夏休みの風紀の仕事はなにかと思えば、主に街の治安維持。
とはいえ恭弥は無駄に罪の無い一般人を咬み殺す時がある。
大迷惑だとはストッパー役だ。
「このクソ熱いのに・・・」
「終ったら家で好きなだけゴロゴロしたらいいじゃないか。あぁ。いい群れ発見」
「・・・今度はまともそうだな」
群れと言って(嫌な)笑みを浮かべる恭弥の視線の先を追って、はため息をつく。
不良の集団。とはいえ数名。
女の子に絡んでニヤニヤ笑っている。
恭弥が咬み殺している間に、はハイハイこっちですよーと絡まれていた女の子を誘導した。
「あ、あの・・・ありがとうございます・・・」
「あぁ、気にしないで。あいつのアレは趣味みたいなもんだから。馬鹿が気付く前に早く帰りなー」
ひらひら手を振って、は恭弥の元へ。
オニーちゃんやりすぎだよ、とが声をかけると、救急車呼べるくらいに叩きのめしとかないとね、と言いながら恭弥はまだ殴った。
「お前はこれ以上病院を一杯にしてどーすんだよ」
「病院の経済力はアップ。院長は僕の優秀な下僕だよ」
「大人を下僕とかいうな」
「じゃあ家来」
だめだこいつとはため息をつく。
はいはいただでさえ熱いんだからこれ以上見苦しいもの作らない、とパンパン手を叩いて、むすっとする恭弥を引っ張った。
と居るとダメだな。咬み殺しきれない」
「十分咬み殺してんだろーが。俺だってストッパーなんて面倒ごとやらねーで家でごろごろしてたいっつーの」
「放っといたら放っといたで一歩も外でないじゃないか」
「出る必要ねーし」
顔をしかめながらつっこんでくる恭弥に、は飄々と答える。
急に携帯がなりだして、はため息をつきながら電話に出た。
「なんだよ」
『あ、?助けて!』
「は?ツナ?」
リボーンかと思って出てみれば、聞こえてきたのは切羽詰ったツナの声。
課題の問7が解けない、と言われて、はえーと声を上げた。
『全問解かないと落第なんだよ!』
「落第?あー・・・ンなもん俺がなんとかしてやるよ。風紀だし」
『ぇえ?!風紀でなんとかできるもんなの!?』
「落第者の一人や二人なんとかなんねー?」
「一人につき百万で考えてあげる」
「死ね」
隣を歩く恭弥に問いかけて、返ってきた言葉に即答で一言。
顔をしかめる恭弥を無視して、まぁなんとかなるっつーか俺今風紀の仕事中だし、と答える。
そんなァ助けてよ〜〜と情けない声が聞こえてきたが、急にリボーンに変わった。
『助けなくていいぞ
『リボーン!!お前俺たちを殺す気か!?』
「落第ごときで死ぬかっつーの。一度くらい経験しとけば?」
『それも人生』
悟り開いてんなーーー!!
ツナのつっこみが快調だ。
ケラケラ笑ったは、まぁなんとかなるってがんばれーと言うと、電話を切った。
隣の恭弥少年は目を細めてため息をつく。
「一体なんだって?」
「数学の宿題。全部解けないと落第なんだと」
「へー。馬鹿だね。補習の宿題だろ」
「おー。まぁいざなったら金出して校長言いくるめりゃいいだろ」
「僕に出さないわけ?」
「お前に出すより安上がり。大体義務教育で落第なんて早々ねーよ」
ひらひら手を振って言えば、チッと舌打ちされる。
おい・・・とが顔をしかめると、群れ発見、と言って恭弥はスタスタ歩いていった。
見れば煩く邪魔になっているギャルの集まり。
酷くすんのはやめてやれーと声をかけた――が構わずぶん殴る恭弥を、は慌ててとめにいった。
変わりにが文句を言われ、悪いねぇと苦笑いしたところで恭弥がやはり全員咬み殺してしまったが(一撃で)。
そんなやり取りを何度も繰り返しながら、恭弥少年に集られつつマンションに帰る。
夏休みの平日は大概こんなものだ。



宿題をやろうと集まっていたツナたちは、子供たちがあまりにも鬱陶しくていい加減ダレていた。
「・・・そういやのヤツ宿題終らせたかな」
