応接室での一件以来、雲雀はを見ていなかった。
というよりも誰も見ていなかった。
唯一視界に入った人間といえば、仕事の関係で話しかけてくる草壁程度。
それ以外眼中にいれないように生活していた。
あのやり取りからむしゃくしゃしている。
三日はたつが、その内何人咬み殺したかわからないくらい咬み殺してる。
からはなんの接触もない。
ぼーっと窓に肘をついて外を眺めていると、例の三人組みが目に入った。
雲雀は目を細めて三人を見る。
群れている人間を見ると、やはりむしゃくしゃする。
雲雀と一緒に居ない時、はあの三人と居る(か一人でいる)が、今日はいない。
どうせサボりか寝てるかだろうと考えて、雲雀は視線を逸らした。
何人咬み殺しても遊んでも、まったく気分が晴れない。本を読んでも頭に入ってこない。
が風紀を抜けたことは草壁だけが知っている。
草壁が誰かに話していれば、風紀全体に恐らく広がっている。
「・・・ふぅ・・・」
ため息をついて目を瞑る。
静かな応接室。
誰も近寄ってこないため用事のある委員でも居ない限り、音はしない。
別にもうどうでもいい。気にしない。
いくら強くてもやる気のない相手じゃ楽しめない。
ついでにいつも無駄に素早く逃げるから攻撃しようにもできない。
「・・・」
そう考えると無性に咬み殺したくなってきて、雲雀は顔を手から外す。
もう下校時間は過ぎている。
明日咬み殺せばいいと、雲雀は立ち上がって応接室を後にした。
次の日学校に来る生徒たちを見ていたが、の姿はなかった。
風紀委員の一人に見晴らせていたが、結果は同じ。来ていない。
放課後まで見晴らせても同じ。
やはりサボっているのかと、放課後マンションへ行ってみた。
エレベーターで最上階へ行けば、大きくがっしりした扉にでくわす。
インターフォンを押すが、なんの反応も無い。何度か押して諦めた。
屋上に上ってロープで下がってみる。
無人の部屋。ミツコさんもいない。
どうせ窓は開きっぱなしだろうと手をかけた。
しかし窓はびくともしない。
舌打ちしてトンファーで殴ってみたが、まったく割れない。傷つきもしない。
思い切り眉根を寄せた雲雀は、集中して一撃――それでも、まったく割れる様子が無い。
「・・・」
やけにむなしくなった。(なんでだよと怒りに変わる)
いつもこの窓は開いていた。
何度もここから中に侵入した。初めて入ったときもここからだ。
雲雀が来ると分かっているから、はいつもここをあけていた。
インターフォンを押してもは気付かない時がある。
奥の部屋で銃を撃っているときや、集中して本を読んでいるとき、ゲームをしている時、寝ているとき。
窓が開いていなかったことなんて一度も無い。
本人がいようがいまいが、一度も。
「・・・」
しばらくじっと中を見つめてから、窓に触れてみた。
冷たいだけの窓。中も、暗いまま。綺麗なまま。掃除されたばかりのように綺麗に整ってる。
すっと離れて、ベランダから景色を見た。
何も変わらない並盛町の景色。
広くて開放的なベランダからの景色は、確かに絶景だ。絶景だけれど――つまらない。
息苦しい気がして、雲雀は胸に手を当てた。
「・・・どこにいるんだ?」
獲物を探さなければならない。気がすまない。
携帯を取り出して電話してみた。
しかしまったく反応なし。
電話を切ると、雲雀は舌打ちしてロープを上った。上ることなんて一度も無かったので中々に面倒だった。
草壁に連絡を入れて、すぐに風紀委員全員で街中を調べるよう指示を出す。
しかしどれだけ遅くまで捜させても、の行方はまったくわからなかった。
朝から、雲雀はマンションの扉の前にいた。
インターフォンを押してみる。すると、中から反応があった。
「あらあら恭弥君。久しぶりね」
「・・・うん」
何故だか逆らえないオーラが(そして無駄に実力も)あるミツコさんが顔を出す。笑顔で。
の居場所を聞こうと口を開いたところで、先手を打たれた。
