小高い丘に広がる、白い花畑。
月の光が花びらに反射して輝いている。
幻想的なその丘に、突如として光の筋が上がった。
光からは、二人の男女が現れ――というか、光の中にある魔方陣から、ぼとりと二人がおっこちる。
「いってぇ〜!」
「ぐっ・・・」
『二人とも、大丈夫ですか?』
「っなんとか・・・」
「だな・・・」
ごろごろ転がると頭を抑えるリオンに、シャルティエが声をかける。
はぁーと息をついた二人は、周りをきょろりと見回した。
「一体ここはどこだ?」
「さあ?わかんないけど――すぅーげぇー綺麗!なっ、リオン花畑!海見えるー!」
「・・・お前は呑気でいいな」
シャルティエの鞘に手を当てながら立ち上がるリオンとは裏腹に、はまったく警戒せず両手を挙げてがばーっと立ち上がりはしゃぎだす。
げんなりため息をつくリオン。
は気にせず、わーすごーいきれーいとはしゃぎながら花畑を駆け回った。
海に向かって走っていたは、ぴたりと立ち止まり一点をじっと見つめる。
周りをじっくり見回していたリオンは、そんなに気付くとどうした?と声をかけた。
「リオン、人が倒れてる」
「は?」
「男の子と女の子だ!」
たたたとまた走り出す。今度はすぐに止まった。
簡単に近づくな、としかめ面しながらリオンもスタスタに近づく。
おーいと声をかけながら、はぐらぐら赤毛の青年をゆすっていた。
うぅ・・・と青年がうめき声を上げる。
「怪我はないようだけど・・・一応ヒールっと」
「おい、しっかりしろ。大丈夫か」
「うっ・・・君は・・・」
「リオン女と間違えられてるよあはははは!」
「お前を見て言ったんだ!」
うっすら目を開けた青年の前で、早速をどつくリオン。
べしっと頭を叩かれたは、なにすんだい!と頭を抑えて叫ぶ。
自業自得だ単細胞なんだとプリーン!と騒ぐ二人を胡散臭そうな顔で見ながら、赤毛の青年はゆっくり起き上がった。
「おーい、お前ら、俺を無視してんじゃねーよ」
「チ――!へ?ああ、ごめんごめん」
「ああ、すまん」
「なんか・・・全っっ然謝られてる感じがしねぇ・・・」
青年に声をかけられて、は手を振りリオンはしらけ面しながら謝る。
顔を引きつらせる青年に、がけらけら笑った。
「お前、ここがどこだか分かるか?」
「どこ、って・・・どこだ?」
「君も知らねーの?」
「あ?知るかよ。俺だってわけわかんねーし。そいつが急に家に入ってきて師匠を襲って・・・」
「え、この子君の家に不法侵入かましたの?」
「不法・・・お、おう。そーだ。そいつ、家に不法侵入して、師匠を襲ったんだ。んで俺が師匠をかばってそいつの前にがばーっと出て木刀でぶつかったら、いきなり光って・・・」
「ほうほう」
「で、気付いたらここにいて、お前らがいたってわけ」
「へー。わけわかんないな!
