風紀委員の中で、は恐れられている。
しかしそれ以上に慕われている。
ありえない強さ――それを表に出さない性格。(めんどくさがりなだけだと分かっていても人というものは好意を持つもので)
委員長に負けず劣らず自分勝手だが、他人への気遣いと最低限の常識を持っている。
だから草壁も、を慕ってはいた。くすぐったい表現だが、友人として。
「弱いヤツは嫌いだ」
委員長は冷酷無慈悲だ。一言で表せば。
今ではストッパー的存在であるがいるが、がいなければ以前のように容赦なく人をめった打ちにする。
例えそれが風紀委員であろうと。
「い、委員ちょ――がはっ!!」
「――さて。目障りな群れを咬み殺さないとね」
倒れる風紀委員に目もくれず、委員長はトンファーを構えて目の前にいる不良達を見る。
確かに委員長は並盛の秩序を守っている。
風紀も、多少(とはいえないほど)本人が乱しているときもあるが、守っている。
弱い人間同士で群れることを嫌う委員長は、草壁達を無視して不良たちを打ちのめしていく。(気付けばどこにもいない、という現象はよくあることだ)
相手がもはや戦闘不能であろうとも、気が済むまで咬み殺す。
その強さと冷酷さに、時折草壁もぞくりとしてしまう。
下にいる風紀委員達は、恐らく毎度ひやりとしているのだろう。
その委員長が唯一興味を持って変化を見せる人物はだけ。
がいればと、前まではまったく思いもしなかったことを考えてしまう。
は委員長と違って無闇に暴力は振るわない。
委員のメンバーも仲間として扱う。だからこそ信頼も尊敬も親しみも持たれる。
雲雀は象徴、は右腕。
恐ろしすぎる二人ではあるが、この上ないコンビだと草壁は思っている。
「片付けておいて」
一声かけて、委員長は歩いていく。
時折こうして、無しで街を回る時がある。
がいると満足に人を咬み殺せないから、だろう。がサボる時もよくあるが。
委員長とよく一緒にいるようで自由奔放のは、このことを知らない。
委員長が涼しい顔で応接室に行く所為もあるんだろう。
聞けばは、ここに来るまで喧嘩など一切関係の無い生活を送っていたらしい。
だから委員長のやりかたにも、風紀委員のやりすぎた行動にもストップをかけてくる。その所為で最初は下が騒いだ。
不良がよくふき溜まる廃工場。
初めてを見たのはそこだ。
委員長にとっては人生の転機とも言えるほどの衝撃。
草壁達にとっても、あの出会いは衝撃的だった。
普段自分たちが身を置くような喧嘩とはかけ離れた、戦い。
捕らえるだの逃げるだの言っていたから、殺し合いではなかったようだ。
それでもの相手達は明らかに堅気ではなく、そして不良でもなく、プロ。
その中で一人は浮きだったように存在しており(後々分かったが委員長に負けないマイペース)、そしてありえない動きで、委員長ごと全員の目を奪った。
殺気が全くなかった。
ただ目の前にあるモノ、と認識して、邪魔だから潰した。ただ、それだけ。
見たことも無い素早さ。
明らかに喧嘩慣れしておらず荒削りだったが、違う、と感じさせるには十分だった。
銃を手に取ったかと思えば、なんの躊躇もなく人を撃つ。
殺さずに苦しめるためだけに。ためしに撃ってみました、といわんばかりに。
体は気付けば震えており――さらに、の発した殺気にぴくりとも動けなくなった。
その中で唯一楽しそうに笑みを浮かべていたのは、委員長。
この人たちは次元が違うと、その時草壁は悟った。
ただアレで一目惚れしたらしい委員長は、長いことその気持ちに気付いていなかったようだが。(物凄く後で気付いていた。周りからは一目瞭然なのに)(委員長が恋だなんてそれこそ本当に衝撃だったけれど)
――そんなは、話してみればごく普通。
かなりマイペースでズレているところが多々あるが(目立つほど)、風紀委員の中では一番の常識人だ。
あの委員長に説教をし、さらにはしっかり教育している。(そしてされてもいる)
