朝、うっすら意識が戻ってくる。
いつの間にやら冷房が掛かっており、涼しいというより少し肌寒い。
のに、何故だかほの温かくて、物凄く眠りやすい。
「・・・ん・・・」
暖かさの元は目の前にあるらしい。
ちょっと動くと額がすぐに何かに当たった。
ちょっと待てよと考え直すと、段々と意識が戻ってくる。
体に感じる暖には、どうやら腕や足がついていること。
心臓が動いていてついでに呼吸までしているということ。
自分はそれに寒かったのかぴったり身を寄せてるということ。
ついでに抱き締められてるっぽいということ。
ごそごそ動いてちょっと顔を動かした。欠伸が出る。
「ふぁ・・・ぁ?」
「くくっ・・・!って寝ぼけてるとやけに可愛いよね」
「にゃ、な、なぁ?」
混乱して口が回らなかった。
くすくす笑っているのはどうやら恭弥。ついでに自分を抱き枕にしているのも恭弥。
おい!と声をあげると、恭弥はちょっとだけ離れた。
「おはよう」
「おはようございま・・・ってちょっとまて。何で俺は抱き枕になってるんだ」
「自分からもくっついてきてたくせに」
「はあ!?つか、え、ちょ、マジでなんで!?」
恭弥が毎度のごとく、昨日泊まっていったのは覚えている。
ただしこんなにぴったりくっついて眠ってはいなかった。
ソファで寝るよりベッドの方が寝心地が格段にいいしクソでかいので、気にせずも眠ってしまう。
それもいつもと変わらず。
がおろおろしていると、恭弥はにやりと笑った。
「朝暑苦しくて目が覚めたから、冷房最大にしておいた」
お前の所為かーー!!
ツナのつっこみが移ってきている。
しかし恭弥は気にせず笑っている。
そりゃ寒いわ!と叫ぶと、だからくっついて寝てたんだろ、と返事が返ってきた。
あぁ馬鹿の子だったとは脱力。
元凶は欠伸中。物凄く厄介な猫に懐かれた。(またくっついてきた)
「いいじゃないか。寝やすかったし」
「あぁあぁそうですかもうなんかどうでもいいや・・・」
「投げやりになるのやめようよ。やっぱり女の子だね。やわらかいし野郎臭くないし。胸小さいけど」
「るせーよ!」
「大丈夫。揉めば大きくな」
「朝っぱらから下ネタ言ってンな!!さりげなく触ってンな!」
びしばしつっこんで手を払ってから、ぜはーとは息をつく。寝起きからありえなく体力を使った。精神力も。
もういやだ・・・とつっぷしていると、やはり恭弥に抱き枕にされた。
「オメー抱き枕欲しけりゃ買ってこいっつの」
「やだ。がいい」
「・・・わけわかんないよこの子ホント馬鹿の子だよこの子」
「なにグダグダ言ってんの?暖かいんだしいいじゃないか。高性能」
「そりゃ生きてる人間なら体温あるっつーの」
つっこむが流される。ほらあったかい、とかなんとか言って。
だったら冷房止めればいいだろ、だの贅沢味わえていいだろ、だの話していると扉があいた。
「あらあら朝から熱いわねーアンタ等。掃除しに来ない方がよかった?」
「全然」
「もうちょっと遅ければ危な」
死ね
言葉の途中でぶん殴っておく。
咽ている恭弥を無視してはさっさと避難。
顔を洗って、鏡を見て、髪伸びたなぁと髪の毛を掴んだ。
ひょっこり現れた恭弥がスリッパでスパァン!!とを殴り、仕返し、と言ってくる。
無駄にムカツク恭弥少年を睨むが邪魔、と蹴って退かされた。
あーもーホント馬鹿の子、と言いながらリビングに出ると、もう朝食が出来上がっている。ミツコさんステキーと寝室に向かって叫んでおいた。全・部屋・防音だ。恭弥に馬鹿?と言われた。睨んでおく。