「いや、ぜってー終らせてねぇ。このダイナマイトに誓える
「(ダイナマイトはどうかと・・・)・・・絶対やってないと思う」
三人してだらだらテーブルにつっぷしつつ、絶対無理だなやる気ないってと言い合う。
ハッと息を吸って体を上げた山本が、そうだよだ!と叫んだ。
ぁあ?と獄寺がかなり鬱陶しそうに山本に顔を向ける。
「あいつん家でやりゃいいんじゃん!広いし設備整ってるし飲み物あるし!」
「そっか!ガキどもにも邪魔されない!」
「ついでにあいつだったら宿題の答えもすぐわかるだろうし!」
「おー!ナイスアイデア!」
びしっと指差して言う山本に、ツナもぐっと拳を握って返事を返す。
それってズルくね?と獄寺がつっこみを入れたが、このさい場所だけでもとちゃかちゃかツナたちは荷物を鞄に詰め始めた。
「かあさーん、出かけてくるー」
「あらあら何処行くの?」
「友達の家。いってきます!」
「おじゃましましたー!」
「お母様、お邪魔しました!」
三人でばたばた外に出る。
リボーンにもビアンキにもランボにも、ハルにも見つからずに三人はツナの家を離れることに成功した。
「はー・・・これでようやくゆっくりできるよ」
「ははは。ツナはずっとガキどものお守りだったもんな」
「あいつらいざとなったら俺が・・・」
「いい!いいってそれ!うん!気持ちだけで十分だから!」
険悪な顔で拳を握る獄寺に、ツナは慌ててぶんぶん手を振る。
そうッスか?と首をかしげる獄寺に、ツナは顔を引きつらせつつもうんと頷いた。
じわじわとセミが鳴き、ついでに遠くの景色が歪んで見えそうなほど外は暑い。
あぢーとぼやきながら歩いて、ようやくのマンションに着いた。
建物の中に入ればもうついている冷房。
いいなここのマンション、とわいわい騒ぎつつ、エレベーターで最上階へ昇った。
インターフォンを押しても、は大体出てこない。
中でウゼーとかいいつつ無視する傾向がある。
ということで、ツナはの家の指紋検出器に指紋を登録してある。
ということでもクソもなく、リボーンに「ボスの指紋は登録しとくもんだろ」とか言って登録させられたのだが。
センサーに指を当てれば、ガタンと扉が開く。
〜!いるか!」
「おー。なんだタケ」
山本が一番に声をあげると、中からダルそうな返事が返ってくる。
おじゃましまーすと三人で中に入ると、部屋は丁度良い温度に保たれていた。
「おー!やっぱいいなここ!」
「あー・・・生き返る・・・」
「チッ。無駄に贅沢しやがって。10代目の質素加減を見習え!」
「いや、アレ質素っていうか俺もクーラーガンガンつけてるから・・・」
ツナのつっこみは獄寺には届かず。
山本は、円状のソファに座ってノートパソコンを構っているの隣にもう座って覗き込んでいる。
飲み物好きに取れ、と言われて、サンキューと言いながらツナは冷蔵庫へ。の家の冷蔵庫には、いつも何種類もの飲み物がずらりと並んでいる。聞けばハウスキーパーさんが常時足してくれているらしい。
獄寺に恐縮されたが、全員分の飲み物を持って円状のソファに向かった。
獄寺はツナが来るまで座らないつもりらしい。ジュースを渡すと頭を下げられた。
「なー、これなんだ?」
「風紀の仕事。とりあえずこれまとめて、学校持ってかなきゃならねーんだ」
「うわぁ・・・案外大変なんだ」
「俺以外こういう仕事する奴がいねーだけ。草壁逃げるしあの野郎」
の言葉を聞いて、うわぁとまた声を上げてしまう。
俺たち宿題やりにきたんだと山本が言うと、ンなもんどこでも出来るだろうが、との返事が返ってきた。
「そりゃできるけどさ・・・家じゃ狭いし店やってるし」
「家もガキどもがうるさいし。なんだかんだいって邪魔が入るし熱いし」
「あとは熱いし熱いし熱いし?ここには冷房もあるし飲み物もあるしゲームもあるし?」
にやりと笑ってが問いかけてくる。