挨拶は「やぁ」くらいの委員長がおはようとに言っているときは、風紀委員全員が思わずチキン肌になってしまった。(その後三時間戻らなかった)
学校に提出してある個人情報では13歳男だが、は女だ。
例の事件を見ていた委員達は全員知っている。
本人曰く本年齢とちゃんとした性別での戸籍も作ってあるらしい。
好きなものはゲーム。
そして音楽。
隠しているらしいが可愛いもの。
委員長がしょっちゅう世話を焼いて、そして半分同居状態だったりする。ありえないくらいの鈍感。
見た目と、風紀委員にも関わらず案外普通なところで、他の生徒達にも慕われている。
体育祭で見事並盛の二強と呼ばれるようになったが。(やはり本人気付いていない)
「なぁ、これ普通生徒会でやるもんじゃね?」
「・・・それは我々で執り行うことに決定したんだ」
「まぁた恭弥か。どーせ経費搾り取るためだろ」
「(バレてます委員長!)」
歳が自分たちよりも上なためか、いつでも余裕。(可愛いものを前にすると暴走するが)
委員長がいない時に限り、草壁はちょこちょこ話している。
時折愚痴ったりもする。(は決してばらさない)
ただやる気がないのがたまに瑕。
。今日は見回りがあるんだぞ。春が近くなって変質者が増えてるからな」
「げーマジで?がんばれよ、お疲れさん
「お前も行くんだ」
パソコンで適当に報告書だの何だのをまとめていたは、飽きれば帰ろうとする。
草壁が声をかけると、チッと舌打ちして椅子に座った。
なんとか引き止められたと草壁はため息をつく。
「お前がいないと誰にも委員長はとめられないんだ」
「おいおいだからこいつ渡すっていったじゃねーの。一発で止まるぜ」
扱えるか止められるか
が銃を真顔で差し出してくる。
冗談だと分かっているがつっこんでしまう。(前に面白がって構わせてもらった風紀委員が衝撃に耐え切れずぶっ飛んだり肩を脱臼したり)
はくくっと笑うと銃をしまい、まぁあいつなら銃弾くらい止めそうだけどな、と冗談にならないことを言ってきた。
「はははっ。青くなるなよ草壁ー。いくら恭弥が人並みはずれてたって人の子だから」
「誰がなんだって?」
噂をすれば影がさす。
応接室に入って来た委員長が、目を細めてを見た。
はお前が人の子だって話し、と言ってから、ひらひら手を振ってンな呆れるなってーと流し始める。
草壁は二人に挟まれひやひやだ。(あの顔呆れていたのかと現実逃避までかましてしまった)
はぁ、とため息をついた委員長は、ちゃんと残ってたようだねと言ってソファに座った。
「草壁に止められた」
「よくやった草壁」
に指差されてびくりとした草壁は、委員長の言葉を聞いてほっと息をつく。は舌打ちだ。
ぞろぞろと風紀委員たちが集まると、委員長に声をかけられて――は窓へ。煙草を吸いだした。
煙草を嫌う委員長の前で喫煙を許されているのは、唯一委員長と互角(下手したら委員長以上だ。まともに戦ったことはない)の実力を持っただけ。
何人ずつでどこを回る、だのなんだのいつも通り話が始まるが、は早速やる気なく欠伸した。
委員長はもう気にしていない。
「――、話し聞いてた?」
「とりあえずお前と回りゃいーんだろ」
無駄な確認。
委員長も分かっているのでため息一つで終らせる。
「今日は不良相手じゃないから。下手したら襲われるかもしれないよ」
「変質者だろ?セクハラ働くだの追い掛け回すだの体見せるだけだの、芸のない奴らにやられるかって」
大体を倒せる人物が思い浮かばない。草壁はこっそり息をつく。
委員長もため息をついた。
「やっぱり聞いてない。三人で群れて女捕まえて、輪姦(まわす)やつらもいるんだよ」
委員長が言った瞬間、冷める空気。
嫌な重圧が体を襲って、草壁達は冷や汗を流す。
が、煙草を咥えながら目を細めていた。
「そいつは聞き捨てならねーな」
低い冷めた声。
いつかのと重なる。
見たことの無い輩達は、狼狽しながらも脅えていた。
