大抵は最初教室に行き、飽きれば応接室へ行く。
ただいま二時間目終了。
次の時間割を見て、は席を立った。
「あれ?もうサボんの?」
「だってお前、次」
「・・・あぁー。さすがに受けらんないな、体育は」
問いかけてきたツナがの意図に気付いて微妙な表情をする。
大体体操着もってないし、と肩を竦ませると、それはそれで問題だと思う・・・と脱力された。
「まぁがんばれよーあっはっはっ」
「時折が物凄く憎いよ」
「時折ツナは物凄く黒いと思う」
しっかり返して教室を出る。
応接室へ行けば、綺麗な空気が静かに保たれている。
電気をつけてついでに冷房もつけると、はパソコンに掛かってる布を取っ払って電源を入れた。
まとめなければならないファイル等々はテーブルの上に置いてある。
パソコンがたちあがる前に適当に手に取り、椅子に座って息をついた。
カタカタ打ち込んでいればその内なるチャイム。しかしには関係ない。
いつの間にやら集中して打ち込んでいると、がらりと扉が開いた。
「あれ?恭弥」
「もう昼休みだよ」
「あー・・・」
だるそうな声を上げて、は背もたれにぐっと体重をのせる。
両手を伸ばしてぐっと体を伸ばすと、欠伸一つして立ち上がった。
恭弥はもうソファに座ってくつろいでいる。
「これからお昼買いに行くの?購買間にあわないけど」
「コンビニいっときゃいんじゃね」
「三色弁当なら後数秒後に届くよ」
お茶付、と言われて、はぴたりと立ち止まる。
顔を向ければ涼しい笑顔の風紀委員長。
はぁ、とが苦笑しつつため息をついたところで、がらりと扉が開いた。
「委員長!幕の内弁当と三食弁当、買ってきました!!」
「ああ、に渡して」
「・・・どーも」
リーゼント君から弁当とお茶の入った袋を貰うと、もソファに座る。
リーゼント君は大声で失礼します!と言ってすぐさま消えた。
「よく気付いたな」
「窓から見えたんだよ」
何処の窓だかは分からないが流しておいた。
そのままノンビリ弁当を食べて、微妙に話をしてから、パソコンに向かうか教室に戻るか決める。
次の時間が嫌いな教科なら行かない。次は美術二時間。面倒なのでサボり決定だ。
昼休み終了のチャイムが鳴る。が、恭弥は大きな机付の椅子にどっかり座って、本を読み始めた。
「おい恭弥、チャイムなったぞ」
「次体育なんだ」
「出ねーの」
「僕が体操着着て群れてる姿想像つくかい?」
「キモイ」
一言で返せば、だろう、との返事が返ってくる。
大体君だってサボってるじゃないかと言われたが、いつものことだろで流しておいた。体操着を持ってないことはもうすでに知られている。
カタカタパソコンを構って暫く、電話でなにかしら話した恭弥は出て行った。
気にすることも無いのではパソコンに向かう。
大体どうして物品の注文までこっちでやらにゃならんのだと文句を言いつつ、紙とパソコンを交互に見た。注文の品の物品は恭弥か誰かが壊したものなのだろうが。
作業がひと段落すると、睡魔に襲われる。
ふあぁと欠伸をして、はソファに寝転がった。上着は布団代わりにかけている。
冷房の涼しさと学ランの暖かさに包まれて、はすんなり眠った。
が眠って数十分。
コンコンと扉がノックされる。しかしは目覚めない。
入って来たのは金髪の不良。ソファで眠っているを見つけると顔をしかめた。
すやすや眠っているのすぐそばにしゃがみこむと、じっとを睨みつける。は起きない。
「――なにやってるの?」
「い、委員長!」
扉から掛かる声と、驚く声。やはりは目覚めない。
用件を恭弥に伝えて頭を下げると、金髪不良は慌てて部屋を出て行った。
「まったく・・・」
ため息をついて、恭弥は中に入ってくる。
すやすや眠るを見ると、腹の上にずんと腰掛けた。
ぐっとうめき声を上げてが目を覚ます。
「・・・おも・・・い・・・」
「無防備に眠ってるのが悪いんだろ。襲われても知らないよ」
それだけ言うと、恭弥はさっさと立ち上がって向かい側にあるソファに座る。
はため息をつくと、起き上がって欠伸した。
ねむーとぼやくと、パソコンくらい落としてから寝なよ、とつっこみがとんでくる。
へいへいと答えているうちに、最後の授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