アンタらこのクソ熱いのに元気ねーとミツコさんが現れて、どーもと返しておいた。
「そんなに元気ならお祭り!引きこもってないで行って来たら?」
「お祭り?そんなのあるんだ」
「・・・知らなかったんだ」
朝食を取っていると、ミツコさんが言ってくる。
きょとんとが首を傾げれると、恭弥が呆れ顔して横目に見てきた。はふて腐れた顔で見返す。
恭弥ははぁとため息をついた。
「風紀の仕事忘れてないだろうね」
「風紀の仕事?知らねーよ確かめてねーもん」
「・・・」
「恭弥クン。この馬鹿には真面目って言葉が一番似合わないのよ」
「改めて身にしみたよ」
「あんたらに言われたくなかったよ」
顔を合わせて意気投合する二人につっこむ。が、お前に言われたらね、と二人に言われる。物凄く分が悪い。
むすっとしながらご飯を食べていると、見回りとか色々、と恭弥が言ってきた。
「げぇ。そんなのあんの?」
「ある。毎年やってるんだからはずせないよ」
「チッ・・・。浴衣でも着てこうかと思ったのに」
思い切り舌打ちすると、別に浴衣で見回りもいいんじゃないの?とミツコさんがニコニコ笑いながら言ってくる。
いや男で通してるしさすがに、と言うと、別にいいんじゃない、と恭弥まで言ってきた。
「は」
「罰ゲーム、とでも言ってさ。どうせ全員知ってるし」
「・・・なるほど。あ、でもそしたら恭弥の浴衣姿見れないな」
「・・・見たかったの?」
なんだか物凄く顔をゆがめられる。は見たい、と言い返した。
何が面白いんだかといわれるが、見てみたいと思っただけだっつーのとはトーストをかじりながら答える。
ハイハイそれ食べたら浴衣買ってきなさいよと言われて、ははーいと返事を返した。



二時過ぎ、は浴衣を着てリビングに出た。
「ワオ。女装かい?」
「やっぱそう見えるよな」
「見えません!ちょっとコッチ来なさい!」
ミツコさんに二人して叱られた。
一緒に浴衣を買いにいったミツコさんは、一緒になって浴衣を着ている。・・・曰くダーリンとデートだとか。
へいへーいとミツコさんに呼ばれて円状ソファに座ったは、ミツコさんにテキパキ構われた。
横の髪を編みこむだの前髪をピンで留めるだの、ミツコさんはあの手この手でを改造していく。
「はい出来た!どうよ恭弥クン!」
「うん。女には見えるんじゃないかな」
「んも〜〜ダメねー。ここは普段と違ってかわいいよくらい言ってあげるもんよ!」
「普段と違ってかわいいよ」
「めっちゃ棒読みだな」
にやりと笑いながら言ってくる恭弥に、は呆れ顔してつっこむ。
くすくす笑いながら、まぁ似合ってるんじゃない、との返事が返ってきた。
ミツコさんはさーあダーリンとデートいってくるわよー!と意気込んでいる。歳の割りに元気だねと二人で言ったところ撃たれそうになった。裾に入れておくのはどうかと思う。
いってらっしゃーいとひらひらが手を振っていると、そろそろ行こうか、と恭弥が本をぱたりと閉じた。
「もう行くのか?」
「店だって準備してるし、人が集まる前に一旦集合しなきゃならないからね。・・・ホントにそれで行く気?」
「・・・ま、なんつーか、ここまでやられると思ってなかったんで・・・」
今更脱ごうにも脱げない。
目を泳がせながら言うと、恭弥は息をついてまぁいいけど、と立ち上がった。
