青い空。
白い雲。
大きな魔方陣。
「・・・なぁ、ホントにやんの?」
「俺はやるといったらやるぞ」
思い切り眉根を寄せ、恐る恐る問いかけるツナに、なぜか真っ黒なローブを頭から被ったリボーンがニヒルな笑みを浮かべて答える。
「だからってなんで公園ーーー!!?」
ツナは両手を頭に当てて思い切り叫んだ。
場所以前に色々とつっこみどころがあるのだが、生憎混乱気味のツナにはつっこみきれず。
「ていうかなんでこんな怪しい儀式みたいなことやる展開になってんだよ!?」
魔方陣の外で、ツナがばっと両手を広げて叫ぶ。
公園に集まっているのは、ツナ、獄寺、山本、そしてリボーンの四人だ。
獄寺はなぜだか長細い棒を持ち、そわそわした様子で魔方陣を眺めている。
いや、うきうきだ。
目がキラキラ輝いているのに気付いて、ツナはひくりと顔を引きつらせた。
「うるせーぞツナ。呼び出さなきゃならねーんだ。9代目からの命令だぞ」
「ていうか異世界ってなんだよ!?まずそこから信じらんないって!」
「今日は魔法使いごっこか。力入ってんなー」
「(山本節でたーー!!)」
懸命にツナが声をあげるがしかし、呑気な山本の一声ですぐさま崩された。
がくりとツナが脱力する横では、獄寺が無言で魔方陣を見つめる。
普段ならば山本につっかかるなりツナにフォローにならないフォローを入れるなりから回りする獄寺だが、今回だけは黙り込んでいた。そわそわうきうきしながら。
「リボーンさん・・・あの話し、本当なんですか」
「ああ。本当だぞ」
「あの話し?」
おもむろに声を上げた獄寺に、リボーンがさらりと答える。
ツナが首を傾げるが、リボーンはまぁ見てろってと言い、長い棒を受け取った。
「アブトル・ダムラル・オムニス・ノムニ」
「ってそれ三つ目がとおるだろーー!?」
「黙ってろ。・・・ほらみろ。お前の所為で忘れちまったじゃねーか」
「俺の所為かよ!!」
チッと舌打ちするリボーンにツナが大声で叫ぶ。
まぁいい、と一言言うと、リボーンは棒をブンと振り上げた。
「来たれシェンロ」
「それもパクりだからーーー!!いい加減怒られるぞオイ!!」
「チッ。少しは黙っとけツナ。雰囲気だ雰囲気。さあ、そろそろだぞ――来い!異界の民よ!」
空高く棒が振り上げられ(リボーンは赤ん坊なので所詮ツナの肩辺りまでしか届かなかったが)、全員が息を呑む。
しんと静まり返って数秒。
何も起きない。
「(失敗してるしーーー!!)」
微妙に恥ずかしい。
人が誰もいないのが唯一の救いだ。
ツナがもうやめようと声をかけようとしたところで、カッと地面が――魔方陣が光った。
「うわっ!!」
「十代目!!」
ぼんと音を立てて魔方陣から煙が上がる。
自分の身よりなにより十代目、な獄寺がツナの前に立ったが、回りは煙につつまれてなにも見えない。
物音もしない。
ごほごほみんなで咽ていると思うと、煙も少しずつ消えていった。
「へ・・・?おん・・・なのひと?」
「え、男じゃないんスか?」
「女だろ?綺麗だなー・・・」
魔方陣の真ん中に、黒髪の人が一人。寝転がっている。
短い髪で一瞬、性別がわからないが、目を閉じている顔はよく見れば女そのものだし体も丸みをおびている。
おそるおそる全員で距離を縮めていき、ツナがそっと身をかがめた。
「あのー・・・?てかリボーン、この人が異世界・・・とかから来たってのか?俺達と全然変わった様子ないんだけど」
「間違いなくそいつだぞ」
「だ、大丈夫ッスかー?もしもーし?」
ツナがリボーンに問いかける横で、山本がぐらぐら肩を揺らして声をかける。
う・・・とうめき声が聞こえたかと思うと――寝転がっていた人が、眉根を寄せてからゆっくり目を開いた。
「あの・・・大丈夫ですか?」
「・・・ぁ?」
ツナが声をかけると、ぼんやりとした目で見返してくる。
頭を抑えながらその人が起き上がると、みんなが少しだけ下がった。
起き上がった女性は、ぽかんとしながら地面の砂を触って、それから周りを見回す。
「・・・なんだここ・・・?」
