ディーノに飲みに行こうぜ!と誘われて、もちだとは即OK。
待ち合わせ場所の駅で、時間の頃にぼーっと立っていた。
「ねぇ、誰か待ち?」
声をかけられて、は顔を向ける。スーツを着たおっさんだ。は顔をしかめる。
そうです、と答えると、あぁそっかーとの返事が返ってきた。
「彼氏?」
「そうです」
スパッと返して顔を逸らす。おっさんはそう、というと離れていった――が、また戻ってきた。
はチッと舌打ちしてめんどくささを顔に出す。
しかしここで待ち人が来た。
「よぉ!悪いな。待ったか?」
「いや。つーか駅で集合!っつってもどこか決めてなかったよな俺ら」
「あははは!そーいやそーだった!」
手を上げて笑顔で現れたディーノ。ディーノを見て、オッサンは立ち止まる。
の言葉にディーノは笑い、も、釣られて笑みを浮かべた。
「んじゃー行くか」
「おう」
いいつつ肩に手を置いてくるディーノ。歩き出してちらりとオッサンに顔を向けた。
はくくっと笑ってしまう。
「気付いてたのか?」
「いやー・・・ぶっちゃけ少し向こう側に立っててさ。学ランしか見たことなかっただろ?だからかどうか迷ってたら、ナンパされてるいい女だったからあーこりゃだと思って」
「なんだそりゃ」
肩から手を離したディーノは、頭をかきながら目を泳がせる。
ぷっとが笑うと、ディーノもニカッと笑った。
じゃ何処行こうか、と歩いて、部下お勧めだという店に入る。
和風な作りだが活気のある飲み屋。カウンターに座って、久々だ〜とはそわそわしだす。
ディーノはそんなを見てプッと笑った。
「なに頼む?」
「まずは生だろ」
「だよな」
ニヤッと笑いあってから、生二つ!とディーノが声を上げる。
はいよ!と返事が返ってきて、暫くしてからジョッキが二つ運ばれてきた。
「よーしそんじゃ、乾杯!」
「かんぱーい」
カツンとぶつけ合ってからぐっと飲む。
ぷはー、と二人で声をあげて、また笑った。
「あーも〜〜酒なんて久々だ!ずっと子供相手だったからなぁ。もうやべーよ」
「あははは。はしゃいでんなー。おし、今日はバンバン飲むぞ!」
びしっとジョッキを上げるディーノに、もおう!と返す。無駄に二人してテンションが高い。
あー次コレ飲もうともう半分飲み終えて決めているに、いやそれはペース速すぎだろ、とディーノが苦笑いしながらつっこんできた。
まー気にすんなと流して、食べ物も適当に頼む。飲み屋の物は美味いよなと盛り上がった。
「なんか中学の格好しか見てねーから微妙だな」
「男で通すと中三くらいだっつわれた・・・」
「ぶっははは!大丈夫だ!今は格好しっかりしてるから大人に見える!」
すさんだ笑みを浮かべながら言うと、ディーノはケラケラ笑いながら親指を上げてくる。
あ、よかったーと言いながらは酒を飲んだ。
「・・・ところでディーノ。こぼしすぎ」
「ん?あ!」
こぼしすぎという限度を超えてるくらい、こぼしている。
普段はフォークとナイフだからなれてねーんだよ、と苦笑いされて、そりゃ急に箸使えたら凄いよな、とはケラケラ笑い返した。
二時間ほどそこで飲んでから、次だ!と盛り上がって外に出――ようとしたのだが。
「のわ!」
「おい!?」
店を出る寸前。ディーノが思い切り転ぶ。
驚いたは、すぐに爆笑しながら横にしゃがみこんだ。
「お前なにやってんだよ!あはははは!!」
「笑いすぎだし!偶然だ、偶然!」
赤くなりつつ言ったディーノは、よいしょと立ち上がる。
はひたすら笑っており、もー笑うなよ・・・と脱力しながらディーノが手を伸ばしてきた。取れば引き上げられる。
「いや・・・あのこけっぷりは中々・・・!!」
「ひでー。中々傷つくぞ」
「わ、悪い。ちょっと酔ってるみたいだ」
まだ笑いながらはなんとか謝る。
ディーノはあーあと息をついたが、まぁいいか、というと手を引いて歩き出した。
また転んでよ、いや普通に嫌だし、と話しながら歩いていると、並中の校歌。断りを入れて電話に出た。
「へーい?」
『今何処にいるの?』
電話をかけてきたのは恭弥。
街、と一言で答えると、分かりづらいんだけど、とため息をつかれた。
