例の日に、雲雀は赤ん坊から動物園のチケットを貰った。
曰くランキングで一位を取った商品だ。らしい。ゲームも賭けもした覚えはない(上なんだか裏がありそうだ)が、まぁいいかと受け取っておいた。
「並盛どうぶつえん?」
「そう。行く?」
「・・・CD発売日」
ぴらりとチケットを見せたところ、渋い顔。
雲雀は目を細めて――チケットに顔を向けた。
「あらいぐまにラッコにパンダ。・・・へぇ、トラの子供が生まれたんだって」
「CDは帰りに買えばいいよな!」
「(チョロい)」
即決。
というわけで日曜の予定は決定。
ちゃんと女らしい格好をしてこいと命令したところ、えーと文句を言われたがお菓子で釣っておいた。
いままでなかったが待ち合わせなんてすることに。(風紀で待ち合わせしたら最後は絶対に来ない)
集合場所に時間きっちりについて、少し自己嫌悪に陥ってみたり。(笑ったやつは咬み殺す)
「・・・。遅れるどころか寝坊してそうだな・・・」
あぁ今更、と本当に今更ながらそのことに気がつく。
のだが。
「よ、恭弥。私服久々に見たなー」
普通にケラケラ笑いながら現れた。
うるさいよ、と雲雀は返しておく。
いいから行こうぜトラの子が待っている!とはもううきうきしながら歩き出した。
雲雀ははぁとため息をついて隣に並ぶ。
動物園へは電車で向かわなければならない。バイクで行ってもいいがめんどうだ。
「それ前に買った服?」
「そ!よく覚えてたな。かくいうお前も前に買った服?」
「そう。よく覚えてたね」
「まぁぶっちゃけちまうとミツコさんのはしゃぎっぷりのお陰なんだけど」
「同じく」
前に三人でお買い物に行くことに。
アンタら外出なさすぎなのよ!と散々説教されゆえに。(ミツコ節)
冬物たくさんもってないから、とがほらを吹き、雲雀も制服しかないし、と便乗したのだが――逆効果に。
だったら買いに行くわよそろそろ春物が出ると共に冬物セールだから、とごり押しされて決定。
げんなりしてやる気のない二人はともかく、ミツコさんは大はしゃぎだった。
とはいえ、服を前にしたらも大はしゃぎだった。
ついでに雲雀の服を買う時が二人とも一番熱かった。
逃げたくなるほどに。逃げ出せなかったが。
「俺たちでコーディネートした服だ。かぁっこいーねー恭弥クン男前〜」
「は珍しく女らしいね。ジャージじゃない」
「うるせーよ」
めんどくさがる上室内にいることがほとんどなのでずっとジャージ。
似合ってるからいいだろとか言われても頷くことしかできないが。(無駄に似合いすぎている)
むっとするに、雲雀はくすりと笑った。
「でもホントに珍しい。可愛いね」
「服ってすごいな。着るだけでここまで印象変わるとは」
「(素直に褒めてもこれだもんな)」
ちょっとすさんだ笑みを浮かべてしまう。
は呑気に服を引っ張っている。
髪もちょこっとかまってある所為で、風紀委員のだとは一目ではバレないだろう。
そのことに二人で安堵する。
「恭弥も、普段学ランでびしっと・・・?してるから多分一目じゃバレねーよな」
「なんで疑問系にするかな」
「いやーあっはっは。うんうん。やっぱすらっとしてるから細身のパンツ似合ってる!ジャケットもこれ選んで正解だな」
じろじろ見てから、うんうん満足げに頷く。
雲雀は顔をしかめて少しだけそっぽを向いた。
ただやはりバレたくはないなと思うのは二人とも同じだ。
雲雀としては、邪魔されたくない。
としては、周りが(風紀委員が特に)うるさい。ので。
ただ歳の差が目立つのは嫌だったが。
のんびり話しつつ電車に乗って、ついた動物園。
「・・・咬み殺し」
「たりすんなよ」
最後まで言えず。
しかし目の前には群れる人々。そして動物。
そういえば草食動物多かったんだっけな、とつぶやくと、お前は室内向きだなとの返事が返ってきた。一番の室内型(引きこもり)から。
さて何処から回ったものかと周りを見る。
「あ、あらいぐま発見!」
「はいはい」
さっさと見つけて早足に歩いていく。走りたいのをガマンしているらしい。
雲雀は適当に返事を返して、ゆっくり後を追った。
隣に並べば、やはりほわほわした笑顔。
「可愛い?」
「可愛い・・・」