「待ってたぞ異界の民。お前にはこれからボンゴレファミリーに入ってもらう」
「はぁ?」
「ちょ、ちょっとリボーン!」
スタスタやってきてとんでもないことを言い出すリボーンに、女性が思い切り顔をしかめる。
ツナは慌てて声をあげ、ぶんぶん手を振った。
「何変なこと言ってるんだよ!ていうか、何処からこの人連れてきたんだ!困ってるじゃないか!」
「当たり前だ異世界から来たんだから。おいお前、ボンゴレに入れ。ボンゴレに入れば生活の負担は全てこちらで持つぞ。金にも不自由はさせない。まぁ拒否権もねーけどな」
「・・・は?・・・赤ん坊?」
「あーーー!!」
にやりと笑うリボーンを見て、女性が思い切り顔を歪める。
ツナは真っ青になって叫んだ。瞬間銃で打たれたのだが。
黙ってろ、と銃片手に(いつの間にやらいつものスーツに戻っていた)言われて、ツナはやはり青くなりながら固まった。
「・・・わいい・・・」
「へ?」
「いや。・・・つーか、ここ・・・あー・・・えーと、どこか、教えてもらえるか?」
ぼそりと女性がなにやらつぶやいたがツナには聞こえず、大層困った顔で問いかけられた。
とりあえず並盛町の公園だということを伝えたのだが――通じず。
「ここはお前のいた世界じゃない」
「何言ってるんだよ!わけわかんないだろそんなこと言ったって!あ、あーと、すみませんホント。こいついつもこうで」
「だから黙っとけツナ。こちらの世界のことは、お前の世界でもなんらかの形で現されていたはずだぞ」
「はぁ?ていうかなんで赤ん坊が喋ってるんだ?」
「俺はリボーンだ」
「リボー・・・ン・・・」
リボーンが名乗ると共に、女性が目を丸くして言葉を亡くす。
え?とツナや山本が首をかしげると、女性はまた周りを見回した。
「リボーンて・・・あの・・・?も、もしかして・・・ツナ?」
「あ、は、はい」
「えーと・・・獄寺?」
「・・・は、はい」
「あー・・・や・・・やまー・・・した・・・じゃなくて、山本?」
「あー、はぁ・・・」
次々名前を当てられていって、ツナたちはそれぞれ驚きながらも返事を返す。
え、本当に本人?と問いかけられて、全員頷いた。
女性はまた呆然とする。
「なんだよそれ・・・どういうことだ?」
「お前は選ばれたんだ。この世界に。だからもう帰れない」
「は・・・?なんだそれ?」
「リ、リボーン!?」
リボーンの言葉に、女性どころかツナたちまで驚く。
女性は顔を引きつらせながらリボーンに顔を向けた。
「おいおいふざけんなよ今すぐ帰せ」
「無理だ」
「リボーン!な、なんだかよくわかんないけど・・・そりゃないだろ!?この人だって困ってるじゃないか!」
「それが無理なんです!どうか俺から説明させてください!」
「ごごご獄寺クン!?」
リボーンの言葉を聞いて微妙にいきり立つ女性に何故だか土下座して、獄寺が声を上げる。
思い切り驚いたツナだが、リボーンがいいぞと答えると、獄寺はありがとうございます!と頭を上げて正座した。
「あの、あなたは選ばれたんです!」
「だから、その選ばれただのがまずわけわかんねっつーの」
「はいっ、恐らくそうだと思います!実際俺もそんなことになったら混乱すると思うし・・・と、とにかく!あなたは、選ばれるべくして選ばれた大切な方なんです!」
「はあ?」
ぴしっと背筋を伸ばして(はんば混乱しながら)言う獄寺に、女性がまた思い切り顔をしかめる。
もちろんツナも。山本は首をかしげている。
しかしそんな周りも気にせず、獄寺はバンと両手を前についてさらに熱を入れて語りだした。
「昔から、マフィアの間で伝説とされていた話しがあるんです。異界の民は栄光へと導く力があると!民を手に入れたマフィアは必ず繁栄すると!」
「・・・は?」
「200年前に現れた異界の民は、ボンゴレファミリーに入ったといわれています!何年も前から、ずっと噂になってたんです貴方のことが!後何年後に現れるって。それが今年!とうとう・・・とうとう会えた・・・・・・!!」
感動です!!と涙を流す勢いで、獄寺がキラキラ目を輝かせ女性を見つめる。