やれやれとため息をついて、はパソコンの電源を落とす。
ソファに投げてあった学ランから煙草を取り出すと、開けた窓に腰掛けて煙草に火をつけた。
ノックと共に、恭弥が誰、と声を上げる。草壁だった。
了解を取ってから草壁が入ってくる。その後に続いて数人。
それから数分もしないうちに、部屋から廊下にかけて風紀委員が勢ぞろいした。
「・・・なんかあんの?」
「ああ。これからちょっと会議があってね」
「へー」
「君も参加必須だから。ていうか、君の会議だから」
「へぇ――マジで?」
適当に相槌をうとうとしていたは、恭弥の一言を理解して顔をしかめる。
恭弥は笑みを浮かべると、ああと言ってに顔を向けた。
「君が風紀委員に相応しいか、という意見が出てね」
「へー。どうでもいい」
「言うと思ったよ。というわけで、これから街に行く」
恭弥の言葉を聞いて、は怪訝な顔をする。
実力が見たいんだってさ、と楽しそうに言われて、は顔をしかめながら不良たちを見回した。
草壁付近にいる不良たちは、ただ真っすぐ立っている。
ただ廊下にたむろっている不良たちは、メンチ切る勢いでを睨んでいた。
「・・・はぁ。キモイ面並べてんなよ。唇裏返すなっつーの」
「煽るような発言は控えて欲しいな。実力見たなら何も起きないだろ」
「分かってて乗るお前もお前だ」
「僕だって君の本気、見てないしね」
呆れ顔しながらが言えば、一気に殺気立つ不良たち。(廊下組み)
恭弥は目を細めて、かなり楽しそうにを見た。しかしは顔をしかめて煙を吐く。
いつの間にやら応接室に置かれるようになった灰皿に煙草を押し付けると、ため息をつきながら窓から降りた。
「CD買いに行こうと思ってたんだけど」
「どうせ街に出るんだしついでに買ってけばいいだろ。さぁ、行こうか。いい情報が入ったんだ」
「それまた好都合なこって」
ふあぁと欠伸しながら、はソファにある学ランを手に取る。
恭弥が立ち上がって行こうか、と言うと、不良たちはキビキビ移動し始めた。
はめんどくささ満載の顔でため息をつく。
まぁ付き合って上げなよ、と言うと、恭弥はひらりと学ランを羽織って部屋を出て行った。も後に続く。
今日は珍しく歩きだった。ので、恐らくこの計画は前々から立てられていたことと分かる。
恭弥とを先頭にぞろぞろ歩いてついた先は、いつかの廃工場。
趣味悪、とがつぶやくと、隣に立っている恭弥がふっと笑った。
「さて。どうする?まずは誰かにいってもらおうか。それとも加勢つける?」
「ハッ。ココまで付き合わせといて嫌味たぁ根性悪いな。行きゃあいんだろ行きゃあ」
「最初からそう言えばいいんだよ」
だらだらだったは、恭弥ににやりと笑われて思い切り顔をしかめる。
の言葉を聞いてやはり不良たちは顔をしかめたが、恭弥が気にしていないので誰もなにも言ってこなかった。
スタスタ中に入っていけば、ようやく一人が顔を上げる。
「なんだぁ?おいおい、風紀委員かよ」
「こんなやつが風紀委員?ヒバリのヤツとうとう頭いかれちまったんじゃねぇのか」
ニヤニヤ笑いながら、不良のような輩たちがじろじろを見てくる。
は素直に眉根を寄せてため息をついた。
「おいおい。あんまりはっきり言ってやんなよ。あいつは馬鹿の子でも頭はいかれてないぞ」
「。あんまり言うようだと咬み殺すよ」
「へいへい」
入り口付近から恭弥の声が聞こえてくる。
一瞬びくりとした不良たちだったが、キョロキョロ周りを見て――入り口付近にいる恭弥と不良たちが動く気配が無いのを確かめて――「好きにしていいよ」と恭弥が言うと、また笑みを浮かべてを見た。
「まさか今日はお前一人が相手ってヤツか?」
「そうだけど」
「マジで!?こんなちっこいヤツが!?」
さらりと肯定すると、不良達は腹を抱えてげらげら笑い出す。
はぁ、とため息をついたはそこら辺をちらりと見回した。
「こんな女顔したひょろいヤツが!?」
「そっちの趣味のヤツだったら普通に売れんじゃねぇの?」
「いや、これだったら案外いけんじゃね?綺麗な面してっし・・・ちょっと痛めつけてまわ」
ニヤニヤ笑いながら近づいてきた男が後ろに吹き飛ぶ。
ぽかんとしていたほかの男たちが、一斉に声を上げた。
「はあ!?なんだ今の――」
おろおろしている不良の目の前に。
ブンと腕をふって殴りつける。ゴキッといい音がしてそのまま倒れた。