「んー。どこっていわれてもなぁ。今飲みに出てんだよ」
『飲みに?誰と』
「ディーノ」
さらっと答えると、は?となんだか不機嫌な声が返ってくる。
だからディーノと、と答えると、ため息が聞こえた。
なんでため息ついてんだよーとはふて腐れた顔をする。隣を歩くディーノは、首をかしげながらを見ている。
『いつ帰ってくるの?』
「へ?うーん・・・いつだろ?飽きたら?」
『は?・・・まさかそのまま泊まってくるとか言わないよね』
「まっさか!ちゃんと帰るさ。お前ミツコさんみたいだな〜」
硬い声で問いかけてくる恭弥に、はケラケラ笑いながら返事を返す。
咬み殺すよとの返事が返ってきた。はそれも可笑しくて笑う。
『酔ってる?』
「ん?――なあ、俺酔ってるかな」
「さっき自分で言ってただろ。つーか、酔ってるな、こりゃ」
「ああ。酔ってるってー」
きょとんとしながらディーノに問いかけると、ディーノはくくっと笑いながら返してくる。
が笑いながらそのまま返すと、またため息。そうみたいだね、と返事が返ってきた。
「てゆーかお前まさか家にいんのか?」
『いるけど。いなかったから』
「あー。ま、なにもでねーから」
『そんなの分かってるよ。いつ帰ってくるの?』
「えー。だからわかんないってー。まぁ、飲むだけ飲んで帰るから。またなー」
呑気に言って、まだ向こうから声が聞こえたが電話を切る。
ごめんなーとディーノに謝ると、別にいいぜ、との返事が返ってきた。
「今の誰だ?(男っぽかったな)」
「ん?恭弥。えーと・・・ああ、バイク乗ってたヤツ」
「あぁ・・・あの時の。もしかしてそいつと付き合ってる?」
顔を上げて遠い目をしたディーノが、に顔を向けて問いかけてくる。
はきょとんとしてから、まさか、と返した。
「中学生に手だしたら犯罪だって」
「あ。そっか」
「そーだよ。委員会が同じだけ。まぁ、懐かれてしょっちゅう家くるわ色々付き合わされるわで、ヒモ状態だけどなー」
「ヒモって」
つっこまれる。はケラケラ笑って、まぁ色々世話になってるしな、と答えておいた。
「なーんかみんな恭弥と付き合ってんのかって言って来るんだよな。ありえないって。俺男だぞ」
「いや女だろ」
「あぁ、そっか。今女だった」
びしっとつっこまれて、はへらりと笑う。ディーノもやれやれと笑みを浮かべて――躓いた。
うわぁ!と声をあげるディーノを、がぐいと引っ張る。簡単に戻ってきた。
「やっぱドジだなーディーノ」
「いや・・・普段はこんなじゃないんだけどな。酔ってんのかな」
「酔ってんじゃね?まー、どうせ飲んでんだし酔っとこうや」
「それもそうだな」
にかっとが笑うと、ディーノもにかっと笑い返してくる。
無駄に肩をくっつけながら歩いてケラケラ笑いあっていると、ちょっと道行く人に遠巻きに見られた。
適当な店に入って、また飲みなおす。
二人してあほな話をぶり返しては爆笑。店にはいい迷惑だ。
「そりゃーないだろいくらなんでも」
「いーや、ありあり。俺昔すんげーへなちょこだったから」
からから笑いながらいうに、ディーノがひらひら手を振りながら笑い返してくる。
片鱗残ってるもんな、というと、あれは気のせいだ!と力いっぱい否定されてはまた笑った。
「ほーらまたこぼしてるし」
「うっ」
「はい口あけてー。こぼしちゃダメだよディーノくんー」
「あーん。――てこれ子供扱いじゃね?!」
やはりぼろぼろこぼすディーノ。
が箸でつまんで口まで持っていくと、乗りよく食べた後につっこんできた。
はケラケラ笑ってテーブルに手をつく。先ほどから笑いすぎて涙がでそうだ。
これくらい食えるっ!と宣言したディーノは、から揚げを箸で取ったがぽろりと落とした。
それを見たはまた笑う。
「ほら」
「ん。って結局・・・!」
「まーまー。もーディーノ可愛いな〜」
「はぁ?俺も可愛いにはいんのかよ?」
赤くなりながら頭を抱えるディーノの頭を、はへらへら笑いながら撫でる。
がーんと顔で表してショックを受けるディーノだが、はやはりケラケラ笑ってうんと頷いた。
