体育祭当日。
ミツコさんに張り切って二人分入った重箱を渡された。
思わずげんなりしてしまっただ。
「でも体育祭って久々だな。なんかわくわくする」
ワオ。何年ぶりだい?」
「死ね」
今日も辛辣なボケツッコミが朝からハイペース。
スパァンとハリセンで叩いてから、これも持っていこうかと言う話しになった。結局却下になったが。
弁当を持ちつつ学ランを羽織って、いつも通り登校。ただし時間はいつもより早い。
恭弥は指示を出して風紀委員を動かし、はテントを張る準備を手伝っただけで、後はテントの中でノンビリ過ごしていた。
「・・・風紀委員用のテントがあるなんてな」
「これも僕の行いの賜物だね」
「悪い意味でな」
と恭弥のやりとりを、時折草壁あたりがひやひやしながら見てくる。
テントの下って楽で涼しくていーなーとがだれているうちに、体育祭が始まった。
テントの中で座っているのはと恭弥だけしかいない。他はみんな普通に参加しているらしい。
パタパタ走って、体操着の武がやってくる。
恭弥が邪魔で入れないかなと立ち上がって、は武の下までいった。
「お前なんの競技出るか知らねーだろ?」
「ああ。知らねーや」
「つーわけでコレ。出る競技赤線引いといたぜ」
「おっ、気がきくねぇタケ。サンキュ」
貰ったのは体育祭のパンフレット。
しっかり競技に赤線が引いてある。が、中々に多い。
「棒倒し出ない代わりにほかの競技出るようになっちまったんだ」
「あぁ。悪いな」
「いーっていーって。ちなみに、次の競技俺とお前参加だから」
「ワオ。徴収かかってんな。先行ってろ」
ひらひら手を振って、は一旦テントの中へ。
どうしたの?とかなり怪訝な顔で恭弥に問いかけられた。
「棒倒し参加しねーかわりに、他の競技でなきゃならないんだと」
「決めたやつ咬み殺してこようか」
「やんな馬鹿。まぁ・・・久々の体育祭だ。適当にやってくるさ」
にやりと笑って学ランを椅子にかければ、呆れ顔される。(下は青のTシャツ。肩までまくっとく)
なんだよと顔をしかめると、とうとうため息までつかれた。
「君分かってる?いや分かってないか
「先に自己完結すんなっつーの」
「競技、男しか出ないんだよ。男女対抗リレー以外」
パンフレットを目の前にビシッと出されて、はじろじろ見る。
ああそっか、と言うと、ぱしんとパンフレットで叩かれた。
「今から変更できるけど」
「必要ないだろ。俺が負けると思うか?」
「・・・さぁ。本気なんて見たことないから」
不機嫌に答える恭弥に、はケラケラ笑って見せてないしと言う。
さっさと行けよと手を振られて、はへいへい行って来ますーとテントを出た。
「あれ、待ってたのかよ」
「おー。どーせだったら二人で遅刻した方がいいだろ?」
「はは!さっすがタケ」
「あたぼー!」
がしっと肩に腕を回されて、そのまま二人でケラケラ笑いながら走っていく。
やはり徴収している生徒に怒られたが、すいませーんと適当に謝っておいた。
出る競技は100M走だの借り物レースだの障害物レースだの、そういうものばかりだ。
玉入れや大玉送り、力技の競技にはエントリーされていなかった。
見た目から走る競技の方がいいと思われたのか、それとも恭弥にバイクで追いかけられたところを見られていたのか恭弥を追いかけていたところを見られていたのか。
分からないがいいかとはアルファベットつきの服を受け取る。汗臭い。土臭い。
顔をしかめて、は腕に巻きつけた。
