目が覚めれば、少し離れたところに黒い塊が見える。
懲りずにの家に泊まっていた雲雀は、ゆっくり呼吸に合わせて上下する黒を見て、くすりと笑った。
ベッドしかなかった部屋には、雲雀のつっこみにより時計が置かれるようになった。
ただし目覚ましとしては使われない。
ぶっちゃけ雑貨屋に無理やり連れて行ったところ、がこれが良い、と形にこだわっただけの時計を買ったからだ。(その時はまだ可愛いもの好きとは知らなかったけれど、時計は銀製のレトロなもの)
時計を見れば10時過ぎ。
欠伸して、雲雀はまだ眠っているに近づいた。
ベッドは大人の男が三人寝転がってもまだあまるほどの大きさ。
無駄にデカイ。のでは一緒のベッドだろうが気にしていない。大体距離も無駄に開く。
寒いのか丸くなって、布団に顔をつっこんでいる。見えるのは頭だけ。
ふっ笑って頬杖を突いて、の髪を撫でた。
もぞもぞ動いて、ぐぐもった声が聞こえる。
恐らく起きかけているのだろう。
息をついて笑みを浮かべると、雲雀はそーっと布団をはいだ。
どうやら両手で布団を掴んでいたらしい。
きゅっと縮こまって眠っている姿は子供のようにあどけない。
表情の移り変わりのない顔は、こちらまで癒されそうなくらい、安らか。
そっと手を伸ばして頬にあてる。
「ん・・・」
まだ起きたくないとばかりにちょっとだけ眉根を寄せて、布団を持った手を口にくっつけた。
子供のような仕草に笑ってしまう。
肘を退けてぺたんと顔をベッドにくっつけると、雲雀はを抱き寄せて額に口付けた。
がまたわずかに眉根を寄せ、小さく声を上げる。

起こすために名前を呼ぶ。
随分と愛しそうに呼んでしまって――今ではそんな自分にも、すっかり慣れてしまった。(最初こそ戸惑ってそのまま殴り起こしていたが)
髪をすくように手を差し入れて、ゆっくり撫でる。

もう一度、名前を呼んだ。
んー、と声を上げて眉根を寄せてから、が眠たそうに目を開ける。
「おはよう」
まだ寝ぼけている状態。
いつも雲雀はここで声をかける。
多分感覚も思考も覚めきってないの額に、顔を近づけてかする程度にキスをする。
「(あともう少しだけ)」
が完全に起きるまでの、短い時間。
また頭を撫でると、がふあぁと欠伸した。
「・・・はよ」
「(これで、終了)」
眠そうに返事を返してくると、またふぁと欠伸する。布団に顔を押し付けて。
雲雀はふっと息をついて表情を緩めてから(緩みっぱなしだろとのつっこみが入ったら咬み殺す)をぎゅうと抱き締めた。
「・・・くるしい」
「今日凄く寒い」
潰れたような声が聞こえる。多分ふざけてることはばれてる。
はぁ、とため息が聞こえて、雲雀は少しだけ腕の力を緩めた。
「だったら布団にでも入ってろっつーのぉ・・・ぁふ」
「じゃあ入れて」
欠伸交じりに返されて、雲雀はさっさとの布団に入る。
おい、と顔をしかめられたが抱きついておいた。布団もも暖かい。
「あったかい」
「・・・俺は湯たんぽかっつーの」
やはり飛んでくるつっこみ。
雲雀はくすくす笑っての頭に顔をくっつけた。
のは別によくやっていることなので(なにやってんだよとのつっこみが入ったら咬み殺す)よかったのだが、その後――腕が回ってきてぎゅうと抱きつき返されて、珍しく雲雀は驚いてしまった。
「・・・あったけ・・・」
「・・・自分だって湯たんぽにしてるじゃないか」
「ほっかいろ」
「微妙・・・」
本当に微妙だ。しらけ面してしまった。
ただ、ん〜と声を上げて擦り寄られてどきっとしてしまう。
がらにもなく固まってしまった。ただ、体は正直に腕に力を込めたが。
「・・・?」
「・・・んー・・・」
「・・・。え、また寝るの?これで?」
「んー・・・」
しかもそのまま寝る。
離れて顔を覗き込もうとしたが逆にくっつかれてまた固まった。
どくどく心臓が早く脈打っている。
やばいこれはバレる――わけないかと脱力。
脈拍数で気持ちが伝わるわけがない。口で言えば早いが言う気にもならない。
はぁ、とため息をついて、ぺたりと頭に頬をくっつけた。息しずらくないんだろうかと思いつつ。
「・・・寝ぼけてたのか」
昨日というどころの時間帯でなく、空が白むまでゲームをしていたのだから。
ついでに一人じゃ無理だからとかいう理由で付き合わされた。(沢田につき合わせろと言ったが先を越されたくないとスルー)