「ほら行くよ」
「・・・へいへい」
なんでか手を貸してくれる恭弥に、は笑いながら手を伸ばす。浴衣がかなり動きづらいことに気付いた。
恭弥に一気に引っ張り上げられて、わお、と思わず声を上げてしまう。
ケラケラ笑っていると、恭弥がじっとを見てきた。
「・・・勿体無い」
「は?」
「なんでも。財布持った?」
「バッチリ。弾のストックも」
「僕に当てないようにね」
巾着から色々取り出すと、恭弥は少しだけ笑いながら言ってくる。
そこまで下手じゃねーよと言いつつ歩き出すと、なんでかため息をつかれた。
バイクに乗るのにも、後ろ向きに乗れず横向きに。
うわーめんどくせーと声をあげると、やめとけばよかったのに、とのコメントが返ってきた。
というか、走っているとかなり注目を集める。
祭りの場所から少しだけ離れた集合場所につくと、やはり無茶苦茶驚かれた。
「うわーすっげー驚いてるぜ」
「そりゃ驚くだろ。笑われなかっただけいいと思いなよ」
「へいへい」
声を上げたらさらに驚かれた。
草壁に「か!?」と声を掛けられる。
はああとすんなり頷いた。やはり不良達はざわつく。
「あーこれ、罰ゲームだから。動きづらいけど大丈夫だぞ」
「・・・そういうことを言ってるわけじゃ・・・うん、まあ、いい」
ひょいと銃を取り出すに、草壁が若干青くなりつつもごもご喋る。
大丈夫本物だから、と撃てばちょっぴり上がる悲鳴。いや撃たなくていいから!と叫ばれた。
恭弥が目を細めると、ざわついていた不良たちが静まり返る。
「それじゃあ、集金担当は僕と回ること。他全員は見回り。スリやら下手な群れがあったら、容赦なく叩き潰して」
「アホなことやってるやつ等は今日は特別こいつの餌食か。くくく・・・腕がなるなァ。人ごみの中も練習しとかなきゃ」
「ほどほどにね」
笑いながら銃を指で撫でるに恭弥が言ってくる。
んーと返事を返したは、腕を伸ばしてガゥン!と撃った。
撃った方向には子供に絡んでいる不良数名。ビックリした顔でこちらを見ている。
「上々」
にやりと笑って、はそちらに歩き出そうとする。が、恭弥に腕を引っ張ってとめられた。
「行け」
「は、はい!」
恭弥が目でさして命令すれば、すぐに風紀委員の数名が走っていく。
チッと舌打ちすると、馬鹿だろ、とつっこまれた。
「それはそうそう簡単に出さないこと」
無茶苦茶目を細められてじっと見られる。
ちょっとは引く。えヘッと笑っておいた。しかし誤魔化せず。
活動開始、と恭弥が手を叩く。皆ちりじりに散らばっていった。ちらちらを見ながら。
「さて。俺はどうしたらいいんだ?」
「やっぱり。は僕と行動。・・・まぁ、別行動だったとしても、無理やり連れて行ったけど」
「あははは。いつもと立場逆だなー」
「・・・・・・。分かってるなら発砲しないでね」
ため息混じりに言って、恭弥はスタスタ歩き出す。の手を引いて。
日陰に入ってから、時間がたってから行くよ、と指示を出してきた。まだ人は集まっていない。
「祭りの中の見回りと、街の中の見回りね・・・徹底してんな」
「祭りの日は馬鹿が増えるからね。そりゃあ徹底もするさ」
息をつきながらがいうと、恭弥は欠伸しながら返してくる。
そうだなぁ俺も昔は煙草吸ったり酒飲んだりしたもんだ、とが遠い目をしながらいうと、やはり呆れられた。
普段大抵笑ってるかむっとしているかの恭弥の呆れ顔は、中々に辛いものがある。