「見た目可愛いし行動も可愛い」
「び、微妙・・・!」
「えー?だからそういうのが可愛いんだって!」
泣きそうになりながら両手を顔の前まであげるディーノを見て、はケラケラ笑いながら抱きつく。
うわぁ、と声を上げられたが、かわいーとは離れず。
おいおい危ないって、と言われて、ようやくは顔だけ離した。にへらと笑うとため息をつかれる。
「お前酔ったら全員にこういうことしてたのか?」
「ん?可愛い子限定じゃね?」
「疑問系かよ・・・。あのな、こういうことしてるとその内襲われるぞ」
「だーれがこんなヤツ襲うかってー」
叱って小突いてくるディーノに、はケラケラ笑ってぱたりと頭を落とす。
ディーノはやれやれと言うと、おら!といいながら逆にぎゅうと抱き締め返してきた。
「あ〜?絞め殺されるー」
「殺さねーよ!」
つっこまれてから二人で爆笑。
なにやってんだろなと言うと、わかんね、と返ってきた。二人とも無駄に笑いつつ。
息をつきながら離れると、あー勿体無い、とつぶやかれた。
「大体なー。お前十分いい女だぞ。自覚もてよ」
「お前さんはホストかい?なーんか最初にあった時からいってたけど、きっと目も転んじゃってるんだな」
「どんなドジだよ!」
びしっと裏手を入れられて、は上手い上手いと笑う。
おう!と笑い返してきたディーノは、って違うって!とノリ突っ込み。は上手いなーとまた笑う。
この酔っ払いーと同じく酔っ払いに頭を押されて、ケラケラ笑った。
「お前自分が思ってるより随分いい女だぜ。綺麗な顔してるし、変なところで女っぽくて可愛いし、人惹きつけるオーラ漂ってるし。なによりその根性がいい!」
「脳まで転び始めたか?」
「だからどんなドジだよ!」
真顔で問いかけると、またびしっとつっこんでくる。
がケラケラ笑うと、ディーノがはぁとため息をついた。
まーまーと言いながら頭を撫でると、ディーノは酒を吹きかけてからガキ扱いかよ、とつっこんでくる。
はケラケラ笑ってから煙草に火をつけた。
「そんなこと言われても、どう返したらいいかわかんねーしなー」
「まぁ、それっぽいよな。今まで口説かれたことなかったのか?」
ぜーんぜん無い、ときっぱり言うと、うわ即答だよ、とディーノがつっこんでくる。
はくすくす笑って酒を飲んだ。舌が麻痺している。
隣でくいと酒を煽ってから、それじゃあ俺が一人目かな、とディーノはにやりと笑った。
「なにが?」
「を口説いた男」
「ああアレ口説き文句だったんだ」
「うわ全然気付いてなかったんだ」
きょとんとしながらディーノを見ると、ディーノが目を丸くしながら言い返してくる。
二人でぷっと吹き出してからまた笑った。
「向こうにいた時から、みんな仲良し〜で通してきたからな。口説き文句なんて全然だ」
「ふーん・・・。向こうの生活って、どんなだったんだ?こっちと違ったりすんのか?」
「まさか。マフィアに関わり持ってなかったくらいで、全然変わんねーよ。フツーに生活して、フツーに遊んで」
問いかけてくるディーノに、は両手で酒を持ちながら目を瞑って答える。
ふーんとまた返事が返ってきて、はくすりと笑った。
「実は結構気になってたんだ?」
「実は無茶苦茶気になってた。だって異世界だろ?初めて聞いたときはまさか、って思ったけど、色々聞いてたら、な」
にやりと笑って問いかけると、ディーノはぷっと笑いながら返してくる。
顔を前に向けて遠い目をしたディーノは、ふっと息をつくと目を閉じた。
「それに――昔さ、それを聞いて思ったんだ」
「・・・なにを?」
懐かしむように言って、ディーノは目を閉じたまま顔を下ろす。少しふらついているがご愛嬌だ。
は肘を突いている手の上に頬を乗せて問いかけた。
ディーノは顔を上げて、同じく肘を突いている手の上に、顎を乗せる。
「異世界から来るヤツって、必ず一人だろ?だから、寂しくないのかなぁってさ」
「・・・」
「急に知らない世界に飛んできて、不安じゃないのかなぁ、とかさ」
「・・・うん」
頷きながら、も顔を前に向けてディーノと同じ格好をする。
ディーノは笑みを浮かべて言葉を続けた。
