通勤ラッシュの時間帯。
外からの音が小さく聞こえてくる。窓を開けたまま眠っていた。
その音も、次第になくなっていく。
うとうととレム睡眠とノンレム睡眠をいったりきたりしていたは、また深く眠りにつきそうになっていた。
「なんにもない部屋だけど、目覚ましまでないんだ」
「・・・ん・・・」
上から降ってくる声に、意識が戻りかける。
ころんと寝返りを打つと、ふかふかなベッドが一瞬沈んだ。自分以外の重みで。
「寝顔は性別はっきりしてるね」
「・・・んー・・・?」
今度は随分と近くで声がする。
眉根を寄せてから、は布団を頭まで引っ張り上げた。
しかしくすりと笑ったような声がした後に、手ごとゆっくり下ろされる。
「寝ぼけてる声、やけに色っぽいんだけど」
「・・・・・・・・・ん?」
相当に近くで声がして、はまた眉根を寄せながらちょっとだけ下がる。
欠伸を殺しながら片目を開けると、至近距離に黒い物体。
何度か瞬きしていると、またくすりと笑われた。
「ようやく起きた?」
「・・・きょぉ・・・・・・・・・きょうや?」
「おはよう」
「あ?」
目の前に人がいると分かった途端、はばっちり目を覚ます。
しかし目の前の人物はいたって呑気に朝の挨拶だ。は思い切り顔をゆがめる。
自分で注意しておいて朝の挨拶もなし?と言われて、は喧嘩腰におはようございます、と挨拶した。
そのままがばっと起き上がる。
「つーかなんでお前がいるんだよ!」
「遅刻だよ」
「お前がだろ!」
「君もだって」
ちゃっかりベッドに寝転がりながら、頬杖をついた恭弥がを指差してくる。
はがくっと項垂れると、そのままどさっと倒れた。
「あー。夢なら覚めてくれないかな」
「無理だね。現実だし」
「だよねー」
さくっと返ってくる返事。は思い切り低い声で答える。
つーかなんでお前がここにいるんだっつーの、とまた問いかけると、引きこもりを引っ張り出しに、と言い返された。
「あー?別にンなことしなくても自分で行くっつーに・・・」
「あれ。行く気になったんだ?」
「あー。まー。なんか色々どうでもよくなった」
「なにそれ。わけわかんないんだけど」
やる気の無い顔でが言うと、恭弥が怪訝な顔で言い返してくる。
とにかくちょっとは引きこもらなくなったんだ、と言って起き上がると、そう、と言って恭弥が完全に寝転がった。
「・・・なにやってんだ?」
「んー。このベッド。かなり寝心地良いね」
「おー。お陰で一度寝ると起きれん」
「ゆっくり支度してきなよ。行くとき起こして。ふぁ〜あ・・・」
「おーい」
呑気に欠伸をすると、恭弥は呆れるも気にせず勝手に布団を被って眠りに入る。
気付けば学ランの上着もベッドの端に投げられていた。
ため息をついてから、は部屋の外に出る。
早速ミツコさんに顔洗う!と怒られた。
「ふぁ〜い・・・。てか・・・あいつ入れた?」
「あぁあの子。窓から入ってきたから最初びっくりしたんだけど、リボーンさんが積極的に入れてやれっていうから」
「積極的って・・・なに」
呆れてもはいはい邪魔よーと流されてしまう。ミツコはリビングお掃除中。
ため息をつくと、はさっさと顔を洗った。
掃除が終るまでなにもできないと、煙草をすいながらベランダに避難。(しかしミツコさんの掃除はプロとかそれ以前にありえない動きと速度で進む。聞けば必殺技よとか言われた。確かに人を殺せそうだがつっこんではいない)
終ったのを見計らって中に入り、朝食を取る――前に、何故だか制服に着替えなさい!と怒られた。
ぇえー?と顔をしかめつつ、着替えるために寝室に入る。
クローゼットを開けて数日振りに制服をあさって着替えていると、後ろからごそごそ音が聞こえた。
