エンゲーブに戻ったたちは、ローズの家に紹介状を貰いに行った。
チーグルの森での出来事を報告したところ喜ばれ、現在お礼にと遅い昼食をいただいている。
エンゲーブ産の食材をふんだんに使った郷土料理に、もルークも大喜びでがっつく。
リオンは呆れながらものんびり優雅に食事を取っており、ローズはそんな三人を笑い飛ばしてミュウにリンゴを与えていた。
「明日セントビナーへ食材を届けに行く予定なんだよ。なんならあんたらも乗ってくかい?」
「マジで!?」
「いーの!?」
「ああ!とはいえ、憲兵代わりに護衛を頼みたいんだけどねぇ」
「構わない。徒歩で行くよりは馬車で移動した方がこちらも助かるからな」
苦笑いするローズに、リオンがすぐさま返事を返す。
じゃあ決まりだねと言うローズの後に、がやったーと両手を挙げた。
今日はローズの家で厄介になることが決まり、暇な時間、ルークにどうしてもと頼まれ剣の稽古をつけることになる。
は即OKを出し、稽古が趣味のリオンも文句の後にOKを出した。
「でやぁあ!」
「よっとー。スタンやカイルと似た感じだね」
「おっ、マジで♪」
「単純直進バカという意味だ」
「んだとー!」
「あははははは!」
の言葉に素直に喜んだルークは、リオンの嫌味に素直に怒り出す。
笑ってんじゃぬえー!と攻撃をしかけられたはあっさりいなしてルークに一発入れ、入れられたルークはいて〜と叩かれた部分をなでながらしかめ面した。
「チクショーマジで打ちやがって。お前らと違って、俺は趣味でしかやってねーんだからな」
「まぁ、普通はそうだろうな。お前はあくまで守られる立場なんだ。下手に強ければ護衛も困るだろう」
「だねー。でも筋はいーんじゃね?」
「ホントか?」
「・・・そうだな。貴族のお坊ちゃんにしては、珍しく」
「リオンは一言余計だっつーの!!」
『むしろ全てかなー』
「シャル」
だんと足をつくルーク。
さらに余計な事を言ったシャルティエは、リオンに叱られごめんなさーいと気の抜ける声を上げる。
けらけら笑ったは、まだやる?とルークに声をかけた。
「もちろん!ぜってー勝つ!」
「無理無理。天上王に認められるほどの天才剣士だぜ、俺」
「認められてるのは馬鹿さ加減だ」
「ぶはははは!」
「少しは立たせようよ相棒!」
「立たせようが追い込もうが、思わぬところに立つのがお前だろーが」
「えっへへーさすが俺」
「褒めてない」
嫌味だ、と睨みをきかせながら言うリオン。爆笑するルーク。
は笑い飛ばすと、さー次ー!とルークと向き合った。
その後、ルークはくたくたになるまで動き、ルークとの稽古を終えたはリオンと稽古を始める。
まったく動きの違う二人を見て感心していたルークは、ぜってー勝つ、とむすっとしながら二人の稽古を眺めた。



ローズや他の村人たちとエンゲーブを発ったたちは、段々と近づいてきたセントビナーを見ておお〜と声を上げる。
未だに監禁されていた家出貴族と思われているので、村人たちは笑いながらもセントビナーのことをアレコレ教えてくれた。
護衛を行っていたのは、とリオン。
最初戦いたい!と駄々を捏ねたルークは、魔物どころか人相手に戦う二人を見て、戦意を喪失させたらしい。
貴族というかむしろ王族ならそれが当たり前、どっかの放浪癖持ちは別、と散々二人(主にリオン)に言い聞かせられて、稽古はするものの戦闘時はミュウと共に待機していた。
「ここからなら魔物にも会わないだろう。僕らは最後の馬車に乗っていく」
「ああ。色々とありがとうね。またエンゲーブに来たら顔を出しなよ。歓迎するからさ」
「はーい!お世話になりました!」
「はいどういたしまして」
手を上げて元気に挨拶するを、ローズはくすくす笑いながら撫でる。
ばいばーいとローズを見送って、たちは馬車に乗り込んだ。
「おっちゃん、セントビナーまであとどんくらいだ?」
「おー。あと2・3時間てとこだな」
「げー。まだそんなにかかるのかよ。あそこに見えてるのにさ」
「そんなもんだよ。俺も最初は距離つかめなくて、文句言いまくってたなー」
「暇だとか言って人を巻き込んでな」
「楽しかろう!」
「大きな負担だ」
「また始まったし・・・」
『まーこれが二人の暇つぶしだからねー』
