転校生がまた来ると、教室の生徒達はざわめいていた。
物凄く中途半端な時期だ。
男だろうか女だろうかと、みんなが囁いている。
そんな中、ツナたちは微妙な顔をしていた。
「転校生って・・・さ、まさか」
「いや・・・でもよ、あの人年上っぽかっただっただろ?」
「チッ・・・」
ツナの言葉に、山本が頭をかきながら答える。獄寺は舌打ち。
チャイムが鳴ると共に、担任がガラガラ扉を開けて入ってきた。
「今日は転校生が来たので紹介する。、入って来い」
先生が声をかけると、またがらがらと音を立てて扉が開く。
入って来た人物を見て、ツナたちは目を丸くした。
入って来たのは一昨日の女性。
しかし、男子の制服を着ている。
シャツは出しっぱなし(中にTシャツを着ていた)、ネクタイはなしと、かなり着崩れた状態で。
女子たちが盛り上がった。またファンクラブ結成だのなんだのと騒いでいる。
教師が適当に何処から来ただのと紹介をしてから、はいそれじゃあ自己紹介よろしく、と女性――今は男の格好をしている――に話を振った。
「です。他人とよろしくする気はまったくないんで、そこんとこヨロシク」
しんと静まり返る教室。
しかしはかなりやる気のない、むしろ冷めた表情でダルそうに立っている。
「先生。俺はどーしたらいいんですか」
「あ、ああ・・・それじゃあえぇと・・・あそこの席へ行ってくれ」
「はい」
声もかなりやる気ない。
やる気なく返事を返すと、はスタスタ歩いて空いている席に向かう。
ガラガラ椅子を引いて席に座ったは、ため息をついた。
教師はの態度を無視して、SHRを進めていく。
チャイムが鳴って教師が出て行った瞬間、女子――と共にも立ち上がった。
「え・・・くん?」
「・・・」
近くで立っていた女子が声をかけるが、はちらりと見るだけでスタスタ歩いていく。
慌ててツナが立ち上がった。
「あ、と、・・・くん!!」
「・・・」
「おい、待てよ!十代目が声かけてんだろうが!!」
「・・・んだよ」
ツナの事も無視して歩くに、獄寺が怒鳴った。
振り返ったは、獄寺をダルそうに見て低い声を上げる。
クラスの生徒たちが少し引いたが、それでも獄寺はを睨みつけた。
山本は座ったまま、と獄寺を交互に見ている。
ツナが一歩前に出た。
「あの・・・授業受けないの?」
「あのガキは挨拶だけで十分だとよ。授業受けるギリなんてないね」
「は?お前ふざけんなよ!なにしに学校来てんだよ!」
「好きで来てんじゃねーんだよ。ほっとけ」
「あ?こっちは気にしてやってんだろ!!」
「誰も気にしろなんつってねーだろがよ」
拳を握っていきり立つ獄寺に、はダルそうに首を斜めにして目を細め、言い返す。
んだと!?とさらに怒鳴る獄寺の腕を引っ張って、ツナがなんとか宥めた。
「ど、どうせきたんならさ、受けてみたりは・・・」
「興味ない」
「・・・で、ですか・・・」
一言スパッと言ってくるに、ツナは顔を引きつらせつつぼそぼそ返事を返す。
チッと舌打ちして獄寺がさらに前に出ようとし、ツナが慌ててとめようとしたが――やはり無理だった。
「おいテメェ。十代目が気ィ使ってくれてんだよわかってんのか!?」
「・・・一々うるさいなお前は。誰も使えなんていってねーっつっただろ」
胸倉を掴んで怒鳴る獄寺に臆することなく、が少し不機嫌な声で返事を返す。
んだと!?とまた獄寺が叫ぶと、はバシッと獄寺の手を払ってドンと押し返した。
「待てよテメェ!逃げんのか!!」
「ガキに手ぇ出す趣味はねーよ。消えろ」
「テメーこそ果てろ!!」
「わーー!!まったまった獄寺く――」
室内でダイナマイトを取り出す獄寺にツナが焦って駆け寄ろうとするが、それより早く、ダイナマイトがばらばら床に落ちる。
何事かと床を見て、そして獄寺を見たツナは、驚いた顔をしている獄寺を見て――に顔を向けた。
はまたやる気の無い顔で手をすっと降ろす。
「物騒なもん室内で取り出すな。考えなしだな」
「だと!?」
獄寺がまた怒鳴るが、はスタスタ歩き出す。
