「ん・・・ぅ・・・」
「・・・いつになっても寝起きは変わらないよね」
すぐ横からため息。
はつつかれて眉根を寄せる。
息苦しくなって、さらに眉根を寄せた。
鼻と口に違和感。抑えられている。
「う・・・う?」
「おはよう」
目を開けてみるとすぐ目の前に恭弥少年。
は目を擦っててめーまたかよ、と声を絞り出す。くすくす笑って流された。
挨拶は?と言われて、おはよう、と半分寝ぼけながら返す。
「早く起きないと襲うよ」
「はぁー?なんだそれ・・・ふあぁ・・・」
起き上がって欠伸一つ。
スタスタ部屋から出ると後ろからため息が聞こえた。
出ればミツコさんに「さっさと支度しなさい今日から新学期よ!」と声を掛けられる。
えーもう新学期かよ、と文句を言いつつ、は洗面台へ。
顔を洗い終えたところでやってきた恭弥にハリセンで叩かれ、どく、と退かされた。
「・・・よくよく考えたらお前、夏休みの半数以上家に泊まってね?」
「残念ながら半分以下だよ。あと一日多ければ半数だったね」
「かわんねーだろ」
目を細めて呆れ顔しながらつっこむと、は寝室に行って着替えを取り出す。
学ランの上着は応接室に置きっぱなしだが、熱いしいいかで済ませた。
相変わらずさらしを巻いてシャツを着る。中にはいれず出しっぱなし。
「ネクタイとかつけないわけ?」
「まー、正直言うともってねぇ」
「・・・。そんなオチだろうと思ってたよ」
呆れ顔された挙句またハリセンで叩かれた。
いい音ねー清々しい気分になった、などといいながらミツコさんは朝食を出してくれる。
あざーッスといいながら座って、さっさと食べた。
「あら。それなに?かっこいーわねー。あ、恭弥クンもつけてるじゃない」
「じゃじゃーん。ウォッレトチェーン〜。シルバーアクセ見に行ったらいいの沢山あってさ!いっぱいかっちゃった」
「全部の奢りで」
腰についているチェーンを見て、ミツコさんがキョロキョロ二人を見る。
はにへらと笑いながらチェーンを手に取る。恭弥はいつも通り、涼しい笑み。
まぁお金ありますしー、と暗い顔で言うと、はいはいと流された。立場が逆になってきている。
「あ、ペンダント似たような感じのねェ」
「うん。羽ぶらさがったクロスがあって、悪魔の羽欲しいっつったら天使と対って店員さんに言われて」
「無理やりが買ってこの状態だよ。天使を僕がつけるって無茶苦茶似合わないから、が天使で僕が悪魔のクロス」
首に下がっているのは、クロスに羽がモチーフになった飾りの下がっているペンダント。
天使はシルバーに柔らかい羽。
悪魔は鋭角ラインの際立つ羽。
はいつもつけているペンダントに一緒に下げている。
あらーいいわねーとニヤニヤ笑うミツコさん。はだろーと見せびらかす。
ペンダントをつまんで――に顔を向けて、恭弥は笑みを浮かべる。
そんな恭弥を見てミツコさんは笑みを深める。
ふいと笑みをなくして顔を逸らした恭弥は、さっさと行くよというとを引っ張って歩き出した。
「いってきまーす」
「いってらっしゃーいアハハ☆」
「・・・なんなんだミツコさんのあのハイテンション」
「・・・さあ」
無茶苦茶笑っているミツコさん。は怪訝顔しつつ恭弥の後ろを歩く。
一言返してきた恭弥は、エレベーターがくるとさっさと乗り込んでため息をついた。
登校はやはり恭弥のバイクで。
途中、武と隼人を発見してやほーと手を振っておいた。落とされかけた。
学校につく前に、人を一人連れながら猛ダッシュするツナを発見。
なぁにやってんだと呆れつつ、は恭弥の背中に頭を乗せた。
「重い」
「修行」
いつも通りのやり取り。
自転車置き場にバイクを止めて、それぞれ教室に向かった。
「おっひさー」
「よーっす」
「おー」
「・・・はよ・・・」
ツナだけ死んでいる。
えーとどうした?と問いかけると、聞いてくれ・・・!とすがりつかれた。
曰く、ボクシング部に無理やり入部させられたとか。
「ボクシング部ぅ?」
「そうなんだよ・・・!しかもその人、京子ちゃんのお兄さんなんだっ・・・!!」
ツナの好きな子は京子ちゃん。とは、夏休み中に聞いた。
