朝、ハイテンションのミツコさんに起こされた。
いつも放っといてくれるのにと出てみれば、ミツコさんになにやら貰ってる恭弥少年。思わず転んでしまった。
「〜、ここに置いとくからねぃ☆」
「は?うん?」
テーブルの上に小さな箱。
恭弥が欠伸しながら同じ箱をそこに置いていた。
なんなんだと思いつつ支度。
バイクは?修理中、と話しながら学校へいくと、いつも以上に女の子たちがそわそわしていた。
下駄箱に手を伸ばすと、あの!と声をかけられる。
顔を上げれば同じクラスの女の子。
「ああ、おはよう」
「あ、お、おはよう!」
挨拶すると、何故だかまたびっくりされながら返される。
この子可笑しな子だなと思いつつ下駄箱に手を伸ばすと、またあの、と声をかけられた。
なんだ?とは顔を上げる。
「こ、これ!」
「・・・箱?」
両手で突き出されたのはラッピングされた長細い箱。
くれるの?と問いかけると、うん!と返事が返ってくる。
「あ、あのね、トリュフ・・・なんだけど・・・」
「トリュフ?へぇ。ありがと」
箱を見てから、は顔を上げてお礼を言う。
女の子はうんと頷くと、早足に友人のところへ行った。
何故だかキャアキャア騒いで他の女子がこちらを見ている。
首をかしげてから箱を見ていると、それなに?と横から声をかけられた。
「ああ。なんかくれた。前にもおにぎりくれたんだよなぁあの子。親切だなー」
「・・・。前から思ってたけど、馬鹿だろ」
「は?お前に言われたくねーよ」
「いいや絶対馬鹿だ」
物凄く呆れ顔された挙句、断言される。
なんだよと顔をしかめていると、後ろから「よ!!」と声をかけられた。
振り向けば武他二名。
「よータケ。ん?なんだそれ?」
「ああ。よくわかんねーけど、来る時女子たちがくれた。のそれは?」
「ん?なんか知らねーけど、さっき女子がくれた」
「へー。親切な子もいるもんだなぁ。俺らラッキーだな」
「だな。タダでお菓子ゲットー」
にっと笑う武に、もにやっと笑い返す。
ただ武の後ろにいたツナと隼人はなぜだか呆れ顔。
「あのーもしかしてずっとこんな調子ですか?」
「ああ。彼で拍車が掛かったね」
しかも何故だか恭弥と話しだす。
珍しい、などと思って見れ見れば、恭弥もお菓子を抱えている。
「恭弥もなんかもらったのか?え、恭弥が?」
「ホント失礼っていうか馬鹿というか・・・、今日が何の日かわからない?」
物凄く顔をしかめられる。
は怪訝な顔で恭弥を睨み返してからうぅんと考えた。
「今日は何月何日でしょう」
「えーと2月14日?」
「といえば?」
「・・・ああ、ヴァレンタイン牧師の」
「バレンタインていう刷り込みされたイベントが問題だから今はそっちはいいよ」
「(この人のつっこみもメチャクチャだーーー!!)」
頷いてつぶやけば、さらにつっこまれる。そしてさらにツッコミが入る。(電波で)
恭弥を見て、手にある箱を見て、はああと頷いた。
「バレンタインデーだからチョコか」
「遅すぎるっていうか、本当は女なんだからそれくらい気付こうよ。まさかとは思ってたけど」
「あー、俺いつも貰う側だったからさ」
「「向こうでも?」」
ツナと恭弥両方につっこまれる。
はちょっと引きつつああと頷いた。武が今更、ああ!と手を叩く。
「そっかバレンタインか!」
「ってオメーは遅すぎんだよ!!」
「あ、獄寺も貰ってンな。モテてんな〜このこの!」
「こいつ・・・!!」
さりげに流されている隼人を、とツナが同情した目で見る。
あ、と声をあげると、武は笑っての肩をガシッと掴んだ。
「、チョコくれ!」
「これしか持ってない」
「それ貰ったのだろーー!!?」
「てわけで、上げらんないな」