「う、うるせえ!!」
笑顔で一気に落とすに、青年が真っ赤になって叫ぶ。
始終呆れ顔していたリオンは、はあ、と息をついて頭も落とした。
「それじゃあ、お前もここがどこだか分からないんだな?」
「わかるかっつーの。つーか、お前らこそわからないのかよ」
「んー。それがわかんないんだよねー。俺らも急に・・・?リオン、俺らどうなったの?」
「そこら辺を深く突っ込むと連載の方に関わる。いるものはいるのだからしょうがない。いると言っておけ
そっか!じゃ、気付いたらここにいた!」
「いーのかよ、それ・・・」
腕を組んで適当なことを言うリオンに頷き、は笑顔で青年に言う。
顔を引きつらせつっこむ青年には、やはりけらけら笑いながらいんじゃね?とが適当に返した。
「あ!そーだ俺!で、こっちが相棒の」
「リオン・マグナスだ」
「で、君は?」
「俺は・・・ってちょっと待てよ?とリオン・マグナスだぁ?」
ちゃかちゃか自己紹介を済ませるに、答えようとしていた青年が怪訝な顔をする。
はきょとんと首をかしげ、リオンは、訝しげな顔で青年を見返した。
青年は、じろじろ二人の顔や格好を見る。
「白い胸までの鎧、黒のタンクトップにパンツスタイルで・・・お前、、カトラス持ってっか?」
「うん?持ってるけど。ほら」
「ぉお。んじゃ、もしかしてリオンの方は、シャルティエ持ってたりして・・・」
「ソーディアンを知ってるのか?」
『綺麗な身なりしてますし、貴族じゃないんですか?それなら知ってても不思議じゃないですよ』
「あ!もしかして今喋ったのシャルティエか!?」
「シャルの声が聞こえるのか?」
「わー。じゃあ君もソーディアンマスターの素質持ってるんだ」
キラキラ目を輝かせる青年に、リオンもも驚く。
リオンがシャルティエを青年の目の前に出せば、青年はすげーこれがソーディアンシャルティエか、とシャルティエをじろじろ見た。
シャルティエは、かしゃりとコアクリスタルをあける。
『始めまして。ピエール・ド・シャルティエ・・・今はソーディアンシャルティエ、かな?よろしく』
「うわーすげー!本物初めて見た!ってことは、もしかしてここって運命という名の物語の中!?」
「「運命という名の物語?」」
興奮して騒ぐ青年の言葉を聞いて、もリオンも首をかしげる。
ああ!と青年は機嫌良さそうに頷いた。
「俺の世界・・・っていえばいいのか?そこですっげー人気の物語なんだ。英雄スタン・エルロンを主人公にした超大作!」
ス、スタンが主人公だって!?
終わりだ・・・世界の終わりだ・・・
「どうしようリオン!フォルトゥナが復活したのかも!!」
「おーい。ないない。ないから」
響きすぎだぞーと青年に声をかけられ、ナイスつっこみーとは両手を挙げる。
青年は乗りよくいえーいとあわせてきた。
そのまんまだー!とその後爆笑し始める。
一緒に笑っていたとは裏腹に、リオンは思い切り眉根を寄せた。
「それは、本当に実在する物語なのか?」
「ああ。みーんな読んでる人気の小説だぜ。天上王ミクトランを倒す第一部、スタンとルーティの息子カイルを主人公にした神をぶっ倒す第二部、それからとリオンを中心にした第三部が今連載中なんだ」
「ぉお!今度は俺らが主人公だって!」
「はしゃぐな。お前、僕らのことをどこまで知ってる?」
「どこまでって・・・物語に乗ってたことくらいだな。ソーディアン持ってることとか、いっつも二人で漫才してることとか、リオンがに惚」
わーーー!!!