ツナと山本はえへーと笑って誤魔化し、獄寺は無視して煙草を吸い始めた。
だったらそこら辺に広げて勝手にやれよ、とだけ言ってはカタカタ手を動かす。
「お前もう宿題終ったのか?」
「俺は宿題なんてない」
「はあ?!なんで!?」
「風紀だから。つーか免除にさせた」
ずりー!とツナと山本の二人で叫ぶ。
るせーな卒業してんだよ俺はもう、と顔をしかめながら答えて、はテーブルにある紙を手に取った。
えーもう一回やろうぜ、と言いながら山本がだらりとにくっつく。
うぜーだりーめんどくせー、と三拍子そろえるに、やはり山本はえーと声を上げた。
ツナは二人の様子をじっと見てうぅんと首をかしげる。
「・・・山本ってさ、のこと好きなのかな?」
「は?まっさか。アイツのべたべたは全員ですよ」
こそこそ獄寺に問いかけると、獄寺は顔をしかめながら山本を睨みつける。
じっと睨みすぎたせいか山本は獄寺に顔を向け、どうした?と首をかしげた。
なんでもねーよといいつつ、獄寺はひたすら山本を睨む。
なんだよーと笑う山本を、ツナは強い・・・と呆れ顔して見た。
「お前も苦労してんな相変わらず」
「・・・は楽でいいよね」
「まぁ、こいつらと同じくらい厄介なのには取り付かれて――」
『緑〜たなびく並盛の〜』
「――るけどな・・・」
山本と獄寺は爆笑。はげんなり。
ツナは哀れな目でを見た。
電話に出たは、なんだよと不機嫌に話しかける。爆笑する山本と獄寺を睨みつつ。
「あー。今客来てんだ。今日は無理。おー。おー。あーはいはいわかりましたよ。明日な。おー。ってそれやめろ。おい。オイ!・・・ッチ。切りやがってあの馬鹿」
不機嫌に言って、ぽいと携帯を投げる。
ダレから?と問いかけると、恭弥、との答えが返ってきた。
が恭弥と呼ぶ人物は、この前何故だかここへ共にやってきた怖い雰囲気の人。山本はかなり警戒していた。
またあいつ?と問いかける山本に、はパソコンを構いながらああと頷いた。
「あいつ毎日お前に連絡入れてねーか?」
「そうか?・・・一々確かめてねーしな。風紀の仕事とかあるし、その所為じゃね」
「今のも風紀の?」
「それもあるけど。あいつここ気に入ってるからな」
ため息混じりに言って、どうせ夕飯集ろうとしてたんだろ、と投げやりに答える。
うわーと山本は声をあげ、はそれより宿題いいのかよ、と言い出した。
ハッと気付いて、慌ててツナたちは宿題を出す。
獄寺はさらさら解いていっているようだった。
わいわい騒ぎつつ宿題をする。
、ここわかんねー」
「ぁあ?現役が何言ってんだよ。・・・えーと――」
文句をいいつつも、はなんだかんだいって教えてくれる。
山本は主にを頼り、ツナはを頼ったが――獄寺に回されてしまった。
教科書を読まれるだけでは理解できないので中々苦戦する。
「うぅーん・・・?」
「この文法前の問題で使ってるだろ。同じ組み合わせ」
「あ、ホントだ」
困っていると自然と教えてくれる。
ただし獄寺が嫉妬するけれど。
わーとけたーと喜んでいると、は必ず頭を撫でてくる。
ココで首をかしげると抱きつかれるのでぐっとツナは堪える。
の教え方分かりやすいよなー。なんでだろ」
「そりゃアレだお前。俺も馬鹿だからどうわからんかがわかるわけ。隼人は頭いいからそこら辺がわからんくて上手く説明できねーんだよ」
「あぁ。お前馬鹿だもんなー」
カタカタまたパソコンを構いだすに、獄寺が嫌味を飛ばす。
あわわと慌てたツナだが――というやりとりは、最初の頃だけ。
ツナはまただと苦笑いし、はにやりと目を細めて笑う。
「バカには馬鹿なりの生き方があるんだ。な、ツナ、タケ
「おう!」
「ってそこで頷くの!?」
思い切りつっこんでしまうが、山本は笑顔で頷いている。
ほーらさっさと宿題終らせる、と言うと、はカタカタパソコンを構い始めた。
