体育祭が終ってから、修理費だのなんだのとまた問題が積み重ね。
皆ちゃんと(?)見回りしていたらしく、報告書も一日で何枚も溜まっていた。
もちろん、例の事件の所為で被害届だのなんだの色々と届いている。
の仕事がその所為で無駄に増えたのはいうまでもない。
「・・・」
ひたすら無言で打ち続けている姿は、近づけない空気が漂っている。
もはや表情は無表情。
いっそ殺気立っている。
。鬱陶しいんだけど」
そんなにつっこめる人物は恭弥くらいだ。
用事があってやってきていた不良達は、かなりビクビクしている。
を見て何気に機嫌よく笑みを浮かべている恭弥だが、が無視したことにより顔をしかめる。
不良はさっさと逃げていった。
「そういう表情も似合うけど周りに引かれるよ」
「・・・」
また無視。
はひたすら手を動かす。
重いものがのしかかってきた。
「無視しないでくれる?」
「重い」
「やっとしゃべった」
「無駄に増えた仕事減らしてんだよ邪魔すんな」
だらりと腕を伸ばしてのしかかってくる恭弥に、は不機嫌に返事を返す。
つまらない、と言われて、そこらの猫と遊んでこいと答えておいた。
「不機嫌だね」
「たりめーだコラ。折角乱闘とめたのに無駄だし。いつも以上に仕事増えるし。しかも締め切り近いし」
段々とイライラが表に出てくるが、恭弥はへーとしか言わない。益々腹が立つ。
どけ、とが言ったが、やだ、の一言で簡単に返されてしまった。
「見回りもあるんだけど」
「テメーでいってこい」
「・・・はぁ」
返ってきたのはため息。
そろそろプッツンしかけては腹にグッと力を入れる。
ごそごそ音がしたかと思うと、視界の端らへんに可愛らしいお菓子が一つ。
「ほらの好きなお菓子だよー」
「・・・テ・メ・ェ・は・・・!」
いい加減きてしまったは、低い声を上げて震える。
恭弥がぱっと離れた。
「邪魔すんな!」
「だってつまんないんだもん」
「邪魔した挙句いじけんなふてくされんな!!可愛いんだよ畜生!
ぐるりと椅子を回して怒鳴ると、はまたくるりと戻って手を動かし始める。
かなりの呆れ顔になった(一瞬にやりと笑った)恭弥は、息をつくとぽんぽんの頭を叩いた。
「締め切りだったら一週間でも一ヶ月でも延ばせるから、休憩しなよ。朝からそれじゃあ詰まって余計に効率悪いよ」
「・・・」
「今お茶入れるから。作業止めてこっちに来る」
ぽす、ともう一度頭を叩いてから、恭弥は給湯室へ入っていく。
はため息をつくと、立ち上がって窓に向かった。
窓に座って煙草を吸っていると、お茶を入れて戻ってきた恭弥がため息をつく。
二人分のお茶を置いて(先ほど不良に届けさせた)お菓子を恭弥が置き、は煙草を灰皿に入れてソファに座った。
「はぁー・・・」
「そこまで疲れるなら遅くまでゲームしなきゃいいのに」
今やらずにいつやるというんだ。大体昨日は12時でやめて寝たっつーの。・・・ったく。これ以上仕事増やすなよ」
呆れ顔する恭弥を目を細めてじっと見てから、はお菓子に手を伸ばす。
はにゃ・・・とため息をつくと、はいはい暫くは増やさないよ、と投げやりな返事が返ってきた。
「とりあえず締め切りも延ばしておくから。どうせ毎年のことだし」
「てゆーかそういうのもっと早く言おうな。いつも言ってるけど早く言おう。・・・はぁ。ま、なんとか間に合わせはする」
「そこまで無理しなくていいのに」
呆れたように言って、恭弥はぱくりとお菓子を食べる。
そういうわけにもいかねーだろーとだらだら言って、はお茶を飲んだ。
「それによって今後の活動変わってくるだろうし。ただでさえお前の評価低いんだからさらに下げるようなことする必要ない」
「そんなの気にしないのに」
「後々響くぞ。・・・まぁ、言うとは思ってたけど。テメーはもう勝手にやってろこっちも勝手にする」
投げやりに言って、一口サイズのお菓子をぱくりと食べる。
ふっと笑った恭弥は、そうしとく、と言ってお茶を飲んだ。
「少し寝たら?暫くしたら起こしてあげるよ」
「・・・お前授業は」
「別に必要ない」
さらりと答える恭弥を、は呆れ顔で見る。
はぁとため息をつくと、そうするかな、と言って欠伸した。




が眠ってから、雲雀は膝に頬杖をついてため息をついた。