しかもいつの間にやら手には銃。(絵になりすぎている)
いつも使っている銀色ではなく黒。
にやりと、委員長が笑みを浮かべた。
「いつになくやる気だね」
「おう。――いいかテメェら」
低い声で返事を返したかと思えば、さらに低い、ドスの効いた声。
思わずひくりと体を動かしてしまった。
がちらりと横目で全員を見る。
「世の中にゃあ確かに馬鹿な女も、腹立つ女もいる。けどな・・・だからって強姦だの輪姦だのするヤツは屑だ」
吐き捨てるように屑と言って、ふっと煙を吐く。
時折発砲するので、やはり全員緊張状態。
委員長だけが余裕面。(羨ましいと片隅で思った)
「どんな女だろうと体侮辱するような行為だけはするな。まずその前に女を大事に出来ねぇ男は――屑だ」
静かに言うと、煙草を灰皿に落とす。
が新しい煙草を咥えると、委員長がふっと笑った。
「まるで強姦にあったことのある女の言い草だね」
「ねぇけど。女としても男としても放っとける事柄じゃあねぇな。――いくら恭弥でもそういうことをしたらどうなるか、覚えとけよ」
言ってガチャンと銃をならす。(あれ?もう撃てるってやつ?とさらにびくついてしまった)
ワオ、と楽しそうに声を上げた委員長は、先ほどより一層楽しそうに笑みを浮かべて足を組み替えた。
「それじゃあ誰か強姦でもしたら、は本気で相手してくれるって」
ズガン!!
委員長の言葉の途中で大きな音がなる。
何人かがヒッと声を上げた。
は煙草を咥えたまま冷めた顔。
委員長に銃を向けて静かに座っている。
委員長は、先ほどと違って真剣な顔。
一ミリも動かずをじっと見ている。
はらりと落ちる髪。を、偶然目撃してしまった草壁はやはりぞっと身を凍らせた。
「相手じゃない。潰す」
体温を感じさせない声。
冷えるもなにもかも超えて感情すらない。
無表情――というよりは無関心。
あの顔で見つめられれば死ぬ覚悟をするよりも先に絶望感に襲われそうだと、草壁は小さく息を呑んだ。
委員長がふっと息をついて、背中を背もたれに預ける。
「冗談だよ。そんなもの興味ない」
「そう」
「(絶対に委員長冷や汗ダラダラだな。結構必死だな)」
バレないのをいいことに勝手に思う。
しかし真実だろうと草壁は推測。(拒絶されることはなにより恐怖だろう)
は先ほどと変わらぬ表情、そして声。
顔を窓の外に向けた。煙草をぽいと灰皿に入れたかと思うと、また新しい煙草に火をつける。
ふ、っと煙を吐くと、草壁達に顔を向けた。
「じゃあお前ら――・・・全員、わ か っ た な」
ゆっくりと言って、確認を取る。
心境的にデッドオアアライブ。
全員思わず「はい!!」と声を揃えて背筋を伸ばして返事を返してしまった。
ふっと息をついて笑ったかと思えば、は銃を持っている腕を伸ばす。
ズガン!と撃った先、小さくパリンと物の割れる音がする。
「だ、誰だ!?ていうかナンだ!?」
「せんせーすみません。新しいマグカップ取り寄せます」
どうやら向こう側の教室の――というか準備室の、教師のマグカップを割ったらしい。
教師はかなり焦って窓から顔をだしたが、銃片手に(なんだか冷たい)笑みを浮かべるを見て、固まった。
ふっと息をついたが、腕を下ろして体を前に戻す。
「学校であまり発砲するなって言ったよね」
「悪かったな。こうでもしないと誰か撃ちそうだ」
「・・・」
冗談が微塵も詰まっていない声に、全員絶句。(先ほどから委員長と以外喋っていないが)
それじゃあ行こうか、と委員長が声をかけると、ようやく全員ホッと息をついた。
委員長の発言で安心するなど前代未聞だ。
「潰す」
「やる気満々なのはいいけど、みんな引いてるよ」
はやる気満々に窓から降りて、銃をどこかにしまいこむ。
委員長はいつもと変わらぬ笑みを浮かべてに声をかけ、眉根を寄せて委員長を見たはふぅと息をついた。
「いやぁ。久々にかちーんと来てな。被害者は」