「えー。俺楽しみにしてたのに」
「今気付いたやつの台詞かよそれ」
さりげに隼人がまともなつっこみ。
苦笑いした武はそれいうなよ!と言いながら隼人の背中をバシッと叩く。
はぁ、とため息をついたのは恭弥で、さっさと靴はきかえなよと手を振ってきた。
下駄箱を開ければぼとぼと落ちてくるお菓子。
「・・・。どーしろってんだ」
「帰りはもっと酷くなってるだろうね」
落ちたお菓子たちを拾って、そして靴を履き替えて、はどうしたものかと眺める。
恭弥はまたため息をつくと、行くよ、と手を引っ張り出した。お菓子が落ちそうになる。
「おい恭弥?」
「今日は教室に行かない方がいいと思う。・・・僕も行かないし」
なんだか低い声で言う恭弥。
なんなんだと怪訝な顔をすると――後ろから、女子の声が。
「くーん!」
「ヒバリさまー!!」
「さま!?」
呼び名に驚く。
そして恭弥はスピードを上げる。早歩きがいつの間にやらダッシュに。
風紀委員たちが立ち並ぶ応接室に、恭弥はを引っ張って飛び込んだ。
「はぁー・・・」
「な、なんだったんだあれ・・・?」
「バレンタインの女子は怖いよ。咬み殺しても咬み殺しても・・・生き返るから」
「(恭弥がげんなりしてる!?)」
外からはキャーキャー騒ぐ声が聞こえる。
ソファに座った恭弥は、はぁーと息をついてぐったりした。
手を引っ張られたままのは、とりあえずテーブルにチョコたちを落として恭弥を眺める。
「お前モテるんだな」
「ありえないけど。2月14日の女子は全員マゾになるらしいね」
死ぬ覚悟でつっこまれたらしい。(恭弥が引くってどれだけすげーんだと思ってみたり)
さすがに全員咬み殺す気にならず逃げたとか。
風紀委員たちがバリケードを張るのは毎年のことらしく、授業開始のチャイムがなると共に、がらりと扉を開けて草壁とリーゼント二人が入って来た。
「委員長。の分と共に届けられましたがどうしましょう」
「はぁ・・・。、全部食べる気はある?ちなみに僕は毎年風紀委員全員に上げてるけど」
「うっわ・・・。まぁ、本来なら全部食べるってのが普通なんだろうけど・・・あれはなぁ・・・」
見れば三人とも手に沢山こと箱や袋を抱えている。
俺も無理かも、とが言うと、恭弥はどさどさお菓子をテーブルに落とした。
「放課後、全員に配って。のも」
「ああ、これは貰っとくわ」
「・・・気になるの?」
「お前俺をナンだと思ってるんだ?」
体を引きつつ問いかけてくる恭弥に、は目を細めて言い返す。
この子同じクラスの子だし貰っとく、というと、何故だかため息をつかれた。草壁たちまでついている。
「・・・。お前は馬鹿か?」
「え。なんで俺お前にまで馬鹿とか言われてんの」
「馬鹿だから。下がっていいよ」
しかも恭弥にさっさと認められる。
お菓子をどさどさそこらに置いた草壁達は、応接室を出て行った。
教室行った武と隼人は苦労するな、と言いながら、はとりあえず仕事を終らせることに。
休み時間ごとに外は騒がしくなり、そのたび恭弥が鬱陶しそうに顔をしかめた。
昼休み。飽きた。
「帰るか」
「・・・覚悟して外に出たほうがいいと思う」
恭弥の一言を聞いて、はえ、と声を上げる。
恭弥は別の方向を向いているので顔は見えない。
ふー、と息をついたは、まぁ殺されはしないだろ、とつぶやいた。
恭弥がはぁーとため息をつく。
「僕も帰ろうかな・・・」
「・・・いっそその方がいいと思う」
二人で顔を合わせて、数秒後に頷きあう。
行くよ、と立ち上がった恭弥は何故だかトンファー装備。
そこまでかとは呆れた。
「今はみんなお昼時か」
「油断できないことには変わりない。購買の前は通らず職員室経由で玄関へ」