にらみ合い、ぎゃあぎゃあ騒ぎ始めるとリオン。
馬車を運転する村人はけらけら笑い、ルークはシャルティエとお喋りしながらセントビナーまでの道のりを過ごした。
セントビナーに到着してすぐ、馬車が止まる。
なんだ?と窓から外を覗き込むルーク。
マントを付けろとリオンに叱られて、渋々のマントを羽織った。
変わりに顔を出したは、仮面を被った少年と目(?)があってきょとんとする。
「なに」
「うわー。リオン以外に怪しい仮面被ってるヤツ初めて見た!」
「・・・アンタ初対面から失礼じゃない?」
「ん?あーごめんごめん。つい驚いて」
てへ、と笑って誤魔化す
仮面の少年ははあーとため息をつく。
にへーっと笑っていたは、少年の服装をじーっと見つめて、周りにいる兵士たちの服装をじーっと見た。
「・・・なに」
「んー・・・。その服の模様ってさ、どっかの制服?」
「はあ?」
の問いかけに、少年が思い切り怪訝な声を上げる。
アンタどこの田舎から来たのさとつっこまれて、はまたにへらと笑った。
はぁ、と少年がまたため息をつく。
「これはオラクル騎士団の制服」
「オラクル?」
「・・・はぁ。ローレライ教団くらい知ってるだろ?ローレライ教団に属してる軍がオラクル騎士団。これくらい常識だよ」
「へーそうなんだー。じゃあ君そのオラクル騎士団?の兵士?」
「第五師団長。ついでに参謀」
「マジで!?」
少年の言葉を聞いて、は目を丸くする。
少年はめんどくさそうに口をへの字にした。
「そんなに驚くこと?」
「子供でそれってすげくね!?リオンーリオンー若くして参謀とかいう苦労以外の何者でもない中間管理職についてる子がいるー!」
嫌な表現しないでよ
くるりと顔を回して声をかけるに、少年がつっこんでくる。
顔を合わせたリオンは思い切り呆れ顔だ。ルークは笑っている。
けらけら笑いながら顔を戻したは、でも当たってんだろと返した。
まぁ当たってるけどさ・・・と少年はまたため息だ。
「給料ちゃんと貰ってる?」
「・・・さぁ。他人と比べたこと無いから」
「ちゃんと調べといた方がいーと思うよ。宗教関係って金たんまり持ってる割に身内には財布の紐硬いってゆーし」
「なんで内事情にそんなに詳しいのさ」
「友達になった子が言ってた。研究費ろくにくれないのに作った物はしっかり教会のものにするんですの、って」
頬に手を当てて誰かの真似をする
少年がしらーっとした空気を出し始める。
ところで君つっこみ上手いね、というに、少年はどーでもいいよと投げやりに返してきた。
「異常ありません!」
「そう。行っていいよ」
「はっ!」
「・・・そうそう。僕はシンク。六神将の烈風のシンクっていうとそこそこ名が売れてるから、気をつけたほうがいいよ。まぁ、アンタはまず六神将って言葉も知らなそうだけど」
「うん。ろくしんしょーってなに?」
「・・・」
こてんと素直に首をかしげるを、シンクがなんとも言えない空気で見てくる。
ん?とさらにが首を傾げれば、はぁとため息をつかれた。
「・・・そこらの人に聞けばいいよ。多分知ってるから」
「うん、わかった。俺ってゆーんだ!よろしくなシンク!」
「もう会うこともないだろうけど」
「ひっでー。素直によろしくって返せよ」
「しょっぱなからそこまで友好的なのもどうかと思うよ」
「そー?」
肩をすくませるシンクに、はまた首をかしげる。
兵士に行っていいぞと言われた村人が、馬の尻をぺしぺし叩き始めた。
動き出した馬を見て、はおっと声を上げる。
「友達は増やしても損はないぜ!」
「友達って。いきなり何言ってんのアンタ」
で〜す!一度会って名前を教えあったら友達です!」
「範囲広すぎ」
「シンクは冷めすぎー!どっかの誰かみたく仮面ストーカーになるぞ!」
「ストーカーじゃない!」
げしっと、後ろからリオンの蹴りが決まる。
ぎゃあと悲鳴を上げたは、馬車から落ちかけて慌てて腕で支えた。馬車はもう動き出している。
「じゃーなーシンクー」
「・・・はいはい。精々清く正しく生きてなよ。牢獄で会わないことを祈るよ」
「おおおお俺なにも悪いことなんてしてないもんね。残ってたスープこっそり飲んだりしてないから!」
あれお前かよ!!