「・・・支度できたの?」
「・・・支度中ってとこだけど」
ズボンを履いてベルトを締めたところ。
恭弥は眠そうな顔で起き上がって、さりげなく不機嫌な空気を出している。
「起こさないでよ。咬み殺すよ」
「オメーはどれだけ繊細な人間なんだよ」
「葉の落ちる音でも起きるから」
「・・・オメーはどれだけ繊細な人間なんだよ」
「とは比べちゃいけないくらいかな」
「少しは鍛えろ」
憎まれ口をたたく恭弥につっこんで(?)、は制服やらなにやら色々手に持って部屋の外に出る。
寝巻きに使っていたシャツを脱いでぐるぐるサラシを巻いていると、寝室から恭弥が出てきた。欠伸しながら。
「ワオ。サラシとはまた古風だね」
「つーか見てんな」
まだ胸の下までしか巻けてない。背を向けているのがせめてもの救いだ。
ぐるぐるぐるぐる巻いていると、気にせず恭弥はすたすた近づいてきた。あぶねぇとはげんなりだ。
しっかり巻きつけて挟み込んで留める。
「へぇ。そうやって胸つぶしてたわけだ」
「めんどくてやんなるけどな。苦しいし」
「いい眺めだね。谷間できてる」
「死ね」
さりげに笑みを浮かべながら言ってくる恭弥に、は顔をしかめながらつっこみ。
半そでのワイシャツをばさりと羽織ったところで、ミツコさんがさっさとご飯食べなさいと声をかけてきた。
カウンターに行けば、何故だか朝食が二人分。
「なんで二人分?」
「この子食べてきてないって言うじゃない」
「はあ?お前なぁ、成長期に朝食抜かすなよ」
「食べなくたってなんとでもなるさ。若いから」
そういう問題じゃない、ととミツコさん二人で叱り付ける。
隣に座りながら、恭弥はちょっとだけ顔をしかめた。
「成長期だからこそ朝食は欠かせないのよ!」
「そうそう。朝は一日のエネルギーを作る大事な摂取時間。三食しっかり食べないとちゃんと体作られないぞ」
「どうでもいいよ」
よくない、とまた二人でしかりつける。は朝食をとりつつ。
さりげなく殺気だって恭弥が睨みつけてきたが、とミツコさんの二人で無言の威圧をかけた。
「冗談でも迷信でもなく大事なんだからな。強さ欲しいなら飯はちゃんと食え。現代科学を信じろ」
「へぇ。君の強さの秘密は食生活?」
「まぁそれもある」
「ほっときゃアンタも食べないでしょーが。しっかり生活習慣正しなさい。早く寝て早く起きる!ちゃんと食べる!」
びしっとミツコさんにつっこまれて、はへぇーいとやる気なく返事を返す。
治す気ないでしょと二人につっこまれて、はもう歳だからいいだろと言い味噌汁を飲んだ。
と恭弥の二人が食事を取っている間に、ミツコさんは寝室の掃除を済ませる。
ごちそーさまでした、と手を合わせていると、さっさと歯磨いて学校行きなさい、と後ろからつっこまれた。
「へぇーい」
「・・・あの人なんなんだ?」
「ミツコさん(49)自称永遠の19歳。専属ハウスキーパーだけどもはや母親。面倒見てくれる人に逆らうなよ。優しくしろ」
咬み殺したいオーラを出している恭弥の頭をぽんと叩いて、は食器を片付ける。
これも、とカウンターごしに渡されて、はため息をつきながら受け取った。
歯を磨いてからリビングに戻ると、ため息をつきながら恭弥が学ランを手に取る。
「ボタンしっかりとめる」
「はいはい」
「ようやく登校?遅すぎだよ」
「自分まで一緒になっといてよく言うな」
顔をしかめて言ってくる恭弥に、も顔をしかめて言い返す。
と、後ろからゴンと頭を殴られた。誰かといえばミツコさん。
「わざわざ起こして迎えに来てくれたんだから感謝しなさい!」
「・・・へぇーい。ありがとうございましたー」