「リオンが俺にほ?」
「お前は気にするな!!」
「へぶぁ!!」
青年の言葉の途中で大声を上げたリオンは、首をかしげるを思い切りシャルティエでどつく。
地面にべしっと潰れたを見て、青年がうわぁと顔を引きつらせる。
ぜはーと息をついたリオンは、わかった、と赤い顔ながら頷いた。
「それで・・・というか、少し落ち着く必要があるな」
「落ち着いてねーのはお前だけだろ」
「やかましい!!とにかくだ!僕はこんな花見たこともない。こんな見晴らしの良い丘もだ」
「いたたぁ・・・。もう、白い花なんてどっかそこらに咲いてるじゃん。丘なんてどこにでもあるしさぁ」
「僕らは世界中を旅してきたんだぞ。夜にこうして咲く花はそうそうない。似たような花を見たことはあるが、ここまで群生して夜間に咲く花など・・・」
「早とちりとかじゃなくてか?」
「勘でしかないかもしれんが、違う気がする。、お前はどうだ」
顎に手を当てながら眉根を寄せていたリオンが、未だ頭をさするに問いかける。
は口を尖らせリオンを睨んでいたが、問いかけられれば周りを見回す。
すくっと立ち上がると、手を広げて深呼吸した。
「すぅ〜〜〜、はぁ〜〜〜。うーん、なんか空気が違うね」
「空気・・・さすが野生児」
「うっさーい!ホントになんか違う感じがすんだよ!なんてーか、いつもと違うっていうか、なんか別のものがあるような・・・」
「抽象的過ぎて分からんな」
「自分から振っといてコノヤロー!!」
期待はずれだといわんばかりにため息をつくリオン。
ぶんぶん腕を振ってが攻撃するが、リオンは簡単に両手を掴んで二人で押し合いが始まった。
最初こそ笑っていた青年が、おーいいい加減にしろーと声をかけてくる。
それもそうだと二人ともじゃれるのを止めた。
「とりあえず、移動する?」
「そうだな・・・夜に動くのは危険だが・・・賊のいるここに留まるのも気分が悪い」
「賊って・・・確かに不法侵入かましたけどさ。こいつどーすんだ?おいてくのか?」

「へーい」
座ったまま首をかしげる青年には答えず、リオンは顎でしゃくるだけだ。
適当な返事を返したは慣れたように剣を引き抜き、ざくっと転がっている女の子の腕を切った。
ぱちりと女の子が目を覚ます。
「――!!」
「ピコハン!」
「相棒ナーイス」
「お、お前ら!なにやってんだよ!?」
「下手に攻撃される前にこうでもしておかないとだろ?殺さないから大丈夫大丈夫。足も切っちゃう?」
「腕一本で十分だ。放っておけ」
行くぞ、とリオンはシャルティエを鞘に戻し、くるりと踵を返す。
おーと腕を上げたもカトラスに付いた血を払うと、鞘にしまった。
おい!と青年は叫んで立ち上がり、女の子とたちをきょろきょろ見る。
「どうした?」
「ど、どうしたもこうしたも!こいつこのままじゃ死ぬぞ!?」
「ほーっときなよ。運がよければ補導されるから」
「どこもよくぬぇーだろ!!」
「罪人に人権などない。本来ならば憲兵にでも突き出すところだが・・・生憎それだけの余裕もないからな。殺さないだけマシだろう。ここが僕らの世界なら、誘拐犯なんて即死刑だ」
「で、でもっ・・・っておい!」
どーんとに背中を押されて、青年はおろおろしながら叫ぶ。
ははいはいいーからいーからと青年を押して歩く。
リオンも、ため息をついて歩き出した。
「お前らそれでもセインガルドの剣士かよ!?」
「剣士だからこそ、だ。いいか?あいつは他人の家に不法侵入した挙句、お前のセンセイとやらに攻撃を仕掛けた殺人未遂の凶悪犯だ。さらにはお前を誘拐し、こんな偏狭の地につれてきた」
「十分重罪だよなー」
「重罪だって・・・でも・・・」
