草壁たちにはもうを捜さなくていいと言ってある。
今はテスト前に決めたとおり、風紀委員の活動をしている。
ただ一人、雲雀は応接室でぼーっと座っていた。
「・・・」
あの日から放っとかれたままの学ランが置いてある。
手を伸ばしてみると、冷房で冷えた布の感触だけがした。
「・・・」
手にとってじっと睨みつける。
未だにとは会えない。
「(・・・会って今更なにがしたいんだ)」
ずるずる体を滑らせてため息をつく。
目を閉じて、暫くしてからまた開いた。
最初は咬み殺したかったのに、今はどうしたいのかよくわからない。
ただ見つからないことに、怒りよりも変な虚無感が生まれた。
急に息苦しくなって胸を掴む。
「・・・はぁ」
息をつくと、ばさりと学ランを置いて立った。
バイクでそこら辺をぶらぶらしていると、いつの間にやらのマンションの近くを走っていた。
なんでこんなところにとイラっときた――が、そのマンションの前をつんつん頭の子が歩いているのを見つけて、雲雀はバイクを止めた。
「ねぇ」
「っ!?は、はい!?」
声をかけると過敏なほどに反応される。
いつものことだと気にせず、なにやってるの?と問いかけた。
見れば手に大きな紙袋を持っている。
「あ・・・えぇと・・・に届け物を・・・」
「・・・そう。いるの?」
「え・・・さぁ。多分?」
曖昧な答えを返して、つんつん頭の子は首をかしげる。
ため息をつくと、雲雀はスタスタマンションの中に入った。
つんつん頭の子はぽかんとしながら雲雀を見ている。
振り返って、雲雀はいかないの?と問いかけた。
慌ててつんつん頭の子がついてくる。
何故だか二人でエレベーターに乗って、最上階へ。
ピンポンとインターフォンをおしたつんつん頭の子は、無反応なのをみてまたか、とため息をついた。
雲雀もしらけてしまう。
が、つんつん頭の子は指紋センサーに指を当てていた。
ピッと音が鳴って、扉がバターンと開く。
雲雀はぽかんとしながらつんつん頭の子を見た。
「〜?ーー!!」
「――おー」
つんつん頭の子が叫ぶと、脱衣所から眠そうな声が返事を返してくる。明らかにだ。
雲雀は驚いて目を丸くしたまま、脱衣所に目を向けた。
風呂上りらしいが、ふあぁと欠伸しながらタオルを頭にかけたまま出てくる。
「あー・・・なんだツナ・・・」
「うわー・・・おつかれ。これ、リボーンから」
「・・・おー。あのクソチビガキ」
かなり眠そうなに、つんつん頭の子が苦笑いしながら紙袋を渡す。中々に重たそうだ。
受け取ったは、顔をしかめながら袋の中身を見る。
ため息をつくと、サンキュ、と手を上げた。
「で?よってくのか?俺は寝るけど」
「・・・あー・・・」
に問いかけられたつんつん頭の子は、ちらりと雲雀を見る。
それからすぐにいや遠慮しておく、というと、じゃあと挨拶して去っていった。
残ったのは雲雀と。
がため息をつく。
「・・・で?お前は何の用だ?」
相当眠たそうな、やる気のない声で問いかけられる。
雲雀は黙り込んで、じっとの足元を見た。
がまたため息をつく。
「用が無いんなら寝たいんだけど」
「・・・」
「だんまりかよ。雲雀恭弥クン」
抑揚のない声がうえから響く。続けて欠伸。
雲雀は中々顔を上げられなかった。上げて――顔を見るのが、何故だか怖かった。
またため息が聞こえてくる。
ぎっと音がして、雲雀は慌てて顔を上げた。
半分目が閉じてそうな、やる気のない顔のと目が合う。ドアを閉めようとしていたらしい。
「だから、なに」
「・・・ここ二週間なにしてたの?」
出てきた言葉は、ほんの繋ぎにしかならないもの。
声がやけに小さくなってしまったが、静かなこの廊下では聞こえる。
は眉根を寄せてめんどくさそうな顔をすると、色々、と一言答えた。
「その間捜してたんだけど」
「だから、何の用だっつってんの。・・・いい加減眠いんだけど」
やる気のない、めんどくさそうな声が返ってくる。
雲雀は目を細めてを睨んだ。
は目を細めてますますやる気のない――を通り越して冷めた表情になる。
思わず目を逸らした。
「お前なにがしたいわけ?」
問いかけられたのは、前にも聞いたことのある台詞。
雲雀は頭を落としてまた無言になった。
ははぁとため息をつく。
「お前さぁ、友達いらないとか言ってたよな」
急に話題を変える。雲雀は頭を上げる。
は別の方向を見ていた。
「俺風紀委員もやめたよな」
思い出すような、確認するような言い草。
雲雀は無言でじっとを見る。
は口に手を当てて目を閉じると、ふあぁとまた欠伸した。