べしーっと、今度はルークに叩かれたまた落ちかける
背に腹は変えられん!どんだけ切羽詰ってんだ!とぎゃあぎゃあ騒ぎながら、たちは馬車に揺られて門を通過した。
騒がしい馬車を、シンクは呆れた様子で見送る。
最後にため息を一つついて、街の外に顔を向けた。


搬送先で下ろされたたちは、荷下ろしを手伝ってから村人と別れた。
自由になれば、とルークが街をみて騒ぎ出す。
ソイルの木登りたい!登る!と完全に観光客と化した二人を見て、リオンがため息をついた。
「先に旅券を取ってからだ。宿もとっておかないと、今日も野宿になるぞ」
「げぇ。それだけはごめん」
「ちぇー。じゃ、旅券とっとと貰って宿とって、その後観光!」
「おー!」
「観光ですのー!」
「・・・はぁー」
大はしゃぎの二人+一匹を前に、リオンは一人うなだれる。
お疲れ様です坊ちゃん、とねぎらいをかけるシャルティエを一なでして、リオンはスタスタ歩き出した。
リオンの後に続いて、とルークも歩き出す。
旅券を交換してくれるのは街を治めている軍らしく、窓口でリオンがやり取りをしている間、とルークは呑気にミュウを構っていた。
「こいつなんで倒れないんだろうな。頭こんだけでけーのに」
「中身が入ってないんだよ」
「みゅみゅー!ひどいですの!ボクちゃんと脳みそあるですの!」
「脳みそって言葉知ってるんだ!」
「誰に教わったんだ?」
「長老ですの。長老は何でも知ってるですの。・・・みゅ?」
「ん?」
ふと気付けば、回りを囲む兵士たち。
受付と話していたリオンも、周りに気付いて振り向いた。
「なんの用だ」
「赤い髪に緑の目・・・。キムラスカの王族か」
キムラスカ、との言葉に、周りがざわつく。
リオンはチッと舌打ちした。
はルークを背に下げ、剣に手を置く。
しかしとリオンが抜刀する前に、兵士たちに剣を突きつけられた。
「ごめーんリオン。しくった」
「まったくだ。何のための護衛だと思ってる」
「リ、リオン・・・・・・」
「安心しろ。何があってもお前だけは逃がす」
「出来ると思うか?」
「双子彗星、舐めたらいけませんぜー」
「そこまでにしろ」
にやりとが笑ったときだった。
横からかかった声に、兵士たちの緊張した空気が固まる。
見ればジェイドのような青い軍服を着た男性が立っていた。
男性はたちの前まで進み出て、上げていた剣を下げさせる。
とリオンは、ルークをさらに囲みながら男性を見た。
「私はマルクト帝国軍セントビナー駐屯軍の将軍を務めているグレン・マグカヴァンだ。そこにいる少年は、キムラスカ・ランバルディア王国のルーク・フォン・ファブレ殿か?」
「・・・えっと・・・」
「・・・隠しても仕方ない?」
「・・・だな。――その通りだ。それで?敵国の王族であるルーク様を捕らえるのか」
「いいや。だが我が国に訪問するという話も聞いていない。事情聴取はさせて頂く」
リオンにはっきり言い返したグレンは、兵士たちに剣を収めさせる。
そのまま膝を突いてかしずいた。
他の全員が同じ行動をとり始めたのを見て、ルークがうろたえる。
「え?え?何が起きてんだ?」
「しー。リオンに任せておいて」
「突然の非礼、失礼いたしました、ルーク様」
「かまわないそうだ。それとこちらも事情を話す。保護、という形で?」
「ああ。拘束はしないが、このまま付いてきていただく。構いませんか?」
「・・・かまわない、だそうだ」
リオンがめんどくさそうに返事を返すと、グレンも他の兵士たちも立ち上がる。
こちらへと誘導されて、たちは軍基地の奥に案内された。
「・・・なあ、これからどうなるんだ?」