先ほどまでがんばっていたというか殺気立っていたは、今はすっかり眠りこけている。
「・・・そこまでしなくてもいいのに」
否定する言葉を出しておきながら、口元には笑みがある。
息をついて背もたれに体を任せると、すぐに立ち上がってパソコンへ。
作業途中の画面を見て椅子に座る。
無理にスペースを空けておいてある紙を手に取ると、雲雀はキーボードに手を伸ばした。
の変わりに仕事をして、暫く。
ノックの音が部屋に響く。
声をかければ、入って来たのは風紀委員の一人。
ちらりとソファで眠っているに目を向けてから、雲雀に用件を言った。
下がっていいといえば、深くお辞儀をしてから――またちらりとを見て、部屋を出て行く。
雲雀は目を細めてため息をつくと立ち上がった。
「・・・無防備すぎるのも問題だよね」
の眠っているソファまで移動して、しゃがみこむ。
さきほどまでイライラして煩かったは、今は見る影もなく安らかな顔。学ランを布団代わりに被って。
普段は立ち振る舞いや言葉で男、として見えるが、眠っている表情は女そのままだ。
素直に寝顔を表現するなら、可愛らしい。
雲雀の居ないうちに入ってくる風紀委員は、大体の寝顔を見ていたりする。はまったく気付かない。
手を伸ばして、さらりと髪をすく。
「ん・・・」
「(ほらまたそんな声を上げる)」
寝ぼけて上がる声は、どきりとしてしまうほど色っぽい。普段とのギャップもありすぎて。
応接室で眠っているを見ると、授業も無視して見張っている。
気まぐれで屋上にいこうという話しになった時も、昼寝を始めるを見張っていたこともあった。
本人、本当に気付かない。
ふぅ、とため息をつくと、雲雀はもう一度の髪をすいた。
またが寝ぼけて声を上げる。
手を止めて、そっと顔を近づけた。
頬に唇を当てる。息が当たる。
そっと離れると、眉根をよせてがうーと唸った。
息を吸って、ゆっくりが瞳を開ける。
雲雀は頬に手を当てたまま微笑んだ。
多分誰が見ても驚くだろう顔で。
いつも、こう。
寝ぼけてるは気付かない。(気付いたらきっと可愛いと抱きついてくる)
「おはよう。そろそろ五時間目終るよ」
「・・・あー・・・」
低くも無い、かすれた声。
わざと低くするときじゃなくとも、このぼやきは同じらしい。
ふっと笑って、雲雀はの頬を抓る。目を瞑ってが顔をしかめた。
ってホント無防備だよね。襲われても知らないよ」
「ふあぁ・・・だぁれがおそうかよぉ、こんなやつ」
欠伸をしながら、腕を突いてゆっくり上半身を上げる。
第二ボタンまで開けられているワイシャツから、サラシと白い肌が見えた。
「・・・ってホント、無防備だよね(だから襲われたって知らないよって言ってるのに)」
肩を軽く押して、突いている腕を引けば、簡単にソファに倒れる。
は?と声を上げたとちらりと目を合わせてから、雲雀はサラシの巻いてあるすぐ上に顔を寄せた。
ぺろりと舐め上げれば、ぴくりと揺れるからだ。
「な、は?ちょっと、くすぐったいから!髪あたってる!」
ちゅっと軽く吸い上げて、また舐める。
はケラケラ笑いながら頭に手を置いてきた。
じゃれてるとしか思ってないんだろう。退かそうとはしない。
どくどくいってるのが分かるほど心臓が脈打ってる。
「(のに・・・ね。こっちの気も知らないで)」
柔らかい肌を舐めて吸って。
そんな危ないことをしているのにはくすぐったいと笑って(足をじたばたして)雲雀の頭を抱えるだけ。
「(煽ってるとも知らないで)」
少しだけ腹が立って、雲雀は強く吸い上げる。
いて!とが声を上げた。
吸い上げたところを癒すように、何度か舌で舐める。
「なぁにしてんだよお前は――っい」
すぐ近くにもう一箇所。同じように舐める。
薄い肌の色に、真っ赤な跡がついた。(結構大きい。多分上までボタンを締めないと見える)
ちゅっと音を立てて顔を離すと、雲雀はと顔を合わせた。
はちょっとだけ顔をしかめている。
「だから言っただろ?無防備にしてると襲われるって」
「実技演習かよ」
「(そのつっこみもどうかと思う)」
呆れ顔してつっこんでくるに、雲雀は内心つっこみかえす。
まため息をついた雲雀は、の頭に腕を回して顔を近づけた。
「きょう――?」
きょとんとしているの唇をそのまま塞ぐ。