動物を観察する気もないのでを観察する。
へらりと笑ったは、かわい〜と言いながらあらいぐま凝視。
思わず噴出してしまうが気付かれない。
「ころころしてる〜ふわふわしてる〜〜」
「攫っちゃダメだからね」
「さ、攫わない!」
「(無茶苦茶不安だな)」
冗談で言ったのだが一生懸命返された。
何か洗ってる!だのあらいぐまーだのラスカルーだの。(叩いておいた)
声をかけるのはどうだろうかと、に呼ばれているあらいぐまを見てみる。
完全無視。やはり雲雀は噴出した。
こうしていると本当に女だ。
普段の男っぷりは作ってるのだろうかと思えるくらい。(それはないなと自己完結)
次行こう次!と満足したらしいの隣に並んで、やはりのんびり歩いた。焦るな恥ずかしいと手を引く。
「首なげぇ」
「(アホ面だ)」
ぽかんと口を開けてキリンを見上げる。
また噴出しそうになるのを堪えてから、雲雀もキリンを見上げた。
ああ長い、とつぶやいたところだろ?との返事が返ってくる。
「あの首折ったらどうなるんだろうね」
「さぁ・・・やっぱぱきって音なんのかな」
「なるだろ。骨あるんだし」
会話がえげつない。少し隣にいた家族に引かれた。
よーし次々、と歩いていると、爆発音。
なんのショーだとに引っ張られて向かってみると、素敵な群れを発見した。
「これは咬み殺してもいい?」
「んー、いんじゃね?あ、返り血は浴びないこと」
「まぁ、なるべくね」
さりげにトンファーを装備。
からOKが出たので咬み殺しに。
ボコボコ男を殴っていると、の「はあ?」という声が聞こえた。
見ればいつもいる三人組みの一人。爆弾少年。
「なにそれみんなでツナのペット探そうの会って。俺呼ばれてねーんだけど」
「除外されたんじゃない」
「って!なんでオメーがここに!」
「来たから」
素直に返せば呆れたんだか怒ったんだか微妙な表情をされる。
手にはさりげなくダイナマイト。雲雀はトンファー。
しかしにここで騒いだら公開処刑だ、と銃を構えられ、大人しく引き下がった。
「まさかデートとか?」
「デート?違う違う遊びに来ただけだって」
「お前・・・ほんっと鈍いな・・・」
「・・・(本当に)」
爆弾少年に激しく同意。そしては怪訝顔。
呼ばれてないだのなんだのどうでもいいだろう(知らないし)と言ったところ、まぁなとの返事が返ってきた。
「大体動物園でペット探すほうが間違ってんだっつーの」
「動物園でペット?また面白いことを考えるね」
「デカ過ぎて家じゃかえないだろ?・・・あぁ、でもトラの子欲しいなぁ」
「(ダメだこいつら馬鹿だ!)」
思わず笑みを浮かべてしまう雲雀。
は顔をしかめてからへらりと笑う。
大きくなったらやっぱり厄介じゃないトラがいたらいいかもしれないけど、と言ったところ、ためしに飼ってみるか、とが頷いた。
「いや・・・お前、マンション動物OKか?」
「あ!ダメだった!畜生〜〜」
「じゃあ風紀で飼おうか」
「お!いいな!いや待て!これ以上経費増やせねえ!」
現実的な指摘をされて諦める。は本当に残念そうだ。
爆弾少年は呆れたようにため息をつき、じゃあ10代目を捜すから、と去っていった。
「で?本当に除外されたとか?」
「いや。・・・多分、違う?」
にやりと笑って問いかけると、は首を横に振った後で首をかしげる。
外されたら今の生活なくなるなーでも戸籍も住民票も作ったし何とかなるか、とそのまま現実的な発言。
雲雀はふぅと息をついた。
そのまま手を引っ張って歩き出す。
「その時は僕が囲ってあげるよ。風紀の経費で」
「だからもう他に使えねっつーの」
「削ろうと思えば色々と削れるんだよ。僕の学費とか」
「お前経費から学費だしてたのかよ!?」
さらりと言えば無茶苦茶驚かれる。
うんと頷いて(もちろん冗談だ)、下手なことは教えないでおこうと雲雀は誓った。(草壁だけは知っている)
なにか言いたそうなにラッコ館発見、と言って気をそらさせることに成功。(後々暴露したら蹴られた)
はラッコの群れを見てまたへらへら笑っている。
「あ!貝わった!」
「そりゃあ生きるために必要なことなんだし」
「夢のないこと言わない!いーな〜。抱っこしたいな〜」