とりあえず顔を逸らして祭りの方を見ておいた。
暫くすると人も店も段々増えてくる。
そろそろ行こうかと、恭弥が立ち上がった。やはりの手を引いたまま。
出店の並ぶ道に入って早速、うわーいアレ食べたいとがはしゃぎだす。しかし仕事が終るまでダメ、と恭弥にとめられた。
後ろからついてきている草壁たちはかなり微妙な表情だ。
「ショバ代」
「は、はい!ただいま!!」
恭弥が顔を出せば、すぐに店番をしている人が金を出してくる。
ただその金額を見てはひくりと顔を引きつらせた。
「・・・おい、お前なんで10万もとってんだっつーかなんでここ風紀で取り締まってんだよ」
「活動費だよ」
「あんだけ学校で貰っといてか!すぐ返せ!10万も取るな!ここの祭り失くす気か!?」
思い切りつっこんでは手にある10万を取り上げようとする。
しかし恭弥はひょいと避け、ため息をつくと何枚か返した。
「わかったよ。仕方が無いから減らしてあげる」
「それでも五万て・・・」
「いいんだお嬢ちゃん。ありがとうな・・・」
まだ怒ろうとするが、店のおじちゃんにぼそぼそ礼を言われては顔をしかめる。
恭弥は取り上げた五万をポケットに入れると、行くよと言ってを引っ張った。
「お前・・・ホント考えらんないんだけど・・・」
「毎年やってるんだから今更だよ。ショバ代、五万だして
次の店も同じように進めていく。は隣でげんなりしながらため息だ。
付き合いきれないがここで放っておくと――なにを仕出かすか分からない。
結局悪循環だとはため息をついた。
「はぁ?ショバ代に五万もだと!?ざけんな!」
「アソコのヤツ終わりだよ・・・」
文句を言う人ももちろん出てきた。
ああようやくの常識人かなぁと思いきや、周りでは不穏な囁き声。
恭弥が目を細めて手を振った。
途端に、草壁達が店を潰し始める。
「ご、ごめんなさい!払います!払いますか――」
ガゥン!!
と、銃の音があたり響く。
目を細めたは、上に向けて撃った銃を草壁達に向けた。
「それ以上好き勝手するなら、テメェらのその足、使えなくするぞ」
銃を向けて睨みつけると、草壁達が壊れかけの店からそっと離れる。
目を閉じたはすっと横に避けた。一瞬遅れでブォンとトンファーが降りる。
「何のつもり?」
「常識人として一般的な行動を取っただけだ。テメェら放っとくとホントろくなことしねぇな」
恭弥がトンファーを両手に構えてを睨む。
は目を細めて恭弥を見返した。周りはざわつきながら二人を見ている。
「金取るのはまだ我慢してたが、それ以上は我慢なんねぇな」
「一風紀委員の君にとやかく言われる筋合いはないんだけど」
「風紀委員である前に一般人としての意見を通すことにする。続けるようなら・・・潰す」
言ってガチリと銃を構える。
恭弥はにやりと、かなり楽しそうに笑った。
「ようやくやる気になってくれた?嬉しいよ」
「気持ちわりーガキだな」
「いいよ。が勝ったら集金はしても店は潰さないで上げる。ただし負けたら・・・そうだな、なんでも言うこと聞いてもらおうか。今までの伝統覆すんだから」
ひゅんとトンファーを回して、恭弥が構える。
はふっと笑った。
「お引き受けしましょう。ただし、安くない」
「上等だ――ね!」
ブンと恭弥がトンファーを振ってくる。
は一気に距離をとった。脚力に驚いたのは見ていた全員だ。
恭弥がザッと足を突いての方にふり向いた瞬間、はガガン!と銃を撃つ。