「誰にも見つけてもらえなかったら、怖くないのかなぁ、とかさ」
「ふふっ。うん」
「どうやって生きていこうって、迷ったりするのかなぁ、とか?」
「うんうん」
「元の世界のこと考えて、切なくなったりするのかなぁ、とか」
「っくく。うん」
「望んでもないのに知らないやつらから求められて、腹立ったりしないのかなぁ、とか」
「あははっ。うんうん」
笑いながら、は相槌を打つ。
ディーノはちらりとを見てから、笑みを浮かべた。
「実際どうだった?」
「そうだな。全て該当」
「あはは。マジで?」
「マジマジ」
笑って問いかけてくるディーノに、はこくこく頷く。
大体そんなもんだろ、とがいうと、大体もなにもお前しか体験してないって、とつっこまれた。
そういやそうだった、とは頭をぺしりと叩く。ついでだとディーノにまで叩かれた。
「フツーに昼寝して目ぇ冷めたら公園だわ、赤ん坊はしゃべるわ銃ぶっぱなされるわ。もー最初は混乱したね。現実逃避して二日間は無駄に寝まくってたもん。まぁ三日目からは有り金叩いてゲーム買いまくったけどな!」
「なんだそりゃ!」
どうどう言い捨てると、やはり笑われる。
も笑ってから、ふぅと息をついた。
「まぁ、慣れたさ。こっちの生活には。・・・慣れたけどな。だからって向こうのこと忘れられるわけじゃないし」
「・・・まぁそうだろうな。俺だったら、なにがなんでも帰ろうとしてもがいてるかも」
「転びつつ?」
「だからそのネタひっぱるなって!」
にやりと笑って問いかけると、思い切りつっこまれる。は爆笑した。
たく、とふて腐れるディーノの頭を撫でて、冗談だよ〜と言う。
ガキ扱いも禁止!と逆に頭をぐしゃぐしゃにされてはケラケラ笑う。
「楽しくてよかったとは思ってるよ。悔しいけど。楽しくなかったら今頃世の中全部恨んでたな」
「うわぁ。まぁそうだよな。色々利用して戦争吹っかけてるかも、俺」
「でけーなやること!じゃあそうだな・・・俺は町内戦争でも起こそう。まずはゴミの放置問題から入る」
「ちっせーなやること!」
顎に手を当てて真顔で言うと、隣からまたつっこみが。二人でそのまま爆笑する。
あー腹いてぇ、と息をついていると、まぁよかったよ、と言って頭にぽんと手を置かれた。
「呼び寄せたのがリボーンじゃなかったら、今頃どうなってたかわかんねーしな」
「・・・まぁ、そうかもしんねーな。ものすっっっっっごく癪だけど、それは認めることにする」
力いっぱい言うと、ディーノがまたケラケラ笑う。も笑った。
でもなー、とディーノが声を上げる。
はディーノに顔を向けた。未だに手が乗っていて重い。
「もしお前が一人だったら・・・」
「だったら?」
笑みを浮かべて、問いかける。
ディーノはに顔を向けて笑みを浮かべた。
「リボーンと戦ってでも掻っ攫って、イタリアつれてこうとしてた」
「あははは!言葉通じなくて益々塞ぎこむよ!」
「そんなタマかよ!」
つっこまれてますます笑う。
だなー、と言うと、だろー、と返ってきた。また二人で笑う。
「でも残念だ」
「なんで」
くくっと笑いながら言ってくるディーノに、はきょとんとする。
笑みを浮かべたディーノは、首を伸ばして額にキスしてきた。
はぽかんと口を開けて手を額にあてる。
「やっぱ連れて帰りてぇ」
ディーノは気にせず、笑みを浮かべて言ってくる。
はぽかんとしていたが、息をついて苦笑いした。
「まぁた口説き文句かよこの天然ホストー」
「おいおい、ここは素直に受け入れようぜ」
「まーたなに言ってんだか!」
ばしっと背中を叩いて、はケラケラ笑う。
おぐ、と声を上げたディーノは、いい加減の頭から手を離して背中を押さえた。
「な・・・中々きくな」
「おっと。悪い、加減できてなかった」
搾り出したような声を上げるディーノに、は手を上げて謝る。
帰ったら鍛えなおそうとの言葉を聞いて、はまた笑った。
「おうボス。こんなところでなにやってんだよ」
「あ?お前ら!どうしたんだよ!」
「折角日本にきたんだから、色々回って飲もうぜって話しになったんだよ」