ということで雲雀も眠い。
眠いには眠いが――眠い。
「(もういいや・・・)」
眠気に負けて、結局二度寝した。(男だろとのつっこみが入ったら咬み殺す)



結局二人が起きたのは昼近く。
まだ寝たいとが渋ったが、循環が悪くなると雲雀が無理やり起こした。
朝ごはん兼昼ごはんを食べてから気付いたこと。
風紀の仕事があった。
「あー。ま、いんじゃね」
「・・・草壁?もう全員集まってる?そう。いつも通りの所為でそっちにいけないけど、予定通り進めて」
「おい!!お前だって――」
横からつっこまれるが、雲雀は無視して進める。
電話を切ってから、外の変化に気付いた。
、見てみなよ。雪だ」
「たくせに――って、なんだって?」
さきほどからの文句を言い途中だったは、雲雀の言葉を聞いてベランダに顔を移す。
ベランダの手すりには積もった雪。
あ、とが声を上げているうちに、雲雀はベランダに出た。
も煙草に火をつけてから後に続く。
「すげー。街中白くなってる」
「だから寒かったんだ」
今更納得。そして寒い。
が手すりの雪を掬い取っているのを見て、雲雀はさりげなく雪だまを作る。
投げたところ小さな雪合戦に発展。(本気で投げたら同じくらい本気で返ってきた)
手すりの雪がなくなるまで雪を投げ合ってから、寒い、と中に入った。
ベランダは普通に広いので中々に体が冷えた。
さむーいといいつつは円状のソファに座って縮こまる。
すっかり消えている煙草を灰皿にぽいと捨てた。
雲雀は黒猫のジジを抱き締めて隣に座る。
暖かい部屋の中にずっと置いてあったジジは暖かい。
気付いたが、あ、と声を上げた。
「ずっりぃ」
「・・・目が輝いてるよ」
恨めしそうだが、物凄く目が輝いている。
さりげに頬も赤くなっている。今にも可愛いという字が浮かびそうだ。
しろい目でを見てから、雲雀はの好きな可愛いものランキング一位と二位が揃っていることに気付いた。
物凄く気付きたくなかったと内心げんなりだ。
やはりというかお約束というか、耐え切れなかったのであろうが抱きついてきた。
「可愛い・・・!!」
「・・・そう。よかったね」
ジジごと抱き締められる。
声はすっかり呆れていた。出てくるのはため息だ。
ほわほわ笑いながら顔を離したは、まだかぁわい〜〜と言いながら頭を撫でたりしてくる。
雲雀がむすっとすると、何故だかさらに喜ばれた。
、ちょっとどころかかなり可笑しいんじゃないか?」
「可笑しくなんてないとも!おっまえ・・・わかってねーよ!」
「(わかりたくもないんだけど)」
口に出していないので伝わらず。
きっと出しても伝わらない。真っ向から否定される。
「恭弥はいじけた顔が一番可愛い!」
笑顔で言い切った。
引こうかつっこもうか(あれでもどうやってとか)考えているうちに、もうは抱きついてくる。
かーわいい〜〜となんだか大喜びなのテンションにそれ以上付き合っていられなくなり、雲雀はため息をついて頭を落とした。
すっかり体が温まってからを引き剥がして、ジジを抱かせて着替えに。(いく間際ジジにキスしてるのを見て腹が立った)
学ランを着てから、にも着替えるように言う。
「えー。このクソ寒いのに」
「文句言わない。なんなら適当に雪合戦でもしながら。折角の雪だよ」
もう明日には消えるかも、というと、は外を見ながらうぅんと唸る。
やはりベランダの雪だけでは物足りなかったらしい。
チッと舌打ちすると、ジジを置いて寝室に入っていった。(その間ジジの鼻にデコピンを食らわせて報復)
学ランを着て出てきたは、ついでに買い物もしてくるかなと冷蔵庫を見ながらぼやいた。
「暖かいのがいいな」
「・・・結局かよ」
「今更」
ジジを抱えつつ言えば、は微妙に目を泳がせて「もーいーか」と言い出す。
雲雀はにやりと笑ってジジをぽいと投げた。(こうするといつも怒られるけれど)
外に出れば適度に積もった雪。
あまり降らない地域な所為か、急に降った雪に車は混乱しているようだった。
比較的綺麗な雪を雪だまにして弄んで、時折ぶつけ合って歩く。中々楽しいが物凄く痛い。
群れているやつらを発見して思い切りぶつけてやると、に呆れ顔された。
「すっげー今楽しそうだった」
「うん。楽しい」
流してやれば呆れ顔。
やってみなよ楽しいから、と不良を指差すと、は不良たちを見てから無言で剛速球を投げた。雪だまの被害者が二人に。