トンファー二つが弾き飛んだ。
「飛び道具、なしにしてもう一度しようか?」
「いらない」
肩をすくめさせて笑みを浮かべるに、恭弥が本気の顔になって飛び込んでくる。
観客達は場所をあけ、はぱしぱし拳を取ったり弾いたりしながら下がった。時折回ってうまく逃げる。
バシッと恭弥がの足を引っ掛ける。
地面に倒れ――かけたは手を突いて足を蹴り上げ、恭弥はひゅと下がった。
恭弥の顎のあった場所をの足が通り、ストンと着地する。
「言っとくけど、浴衣だからって舐めてかかってたら一生勝てねーからな」
「今ので十分分かったよ」
足元に落ちているトンファーを蹴り上げて片方手に入れると、恭弥は走り出す。
ひゅんひゅん回してつっこんできたが、はすっと手でトンファーを取ると、グッと引っ張って足を蹴った。浴衣が肌蹴ようが気にしない。
倒れかけた恭弥はすぐに体を回してを蹴り上げようとするが、はすぐに退いた。
そのまま笑みを浮かべる。
「まだやる?」
「余裕こいてられるのも今のうちだよ」
答えるともう片方のトンファーも蹴り上げる。
両手に持って構えた恭弥は、今までに無いスピードでつっこんできた。
横に避けるが起動が読まれている。さらに回転をかけて避けるが、すぐに懐に入ってくる。
ダンと地面を蹴って一気に離れると、恭弥はブォンとスカしたトンファーをぴたりと止め、睨んできた。
「なんで一撃も入れようとしないんだ?」
「ガキに手ェ挙げる趣味は無いって、言ってあったはずだけど」
「いい加減ナメるのよしてくんない?イライラするんだけど」
「ワオ。咬み殺すがなくなったな」
お茶らけるとすぐさまつっこんでくる恭弥。
はあははと笑うと、恭弥のトンファーをひょいと掴んで引っ張り、そのまま止まった。
「お前じゃ俺に勝てないよ。みんなの目の前で恥じかきたい?それとも、大人しく店潰すのやめるか?」
ぐっと引っ張って、小声で問いかける。
恭弥はかなり不機嫌な表情で、じっとを睨んだ。
「・・・絶対咬み殺す」
「・・・言うと思った。なんか腹いせ考えとけ。飯奢り一週間とか」
「それほとんど平日と変わらないと思うんだけど」
「テメーが集りすぎなんだコラ自重しろ」
顔をしかめて言ってくる恭弥に、は目を細めてつっこむ。
はぁ、とため息をつくと、わかったよ、と渋々恭弥は離れた。
はぁーあとため息をついて、もトンファーから手を離す。周りはおろおろしている。
着崩れた浴衣を直して――はひょいと後ろに下がる。
ブォンとトンファーが空振りして、恭弥とじっとにらみ合った。
「お前はホントに馬鹿の子だな。この馬鹿の子」
「いくらいってもやる気出さないからだろ。屁理屈」
「あーはいはい大人になったらねー。いじけないでいくよ恭弥クン」
「咬み殺すよ」
睨まれるがひらひら手を振るだけにする。
草壁いくぞ、とが声をかけると、何で君が仕切ってるんだとのつっこみが入った。へいへいとめんどくささ満載には返事を返す。
それからはショバ代集めだけ。破壊活動はがさせず。
ただしすみません頼むから五万出してください、と銃を突きつけてちょっぴり撃ってみたりもした。・・・効果絶大。
ぐいぐい恭弥に引っ張られて歩いたものだから、全然店を見て歩けなかった。
集金終了、という恭弥の一言で、ははぁーとため息をつく。そこらの岩にストンと座った。
後は好きにしていいよこれ学校に届けておいて、と集金袋を渡して、恭弥は他の風紀委員たちに電話で指示。
