マグカヴァン老が認めたことにより、とリオンはあっさり受け入れられた。
シャルティエが危うくたらいまわしにされるところだったが、リオンの無言の抵抗により無事だ。
今はマグカヴァン親子の案内で、セントビナーを回っている。
「うおー。すっげーでけー」
「ふあー。見上げてもまだ足りない!」
「おいお前ら。ただでさえ間抜けな面が、さらに間抜け面になってるぞ」
「誰が間抜け面だストーカー!」
「自分だけぶるなよストーカー!」
「ストーカーから離れろ!!」
「リオンさんはストーカーですの?」
「違う!!」
一人口を開けば一気に騒がしくなる。
結果的にミュウが蹴り飛ばされて騒ぎは収まった。
周りにいくら笑われようが、もうリオンは無視だ。
イラつきは隠せていないが。
「なー、これ登っていいのか?」
「ええ。そのためにつけられたものですから」
「俺いっちばーん!」
「あ!待てずりーぞ!!」
「少しは落ち着け!焦って登って落ちるなんてよしてくれよ」
「完全に保護者じゃのぉ」
「分かったならとめてくれ・・・!!」
切実なリオンの言葉は、笑って流された。
わいわい騒ぎながら登ったとルークは、展望台の上でうわ〜とそれぞれ声を上げる。
おいリオンーとルークに呼ばれて、渋々リオンは頭を上げた。
周りは微笑ましく3人を眺めている。
「超気持ちいーぜ!リオンも来いよ!」
「根暗も直るぞ!」
「やかましい!!」
余計なことを言うにリオンが怒鳴り返す。
また笑い声が上がった。
いーからこいよーと二人が声をかけるが、リオンはめんどくさそうな顔だ。
一々登る必要なんて無い、と切り捨てるリオンを見て、ルークがちぇっとふてくされた。
「ホント、感動のねーやつ」
「リオンは無理やりじゃないと動かないからなー。リオーン。高いとこ怖いからって誤魔化すなよー」
「誰がお前のアホな手に乗るか単細胞」
「む!こっからだとチビっこリオンがさらにチビに見えるー!超気分いいー!最高ー!チビチビチービ!!」
「誰がチビだ!」
『ちょ、坊ちゃん片手じゃ危ないですよ!!』
「結局乗るのか・・・リオン」
シャルティエを引き抜いてずんずんはしごを上り始めるリオン。
グレンが呆れかえる。
は上のほうでげっと声をあげ、おろおろし始めた。
「やっべやる気満々だよ!」
「お前の所為だよ!!」
「ふっ・・・年貢の納め時だな。大人しく斬られろ!!」
「断る!!」
「俺を巻き込むなーー!!!」
ガキィン!と剣をあわせる二人。
ルークが慌てて端に避難する。
リオンと剣をあわせていたはあっと声を上げてルークを確認し、とんとバックステップした。
後ろにはもう足場が無い。
「ちょ、!!」
「逃がすか!!」
「リオンーーー!?」
ひゅっと展望台から落ちたを追って、リオンも床を蹴り落ちていく。
グレンたちも悲鳴に近い声を上げた。
はげぇっと顔をしかめて着地地点を確認し始める。
地面の数メートル上の地点でソイルの木を蹴り、重力の流れを変え勢いを失速させて、ごろごろ地面を転がり受身を取った。
すぐさま構えて立ち上がれば、シャルティエのコアクリスタルから唱力を放出し、ふわりと地面に降りるリオン。
目があった瞬間、二人とも剣をあわせた。
「ことあるごとにチビチビと・・・!身長変わらんだろうが!!」
「俺のほうがまだ高いじゃん!」
「高いのはノータリン具合だ!」
「順応性だ屁理屈!」
「どっちが屁理屈だ勘違い娘!」
「前向きと言えネガティブ!」
「ネガティブ言うな能天気!!」
「じゃー根暗の堅物!!」
「このとことん考え無し!!」
「うっさい熟女マニア!!」
「マリアンは熟女じゃないオッサン趣味!!」
「オッサン趣味じゃねーよ女顔!!」
「誰が女顔だ男女!!」
「性別同時表現なんて素晴らしかろう!」
「素晴らしいわけあるか中途半端だ!!」
「認めろつっこみマニア!!」
「誰の所為だこのバカ娘!!」
「卑屈野郎!!」
「変態趣味!!」
「変態じゃなーい!」