軽く当てて、今度は吸い上げて、唇を舐めて、もう片方の手で顎を押さえて無理やり中に舌を入れる。
薄く目を開けてみると、丸く開いた目に自分が見えた。
「ん・・・ぅ・・・」
寝ぼけてる時の声と同じ。
ただ今は、ぎゅっと目を閉じている。
ぴったり唇でふさいで、歯を舐めて内側を舐めて舌を絡めて吸い上げて。
震えて赤くなっている頬を確認してから、また目を閉じた。
「は・・・ぁ・・・」
「・・・だから言っただろ?は無防備だって」
目を瞑って息をしているにくすりと笑って、もう一度吸い上げる。
驚いてから咎めるように表情が――変わる途中で、雲雀はをぎゅっと抱き締めた。
「お前・・・なにやってんの?」
「・・・実技演習(どう答えろっていうの?)」
怒ったような呆れたような、そんな声がすぐ横から聞こえる。
目を閉じてを抱き締めていた雲雀は、ぎゅっと腕に力を込めた。
呆れたようにため息をついたが――緊張感なくいたたたたたと言い始める。
「いてーってくるしっっ!お前サラシ巻いてんだからちったー考えろよ!」
「(お前がこっちの気持ちを考えろっていうかこの状況でなにも思わないのか)」
呆れたいんだか怒りたいんだか分からなくなってくる。
腕を緩めてため息をついた雲雀は、そのままに頭をくったり乗せた。
「恭弥ー?きょーおーやー」
「・・・居留守」
「笑いのバリエーション増えたな。いつの間に」
「(きっとが現れてから今までの間に)」
つっこみなのか褒めたのか分からない言葉を発してから、はくすくす笑い出す。
はぁとため息をついた雲雀は、のんびり離れるともう帰るよ、と声をかけた。
「まだ終ってねーぞ」
「もう帰りたい。帰って寝たい」
「・・・ていうかその寝るってもしかしなくとも俺の家のステキベッド?」
「安眠優先」
一言答えて立ち上がると、さっさとパソコンを消しに行く。
あ、仕事!とが声を上げたが、少しは進めておいたよ、とだけ答えておいた。
「は?マジで?恭弥が?」
「馬鹿にしてる?」
「まさか。馬鹿の子って認識は元々だろ。お前が仕事片付けてくれてるとは」
「もう二度としない」
顔をしかめて言い返すと、はうわーごめん恭弥クン飯奢るよーと調子よく言ってくる。
いつもだろ、と言い返すと、だったら少しは遠慮しろっつーのとのつっこみが返ってきた。




次の日普通に登校したは、席に着いてはーと息をつく。
ふあぁと欠伸して体を伸ばしていると、ツナにあ、と声をあげられた。
。どうしたのそれ?」
「んー?」
「・・・おい。お前なんだそれ」
眉根を寄せて目を瞑りながら相槌を返していると、反対隣の武がやけに固い声で問いかけてくる。
怪訝な顔をしてから、はなにが、と問い返した。
「それ」
「ん?あぁ・・・これか。昨日恭弥につけられた」
はあーーー!!?(つかそれキスマーク!?)」
武に指差されて、は胸元を確認。
Tシャツで隠れているが少し見える赤い跡を見て納得。しかしツナが無茶苦茶引いてる。
首をかしげてから、勘違いすんなってとひらひら手を振った。(何故かクラスの女子たちが大喜びしている)
「ソファで昼寝してたら油断しすぎっていわれて」
襲われたのか!?
「なわけねーだろ誰が襲うかって」
「(いやそれ普通に襲われたかと思うってマジで関係とかもってないわけ?)」
「(ないないじゃれてただけ)」
がしっと肩をつかんで問いかけてくる武に、は顔をしかめつつ答える。
ツナにも以心伝心で返事を返した――ところ、何故だかため息をつかれた。物凄くしらけた顔で。
なんなんだよと怪訝顔していると、目の前に黒。
「ん?っておいタケ!くすぐってーっつーの!――っい」
てー、と言う前に、顔を上げた武がニカッと笑う。
やはり怪訝顔すると、鎖骨の辺りをつっと指でなぞられた。
「これで俺も」
「ん?増やして遊んでんなよー」
「ちげーだろ・・・」
「獄寺クン、無駄だよ」
ぺしっと頭を叩いてケラケラ笑う
隼人とツナがなにやら言っていたが聞こえなかった。
武はケラケラ笑った後に、だって俺さみしーだろーなどといいながらだらーっと抱きついてくる。
ただ帰り、それを見つけた恭弥に上乗せされた。



















ため息が絶えず出るのに、傍に居るのが心地いいんだ。(ただその鈍さと無防備加減はどうにかしてほしいけど)