「というわけで、仕事も私生活も無関係」
どくり、心臓が脈打つ。
「用事はないだろ。さよーなら」
ひらひら手を振ってが下がると共に、閉じようとするドア。
ガタンと手を突いて、雲雀は開け返した。
が無言で、呆れたような顔で雲雀を見てくる。
なにか言おうと口を開けて、何も言えずに閉じた。
「・・・お前なにがしたいわけ?」
呆れたようなの声がまた聞こえてくる。
ふぅ、と息をついた声が聞こえたかと思うと、頭にがしっと手が置かれた。
顔を上げれば、が目の前にいる。
「言いたいことがあるならさっさと言え」
やる気のない声で問いかけられる。
雲雀はじっとを見ていたが、視線を降ろした。
「・・・お前は、なにが、したいんだ?」
「・・・」
「お前は、なにを、どうしたいんだ?」
途切れ途切れに問いかけられ、雲雀はまた頭を降ろす。
やけに混乱していた。やけに心臓が脈打っていた。
部屋の中からひんやりとした風がふいてくるのに、頭がぼんやりしそうになる。
またため息が聞こえたかと思うと、手が離れた。
雲雀は慌てて、その手を掴んでしまう。が怪訝な顔をした。
「なにがしたいんだよ」
「・・・なれるな」
心底呆れたような声の後に、自然と言葉が出てきた。
は?と聞こえなかったらしいが声を上げる。
「僕から離れるな」
「・・・」
口が勝手に動いた。雲雀はじっとを見る。
は呆れ顔していたが、さらに呆れ顔になった。
「お前さ・・・自分で何言ってるか分かってる?」
「・・・分かってる」
「てーかさ、なーんかちとズレてねーか?」
「・・・ズレてない」
拗ねたような声になってしまう。
はますます呆れた様子で、ため息をついた。
「・・・ほんっと馬鹿の子」
「馬鹿じゃない」
ぎろりとを睨む。
しかしは呆れ顔のままだ。
ため息をつくと、めんどくさそうに頭をかいた。
「なにがしてーんだよホントにお前は。そばにいてほしいんなら、まず言うことがあるだろうが」
「・・・?」
言われて思い当たる節がなく、雲雀は首をかしげる。
はまた呆れ顔してため息をついた。
「お前この前何言ったか覚えてる?」
「・・・覚えてる」
「ああいうことを人に言った場合、なにをいえばいいか知ってるか?まさか、そこまで馬鹿じゃねーだろうな」
目を細めて、もう相手をするのもめんどくさそうな顔で言われる。
雲雀は眉ねをぎゅっと寄せた。
「謝れって?」
「はーん。自分から人を突き放すようなこと言っておいて、自分は謝りもしないんだ。へー。それで都合よく離れるなって言うんだ?ふーん。よく出来た頭だな。くだらなすぎて相手すんのもダリーんだけど」
「・・・」
「言わなきゃならない事も言えないようなヤツとよろしくする気はねーよ。言う気があるなら言う。嫌々だの言葉だけだの、言う気が無いなら今すぐ帰れ」
ズバズバ言われて、雲雀はむっと顔をしかめる。
は随分と冷めた目で雲雀を見ており、雲雀は顎を引いた。
「・・・ごめん」
「なんだって?」
「ごめんなさい」
「よろしい」
ぼそりとつぶやいても許してもらえず。
ちゃんと声にだして、ようやく許された。
ぽんと頭に手を置かれる。だから子ども扱いするなと雲雀は手を払う。
ふぅと息をついたのもつかの間、は「んじゃー」というと欠伸しながらひらひら手を振って中に入っていった。
「て、ちょっと」
「あー?まだなんかあるのかよ」
声をかけると、は心底めんどくさそうに振り向いてふらりと壁にぶつかる。
ため息をついて、雲雀はスタスタ中に入った。久々のの家だ。
「なんかって・・・ていうかこれまでなにやってたんだ?」
「話してなんになるんだっつーかいえねーから・・・それ・・・もーマジ眠いんだ寝かせろ」
「は?」
欠伸しながら、はふらふら寝室に向かう。
顔をしかめて、雲雀も後をついていった。
「なんでいえないわけ?」
「そりゃオメーあっちの仕事関連のことぽろぽろ喋れるかって。ふあぁ・・・」
「は?仕事?この二週間近くずっと?」
「だからそーだっつーの」
ベッドにばふっと落ちてころんと転がりながら、がかなりめんどくさそうに答える。
思い切り顔をしかめた雲雀は、の隣にひょいと乗った。
「なにそれ?じゃあもしかして、連絡取れなかったのも家にいなかったのもずっとその所為?」
「はあ?連絡なんて一々構ってられるかよ普通に殺されるし。あのガキが学校行かなくてもいいからって昼夜問わずに仕事入れやがったんだ・・・・・・お陰で暫くずーっと動きっぱ。帰ってきて寝たかと思えばすぐに叩き起こされてこれから港行って中国マフィアの・・・あ、やべぇ・・・」
