朝、恭弥に早く起こされたは、欠伸しながら校門の四角いコンクリートの上に座っていた。
手にはボードとのレイアウトしたプリント。
学年、クラス、番号、名前と、点数を書く欄がある。
ため息をついた恭弥が、ひょいと塀に登っての後ろに座った。
「恭弥、足で学校名見えなくなるぞ」
「今更ここの学校名確かめる馬鹿も居ないだろ。ふあ〜ぁ・・・・・・の所為でまた寝不足だよ」
「わーるかったッスねー」
悪態をついて背中を乗せてくる恭弥に、も言い返しながら背中を押す。丁度良い背もたれだ。
身長はそんなに変わらないのに一回りは背中の大きさが違っていて、やっぱり男の子だなーと欠伸しながらつぶやいた。
「ここって服装検査周期的にやんのか?」
「まぁ、大体衣替えした後とか、みんなの服装が崩れそうな時期に。元々自由な学校だからそんなに真面目なものじゃないよ」
「なーんだ。それじゃあこんなプリント作らなくてもよかったじゃねーの」
「後々まとめるのはだけどね」
恭弥の一言を聞いて、はふっとすさんだ笑みを浮かべる。
その内生徒たちが歩いてきて、服装の崩れている生徒はことごとく風紀委員たちが捕まえていった。
のだが。
「オラ!とっとと脱げ!」
「ヒィ!」
中々にやり方が酷い。
不良なのだから仕方ないんだろうかとはため息をつく。
ガゥンと一発。
風紀委員と制服をはがされそうになっている生徒の間に撃ち込んだ。
「なんのつもり?」
「胸糞わりーもん見せてんじゃねーよ」
背中越しに問いかけてくる恭弥。
は冷めた目で風紀委員を見ながら、銃を構えている。
青い顔をした風紀委員は、そっと離れた。
ただ助けた生徒も青ざめている。というかこの場に居る全員青ざめている。
背中越しに、恭弥が笑ったのが分かった。(鼻で)
「結構サドッ気全開な時があるくせに。他人は止めるんだ?」
「勘違いすんな。俺は殺してもいい相手を死なない程度に痛めつけるのが好きなだけだ」
恭弥の言葉に、はジャキッと銃を構いながら答える。真顔で。
不満そうな顔で見ている風紀委員たちを目を細めて見回して、笑みを浮かべた。
「ここにいる全員、殺してもいいっていうなら邪魔しねーけど」
「残念。死体処理する人手がなくなるから許可は降ろさない」
「チッ」
舌打ちして銃をしまうと、全員そそくさと動き始める。
座っている位置的に問題な生徒を発見するのが遅れてしまうが、他の風紀委員たちががんばっているのでいいだろう。
恭弥も文句は言ってこない。ついでに恭弥は働かない。
隼人が捕まって逆に蹴り返そうとしているのを見て、はそいつ離してやれ、と声をかけた。
「お、さっすが。俺も今日ネクタイ忘れちまったんだ」
「オメーはなくしたんだろ家で。タケ一点マイナス。邪魔するんならとっとと教室いっとけ」
一緒にいた武がニカッと笑いながら言ってきて、は呆れ顔する。
ツナは青い顔でほーっと息をついており、はお疲れさんと電波を送っておいた。ありがとうと返ってきた。
「隼人。反省文500文字。昼休みまでに提出な」
「オメー見逃したんじゃねーのかよ!!」
「誰がいつ見逃したっつった?腕のバンクル、ネックレス、ネクタイ無しで服も乱れてる。最高三点だからゲームオーバー。持ってこなかったらリボーンに報告な」
「チッ!」
がばっと振り返る隼人ににやりと笑いながら言うと、隼人は舌打ちしながら校舎に入っていく。
はははと笑っていると、やり口汚いね、と後ろから声が掛かった。
「下手に怪我人増やすより効率いいだろ。馬鹿とはさみは使いよう」
「はいはい」
ため息混じりに返される。
は欠伸をすると、生徒よりも風紀委員の見張りをぼーっとした。
ぞろぞろ入ってくる生徒たちが、遠巻きにと恭弥を見ている。珍しいだろう。他人とくっついている恭弥は。
生徒の中で、ひときわ目立つ生徒がいた。
見つけたは声をかけてプリントにかいていく。
「あー。加藤ロンシャンと」
「だーかーらー、内藤だってば風紀のかわい子ちゃん!」
「は?なにバカ言ってんだ佐藤ロンシャン」
「だ〜〜っから内藤だってばンもーー照れ屋サンっ!」
「はいはい伊藤ロンシャンな。服装全部ありえないから反省文1000文字と罰掃除。中庭の枯葉全部消すこと明日までに」
「ひゃーー!!っちょーーーきびしーね綺麗な顔して!内藤だって言ってるのにわざと間違えるし。あ!わかった俺に惚れてんな〜〜でも残念!男は圏外だよ!!残念残念!!」
「底なしの馬鹿はこちらから大気圏外だっつーの。次、君名前ナニ?」