「らじゃ」
なんだかミッションじみている。
そっと扉を開けた瞬間――キャーキャー言う女の子たちの声が強度を増した。声の武器だ。
「ヒバリさんーー!」
「くんーー!」
両手を広げる風紀委員。
と恭弥は風紀委員たちの後ろを通って(はすまん!と声をかけて)走る。
どこから情報が行ったのか、いつの間にやら廊下に集まる女子。
そして恭弥は目の前にいる邪魔な生徒をことごとく殴り飛ばして走っている。
そりゃ早いなとは呆れる。
玄関にたどり着けば立っている草壁達。しかし守るのは恭弥のみ。
薄情者め!と叫びつつは靴を履き替える。が、下駄箱から出てきたのは靴より先に大量のチョコ。
時間を取られてる間に女子たちが走ってくる。恐怖だ。(迫力がある)
「草壁コレたのむ!」
「囲んだわよ!」
「(なんでこんな目に会うんだよ!!)」
気付けば女子のバリケード。
チッと舌打ちしたは――上に飛んだ。
ロッカーの上を一気に走りこんで蹴り、玄関のドアにくっついている窓に飛ぶ。
サッシを蹴って飛び降りると恭弥が走って出てきた。
「ナーイスタイミングって感じ?」
「ウザイ」
後ろからは女子のきゃあーー!!という黄色い声が聞こえてくる。受けてるらしい。
二人でつっぱしって外へ。
さすがに学校外までは追ってこないだろう・・・と、思いたいので、とにかく走った。
街中まで来て、ようやく立ち止まる。
はぁーと息をつく恭弥の隣で、はくくっと笑った。
「俺ここまで激しいバレンタイン初めてなんだけど」
「それはまた随分平和な世界で生きてきたね・・・」
物凄く疲れている。
まぁ家帰ってのんびりしようや、と歩き出すと、恭弥にがしっと掴まれた。
「チョコ」
「は?」
今しがた逃げてきたものの名前を言われて、は思い切り怪訝顔。
しかし恭弥はじっとを見てくる。
「どうせだったら作って」
「お前いらないんじゃねーのかよ」
「知らないヤツからのはいらない。作って」
キッパリ斬り捨てるとごり押ししてくる。
は思い切り顔をしかめると――はぁーとため息をついて、やれやれと笑った。
「わぁったよ。じゃあ・・・とりあえず一旦家に行くしかないな。金ねーし材料ねーし。ネットで色々調べたいし」
「じゃあ帰ろう」
切り替え早く恭弥は歩き出す。
ちなみに声をかけてきた不良たちは今日は一発で済んだ。(力入ってたが)
家に帰れば安心の空間が。
あぁ家ってステキだな、と少しだけ浸っては着替え。男のまま買いに行くのも微妙だ。
「おーし材料買いいくか。恭弥、荷物もち」
「・・・」
「作らなくていいんだ」
「行く」
即答。
立ち上がって歩き出す恭弥の後を、はくすくす笑いながら追った。
二人で近くのスーパーへ行って色々と買いあさる。
とりあえずネットで調べてメモしてきた。籠には大量の材料たち。
同じく大量のチョコを持ったビアンキに会った。リボーンに愛のチョコよと言われてあぁと頷く。
京子とハルとみんなで作ると聞いて、は喜ぶツナの顔が浮かぶ。思わず笑ってしまった。
がんばれよーと手を振ってから、また材料あつめ。
バレンタインだからと、とにかくチョコの種類も材料の種類もかなり多かった。
買いあさってデカイ袋を二人で抱えて帰宅。
そこからはパソコンを見ながらお菓子作りを始めた。
「・・・。一体どれだけ作るつもり?」
「あー・・・んー、気が済むまで」
作り出したら止まらなくなった。外はもう暗い。
恭弥はカウンターに肘枕をつきながらしらけ面している。読んでいた本が終ったらしい。
カウンターとキッチンの間にあるテーブルスペースには、ところせましとお菓子。カウンターにもある。