「今のところ五人。内二人が車での犯行。被害届が出ているのはね。警察はなにをやってるんだか」
「ホント多すぎ。まぁ、被害届よく出したもんだよ。偉い。俺が血祭りに上げてやろう」
委員長のお陰でが少しだけ元に戻る。
二人の会話を背に聞きながら、草壁他風紀委員たちはさりげなく安堵した。
ただのフフフ、という上擦った(狂気じみた)笑い声と、委員長の楽しそうなフフ、という笑い声が聞こえてきてまた帰りたくなる。
普段まともでストッパー役のは、怒ると無茶苦茶怖い。
あの委員長ですら手をこまねくのだから。(いや完全に尻にしかれてる。その時ばかりは)
そんなも気にせず(慣れなのか性格なのか)、委員長はさっきの銃なに?と問いかけている。
「いつも使ってるのと違うけど」
「いつものはS&WのM10・ミリタリー&ポリス。信頼性が高くて連続射撃に向いてる。ついでに初心者向き」
「ふぅん」
「さっきのはベレッタ・M92FS。本場イタリアから直輸入。速射性に優れて装弾数も多い」
映画でしか聞いたことのない名前を出されてもう聞かなくていいと頭を振る。どうやら他全員もそうらしい。
後ろの中心人物二人を抜かして、全員無言で歩く。
決めたとおり別れろと委員長が指示を出した途端、が電話をかけ始めた。
「ちゃおリボーン、フゥ太いるか。ああ。頼みたいことがあるんだ」
「なるほど。手っ取り早い」
隣で委員長が関心したように息をつく。
歩くそぶりも見せず腕を組んで、全員にストップをかけた。
「頼むフゥ太。並盛にいる連続レイプ犯の出没する場所のランキングを取って欲しい」
フゥ太、ランキングと聞いて、が気に入っている子供の顔が浮かぶ。
しょっちゅう学校にきている。(実はランキングを取ってもらった。女子に疎遠にされている男子3位といらないランキングも聞いたが)
しばらく黙り込んでいたが、口の端を上げた。
「――ありがとうフゥ太。フルーツタルト作ってやるよ」
どこか嬉しそうな、優しい声で言ってから、が携帯を切る。
どこ?と委員長が問いかけると、は場所を一言言って歩き出した。
「あと他の変質者のランキングも取り次第連絡入れるってよ。メールで」
「ワオ。太っ腹だね。お菓子でも買ってあげようか」
「だったら材料買ってくれや。フルーツタルトとブラウニーと恭弥の紅茶でばっちりだな」
「レアチーズケーキもつけて」
「それお前のリクエストだろ」
さりげなく便乗する委員長にが呆れ顔してつっこみ。いつものに戻ってきた。
あそこまで不機嫌だったを元に戻せる委員長に、草壁達は尊敬の念を感じる。(普段は主に恐怖)
最初こそ力や条件で共にいた二人だが、最近じゃ息があっている。(そりゃ半同居状態じゃなるかなとも思ってみる。所帯じみてる所為で下手したら夫婦に見える)
メールを受け取ったが、変質者と出没する確立の高い場所を上げていく。
委員長の指示で、草壁達は数名ずつに別れてそれぞれの場所に向かった。
委員長とは、二人だけ。
なにもなければいいけれど(相手に)と思いつつ、草壁は仕事を終らせるため指定された地点に向かった。
変質者を捕らえたら学校へ、という指示だったので、それに従い学校へ行く。
本当に変質者が現れてボコボコにして捕らえておいた。
戻ってみれば、他の風紀委員たちも同じようだった。
「あののキレ具合尋常じゃなかったよな・・・」
「・・・俺死ぬかと思った・・・」
変質者たちを一箇所に集めて(積み上げて)、それぞれ先ほどのことを思い出す。
普段は普通なのに、単なるサボり魔なのに、と話していると、うぅ、ひぃ、という脅えた声。
顔を向ければ、トンファーを男の背中に当てている委員長と、両手の銃を二人の男にそれぞれ当てている
三人ともボロボロだ。
そしてがまたあの薄ら笑いを浮かべている。
「さっさと歩けよ。――誤って銃発砲しそう」
「ヒィッ!!」
目を細めて笑う
銃を突きつけられていた男達は足を引きずりながら歩く。