「お前がどうにかなる、ということはとりあえずない。聞いた話じゃ最近国境付近が不安定だというが・・・冷戦中とはいえ、戦争が起きてるわけじゃないんだ。身柄を拘束されたとしても、拷問を受けたり牢に幽閉されたりはしない」
「ごっ・・・!」
「リオン脅しすぎ。それに、ルークが貴族らしく出来ないの多分ばれてるから」
「まあそうだろうな」
「悪かったな!!」
大声を上げたルークは、周りから視線を集めて小さくなる。
はぁと息をつくリオンを見て、はくすくす笑った。
呑気すぎ、とシャルティエに突っ込まれたが。
いざなったら逃げる、ずる!とこそこそ話しながら、そして少しは黙ってろとリオンに叱られながら、三人は案内された部屋に入る。
応接室のようだ。
どうぞと声をかけられ、ルークをソファに座らせる。
とリオンは、ルークの座ったソファの傍にそれぞれ立った。
ルークは不思議そうに二人を見ているが、にくいと顎で前をさされて、むすっとしながら座りなおす。
ルークの前に座ったのはグレンだ。
「まず、先ほどは大変失礼いたしました」
「へ?いや、別にいい。俺キムラスカ人だし、あーいうのって仕方ないんだろ?」
頭を下げるグレンに、ルークはひょいと手を挙げ軽く流す。
呆気に取られた顔をしたグレンは、ふっと表情を崩すとありがとうございます、と礼を言った。
眉根を寄せたルークは目を泳がせる。
「それでは、なぜルーク様がこのセントビナーに?私の聞いた話では、屋敷に軟禁されていたと思ったのですが」
「えーっと・・・」
「それは僕から説明する」
目を泳がせ言葉をにごらせるルークに変わり、リオンが声を上げる。
よろしいか、と問いかけるリオンに、話を聞こうとグレンは頷いた。
「7年前、マルクトに誘拐されたルーク様は重い記憶障害になられた。そのため屋敷に軟禁されていたのだが・・・賊が入ってな」
「マルクトがルーク様を誘拐?・・・聞いたことが無いな。先帝の時代だろうか。確認してみよう。それで?」
怪訝な顔をしたグレンは、思い切りしかめ面しているルークを無視してリオンに顔を向ける。
こくりと頷くリオンの変わりに、がはいと口を開いた。
「入った賊はローレライ教団の者と思われます。栗色の長髪に青い目のティアという少女です。導師イオンと、マルクト軍第三師団師団長ジェイド・カーティス大佐と共にいるところを見かけたので、確認していただければ証言も取れるかと」
「なに・・・?その娘、先ほどカーティス大佐と共にここに来ていたな」
「マジで!?」
「はい。名前は確認していませんが、確かに」
「片腕が使えないようならその子で間違いありません」
驚き声を上げるルークに、グレンが頷く。
がさらに言葉を続けると、ならば間違いないでしょうと返事を返してきた。
ルークが擬似超振動で誘拐され野外で発見したときに腕だけ切りつけたと、リオンがさらに付け加える。
難しい顔をするグレンに、ルークがなあと声を上げた。
「あいつはマルクトが寄越したのか?」
「いいえ!それはないでしょう。いくらなんでもそんな暴挙にローレライ教団が手を貸すとは思えません」
「しかし、何かしら思って行動を起こすものも中にはいるだろう」
「・・・それは否定できん。しかし導師がカーティス大佐と共に行動しているのは、恐らく和平の交渉をキムラスカに頼みに行くためだろう」
「和平・・・キムラスカへ?」
「父の推測でしかありませんが。我が国の皇帝、ピオニー陛下は戦争など望んでおりません。そのため尽力を尽くしてきたことを知っています」
「となると、あの少女をけしかけたものがいたとするなら反乱分子か」