振り向けば黒服集団。
驚くディーノに、ケラケラ笑いながら返事を返してくる。
一人でいなくなったと思えば女口説いて、と茶化されて、ディーノはうるせーよと恥ずかしそうに顔をしかめた。
はディーノたちのやり取りを見て、ぷっと笑う。
「どうも異界の民。ボスが世話になってるみたいで」
「どういたしまして。よければ異界の民ってのやめてくれませんか?俺、って名前なんで」
「あはははは!やっぱいいわ!」
すまし顔で答えてから、はニヤッと笑う。
ディーノが爆笑しながら肩を組んできた。もケラケラ笑う。
同じく笑った黒服の男たちが、そろそろ送ってやったらどうだ、とディーノに言った。
時間を見れば、とうに日付が変わっている。
あーららーとが声をあげると、うわーとディーノも時計を見上げて頭をかいた。
「まあ、とりあえずこれ飲んでから帰るか」
「うっわお前マイペースだなー」
「あはは。よく言われる」
くるりとカウンターに体を向けるに、ディーノが呆れたようにつっこんでくる。
ケラケラ笑いながら返すと、まあそれもそうだなと言いながらディーノもカウンターに体を向けた。
飲むだけ飲んでから、帰るかーと席を立つ。
襲うんじゃねーぞと茶化されて、襲わねーよ!とディーノが叫び返した。は黒服の男達と爆笑する。
「あ、待てよ。金ならちゃんと持ってるって」
「いーからいーから。奢られとけよ」
「さっきの店もおごりだったのに・・・」
「マフィアは女を大事にするんだ。惚れた女は特にな」
むすっとしながら言うと、ディーノは金を出しながらにやっと笑う。
また言ってるよこの天然ホストめ、とは笑いながら背中を叩いておいた。また痛がられた。
黒服たちに手を振って外に出る。
送るのはいいと言ったが、結局送られることになった。適当にタクシーを拾って乗り込む。
「本当にここでいいのか?」
「ああ。あとはエレベーター乗るだけだし。今日はどうもありがとうございました」
窓から顔を出すディーノに、は親指でマンションを指差す。
ぴしりと体を正して頭を下げると、ちょっとふらついて笑われた。
ディーノはニカッと笑いながら、どーいたしまして、と返してくる。
「じゃ、また飲もうぜ」
「オッケー!」
ぐっと親指を上げると、ケラケラ笑いながらディーノも上げてくる。
椅子に座りなおすと、ディーノはひらひら手を振ってきた。
「気ぃつけろよ」
「お前も転ぶなよ」
「転ばねーよ!」
にやっと笑って茶化すと、懸命に言い返してくる。
笑っては手を振り、タクシーは走っていった。
雲雀はの家に来た。
のはいいが、肝心のがどこにもいない。いつも引きこもっているというのに。
待っていたはいいが、もう時刻は8時過ぎ。
ありえない。欲しいものを買いに出てるときもあるが遅すぎる。
電話をしてみれば――男と飲みに出ているとの返事が返ってくる。
ふざけるな状態だったが酔っ払っているはまったく気付かず。簡単に電話は切られてしまった。
「・・・はぁ」
捜しにいくのもいいが、絶対に呆れられる。ついでに茶化される。そしてその後のネタにされる。
しかし迎えに行こうか行くまいか、暫くじっと考えて、最終的に待っていることに決めた。そこまで心配するような人間じゃない。・・・鈍くとも。(セクハラを働けば殴るのだから)
ため息をついて、ぱたりとソファの背もたれに倒れる。
何も食べてないせいでお腹もすいている。
またため息をつくと、雲雀は適当に冷蔵庫から出して食べた。
テレビをつけても特に面白い番組は見当たらず。もう9時も過ぎた。
ジジ人形を抱き枕にソファに転がって、ぼーっとした。
テレビの音だけが部屋の中に響く。まったく帰ってくる気配がない。
半分眠りかけて――眠ってしまって、扉の開く音で目が覚めた。
起き上がって後ろを見れば、よいしょーと間抜けな声が聞こえてくる。雲雀はあきれ返った。
「あれ?恭弥まだ起きてたのか?」
目を大きく開けてきょとんとしながら、が鞄片手に現れる。
雲雀は顔をしかめてため息をついた。
「今まで飲んでたの?」
「おー。ぐでぐで話して無駄に盛り上がってなー。あはは」
