雨の日以外は、恭弥がしょっちゅうを起こしに来る。(そしてそのままベッドで寝る/単に寝たいだけらしい)
放課後何もないときは、ツナたちが遊びにきてゲーム大会。(引きこもり仲間ツナはゲーマーだ)
土日はミツコさんは休暇でいない。(年休は130日だとか/いい仕事だ)
下手したら一日一度はマフィアと喧嘩。(奇跡的に負けなしで時折リボーンが助けてくれる/腹の立つことに)
そんな日常が当たり前になって来ていた。
ただいま奥の部屋で銃の練習中。
気が向いたらこうして撃っている。ボロボロになった的はミツコさんが定期的に変えてくれる。
右手、左手と練習していると、ガチャリと扉が開いた。
「こんなところにいたんだ」
「よー恭弥。どうやって入ってきた」
すんなり入ってくる恭弥に、はチャキっと銃を向ける。
インターフォン鳴らしても出ないから窓から、とさらりと答える恭弥に呆れた顔を作ってから、くすくす笑って悪いな聞こえなかった、と銃を棚に置いた。
「へぇ。本物だ」
「おう。色々あるぞ」
答えつつは鞭をビシッと床に当てる。
それは危ないから止めておいた方がいいと思うよ、と言われて笑いながら戻した。
銃を構えて、恭弥がガゥンと撃ち込む。
しかし当たったのは壁。
無言になってから、ガゥンガゥンと八つ当たりのように連続で撃ち始めた。
「アーホ数うちゃあたるでやるなっつーの。つーか肩壊れる」
「当たればいいんだろ要は。大体そこまでヤワじゃない」
「外したからってやけになるなよ」
ケラケラ笑いながら銃を取り上げようとするが、まったく離さない。
あーあとため息をついてから、こここうやって焦点合わせて肩こうして、と流れで指導。
後ろから抱きかかえるように形を作って両手を銃に添えさせると、こうやって教えてもらったの?と問いかけられた。
「いや、本渡されてそれ見て覚えろって言われた」
「随分適当な先生だね」
「先生じゃねーしな」
時折気付けば部屋の中でくつろぎ、戦い方やらなにやら話してのんびりお茶してから去っていく。
言わずもがなでリボーンだ。
体を離して撃ってみな、と言うと、今度はど真ん中に的中。
ありえなくね?と顔をしかめると、これくらい軽いね、としらけた顔で言った恭弥は今度は片手でど真ん中に命中させた。
嫌味くせーなと言いつつリビングに出る。
円のソファに座ると、恭弥も部屋から出てきた。
「で?どうしたんだよ」
「夕飯貰いに」
「・・・金取るぞ」
飄々と言って半円のソファに座る恭弥に、は呆れ顔してつっこむ。ちなみにミツコさんが居るのは主に午前中だけ。時折の買ってきた本を読んでごろごろしては、ついでに夕食を作ってくれる。ので夜は自炊か買いだ。
外を見ればもうすっかり暗くなっていた。
遊びすぎたなと煙草に火をつける。恭弥はテレビをつけていた。
「今まで風紀の仕事をやってたんだ。呼ばなかっただけ感謝しなよ」
「へいへいそりゃどーも。あー。もうどっちの料理ショーやってる時間だし・・・」
テレビの方に体を向けて両腕を床につけると、はげんなりしながら煙を吐く。
臭い、と言われたが、ごめーん、の一言で流しておいた。
「あー・・・うまそー・・・」
「何か作って。お腹すいた」
「オメーはどこの坊ちゃんだっつーの」
「雲雀家の坊ちゃんだね」
さらっと返してくる恭弥に、うわーとは声を上げる。上げつつ視線はテレビの中に。
じっとテレビを見ること三十分。は立ち上がった。
「恭弥。ラーメン食い行くぞ」
「君って影響されやすい人だね」
「変わりに順応性は高い」
どっちの料理ショーで上げられていた題材はラーメン。
金庫に金を取りに行くと、後ろからワオ、という声が聞こえた。
「って実はお金持ちなわけ?」
「まぁしょっちゅうマフィアぶっ倒してるからその分の報酬」
「のわりにケチだよね」
「元々貧乏出身なんだ」
ガチリと金庫を閉じて、さっさと行くぞと立ち上がる。二人とも学校帰りの学生服のままだ。
冷えるから上着ていったほうがいいよと言われて、は学ランを羽織った。
やはり恭弥のバイクで移動。
ここ美味しいから、と言われて、わーいと言いながら中に入った。
入れば恐縮する店長。はしらけた顔で恭弥を見る。