「はーい。難しい話は私もルーク様もついていけませーん」
が挙手して空気をぶち壊す。
リオンがを睨み、ルークも呆れた顔でを見た。
まあそうだけどさ、といいながら。
それを見てグレンが引きつりながらも苦笑いだ。
「ではルーク様がマルクトに来られたのは、その賊の所為だと?」
「そうなる」
「・・・では、君たち二人はルーク様の護衛か?」
「そうだぜ。会ったのはこっちに来てからだけど」
「「ルーク様」」
『あっちゃあー』
言わなくていいことまで言ってしまうルークに、リオンとが頬を引きつらせる。
グレンの目がほそーくなった。
「ほぅ・・・。雇われの憲兵でしょうか?」
「えーっと・・・素直に言っちまったほうがよくねえ?異世界から来ましたって」
「いや・・・」
「つーかそこまでルークが言っちゃったら、俺たちごまかしようが無いんだけど」
「少しは頭を使え、お前ら。ほんっっっとうに疲れる!」
『あーあもうダメだ』
だぁんとソファの背を殴り怒鳴るリオン。
シャルティエが早速諦めの声を上げた。
あははごめーんとは呑気に謝り、ルークは仕方ねーじゃんホントのことだし、としかめ面で流す。
ぶるぶる震えるリオンに、まあまあ坊ちゃんとシャルティエが声をかけた。
ごほんと、グレンが咳払いする。
「失礼ですが、貴方は本当にルーク・フォン・ファブレ様ですか?」
「ホント失礼だな。俺は正真正銘ルーク・フォン・ファブレだ」
「証明できるものは何も無いが」
「・・・いや、キムラスカの王族に連なるものは、赤い髪に緑の目だ。偽っていないのなら・・・」
「待て。ちょっと待て。それは常識的に知られているものなのか?」
「・・・そうだな。少しは教養があれば知っている」
ルーク!!
「うぇええ!?ななんだよ!?」
グレンの言葉を聞いて即怒鳴るリオン。
ずざっとソファの上で下がるルークを見て、が爆笑だ。
リオンはギリギリ拳を握ってルークを睨んでいる。
「お前っ・・・そんな分かりやすい特徴ならあっさり見つかって捕まるに決まってるだろうが!!先に言え!!」
「ンなこと言われたって俺だって知らねーっつーの!!」
「はあ!?お前本人だろうが!本人が知らずしてどうする!!」
「しょーがねーだろ!!俺は7年間ずーーーっと屋敷に閉じ込められっぱなしだったんだから!!」
「あー。知ってて当たり前ってことか」
「そーだよ!常識的なことなんて、なに一つ教えられてねーっての!!」
ぽんとが手を叩きながら言えば、ルークは腕を組んでそっぽを向く。
ルークを睨んでいたリオンは、しかめ面のままため息をついた。
「過ぎたことはもういい」
「あんだけ怒鳴っといてかよ」
「うるさい!」
「ルーク、ルーク。余計なつっこみは火傷の元だよ坊ちゃんの場合」
「相当斬られたいらしいな・・・
「うあははは・・・なんでもないでーす」
すっとシャルティエに手を掛けるリオンを見て、が両手を挙げる。
またグレンに咳払いされて、リオンは舌打ちしながら手を下ろした。
「とにかくこいつはルーク・フォン・ファブレだ」
「では、君たちは?」
「はいはーい。ルーク曰く運命という名の物語の世界から来ました、です!」
「は?」
手を挙げ笑顔で言う
グレンの顔が間抜けに歪む。
リオンがついたため息で、グレンが我に返った。
「・・・医者を紹介しようか?」
「ちょ、ホントだってば!」
「マジだぜ。リオンが持ってるのシャルティエだし」
「ちょっと見せてくれ。というか、まさか、リオン・マグナス?エミリオ・カトレット?仮面ストーカーのジューダス!?
仮面ストーカーじゃない!!