「頭を使え。そんなことを平気でするようなやつだ。何を仕出かすか分かったもんじゃない。こちらの安全もそうだが、恐らく失敗したときのために色々と策も練ってあるだろう。失敗したためかは知らんが、誘拐までするような女だからな。準備も怠ってはいないはずだ」
「君誘拐されたんだろ?早く離れた方がいいっての」
ねー、と言いながらは青年の背中を押す。
二人に諭され、青年は渋々ながらも自分で歩き出す。
真っ暗闇ーと駆け出すをリオンが騒ぐな!と引きとめ、不安ながらもを先頭に、青年を挟んで二人で道らしき道を歩いた。
「あ、魔物発見!」
「どうやらテリトリーに入らなければ攻撃は仕掛けてこないようだな」
「わー見たことない子だー」
「・・・って言ってる傍から近づくな!!」
「お前、すっげー苦労してそうだな・・・。知ってたけどさ」
たかたか走っていくに、リオンは顔を引きつらせながらつっこみを入れる。
青年に同情された目で見られて、リオンははぁーとため息をついた。
魔物の近くまで行ったは、に気付き戦闘態勢に入る魔物の前で呑気にしゃがみこむ。
膝の上に両手を置いて顔を乗せ、じーっと魔物と見詰め合ったはへらりと笑った。
「攻撃しないから、大人しくしててねー」
「魔物が聞くかよ」
「放っておけ。あいつならなんとかなる」
「いいのか、それ・・・あ、襲われてる」
「っにゃーー!!」
イノシシに似た魔物がに突進を始める。
両手を挙げてさっとジャンプしたは、もう、と腰に手を当て息をついた。
もうじゃない、もうじゃねーよ、とリオンと青年の声が被る。
また魔物がに突進したが、はひらりと避けると魔物にけりを入れてさっさと逃げてきた。
様無事きかーん!」
「この馬鹿!」
「いてぇ!!」
「近づくなと言った傍から近づくな!」
「近づくななんて一言も言ってなーいじゃーん。テリトリー入らなきゃ攻撃されないっていっただけじゃーん」
「屁理屈捏ねるなどあほうが!」
叩かれた頭を抑えながら言うに、リオンがもう一撃食らわせる。
いーたーいー!と騒ぐをぐいと引っ張り、リオンはさくさく歩き始めた。
青年は、呆れ顔してついてくる。
「お前ら、ホントいつもこんななんだな」
「うるさい。言って治るなら苦労なんてしてない」
「なんだよー楽しいだろー」
「お前だけな」
「そーいえば、君の名前は?聞いてなかったな!」
「この・・・!」
「・・・。謝った方がいーんじゃねーのか?」
ぐっと拳を握るリオンを見て、青年が半目になりながらつっこむ。
は首を傾げてから、リオンの頭をぽすぽす叩いた。
リオンはげしっとを蹴る。
そのまま始まる二人のじゃれあいは、はいはいやめると割って入った青年により止められた。
「あー、俺はルーク。ルーク・フォン・ファブレだ」
「フォン・・・ということは、やはり貴族か」
「空気違うもんなー。俺と」
そうだな
「力いっぱい肯定すんな!」
「事実だろうが」
「なにおーこの成り上がり!」
「成金はヒューゴだ!」
『ぼっちゃーん。〜?ルークさん呆れてるよー』
また始まるやりとりに、シャルティエがいち早くつっこみを入れる。
助かる、と手を上げるルークにどーいたしまして☆と気軽に返すシャルティエに、もリオンもチッと舌打ちした。
「それで?お前はどこの国の出身なんだ」
「キムラスカ・ランバルディアっつークソ長ぇ名前の国。首都バチカルに屋敷があるんだ。公爵家で、俺は第三王位継承者だな」
「第三王位継承者!?」
「三番目の王様ー!?」
『三番目に王様になれる人のことだよー
「はっ!・・・じょ、じょーくじょ〜〜く!」
「ぜってー素だ」
シャルティエにつっこまれ笑いながら手を振る
ルークがずばっとつっこめば、リオンがため息をついた。
ということはだ、とそのまま声を上げる。
「クーデターが起きた、ということか・・・厄介な」
「くーでたー?」