「お前も変態で十分だ!」
「お前もじゃねーかストーカー!!」
「ストーカーじゃない厄介製造機!!」
「ほっほっほっ。話の通りじゃのー」
「この二人、どう止めるんでしょうか・・・」
「大声かけても気付かなかったら無理だ。ほっとけばいいんじゃねーかな」
「さんもリオンさんも過激な愛情表現ですのー」
「愛情表現いうな」
のんびり展望台から降りてきたルークが、アホな口喧嘩をしながらすさまじい攻防を繰り広げる二人を見て呆れかえる。
周りの兵士たちは、感動したり野次を飛ばしたりと大受けしているが。
どーしたものか、もー少し眺めていたいのー、あー飽きてきたなーおなかすいたですのーとのんびり観戦していたときだった。
ルーク!!と他から声がかかったのは。
振り向いたルークはあっと声を上げる。
グレンは思い切り顔をしかめ、ルークに向かって走ってくる金髪の青年を睨みつけた。
「ガイ!!」
「ルーク様のお知り合いで?」
「俺の世話係だ!」
「そうですか。通して構わん!」
兵士たちに通せんぼされておろおろしていたガイという青年が、グレンの一言で道をあける兵士たちに会釈して進んでくる。
ようやく見つけた〜と息をつくガイを見て、グレンはまたもしかめ面したが。
「探しましたよ、ルーク坊ちゃん」
「坊ちゃん言うな!」
「それで、一体何がどうなってるんだ?」
「おう、それが・・・っていい加減やめろっつーの!!リオン!!」
まだぎゃあぎゃあ騒いでいる二人にルークが怒鳴る。
しかし二人とも無視だ。
なんだありゃあとガイも頭をかき始め、ミュウに目をつけたルークは、わしっとミュウの頭を掴んで持ち上げた。
「おいブタザル。火噴け」
「みゅ?火ですの?」
「そーだ。あいつらに向かってめいっっっっっっぱいな!オラぁ、火ぃ吹けぇぇぇえええええええ!!」
「ミュウ〜〜〜〜ファイヤーーーー!!」
「「うわぁあ!?」」
ぼぉうと口から火を吹くミュウ。
思い切り炎に割って入られた二人は、慌てて身を引く。
なにするんだ!!と同時に叫んだ二人は、ルークにミュウを投げつけられた。
「お前らいい加減にしろっつーの!!見ろよ周り!!」
「え?あ、すいませーん」
「こいつの所為で」
「オメーも同罪だよ!!」
「元はと言えばお前の所為だ!!」
「っだーーもうやめろっての!!」
今にも剣を振りそうな二人の元にいき、ルークがごんがんと二人の頭を殴る。
ったーー!!なにをする!!と叫ぶ二人に、ルークは指を鳴らして見せた。
「お前ら、これ以上騒ぐっつーならただじゃおかねーぞ」
「ルークの方が弱いじゃーん」
「ハッ。お前に何ができるのか、かなり見ものだな」
「テメーらなぁ・・・!!」
反省0の二人を前に、ルークがぶるぶる震える。
まーまーと宥めに来たガイを見て、はきょとんと首をかしげた。
リオンは顔をしかめてガイを見る。
ルークもガイを見て、ぽんと手を合わせた。
「家に来てもパンの耳しか食わせない!!」
「ごめんなさい!!」
「・・・」
即謝る。
リオンは無言ながら呆れかえる。
わかったら剣しまえ!とルークが言えば、はそそくさと剣をしまった。
リオンはため息をついてシャルティエをしまいこむ。
「こいつと同じく、僕まで食べ物で釣れると思ってないだろうな」
「が釣れればリオンも釣れたようなもんだろーがよ」
「・・・」
『わーぉ。ルークさんやるー』
「ふふん。まーな!」
リオンに口で買ったルークを、シャルティエがはやし立てる。
ルークは得意げに胸をはり、後ろのほうでグレンたちがさりげなく拍手した。
とリオンは、互いに拳を握って悔しがっている。
「くっ・・・俺としたことが・・・!」
「まったくだ暴食」
「食べ物は大事だ!」
「開き直るな!!」
スパーンと、結局リオンはを叩く。
いったいなー!だーからお前らいい加減にしろ!とわいわい騒ぐ三人を宥めたのは、今しがた現れたガイだった。
「はいはいお前ら、いい加減止まろうなー」