「ちょっと君・・・」
「見分けはつくだろ?全部一位で入るから、それで勘弁してよ」
口調が気付けば恭弥に。
顔をしかめられたが、は無視して位置についた。
「お!と同じ列か!」
「ま。軽くまいてやるよ」
一個隣に武発見。
そしては一人制服のままだ。
やはり文句を言われたが、体操着持ってないの一言で流しておいた。
『位置について!よーい!』
パァン!と銃がなって、は走り出す。
どうせついてくるやつなんていないだろうと高をくくっていたが、隣を見ると武。
二人でニヤッと笑って、はスピードをドンと上げた。
ざわっと周りがざわつく。
一気に走りこんで、ゴールでとたとた止まった。
「はい一位」
「〜〜っだーー!なんだよそれ!お前早すぎだろ!」
「まだまだ青いな、タケ」
ぴんと指で白いテープを弾いて、スタスタゴール。
後から来た武は膝に手をつきながら肩で息をしている。
は笑みを浮かべると、次の徴収いかなきゃだな、と周りを見回した。
次は借り物レース。
ぱぱっと走ったは、紙の中を見てしらけた顔になった。
「・・・。えーと。ツナー?」
ツナを呼んで周りを見れば、椅子に座ってぐったりしているツナを発見。
ため息をついて、すぐさまツナの元に走った。
「え・・・?」
「借り物、総大将。行くぞ」
手を掴むとすぐに走り出す。
さっさとゴールに入って紙を渡しておいた。
ツナは後ろでぜーぜー息をしている。
「は、はや・・・」
「・・・ツナ。お前大丈夫か?」
「え?」
肩で息をしているツナの背中に手を置いて、は顔を覗き込む。
青い顔で気持ち悪そうにしている。
無理やり走らせた結果だ。
周りを見てから、はツナを引っ張って歩いた。ついたのは水道。
水分を取らせて顔を洗って、腕まで水で冷えさせた。
「ちったー楽になったか?悪いな、無理やり引っ張って」
「ううん・・・いいよ。一位取れたし」
へらりと、疲れた様子でツナが笑う。
やはり顔をしかめて、はツナの額に手を当てた。
「・・・お前熱あるだろ」
「え!?・・・ていうか気付いてくれるのだけだよぉ〜〜〜!!」
驚いた後で、ツナは泣きついてくる。
よしよしと頭を撫でてから、ていうかやっぱりな、と顔を覗き込んだ。
額と額をくっつけると、ツナが顔を赤くする。
「これ・・・誰かに言ったか?」
「え・・・ううん。言ってない。いや・・・保健室行ったけど、追い出された・・・あ、あと!あの、京子ちゃんに・・・名前刺繍してもらったから・・・ハチマキに」
しどろもどろ喋って目を泳がせるツナを見て、はため息をつく。
あんまり無理すなよ、と頭を撫でると、ツナは苦笑いしてうんと頷いた。
戻ってみれば、武に障害物リレーだと呼ばれる。
また一緒の列で走りたいなーとケラケラ笑いながら話していると――同じ列だった。
「やったな。名誉挽回するぜ」
「残念。俺は負けねー」
二人でにやりと笑いあって番を待っていると、A組みから大声で応援する声が響いてくる。主に女子。
タケシーーー!!
ーーー!!
「「モテモテだな」」
同時に言って、同時に笑う。
位置について!と言われて、と武は並んで立った。
パァン!となった音と共に、二人は走り出す。
最初から二人で一騎打ち状態。
の速さに感化されて、武が先ほど以上の速さで追ってくる。
縄抜けは――片手で一気にぶわっと上げて走った。便乗した武にそこで越される。
「ズリーぞタケ!!」
「運も作戦のうち!」
仲間内で競ってんじゃねーーー!!