時折、テーブルの上の紙やファイルを手にとって。
「お前ら補習とかで全然家きてなかっただろ。さっさと終らせれば、新作ゲームが待ってるぞ」
「おぉぉぉおお!忘れてたー!死ぬ気で終らせるから!」
「あ、俺また無双やりてー」
「おーおー。とっとと終らせろ。隼人、俺らだけで先にやってるか?」
「「ええーー!!」」
「くっ・・・10代目をさしおいて俺だけ遊べるか!!」
にやりと笑うに、思わずツナと山本で叫んでしまう。
獄寺はなんだか揺れつつもはっきりと言ってくれた。その心遣いにじんと来てしまうツナだ。理由は微妙だが。
の家のテレビは無茶苦茶でかい。
そこでやるゲームは格別だ。音もスピーカーから出ているのでかなりいい。
山本と二人で(と獄寺に手伝ってもらいつつ)がんばって宿題を終らせると、休憩を取ってから念願のゲーム。
うわぁ〜〜と声を上げて、ツナはテレビの前に積まれているゲームソフトを見た。
「すげー!さすが!俺の言ったの全部買ってる!」
「お前の言うゲームはずれがないからなぁ。暇になると集めちまうんだ」
「これやっていい?あ、でも山本無双やりたいんだっけ・・・」
「ん?俺は別にいいぜ。それって二人でも出来るだろ?」
「最大四人ー。まぁ、今は二人でしかできねーけど。やっとけば。リモコンそこ」
「サンキュ!」
仕事片手にが教えてくれる。
ツナはテンション高くリモコンを手にとり、テレビの電源を入れた。
いつ見ても迫力のある大画面。おぉ〜と山本と二人で声を上げる。
何故だか獄寺は対抗してツナの隣に腰掛け、反対側で山本がコントローラーを手に取りわいわい騒ぎながらゲームをする。
これ全クリした?とに問いかけると、一昨日で三周した、との返事が返ってきた。
「やっぱここでゲームするとちげーなー。超〜リアル」
「だよな!あ〜俺もこんなとこ住みてぇ〜」
「10代目のためならすぐにでも用意します!俺が!」
「ぇえ!?い、いいよそこまでしてくれなくて!ほら、頑張って自分で手に入れるからさ!」
とんでもなく突飛なことを(いつもながら)言う獄寺に、ツナは慌てて返事を返す。
さすが10代目ご自分の手で!と勝手に獄寺が感動し、ツナはじゃっかんげんなりしつつも当たり障りなく返しておいた。
後ろから、ぷっと笑った声が聞こえてくる。
じとりと恨みがましく睨むと、くすくす笑うと目が合った。



補習の宿題も終わり、特に何もない日。
ツナはしょっちゅうの家に避難していた。ランボもビアンキも、リボーンもいない。
連絡先はもうみんな交換しあってるのでバッチリだ。
時折、恭弥という人がいるからと断られるけれど。
大体ツナがゲームを一人でやりこんだり、と二人でやりこんだり。リボーンについて愚痴りあったり他の様々なことについて愚痴りあったり。(は付近に居る人物の中で唯一・・・まだましな常識人だ)
はツナが居てもマイペースに生活している(風紀の仕事とか)ので、ツナも気にしない。
今日も避難しようとリボーンたちの目をかいくぐって外に出ると、丁度喧嘩しながら獄寺と山本がきた。
「よ!ツナ!今からお前の家いこうと思ってたんだ」
「オメーは野球してろよ!!」
「今日は部活休み」
相変わらずだ。
ツナは苦笑いすると、はぁーとため息をついた。
「これからの家逃げようと思ってたんだ」
「お、マジで!いいねーそれ。俺もいれてくれ」
「あ!てめっ、なにいってんだ!10代目!俺もお供させてください!」
「え・・・うん、別にいいと思うけど」
「それじゃあ皆さん、行きましょう!」
「うん。そーだなってハルーー!!?
いつの間にやら中に入っているハルに、ツナは思い切り引く。
うわ、と山本たちも今更驚いて体を引くと、ハルがむぅと頬を膨らませた。
「ツナさんてば、会いにいってもいっつもいないんだから!今日という今日は朝から張り込みしてました!
どこのデカだよ!!