「あははははは!!」
「なんだ、アンタも読んでるんじゃん」
微妙に興奮気味のグレン。
げらげら笑うと一緒に、にやっと笑ったルークもけらけら笑い出す。
本当にシャルティエが?と強張った顔で問いかけてくるグレンに、リオンははあーと息をついてシャルティエを手に取った。
「ルークは声が聞こえたようだが、全員が声を聞けるわけではない」
『おハロ〜☆ソーディアンシャルティエでっす!優しく触ってねv』
「聞こえない方がいいかも・・・」
「・・・うん」
「ああ、分かっている。ソーディアンマスターになる資格のあるものだけだろう?」
「・・・ガッツリ読んでるみたいッスね?」
「大ブレイクしたからのぅ。それにしても話の通りお茶目なソーディアンじゃ」
「「おおぉう!!?」」
「ち、父上っ」
急にかかった声にルークとが驚き、シャルティエを手に取ったグレンも目を丸くして部屋の入り口に顔を向ける。
扉の前に立っていたのは、一人の老人だった。
朗らかに微笑みながら、老人はグレンのもとまで行く。
ルークに挨拶しておうと返されてから、にこりと笑った。
固まるグレンを無視して、じーっくりシャルティエを眺める。
「ふむ。これがコアクリスタルかな?実に美しい剣じゃ」
『いや〜それほどでも』
「確か本名はピエール・ド・シャルティエ殿だったかな?わしより年上でしたか」
『ああ、いえ。1000年間眠っていたんで、そうでもないですよ』
「なるほど、そうでしたか」
「ち、父上・・・こ、声、が、聞こえて?」
「どうやらわしもソーディアンマスターになれるようじゃよ、グレン」
恐る恐る声をかけるグレンに、マグカヴァン老がにこりと笑う。
そんな!とグレンが叫んだ。聞きたかったらしい。
ぶつぶつ嘆き出すグレンを無視して、マグカヴァン老がリオンたちに向き直る。
改めて一礼する老人に、もリオンも、釣られてルークも頭を下げた。
「息子が迷惑をおかけしたようで。ルーク・フォン・ファブレ様、そしてリオン・マグナス殿、・ジルクリスト殿。セントビナーへようこそ」
にこりと、マグカヴァン老が微笑む。
ルークは体の力を抜いてこっくり頷き、は、にへらと笑った。
「ありがとうございます。・・・リオン。ってリオン?おーい?」
「・・・どういうことだ」
無言のリオンに挨拶しろ、という意味で声をかけたは、殺気すら出して唸るリオンに驚く。
うぇえ?!とルークも素っ頓狂な声をあげ、別世界に飛んでいたグレンも、不穏な空気に気付いて顔を上げた。
リオンはマグカヴァン老を睨みつけている。
マグカヴァン老は、苦笑いを浮かべて首をかしげた。
「おい、リオン?」
「ぼっちゃーん?」
何故こいつのファミリーネームがジルクリストなんだ!?
そこかよ!!
ビビッて損した!!と叫ぶルーク。
はだらーと腕を下げて脱力する。
ただリオン一人が熱い。
「大問題だ!!何を考えてるんだお前は!?」
「いや俺に聞かれたって!!ヒューゴさんが引取ってくれたってことだろ!」
「あいつはヒューゴじゃなくミクトランだった!」
「じゃーもう答えが出たもどーぜんじゃん」
「どーぜんだがっ・・・!クソ!!お前、今すぐ名前を変えろ!!」
「はあ!?できるわけねーだろ!!?お前なに考えてんだ!!」
「お前こそ何を考えてるんだ名前からして毒されやがって!!」
「毒されてんのはお前の脳だよ!!」
『ぼっちゃーん。おちついてー』
「ほっほっほっ。若いのぉ」
「っだーーー!!もう!!お前ら黙れ!!」
ぎゃあぎゃあ言い合う二人の頭を、ルークがばしばしっと殴りつける。
いた!ぐ!と声を上げた二人は、すぐさまルークを睨んだ。
睨まれたルークは引くが、すぐ二人を睨み返す。
「アホな言い合いは後にしろ!俺だけじゃなくほかにも人いんだぞ!」
「ルークにつっこまれた・・・」
「僕としたことが・・・」
「お前らなぁ・・・!!少しは反省しやがれ!!」
ごすごす、とまたルークの拳が決まる。
いーたーいー!と叫ぶ。無言で睨むリオン。
ルークは、腕を組んでフンと息をつく。
微妙に目を輝かせるグレンの横で、マグカヴァン老がほのぼの笑った。








君の名は