「攫っちゃダメだよ」
「ささ攫わねーよ!!」
本当かと疑ってしまうほど力いっぱい言われた。
じと目で見たところ顔を逸らされる。
ふっと笑ってからもういい?と問いかけると、うんと頷かれた。
大はしゃぎのに結局引っ張りまわされる。
途中休憩がてら昼食を取った時だけが、唯一ノンビリ過ごしていられる時間帯だった。
そして問題のトラゾーン。
「来た来た来たー!」
「・・・うわ」
あまりのテンションの高さに雲雀は引いてしまった。かなり珍しいことに。
トーラ、トーラ、とは謎の音頭。
もう体がはしゃいでいる。
「早く子供見にいこ子供!」
「はいはい・・・」
うきうきしているにぐいぐい引っ張られる。もう満面の笑みだ。
まぁいいかと思ってしまう辺り重症だなと思いつつ、雲雀はに引っ張られて歩いた。
ついてみれば、檻の中に戯れる小さなトラの子供たち。
もちろんが騒ぐはずが無い。
「かぁ〜〜わい〜〜」
「・・・よかったね」
今までになく顔が輝いている。
ちっこい!ふわふわだ!と一人大はしゃぎ。
檻に手をつけない、と雲雀は両手捕獲。手すりに降ろした。
それでも嬉しそうに見ている。
「いいなーいいなー。抱っこしたいなー」
「攫っちゃダメだからね」
「・・・ダメ?」
「・・・・・・ダメ」
無駄に上目遣い。そしておねだり。
ぐっとくる。だめかぁとしょぼくれられてやはりぐっとくる。
はぁ、とため息をつくころには、もうは復活してかわい〜〜とトラの子供を見ていた。
「可愛いな〜。ほしいなぁ〜」
「だからダメ」
「えーーほーしーいー」
「だーめ」
駄々を捏ねられる。
なんだこの子供と思いつつ後ろから捕獲。(銃を取り出そうとしていた)
少しのノリにのせられてげんなりした。
「せめて一匹・・・」
「(・・・何匹捕ろうとしてたんだ)」
ぼそりとつぶやかれて思わずつっこみ。
呆れ返ってため息をつく。
放送が入ったと思えば、ライオンの脱走。
面白そうだなと思うがをここで離しておくとどうなるか分からない。
「、ライオンが脱走だって」
「よし、この隙に」
「(やっぱり)ダメだってだから」
きらりと光る目。しらけ面でつっこんでおいた。
ため息をつけば、チッと聞こえる舌打ち。本気だったのかとやはり呆れた。
かわいいのになー近くにいるのになーと往生際悪くはまだ言っている。
暫く呆れ顔でいた雲雀は、口の端をあげた。
「可愛いものなら他にもいるじゃないか」
「恭弥とか?」
「(そうきたか)」
即答で返されて無言になってしまう。
はまた恭弥も可愛いけどトラ可愛いーとトラに戻る。
雲雀はむっとして、ぎゅうとを抱き込んだ。
「うぉ。新手の技か」
「アホだろホントにアホ」
勘違いされてさらにため息。
え、ちげーの?と声を上げるをしらけ面で見てから、雲雀は額の横にキスする。
ちゅっと音が鳴って、が驚いた顔で雲雀を見た。
「お前なにしてんの!?」
「うん。も可愛いよ」
「(馬鹿の子だ!)」
すぐ近くに赤い顔。
にやりと笑うとの顔が引きつった。
ふっと噴出してから、雲雀はくすくす笑う。
はしかめ面をトラに戻した。
「可愛い」
「あーもー何言ってんだよこの馬鹿の子は」
「照れてる」
「照れてねーよ!」
「可愛い」
「(ああもう馬鹿の子!)」
くすくす笑いながら顔をの肩にうずめる。かなり熱い。
可愛いね、ともう一度言うと、殴るぞ、といいつつも何故だか銃を当てられた。
拘束していたのにと顔を離す。
「あーあ。トラ家に入っちゃった。恭弥のせーだ。騒いだせーだ」
「はいはい。それじゃあ僕らも帰ろうか。もう疲れた」
「えー。脱走したライオン捕獲して無いのに」
「だから飼う場所と資金がないって」
「(問題そこだけなんだ)」
いじけた顔で文句を言ってくるをひっぱり、雲雀は歩き出す。
ぬいぐるみ売ってないかな、アレ以上増やしてどうするの、と話しつつ歩いていると、なんだか焦った沢田が。
「!ヒバリさん!」
「・・・また」
邪魔が出たと雲雀は目を細める。
一瞬青ざめて引いた沢田は、すぐさま首を振って走ってきた。
「すぐに逃げてください山本とか笹川兄弟がいるんで(これ以上厄介ごと起きたら呪ってやる)」
「・・・。わかった」