雲雀とを見て逃げ出す(もはや二人で恐れられている)不良たちに、雲雀もも容赦なく雪を当てる。
あ、案外これ楽しいかも、と言い出すに、雲雀はくっと笑ってしまった。
やはり群れている奴らに歩きつつ雪だまをぶつける。
逃げる前に倒せるしいいかもこれ、と言うと、が銃を出して今度からコッチでやってみるか、と問いかけてきた。
そうしようかなと笑みを浮かべると、冗談だ真に受けるなと真顔で返される。
(そんなもの冗談に決まっていると)鼻で笑ったら舌打ちされた。
歩いてると、ばしゃあと車に雪交じりの水をかけられる。が。
途端、が振り向いて思い切り雪だまをぶつけた。
「・・・」
「行こう」
歩行者優先、ときっぱりいって、はスタスタ歩いていく。
雲雀がいくら呆れ顔しようと無視。
車が明らかに凹んだような音を立てていたが無視。また雪だまを装備していた。
歩きながらこのために常時持っていたといわれて、やはり呆れた。
手が冷たいとポケットにつっこみながら歩いていると、学校から楽しげな声。
なんだろうかと行ってみると、ヘンテコなラジコンが足元に走ってきた。
ついでに沢田も。
「なにこれ?あとそのデカいカメ」
「・・・いや、デカイっつーかさ」
「ヒバリさん!と!」
隣のが顔を引きつらせてデカいカメを見る。
思い切り滑り込んできた沢田は顔を上げて驚いた。
「いや、あの!――まぁぶっちゃけリボーンの暇つぶしに全員まんまと引っ掛けられて遊ばれてるっていうか」
「・・・。どんまい」
「・・・」
焦ったのは最初だけ。
すぐさますさんだ笑みを浮かべて説明にならない説明をしてくる。疲れた様子で。
が哀れんだように声をかけてぽんと肩を叩くと、沢田はかくりと頭を落とした。
それで二人は?と問いかけられて、があぁと声を上げる。が、答えたのは雲雀だ。
「せっかくの雪だ。雪合戦でもしようかとね」
「(ヒバリさんも〜〜〜!?)」
「といっても、群れる標的に一方的にぶつけるんだけど」
「なんで捕まんないんですか!?」
「まぁ・・・主に不良に当ててるから?」
「(主に?!)」
雲雀の言葉を聞いて、やはり沢田はつっこんでくる。
が首をかしげて答えると、やはり顔だけでつっこんできた。
会ったのもなにかの縁だしなんならお前に当ててやる発言をすると、沢田が思い切り引いて顔を青くする。
隣のは呆れ顔だ。
「やめれやれよ」
「ひいっ!!」
が声をかけたのと沢田が悲鳴を上げたのはほぼ同時。
そして沢田の手には見たことの無い子供が持たれている。
何故だか顔を赤くして目をハートにした子供。
チャイナ服を着た女の子だ。思わず手を止めてしまった。
はきょとんとしてから、よぉ、と声をかける。
「お前も遊んでたんだな。――うわー、じゃまた。行くぞ恭弥」
へらりと笑って頭を撫でたが、すぐさま雲雀の手を掴んで歩き出す。
雲雀はと――頭に変な丸の浮かんだ子供を交互に見た。
「あれ?」
「またなツナ」
「・・・まぁ、いいか。風紀の仕事もたまってるし。またね」
ぽいと手に持っていた丸い変な物体を落として、雲雀はに引っ張られて歩く。
後ろから、沢田の焦ったような声が聞こえてきた。(「ちょっ!ヒバリさんとのダブルでーー!?サービスじゃないからイーピン!!」)
「走るぞ恭弥」
「なんでそんなに焦ってるんだ?」
微妙に冷や汗を流しつつスタスタ早歩きするに、雲雀は怪訝顔で問いかける。
はあー・・・とぼやきながら、とうとう走り出した。
「多分すぐに――」
が声を上げたのと同時に、後ろからドォォォオオオ!!という爆発音が聞こえてくる。
驚いて振り向くと、目の前が真っ白になった。
爆風で飛ばされかけるがなんとか踏ん張る。
「――さっきの子、極度に恥ずかしくなると爆発起こすんだ」
「・・・(ほんとあの子どんな子供たちを相手にしてるんだ)」
多分呆れているだろう自分の顔。
そしてはげんなりしつつもほっと息をついている。
すまんツナ、と両手を合わせて黙祷するを見てため息をつくと、雲雀は手を引っ張って歩き出した。
「なんだかやる気もなくなったし、そろそろ帰ろうか」
「あー・・・まぁ、そうだな。スーパー寄ってこ」
さくさく溶けかけた雪を踏んで歩く。
はもうダルそうだ。どうせ寒いんだろう。指先が冷たい。
スーパーに――つくまえに、雲雀は群れを発見。中々な数だ。
やる気満々に殺気だつと、が隣でため息をついた。