隼人からのつっこみが聞こえて、二人とも笑ってしまう。
笑いながら走って次は跳び箱。も武も軽々飛び越える。
サービスで前方倒立回転飛びプラス二回転。
着地してさっさと走り出すと、ずるくね!?と武がつっこんできた。
はケラケラ笑って走る。
「よっしゃあ平均台!」
「負けるか!ってそれなしだろ!」
タンと平均台に乗ったは、一蹴りで向こう側へ。
武が慌てて追いかけてくる。
ケラケラ笑いながら障害物を全部ツートップで切り抜け、最終的にやはりが勝った。
「やりー」
「あー!くやしーー!!」
片手を上げてケラケラ笑うと、武が両手で頭をかきながら叫ぶ。
お前ら二人で何やってんだよ!と言いつつもクラスメイトたちにばしばし叩かれて、は武と笑った。
残る午前の競技はホッピングレースのみ。
かなりしょっぱいなと思いつつ、は風紀委員のテントに戻った。
遊びすぎ、となんだか不機嫌に恭弥に叱られたが、は笑って流しておいた。
「大体女子にモテてどうするんだ?」
「さあ。勝手に好かれてんだし、放っとけば」
「どうして君の周りに人が集まるのか、しょっちゅう疑問に思うよ」
「俺も不思議に思う」
恭弥とノンビリ話しながら過ごしていると、なんだか大騒ぎに。
C組みとB組みの総大将がやられた――しかもツナにと聞いて、はリボーンだなとつぶやいた。
の呟きを聞いて、恭弥が笑みを浮かべる。
「・・・ということは、向こうの総大将とあいまみえれば、赤ん坊に会えるかもしれないってわけだ」
「やめとけやめとけ。どーせリボーンの暇つぶしだろ。ツナに全部背負わせて自分は出てこねーよ」
「もしかしたら、ってこともあるだろ?」
どうやらやる気満々らしい。
もう恭弥はにやにや笑っている。目を光らせながら。
はぁとため息をついたは、審議をするという放送を聴きながらお弁当を開いた。
やっぱりミツコさんの料理は美味しい、などと話しながらお弁当を食べていると、風紀委員がやってきてB・C合同でチームを組む、とこそこそ伝えてくる。
それを聞いた恭弥は、それこそ楽しそうに笑った。
「・・・。ほどほどにな」
「気が向いたらね」
無茶苦茶不安な台詞をさらりと言って、恭弥は上機嫌にお弁当をつついた。



午前の最後に獄寺たちがC組み総大将を倒し、さらにリボーンがB組み総大将を襲った所為で、ツナは最悪の状態の中お弁当を食べていた。
頼みのつなのはいない。
ハルは懸命に庇ってくれるが、ビアンキのポイズンクッキングによって無駄に。
さらにB・C合同でチームと聞いて、ツナは相当に凹んでいた。
しかも相手チームの総大将はヒバリ。
ツナは一気に青ざめる。
連合軍から少しはなれたところに、学ランを羽織ったが呆れ顔で見ている。
助けてと電波を送ったところ、無理、との返事が返ってきた。
そんなことをやっている間に、もう競技が始まる。
ひぃーー!と声を上げていたツナは、殴られ蹴られ引っ張られと酷い有様になって――空中でリボーンに死ぬ気弾を撃たれた。
人の上を飛び跳ねて移動していたツナは、山本と獄寺、笹川了平の作った騎馬にのって攻め入る。
が、途中で騎馬がくずれ、あっけなく地面に落ちた。
気付けば四面楚歌。
ボコボコに殴られていると、獄寺たちが助けに殴りこんできてくれた。
純粋に助けてくれているのは、獄寺と山本だけだけれど。
とうとう乱闘になって獄寺のダイナマイトのとばっちりを受け、ツナはボロボロになる。
家族たちにも変な誤解をされてふざけんな!!と思い切りつっこみを入れていたツナは、ぐいと腕を引っ張られて顔を上げた。
だ。
しかも相当に不機嫌な顔をしている。
静まれ!!
手にはいつの間にやらマイク。
大声で叫んだ後マイクを投げ捨てると、すぐさま銃を取り出してガウンガウン!!と空に撃った。
音に驚いてか、ぴたりと乱闘が止まる。
「いい加減にしろ!!競技なら競技だけにしやがれ!!――おい隼人!!」
ぐるりと首を回して獄寺を呼ぶ
その怒声に、ダイナマイト片手に誰かの胸倉を掴んでいた獄寺が、どもりながら「お、おう」と小さく声を上げた。
「ボスが大事だったら体調不良くらい気づけボケ!!とっとと来い!!」
「!!」
怒鳴られた獄寺が、慌てて走ってくる。
誰も動かなくしんと静まり返った中、あくせくしながら走ってくる獄寺はかなり間抜けに見えた。
「責任もって連れてけ。手当てして寝かせろ」
「お、おう・・・」
オラテメェら!!とっとと撤収!!時間詰まってんだよさっさとしろ!!これ以上仕事増やさせんな!!」
周りに怒鳴り散らしながら、はガンガン銃を撃って真ん中に進んでいく。
びくりと慄いた生徒達は、慌てて戻っていった。
ふーと息をついて、は銃をしまう。
しかし動いていない人物が一人。
トンファーを持って笑みを浮かべている。
ツナははっと息を吸った。
!!