「んー。王様のやりかたが気に食わなくて、武力とかで無理やり政権を変えちゃおー!って動くことかな」
「第三王位継承者の誘拐となれば、相当国が荒れるぞ。お前を餌に王家を脅そうとしていたのかもしれないな」
「げっ・・・マジかよ」
リオンの一言に、ルークが顔を引きつらせる。
ありえるねーとが頷けば、マジで?ともう一度口に出した。
マジだ、とリオンが頷く。
「にしても・・・まさか王族とはな」
「この場合、俺たちかしずくべき?」
「必要があれば先に不敬だと言われていただろう」
「「へー。そーゆーもんなんだ」」
「・・・単なる世間知らずか・・・?」
とハモるルークを、リオンが思い切り怪訝な顔で見る。
ルークはむっと顔をしかめた。
「しょーがねーだろ。俺、7年前にマルクトに誘拐されて、そんとき全部の記憶失くしちまったんだからさ」
「へー、記憶喪失ってやつ?」
「記憶障害だと。文字どころか歩き方すら忘れて、赤ん坊みたいだったみたいだぜ。お陰で、いままでずーっと家に軟禁だ」
「うわ〜すげぇ〜。じゃ今6歳くらいってことじゃん」
「精神年齢はともかくとして、マルクト、というのは敵国のことか?」
「む・・・まーいいけど。マルクトっつーのはキムラスカの他にある国のこと。オールランド・・・俺のいた星の名前だな、そこにはキムラスカとマルクトしか国がなかったから、喧嘩するっつったらマルクトくらいなんだ。なんか昔ホド戦争とかいうのがあって、未だに仲が悪いって聞いたぜ?」
「国が二つしかない!?」
「それは・・・すごいな。僕らのところも、国として機能しているのは3カ国程度しかないが・・・」
ルークの言葉に、もリオンも驚く。
そうかぁ?とルークはぽりぽり頬をかいた。
「お前らのところは・・・えーっと、セインガルドに、ファンダリアに、あとジョニーがいるアクアヴェイルだっけ?」
「よく覚えてるな」
「へへっ。暇だったしな。あの話は何度も読んだんだ!」
スタンが飛行竜に無断乗車した時点でまずありえねぇしさ〜とにこにこ楽しそうに話し出すルーク。
はへ〜スタン間抜け〜あーそんなこともあったー!と、一緒になって話している。
リオンは、二人の横を歩きながらため息をつき、周りに魔物がいないか確認しながら丘を下っていった。
丘の終着点に付きかけたころだった。
ヒイィ!という悲鳴が聞こえて、たちは立ち止まる。
「お、お助け〜!命だけは〜!」
「は?」
「もしもーし。どうしたんですか?」
「ヒッ!こここないでくれ!!」
「落ち着け。僕らは危害を加えるつもりはない」
どうやらたちに脅えているらしい男に、リオンが不機嫌に声をかける。
坊ちゃんそれじゃあますます脅えるって、うるさい、と二人がつっこみあっていれば、落ち着いたのか、男がほーっと息をついた。
「あんたら、噂の漆黒の翼じゃあないのか?」
「漆黒の翼?なんだそれ?」
「有名な盗賊さ。女一人に男二人って・・・」
「ああ、ちょーど俺らだね」
「下賎な賊と一緒にするな。こいつは貴族で、僕とこいつは剣士・・・こいつの護衛だ」
「な、なんだよ・・・脅かすなよ・・・」
じろじろ三人を見て、また男は息をつく。
は変なのーと余計な一言を言ってから、なあなあおじさんと男に声をかける。
男は、なんだ?と子供そのままのにすっかり警戒心を解き、普通に応じた。
「ここってどこだか分かる?」
「なんだ?お前さんら迷子なのか」
「・・・こいつが記憶障害をわずらってから、過保護な親に7年間屋敷に軟禁されてたんだ」
「それで、俺たち抜け出してきちゃったってわけ!でも適当に歩いてたら分けわかんないところにきちゃってさ〜」
「あのなぁ・・・記憶障害わずらったってーのは同情するけど、少しは計画性持ったらどうなんだ?そんなじゃすぐ捕まっちまう」
「あはは!俺たちよく捕まんなかったよねー」
