早朝から鳴き始める鳥たちに起こされて、やはり一番に起きたのはリオンだった。
慣れない地での宿泊などは経験があっても、慣れない“世界”での一夜は落ち着けるものではなかったらしい。
その、リオンの隣のベッドで眠るは、もちろん熟睡中だ。
ため息をついたリオンは、特に急ぎもせずに身支度を終える。
貰った地図を見直し、早起きな村人たちから情報を収集しと、彼は“いつもながら”の行動を取っていた。
どこまでものどかな田景風景をのんびり眺めて、知っているものと同じ風を感じて、息をつく。
ようやく起きたらしい愛剣(?)に挨拶されて挨拶しかえして、リオンはのんびり足を進めた。
「すみません。ちょっとよろしいですか?」
「・・・なんだ?」
そろそろ寝ぼすけを起こしに宿に帰ろうとしていたときだった。
声をかけられ振り向けば、リオンよりも真っ青な服を着た青年が立っていた。
隙の無い青年に、少し警戒を怠っていたリオンは身構えはしないものの警戒する。
口の端を引き上げる程度に笑みを浮かべていた青年は、にこりと微笑んだ。
「実は、人を探しているんですが・・・白い服を着た、緑の髪の少年を見ませんでしたか?」
貴方より少し高いくらいの、と問いかけられて、リオンは眉根を寄せる。
いつの間にやら逃げられてしまいましてねぇ、との言葉を聞いて、一気にリオンはしかめ面した。
青年はリオンを見て笑みを深める。
「ああ、人攫いではありませんよ」
「(・・・いっそ笑えるくらい胡散臭いな)」
『坊ちゃん顔に出てますよ』
しらーと目を細めるリオンに、こそこそシャルティエがつっこんでくる。
ひらひら手を振った青年は、私はどちらかといえばその方の護衛です、とまたにこりと笑った。
胡散臭さはあれど身なりや隙のなさから見て、リオンは青年の言葉が本物であろうと推測する。
というか、ただでさえ自分の状況がよろしくないので、他人に一々構ってやれる出来た精神が無い。
これがならば、即うわ〜大変だねーあのねーとぺらぺら余計なことまで喋っていたのだろうが。(今はそこまでじゃないですよーと腰辺りからつっこみが入った)(脳内で)
「・・・もしや、昨日この村にやってきたという導師か?」
「おや、よくご存知で。そんな貴方は家出してきたお坊ちゃまですか?」
「僕は護衛だ」
「ああ、貴方も護衛なんですね」
それは奇遇ですね〜と、胡散臭い青年は笑みを深める。
探られている、とリオンは表情を変えずに青年を見る。
腹の探りあいをする暇は、今のリオンにない。精神的に。
宿に残してきたが気になって仕方がない。
ちなみに、スタン以上の無知加減ルーティ並の短気もちと窺えるルークが、飽きて下手なことをしていないかも気になる。
本人無自覚ながら、すでに立派な保護者だった。
「それらしい人物なら、先ほど向こう・・・確か、聖獣のいるらしい森の方向に向かっていったぞ。一人で」
「それはそれは」
「護衛が聞いて呆れるな。護衛対象から目を離すだけでなく対して気にもしないのか」
「厳しいですねぇ。しかしそれは貴方も同じではないのですか?」
「フン。僕には頼りになる相棒がいるからな。アレに任せておけば魔物が50匹襲ってこようが、護衛対象は死なせはしない」
『・・・坊ちゃんそんな大法螺ふいて・・・』
呆れた声が聞こえたが、無視。
顎をあげ鼻で笑うリオンに笑みを深めると、青年はうらやましいですねぇ、とどうでもよさそうに返してきた。
「とっとと追ったらどうだ。今頃魔物に襲われてるぞ」
「ええ、そうしましょう。ご協力感謝します」
すっと会釈して、青年はスタスタ去っていく。
去り際赤い目に穴が開きそうな視線を送られたが、リオンはやはり、フンと息をついて軽く流した。
『面白いくらいに胡散臭かったですね、あいつ。マルクトの軍人かな?』
「恐らくそうだろうな。他の者たちと服装が違うとなれば、それなりの地位・・・いや、左官だな」
『その心は?』
「護衛対象を見逃して平気な顔をする厚顔無恥な将軍がいるというのなら、崩れかけの国か平和ボケしすぎた国のどちらかだろうさ」
『あははっ』
皮肉りまくるリオン。
シャルティエがけらけらと容赦なく笑う。