無駄にテンションの高いなんちゃらロンシャンを無視して、は一緒にいる女の子に声をかける。
女の子は少し赤くなりながら顎を引いた。
しかしロンシャンが煩い。
俺地球外?てか名前が間違ってるよ、間違ってるってば、といい加減煩すぎたのか、恭弥がため息をついてトンファーでぶん殴った。
「。内藤ロンシャン。書き直し」
「あそう。で、君はパンテーラと。今度からスカートは検査が終るまで指定のを履いてくること、一点マイナス。以上」
「皆分かってることだけどせめて真面目に言おうよ」
「悪いな。根が正直なんだ。あ、それ運んでくれんの。サンキュ」
恭弥につっこまれつつ作業。
頭から血を流して倒れているロンシャンはノッポのふけ顔した生徒が運んでいった。
ふあぁ、と欠伸をすると、後ろで恭弥も欠伸する。
先ほどから、離れたところに女子が集まってきゃあきゃあ騒いでいた。こちらを見て。
「アレなんだと思う?」
「まあ、咬み殺してやんな。乙女の夢・・・ってやつじゃね?」
恭弥に指摘されて初めて気付いたは、すぐに納得してにやっと笑う。(トンファーはしまわせた)
うーんと両手を伸ばしてから、それならば、とくるりと体を回した。
背もたれのなくなった恭弥が倒れてくる。
「なにするんだ」
「こうやると喜ぶかなって。ほら」
の膝の上に恭弥が倒れている。
は落ちないようにと手を恭弥の向こう側へ。もう片方は頭へ。
きゃあー!と益々上がった声に、はにやりと笑って見せた。親指を上げられたので上げ返しておく。
恭弥は呆れ顔すると、はぁ、とため息をついた。
「それって逆じゃない?」
「は?うお!」
きょとんとした途端、起き上がった恭弥がぐいと引っ張ってくる。
門の上一杯に座った恭弥の足の上に転がされたは、あいた、と言いながら目を開けた。
目の前に恭弥がいる。
「これで正解」
「お前な・・・」
「大喜びされてるよ」
は呆れるが、女子は喜んでいる。
恭弥はにやりと笑ってさらに顔を近づけてきた。
いやさすがにそれはまずいだろ、といいつつは恭弥の服を掴んでいる。
ぎりぎりのところで、恭弥はぴたりと動きを止めた。
「じゃあ拝観料五万」
「あこぎな商売してんな」
ひょいと体を上げて声をかける恭弥に、女子集団がびくりと体を揺らす。
は呆れ顔してから起き上がった。
ついでに恭弥に背中をあずける。
ちょっと顔をしかめられた。ついでに女子には喜ばれた。
「本を作って売れた利益の三割、モデル代として風紀に提出すること。オーケー?」
「せめて五割にしようよ」
「ダメダメ。これからもせしめるんだから適度に絞り上げないと。愛がないといいものは作れないっていうしなー」
後ろから文句を言ってくる恭弥に、はケラケラ笑いながら答える。
オッケー!と向こうの女子の誰かが叫んできた。は手を振っておいた。
はぁ、とため息をついたかと思うと、恭弥は腕を回して抱き締めてくる。
ついでに頭の上に顎を乗せてきた。
「これはもう無駄なパフォーマンスだと思うんだけど」
「そこで隠し撮りしてる女子。売り込んだ報酬の八割を風紀に提出。しなかった場合咬み殺す」
「・・・なるほどな」
恭弥の見た先には、さりげなくデジカメで写真を撮っている女子。は呆れてしまう。
まだまだだね、とにやりと笑われて、はうるせーと言っておいた。
そんな二人を、風紀委員達は見ない振りして検査を続けた。
学校を終えて恭弥とぶらぶら帰っている途中だったは、群れている不良を発見してスタスタ路地に入っていく恭弥を呆れ顔して見送った。
暫く戻ってこないかな、とため息をつきつつ振り返ると、向かいのお菓子屋に青ざめたツナと倒れている京子、ハルを発見。
思い切り怪訝な顔をして、は店に入った。
「ツナ。なにしてんだよこんなところで」
「あ、!もー聞いてくれよぉ〜〜〜」
また厄介ごとに巻き込まれたらしい。
見れば割られたガラスケースとぐちゃぐちゃになったケーキ。
風紀の腕章で周りに引かれつつ泣きついてきたツナを抱きとめていただが、リボーンのやべぇ、と言う声を聞いて顔を向けた。
見れば小さな子供。
丸い顔のテッペンに三つあみがついている。
ついでに額に九個並んだピンズ。はひょいとしゃがみこんだ。
「どうしたんだこの子。・・・マージャンのプロとか?」
「ぇぇぇええ!!?ど、どうしちゃったんだよイーピン!」
「イーピンていうのか。熱でもあるのか?顔赤いぞ?」
何故だかツナが大慌てしているがは気にせず。