「・・・ホントびっくりだ。お前らに」
色々な意味で、とルークが腕を組みしらけ面する。
にやっと笑うのはで、リオンも目を細めふっと笑うと男と向き合った。
「それで、ここがどこだか教えてもらえれば助かる。食料もなにもなくなってしまったんでな」
「・・・あんたらホントよく生きてこられたな。ここはタタル渓谷だ」
「「「タタル渓谷?」」」
「・・・はぁ。本当に、どうやってここまで生きてこれたのか」
首をかしげる三人に、男が馬車から荷物を持ってくる。
ランプに火をともし、男は地面に地図を広げた。
「いいか?ここが今いるタタル渓谷。お前さんらどこからきたんだ」
「これは・・・」
「てゆーか、字読めないんだけど」
「「はあ!?」」
地図を見て目を丸くするリオン。
が首をかしげながら声を上げれば、ルークと男が思い切り叫んだ。
おいおいマジかよ!とルークが叫び、男も信じらんねぇな、と首を振る。
「・・・いや、僕らはド田舎からこいつの屋敷に引っ張られたからな」
「えっと、剣の腕だけでかわれたんだ。三食おやつつき!」
「それをゆーなら昼寝つきだっつーの」
「文字の勉強より先に、ヤギの焼印の押し方だの魔物の討伐の仕方だのを学んでいた。・・・から」
「あー、わかったわかった。兄ちゃん、あんたは読めるんだろうな?」
「さすがに読めるよ」
貸してみ、と地図をじーっと見つめるに、ルークが手を伸ばす。
はい、とが地図をずらせば、ルークがいいか?と声を上げて地図を指差し始めた。
「ここが今いる場所な。で、ここがケセドニア。ここがグランコクマ、ここがエンゲーブ。ここがセントビナー、アクゼリュス。で、ここがカイツール。こっちきてここがバチカル。ベルケンドで、ここがシェリダン。ここがダアトで、ここがケテルブルクだな」
「まぁ、主要の街はこんなもんだ。あんたら二人はどこから来た?」
「・・・どこだと思う?」
「・・・さあ?」
「・・・ま、仕方ないわな」
本気で眉根を寄せて問いかける。しらけた顔で小首をかしげるリオン。
ルークは呆れ返った顔で二人を見てから、はあとため息をついた。
男もため息をつく。
「なんかほっとけないから、ついでに乗せてってやるよ」
「ホントか!?」
「ラッキーおじさんありがとう!」
「なに、放っといて野たれ死にました、じゃあ俺の夢見が悪いったらないからな。どーせ行き先なんて決めてないんだろ?」
「ああ、そうだな。恩に着る」
「・・・ホント教養ないのかねぇ」
「リオン、お前暫く喋るな」
「それがいい」
軽く会釈するリオンを見て、男が訝しげな顔をする。
とルークが小声でリオンに言った。言われたリオンはしかめ面だ。
ほら立った立ったといわれて、三人とも立ち上がる。
もう一枚地図持ってない?と問いかければ、それをくれてやると適当に手を振られてしまった。
「おっさんはどこに向かうんだ?」
「そりゃあもちろん、ピオニー陛下のいる首都グランコクマだとも」
「グランコクマぁ!?え、えーっとぉ、ケセドニアとか、いかないかなぁ〜?なーんて・・・」
「なんだぁ?あんたグランコクマから抜けてきたのか。はぁー、ケセドニアからこっちに来たからねぇ。じゃ、エンゲーブまで連れてってやるよ。そこで食料買い集めて、ケセドニアに向かったらいい。ロールテロー橋をわたりゃあすぐだからな」
「なんだよ、ちょっと戻るだけじゃん」
「こっちも仕事なんでね。我侭言うならおいてくぜ」
「ルーク、ここは素直にエンゲーブ?まで乗せてもらおう。折角の好意なんだからさ。おじさんよろしく!命の恩人だよ!」
「ちぇ」
ぽんぽん肩を叩きながらルークを宥めて、は明るく男を煽る。
ふてくされるルークに気付かず、男はなーに困ったときはお互い様よ、と機嫌よく返してきた。