無意味な時間を過ごした、ホント勿体無かったですねー護衛対象見つかればいいけど、と軽口を叩きながら、リオンは宿に戻った。
「・・・こいつら・・・!」
『・・・まあ、は分かるけど。これはねぇ』
部屋に戻れば、まだ眠っているとルーク。
二人とも気持ち良さそうにスカーッと眠っている。
微妙な睡眠不足と慣れない世界での緊張からくるストレスで、短気と高く(?)評価されているリオンはやはりシャルティエを抜いた。
「貴様ら、いい加減おきろ!!」
『出張ゆえの大サービス〜☆』
「「ぎゃああ!!」」
びこびこびこびこーんと、大きさまでサービスされたピコハンが二人に降り注ぐ。
地味に痛ぇ!!とルークが飛び起きた。
は、ルーク以上に食らってふらふらしながら起き上がる。
「う〜・・・痛いよリオン〜〜」
「痛いよリオンじゃない!」
『二人とも、今日はチーグルの森に行くんだろう?なんかさっき導師と軍人が向かっちゃったみたいだけど』
「ぇええーーー!!先越されたーーー!!」
「なんで起こしてくんねーんだよ!!」
「お前らがぐーすか寝てたんだろうが!!人の所為にするな!!」
『はい倍増サービース』
「「ふぎゃあ!!」」
ぴこんぴこんとコミカルな音が響く部屋は、暫く村人たちの話題になったとか、ならないとか。
ぶつくさ文句を言うルークと美味しいリンゴで一気に上機嫌の。
もはやため息と文句とつっこみ・・・で、中々に忙しいリオン。
三人は、朝食もそこそこに村を飛び出していた。
「ったく・・・あんな起こされ方はじめてだぜ」
「俺なんて毎日あれさ!」
「胸はるな寝ぼすけ」
笑顔でぐっと腕を上げるを、リオンがすぱーんと叩く。
なろー!と騒ぎ出すとリオンを、ルークが文句を言いながらも宥めていた。8割逆ギレして止めざるを得ない状況に追い込むが。
歩くのウゼー健康にいいから歩いとけよーこれから旅だぞ、とうだうだ話しながら、三人はチーグルの森に着いた。
遠くに、昨日見たタルタロスが見える。
「もう犯人見つけられてたりして」
「げ、マジかよ。くたびれ損じゃん」
「あの短時間でどうにかできるとは思えない。恐らく導師を捕まえて、次の街にでも向かったんだろう」
「じゃ、大丈夫だ!」
『根本は全然大丈夫じゃないけどねー』
「シャルうっさい!それをこれから解決すんの!」
リオンの一言で一気に元気になる。
びしぃっとリオンの腰にあるシャルティエにが裏手を入れ、それを見たルークが笑い始める。
リオンは、森の入り口ですでにやる気なくため息だ。
「おし!んじゃー行くぜ!」
「おー!」
「はぁ・・・」
『坊ちゃん、がんばってください(子守)』
ぐっと腕を上げるルークに続き、拳を上げる。
ずんずん進んでいく二人の後を、リオンはやる気なくついていった。
初めて入る森に興味を持っていかれたのか、ルークの文句が格段に減る。
あれなんだこれなんだ、というルークの質問には、主にリオンが仕方なく答えていた。
食べられるものは、が熱意を持って。
「見て見て!この葉っぱおっきー!」
「持ってくるな」
「お!なあリオンリオン!アレなんだ!あの虫!」
「クワガタだ。追いかけるなよ」
「あー!見たことない鳥がいる!」
「マジで!?んー・・・あ!いたー!」
「追うな!」
『(ホントにがんばれ坊ちゃん・・・!!)』
やはりリオンが苦労する羽目になった。
なんやかやと騒ぎながら森を進んで、の小腹がすいたころ。
「リンゴのにおいがする!」
びしっと一方向を指差しが歩き始めた。
すすすと下がって、ルークがそっと顔の横に手を添える。
「・・・って、実は人間じゃないのか?」
「いや・・・・・・・・・・・・・・・人間だ」
「はっきり答えろよ!!そこははっきり答えよーよ相棒ーーー!!」
「無理だ」
「即答!?」
「無理っぽい」
「同調!?」
『おぉ!が難しい言葉でつっこんでる!』
「えへへ〜それほどでも」
「バカにされてんだぞ、お前」
「はぁ・・・」
半目のルークが照れるにつっこむ。
ため息をついたリオンは、とりあえず進むぞと声をかけ足を進めた。
暫く足を進めれば、本当に落ちているエンゲーブ印のリンゴ。
うわーマジであっちゃった、とルークが声を上げる。
リオンはげんなりしながらを見て――拾い食いする寸前で叩いてとめた。