ヤロー!と叫んで走ってくる男も軽く潰す。
奥から、なんだ?と言う声と共にぞろぞろと不良たちが現れた。
「ワオ。シマウマの大家族か?今なら恭弥の気持ちが分かる気がする」
「だろ。さっさと片付けてよ。めんどうだし目障りだ」
「お前さんは物見遊山に来た水戸黄門か」
呑気に会話している間にも、不良達は鉄パイプだのナイフだのを手にしてザケてんじゃねぇぞオラァ!だのテメェか!だの叫んでくる。
鬱陶しそうに顔をしかめたは、ため息をつくと学ランを後ろに投げ、そこらにある石を続けて投げた。
学ランが石に押されて恭弥の足元まで行く。
「それ拾っといて」
「目ぇそらしてんじゃねぇぞォ!!」
「るせーなぁ・・・」
ひらひら手を振ったは、真後ろから来る声にめんどくさそうに振り返る。裏拳を入れて一人目を潰した。
次々襲い掛かってくる男たちを、的確に潰して行く。
まだまだかなりいる数を目に入れると、めんどくささ満載にため息をついて鉄パイプを奪い取った。そのまま殴りつけて奪った不良は地面に潰す。
「潰してやるよ」
「しゃらくせぇえ!!」
やる気なく言うと、途端にかかってくる不良たち。
腕を弾いて腹に入れて、頭の横を殴って回転して次の腹に入れ、後ろに引いて背後の腹に突き入れる。
事務的に、しかし流れるように次々倒して行く。
ナイフはパイプをぐるりと回して弾き飛ばし、やはり殴り潰した。
わあわあ騒いでいた不良たちが段々と足元に溜まっていく。
灰色の地面が今では不良たちの服の色だ。
「歩きづれぇ」
忌々しくそうつぶやいたは、一人殴りつつふわりと浮かび上がる。
浮かび上がった動作とは裏腹に、バシバシと周りに集っていた不良たちを潰した。着地してから一気に踏み込んで前に行く。
怯んでいる不良たちをやはりバシバシ倒して、一気に勢いを増していった。
数分後には、以外誰も立っているものがいなくなる。
ため息をつくと、は人の海の上をのろのろ歩いて最初いた地点に戻った。
そこらに鉄パイプを転がすと、恭弥がスタスタやってきて学ランを投げてくる。
ばさりと広がった学ランを受け取ると、は恭弥と同じく肩に羽織った。
「で?」
「さあ。合格なんじゃない。やる気のなさが目に余るけど」
「しらねぇよそんなの。ガキ相手に本気出せるかっつーの」
にやりと笑いながら言ってくる恭弥に、は素直に顔をしかめる。
後ろにいる不良たちは呆然としていたりおろおろしていたり。
知っているもの以外は驚いているようだ。
「それにしたって手を抜きすぎじゃないか?気絶してないのだって居る」
「自分でお家に帰れるならそれでいいんじゃねぇの。どこまでやれって司令は出てねーし」
「前に見たときは恐ろしいサドっぷりでバンバン人撃ってた気がするけど」
「幻覚でも見たんじゃね」
適当に返して、はぱんぱん手を払う。
それでどうする?と恭弥が後ろに振り返ると、意義ありません!との声が工場内に響いた。
そう、と頷いた恭弥が、の方へ体を向けて――目を細める。
はくるりと振り返ると――いつの間にやら手に持っていた銃でパァンと撃った。真後ろまで迫っていた不良を。
拳銃を持っているを見て、また風紀委員たちが驚いたり慄いたり。恭弥はと委員たち両方を見てくすりと笑った。
横目で恭弥を見てため息をついたは、パァンパァンと銃を撃つ。
箱の後ろとドラム缶の横。悲鳴を上げて不良が転がり出てきた。
「気付いててやらなかったわけだ?」
「やる気のないやつ潰してどうかなる?」
肩に拳銃を持った手をのせて、は顔を横に向けるだけで返事を返す。
ぶんと銃を一振りしてしまいこむを、恭弥は楽しそうに見ていた。
「学校で発砲するのは控えて欲しいかな」
「必要なければ撃たないっつーの――後ろの暇人たちに、今すぐこいつら片付けさせろ。そのまますぐ帰れ」
呆れ顔して答えてすぐ、は廃工場の奥を睨みつける。
ちらりと同じ方向を見た恭弥は、口の端をあげるとひょいと手を振った。
風紀委員たちがやはりテキパキ不良たちを運び出す。
「これで場所取りはオーケー?」
「上出来」
「じゃあ待ってるよ」
「帰れっつーに」
不良たちとすれ違いつつ歩き出そうとしたは、恭弥の一言を聞いて顔をしかめながら立ち止まる。
恭弥は飄々とした顔で腕を組んでおり、別にいいだろ、と返してきた。
