五時間目体育。サボり。
雲雀は応接室でノンビリ過ごしていた。
は今いない。
気まぐれにサボるのでまれでもない。(中学の勉強をもう一度おさらいするのも中々楽しいとか言っていた。のわりによくサボっている)
気付けば眠っていて、ふらふらしながら起き上がった。
欠伸してから時間を確かめれば、もうとっくに放課後だ。
はぁ、とため息をつくと、雲雀は立ち上がった。
応接室から出て歩いていると、聞こえてくる音楽。
吹奏楽部なのか軽音部なのだか分からない。
興味も無い――はずだったのだが。
「・・・これって」
がよく聞いている音楽の一つ。
しょっちゅう家に入り浸っている所為で、なにが好きなのかは全て把握している。
耳が良いくせに音が無いと嫌だと、ゲームをしてるかテレビを見る以外は聞いてなくとも音楽をかけているのだから。
音のするほうへ進んでみれば、上の廊下から聞こえてくる音楽。
扉を開けて練習しているらしい。音楽が途切れたかと思うと、笑い声が聞こえてきた。
中にの声が含まれている。
ため息をついて、雲雀は扉の開いている教室に足を向ける。
扉の前に立つと、全員がハッと静まり返った。
「おー恭弥。どうした」
「やっぱり」
呑気に声をかけてくるのはくらい。
周りは皆、雲雀に脅えている。
聴いたことある歌だったから、と言いながら中に入ると、楽器を持った生徒たちがずるずる下がった。
ピアノ用の椅子に座っているの元まで行くと、ひょいと窓側に座る。
座ってに背中をあずけた。
「なんか聴きたい曲あるか?」
「・・・天野月子?のテーマ曲」
「時計台の鐘?」
少し考えてアーティスト名を言う。(余計な一言も)
こくりとうなずくと、オーケー、と軽く返事が返ってきた。
よーしみんな協力よろしく!とは盛り上げるように声をかける。
普段ここまでテンションが高くないくせに。
他の生徒達はおろおろしながらちらちら雲雀を見てきて――雲雀は顔も向けず、視線だけ受け止めた。
「大丈夫暴れださないから」
「君僕の事なんだと思ってるわけ?」
「馬鹿の子」
問いかければすぐに帰ってくる答え。
体を離して目を細めると、はくくっと笑いながら夕飯な、と言ってきた。雲雀はまた体を戻す。
いくぞ、と言ってはピアノを弾き始める。
雲雀はの手をじっと見ていたが、歌が始まると共に目を閉じる。
ていうか女声で歌っちゃってるけどいいのかピアノ弾けたんだと思いつつ。
やはりプロではないので、演奏はCDで聞くほど素晴らしいものじゃない。
それでも生演奏は新鮮なものだ。
時折ずれる音やドラムの下手なうち方が耳障りではあるけれど。
演奏し終えると、はやっぱたのしーと間抜けな声を上げた。間抜け、と言ったらちょっと蹴られた。
「じゃあ次なにやるか。折角吹奏楽部からゲストのサックスもいるし――」
「ジムノペディ」
「いーねー。片道キャンドルいっとく?」
「いいね」
さくさく二人で進める。周りは、なんだか気後れしている。
よーしいくぞ!とが楽しそうに声をかけ、せーので演奏開始。
最初こそ緊張なんだか恐怖なんだかでおどおどしていた演奏だったが、やはりやっていると夢中になるんだか楽しくなるんだかするらしい。
なによりが一人楽しそうにピアノを弾いてノリノリで歌うものだから、他の生徒たちも釣られて乗り出したようだ。
雲雀は邪魔にならない程度に寄りかかって、黙って演奏を聞く。
時折入る笑い声。音が一体になる感覚。
咬み殺したい、とはがいる手前思えない。
まぁ聴いてるのもいいかと、気まぐれが発動した。
演奏が終ると同時に、いーねーと盛り上がるたち。
しかも
「あ!やっぱが歌ってたのか!」
「ホントにいやがった」
ってヒバリさんーー!!?