「これも面白そうだしこれもおいしそうだしこれ可愛いし」
「・・・はいはい」
「飽きたなら本でも読んでろって。ああ、好きなの食っていいぞ」
「・・・はいはい・・・」
物凄く脱力される。
出来上がったお菓子をぐるりと眺めてから、恭弥はひょいと一つ取った。
「どうだ?」
「うん。美味しい。・・・んじゃない?」
「なんで疑問系なんだよ」
頷いて答えてから、さらに余計な言葉をくっつける。
はふっと噴出して手を動かした。
ちらりと恭弥を見れば、ぷいとそっぽを向かれる。
くすくす笑いながらお菓子を作っていると、扉の開く音がした。
「ごめん。ホントごめん。死ぬほどごめん」
「「「おじゃましまーす!」」」
「いやなんだよお前ら――やべっ」
聞こえた声はツナ、そして京子とハルとフゥ太。
恭弥が思い切り顔をしかめる。
ハッとして、はすぐさま寝室に走った。恭弥の服に勝手に着替える。
部屋の外に出てみると、恭弥と鉢合わせしておろおろしているツナが目に入った。
「恭弥兄、何食べてるの?」
「わ!フ、フゥ太!」
「チョコムースケーキ、だって」
無邪気に問いかけるフゥ太。そして焦るツナ。
しかし恭弥は普通に答える。
京子とハルは天然爆発。
部屋を見て騒いでから、並んでいるお菓子をみてうわぁと声を上げた。
「これいったいなんですか?すごいお菓子の数です!」
「おいしそう〜」
「あー・・・作った」
「ってもしかして昼から学校サボってずっと!?」
どうやら見てたらしい。というか話題になったらしい。二人の逃亡劇が。(被害者の数など)
ああとうなずいて、はキッチンに戻った。
「僕も食べて良い?」
「いいぞ。作りすぎたからな」
「とか言いながらまだ作るの!?」
「やりだすと止まらないんだ。手をつけたならとことん極めるこれモットー」
ツナがつっこんでくるがは軽く流す。
女の子二人はすごーいコレ全部くんが!?とまた驚いた。
お菓子を見回してから、あ!と声を上げる。
「私たちくんにもチョコ上げようと思ってきたんだけど・・・」
「これじゃあ無駄だったみたいですね・・・ていうか・・・ていうか・・・!!なんか悔しいです・・・!!」
拳を握るハルを見て、は苦笑いする。
まぁお前らそこに座れよ、とは声をかけツナだけ呼んだ。
フゥ太はすでに恭弥の隣でお菓子を食べている。
「全員分の紅茶入れて。お前ら好きなもの食っていいぞ」
「やったーー!!」
「あ、じゃあ変わりに私たちが作ったの置いてくね!」
「・・・、あれのビスケットビアンキが作ったものだから・・・」
こそこそとツナが言ってくる。
はあぁだから死ぬほどごめんと、と頷いてまた笑った。
どれ食べようか、と二人が調べだし、恭弥とフゥ太が食べているものに目をつける。
「ねぇくん、これなに?ただのチョコムースケーキじゃないみたいだけど・・・」
「チョコのスポンジでチョコムース包んだ。で、上のほうに生クリーム塗ったくった」
「あ!ムースの中にアーモンド入ってます!美味しい〜〜」
「食感がいいよね。姉姉、これも食べてみていい?」
騒ぎ出す女の子たち。
フゥ太は椅子に膝立ちして他のものを指差す。
いいぞ、とがいうと、やったーと言いながら手に取った。恭弥は顔をしかめてため息だ。
ツナが全員分紅茶を入れて向こうに行った。
「ヒバリさんもすみませんこんな時に。・・・折角っていうかなんていうかなのに(小声)」
「本当に。・・・気を使ってくれてもいいだろうに後で絶対咬み殺す(小声)」
「ツナ兄を怒らないで!僕が行きたいって言ったんだ。変わりにまた色々教えるよ!えーとね・・・」
ため息混じりに文句を言う恭弥。しかしココでは咬み殺せない。