「もちろん奢りだろ?」
「まー。さんケチじゃないから」
「時折ね」
憎まれ口をたたきつつラーメンを食べる恭弥少年。
じろりと睨んでから、もラーメンを食べた。
雲雀恭弥は学校を終えた後、委員から聞いた不良のたまり場へいって群れている不良たちを噛み殺してきた。
ぶらぶら歩いていると、公園から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
普段着(珍しく女らしい)を着たが、買い物袋を横において子供達と笑っていた。どうやら遊んでいたらしい。
「またね!」
「ばいばい!」
「おー。気ぃつけて帰れよー」
手を上げる子供たちの頭を撫でて、は立ち上がる。
にこにこ笑っているを見て、雲雀は眉根をよせた。
「案外人気者なんだな」
「・・・なんだよ」
別のところから声が掛かる。
いつの間にやら、の後ろに赤ん坊が立っていた。
赤ん坊の声がするとともに、は笑みを引っ込める。
口をへの字にして眉を上げたはめんどくさそうな顔になるとため息をついた。
「最近どうだ」
「相変わらずだ」
「学校にも行ってるようだな」
「暇つぶしにな。そろっとめんどくせーけど」
「素直じゃねぇな。心配しなくともマフィア連中は学校まで追わせねぇよ」
「・・・。どうだか」
にやりと笑う赤ん坊を冷めた目で見て、はそっけなく返事を返す。
ふっと息をついた赤ん坊は、ついでなら送れ、と言ってひょいとの腕に乗った。買い物袋を持っていたは、思い切り顔をしかめて赤ん坊を見る。
こんな赤ん坊を一人で帰す気か?と言われて、はため息をつきながら歩き出した。
「なにがこんな赤ん坊をだクソチビガキ」
「あれ、?リボーン?」
たちが公園を出たところで、つんつん頭の少年が現れる。
は少年を見ると、にっこり笑みを浮かべて丁度良かった、と明るい声で言った。
「ほれ」
「うわ!」
「そいつお前ン家にいるんだろ。連れて帰れよ」
「途中で投げ出す気か?」
「家主が来たならいいじゃねーか」
目を細めて投げた赤ん坊を見ると、はさっさと歩き出す。
赤ん坊を抱えた少年は、おろおろと赤ん坊を見た。
「全てを教えてやろうか」
「・・・」
唐突な赤ん坊の言葉を聞いて、が立ち止まる。かなり怪訝な顔をして。
赤ん坊は少年の腕の上に座り直した。
「お前も随分落ち着いてきたしな。そろそろ教えてもいいと思う。どうだ。真実を聞く覚悟はあるか」
「・・・」
真実と聞いて、目を細めると同じく雲雀も目を細める。
は息をつくと、赤ん坊に体を向けた。
赤ん坊は帽子を掴んで口を開く。
「お前をこちらの世界の呼んだのは確かに俺だ。でも、結局お前はこちらの世界に飛んでくることになってたんだぞ」
「え?どういうことだよ」
顔をしかめるの変わりに、少年が驚きながら赤ん坊に問いかける。
雲雀も顔をしかめた。世界だのなんだの訳が分からない。
赤ん坊はと目を合わせたまま、言葉を続ける。
「異世界から飛ばされてくる人間は百年に一度選ばれる。誰になるか、どんな基準で選ばれるかはわからない。お前じゃなかったかもしれない」
「それじゃじゃなくとも・・・」
「でもお前が選ばれた。結局どうあがいても、遅かれ早かれお前はこちらに来ることになっていた。偶然俺がボンゴレのヒットマンで、過去に選ばれた人物がボンゴレに入ったから呼び出す方法が分かったんだ」
赤ん坊の話を、は静かに聞いている。
異世界と聞いて雲雀は目を見開いた。
それが本当なら、今までが説明を濁した部分の意味が分かる。
赤ん坊はさらに話を続けた。
「時が来れば、選ばれたお前はこちらに来るはずだった。それを俺は早めた。けど・・・自動的に飛ばされた場合、道も作られていない中を通った人間は物理的にも精神的にも圧迫され、下手したら死に至る。大半は大怪我ですんだらしいがな」
「え・・・!?」
赤ん坊の言葉を聞いて、少年がやはり驚く。
は益々目を細めた。
「あの魔方陣が作られたのは今から四百年前だ。自動的に飛ばされてきた人物が帰る方法を探して編み出したといわれている。初代ボンゴレは何らかの方法でそれを知り、そしてボンゴレファミリーにしか解読できない方法で残しておいた。ぶっちゃけた話マフィアじゃなくとも、異界の民を手に入れた人物は世界を制することすら出来るといわれている」