「はぁー・・・」
「暗いねぇ彼女。折角の綺麗な顔が台無しだよ」
「そうだよ。折角のお祭りなんだしさ。なんなら俺達と回らない?」
「なに?君たち」
「え。俺に話しかけてたの?」
男二人。の後ろから現れる恭弥。
がきょとんとしながら顔を上げると、恭弥どころか恭弥に脅えていた男二人にまで物凄い勢いで呆れられた。
えー・・・とぼやいているうちに、男達はそそくさといなくなる。
ため息をついた恭弥は、の隣に腰掛けた。
「普通気付かない?ああいう場面」
「いや、普通に無理。今まで男として過ごしてたしなー」
「・・・それだけじゃない気がするよ物凄く
げんなりしながら言われて、は首をかしげる。
空を見上げればもう夕方になりかけている。早いもんだとぽつりとつぶやいた。
ぼーっとしていた恭弥が、ふあ〜ぁと欠伸する。
ホント猫みたいなヤツだとがくすりと笑うと、なに、と顔を向けられた。なにも、と答えて顔を前に向けておく。
「・・・行くよ」
「どこに」
「家」
ぐいぐい引っ張られて歩き出されて、そして返事を聞いて、はえっと声を上げる。
店まだ回ってないーと文句を言うと、ミツコさんと約束があるんだといわれた。
首をかしげつつ、は大人しく従う。ミツコさんに。
バイクでまたマンションに帰ると、恭弥はちょっと待っててと言って寝室に消えていく。
なんなんだかなーと足をぶらつかせながら煙草を吸っていたは、扉が開くと共に後ろに向いた。
「・・・ワオ」
「その口癖移ったよね。すっかり」
振り向けば浴衣仕様の恭弥クン。
目を丸くするを見てちょっと顔をしかめている。
どうしたんだよそれ、と問いかけると、ため息をつきながらミツコさんに絶対に着ろって言われた、と返ってきた。
銃付でなんだろうなぁと考えていたは、銃つきで、と付け加えられて笑ってしまう。
「今日は全部の奢りだから」
「いつも全部俺の奢りじゃね」
「普段色々してあげてるんだからいいだろ。大体、今日はお願い一つ聞いてあげたんだし」
「はいはいわかりましたよ。さっさと行こうぜ」
「・・・お祭りは逃げないよ」
文句がとまらなそうな恭弥の手を引っ張って、はすたすた歩き出す。
呆れた声の後に、ため息が聞こえた。くすくす笑っては歩く。
「似合うな」
「そう?」
隣を歩く恭弥をじろじろ見て、うんうんとは頷く。
恭弥は少し眉根を寄せてから、前を向いてさっさと行こうと少しだけ速度を速めた。引っ張られたは転びかける。
先ほどの祭りの会場に行けば、ちらちら見てくる人たち。しかし恭弥の一睨みで顔ごと逸らす。
「わた飴!」
「好きなの?」
「おう!あ、から揚げもかってこ!」
「はいはい。焼きそばとたこ焼きもね」
「オッケー!」
片手に綿飴を持ちつつ、は各店を回っていく。
途中ミツコさんに会ってきゃあきゃあ騒がれた。
ついでに記念写真だと三人で写真を撮らされた。
その後ダーリンとツーショットよろしくと写真を撮らされた。・・・ダーリンが中々なキャラだった。
「まさかダーリンて外人さんだとは・・・」
「・・・まぁ、ミツコさんだしね」
なんでもありっぽい、という恭弥に激しく同感する。もういいや楽しんじゃえとまた店を見る。
飴かわいーと飴の店にがかじりついていると、飴見て待ってて、と言われた。
おう、と返事を返して、はとりあえず買う。
袋が一杯になるまで色々な飴を入れた。無駄に色彩を考えつつ。

「はーい――うぉあ!!