真っ青なツナを庇うように手を広げたフゥ太が、ランキングブックを取り出してなにやら恭弥に教える。
恭弥は笑みを浮かべると、じゃあ許してあげる、と言ってツナに紅茶を入れさせていた。
「本当にお菓子屋さんみたいです〜〜!」
「これすっごく可愛い!なに?」
「あー・・・ショコラ・ノワゼット?簡単にされてるレシピみつけて、後は店でやってるみたいなの真似した」
なんだかキャアキャア騒がれる。
とりあえずパソコンを見せておく。
並びまくるチョコのお菓子を見て、ガトーショコラを食べつつツナがどれだけ作ったの?と問いかけてきた。
「あー・・・ショコラ・ノワゼット。ミルフィーユ。ショコラ。ブラウニー。チョコマドレーヌ。チェリーボンボン。チョコタルト。マカロン。ラムボール。フォンダンショコラ。ガトーショコラ。チョコクッキー。チョコプリン。とか?あとは・・・」
「とか?って・・・まだ言ってるし。・・・ヒバリさんお疲れ様です」
さりげなく声をかけるツナ。
かけられた恭弥はため息だ。チョコくさい、と言われた。換気扇大活躍だ。
コレどうやって作ったの?だのHP教えて、だの女の子達ははしゃいでいる。
「あ、やけた。メルト・ウィズ・ユー?暖かいうちに食べた方がいいから、食っとけ。ほれ」
オーブンから取り出したお菓子を、カウンターと挟んでいるテーブルに乗せる。
恭弥取れ、と言ったところ渋々取った。
ツナはツナでとって女の子たちに上げている。フゥ太は恭弥少年から。
「あ!中からチョコ出てきた!」
「どうやったんですかこれ!」
「型のそこにアルミはってバター塗ったくって――」
説明しつつパソコンを構って向ければ、京子とハルが真剣な顔でじっと覗き込む。
そろそろやめたらどうっていうかいい加減やめろ、と恭弥に言われて、はへーいと返事を返した。実はもう片付けている。
片づけを終えてから、自分もカウンターへ。恭弥の隣に座る。
ほっと息をついてから――オーブンが音を発してまたキッチンへ。
「それで最後?」
「そう最後。イチゴのタルト食べたい人〜」
「「「はーーい!!」」」
「うわぁ・・・」
元気なのは女の子達とフゥ太。
ツナと恭弥はげんなりしている。いっそ恭弥は気持ち悪そうだ。
切り分けて人数分の皿を持つと、はカウンターに移動して配った。
「チョコばっかじゃ死に掛けるだろうからな」
「分かっててこれだけ作ったんだ」
「おう。今度は色々なタルトつくろうかな」
「頼むから本当に今度にしてくれ」
物凄くげんなりしながら恭弥が言う。
はケラケラ笑って悪い、と言っておいた。
女の子達はもうタルトを食べて、美味しい〜〜とじたばた足を動かしている。
「くん最高だよ!お菓子屋さんになれるよ!」
「イチゴ美味しいです〜〜っっ!また作って欲しいです!」
「ご要望と有らば」
「はいはい!僕また食べたい!」
「はいよ」
フゥ太も手を上げて言ってくる。はくすくす笑って手を振っておいた。
「これで恭弥の入れる紅茶があればなぁ」
「恭弥兄の入れる紅茶は並盛町内で3位だよ!」
「「「ぇえ!?」」」
「めんどくさい」
が強請るように言い、フゥ太がさらにランキング発表。しかし一言で終了。
食べるだけ食べてから、四人とも帰っていく。ちょっとお菓子を持って。
それでも食べきれそうに無いお菓子を前に、はどうすっかなーとぼやいた。恭弥は疲れた顔でため息一つ。
「明日学校でくばるか」
「・・・他の奴らにも食べさせるの?」
物凄く不満そうに問いかけられる。
だって食べきれないだろ?と言うと、恭弥はむすっとしてからカウンターにだらりとつっぷした。
はくすりと笑って、恭弥の頭を撫でる。
「もしかしていじけてる?」