赤ん坊の言葉を聞いて、少年がえ!?と声を上げる。
は素直に顔をしかめた。
「それぞれの時代、英雄や王が異界の民を手に入れたといわれてる。実際歴史に残る人物の何人かは異界の民を手に入れてるとさりげなく明記されてる。イギリスのアーサー王なんかもそうだぞ」
「・・・」
「王やなんかが居なくなってからは、主にマフィアの間で異界の民は取り合いになった。だから異界の民の話を知っているのはマフィアたちだけだ。ただし・・・異界の民の恩恵を受けられるのは、異界の民が選んだ者だけ」
「それで?ツナと俺を引き合わせたって訳か。その話を教える前に」
「まぁ、そんなとこだな」
冷めた表情で問いかけるに、赤ん坊はさらっと答えて帽子を被りなおす。
「信じるも信じないもお前に任せる」
一言言うと、それ以降赤ん坊は喋らない。
暫くは赤ん坊とじっと目を合わせた。
少年は二人をおろおろしながら見ている。
「あ・・・あの・・・」
「・・・はぁ」
少年がおろおろしながら声をあげると、がため息をついて頭を降ろす。
口の端を上げたは顔を上げて、少年の頭をくしゃくしゃにした。
「お前が気にすることじゃない。まぁ、もうどうでもいいわ。どうせもう帰れねーんだろうし」
「・・・まぁな」
の言葉に、帽子を深く被りながら赤ん坊が答える。
赤ん坊を呆れた表情で見ると、はとす、と赤ん坊にチョップを入れた。
「恩なんて感じねーからな」
「分かってるぞ。そんくれーの方がお前らしくていい」
「ハッ。ナマいいやがってクソチビガキ」
眉根を寄せながら笑みを浮かべたは、赤ん坊の頭を押す。
なんだか困った顔をしている少年を見ると、は苦笑いした。
「アホな心配してんなよ」
「・・・」
「じゃーな。気ぃつけて帰れよ」
子供たちにやったのと同じように少年の頭を撫でて、はすたすた歩き出す。
少年の肩に乗っていた赤ん坊が、顔を上げた。
「」
口から出たのは聞き覚えの無い名前。
しかしは振り返った。
「俺はオメーをボンゴレから出す気はねーからな」
「フン・・・勝手に言ってろよ」
目を細めて冷めた笑みを浮かべると、はまた歩き出す。
呆然としながらを見送った少年は、さっきのってなに?と赤ん坊に問いかけていた。
赤ん坊はまた帽子を深く被りなおすと、さっさと帰るぞ、としか言わない。
ため息をつくと、少年も歩いて消えていった。
「・・・」
しばらくぼーっとしてから雲雀は歩き出す。
歩いてついた先はのマンション。
もう何度も来ているので管理人には顔パスだ。(そうでなくとも入れるが)
エレベーターで最上階へ昇って、一つだけある扉。
インターフォンを押すが、暫くたっても何も起きない。
もう一度押すが、やはり無反応。
ため息をついてくるりと踵を返した雲雀は、また体を回した。
向かったのは屋上。
初めてこのマンションに入ったときつけたロープはそのまま放置されている。これでしょっちゅうの家に侵入している。
手際よくベランダに下りると、暗い部屋を見回した。
電気もつけられていない部屋。だが、カウンターには買い物袋が置いてある。
窓に手をかけると、簡単に開いた。
靴を脱いで中に入ってみると――半円状になっているソファに、人が転がっている。
近寄って覗き込むとだった。
「寝てる?」
「・・・」
「起きてるんだ」
無言のをしゃがみこんでじっと見て、雲雀は笑みを浮かべる。
玄関に靴を落としてから戻って、隣にぽすんと腰掛けた。
「引きこもりにプラスして根暗まで入れるつもりかい?」
「・・・。今日はなんもでねーぞ」
「案外ナイーブだね。飄々と過ごしてると思ってた」
普段どおりの調子で言うと、が目を開ける。そのまま目を細めて自嘲するように息をついた。
「たまには根暗になる日があるんだ」
「ふぅん。お腹すかない?」
「コンビニでも行ってこいよ」
顔を向けて問いかけると、はひらひら手を振ってぱたりと落とす。
暫く黙り込んでから、雲雀は口を開いた。
「」
先ほど聞いた名前を言うと、は目をぱっちり開ける。