思い切りつっこみを入れるがハルはとまらず。獄寺が顔を引きつらせている。
まーまー行こうぜ、という山本の一声で、なんとか移動し始めた。
ため息をつきつつ、に連絡しなければと電話する。
『おー。なんだ』
「あ、?人数増えたんだけどいい?」
『別に今更何人来ようとかわんねーよ。風紀委員全員とかだったら追い出すけど』
の言葉を聞いて、ツナはそこまでいないからと笑ってしまう。
山本、獄寺、ハルがいるといえば、それくらいいんじゃね?との返事が。
『どーせまた家きてゲームしてだらだらしてお帰りだろ?』
「まーね」
『で、今日はどうする?マック?モス?ロッテリア?』
「それ全部ファーストフードじゃん」
つっこめばケラケラ笑い声が返ってくる。
じゃあ今日はガスト、といえば、はいはいボスお待ちしてますーとの返事と共に電話が切れた。
電話をポケットにしまって――から、なんだか微妙な雰囲気を出すハルに気付く。
「え・・・ど、どうかした?」
「・・・なんだかツナさん・・・エセ色男さんと仲良さそうです・・・ものっっっっすごく」
「(エセ色男って!?てか嫉妬してるーーっっ)」
どんよりしながら言ってくるハルに、ツナはひくりと顔を引きつらせる。
しかしそこは獄寺のァア?なわけあるかよ!!との一言と山本のあいつはみんなと仲良いから、との一声でなんとか治まった。まだ落ち込んでいるが。
マンションについて、ツナはセンサーに指を置く。
ぴっと音が鳴ってドアが開くと、さっさと中に入った。
〜」
「おー。適当に飲み物出せ」
「・・・なんだか、来慣れてるって感じ・・・」
またハルが恐ろしい空気を出し始める。
しかし山本は気付かず涼しいなーと言いながら入っていく。獄寺はハルから引いた状態。
ツナはそそくさと冷蔵庫から飲み物をとって奥に入った。
はもうゲームをしている。
「ああ!もうそこまで進んでんの!?」
「あたぼー。お前どこまで進んだ?」
「俺まだ洞窟だよー。な、次!次交代!」
「はいはいちょっと待ってろよ。セーブ場所ついたらな」
にやりと笑って、はテレビに顔を向ける。
やっりぃと浮き足立っていたツナは、後ろからの不穏な空気に気付いてハッと息を吸った。
「ツナさん・・・」
「あー・・・うん?」
どうやらの横にぴったりくっついて座ったのがお気に召さないらしい。どうも兄弟感覚なので何があっても自然に流してしまう傾向が身についた。
誰よりも一番一緒にいて気が楽な上愚痴れる上好きなことをさせてくれるけれど叱る時は叱るは、ツナにとって本当に兄のような存在だ。女だけれど。のツナに対する扱いは弟そのものだ。
山本がスタスタやってきて、反対側の隣にひょいと座った。
「ん?お前らなにやってんの?座ったら?」
は今ハルの存在に気付いたのか、ひょいと後ろを向いて声をかける。
獄寺はすぐさまツナの隣を取り、さらに殺気だったハルはフン!と言いながら円状のソファの方に座った。
「オッケー終了。ほれツナ、交代」
「う、うん」
おろおろしながら、ツナはコントローラーを受け取る。
は首をかしげてから、メモリーカード、と手を出してきた。
ボタンを押してカードを変えるを、さりげなくハルが睨んでいる。
は元いた場所に座ったかと思うと、あぁと声を上げて立ち上がった。
なにかと顔を向ければ、冷蔵庫から自分の分の飲み物。
そしてカウンターにある白い箱を手に取る。
「これ。ハルジオンって店のお菓子の詰め合わせなんだけど――」
「ぇえ!?ハルジオン!?」
店の名前を聞いて、ハルが大声で叫ぶ。
はハルに顔を向けると、美味しいってホント?と首をかしげた。
ハルは目をキラキラさせながらはい!と頷く。
「三時間並んでも下手したら買えないっていう有名なお菓子屋さんです!!」
「あーそうなの。お菓子欲しいっていうから恭弥に金あげたら買ってきたんだ。食う?」
「はひーー!!食べていいんですか!?」
「え?そりゃ俺一人でこれだけ食えないだろ。他に食べる人ー」
「あーはいはい。俺も食うー」
「はいよ」