うとうとしながら愚痴っぽく喋っていたは、途中でぽろっと仕事内容をばらしてしまったらしく顔をしかめる。
はぁ、とため息をつくと、またすぐに欠伸した。
「さっき帰ってきたばっかなんだよ・・・寝かせろ」
「なにそれ」
「だぁからもういいだろ?説明ー・・・」
かなりめんどくさそうに言ってから、はもう眠りだす。
髪の毛は濡れたまま。
やる気がなかったのもめんどくささ全開だったのも全て仕事の所為。
すぐに冷めた顔をしてたのも睡眠不足の所為。
はぁーとため息をついた雲雀は、隣にコロンと寝転がってじっとを睨みつけた。
「・・・もしかしてから回り?」
一人つぶやいて、無性に腹が立ってくる。
一発ぶん殴ってやろうかと拳を握ったが、疲れた顔で、かなり深く眠るを見てため息をついた。
そこらに畳んであるタオルケットを取ってばさりとにかける。
「・・・あぁ」
じっとを見ていたら、納得したような声が出た。
雲雀はため息をついて、くっと笑う。
「・・・馬鹿みたいだ」
一人つぶやいて、の傍へ行く。
ぎゅっと抱き込むと、濡れたままの髪の所為でシャツが濡れた。
うー、という唸り声も聞こえる。
くすりと笑うと、雲雀も欠伸をして眠りに入った。
起きたのは夕方近く。
まだは眠りたいといったが、お腹すいた、と雲雀が押し通した。
「あーあ。乾かさないで寝た所為で髪ぐちゃぐちゃだ」
「いっそ髪がたにしちゃえば?寝癖ヘアー」
「まんまだろ」
半円ソファに座ってテレビをみながら、雲雀はに相槌を打つ。
呆れ顔で突っ込み返された。
めんどくさくなったのか(いつもめんどくさがってるけれど)洗面所で水を被ってる。
ドライヤーで乾かしなおせばいつも通り。
熱いーといいながら出てきたは、壁に立てかけてあった紙袋を持って円のソファにやってきた。
どさりと座り込むと、煙草に火をつけて袋の中身をがさがさ漁る。
「それ一体なに?」
「報酬」
「ワオ」
どん、とが札束を取り出してテーブルに置く。
しかもどん、どん、といくつも取り出した。
「・・・二千万くらい?」
「まぁ、二・三千万だな。つーかこれだけ働いといてこれだけ・・・あーあ。割りにあわねーよ」
「君って金銭感覚狂ってるよね」
「コッチ来てから特にな。まぁがんばりやじゃない俺があそこまでがんばったんだ。その分報酬上げてもいいと思うんだけど」
「当社比で考えるから損したと感じるんじゃない。常識で物事考えようよ」
「お前に常識つっこまれるとはなー」
札束の数を数えながら嫌味を言われて、雲雀はゴンとの頭にリモコンをぶつける。
いてっと言ったは、んだよと文句を言いながらぱたぱた札束を積んだ。
「・・・これで扇とかやったらさぞ気分いいだろうに」
「やってみるか?多分むなしくなるだろうけど」
「一束くれるならやるよ」
「やらねー」
「ケチ」
「・・・お前さ。働かざるもの食うべかざるってーかそれ以前の問題を全力でシカトしてるって気付いてる?」
呆れ顔で問いかけられて、雲雀はくさい、と一言返す。煙草の煙が来た。
そこまでスルーかよとつっこみを入れつつ、は札束を袋に戻して煙草の灰を落とす。
金庫のある部屋に袋片手に入っていくを見送って、雲雀は体を前に戻した。
この大型テレビで無駄に音量をでかくしてDVDを見るのも、久しぶりだ。
「あー。飯どうすっかなー」
「並盛ホテル9階のレストラン」
「足元見て決めんな。ったく・・・疲れてんだよもっと近場の楽なとこ行こうぜ・・・」
「どうせもう夏休みなんだし、ちょっと無理してもいいんじゃない?風紀の仕事はあるけど」
「意味ねーじゃんそれっつーか風紀逆戻りかよ」
雲雀が飄々と余計な一言を付け加えると、がげんなりしながら床にだらりと腕を伸ばす。
辞職届もらってない、と答えて笑って、雲雀はテレビを消した。
「行こう。美味しいパスタ屋さんがあるんだって」
「近い?」
「バイクですぐ」
ジャージでもいけるところが良かったなぁとぼやきながら、は寝室に入っていく。
たまには女らしい格好してよ、と声をかけると、私服二着くらいしかもってない、との返事が返ってきた。
どれだけ少ないんだよと呆れてしまう。
「じゃあ明日はノンビリ寝て、買い物決定」
「・・・それってもしかして、お前の分も俺が奢るとかいう条件付?」
「連れて行ってあげるんだからそれくらい当たり前だよね」
「いやなんか間違ってるよね」
明らかに割に合ってないよね、とは雲雀の口調を真似て言ってくる。
はいはい良いから行くよ、と引っ張って歩き出すと、財布!と叫ばれた。
やっとみつけた。(もう離してあげない。あんなのはもうこりごりだ)