適当に任されたファイル整理をしていると、応接室に来てから何度目かのチャイムが鳴った。
暫くしてから、がらりと扉が開く。
「意外と頑張り屋だね」
「あー・・・一旦集中するとつい」
入って来たのは恭弥だ。午前の授業は全て終ったらしい。
手元に置いてあるファイルをひょいと取られて、はぐっと体を後ろに倒し両腕を伸ばした。
はぁ、と息をついたところで、もとあった場所にファイルが置かれる。
「もうお昼だけど」
「あそう。ここら辺てコンビニとかある?」
「そこの門を出て左に五分」
「どーも」
ひらひら手を振って、はすたすた窓に近づく。
そこから行くつもり?と言われて、歩くのめんどい、と返すと呆れたようにため息をつかれた。
「本当に引きこもり体質だよね」
「生憎体質だと中々治りが悪くてな」
口の端をあげて、はひょいと下に下りる。
ポケットに両手をつっこんで歩いていると、上からおい!と声をかけられた。
自分じゃないだろと無視。
しかし名前まで呼ばれて、渋々振り返った。見れば武だ。
「どーした」
「帰ンの?」
「飯買い行くだけ」
「ちょっと待ってろ!」
答えると、叫んだ武がさっと姿を消す。
首をかしげたツナと隼人がひょいと窓から顔を出してきたので、ひらりと手を上げておいた。
手を振り替えされてケラケラ笑っていると、武が猛ダッシュで玄関から走ってくる。
「どうしたんだ?」
「大丈夫か?」
肩で息をしながら問いかけられて、はは?と首をかしげる。
両膝に手を置いてぜーぜー息をしていた武は、は〜〜と息をつくと体を上げた。
「ヒバリ、なにもしてこなかったか?」
「は?恭弥が?別に何もされてないけど」
首をかしげながら答えれば、武はまたはぁーとため息をつく。
どうしたんだよとやはり首をかしげて問いかけると、まぁコンビニ行くか、と肩を叩かれた。
ちらりと学校を見れば、さりげなく見られてる。結構な人数に。
なんだってんだよと顔をしかめつつ、は武と共に学校を出た。
はヒバリと仲いいのか?」
「は?うーん・・・別にそこまでいいとかいうわけじゃねんじゃね。昨日初めて話したし。家のマンション住みやすくて気に入ったみたいだけど」
「家まで来たのか?」
「ていうか、あいつが勝手に不法侵入してきたのがファーストコンタクト」
不法侵入と聞いた武が、うわぁと顔をゆがめる。
うわぁだよな、とも顔をしかめながら返すと、まぁそれ以外特に無いけど、と言った。
ただ聞いた武は微妙な顔だ。
「あいつな、風紀委員長だけど、ここら辺一帯の不良のトップなんだよ」
「は?マジでか」
顎に手を当てながら言う武に顔を向けて、は思い切り間抜けな声を上げる。
おう、と頷くと、武はだからなぁと頭をかいた。
「不良の中でもヒバリは一番やばくて、気に食わないヤツは仕込みトンファーで滅多打ちにするらしい」
「・・・。あぁー」
妙に納得した声を上げてしまう。
ぶっちゃけあの時は呼び出し喰らったのかと思ったぜ、とケラケラ笑いながら言われて、はふっと笑った。
「わけないだろ。大体、中坊のガキに俺が負けるかっつーの」
「あはは!お前無駄にカッケーよな!」
「だろ。任せろ」
嘲笑しつつ言えば、武がまた爆笑。
ばしばし背中を叩かれて、はにやっと笑った後に一緒になってゲラゲラ笑った。
コンビニで適当に食べ物と飲み物を買う。
これ美味いよなーなどと話しながら学校へ戻ると、一緒に飯くわね?と誘われた。
オーケーと答えて教室へ。
何故だかツナにオカエリーと声をかけられた。ので、ただいまーと答えておいた。
「本当に風紀委員入るの?」
「おー。授業でなくていいしテスト免除。明日から学ランだってさ」
「あー、学ランはともかくテスト免除はいいなぁ。俺も風紀入るかな・・・」
「変わりにデスクワーク鬼のようにやらされて野球できなくなるぞ」
ツナに問いかけられてこくりと頷くと、武が遠い目をしながらつぶやきだす。
くすくす笑いながらつっこむと、それは嫌だなと笑って返された。
隼人はむすっとしている。
「授業サボってなにが委員会だっつの」
「お前案外真面目さんだな」
「お前と違ってしっかりしてんだよ!十代目をお守りするためには一緒に行動取るべきだろうが!」
「そうやってお前がくっついてるから、俺は安心して外に行けるってこと」
びしぃっと指差して言ってくる隼人に、はパンを食べながらさらりと言う。