くるりと後ろを向くと、どでかいジジの人形。
わーー!!すげーー!!とは大はしゃぎで抱きついた。
う、と持っていた恭弥が一緒に抱きつかれて呻く。
「どったのこれどったの!?」
「そこに置いてあったから」
「・・・お前貰ってきた、とか言わないだろうな」
「ちゃんと射的で落としてきたよ(色々な意味で)」
なんだか含みが感じられたが、まぁいいかとは思考終了。
ジジ人形をじっと見てにへらと笑う。
「ホント可愛いもの好きだよね」
「・・・・・・ハッ!」
「バレてないと思ってたの?」
にやりと笑う恭弥に、は恐る恐る顔を向ける。かなり楽しそうだ。
くっと息を詰まらせると、はいはい次行くよ、と引っ張られた。俺たちハイペースだなぁと思ってみたり。
回り終えたときにはかなりの荷物になっていた。
でもハリセンは手放せなかったんだ・・・というを恭弥が呆れ顔で見てから、スパァンと叩いてくる。ハリセンで。いい音が鳴ったとは頭を抑えつつ呻く。
携帯で時間を確かめた恭弥が、行くよ、と言ってまた歩き出した。
首をかしげながら歩けば、段々と祭りを抜けていく。
なんだ帰るのかといえば、うんと頷かれた。
マンションに帰ってどさどさ荷物を置いて、飯食うかーとは両手を伸ばす。恭弥にがしりと掴まれた。
「なに」
「こっち」
顔を上に向けると、ぐいと引っ張り上げられる。ベランダに連れてかれた。
えーなんだよなんだよと言っていると、ヒュッと上がる音。空の上で、パァンと光が散った。
「花火だ!」
「・・・やっぱり知らなかった」
顔を輝かせるの隣で、恭弥が呆れ顔する。
すみませんねーと顔をしかめてから、はまた上がった花火に顔を向けた。
「おーいーねー」
の家がここでよかった」
「あはは。ホントにな」
人も居なければ眺めもいい。
いいなー花火いいなーと肘を突いてノンビリ眺めると、恭弥も同じように肘を突いて眺めはじめた。
「楽しいな。久々にはしゃいでっかも」
「中々なはしゃぎっぷりだったね」
目を細めて笑みを浮かべるの横から、恭弥が嫌味一つ。
機嫌がよかったは、そーですねーと笑って流した。手は、ペンダントを掴んでいる。
「・・・それ、大事なモノなの?」
「ん?あぁ・・・親友と御揃いで買ったんだ。俺が赤色。向こうが黒色」
トライバルデザインのペンダントを見て、は目を細める。
恭弥はふぅんと返事を返してから、花火に目を向けた。
も笑みを浮かべながら花火を眺める。
「口開いてるよ」
「うわやべっ」
「(バカだ)」
つっこまれた。恭弥はバカ受け中。(手すりに頭をくっつけて震えてる)
時折すげーやらでけーやら色々声を上げるに、恭弥が相槌を打つ。(つっこみ含め)
花火が終わりそうになる頃、恭弥が腕を伸ばしてきた。
肩をつかまれたかと思うと引き寄せられる。
お?とは恭弥に顔を向けた。ゆっくり、恭弥が近づいてくる。
「どうしたんだ?」
「・・・」
が首をかしげて問いかけると、恭弥は頭を落としてため息をつく。
おい?とまた声をかけると、はぁーと随分深いため息をつき、恭弥がだらりと腕を回して肩に頭を乗せてきた。
「・・・店潰す潰さないの勝負の時の約束」
「ああ」
「明日アクセサリーショップに買い物。もちろんの奢りで」
「・・・たっかい買い物になりそうだ」
買いまくってやる
なぜだか力いっぱい決意されて、はえーと声を上げる。
こっちがえーだ・・・と何故だか脱力されて、はやはり首をかしげた。
花火は気にせずバンバン上がっている。
ぽんぽんと頭を叩くと、頭を上げた恭弥はため息をついての肩に顎を乗せた。
「重い」
「修行」
バイクのやり取りを逆にされて、はくすくす笑う。
もーいいや、とそのまま花火を眺めて、終った後はだらだらテレビを見ながら買ってきた物を食べて過ごした。
ちなみに黒猫のジジは黒猫のキョーヤに名前変更。
気付いた恭弥にハリセンで思い切り殴られた。















折角の浴衣も花火もパァになった気分だけど、まぁ、楽しかったし許してあげる。(それにしたってどこまで鈍ければ気が済むんだい?)








マニアには分かる「お引き受けしましょう。ただし、安くない」の言葉。・・・恭弥少年、勝ってたら「デート一回!」って可愛らしく言ってくれたかな。(無理だと思う)
でも結構この二人、デートしてると思う。