ツナが叫ぶのと同時に、ヒバリがトンファーを降ろす。
しかしはすっと避けた。
「折角面白くなってきてたところなのに、どうしてくれるの?」
「弱い雑食動物に興味ないくせになに言ってんだよ」
楽しそうに笑みを浮かべているヒバリ。
は冷めた目で――一瞬見てから、すぐに呆れた顔になる。
が銃をしまいこむが、ヒバリは気にせず攻撃を仕掛けた。
「折角の見せ場だ、全校に実力示しておけば?」
「お前が単に暇つぶししたいだけだろ。つーか八つ当たり?」
「分かってるなら、相手しようよ」
話しながらも、は確実に避けていく。
しかしヒバリの攻撃も止まらない。
おろおろしながら見ていたツナは、周りを見て――とめられそうな人物がいないことを今更思い出した。
が怒るなんて初めて見た。まだ怒り持て余してるだろ?相手してあげるよ」
「・・・はぁ。ホンット、馬鹿の子」
がため息をついて頭を下げる。
そんなことをしたら!とツナは目を見開いたが――気鬱に終った。
ビュッと今までにない速さでヒバリがつっこんだが、はひらりとかわすだけ。
不機嫌そうに口をへの字にしたヒバリは、すぐさま切り返してにトンファーを振るった。
ひょいひょい避けていたはもう一度ため息をついて、ばさりとヒバリに学ランを投げつける。
ツナはそこからの出来事を、息もつけずに見ていた。
ヒバリがばさっとトンファーで学ランを払ったが、そこにはおらず。
ふわり。
音もなくヒバリの後ろに着地したが――片手をポケットに入れながら――もう片方の手を鉄砲の形にして、ヒバリの後頭部に当てる。
「バン」
口で言って、撃ったかのように指を上げる。
ヒバリが目を開いて振り向く。
スローモーションのように起きた目の前の出来事は、すぐさま崩れた。
ブンとヒバリが腕を振って、がそれを後ろに飛びながら避ける。
笑みを浮かべてポケットに片手をつっこんだまま。
眉根を寄せたヒバリが、を前にちゃきりとトンファーを構えた。
「言っただろ。お前じゃ俺に勝てないって」
「ずるい力の所為で?」
「そう。分かってるなら諦めろよ。・・・これ以上人外なところ見せたくもないし」
ため息をついて、は学ランを蹴り上げる。
ばさりと一度はらって片手で肩に担ぐと、スタスタ学校に向かって歩き出した。
「それで終わりって余計にずるくない?」
「べっつにー。恭弥クンはがんばりすぎなんじゃねー」
バシバシ片方のトンファーで攻撃をしながら後ろを歩くヒバリも気にせず、は学ランでそれを弾いて呑気に歩く。
じゃれあうように二人が歩いていく後姿を、全校がぽかんとしながら見送った。
「・・・、つえー・・・」
「・・・ていうかあいつ、ヒバリより強い・・・?」
ぼそりとツナがつぶやくと、続けて獄寺がつぶやく。
え・・・とつぶやいていると山本が小走りにやってきた。
「すげかったなーのキレ具合。普段怒らなねーヤツが怒るとやっぱこえーんだな!」
「(山本的まとめーー!!)」
ツナはがーんと顔を崩して、もはやつっこむ声も出ない。
ツナがぐったりすると、獄寺は慌てて走り出した。
姫だっこは止めて欲しかったと切実に思うツナだ。
その後体育祭は何事も無かったかのように(明らかに動揺はあったけれど)進められ、ツナはぐったりしつつも、生きて家に帰ることが出来た。


















いい加減相手して欲しいのに、このままでもいいかなって同時に思ったりするんだ。(ただ僕の方が弱いとか思われたら容赦なく咬み殺すけど)