「わざわざ来てくれたところ悪いんだけど、ならもう出かけちゃったのよー。どうする?朝ごはん食べていく?」
「いい」
笑顔で問いかけてくるミツコさんに返事を返しながら、雲雀は早足に歩いてエレベーターに乗る。
一階に下りてすぐさま、バイクで学校に向かった。
しかしがいつも通る道を通っても、どこにもの姿は見当たらず。
学校についてから登校する生徒を見張っていたが、全く姿がなかった。
「・・・一体どこにいるんだ?」
不機嫌につぶやいて返事が返ってくるはずもなく。
その日も一日風紀委員たちにを捜させたが、まったく見つからなかった。
あれから全権限を駆使して捜すが、いっこうには見つからず。
一週間以上経った。もうすぐ夏休みだ。
「ねぇ」
雲雀が教室に入った途端、生徒たちがざわめく。
入った教室は1−A。のいるクラスだ。
といつもつるんでいる三人組みの――つんつん頭の子に、声をかけた。
つんつん頭の子はヒィ!と声を上げて真っ青になる。
「どこにいるか知らない?」
「えっ、?・・・ですか?」
「そう。知ってる?」
問いかければ、つんつん頭の子はおろおろし始める。
知ってるの?とずんずん突き進んで問いかけると、会ってないんですか?と問い返された。
「今はこっちが質問してるんだけど」
「は、はいっ!えぇと・・・あの・・・最近、ずっと教室来てないから、わかんないです。連絡先も知らないし・・・」
「それ本当に?」
「ほ、本当です。だから・・・風紀委員の仕事、してるんじゃ・・・?」
恐る恐る問いかけて目を見てくるつんつん頭の子(たしか最近急に強くなったとかいう沢田綱吉)を見て、嘘はついてないと確信する。
目を細めた雲雀は、そう、とだけいうと踵を返して教室を出て行った。
学校に来ていない。
家には帰っている。(ミツコさんに聞くと出かけただのなんだの返事が返ってくるのだから)
やはり草壁達に捜させている雲雀は、応接室のソファに座ってため息をついた。
廊下でバタバタ走る音と、草壁の見つかったか?という声が聞こえてくる。
どこどこの地域を捜したけれど見つからない、との返事を部屋の中で聞いて、雲雀はまたため息をついた。
「に会いたいのか?」
聞こえてきたのは幼い声。
知ってるのか?!という草壁達の声が続けて聞こえてくる。
「何処にいるかは知らねぇ。けど連絡先は知ってるぞ」
「本当か!?」
外の会話を聞いて、また雲雀はため息をつく。連絡先なら雲雀も知っている。
ちょっと待ってろ、と言う声の後に、拡張された電話のダイアル音が聞こえた。
ブツリと音がなる。
『ァア?!んだよリボーン!!』
「お前に用がある奴がいるぞ」
『知るか!』
焦ったような怒り混じりな声が聞こえてくる。
すぐさま、草壁の今何処にいるんだ!!という怒鳴り声が聞こえてきた。
『は?草壁?なんでお前が出るんだよ』
「今全員でお前を捜してるんだ!!」
『なんで』
「なんでって・・・委員長がお前を捜してるんだ!!」
『はあ?』
草壁の言葉に、やはりはイライラしたような声で返事を返してくる。
今何処にいるんだ!と草壁の怒鳴り声がまた聞こえると、は教えられんと簡単に答えた。
「そういうわけにはいかないんだ!全員で捜してるんだぞ!!」
『知るかよだったら今すぐ止めろ。用があるなら今すぐ言え』
「え、えーと・・・と、とにかく!早く来てくれ!お前を見つけないと委員長の機嫌が治らないんだ!!」
『知るかよ!あぁもう!ガキの癇癪に一々付き合ってられるかっつの!そんなんで電話かけてくんな!!』
イライラした声が怒鳴り返してきて、ブツリと切れる音。
あ、という声と、ため息が聞こえた。
「・・・どうやら電源切られたみたいだな。繋がんねぇ」
「そんな・・・」
「諦めるんだな。多分掴まんねぇぞ」
「ほ、他に何か知らないか!?」
すがるような草壁の声が聞こえる。
暫くすると、ため息が聞こえた。