「ったー。いーじゃん拭けば食べれるって」
「大丈夫じゃない。魔物が口に含んでいたらどうするんだ」
「うげぇ・・・それはやだ」
「つーか、拾い食いはやめろよ、拾い食いは」
リオンの言葉に顔をしかめる。
そんなにぺしっと裏手を入れてから、ルークは周りを見回した。
「ここら辺にいるのか?チーグルは」
「恐らくな・・・。見ろ。あそこの木になにかいる」
「ん?」
リオンが指差した大きな木に、ルークが顔を向けじっと目を凝らす。
もじーっと木を見た。
ぽっかり穴の空いた木の根元から、ちょろりと不思議な生き物が出てくる。
ルークとがあーーーー!!と大声をあげ指を刺した。
「見つけたぞチーグル!」
「血祭りじゃー!」
「落ち着け馬鹿ども!」
すぱぱーんと、リオンの平手が二人の頭に決まる。
いてーな!いてーだろ!と同時に頭を抑える二人を、リオンはしかめ面で睨み返した。
「折角見つけたにも関わらず大声を上げるバカがあるか」
「ここにある!」
「って胸張るなよそこで!」
「下手に特攻して傷をおったんじゃただのバカだバカども。警戒を怠るな」
「らーじゃ」
辛らつなリオンの言葉に、はだらりと敬礼する。
ルークはふてくされた顔で、ちぇっと地面を蹴った。
足音を立てないよう歩くことになれた二人とは裏腹に、ルークは気配を消すという芸当を見よう見まねで行いながらはさまれて歩く。
木のねぐらに最初に入ったのは、だった。
「二人とも大丈夫。チーグルしかいないよ」
「おー。・・・うわ。うっぜー・・・」
「ここまでいるとさすがに・・・な」
「みゅー!」
「みゅみゅー!」
わらわらとの足元に集っているチーグルたち。
通せんぼするように両手をいっぱいに広げている。
は早速しゃがみこんで、わーかわいーと眺めているが。
「、通訳」
「さすがに無理!!」
「ユリアの縁者のものか?」
「ユリア?・・・お前はチーグルの長か?」
「いかにも」
「おお!チーグルのじーちゃんだ!」
「おちつけっつーの」
奥に現れた髭面のチーグルを見て、が目を輝かせる。
リオンが突っ込む前にルークがぺしっとをたたき、ため息をついたリオンはの隣に並んだ。
「生憎僕らは・・・いや、僕とこいつは別の世界の人間だ。ユリアとやらは関係ない」
「てゆーか、ユリアってなに?ルーク知ってる?」
「え?えーっと・・・確かすげー人だった気がするけど」
「ユリアは我らと契約を交わし、第七音素を世で活用する基盤を作った者。人の間では聖女と呼ばれている」
「聖女?」
「まーさか、またけったいな神様がいるなんていわねーよな」
聖女と聞いて眉根を寄せるリオンと。
の言葉には、ルークがああーと声を上げた。
長のチーグルは、いいやと首を振る。
「世界の未来を読んだセブンスフォニマーじゃ。この世に予言を残した」
「せぶんすふぉにまー?」
「すこあ・・・?世界の未来とは、いったいどういうことだ。預言者かなにかか?」
「予言ってゆーのは、未来に起こること・・・確か星の記憶だっけ?その日の天気とか、その人の一生とか、そういうのが書いてあるんだと」
「予言ってこと?」
「うーん・・・予言・・・とはまた違うのか?なんか、絶対に外れないんだってさ。天気とかも予言にみんな書いてあるんだと」
年に一度俺も読まれてるんだぜ、と答えるルーク。
ふえーと間抜けに口をあけるの隣で、リオンが思い切り顔をしかめた。
「決められた未来・・・碌なもんじゃないな」
「そうか?当たり前にあったから、俺はそんなでもないけどなー」
「え〜。俺はやだな。絶対やだ。俺たちの未来はここから始まるんだからさ。な、リオン!」
「そうだな」
ぐっと両手を握って立ち上がる。
顔を合わせたリオンは、ふっと微笑み頷く。
ルークは二人を見てうらやましそうに目を細めてから、ふぅんと声をあげ頭の後ろで手を組んだ。
「運命を切り開いてきたんだもんな。そりゃそーか」
「そーだとも。それでいったらリオンは死なないとならないだろ?俺そんなの絶対やだ!」
「僕も自殺願望は無いからな。ごめんだ」
「つっても、こっちの世界じゃそれが絶対だからな。変えられないんだよ」
「変えようとしないんじゃなくて?」