さっきまで不機嫌だったハルが一気に復活して、ツナはぽかんとしてしまう。
ちゃっかり山本が手を挙げ、は食器棚から三人分のフォークと皿を取り出していた。
「お前らはいらないのか?」
「・・・あー、じゃあ、貰う」
「・・・」
「はいはい隼人もな」
微妙な獄寺の表情を見て、は笑いながら皿とフォークを増やす。
山本はさっさと立ち上がって白い箱を持ち、と一緒に円状のソファに座った。
「わぁぁああ!すっごい綺麗です!」
「・・・・・・かわい・・・・・」
ハルの大声に潰されて、の呟きが聞こえなかった。しかしは顔を輝かせている。
コレ本当に食べちゃっていいんですか!?と問いかけるハルに、はうんと答えてもうなにか取っていた。
「ほら好きなの取れ。タケ、お前どれ食う?」
「んー。じゃあこれ!」
「はいよ」
白い箱には所狭しとケーキやらなにやらが並んでいる。
作り物みたいに綺麗なものや可愛いものだらけだ。
は山本に聞いて取ってあげてた。
ツナも聞かれて取ってもらう。ハルはもう食べて幸せに浸っていた。
「はわ・・・幸せです・・・!!」
「うんうん。美味いもの食べないと人生詰まらんよ」
「ですよねー!!こんなものに出会えるなんて・・・!!ハル感動です!!」
「うん?欲しけりゃまた取り寄せれるけど」
「(絶対風紀の特権だーーー!!)」
「大丈夫並ぶのは下っ端の不良だから。たまには人の役に立たせなきゃ」
「そういう問題?!」
やはりつっこみはバレていて返事が返ってくる。
はケラケラ笑うと、まぁ美味いから食えってとひらひら手を振った。
食べてみれば、確かに美味しい。
ちょっと青ざめていた獄寺は、今はちょっとずつ食べていた。
さすがにあんな姉を持っては甘いものは苦手になるだろう。色々な意味で。
いつの間にやらハルはすっかり上機嫌になっており、お菓子を食べて堪能している。いい店やらなにやら、時折と話しつつ。そして山本の寿司みたいなお菓子がある発言に二人でつっこんだり。
ほっと息をついたツナは、がちらりと目配せして笑うのを見て、苦笑いした。
「あ、、ここどうやって進めばいい?」
「ん?あーそこ。手前のところに青い光あっただろ。ソコに攻撃したら鍵あく」
「なんか君、なれてるって感じですよねー」
テレビに顔を戻して問いかけると、はくるりと体を回して教えてくれる。
ハルがちょっぴりじとりと見ながらに言うと、はそうかもな、と言って苦笑いした。
「しょっちゅう弟とこうやって遊んでたから」
「え?弟いるの?」
初めて聞いた家族の話しに、思わずツナは後ろを向いてしまう。
テレビを見ながら――遠い目をして、笑みを浮かべるが目に入った。
はああと頷く。
だからかと頷くと、そうそうとも頷いた。
「弟さんてどんな感じの子なんですか?」
「んー・・・そうだな。隼人と恭弥を足して二で割った感じ。はねっかえりで口が悪くて意地っ張りでプライド高くて、でもなんだかんだいって寂しがりやだったな。煙草やめろだのなんだの文句言いながらくっついてきたからなー」
「うわー・・・。強烈な弟さんだね」
獄寺とあの人を足して割る二と聞いて、ツナは顔を引きつらせる。
ケラケラ笑うと、素直な弟持つのも夢だったけどなーとツナの頭をわしゃわしゃ撫でた。
獄寺は顔をしかめながらを見ている。
山本は微妙な笑みで、の頭をぽんぽんと叩いた。
って完璧お兄さんタイプだよな」
「うわーうれし。恭弥にはおじいちゃんタイプだっていわれてたんだ・・・」
「普段どこまで老けてんの!?」
山本の言葉に、がしんみりしながらいう。
つっこみを入れたものの言われてみればと思い直し(今のリアクション然り)、ツナはくすりと笑ってしまった。
いつの間にやら、ハルの「エセ色男さん」呼びが「くん」に変わっていて、やはりくえないなと痛感したある日。


















一緒にいて楽なのは、気を使ってもらってるからなのかな。(だとしたらどうにかしようと思うのに、きっと君はいらないって切り捨てるんだろうね)