三人が馬車に乗れば、早速馬車は走り出す。
ルークは、物珍しそうに外を見た。
「すげぇー。俺海って初めて見た」
「バチカルって海沿いにあるけど、家から見えなかったんだ?」
「あー。なんか高い塀に囲まれてたからな。いくら抜け出そうとしても全然逃げらんねぇし」
「それよりもだ。・・・、どうやら世界を超えたのはルークでなく、僕らみたいだぞ」
「・・・ははは。まさかーとは思ってたんだけどさー。二度目じゃん俺」
「そっか。は異世界から来たんだっけ」
未だに地図と睨めっこしていたリオンが、声を潜めて言う。
はしらけた顔で遠い目をし、ルークがを見ながら頷いた。
そこまで乗ってるんだー、乗ってたぜー色々、と脱線し出す二人を、リオンが睨む。
怖い顔するなよと、は苦笑いして手を振った。
ちらりと運転している男を見てから、さっと身をかがめる。
リオンも少しだけ身をかがめた。
「それで、どーしよっか」
「お前のようにもとの世界で死んだ、という記憶はない」
「俺も最初はなかったけど」
「・・・僕は死んだという核心が持てない。僕らは死んでない。前と今とじゃ違うだろう」
「・・・そーだなぁ。未練も後悔もなかったというか、離れて当たり前って感覚だったし、死んだときとはなんか違うし。だから、多分違う」
「じゃあ、帰り方を探すって事か?」
「それしかないだろう。いつまでもこちらにいるわけには行かない」
やリオンと一緒になって身をかがめるルークに、リオンは息をつきながら頷く。
そっか、とちょっと残念そうなルークを見て、がくすりと笑った。
それでだ、とリオンが体を上げる。
とルークも体を上げた。
「ルーク、お前が知っている限りでこの世界のことを教えて欲しい」
「この世界のこと・・・っつわれても」
「うーん。じゃ、ここの街はこれが名産!とか?」
「そ、そんなん一々覚えてねーよ。まぁ、とりあえず教えれることは教えるけどさ」
「・・・不安も多々あるが、頼む。寄生するようで気分が悪いが、今の僕らはお前だけが頼りだからな」
厄介なことになった、と外を見ながらため息をつくリオン。
ルークは、キラキラ顔を輝かせていた。
「お、おう!任せとけよな。なんでも俺に聞けよ!」
「なんか、カイル並みにテンションあがったな」
「う、うるせーな。ほっとけよ」
「でだ。今から向かうエンゲーブというのは・・・確かここだったか」
「ああ、そうだぜ。・・・つってもどんなとこか全然知らねぇな。マルクトの領地内ってくらいだ」
「どこからがマルクトの領地だ?」
「えーっと確か・・・」
地図を広げて問いかけるリオン。
ルークは顎に手を当てながらここからこーでと地図を指差していく。
暗い中、三人はじっと目を凝らして地図を見た。
「うう〜なんか曖昧だなー記憶。こんなことになるなら、もっと勉強しとくんだった・・・」
「本当にな」
「うるせえ!もう教えてやんねーぞ!」
「まーまールーク、リオンの嫌味は愛情の裏返しだから」
「違う」
「あっはっはっ。俺ら何も知らないしさ、教えてもらえるの助かるし。知らないなら俺らと一緒に勉強してきゃいーじゃん」
な!と言いながら肩を叩く
いて、と声を上げたルークは、肩をさすりながら気の抜けた顔で息をついた。
「なんか、ってすっげー前向きだな」
「そう?」
「うん。なんか俺まで前向きになってきた」
「・・・それがこいつのとりえだしな。まぁ、それしかとりえがないとも言えるが」
「なんだとー!ネガティブリオンよりマシだっつーの!」
「やかましい!ネガティブ言うな!」
「お前ら静かにしろよ。声響いてるぞ」
ぎゃいぎゃい騒ぎ出す二人に、ルークが呆れ顔しながらつっこむ。
はばふっと両手で口を塞ぎ、リオンははぁーとため息をついた。









やがて僕らは交錯する未来へと迷い込む