ちらりと京子を見たツナは、どうしたらいいんだ〜〜と頭を抱える。
はやれやれとため息をつくと、ツナの頭をぽんぽん叩いた。
「まぁ、なるようにしかならんさ。行ってみてさ、楽しいかもしれないし?」
「絶対無理だよ!俺無茶苦茶弱いんだぜ?!」
「そうかなぁ。まぁ、それならそれで、はっきり言う。本気でやってる人に勢いで負けて断れませんでした、っていうんじゃ失礼だろ?頭下げて、正々堂々言ってこい。それでもダメだったら俺が風紀の権力で潰・・・なんとかしてやる」
「今潰すって言いかけたよな。言いかけたよな?」
宥めていたは、すっかりツナにつっこまれ役になる。
そそくさと目を逸らすと、ほどよくチャイムが鳴ってわー授業だ〜と逃げた。
結局ダメだよこの人もーーー!!という失礼なつっこみを横から感じ取って、失礼な、と投げ返しておいた。
三時間目に突入する前に飽きて、サボる、と宣言。
はっきり言いすぎだからとツナにまたつっこまれる。
ひらひら手を振って応接室に向かうと、何故だかリボーンがいた。
「ちゃおッス」
「・・・お前どっから侵入したんだ」
「ちゃんと入り口から入ったぞ」
「・・・」
しかし入り口には鍵が掛かっていた。考えないことにした。
中に入ったは、なんか用でもあるのか、といいつつパソコンを付けにいく。冷房はすでに入っていた。
「ツナがまたおもしれーことに巻き込まれてんな」
「あー・・・アレか。いいのかよアレ」
「なるようになるだろ。それより・・・これ、くれねーか」
そっとリボーンが取り出したのは、お祭りの時クジで取ったゾウの被り物。
はっと振り向いたは、なんでそれを!と声を上げた。
「今日抱えてバイク乗ってただろ。雲雀恭弥に被せようとして殴られてた」
「・・・見てやがったか」
「馬鹿だよなお前」
「うるせーよ」
ため息混じりにつっこまれて、は顔をひきつらせる。
まぁとにかく、と一息つくと(勝手にコーヒー入れていた)くれねーか?ともう一度問いかけられた。
はソファまでいってしゃがみこみ、ゾウの被り物を手に取るとじっとリボーンを見つめる。
それからそっとゾウを被らせた。
「・・・」
「・・・」
「・・・。なにやってるの?」
「!!」
じっと見つめあうこと数秒。横から声が掛かる。
かなり驚いて見てみれば恭弥。はげっと声を上げた。
「これ一体なに?」
これ、とはリボーン。オンザゾウ。
はえーと・・・と声をあげると、リボーンをちらりと見た。リボーンは恭弥を見ている。
「た・・・タイから来たムエタイの長老パオパオ老師だ!」
「・・・・・・・・・。へぇ」
「ゴメン恭弥ホントゴメン悪かったからつっこんでホントゴメン」
物凄く白い目で見られて、は膝に頭をくっつけながら早口に謝る。
リボーンが悪乗りしてパオーンと声を上げたので、ぐいぐい押しておいた。
「じゃ、ありがたく貰ってくぞ」
「もう好きにしてくれ・・・」
すっかり脱力して、は力なく言う。
足音が遠ざかると、上からため息が落ちてきた。
「あれって、前の祭りでとったヤツだよね」
「・・・ッス」
「・・・可愛さに負けたか」
ぼそりと言われて、はそっと顔を横に向ける。
スタスタ近寄ってきたかと思うと、恭弥はがしっと顔を掴んで無理やり真正面に向けた。
「で?朝被せようとしていたのはあれかな?」
「え・・・えへ」
「可愛い物好きだって全校にバラすよ」
「すんません!!」
泣きそうになりながら謝ると、ため息をつきながら恭弥はソファに座る。
だって絶対可愛いしアレ自体可愛いしっていうか絶対可愛いのに・・・とぶつくさつぶやいていると、蹴られた。
いいから仕事したら、と言われて、へーいへいと立ち上がる。
だらだらやっていたら、三時のおやつ片手にいじられた。
放課後、はボクシング部の部室へ向かってみる。
なんでかみんな見に来ていた。
「お、も見にきたのか」
「よータケ。いざなったらどうにかできるようにな」
「さりげなく銃だしてんじゃねーよ。やるなら俺がやる」
「あははは!お前ら相変わらずおもしれーなー」
「わぁ。すっごいおもちゃ!」