ぴたりと止まった隼人は、なんだそういうことだったのかよ早く言えよー!と言いながらばしっとの背中を叩いた。
叩かれたは咽て武に背中を撫でてもらったのだが。
「最初はどうしてやろうかと思ったけど、お前わかってんじゃねーの!」
「伊達にお前らより長生きしてなムグ」
「あーーーわわわわ!そ、それ美味そうだな〜一口くんない?」
簡単におだてられている隼人を見て呆れ顔していたツナは、の言葉を聞いて慌てて大声を上げる。
ついでにの口にパンをつめつつ。
またはごほごほ咽て、やはり武に背中を撫でられた。
なんとか治まってから、はーとため息をつく。
「わりーツナ」
「あー、うん」
ぼそぼそ言うと、ツナが疲れた顔でこくりと頷く。
隼人はきょとーんとしながら二人を眺めており、武は「俺もこれ食ってみていーか?」とちゃっかりパンを持っていた。
わいわい騒ぎながら昼食を取って、応接室へ行く。
中に入ると、恭弥がソファに座ってぼーっとしていた。
「お前ここで食ってたの」
「ああ。群れるのは嫌でね。君は?さっきのやつと食べたのかい?」
さっきのやつと言われて、は首をかしげる。
ちらりとを見た恭弥は、一緒にコンビニ行ったヤツ、と言ってずるずる体をソファに沈ませた。
はああと声をあげると、前のソファに座って煙草を取り出した。
「ここは禁煙」
「・・・・・・窓は?」
「・・・子犬みたいな顔しないでくれる」
恭弥曰く子犬みたいな顔で問いかければ、物凄くしらけた顔でつっこまれる。
ニヤッとが笑うと、ため息をついてひらひら手を振られた。窓側に。
やりーと言いながら窓に腰掛け、火をつける。
「アレとアレの友人たちと教室で飯。初日にちょっとやらかしたから珍獣見る目で見られたな」
「あぁ。なにやらやらかしたそうだね。それと先に忠告しておくよ。僕、弱いもの同士で群れてるやつは嫌いなんだ」
「・・・むれるってなに」
眉根を寄せつつ問いかければ、恭弥まで眉根を寄せてを見る。
わからない?と聞かれて、わかってりゃきかねー、と言い返すと呆れたようにため息をつかれた。
「弱いヤツらで無駄に固まられてると腹立つってこと」
「あぁ・・・へー。そう。それじゃあ俺も先に言っとく。他人に指図されたり縛られたりすんの嫌いなんだよね」
「へー。そう」
目を細めて笑みを浮かべるに、恭弥はまったく同じ返答を返してくる。
嫌味かこのやろうと口をへの字にして、は窓の外にふーと煙を吐き出した。
ぼーっとしながら煙草を吸っていると、昼休み終了を告げるチャイムが鳴る。
何も言わず、恭弥は応接室を出て行った。
ちらりとその背中を見てから、はふっと息をつく。
「慣れねーなぁ」
一人でぽつりとつぶやいて、残りの煙草を吸った。



資料をひたすらまとめていると(適当でいいらしい)、下校を告げるチャイムがなる。
暫くしてからがらりと扉を開けて、恭弥が入ってきた。他にリーゼントの数名も。
なにやら指示を出すと、リーゼント集団は出て行った。
「で、君はいつまでやってるつもり?」
「あー・・・放課後だっつーなら、やめるかな」
「へぇ。一日でここまでやったんだ。もっと早くに勧誘しとくべきだったかな」
「ここ来たの六日前だっつーの」
横から覗き込んでくる恭弥に適当に返し、はぐっと体を伸ばして欠伸する。
帰る?と問いかけられて、帰るか、と答えながら電源を落とした。
鍵かけるからさっさと出てよと言われて、それが目的かと呆れつつ部屋を出る。
コレ提出するついでに鍵返してきて、とプリントと鍵を手渡され、そして答える間もなく去られて、はかくりと頭を落とした。
教務室に提出しに行けば、なんだか先生方にホッとされる。
風紀委員に入るのか?と恐る恐る問いかけられ、そして頷いた途端止めておけと周りから色々言われたが、まぁ面白そうだしいいですよ、と一言言ってさっさと教務室を出た。
だりーなとぼやきながら玄関を出る。
校門まで行くと、グォン、と後ろから音がした。
「おや委員長」
「案外遅かったね。乗ってく?」
走りながら言ってきて、隣でぴたりと止まる。無駄に鉢合わせしたらしい。
にやっと笑おうとしたはふと遠くを見て、首を横に振った。
「いいや。寄りたいとこあるし。お前はそこら辺で群れてる奴らでも咬み殺して、のーんびり帰れよ。それか今すぐかっ飛ばして帰れ」
「なにそれ」
顔をしかめて言い返されて、は小さく息をつく。
笑みを浮かべると、くるりと体を回した。