「こっちまできたなら咬み殺しておくさ」
「・・・はぁ。はいはいわかりましたよ。離れてろ」
「今日はバーミヤンね」
「金もってねーよ」
「CD買わなきゃいけるだろ?――わかったよ。一旦帰ってからバーミヤン」
「結局おごりか」
「手伝ったんだからそれくらい当たり前だろ」
「へいへい・・・馬鹿の子になに言っても無駄だった」
ため息をついて脱力すると、はまた恭弥に学ランを投げてスタスタ歩いていく。
半分以上崩れかけた壁からが出て行くと、恭弥は笑みを浮かべてひらひら不良たちに手を振った。
「見ておきなよ。あいつの実力はあんなものじゃないから」
楽しそうに笑って奥に進んで行く。
不良たちは、それぞれ顔を合わせたり首を傾げたりしてから恭弥の後に続いて歩いた。
知っている面々は、おそるおそる。
は懲りずに現れた男達と喧嘩中。
殴り飛ばして蹴り飛ばし、腕を掴まれてもジャンプして捻り上げ、そのまま他の男に回し蹴りしたり。ついでに腕を掴んでいる男の両腕を脱臼させたり。
最後の方はめんどうになって銃も使いつつ潰していけば、物の数分でやはり片付いた。
「はー・・・ダリ・・・」
「どこまでやる気が無いんだろうねは」
「・・・つーかお前近すぎだし。なんで全員見てんだよ」
「気にしなくていいよ。さっさと行こう」
呆然としている不良たちを無視して、恭弥はさっさと歩き出す。
へいへいと返事を返して、も歩き出した。ばさりと前から学ランが飛んでくる。
途中CDを買って家に帰れば、今日は読書をしていたミツコさん。
バーミヤン行くと恭弥が言えば、了解したわよーとの生返事が返ってきた。
「あぁそれと恭弥君、アレ用意しておいたから」
「あぁ・・・ありがと」
「アレ?」
「ほら。さっさといくよ。お腹すいた」
首をかしげても流されて引っ張られる。
なんなんだっつーの、と問いかけても、その内分かるよとやはり流されて結局バーミヤンで夕食を取った。
帰って早速CDを聞く。
あぁ〜いいなーなどとソファにごろごろしながらが煙草を吸っている向こう側(半円ソファ)では、恭弥が勝手にテレビをつけてみている。
ミツコさんは本を読み終えると今度CD貸してね〜と言いながら帰っていった。
ぼーっとしながらCD(大量買いした)を聞いていると、いつの間にやら眠っていたらしい。
あーららとぼやいてから周りを見れば、誰もいない。時刻は11時。
風呂に入って寝室に入ると――何故だか、恭弥が寝ていた。
「・・・おーい」
「ん・・・なに。寝るの?」
「ああ。ていうかなんで寝てんの。しかも俺のジャージ着てるし」
「眠いから。お風呂入ったから」
返ってきた返事を聞いて、はえぇー・・・とぼやく。
広いんだから気にしなくていいんじゃない、と欠伸しつつ答えた恭弥は、うとうとしている。
「家帰って寝れよってーか着替えどうしたんだよ」
「ミツコさんが用意してくれた。下着だけ」
「・・・うわーアレってこのことですか」
「もーいいから寝るなら寝たら?寝ないなら出てけ」
「家主は俺だっつーにこのガキ・・・」
顔を引きつらせてから、はため息をついて頭を落とす。
もういいよ・・・とつぶやいて寝転がると、あそう、との返事が無駄に横から返ってきた。
ため息をついて、は恭弥を見る。
横向きに転がっていた恭弥は、うっすら目を開けてを見ると笑みを浮かべてまた眠りに入った。
はやれやれと笑みを浮かべると、恭弥に布団をかけて自分にも適当にかける。
広いベッドだからかなり離れていても落ちない。
タオルケットが二枚あったのは恐らくミツコさんの仕業だろう。
ふあぁと欠伸してころんと寝転がると、そのまま眠りに入った。
次の日の朝は普通の時間に恭弥に起こされて――ここにホントに住もうかな、と言い出す恭弥を止めるのにちょっぴり苦労した。(毎度来るたび同じ会話をしていることにミツコさんしか気付いてないミステリー)
じわじわ“君”が染み付いてくる。(不快なはずなのに、不快じゃない。なんでか嬉しいんだ)
起こしに来てベッドの機能性のよさを堪能した恭弥君が「泊まった方が早いけど荷物持ってくるのめんどうだな」と言うので「じゃあ下着だけ用意してあげるわよ寝巻きとワイシャツはのがあるし」とかいう即ケツで出来上がった居候セット。ちなみに歯ブラシと専用マグカップ(黒)も完備。
(有能ハウスキーパー談)