雲雀はじっとを見つめて笑みを浮かべる。と目があった。
「」
「・・・」
ゆっくり起き上がると、はずっと横にずって距離をとる。
雲雀は笑みを深めて、の手をぐいと引っ張った。
「これ本名?」
「・・・聞いてやがったか」
「うん」
目を細めて問いかけてくるにさらりと頷くと、はため息をついて目を閉じ、頭を落とす。
雲雀は少しだけ首を動かして覗き込んだ。がまた目を開ける。
ふいと横を見ると、雲雀は煙草を取ってに渡した。
「・・・」
「煙草吸いなよ。ヘビースモーカー。それとも元々そんなに吸う方じゃなかった?」
「・・・一週間でワンカートン」
「ワオ。肺がん決定だな」
ここ暫く中々にと共にいたが、三日に一度は新しいカートンを買っていた。
シュボっと音がしたかと思うと、嗅ぎなれた匂いが横から流れてきた。
ふー、と息をつく声が聞こえてくる。
手は繋いだまま、気付けば二人でぼーっと座っていた。
「寂しいものなの?」
「・・・お前性格悪いよね」
「君には負けると思うけど。って呼んだほうがいい?」
「のままで」
口の端を上げて顔も向けずに問いかける。
ため息混じりに返事が返ってきた。笑っているのが気配で分かる。
煙草を手に取ったが、ぷかりと煙を吐いた。
「正直わかんね」
「ふーん」
「どうせ無理やり引っ張ってこられたんなら、向こうで俺の存在が消えてればいいとは思うな」
「また謎なことを言うね」
ぼーっと前を見ていた雲雀は、に顔を向ける。
はふっと息をついて笑みを浮かべた。
「だって急に俺が消えたとか言って騒がれたらめんどうだろ?親には今まで世話になった恩返せないままだし。いっそ全員の頭から俺の存在が消えてくれた方が、気が楽だ」
「・・・ふぅん。そういうものかな」
「俺はね」
相槌を打つと、は笑みを浮かべたまま薄く目を伏せて頭を下げる。
を見ていた雲雀は、顔を前に戻した。
しばらく無言になってから、がずるずる体を滑らせる。
灰皿に煙草をぽいと投げると、また煙草に火をつけた。
「・・・最初からなにもなければよかったのに」
「・・・家も、金も、求める人も?」
「・・・フっ。くだらねぇな」
同じようにずるずる体を滑らせて、だらりと座りながら問いかける。
は目を瞑ると、初めて見たときのように冷めた声でぼやいた。口の端をあげながら。
横目でを見てから、雲雀も目を閉じる。
また目を開けると、繋いでいる手に少しだけ力を入れた。
「そうだったら僕が拾ってたのにね」
「・・・お前が?」
「君は使える人間だから」
「ガキの手がける仕事できないでこの年齢って、ある意味問題だと思う」
ごそりと隣で頭を動かしたような音がしたが、雲雀は目を閉じたまま受け答えする。
また笑った気配がして、雲雀も口の端をあげた。
「弱くないし」
「群れてるけどな」
「馬鹿なやつらより付き合いやすいし」
「使えるしな」
「しょっちゅう咬み殺したくなるけどね」
一々茶々を入れてくるに、雲雀は硬い声で最後に落とす。
笑ったような声が聞こえて、雲雀は笑みを浮かべたまま目を開けた。
「」
「・・・」
「」
「・・・なに」
「」
「なんだよ」
名前を呼んでみる。二度目でようやく返事が返ってきた。
くすりと笑って、雲雀はまた「」と呼ぶ。
なんだっつの、とめんどくさそうな返事が返ってきて、雲雀はまた小さく笑った。
「」
名前を呼んで、手を引っ張る。
ずるずる引っ張られたの頭は雲雀の肩に当たって、雲雀はの頭に自分の頭を当てた。
目を閉じて、また口を開く。
「」
「・・・マセガキ」
「ガキじゃないんだけど」
「十分ガキだよ。やっぱり馬鹿の子」
「今はの方がガキで馬鹿だと思うよ」
が笑った気配がする。
雲雀も笑いながら言い返した。また、の笑った気配。
「俺もそう思う」
の返事を聞いて、雲雀はまた笑う。
くすくす笑っていると、がムカツク、と言った。それを聞いてやはり雲雀は笑う。
暫くそのまま、ぼんやりしてから、立ち上がったに手を引っ張られて夕食を食べに行った。
それでも意地を張る君。その孤独も、悔しさも寂しさも切なさも、ひとつ残らずわかってあげたい。(こんなこと思う僕はきっとどこかおかしいんだろう)