くるりと振り向き、がルークに問いかける。
としっかり目があったルークは、うっと言葉に詰まると目を泳がせた。
「し、知らねーよそんなの!俺はずーっと屋敷に閉じ込められてたんだし」
「それもそっか」
「それにしても、例外はないのか?この世界は」
「さあ・・・聞いたことねーな。ガイなら知ってるかもしんねーけど」
「ガイって?」
「俺の世話係。兼親友」
の問いかけにルークが答えて、そのまま世間話に行きかける。
ルークの身の回りの話は後にしてだと、リオンがさっくり流した。
ルークはむっとし、はけらけら笑ったが。
「お前たちはそのユリアの縁者とやらを待っているのか?」
「いいや。そうでもない。お前たちは何の用が会ってここにきた?」
「あ!そうだ!お前らエンゲーブの食い物盗んでんだろ!正直に答えろ!!」
「ああ、我らがやった。しかしそれには理由があるのだ」
「あららあっさり見つかっちゃった」
「・・・で、その理由とは?」
『坊ちゃん完全流しましたねぇ』
呆れたようなシャルティエの声に、言葉通り話にならん、とイラついた顔で答えるリオン。
すいません、と素直に謝ると同じく、ルークも口をつぐんだ。
チーグルの長はため息をついてみゅうみゅう声を上げる。
何匹かのチーグルが、ぴょんぴょん奥に入っていった。
「我らの仲間の仔チーグルが、誤って北の森を燃やしてしまったのだ」
「マッチ売りの少女ごっこでもしてぶ!!」
「・・・うわぁ・・・」
「で?」
「その森に済んでいたライガたちが、この森に移住してきた。我らに食料を要求し、仲間もすでに何匹か食われてしまった」
「それでやむなく人里に手を出したというわけか」
長老の話に落ちをつけて、リオンはため息をつく。
ふーんが相槌を打ち、ルークはめんどくさそうに舌打ちした。
「ンなこといったって、結局はこいつらの所為だろ。じゃあ自業自得じゃねーか」
「まーそうだね」
「それで人間。我らを捕らえるのか」
「僕らには関係の無い話だ。こいつらが犯人を突き止めると聞かなくてここまできただけで、どうこうしようという気はない。その内村の者たちが来てなんらかの手を打つだろう」
「そう悠長にもしてられぬだろう。ライガはもうすぐ仔が出来る。ライガは人を食う」
「マジかよ!?」
長老の一言に、ルークが真っ先に声を上げる。
リオンとは、顔をしかめた。
「脅迫のつもりか?」
「事実を述べたまでだ」
「いけ好かないやり方ー」
「同感だ」
「お、おい、、リオン。どーすんだよ。なんかやばくねえ?」
「まあ、やばいっちゃーやばいね」
おろおろするルークに、はため息混じりに答える。
リオンが腕を組んで、やはりため息をついた。
「だとしても僕らには関係の無い話だ」
「おいリオン!関係ないっつーことはないだろ!?人が食われるんだぞ!」
「僕らが第一に目指さなければならないのは、ルーク、お前を無事に国に帰すこと。次に僕らが無事に僕らの世界に帰ることの二つだ」
「てわけで、あんたらは人間の変わりにライガに食い尽くされてよ。あんたたちの責任を人にまで押し付けるな」
「まで!」
「だって打つ手無しだろ?横から俺たちが入ったってどーしよーもないし、マルクトの軍が動くだろーしさ」
『も随分落ち着いたよねー』
「相棒の冷静さがちょっとは移ったかな」
くすくす笑うシャルティエに、は肩をすくませてからくすりと笑い返す。
お前らな!!とルークが大声を上げた。
「このまま放っておくつもりかよ!!」
「なら、お前はなにか策があると?」
「・・・」
「なにも考えないで思ったことだけを口にするな。口に出せば解決できることなんて、限られてる」
「・・・だからって!」
「魔物のことは、魔物のことっしょ。俺たちで出来ることなんて・・・そんな多くないよ、ルーク」
「・・・」
ため息混じりに言うに勢いがそがれたのか、ルークは肩を落として情けない声を上げる。
リオンがまたため息をついたところで、長老が声を上げた。
「彼らに森を移住するよう勧めれば、もしかしたら解決するかもしれない」
「僕らにそれをしろというのか?まったく関係の無い僕らに」
「・・・頼む。我々だけでは手に負えないのだ」