おい!と獄寺が怒鳴っても無視して教室を出て行く。
獄寺も、そして他の野次馬も外へ出た。野次馬は入り口までだが。
「テメェ・・・ファミリーに入ったなら入ったでそれなりの行動とりやがれ!!」
獄寺の声を聞いて、がぴたりと止まる。
はぁ、とため息をつくと、振り返って獄寺を睨んだ。
「お前さ、考え無しだってそいつに言われたことないか」
「あ?」
視線を送られたのはツナ。またがやる気のない目に戻っている。
獄寺はツナを見てから、を訝しげな顔で睨んだ。
「そうそう簡単にファミリーだのなんだの口に出すな」
「なんでテメーに指図されなきゃならねーんだよ!!」
「だったら同じ言葉を返してやる。俺に指図すんな」
「るせーよテメーが常識なってねーからこっちがつっこんでやってんだろうが!」
「・・・ぁあ?」
獄寺の言葉を聞いて、が明らかに空気をかえる。
ギロリと獄寺を睨んだからは、ビリビリ肌が痛くなるような怒気が発せられていた。
スタスタやってきてどんと獄寺を押す。獄寺と共にツナたちも教室に入った。
「なにが常識だよ。あ?なにが常識だ。言ってみろ」
「だ、だかっ・・・オイ!」
どん、どん、と獄寺を手で押してどんどん奥に入ってくる。
喋れずに下がるしか術の無い獄寺が声をあげると、はドンと獄寺をまた押した。
「なにが常識なんだよ」
「っ。学校来たなら授業受けんのが筋ってもんだろが!!」
「ハッ」
怒鳴る獄寺を、は鼻で笑う。思い切り。
テメェ!とまた獄寺が胸倉を掴もうとしたが、それより早くはドンと獄寺を突き飛ばした。
飛ばされたのは座っていた山本の上。山本はしっかりキャッチだ。
「テメーの常識押し付けてんじゃねぇぞガキ。こっちはもう常識だのなんだの関係ねーんだよ」
「んだと?そっちこそガキじゃねえか!」
「るせーガキッ。なにもかも奪ってさらに自由までありませんてか?それで常識かよ。ど・う・な・ん・だ・よッ」
がばっと立ち上がった獄寺の胸倉を今度はが掴んで、ぐらぐらゆすった。
いきり立つを見て、ツナたちは身動きが取れなくなる。
山本は眉根を寄せて、微妙な顔でを見ている。
「テメーらが余計なことしたせいでこっちは何もかも失くしてんだよ!お前らにとっちゃそれが常識か?急に無理やり引っ張られてわけわかんねーとこ来て、それで急に新しく生活始めましょうあなたの人生は私がなんとかしてあげますああよかったなで済ませられんのかよ!」
「・・・」
「・・・チッ・・・くだらねぇ」
無言になった獄寺をドンと突き飛ばして、はスタスタ歩き出す。
窓へ。
周りから声が上がるが、はうるせえ、の一言で周りを無言にさせた。
「無駄なこと話させやがって・・・」
「っ!ちょっと待って!」
窓にひょいと乗ったは、そのまま飛び出す。
慌ててツナが窓に駆け寄ったが、途中どこかの窓に手をかけたは、そのまま地面に綺麗に着地してスタスタ歩いていってしまった。
「・・・」
残ったのは、微妙な空気のクラス。
チャイムがなり、教師が入って来たため、全員のことを頭から抜かした。
「・・・俺、思うんだけどさ。やっぱり、いきなり周りのもの全部が変わるって、物凄くこえーと思うんだ」
「・・・怖い?」
休み時間。物静かにしていた山本がぽつりとつぶやく。
ツナがつぶやくように相槌をかえすと、山本はああと頷いた。
「なんにもしらねーところにいるわけじゃん?親もいない、友達もいない、自分を知ってる人が、誰一人いないんだ」
「・・・」
「無茶苦茶不安になるだろうなぁ・・・。それに、夢とか、さ。やりたいこととか、色々あるだろうし。俺だったら、物凄く凹むと思う」
野球できねぇってつれぇなぁ〜と、山本は茶化すように声を上げる。
山本の言葉に、ツナは少し遅れてうんとうなずいた。
席に座っている獄寺は、ずっとむすっとした顔で机を睨んでいる。
だらりと両手を伸ばして、山本は机に伸びた。
「一昨日のあの人、物凄く怒ってたな」
「・・・うん。怒っても当たり前だと思う」
「だな。俺も、そう思う。・・・人生、失くしたと同然だよな」
「・・・」