隼人と共に銃やらダイナマイトやらを取り出していると、武に笑われ京子に喜ばれる。
どうやら中にツナはもう入ったらしい。
覗いてみたらリボーンもいた。
「〜〜!!」
暴れそうになる。
武に首を傾げられて、なんでもない、と言っておいた。
「タイからムエタイの長老までかけつけてるぞ」
「は?タイの長老・・・?」
「パオパオ老師だ」
「パオーン!」
「(てんめーー!!!)」
「・・・(ごめん、ツナ)」
いいリアクションでつっこんでいるツナからそっと視線を外して、はこっそり謝る。
みんなが中に入り、自分も入ろうとしたところで――電話がなった。
「なんだよ恭弥」
『一体なにしてるの?』
「パオパオ老師を見に・・・冗談。ツナが笹川とかいうのと戦うっつーから、観戦に」
『どうせ下手なこと起きたら、なんとかするつもりなんだろ』
呆れたように言われて、はまぁな、と中をちらりと見つつ答える。
ため息が聞こえたかと思うと、ていうか見えてるんだよね、という声が聞こえてきた。
「は?見えてるって・・・・・・そこかよ!!」
「最近リアクション大きくない?」
上を見れば恭弥が。余計なつっこみまで入れてくる。
よく見えるから上ってきなよと言われて、はため息をついた。
電話を切って、ダンと地面を蹴る。
そのまま上がってきたを見て、恭弥は驚いたようだ。
「実は人間じゃないとか?」
「ちげーっつーの。・・・異空間を越えた影響で、身体能力が全体的に上がってるんだ。無駄に大幅に」
「・・・。ずるくない?」
「ずりーですよそれがなにか?世界超えた挙句マフィア入れられるんだったらそれくらいついたっておまけにもなんねーっつーの」
白けた顔で言ってから、はさっさと観戦ーとスタスタあるく。
ここ、と言われて、は恭弥に顔を向けた。・・・足元に、小型テレビ。
「・・・なにこれ」
「カメラ設置してあるから」
「・・・」
後何処にどれだけあるのか、聞きたいような聞きたくないような。
ため息をついて座ると、恭弥も楽しそうに笑みを浮かべながら隣に座った。
「へぇ。まあまあだね。攻撃が単純すぎて無駄が多いけど」
「お前も一言多いな。・・・ああ、ツナの本領発揮」
死ぬ気弾を撃たれたツナが、復活して笹川了平の曰く極限パンチを避ける。曰く極限スラッシュも全て避けた。
最後にドガッと一発殴り、KO。
おーとが拍手すると、ふぅんと恭弥が声をあげた。
「あーあー。ショックで白くなって・・・って、なにあいつ。殴られて気に入るって・・・マゾか」
「そうかもね。さて。明日は会議があるから忘れないように」
「は?」
急に風紀の話を出されて、は怪訝な顔をする。
つーかそれって委員長とかだけだろ、というと、そうだよ、との返事が返ってきた。
「メモとかとるのめんどうだから、君代理で出て。僕も出るけど」
「おいおいそれじゃ意味ねーだろうが」
「チッ・・・。それじゃあ終るまで待ってて」
「なんでだよ」
「明日、新巻の発売日なんだ」
「また集る気か」
つっこんでもにやりと笑うだけ。はげんなりしてしまう。
そういうことだからよろしく、というと、恭弥は小型テレビを抱えて去っていった。
ため息をついて、は下に下りる。
「あ、。どこ行ってたんだよ」
「上で見てた。・・・ついでに、委員長から委員会の話し」
「お前も忙しいなー」
「ホントにな・・・」
げんなりしてしまう。
ツナもげんなりしながら出てきて、互いに顔を合わせると、ため息をつきながらがっしり抱擁しあった。
がんばろうぜ、と肩を叩きあう。
なんだよそれー俺もいれろよーと言い始める武。嫉妬する隼人。
とツナはやはりげんなりしながらため息をついて、帰るか、と頷きあった。
「・・・ツナ、ゲームでもしようか」
「・・・うん。いいね、それ」
なんだか空を見上げて呆然としてしまう。
武は部活、隼人は・・・ツナが家に一旦帰ってまいて、それからの家に来た。
その日は二人でグダグダ愚痴りながらゲーム大会。
大いに盛り上がった。
どこまで報われない思いをしたらいいんだろうな。(え?こっちの台詞?なんのことだよ)