「え?てか誰?野郎のタイツとかいくら顔が爽やかでも正直引くんだけど」
「お前どんだけ自分に正直だよ!?ガイ凹んでるから!!」
「で?誰なんだこいつは」
「・・・俺の世話係。おらガイ、の言葉に一々凹んでんな」
地面に四つんばいになっているガイをルークが足蹴にする。
益々哀れな・・・と聞こえてきたが気にしていない。
うぅ・・・と泣きべそをかきながら立ち上がったガイは、息をついて苦笑いを浮かべた。
「えーっと、ルーク付きのファブレ家の使用人なんだが・・・君たちは?」
「・ジルクリ」
「マグナスだ」
「「・・・」」
途中でさえぎり自分のファミリーネームを言うリオンを、とルークが白い目で見る。
コホンとせきをついて、リオンは口を開いた。
「僕はリオン・マグナスだ。ルーク様は現在、そちらのマグカヴァン将軍およびマルクト帝国セントビナー基地の方々に保護されている」
「そ、そうか。ありがとうございます。私はファブレ家の使用人でガイ・セシルといいます」
「グレン・マグカヴァンだ」
存在を忘れられていたためか、不機嫌ながらもグレンは返事を返す。
あれ?という顔で苦笑いするガイを、リオン一人は呆れながら見ている。
お前どーしたんだ?とルークが問いかければ、ガイはまた苦笑いした。
「そりゃあもちろん、お前を探しにだよ。世間知らずのお坊ちゃまが誘拐されたとあって、屋敷中大騒ぎだったからな」
「・・・色々とつっこみたいところがあるが、とりあえず聞く。クーデターの可能性は?」
「クーデター?まさか!」
腕を組み、顔をしかめて問いかけるリオンに、ガイが笑いながら返す。
ぴくりと眉を動かすリオンに、ガイは小首をかしげながら頭をかいた。
「えーっと、ルークの剣の師匠であるヴァン詠将の妹さんが犯人らしくてな。どうも詠将を暗殺しにきたらしいぞ」
「師匠を暗殺だあ!?」
「・・・妹が暗殺?」
「・・・他人の家、しかも公爵家で・・・」
「なぁリオン・・・これ笑うところか?それともつっこむところ?」
「頭を痛めるところだ」
「・・・・・・相棒、なんだか胸が痛いんだ」
胸に手を当て言うをリオンが撫でる。
は抱きつき返し、びくついたリオンも結局便乗して抱きつき返し、二人でバシバシ背中を叩き合った。
マグカヴァン老の報われたのーとの一言には、グレン他兵士たちがこくこく頷いている。
「あいつ師匠の妹だったのかよ!」
「ああ、どうもそうらしい。詠将もお前の捜索に出られたんだ」
「え!?師匠が俺のこと探してくれてんのか!?」
ルークはガイからの報告に、これまでになく大喜びしている。
はリオンから離れて、こそこそマグカヴァン親子の元へ移動していた。
とぼとぼについてくリオンを、みんなが同情の眼差しで見ている。
「ねぇねぇ質問いいですか?」
「なんだ?」
「こっちの世界って他人家で他人が暗殺とかしちゃうの?」
「普通は・・・ない」
「では、あいつらの会話は明らかにおかしいと」
「普通はありえない・・・」
「親族罰はキムラスカになかったか・・・」
遠い目をするマグカヴァン老。
を、見てが両手を合わせる。リオンがすかさず叩く。拍手が起きた。
「どうなってるんだこっちの世界は。ここまで軽くていいのか?」
「いや、違う。こうじゃない。普通はこうじゃない」
「まぁ、我がマルクト帝国の王も軽いところはとことん軽いが・・・決めるときは決めるお人じゃよ」
「わー俺と気が合いそう!」
「そういえばはセインガルド王に気に入られておったな」
「謁見の間では一言も喋りませんけどね!」
「・・・教育に熱が入ってるな」
「まあな」
笑顔で手を上げるを見て、グレンがリオンにぼそっとつぶやく。
リオンはさらりと流した。
マグカヴァン老はそうかそうかとの頭をなでてほのぼのしている。
リオンとグレンは騒ぐルークたちを見て、同時にため息をついた。
「アレをどう思う」
「ルークがルークになった理由があそこにある、かな」
「・・・なるほど。さすがつっこみ担当」