山本の言葉を聞いて、ツナは無言になる。
またチャイムが鳴って、の話題はそこまでになった。
中学校を出てスタスタ歩いていたは、スーパーに寄る前に不良に絡まれた。
どうも並盛は不良が多いらしい。
のだが。
「ぐっ!」
「がぁっ!」
「・・・弱」
右半身だけで十分事足りる。
今まで喧嘩もしたこともなかっただが、こちらに来てから身体能力がありえなく上がっているようだった。
現に、自分よりもガタイのいい男たちを簡単にのせる。一発で。加減しないと危ないことになる。
相手の動きもありえなく遅く見える。
めんどくさそうにため息をつくと、はさっさと歩いてスーパーに入った。
適当に食材を買って、昨日リボーンに案内されたマンションへ向かう。
やはりため息をつきながら歩いていると、黒いスーツを着た男たちに囲まれた。
「異界の民・・・というのはお前か?」
「・・・だったらなんだってんだよ」
あきらかに危ない風体。
しかしどうにも――やる気が起きない。本心を言えば、どうでもいい。
大人しくついてきてもらおうかと言われて、断る、と一言返すとは歩き出した。
しかし数歩歩いたところで腕を掴まれる。
「・・・邪魔くさ」
めんどくさそうにため息をつくと、は腕を掴んでいる男をふき飛ばした。
――それをきっかけに、どんどん周りに立っている男たちが襲い掛かってくる。
武器を持っている男も居るが、はまったく負けない。
今にもため息をつきそうな顔で、バシバシ倒していった。
「くだらねぇ・・・」
地面に倒れる男たちを見て、は吐き捨てるように言う。
昨日、外を歩いていた時も、何度か危ない風体の集団に襲われた。
皆、異界の民かどうかを聞いて。
だらだら歩いて、大きなマンションに着く。
の部屋はそのマンションの最上階だ。
案内されて、驚くよりもげんなりしてしまった。
エレベーターで上がれば、扉の開いた先にはドアが一つだけ。
白く広い綺麗な廊下が無駄にあり、窓から日差しが入っている。
扉の横には、指紋センサー。
の指紋は昨日登録した。
ちゃっかりリボーンまで登録していたがどうでもいいとは気にしていない。(腹は立ったが、やはりどうでもいい)
ぴっと音を立てて、センサーが光る。重そうなドアがバタンと開いた。
中に入って右に脱衣所と風呂、その隣にトイレ。
反対側の左には大きなキッチンとカウンター式のテーブル。
カウンターの後ろに、かなり広いリビング。
床に円状に穴が開いて真ん中にテーブルが設置してある。
淵はソファになっていて、テーブル含めて全てが白。
円とくっついて、大きな半円の穴が開いている。
その穴も、ソファ張り。半円の中心には、大きなテレビが壁にくっついている。
円と半円の左側、ベランダに出れる大きな窓の隣には、大きなコンポ。スピーカーも入れて三メートルは場所をとっている。
リビングだけでも十分広いが、窓とコンポの反対側の壁には、まだ扉がある。
トイレの隣には、少し小さな部屋。
物はないが物置になっている。今あるのは、ありえない額の入っている金庫だけ。
その隣にも同じくらいの小さな部屋。(とはいえ10畳は軽くある)
隣にもう一つ、無駄に広い寝室。
中には7畳だか8畳だかわからないが、無駄にデカイベッドが置いてある。壁にクローゼットが埋まっていた。
テレビの横にさらに扉がある。
そこには何故だか、色々な武器と――銃の的。銃もある。もちろん本物で。必要なモノは全て揃っている。
土日を抜かして、一日に一度は必ず、専属のハウスキーパーが来る。
壁は全て防音。
本当に至れり尽くせりだ。
はため息をつくと、ポケットに入れてあった財布をソファに投げる。
自分もソファに座ると、ポケットから煙草を取り出して火をつけた。
「・・・はぁ・・・」
なにをするにも、やる気が起きない。
首に下がっているペンダントをぎゅっと握り締めると、目を閉じて舌打ちした。
勘違いもすれ違いも、それに気付くことも他人を気遣うことすらもどうでもいいこと。に、変わってしまったんだ。(ああ、全てくだらねぇ)