「心が篭ってないね」
「俺の誠意は言葉だけじゃ伝わりにくいんだ」
いやー名言名言、と言いながら、はポケットに煙草とライターをつっこむ。
後は財布からお札を取り出して別のポケットへ。
「・・・荷物それだけ?」
「他になんかいる?」
「昨日も思ったけど、って人に常識つっこめないよね」
「知っててやってるんだ」
とっとと行くぞ、と言って、はさっさと歩き出す。
ミツコさんに挨拶して家を出た。
「シャツしまったら。僕風紀委員なんだけど。ネクタイもつけてないし」
「これ巻いてる所為で苦しいんだよ」
横目で見てくる恭弥に、はぺろんとシャツを上げてめんどくさそうに言う。
恭弥がため息をついたところで、エレベーターが一階に着いた。
外に出れば一台のバイク。
「さっさと行くよ。もう一時間目終る」
「・・・これお前の?」
跨ぎのバイクに乗る恭弥に、は顔をしかめて問いかける。
そうだけど、と答えると、恭弥はさっさと来なってと少し不機嫌に言った。乗せてくれるらしい。
はぁとため息をついて、よろしくお願いしマースといいつつは後ろに乗る。
恭弥に背中を向けて。
「・・・落ちる気?」
「大丈夫乗りなれてる。無駄なスリルが中々楽しいんだよ」
呆れたように問いかけられて、は呑気に返事を返す。
はぁーと思い切りため息をついた恭弥は、グォンとエンジンをかけてさっさと発信した。
びゅんびゅん風を切って走る感覚に、はおーと声を上げる。
両手で適当な場所を掴んでバランスをとりながら、恭弥の背中を背もたれにしてふぁ・・・と欠伸した。
「重い」
「修行修行」
むすっとした声で言われたが、は呑気な声でお返事。
急なカーブでもないのに無理やりな曲がり方をされて、危うく落ちかけた。
学校についてから、今までの分ちゃんと出なよ、とちゃっかり恭弥につっこまれる。
はいはいありがとーよ、とひらひら手を振りながら別れて、教室に向かった。途中迷いかけたが。
がらりと扉を開けば、一瞬静まり返る教室。
「!」
「よーツナ」
「お!おそよー!きたか!」
「おータケおそよー。起こされた」
「つーか普通に遅刻だし」
「いいか隼人。俺に時間は関係ねーんだよ」
「なに無駄にかっこつけてんだよ」
早速声をかけてきたのは三人。は適当に返事を返しながらスタスタ中に入る。
真ん中辺りまできて、ぴたりと立ち止まった。
「俺の席どこ?」
「って忘れたのかよ!!」
「あはははは!俺の隣だ!来い!」
「おー」
隼人に突っ込まれ、武に爆笑されながら呼ばれる。
適当に返事を返して武の隣に座ると、早速だらーっと机に伸びて欠伸したた。
「なんか眠そうなんだけど」
「あー・・・あの後レベル5の武器集めて三時まで起きてた」
だらだらだらけつつ答えれば、周りから三時!?と声が上がる。やはり一番いいリアクションなのはツナ。
そりゃ眠いって、と武は未だに爆笑中。
「お陰であと一人で武器コンプリート」
「やりすぎだし!つーか俺教えてもらおうと思ってたのになー」
「別に聞きゃ教える」
「あ、じゃあ今度メモリーカード持ってく」
オーケー、とうきうきしているツナに返事を返す。
なんだかやけに仲が良くなっている四人を見て、周りの生徒はおろおろしたりひそひそ話したり。
やはり女子が騒いでいる。
「お前たまには体にいいことしろって。野球やるか?」
「だりー」
「ダメだこりゃ!」
がしっと肩に腕を回してくる武に、がだらだら答える。やはり笑いながらつっこみが飛んできた。
ゲラゲラ笑う武に釣られてがふっと笑うと、クラスメイトたちがざわめく。
しかしチャイムが鳴ったことによって中断され、入って来た教師はを見て驚いた。