無駄にテンションが高い。というか機嫌がいい。
お酒の所為かなとため息をつき、急に眠気が押し寄せてきて、雲雀はぱたりとソファに倒れた。
水を飲んだらしいが、ぺたぺた歩いて近づいてくる。
「きょーやー?」
「・・・なに――」
「ぅおっとお」
だるさ全開で体を回して見上げれば、膝に両手を突いて覗き込んでいたが、ふらりとふらついて倒れてくる。
慌てて手を伸ばした雲雀は、ぐいとを引っ張った。
結果、はあまり床を転がらずに済んだ。
雲雀は脱力しながらはぁーとため息をつく。
「そこまで飲んできたわけ?」
「あー・・・結構飲んでたかも?」
へらり、気の抜けた顔で笑う。普段早々ないくらい笑っている。
はぁ、とため息をつくと、がくすくす笑い出した。
「恭弥に黒猫ってあってるよな」
「・・・うるさいよ」
「もーいじけんなよー。あ、もしかして待っててくれたのか?」
ケラケラ笑ってから、は胡坐をかいて座りながら問いかけてくる。
一度目を閉じた雲雀は、ため息をつきながら嫌々目を開けた。
「だったらなんだよ」
「・・・っぷ」
噴出された。
いい加減咬み殺したくなってくる。
はぁ、とため息を――つこうとした瞬間、がばっと抱きつかれた。
雲雀は驚いて体を硬くする。
「かぁわいい〜〜。もー恭弥はやっぱ可愛いよなっ!うんうん」
「ちょっと、なに一人で盛り上がってるんだよ」
「えー?だって可愛いんだもん。いっつも可愛いけど」
「(いつも可愛いとか思ってるのかこいつ)」
聞いて呆れてしまう。というかげんなりした。
これで中々な甘えん坊のは、くっつくのが大好きだ。暴走して抱きついてくる事もあれば雲雀が抱きついても文句なしでそのままだったりする。
ぎゅーっと抱きついていた――が、頬にキスしてくる。
ガバッと頬を押さえて起き上がった雲雀は、思い切り項垂れた。はあーといじけたような声を上げる。
「さっさと風呂入ってきなよ。物凄く酒臭い」
「えー。めんどい」
「は?めんどいって」
「明日でいいじゃん。寝ようぜ。寝よう寝よう」
ひらひら手を振ると、はひょいと立ち上がる。
雲雀が声をかけようにも、ぽいと鞄を投げてキョーヤもいくよーと猫を持ってさっさと寝室に向かっていく。
「ほら恭弥。そんなとこで寝ると風邪引くぞ?」
しかも声をかけてくる。
雲雀はまた項垂れてはぁーとため息をついた。
「まったく・・・」
物凄くは酒臭かった。
あのまま眠れば明日(ベッドが)大変なことになる。ミツコさんは明後日までこない。
寝室に雲雀が行くと、はもう転がって猫の人形をぎゅーっと抱き締めていた。
はぁ、と雲雀がため息をつくと、きょとんとしたがひらひら手を振ってくる。
スタスタの元までいって、雲雀はの手を取った。
「お風呂入らなきゃだめだろ」
「いーから寝ようぜ」
にへら、と笑ったがぐいと引っ張ってくる。恐ろしく怪力だ。
どさっとベッドに落ちたかと思うと、引っ張られて抱き締められた。
「ちょ、ちょっと」
「はーいはい寝ますよー。布団被って」
「おい、!」
「もー遅いんだから、早く寝る。おやすみー」
起き上がろうにも、布団を被せてきたはまたぎゅうと雲雀を抱き締めてそのまま眠りだす。
離れようとしたが離れられず。
ふざけんな、と言ったところ、んーと微妙な返事が返ってきた。脱力してしまう。
「・・・酒臭い」
抱き締められるのは、いい。いいが、酒臭い。
はぁ、とため息をついて、雲雀はそのまま目を閉じる。やけくそになって。制服のままだからきっと皺皺だクリーニング代請求してやると思いつつ。(どうせ金なら沢山持っている)
男と飲んできただの、ここまで待たせただの酒臭いだの。
腹が立って、雲雀はぎゅっとを抱き締め返しながら眠った。
次はここで酒盛りしてやると誓いつつ。(あまり眠れなかったがベッドの性能のお陰で少しは眠れた。素晴らしいベッドだと再確認)
次の日は、二日酔いのを散々いじめてやった。
お前がまだ寂しそうな顔してるってこと、俺はちゃんと気付いてる。(少しくらい、その苦しみを薄めてやりたい。楽しいこといっぱいやって、遊んで、笑って)