「え。タケたちも来てんの?(てかなんで俺呪われんの?)」
「(八つ当たり)」
「(でぇぇえーー!?)」
ぜえはあ息をしながら報告してくれる沢田。
そこだけは感謝したが一瞬不穏な空気を感じた。
雲雀が頷いている横では、余計なことを言ってがきょとんとする。(その後なぜか引いていた)
すぐに雲雀は手を引いて歩き出した。
「笹川兄弟がいるなら、このまま会うわけにいかないだろ?女だってバレるよ」
「あ、忘れてた。・・・トラのぬいぐるみ・・・」
「家に帰ればジジとくまが待ってるよ」
「だからキョーヤ」
「ジジ」
いつもながら不毛な戦い。を、しつつ早足に歩く。
売店にてぬいぐるみに遭遇。そして足の止まる。
雲雀は息をついてぐいとひっぱった。
「あ〜〜」
「あんまり言うこと聞かないとジジとくま捨てるよ?ミツコさんに頼んで」
「!!・・・行くッス」
「うん。イイコだね」
すんなりついてくる。ミツコさんパワーは絶大だ。
スタスタ動物園を出て駅について電車に乗って、ようやく一息ついた。
「・・・トラ」
「まだ言ってるし」
ついつい口に出てしまった。
しかしは大変残念そうな顔をしている。
はぁ、と雲雀がため息をつくと、こてんとが寄りかかってきた。
肩に頭が乗せられてくすぐったい。
「(狙ってる?のやつ)」
「・・・ガ・マ・ン」
「それ牛の子だろ」
出てきた言葉を聞いて引きかける。しかしつっこんでしまった。
はぁ、とため息をついて、雲雀はの頭を撫でてやる。
目を閉じたかと思えばさらにくっついてきた。
「(やっぱり狙ってるだろのやつ)」
「変わりに恭弥を可愛がってやる」
「頭大丈夫?」
ついつい出たつっこみ。
しかしは真面目な声で大丈夫だ、と言ってきた。
暫く本気で精神科医の顔と名前を考えてしまった。
駅についてから、CD買うんだろ、とを引っ張る。
はうんと頷いてついてきた。そこまで心残りかと雲雀は顔をしかめる。
街に出てから、雲雀はふと足を止めた。
にここで立ってなさいと言って(母親状態だが本人気付かない)店に入る。
買ってきたのは飴。棒の先にはトラ。
「これでガマン」
「あ」
ひょいと顔の前に出すと、は間抜けな声を上げる。
受け取って暫くじっと見つめてから、ふっと笑って雲雀を見てきた。そのままにっと笑う。
「さんきゅー」
「はぁ・・・って手の掛かる子だね」
「恭弥に言われたし」
「なにそれ」
言い返されて思わず顔をしかめる。
しかしはケラケラ笑いながら雲雀の手をとり、CD買って帰るぞ、といつもの調子で歩き出した。
息をつきながら、雲雀はの隣に並ぶ。
「ごはんなんにしよっか」
「(ああ今日いいんだ)じゃあ・・・こってりしてないのがいい。冷たいものも欲しいな」
「んー。ポテトサラダとスープスパとー」
「(こってりしてないかそれ)」
「あとゼリーでも買ってくか。さくらんぼでも乗せる?」
「イチゴがいい」
要望を言えばあれ今高くないっけイチゴ、との言葉が返ってくる。
お金に余裕はあるだろ、と返すと、まぁねとの返事が返ってきた。
は飴を指先でくるくる回しながら、くすりと笑う。
「可愛い」
「はいはい」
「恭弥が一番可愛い」
「・・・はぁ」
また可愛いといわれて、ため息をつく。
はくすくす笑って雲雀を見ており、雲雀は目を細めてむすっとしながらを見返すと、首を伸ばして先ほどと同じ場所にキスした。
「んな!」
「の方が可愛いよ」
「おまっ・・・!はぁー・・・。なんだこのバカップルのノリ」
「あぁそういえば」
言われて気付く。
手は繋ぎっぱなし。無駄にじゃれつく。
傍から見れば大変腹の立つ二人組みだろう。(雲雀的定義)
今気付いたよ、とが言い、雲雀はもうどうでもいいんじゃない、と返しておいた。
帰ってくるのはそれもそうだなで決定だ。当たっていた。
結局のんびりあるいてCDを買って、あとはスーパーに寄って帰るだけ。いつも通り。
夕食はポテトサラダとスープスパとイチゴで、ゼリーがなくなっていた。
めんどうだけど、かまいたくなる。(可愛いと思ってるのは君だけじゃないんだよ。こんなこと思うなんて、本当に僕、病気かもしれない)
病気だと思う。病名は黄昏ロマンス症候群。