「まぁ気にすんな。寂しがって後追いかけてくんなよ」
「誰も寂しがってないし。喧嘩売ってる?」
「はいはいさよーならー」
目を細める恭弥にひらひら手を振って、はスタスタ歩き出す。
グォンとまた音を立てて走り去っていく恭弥を見送り、のんびり歩いて、人通りの少ない通りに入った。
「待て」
「知らない人に反応しちゃいけないってお母さんに言われてるんで」
後ろから声をかけられるが、ながしてそのまま歩く。
薄暗い人気の無い道を進んでいると、前からもぞろぞろ人が現れた。
は目を細めてだらりと立つ。
「こいつで間違いないか」
「ああ。こいつだ」
そこからは、もう毎日恒例。
適当に受け答えしてやはり全員潰してから、はため息をついて煙草に火をつけた。
「やっぱり」
気配もなく現れたのは恭弥。
笑みを浮かべながらの下に倒れている男たちを見ている。
は呆れ顔すると、うわーと声を上げた。
「寂しくなっちゃった?」
「そんなに咬み殺されたいの?」
「冗談くらい流せよ」
目を細めて睨みつけてくる恭弥に、笑みを浮かべて返す。
また派手にやらかしたね、と言われて、そうでもないと思うけど、と返しておいた。
スタスタ歩いていけば、急にトンファーをブォンと振られる。
ひょいと避けると、さらにひゅんひゅん回して攻撃された。
はひょいひょい避けてさっさと歩く。
「いい加減ヤらない?」
「興味ない」
両手にトンファーを構えて言ってくる恭弥をさらっと流して、はスタスタ歩く。
目を細めて構えた恭弥は、ダンと踏み込んで攻撃を仕掛けてきた。
はさっと体を横にしながら、両手を掴んでぐっと引っ張りくるりと回す。
どさりと地面に転がすと、ため息をついて腕を捻りトンファーを取り上げた。
「ガキに手上げる趣味はないって言っただろ」
「・・・」
めんどくささをそのまま表情に出して言えば、恭弥はかなり気にくわなそうな顔で見上げてくる。
息をついてやれやれと笑みを浮かべると、ぽいとトンファーを落とした。
「大人になったら相手してやるよ」
「そこらの大人より強いんだけど」
「関係ないだろ」
パンパン服を叩きながら起き上がる恭弥に、はふっと笑いながら返事を返す。
はぁ、とため息をついた恭弥が、さっさといくよと言ってスタスタ歩き出した。
首をかしげながらついていけば、道を抜けたところに見慣れたバイク。
ひょいと跨いだ恭弥の後ろに、やはりは背中合わせに座った。
「・・・それホントに好きなの?」
「まぁ、気分次第で。うえ゛ー。くるし」
適当に答えつつ、はぐいとサラシを引っ張る。しかし緩まる効果はまったくない。
ため息をつくと、恭弥はさっさとバイクを発進させた。
乗車は二度目だが、ノーヘルは常識らしいことが判明。
ついたのはのマンション。
そこらにバイクを止めている恭弥を見て、寄ってくのかよとは項垂れた。
部屋に入れば、ソファに悠々と座って本を読んでるミツコさん。
「あら、もう学校終る時間?これ読んでたらすっかり長居しちゃったわ」
「いいッスよ。それ面白いし。俺も夜中読んじゃったし」
「あーそれはいけないわねぇ。本の持ち込み禁止にしようかしら」
「いくらミツコさんでも追い出しちゃうよー」
本気とも冗談ともつかない会話をしつつ、は冷蔵庫からお茶を出して恭弥に投げる。
自分はサイダー。
どうせだから夕食作ってあげる、と言われて、あざーっすと答えつつソファに座った。
あなたもいる?と問いかけられた恭弥が、じゃあもらおうかな、とちゃっかり答えながらソファに座ってのんびりしだす。
なんかもうホントありえねぇなと思いつつ、はシャツを脱がずにサラシを取り始めた。
「器用なことするのはいいけど、下着つけてないんだから着替えたら?」
「あー・・・だり」
「着替えなさい」
「・・・はーい」
だらだら答えている途中で、ミツコさんからつっこみ。
やはりダラダラ返事を返して、は寝室にずるずるサラシを引きずって入った。
着替えて戻ってみれば、もう勝手に恭弥はテレビをつけてくつろいでいる。
お前さんここの家の子かよ、と声をかけると、それいいね、との返事が返ってきて脱力しかけた。
「しっかしニュースとは。最近の中学生はみんなマセてるよね」
「君が遅れすぎなだけだと思うけど」
「年取るとね、必要なものが減ってくるのよ」
「そーですよねミツコさん」
夕食を作りつつ会話に入ってくるミツコさんに、いいこと言ったとが挙手。