「ないな。お前らでなんとかするしかねーだろ。を捜すより、委員長が不機嫌になった理由を捜して本人になんとかなってもらうしかねーんじゃねーのか」
「そんなこと出来るならしてる!というかアイツが原因なんだろうが!!」
「さぁ。俺はしらねーぞ。ただ・・・はそうそう簡単に、くだらない理由で怒るようなやつじゃないからな。ましてや姿消したとなると・・・相当頭きたかなにかあったんだろ。普段だらしなくとも自分の考え持ったやつだぞ」
幼い声がそういうと、しんと廊下が静まり返る。
ちゃおちゃお、という言葉と共に、小さな足音が段々遠ざかっていった。
「・・・草壁さん」
「・・・とにかく、もう一度街を洗いなおす」
行くぞ、という草壁の言葉に、一緒に居たらしい何人かが返事を返す。
ばたばたと足音が遠ざかっていって、雲雀はため息をついた。
「・・・」
ぼーっと前を見つめて、無言になる。先ほどから何も喋ってもいないが。
ほこりを被り始めたパソコン。
の学ランはあの日のまま、ソファに落ちている。
ずるずる頭がひっかかるまですべって、雲雀は目を閉じた。
出てくるのはため息。
もやもやする。気持ち悪い。だるい。三拍子揃った。
「・・・」
幼い声の言葉が蘇ってくる。
確かにはアレで考え方もしっかりしているし、意外と常識的だ。やりすぎる風紀委員たちを止めたりもするのだから。(最初はその所為で不満がつのり、結果実戦を見せるハメになった)
なんだかんだいって雲雀のことを呆れる程度で済ませる。
そのが怒ってあまつさえここまで学校に来ないということは、前代未聞だ。(とはいえはつい最近きたばかりだが)
携帯もつながらない。
家にだって入れない。入れさせてくれない。
誰がどう見たって完全な拒絶――頭を振って、雲雀は立ち上がった。
「あら恭弥君。今日も来てくれたの。悪いわねぇ出ちゃったのよ」
「いつ?」
「もう随分前ね」
「そう」
朝、マンションでミツコさんに似たような言葉を貰う。なんだか楽しそうな笑顔だったが気にしてられない。
すぐさま踵を返して、バイクで色々な道を通りながら学校へ行く。
見張っていてもは来ない。
今日も収穫なしだ。
もう明日から夏休みが始まる。に会わないで二週間がたった。
ため息をつきながら廊下を歩いていると、あの、という声が聞こえた。
振り向いてみれば、つんつん頭の子。
なに?と声をかけると、えっと・・・と目を泳がされた。見てるとイライラしてくる。
「、何処にいるか知りませんか?」
「・・・」
問いかけられて、思わず目を細めてしまう。
知りたいのはこっちなんだけど、と随分冷たい声を上げた。
びくりと肩を揺らしたつんつん頭の子は、えぇと・・・とまた声を上げる。
「さっき来てすぐ、電話して出て行ったから・・・風紀じゃ」
「どこに?」
「え!?え・・・っと、わから、ない、です(この人が知ってるっていったじゃんかリボーンの馬鹿!!)」
突き詰めて問いかけると、つんつん頭の子はおろおろしながら答えた。
眉根を寄せてすぐに雲雀は走る。
応接室に行っても誰もいない。
すぐに草壁に連絡を入れて付近を捜させた。雲雀は、バイクに乗って適当に街を走る。
それでもは見つからない。
マンションにいってみても、電気もついていなかった。
インターフォンを押しても反応は無い。
どれだけ押してもやはり無言。
ベランダに行こうか考えて――雲雀はどんと、ドアに背中をぶつけてずるずるしゃがみこんだ。
「・・・」
携帯電話で連絡を入れてみても、無反応。電源を切られている。
ため息をついて頭を降ろすと、バシッと携帯電話を床に投げ捨てた。
「・・・」
いくらじっとしていても、何も起きない。
しんと静まり返った廊下。
随分長いことその場でしゃがみこんでいたが、雲雀は顔を上げると、のろのろその場を後にした。
そろそろ自覚持ってもらわねぇとな。(厄介な相手だけどファミリーのためだ。ミツコ、笑いすぎだぞ)