頬を赤くして目がハートになっているイーピンの額に手を当てる。
ハッとツナが息を吸った。
「まさかイーピン、に惚れたのか!?」
「は?」
ツナの一言を聞いて、は首をかしげる。
ニヤッと笑ったリボーンが、イーピンの隣に並んだ。
「イーピン、こいつはわけあって男の振りしてるが、女だ」
「!!」
なにやら驚いたらしいイーピンが、よくわからない言葉を発する。聞くに中国語だ。
リボーンに嘘だ信じられない!と言っている、と通訳されて、はくくっと笑った。気付けば頭のピンズが消えている。
「実はホント。悪いな、びっくりさせて」
言って頭を撫でると、何故だか現れるピンズ。
なんだこれ、と首をかしげている間に、ツナがイーピンを抱えて店を出て行った。
「なにやってんだツナのヤツ」
「イーピンは極度の恥ずかしがりやでな。恥ずかしさが頂点に達すると額にピンズを出すんだ。で、そのピンズが減っていって、ゼロになったら爆発する」
「は?爆発?」
怪訝な顔をしてリボーンを見た瞬間、ドォーーッッと大きな爆発音が聞こえる。
え、と顔を引きつらせて外を見たは、ぜえはあ息をしながら戻ってきたツナを見つけた。
「・・・。お疲れ」
「・・・。うん」
女とわかってもダメだったらしい。
爆発したらしいイーピンは、ツナの後ろにくっつきながらちょこちょこついてきている。
へらりと笑いそうになって何とか堪えると、で、これいったいなに?と京子たちをみた。
「あー・・・それが」
聞けばアホらしくて呆れ顔してしまう。
感謝デーとしてケーキを食べていたところ、イーピンの中華饅頭で死に掛けに。
死ぬ気弾を撃ったところケーキ一個じゃ物足りないとガツガツ食べに来てこの有様。
また俺バイト三昧だよ・・・と沈むツナを見て、はため息をついた。
「まぁ、ここは俺に任せとけ」
「・・・」
ぽんと頭を叩くと、立ち上がる。
ポケットを漁って、ぺんと札束をレジの店員に出した。
「ここの修理費とケーキ代、これで足ります?」
「え!あ、あの・・・」
「このガラスケース、50万ちょっとくらいかと思うんですけど。まだ足りませんか?」
問いかければ、いいえ!と首を振られる。
枚数を数えだす店員に、百枚ありますんで、と手を上げて答えたところやはり驚かれた。
ちょっと!とツナに腕を引っ張られる。
「ななななんで!」
「ああ。昼間ちょっと黒い集団がきてな。で、潰してリボーンに報酬貰った。運良かったなーツナ」
「あ、ありえねぇ・・・」
説明すると、ツナがずーんと沈み込む。
リボーンがそういやそうだったな、と思い出したかのように言うと、あの、と後ろから声をかけられた。
「これじゃ多すぎるんですけど・・・」
「ああそう?それじゃあ・・・そこのケーキ。と、そのタルト。あとはー・・・そこのゼリーだろ。あ、それもいいな」
「え。?」
「お前も食いたいの選べ。それで良いッスか?」
じろじろガラスケースを見て、はお菓子を選んでいく。
ぇえ!?とツナと店員に叫ばれたが、かたいこといわない、とひらひら手を振っといた。
「それとそれとあとこれも。あ、それとも足りない?」
「え、いいえ!全然多いくらいです!」
「じゃあいいッスね。箱に詰めてください。こいつの分も」
「!」
「ガキまた増えたんだろ。みんなで食っとけ」
ツナに腕をつかまれるが、はひらひら手を振るだけ。
店員が大慌てで二つ箱にお菓子をつめ、はどーもと受け取った。
「ほら。そいつらもなんとかしとけよな。多分そろそろ――」
「。なにやってるの?」
「――恭弥が来た」
外から不機嫌な声が掛かる。それとともに静まる店内。
は肩を竦めると、ボス助け、と行ってひらひらツナに手を振り外に出た。
「またケーキ大量買い?」
「ミツコさんもいるだろ。ダーリンとどーぞってあげときゃ丁度いいくらいだ。明日のデザートもゲットー」
「そろそろ太るよ」
「運動しとくさ」
お菓子の入った箱を片手に、恭弥とのんびり歩いていく。
ぽかんとするツナたちをちらりと見て、は笑みを浮かべた。
「それで。あの頼りないボスをまた助けたわけだ。ゴマすりに精がでるね」
「ああ。ケーキでゴマすれるんならいくらでもってんだ」
横目に見て嫌味臭く言ってくる恭弥に、は笑みを浮かべながら返す。
はぁ、とため息をつかれて、まー家帰ってのんびりしようや、と肩を叩いた。
だって可愛い子達を放ってなんておけないだろ?(言えばお前は呆れ顔してため息をつくんだけど。そんな君も可愛いんだ!)