「ようやく出てきたか!お前電話もないからどうしようかと思ってたんだぞ」
「だりーッス」
「やる気なさすぎだろ!」
の一言でまた武が爆笑。つられてクラスメイトたちの何人かも笑いだす。
しかし教師は、今まで何をやっていたんだ、と真面目にしかりつけてきた。
ゲームとか読書とかです、とはそのまま答える。ツナが隣でおろおろした。(ちゃっかり席が並んでいた)
さらに説教が進みそうになったところで、まあまあ問題児放っといて授業進めましょうって、とが声をかける。
教師は気にくわなそうな顔をしたが、渋々授業を始めた。
授業が始まっても、はダラダラしたまま眠そうに授業を聞くだけ。
「おい。教科書とノートはどうした」
「ありません」
「はあ!?」
はっきり答えると、早速ツナがオーバーリアクション。
どこに買いに行けばいいかわかんないし急だったし、とが言うと、武がガタガタ机を動かしてくっつけてきた。
「俺の見せてやるよ」
「ぶっちゃけ見なくモゴ」
「山本に見せてもらうそうです!」
めんどくさそうにが言う前に、ツナが口を押さえて叫ぶ。
怪訝な顔で見てきたが、教師はそのまま授業を進めていった。
「おい。マジでみねーの?テストやばいぜ?」
「・・・ぶっちゃけ一度やったことある授業もう一度受ける気ねーんだけど」
「あ。そっか」
年齢はばらしてある。
がダラダラ言うと、武は納得したようにぽそっと言った。
のだがそこで許さないのが教師という職業。問題をかけられた。
「ルイ16世の妃は誰だ!」
「えー?マリーアントワネット?オーストラリア帝国パプスブルク家のマリア・テレジアと神聖ローマ帝国のフランツ1世の娘のうちの一人。フランス革命の混乱に巻き込まれ、最後はギロチンにより死去。食べ物が無いと攻め込んできた国民たちに「パンが無ければケーキを食べればいい」と言った言葉が有名という説があるけれど、それは単なる中傷で生まれた逸話だなんて説も上がってる」
べらべらとが喋りだすと、教師はぽかんと固まってしまう。
ツナも武も、隼人も固まっていた。
いうなればクラス全体。
「女帝のなかの女帝と謳われるマリア・テレジアの政略により策略結婚。夫との仲は最初そんなに良くなかった。まぁ14歳にして知らない野郎と政略結婚じゃしゃーないだろうけど。ルイ15世あたりが相当酷い金の使い方とか不正な政治を行なった所為で、そのツテが回ってきた丁度その時期だったらしいね。まさに悲劇のお姫様。ちなみにルイ11世とかは全然いい王様だったらしいし、実際マリー・アントワネットもそんなに悪い人じゃなかったみたいだけど。金銭感覚とかはなかったらしい。・・・まぁそこら辺は、先生に詳しく説明してもらった方が分かりやすいッスよね」
喋るだけ喋ってから、は欠伸を一つ。
いいですかーとやる気なく声をあげると、教師はおろおろしてからああ、と返事を返してきた。
教室がざわめく。
ちらりと周りを見てから、武が顔を下ろして近づけてきた。
「お前すっげーのな」
「ぐーぜん。高校ン時の担任が社会担当で、ルネッサンス時代大好きだったんだ。半年間ルネッサンスについて熱く語られちゃあ嫌でも覚えるって・・・」
げんなりしながら答えると、武がぷっと笑う。
微妙な空気のまま授業は進んで行き、ようやくチャイムがなった。
教師が居なくなった途端、はぐっと両手を伸ばしてまた欠伸する。
そのままふぃーと息をつくと、がたりと立ち上がった。
「え。、どこ行くんだ?」
「帰る」
「はあ!?来たバッカじゃん!」
「だってだりーし」
「お前どこまでやる気ねーんだよ!」
だらーと顔をしかめながら言うと、ツナと隼人からびしばしつっこみが飛んでくる。