「うるさいチョコくさい」
「可愛いなぁ〜」
「うるさい」
くすくす笑いながら言うがやはり不機嫌に返される。
はさて、というとまたキッチンに行った。
足音で気付いたのだろう、恭弥が物凄く顔をしかめながら体を上げる。
「またなにをするつもり?」
「まあまあ――はい恭弥クンあーんして〜」
チョコを湯銭にかけて、スナック棒をつっこむ。
とろとろのチョコがついた棒を恭弥の前にずいと出すと、恭弥は棒を見てから、を見た。
はにへらと笑って首を斜めにする。
恭弥は眉根を寄せてから、ぱくりと咥えた。
「簡単すぎじゃない?」
「ここでしか食べらんないだろ。――で、これでホントの最後」
冷蔵庫からアイスを取り出してスプーンで丸くくりぬくと、その上にチョコを線のようにしてたらす。
二人分作って、はまたカウンターに戻った。
「学校持ってけないだろ?」
「・・・デザートね」
「紅茶入れてくれよ並盛3位。・・・っぷふ。口の周りチョコだらけ・・・!」
ぽりぽりチョコスティックを食べている恭弥を指差して、は声を堪えて爆笑。
思い切り不機嫌な顔になった恭弥は、さっさと食べて親指で拭った。それもぺろりと舐める。
「もうしばらくチョコはいらない」
「それは同感だな。まぁ、作るのは楽しかったけど」
「・・・作るなら別ので」
「甘くないのにしとく」
とっても疲れている恭弥を見てやはりくすくす笑いながら、はアイスを食べる。
夕飯これでいらないなーでも俺あんまし食ってねーかも、と言っていると、ひょいと体を伸ばした恭弥が例のチョコスティック作成。そしての口の前へ。
怪訝顔で恭弥を見てから、はぱくりと咥えた。
口の中で微妙に固まりかけているチョコが解けていく。
「口の周りチョコだらけ」
「うるへー」
にやりと笑って言い返されて、はさくさく食べていく。しかしチョコはつきやすくなる。
食べ終えてぺろりと舐めていると、ひょいと顔を掴まれた。
「なん」
喋ってる途中でぺろりと舐められる。
驚いて引いたがぐっと頭を掴まれた。
唇や口のまわりを舐められる。声を上げようとしても、ふさがれてまた繰り返し。
最後についでとばかりに吸われて、ようやく恭弥は口を離した。
ちゅ、と音が鳴って、赤くなってしまう。
「な・・・ん・・・」
「ごちそうさま」
笑みを浮かべたかと思えば、ひらひらからになった皿を振ってスタスタキッチンに回っていく。
は驚きたいんだか叫びたいんだか微妙な顔で恭弥を追ったが、普通に紅茶の支度を始める恭弥を見てがくりと頭を落とした。
「・・・なんだってんですかアンタ」
「さてなんだろうね」
「この馬鹿の子・・・!」
嘆いてもくすりと笑われるだけ。
むすっとしながら顔を上げて煙草に火をつけたは、恭弥が赤くなってるのを発見してぶはっと噴出した。
「・・・なに噴出してるんだよ」
「い、いや。可愛いなぁと思って」
「また可愛い?」
「いいじゃないかランキング2位」
顔をしかめる恭弥にくすくす笑いながら、は肘枕を突く。やはり見えた顔は赤い。(少しだけ)
溶けかけているアイスをぱくりと食べていると、並盛で3番目に美味しい紅茶が運ばれてきた。
ついでにディーノから上等なワインと花が贈られてきていて、ミツコさんのチョコと一緒に置いてあった。
一番大変なのは、次の日だった。(学校へお菓子を持って行ったところ大反響。クラスメイトたちと風紀委員に配っておいた。チョコをくれた女の子は喜んだが凹んでいたり。武は大喜びだったが)
これだけやっても気付かないなんて、僕は一体どうしたらいい?(ハウルでも目指す?あの子に聞いてみようかな)
でもきっとフゥ太は笑顔で騙すと思う。ツナポストですから。