弱りきった声で言って、長老は頭をぐっと下げる。
よく倒れないな、とつぶやいたはリオンにどつかれた。
長老とたちをおろおろ見ていたチーグルたちが、次々に頭を下げ始める。
全部のチーグルが頭を下げるのを見て、ルークが居心地悪そうな顔でなぁと声を会えた。
「リオン・・・・・・」
「・・・はぁ」
「・・・どーする?坊ちゃん」
「坊ちゃん言うな。・・・まったく。こっちは他なんて気にしてる場合じゃないのに」
「!それじゃあ!」
「だが安請け合いはしない。それに、移住しろと言いに行くだけで済むと思っているのか。僕らを生贄にするつもりだというのなら、僕はライガを殺してお前たちも殺す」
「うんまあそれくらい許されるよねー」
「許されねーだろ!?」
「わールークナイス愛☆」
「愛はぬぇーーーよ!!!」
きゃは、とぶりっ子ポーズをとるを、ルークがべしっと叩く。
いたーいと頭を撫でるを白い目で見てから、リオンは長老に向き直った。
長老は、しばらくうろたえてから息をついた。
「ここから少し北に進んだところに、キノコロードという森がある。ライガクイーンは人の子供を育てたことがあるという。もしかしたら聞き入れてくれるかもしれん」
「無理だな。それとこれとは話が別だ。人と魔物は同じベクトルにいない」
「まー、やるだけやってダメだったら帰ってくるさ。ルークはお留守番ね」
「嫌だ!つーかなんで俺だけ!!」
「お前、自分の立場が分かってるのか?・・・ないだろうな」
「自己完結すんな!!」
心底呆れかえるリオンに、ルークが思い切り怒鳴り返す。
リオンははあとため息をつき、シャルティエにお疲れ様ですとねぎらいの言葉をかけられた。
「お前が敵国で怪我なんぞしたら、戦争が起こるといったはずだ」
「そ、それは・・・ほら、の回復唱術で一発!」
「レンズの数は限られているんだ。もしものときに使えなかったらどうする」
「っだーーー!!もう!!だったらどーしろってんだよ!!俺やだからな!こんなとこで一人で待ってんの!!」
「かわいーチーグルたちが漏れなくついてくるじゃん」
「いらねーよンな特典!!」
『稀に見るつっこみ体質だね。重宝されるよ』
「嬉しくぬぇーー!!!」
シャルティエの言葉が最後の一線を越えさせたのか、ルークの遠吠えが森中に響く。
やかましいとリオンがつっこみをいれ、誰の所為だ!!とルークが叫び返した。
顔を向けられたのは、だ。笑って誤魔化す。
ルークがの頭をぐりぐり拳で痛めつけている横で、リオンは改めて長老と向かい合った。
「本当に移住して欲しいというのなら、彼らに有利になる条件を付けろ。元はといえばお前の管理不届きだ」
「・・・うむ。少し時間をくれ。話し合う」
「例え僕らの説得が失敗しようとも、お前たちが根絶やしにされるのは時間の問題だということも忘れるなよ」
しっかり釘を刺して、リオンはさあ待つだけだと木の根に腰掛け一休みする。
ルークから開放されたは、いじめられたよーとリオンにすがり付いた。微妙に頬を赤くしながらあしらうリオンを見てルークが笑う。
ガイなる人物や音素についての話(そんなに詳しくない)、この世界の話などを三人でわいわいダベって暫く。
話し合いを終えた長老が、ライガに対する条件を言ってきた。
「・・・で」
「放火犯のチーグルを通訳としてもらっちゃったと。ぶっちゃけソーサラーリング奪ってとんずらしたほうが得だよね」
「お前ホントにか?実はの皮被ったバルバトスなんじゃねえの!?」
「失礼だなーー!!誰があんな肉だるまだよ!!」
「どっちも変わらん。厄介だ」
「なにおーこのストーカー仮面!!」
「ストーカーじゃない仮面から離れろ!!」
「お前ら少しは落ち着けよ!!」
「「お前(ルーク)にだけは言われたくない!!」」
「み、みなさん落ち着くですの」
「「「お前にも言われたくない!!」」」
「みゅみゅう〜・・・」
『三人とも、魔物呼んじゃいますよー』
お供のチーグル(不要)を手に入れ、ぎゃあぎゃあ進むたち。
シャルティエのつっこみで一旦は静まるものの、やはり段々とうるさくなっていく。
確実に魔物を集めながら、そして蹴散らしながら、たちは森の最奥に進んでいった。
ヒーローのいない物語