さすがにそりゃないだろ、と武にまで言われたが、はあー・・・とぼやくだけだ。
「だって授業つまんねーし。教師うぜーし。つーか眠い」
「んー・・・じゃあここで寝るってのは・・・」
「だったら変わんないだろ。帰って寝る」
「ぇえ!?ホントに帰っちゃうの!?」
スタスタ歩きながらひらひら手を振ると、やはりツナがつっこんでくる。
大丈夫明日も来るって、多分。と言うと、多分ーー!?とツナがリアクションよく返してきた。
ケラケラ笑いながら教室を出ようとしたところで、目の前に影。
「あ?恭弥」
「やっぱり帰ろうとしてたね」
目が合う。物凄く呆れ顔されている。
ダリーし眠い、と欠伸しながら答えると、まぁそうだろうね、との返事が返ってきた。
周りはざわついている。
はいはい通してーとひらひら手を振ると、恭弥がにやりと笑った。ついでに手をドアについて通せんぼ。
「それじゃあ、風紀委員の仕事手伝わないかい?今日の欠課時間免除にしてあげるよ」
「・・・だる・・・」
「授業受けるより全然いいと思うけど。風紀委員に入るなら、さらに今までの分の欠席も免除。ついでにこれからの欠席も免除」
「・・・」
つらつら並べられる交換条件に、はさりげなく揺れる。
じっと見つめあうこと数秒、恭弥がにやりと笑った。
「テストも免じ」
「入る」
「早ッ!」
言葉が終るか終らないかのところでが答えると、後ろからツナがやはりリアクションよくつっこみ。
にやりと笑う恭弥と同じくにやりとが笑うと、じゃあ来なよ、と恭弥はさっさと踵を返した。
「おい!」
「みんながんばれよ。テスト」
「すっかり釣られてるーーー!!」
なんだか焦った感じの武に声をかけられるが、は一声かけてさっさと教室を出る。後ろからツナのつっこみがついてきた。
くすくす笑いながら、恭弥の後に続く。
何故だか生徒たちは、恭弥の顔を見るとそそくさと道を開け、をじろじろ見てきた。
「・・・なんだってんだ?」
「気にしなくていいんじゃない」
が顔をしかめると、恭弥がさらりと返してくる。
しかし恭弥の進む先の生徒達は、みなそそくさと顔を逸らした。
後ろからは顔が見えないが、尋常じゃない反応を見ては呆れる。
ついた場所は応接室と書かれた部屋。
中に入れば、明らかに来客用の部屋に使われてそうなつくりだった。
「明らかに来客用の部屋だなここ」
「うん。応接室だしね。ちょっと頼み込んだら風紀委員に提供してくれたんだよ」
「色々含み感じられるなァ」
「気にしなくていいよ。そこ座って」
呆れ顔しつつ部屋を見回していると、黒皮のソファを指差される。
へいへーいと言って座ると、ファイルやらプリントやら、色々と持ってこられた。
「なんっだこれ」
「風紀で取り締まったリストとか、まぁ色々だよ。まともな文章かけるやつもいなければ物事まとめられるやつも居なくてね。使えるのは草壁くらいだ」
ため息をつきながら、恭弥はファイルを手に取る。
は適当にプリント用紙を一枚手に取り、顔を歪めた。
「なんだこれ・・・金の押収リストかよ」
「そこら辺のもの、メモとか取るだけで全然まとめてないんだ。ということで、よろしく」
「おいおい土台もなにもあったもんじゃねぇな。・・・ったく。パソコンとかないわけ?」
ひらりと手を上げて笑みを浮かべる恭弥に、は呆れ顔。
どさりとソファに体を預けて周りを見ると、恭弥は片眉を上げた。
「パソコン使うの?ていうか、使えるの?」
「お前俺をなんだと思ってるわけ?六十過ぎのジジィじゃねぇんだぞ」
「ふぅん。まぁ、パソコンでまとめた方が楽だろうね。買ってこさせるか」