「先に帰ってていいよ」
「はいはい・・・」
一言言えば帰ってくる呆れた声。
するりと手を離すと、途端に冷たくなった。
なんだか名残惜しくなってしまって、少しだけ後ろを向く。
はポケットに手を入れて、スーパーにもう向かっていた。
雲雀はため息をつくと、移動中の群れを追う。
たまり場らしいところまでつけて、あとは、いつも通り。
全員病院送りになるくらい咬み殺していると、すっかり時間を食っていた。
気付けばもう陽が落ちかけている。
「早く春にならないかな・・・」
ぼーっと空を見て、ため息一つ。
さっさと帰ろう暖かい夕食が待っている、とさくさく歩いていると、公園から笑い声。しかもの声も聞こえる。
ため息をついて足を止めると、やはり公園の中でが子供達と遊んでいた。
「できたーー!!」
「おお!これだけ少ないのにでかい!」
「てぶくろは?」
どうやら雪だるまを作っていたらしい。買い物袋がそこらで雪に埋もれている。
はぁと息をつくと、雲雀はの元までさくさく歩いて近づいた。
はしょっちゅう公園で子供達と遊んでいる。
「なにやってるの。――マフラーつけてないと寒いよ」
「いーのいーの。よーし今度こそ完成!雪だるま!」
「やったー!」
雪だるまに、自分のつけていたマフラーを巻きつける。
ぐっと両手を上げてが叫ぶと、子供たちもきゃあきゃあ喜んで叫んだ。雲雀は煩いと顔をしかめる。
「もう暗くなるから終り」
「え〜〜」
「まあまあ、お兄ちゃんの言うとおり危なくなるから、おしまい」
雲雀が言うと避難の声。
が言うと、渋々ながら子供達は従った。
またね!」
「またねみーくん」
「ばいばい!」
「ばいばいまいちゃん。かおりちゃんもたっくんもばいばい」
名前まで覚えているらしい。そして覚えられているらしい。
頭を撫でられたみーくんと呼ばれた男の子は、みんなに手を振って一番に走っていった。
次の三人が――大変なことに、たっくんの取り合い。
「たっくんはかおりとてぇつなぐの!」
「いや!まいとつなぐの!」
「え・・・うー・・・んと」
挟まれたたっくんがおろおろしている。
早いなぁと雲雀は呆れながらため息をついた。
ちらりとSOSを飛ばすたっくんに、がにっこり笑って両手をぎゅっと握る。
たっくんは喧嘩する女の子二人をちらりと見てから、こくりと頷いた。
「みんなでかえろう」
喧嘩する二人の手を取って、ちょっと照れくさそうに笑う。
早いなぁというつぶやきが、今度はと被った。
女の子二人はまだ気にくわなそうだが、口を閉ざしてこくりと頷く。
が隣で可愛い・・・とぼやいた。
三人はそのまま仲良く帰宅。
最後まで三人を見送って、しゃがみながらほわほわ笑っているを見た雲雀はしらけ面した。
「そうやってると変質者みたいだよ」
「親御さんたちに認識あるからバッチオッケ」
中々姑息だ。
ほら帰るよ、と雲雀もに手を伸ばし、はきょとんと手を見て、雲雀を見上げてからぷっと笑った。
はきょうやくんと手ぇつなぐの!ってか」
「ごめん気持ち悪い」
「ワオ。ドン引きだ。あ、袋」
かおりちゃんの真似をしつつ立ち上がる
顔を歪めて素直な感想を言うとケラケラ笑われた。
そのは、すぐに手を離して袋を取りに行く。
雲雀は自分の手を見てから、袋片手に戻ってきたに顔を向けた。
「よし、帰るか」
「・・・はいはい」
返事を返しつつ、の手を取る。
が顔を向けてくる前に、雲雀は歩き出した。
「冷たい」
「そりゃ、ずっと雪かまってたしな」
くすくす笑いながらが返事を返してくる。
公園を出て比較的歩きやすい道に出てから、歩調を緩めた。
「恭弥って甘えん坊だよな」
「寒いからだよ」
まだくすくす笑いながら言ってくる。
なんでもないように返したが、やはり笑われた。
しかも頭を撫でられる。買い物袋が当たりそうになって避けた。
「かーわい〜」
「・・・どこがだよ」
「全部」
むすっとしながら見ても、はくすくす笑うだけ。
腹いせに首から雪を入れてやったら盛大に叫ばれた。
ついでに夕食は鶏肉(骨付き)入りのポトフ。
温まりすぎて熱くなって、ベランダに出たら冷えすぎた。(それでまたくっつけたのだけれど)


















寒いって理由でくっつけるとか、ベタすぎて面白くないと思ってたんだけど。(結構使える。君がちゃかすように笑うたび春が恋しくなるけど)