「やぁ。君たちも集りにきたのかい?」
入って来たのは騒がしい三人組み。
顔を横にして目だけ向けると、一人好戦的なのが睨みつけてきた。
が、そこはが許さない。
「邪魔したら潰すぞ」
「・・・」
「うわーピアノ弾けたんだすげー」
黙りこくる生徒の中、一人沢田綱吉だけが無視。
というか無理やりな話題変換をして流そうとしている。
ふっとが笑ったのが背中越しに分かった。
「まぁな」
「お、俺だってピアノくらい!」
「ああ、獄寺君も小さな頃からやってたんだっけ」
一人が口を開けば煩くなる空間。
雲雀は顔をしかめて窓の外を眺める。
物凄く咬み殺したいがが許さない。
はぁ、とため息をついていると、沢田たちがもう近くまで来ていた。
もピアノやってたの?」
「いいや全然。独学」
「へーすげーじゃん。一人でここまで出来るようになったのか?」
「案外何とかなるもんよ。手をつけたなら極めるがモットー。だから、好きな曲弾けるように練習しただけ」
感心する野球少年に、が適当に返事を返しつつぽんと一つ音を鳴らす。
なんか弾いてよ、と沢田が言うと、がおっけーと返事を返した。
聞こえてきた音楽は・・・聞き覚えが無い。
「ああーーー!!こ、これって・・・!!」
「さっすがツナ。これが俺がピアノを始めた原点だ!!」
「・・・なんだこれ?」
「あ、わかった。FF10のザナルカンドにて!」
結局ゲームかよ、という爆弾少年の言葉に激しく同意。
綺麗だが物悲しく、深い音が響く。すぐ横から。
すげーすげーと沢田はひたすら感動しており、他の生徒たちも微妙にくすくす笑いながらすげーと声を上げていた。まだ恐怖はそこら辺に渦巻いているらしいが。
音楽が変わった。
綺麗で儚い、流れるような曲。
何かと思えば
「キングダムハーツ!」
「大正解」
「またゲームかよ・・・」
爆弾少年と共に呆れてしまう。
ふぅ、と息をつくと、雲雀は立ち上がった。
「恭弥?」
に声をかけられるが、ちらりと目を合わせてさっさと部屋を出る。
人が周りにいるのは慣れていない。
大体つまらないし咬み殺したくなる。のに、咬み殺せないのだからなお更に。
「今度はドラムやってやるよ」
そんな声が後ろから聞こえてくる。
続いてえー!という声。
近づいてくる足音。
気配を感じてすっと横に体をずらした。すかっとの手が空を切る。
「あらら」
「もう演奏は終りかい?」
「あれ。飯はなしでいいんだ」
の言葉を聞いて、雲雀はため息をつく。
ついでに白けた顔をしてしまった。
ひょいと眉を上げたはなんだよ、とそのまま怪訝顔。
なんでも、と言って雲雀はスタスタ歩き出した。
「人と群れてて嫌だったか」
「分かってて言うなんて性格悪いよね」
嫌味を飛ばしても今更、と返される。またため息をついた。
そのままのマンションへ(途中ファーストフードで安い夕食を買って)行けば、にやりと笑う
使っていない空き部屋にピアノが置いてあるのを見て、雲雀は心底呆れてしまった。




獄寺と共に帰ろうと玄関を出たツナは、聞こえてくる音に気付いて顔を上げた。
多分軽音部の使っている部屋。
ドラムの音が聞こえてくる。次いで、歌声。
「・・・これ?」
「あいつまーたやってんですかね」
首を傾げれば、隣で同じく音のするほうを見ていた獄寺が顔をしかめながら言う。
多分そうだろうね、とツナが答えると、チッと獄寺は舌打ち。
美味しいとこバッカ持って行きやがって、との呟きが聞こえて、ツナは苦笑いした。(違うだろと)
「ドラムもできるのかよ!」
「おうとも。始まりは――」
「どーせまたゲームだろ」
「ドラムマニアに嵌ったってとこじゃね?」
「てことはギターもいけるな」
「太鼓もいけるな」
「いけねーよ」
聞こえてくる小さな声。
の家にピアノが置いてあることは知っている。さりげなく、電子ドラムもこの前購入したと聞いた。
ただあれだけ入り浸っていたヒバリは何も知らなかったらしい。
くすりと笑って踵を返そうとしたところで、目に入ってくる学ラン。
無表情なんだかむすっとした顔なんだかわからないが、音のする方向を眺めている。
ため息をつくと、ヒバリは校舎に入っていった。
「・・・ご苦労だよなあの人も」
「へ?」
「ううん。帰ろうか、獄寺くん」
ツナのつぶやきに気付いてきょとんとする獄寺に、ツナは首を振って返事を返す。
そッスね、と笑顔を浮かべた獄寺と、なんやかんや話しながら家に帰った。
帰った後で、体育の時間であった不思議な少年がいたりしたのだが、それはまた別の話し。


















どうせなら二人だけで聴く方がすきなんだけど。(楽しそうに演奏する君も嫌いじゃないし、しょうがないから付き合ってあげる。・・・ちょっとだけ)