか、一番の被害者というか。
噂では仕事中心だったヒューゴに、リオンは幼少時からほとんど構ってもらえなかったと聞いている。(提供サ○バン)
その頃から鬼畜の凹児様の片鱗を見せていたとも。
彼のヒューゴいじめは、5・6歳あたりから始まったようだから。(情報提供○リバン)
悪戯や嫌味や罵倒が、リオンなりの構ってのサインなんだろうとも言われている。
まぁ、そう見えなくも無い。
酷すぎてそんな憶測忘れがちだが。
リオンはリオンなりに寂しくて、考えた末にあの行動に出ているんだろう。
そっちのほうが愛らしさが増す。
さて現実に戻って、自分にもまだ仕事があるので、私はそれ以降彼らのやり取りを見ていない。
目撃者の話では、結局リオンが言われるだけ言われてヒューゴの勝利に終わったらしい。
リオンは非のあることに対して強くは出られない。
・・・多分今日のヒューゴ邸は悪戯の嵐なんだろう。
先ほど噂で、本日は風呂に氷入れまくってシャワーノズルにボンドつめる、と回ってきた。
風呂攻めのようだ。
やられたらかなり腹が立つ。というか嫌だ。
懲りないな凹児、さすがだな凹児、と各自好き勝手いいながら、訓練や別口の重要書類を片付けた。
そろそろ休憩をいれようかと気分転換に外に行こうとしていたときだった。
やけに浮き足立った者たちが、ニヤニヤ笑いながらすれ違っていく。
どうやら話題はリオン。
またなにかあったか。ヒューゴに。
それともとうとう彼になにかあったか。
これまで彼に奇襲を仕掛けたものは、ことごとく潰されていたが。完膚なきまでに。ヒューゴと比べたらクズだなんて言葉付きで。
図書室、と聞こえたので向かってみたら、しんとした静寂の中、かなりの人が集まっていた。
一体何があったのか。
・・・なんでトップから下っ端まで集まっているのか。
「おい、一体何が・・・」
「しっ!・・・そっと覗いてみろ」
知り合いに声をかけたところ、物凄い勢いで口をふさがれた。
言われたとおり、人垣の中つま先立ちをして中を覗き込む。
覗き込んで、驚いた。
リオンが眠っている。
窓際に椅子を持っていって、読書をしていたのだろう。
シャルティエを腰にさしたまま、本を組んだ膝の上に置いて、窓ガラスに頭を傾けすやすや眠っている。
柔らかな日の光に当てられたその寝顔は、まさに癒しだった。
見れば・・・詳しく説明すると自分が危ういので、トップの方々が危ない顔でソレを観察している。
気持ちは分からなくもないが、起きないのか、リオン。
お前危ないぞ。
ずっと見ていたい気にもなるが。
皆様の癒しになっている少年は夢の中。
観察しているものたちは物音一つ立てず、じーっと少年を凝視している。
その異様な光景は、少年が起きる1時間後まで続いた。
最後にぐずって起きたリオンの様子が、暫く例の秘密組織(?)の中で語り継がれたのは言うまでもない。
ちなみに、私は会員No.101。
リオンの仕事中の様子を、出来るだけ細かくレポートにし会長(王妃)に提出するのがもっぱらの役目。(※重要書類)
極秘任務である。
(本日の報告書です)(待っていましたよ。・・・ふむ、うんうん。今日も愛らしいですね、坊やは)(会長。オベロン社がレンズ式自動絵複写機を開発したようです)(即購入なさい)