怖いを、委員長がちらりと見て笑った。(委員長は殺気立っているが物凄く好きだ)
草壁達の前まで来て男たちが脅えたように足を止めた瞬間、ガツッとが頭を殴って二人を倒す。
委員長も同時にトンファーで咬み殺していた。
草壁達は、思わず後ずさる。
「よく見ておけ。アホなことやったヤツらが――俺に見つかるとどうなるか」
目を細めて草壁達を見たは、男二人に顔を戻す。両手には銃。
ヒッ!と男たちが声を上げたが――逃げる間もなく。
ズガンズガンガゥン、とは両手で撃ちはじめた。
男達は悲鳴を上げて悶絶している。
二発目で右の男が失禁、三発目で気絶。左の男は一発目で気絶。
しかしは手を止めない。
隣でボコボコにしていた委員長は、手を止めてを眺めた。
弾がなくなるまで撃ち終えたは、ブンと銃をふってしまう。
地面には二人分の血がどろどろ広がった。
「ちょっと撃ちすぎじゃない?」
「(ちょっとどころじゃないッス!!)」
「なに。これくらい軽いだろ。動脈は外してある」
「(どんな腕だよ!?)」
二人の言葉を聞くたび戦々恐々。
しかし固まる草壁たちも気にせず二人は普通だ。
目の前で起きているありえなさすぎる事件に、誰も動けない。
そっち終ってねぇなら撃ち込みてーんだけど、とが銃(ベレッタ)を取り出して新しく弾を入れると、委員長は笑みを浮かべて下がった。
「ヒッ――!!」
ズガンズガンと音が響く。
夕方の校庭。
かなり異様な光景だがなんだか自然に思えてきて、草壁はどうしたものかと他人事のように思う。
やはり男は血だらけになって転がり、委員長は携帯で救急車を呼んでいた。
「――で、。一般人に銃使っちゃったら、警察に突き出せないんだけど」
「病院でもみ消せ」
「今日と明日の夕飯奢り。あとはそうだな・・・土曜日買い物。全部奢り」
「余裕」
冷めた笑みで男たちを見下しながら、が委員長に返事を返す。(あのそれってデートじゃ、と思ってもつっこめない)
委員長は満足したような笑みを浮かべると、いいよ、と言って電話になにやら命令。
銃をしまいこんだを見て、そして元の空気に戻ったを見て、ようやく草壁達はホッと息をついた。
は呑気にん〜と声を上げながら、両手を伸ばしている。
「――はぁ」
「それじゃあ帰ろうか。引き渡しよろしく」
「はい!」
が伸び終わると共に、委員長が声をかけてくる。
背筋を伸ばして返事を返すと、委員長はさっさと踵を返した。
はようやく草壁達を見たかと思うと、苦笑いしてわりーな、と手を上げる。
「どこ行く?」
「あー・・・松屋?」
「安すぎる。・・・前に行ったパスタ屋。夜のランチコース」
「んー。あ、帰りCD買いてー」
「いいけど。あぁ、新巻、よろしく」
「はいはい。それじゃあ荷物もち」
「はいはい。仕方ないね」
先ほどまでのことがなにもなかったかのように、二人は呑気に歩いて帰っていく。
とことん甘い委員長に、ある意味草壁達は身震いした。(あ、今車からさりげなく引き離しましたね委員長。でも手は離した方がいいんじゃあ)
ぼんやり二人を見送って、見えなくなった頃草壁達はようやく息をついた。
自分たちが手がけた以上にありえない有様になっている男たちに、ふと全員が顔を向ける。
「・・・犯罪を起こしたのが悪いんじゃない。の逆鱗に触れたからこうなったんだ」
「・・・俺気ぃつけよ」
「・・・俺も」
もはや殺人現場。
一人が言い始めると、それぞれみんな俺も、俺も、と言い出す。
草壁も俺も、とつぶやいた。(ここにがいたらダチョウか?などと言って笑うだろう。自分からふっかけたくせに)
はぁ、とため息をついて、遠くに聞こえる救急車の音が近づくのを待った。


















脳ある鷹は爪を隠すというが、お前はどちらかというと御伽噺の鶴かな。(変化をしたら修羅と化す鶴。ところでいい加減、あの人の気持ちに気付いてもいいと思うんだが)