女性は顔をしかめながら獄寺を見ていたが、その内ぽかんとしているツナたちに顔を向けた。
「・・・この子大丈夫?」
「(はっきり言っちゃったーーー!!)」
「君つっこみ聞こえてるから」
「ぇぇぇえええメチャクチャばれてるーーーー!!?」
しらけた顔で指差されて、ツナはオーバーリアクション。
ため息をついてから、女性はがしがし頭をかく。かなり男勝りだ。
「つーか普通に信じられるかよ・・・なあ、リボーンとかいうの。とっとと帰せ」
「だから無理だ」
「なんでだよ」
「帰し方が分からん」
「オイ・・・ふざけんじゃねぇぞ」
「ふざけてねーぞ」
眉を引きつらせて低い声でうなる女性に、リボーンがさらっと返す。
ひくりと頬まで引きつらせた女性は、バッと手を伸ばしてリボーンの胸倉を掴み、持ち上げた。
その手の早さについていけず、ツナたちは驚いて女性を見る。
「(この人リボーンを掴み上げた?!)」
「ふざけんなクソチビ。なにがわかんねぇだよ!こちとら自分の生活があんださっさと帰しやがれ!!」
「無理なものは、無理だ」
「ァア!?」
「ああああの!お、落ち着いて!」
「落ち着いてられっか!!」
リボーンに思い切り怒鳴り散らす女性にツナがおろおろしながら声をかけるが、逆に怒鳴り返されてしまう。
ひぃ!と声を上げて体を引くと、リボーンがはぁとため息をついた。
「・・・悪いが、それだけはできねぇ」
「なんでだ!」
「そういう決まりだ。お前にはボンゴレに入ってもらう。入れば最初に言った通り、不自由はさせねぇ」
「ざけんな誰が乗るかよッ」
舌打ちする勢いで言うと、女性はリボーンをツナに投げてくる。
慌ててツナが受け止め、その内に女性はさっさと立ち上がり、パンパン砂を払うとスタスタ歩き始めた。
それまでおろおろしていた獄寺が、オイ!と声を上げてダイナマイトを取り出す。
「いくらなんでも・・・許せねぇ!リボーンさんになんてこと――」
「るせぇガキッ。こちとらわけわかんねぇ上変なのに巻き込まれるわ帰れないわで踏んだり蹴ったりだ!お前責任取れるのか!!」
ぎろりと睨まれ怒鳴られて、獄寺も止まってしまう。
ツナからひょいと降りたリボーンが、カチリと銃を構えて女性に向けた。
「だからこちらで面倒みるっつってんだ」
「なんでテメーが偉そうなんだよ」
「元々こうだ気にすんな。お前に拒否権はない。ボンゴレに入れ」
「断る」
ズガン!!と銃の音があたりに響く。
弾道は女性の頬のすぐ横。ギリギリ。ビッと薄い線が女性の頬に入る。
女性は目を細めて頬を見ると、舌打ちして親指で血を拭った。
「・・・本物かよ」
「物分りのいいヤツは好きだぞ。来い。準備は整ってる」
「リボーン!!」
「お前らはもう帰って良いぞ。来い」
ツナが叫ぶが、リボーンは無視してすたすた歩き出す。
また舌打ちした女性は、かなり嫌そうにリボーンの後をついて歩き出した。
のだが、見てみればはだしだ。ハーフパンツにTシャツとかなりの軽装。
気付いたツナは慌ててあの!と声をかけ、自分の履いていたサンダルをぬいだ。
「こ、これ、使ってください。はだしだと危ないし・・・」
「・・・」
「あ、お、俺、家すぐ近くなんで!えーと・・・」
声をかけたものの、無言で見てくる女性からツナはおろおろ目を泳がせてしまう。
冷めた目が怖い。
俯いていたツナは、ため息と足音が聞こえてぱっと顔を上げた。
「あ、あの!」
声をかけても、女性は無視して進んで行く。
公園の出口で女性を待っていたリボーンは、女性が近くまで来るとまた歩き出し、呆然としているツナたちを無視してさっさと行ってしまった。
「な・・・なんだよあいつ!十代目無視しやがって!!」
「・・・あの人、本当に別の世界から来たのかな・・・」
珍しく、山本が天然を炸裂させずに真面目に言う。
ツナは無言で二人の消えた後を見ていたが、ため息をついて、二人に帰ろうか、と声をかけた。
冷たい表情に絶望を見せていたあの人。俺は名前も聞けなかった。(そして誰も魔方陣をつっこまないミステリー。つっこみ一人って、ホントつらいんだけど)