顔をしかめつつ両膝に腕を置いて前のめりに座りなおすと、きょとんとした恭弥が携帯を取り出す。
うわーと声を上げている間に、電話をかけて命令。
ぱちんと携帯を閉じてから、さて、と恭弥は声を上げた。
「正式に風紀委員に入ってもらうからには、色々と仕事してもらうから」
「もうすでに色々と出されてるけどな」
「とりあえず、これにサインして」
ひらりと出されたのは委員会の入会書。普通の用紙だ。
へいへいといいつつさらさらペンでクラスやら名前やら書いていると、ばたばたという足音の後にコンコンとノックの音が響いた。
「だれ」
「斉藤です!ご注文の品用意しました!」
「早」
現れたのはリーゼントと不良の集団。
皆額に汗を掻いている。手にはダンボール。パッケージはまうごとなきPCの絵柄。
どこに置こうかな、と周りを見回す恭弥に、そこらでいんじゃね、とははじっこを指差した。
「適当に机持ってきて――」
「パソコン用デスクも買ってきました!」
「ワオ。気前いいな」
応援団ののりで叫ばれて、ついつい恭弥の口癖が移行。
じゃあさっさとそこに置いて、と恭弥が指示を出すと、ぞろぞろ荷物を持った不良たちが入って来た。
がたがたと苦戦しつつパソコン用デスクを設置。しかしコンピュータで苦戦。
ため息をついて立ち上がると、はちょっとどいてくれ、とひらひら手を振って集団の元までいった。
何故だかさっと避けられる。
怪訝顔してから、はコンピュータを取り出した。
「任せておけばいいのに」
「慣れてないやつに構わせて壊されたんじゃ、折角のコンピュータが可哀相だろ。これ、そっちに刺してくれるか?」
画面にコードの端末を差し込んで、ひょいと反対側の端末を近くにいたリーゼントに渡す。
二・三人に手伝ってもらって、簡単に準備が出来た。ちゃっかりプリンタまである。
起動ボタンを押せば、無事コンピュータがたちあがる。
ありがと、とお礼を言うと、かなり恐縮された。
やはりは首をかしげる。が、恭弥に呼ばれてソファに戻った。
「それじゃあとは・・・学ランとセーラー服、どっちがいい?」
「お前さ・・・」
「ここにいる奴らはなにを聞いても口外しないよ。一昨日のアレを見たヤツばかりだからね」
ひらりと肩まで手を上げて言う恭弥を見て、は暫くしてからああと声を上げる。
あの日はサラシもなにも巻いていなかった。
個人情報を見て混乱されただろう。想像してくすりと笑う。
「風紀委員では、中学校開校時の制服であった学ランを着て伝統を守る慣わしがあるんだ。というわけでどうする?」
問いかけられて(笑みを浮かべながら)は目を細めて口の端をあげる。
「聞くまでもなく学ラン。この歳でセーラーとかありえねーし。あぁ、でも同じのは嫌だな」
「どうして」
「黒髪短髪、同じ学ラン、じゃお前と勘違いされそうだから。つーか、他人と同じとか気にくわねぇ」
の答えを聞いて、顔をしかめていた恭弥はあぁと声をあげ、表情を緩める。
目を細めて恭弥が笑みを浮かべると、びくついていた不良たちがほっと息をついた。
「いいね。それじゃあ・・・外道だけど腕の腕章反対側につけるとか。どうせはTシャツだとかシャツだしっぱなしだとかにするんだろうし。十分見分けはつくだろ?」
「あー。そんでいんじゃね」
「今気付いたけど、むちゃくちゃめんどくさがりだろ」
「死ぬほどめんどくさがりだ」
無表情で問いかけてくる恭弥に、は真面目腐った顔ではっきり答える。
暫く無言で見つめあってから、はぷっと笑った。
恭弥も、口の端をあげて笑った。
なんだか君って、放っておけないっていうか目が離せないっていうか。(面白いし仕方ないから傍に置いてあげる)