「だから勝手に係りに任命するな」
真顔で頷くグレンに、リオンが顔を引きつらせてつっこむ。
つっこんでる、つっこんだ、とぼそぼそ喋っている兵士たちは、リオンに睨まれた。
「リオン、!ヴァン師匠迎えに行こうぜ!」
「ルーーーク!?君が迎えに来てもらう立場だからね!?」
「というかお前、少し落ち着け。お前はマルクト軍に保護されているんだ。その師匠とやらがお前を捜索しているというのなら、彼の通る都市に手紙でも送ればいい」
「えー!やだよ俺師匠迎えに行きてーよ!」
「ガキかお前は!」
ぶんぶん腕を振るルークにリオンが思い切りつっこむ。
なんかかわいーとつぶやいたは、またマグカヴァン老に頭を撫でられた。
「外に出れば危険が付きまとう。お前を守るためにどれだけの人間が動くと思っているんだ」
「お前ととガイがいんじゃねーか」
「馬鹿者。キムラスカ・ランバルディアのルーク・フォン・ファブレとしてマルクト軍がお前を保護したんだ。そのままお前を解放などしてみろ、マルクトとキムラスカの仲が険悪になること受けあいだ」
「はあ?」
「ルークは第三王位継承者、っていう大事な役目を持ってるだろ?怪我したら大変なことになるってゆーのは分かるよな」
「そんくれーは分かるよ。だからお前らが護衛するんだろ」
「そうだ。そしてお前をキムラスカ国第三王位継承者のルーク・フォン・ファブレとしてマルクト軍が認知したということは、そのまま放って置ける状況ではなくなったということだ」
「難しすぎて分からないんじゃない、それじゃ」
「お前もだからか」
キッとリオンに目を向けられて、はそっぽを向く。
マグカヴァン老が噴出して顔を逸らした。
「ルーク、ヴァン詠将がお客様として屋敷に来ました。けど急に用事が出来たから、剣なし防具なしで護衛3人つけて外出てきます、なんて言い出したらお前どう思う?」
「え・・・師匠だしなぁ・・・」
「詠将は剣を持ってないんだ。防具もつけてないんだ。つまり丸腰。盗賊や魔物にあったらどうする?」
「ライガクイーンみたいなでっかくて強いのとかだったら、丸腰で勝てる?」
「むむむ無理だ!!」
「護衛3人は?」
「無理!!」
「しかもルークの家に、普段と違ってお客様として招待されてるんだぜ?お前ならどうする?」
「家の騎士団貸す!!いや、誰か変わりに行かす!!」
「つまりはそういうことだ」
「は?わけわかんねーし」
ガイと合いの手を入れたで上手い具合に話を進めていったのだが、最後の最後でつまずいてしまう。
あららーと声を上げるガイやを見て、リオンがため息をついた。
「つまり今、お前が例えに上げられたヴァン詠将とやらの立場にいるというわけだ」
「・・・あ。そういうこと」
「ボクもわかったですのー」
呑気に手を上げ笑うミュウをリオンが睨む。
しかし気付いていない。
ちぇ、とふてくされるルークの肩を、ガイがぽんと叩いて宥めに入った。
「なるほどお世話係は必要だわ」
「・・・そのお世話係ごと教育が必要だがな」
「えーと。がんばれリオン!」
「誰もお前に期待なんてしてないさ」
「それはそれでむかつく!!」
ぷいとそっぽを向くリオンを、がぽかぽか叩く。
微笑ましそうに眺めているマグカヴァン老に、グレンが笑ってないでとめてくださいとつっこんだ。
「さて、それでは屋敷に戻りましょうか。グランコクマにも鳩を飛ばしましたので、明日にはキムラスカの方に報告が行くでしょう」
「ヴァン師匠は?」
「ふむ。ロールテロー橋が落ちたとなれば、カイツールかグランコクマを回ってこられるでしょう。可能性が高いのはカイツールですが、一応のため両方の基地に伝言を送っておきます」
上手くまとめてくれるマグカヴァン老に、リオンが息をついて目を閉じる。
ありがとーございまーすと小声で頭を下げたは、グレンに撫でられた。
てへへと笑うをリオンが睨む。
にや、と笑いあうマグカヴァン親子を、兵士たちが静かに見ていた。
全く損な役割だと、本日何度目かの溜息を漏らす