横から物凄く呆れたような視線と共に「・・・君の歳でそれは危ないんじゃない?」とのつっこみが飛んできた。
スルーしては煙草を吸い始める。
「あー。超だりー」
「いつもだるいね」
「まーね」
呆れられながらも、やはりはだらける。
ミツコさんにガッツリ活力つくもの作ってやるわよコラ、と何故か喧嘩を売られた。
ニュースを見ながらぼーっとしていると、なんだか眠たくなってくる。
うつらうつらしていると、良く寝るね、とまた恭弥につっこまれた。
ほっとけと答えただ。恭弥だって大体ぼーっとしているか眠たそうな顔をしている。
「ここいいなぁ。風紀委員の活動場所に入れようか」
「入って来たやつから撃ち殺す」
ぐでーっと座って床に頭をつける恭弥に、は煙を吐きつつはっきり言う。
冗談だよ、との言葉の後に舌打ちが聞こえてきて、は思い切り眉根を寄せながら恭弥を見た。しかし恭弥はぼーっと天井を見ている。
「恭弥君お家に連絡入れたの?」
「・・・」
ミツコさんにつっこまれて、なんだか不機嫌になりながら恭弥が携帯電話を取り出す。
恭弥君て俺も呼ぼうか、とさりげなくミツコさんのほうへ体を向けてつぶやくと、さりげなく蹴られた。
「アンタも携帯くらい持ちなさいよ。何かあった時どうするの?」
「別にいらねーよ。・・・使わねーんだから」
相変わらずだらだらしながら答えてから、は目を細める。
ミツコさんが黙り込むと、携帯を畳んだ恭弥がひょいとの手を取って立ち上がった。
ぐっと引っ張り上げられて、はバランス悪く立ち上がる。
「なんだよ」
「財布」
「は?」
「携帯買いに行くよ」
「はぁ?」
思い切りが顔を歪めても、恭弥は涼しい顔。
気付けばミツコさんが笑顔で恭弥に財布を渡していた。勝手に。
オイ!と声を上げている間にも、さっさと恭弥に引っ張られる。
しまりかけの扉から「ご飯準備して待ってるからねー」との声が聞こえてきた。
ぐいぐい引っ張られてバイクに乗せられて、向かった先は携帯ショップ。
はい選んで、と言われて、はため息をついた。
「俺、携帯とかって持っててもすぐ失くすんだけど」
「首にでも下げておきなよ」
さっさと選ぶ、と言って、恭弥はさっさとどこかに行く。
ため息をついて、は並んでいる携帯電話を見た。
ひょいと一つ手に取ると、それでいいの?と後ろから問いかけられる。
いんじゃね、と答えると、さっさとカウンターに引っ張られた。
見れば契約書にの名前と住所がすでに書かれている。
携帯電話と共に、これも、と言って恭弥が長いストラップをカウンターに置く。
手際いいなぁと思いつつ、しかし自分の財布から金が出るのを見てはすさんだ笑みを浮かべた。
店を出てすぐ、紙袋の中から携帯を取り出した恭弥が勝手に構い始める。
なにやってんだよと問いかけても無視。
ポケットから自分の携帯電話を取り出した恭弥は、携帯電話の先をくっつけた。
「はい」
「ん?」
「僕の番号とアドレス入ってるから。急な仕事で呼ぶ事もあるから授業中でもでること」
ひょいと携帯を渡されて首をかしげたは、恭弥の言葉を聞いてきょとんとしてしまう。
息をついて口の端をあげると、くくくと笑ってから、あははははとその場で爆笑してしまった。
恭弥は驚いたように目を大きく開いてから、煩いとばかりに顔をしかめる。
くすくす笑いながら、は恭弥の頭をぽんと叩いた。
「ありがとな」
「・・・別に。ないとこっちが困るしのお金だし」
「あーあ。ってさりげにパクんな」
ふいと顔を逸らしながら、さりげなく恭弥は財布をポケットに入れようとする。
ひょいとが財布を取り返すと、さっさと帰るよ、と言って恭弥はバイクに乗った。
まだくすくす笑いながら、も後ろに乗る。
「あれ。今度は普通に乗るんだ」
「あれ腕疲れンだ」
「やらなきゃいいのに」
「だからスリルが楽しいんだって」
わけわかんないね君、と言いつつ、恭弥はさっさと発進する。
後ろでくすくす笑いながら、はだらりと恭弥の背中に体を乗せた。重いといわれても無視。
帰ればミツコさんが見せてーと手を伸ばしてくる。
夕食を取っている間、携帯電話を構うミツコさんと分からない機能があるなぁと盛り上がっていると、恭弥に物凄くしらけた目で見られた。

















携帯電話の契約書にはハンコも必要です。(何でお前ってそうなわけ?お陰で悔しいけど今日楽しかった)