日本に来てからの俺は、中々に充実した日々を送っていた。(※本人比)
それまでずっと一人だったけど、今は一人じゃない。
攻撃をしかけたにも関わらず命を助け、さらに友達になろうといってくれたツナ。
本当に驚いた。
本当に、嬉しかった。
ツナのお陰で、俺は亡くしかけていた俺を(少しだけ)取り戻せた気がする。
初めて友達を持った俺は、母親がいなくなってから格段に減った笑顔をよく見せるようになった。
だって生まれた場所が場所だったんだ。
無駄にでかい城。父親もその知り合いも全員マフィア。
毒物を作る姉。
ダイナマイトを教えてくれた医者は、女好きのスケコマシの飲んだくれ。
・・・母は暗殺された。
そして俺は、いちゃならない愛人の子供。
とんでもない環境にいた俺は、前世の記憶もあった所為で(どうしても比べてしまう)随分と消極的な性格になっていた。
信じられる人なんて誰もいなかったんだ。
無条件で手を差し伸べてくれる人もいなかった。
同じ年頃の子供なんて、あの姉くらいしかいない。
周りはマフィアだらけ。外に出ても、それ関係の人間が嫌でも目に付くし気付くと巻き込まれる。(※あくまで本人視点)
だから、ツナに会うまでの俺はずっと一人だった。
一人の方が楽だったから。
でも、今は、昔のように友達と学生をやっていられることが、とても楽しい。
「なんだよ獄寺。また花火持ってんのか?お前花火好きなのなー!」
「ん?花火は好きだけど・・・どこでやってる?」
「(食い違ってる!物凄く食い違ってる!)」
最近ファミリーに自ら入った山本も、ツナと俺と三人でつるむようになった。
豪快で天然だけど、いいやつだ。
前に寿司くれたし。
「獄寺君!これ食べてくれない?調理自習でおにぎり作ったんだー」
「私のも食べてー!」
「私のも!」
「私も!結構自身あるんだ!」
「全部食べれない」
「じゃあ残り俺が食ってやるよ!」
「お前一口だけ食べればいいじゃん!全部食えるぜ!」
「んー・・・。うん」
『(よっしゃ!)』
「餌付けされてるーーー!!」
クラスのやつらも結構いいやつらばかりで(ツナを貶すやつらはむかつくけど)、毎日楽しい。
時折ツナがパンツ一丁(死ぬ気)になるけど、刺激もあって平和でもあって、丁度いいんじゃないかな。
考えるのめんどいし。
7月に入って大分熱くなってきたころ、いつも通る道にある八百屋のおじさんが、スイカを食べさせてくれた。
結構甘い。
ツナが喜ぶかなと思って、一個買ってツナの家にいってみた。
「・・・・・・ごめんください」
「もっと大声で言ってよ!」
「ツナ。スイカ」
「めんどいんだね・・・!(シカトかよ・・・!)」
丁度いたから助かった。
ずいとスイカを出せば、ありがとうとなんだか泣きそうになりながらツナが受け取ってくれる。
甘いから、と言えば、そうなんだ、と返された。
微妙な沈黙が流れる。
「えと・・・一緒に食べてくっていえたらよかったんだけど、今ちょっと取り込んでて・・・」
「何?」
「えーと・・・」
問いかければ、ツナは物凄く言いづらそうに目を泳がせる。
これはまた機会を見て遊びにこようかなと考えていると、廊下の奥から、良く知った顔が現れた。
「隼人・・・!」
「・・・!!」
ここ何年か会ってない姉だった。



「ごめんツナ」
「隼人!待って!!」
目を真ん丸くして驚いた獄寺が飛び出すのと同時に、ビアンキが血相を変えて走ってくる。
無常にもばたんと扉が閉じると、ビアンキは珍しく、息消失したように黙り込んだ。
「え、え?知り合い?」
「獄寺とビアンキは兄弟なんだぞ。腹違いのな」
「兄弟!?」
リボーンの言葉に驚くが、それよりも二人のなんともいえない空気が気になる。
ビアンキは扉の前から動かないしで、ツナはおろおろとリボーンとビアンキを交互に見た。
「・・・いつもああなの」
「ビアンキ・・・」
「自業自得だけどね・・・」
自嘲するビアンキを見て、ツナは眉根を寄せる。
一体なにがあったの?とついつい問いかけてしまったツナは、はっとすると手を振って言いたくないならいいけど!と付け加えた。
ふっと息をついたビアンキが、ツナの元まで戻ってきて玄関先に座る。
「小さな頃からあの子、笑わない子だったの。・・・だから私、元気付けたくて」
「・・・えぇと、お菓子作ってあげたとか?」
「いいえ。その時はまだ。初めて作ったのはあの子が6歳のとき。城のパーティで、初めてみんなの前でピアノ演奏をすることになったときよ」
「城!?(この二人実は金持ち!?)」
色々とつっこみどころがあるが、とりあえずツナは一番気になる部分に驚いておく。
暗い表情のビアンキに、それでとリボーンが声をかけた。
「それが原因じゃねーんだろ」
「・・・ええ」
「え・・・?ポイズンクッキングが原因じゃないの?」
「違うわ。私にも父にも、ポイズンクッキングを隼人に食べさせてるという自覚はなかったの。初めて作ったクッキーで隼人は気付いたみたいだけど・・・」
眉根を寄せて目を細めるビアンキ。
ツナはばつの悪さに目を泳がせる。
「さっき言ったピアノ演奏のとき、ポイズンクッキングにやられた隼人は体調を崩していたんだけど、その時のイカレた演奏が高く評価されて父が発表会を増やし、その度隼人にクッキーを食べさせたの」
「そ、そんなに・・・」
それじゃあの反応はトラウマじゃあ、とツナは顔を引きつらせる。
見ただけで吐き気をもよおしそうだ。
「でもあの子はそれを決して拒否しなかったわ」
ぎゅっと、これまでで一番ビアンキが眉根を寄せる。
あのポイズンクッキングを拒否しなかったと聞いて、ツナは心底驚いた。(同時に尊敬の念まで生まれた)
「あの子は分かっていて、私や父が喜んでくれるならって、文句も言わずに食べてくれていたの。ありがとうって」
うるりと、ビアンキの目に涙が溜まる。
ツナはおろおろしてしまったが、リボーンは静かにビアンキを見つめた。
「あの子がああなってしまったのは、私の所為なの」
ぐすっとまた鼻をすすりながら、ビアンキは腕で目をこする。
震えるビアンキの声に、つられてツナも眉を下げた。
「あなたはたった一人の弟で、私はたった一人、あなたの姉よって、母親を亡くしたばかりのあの子に言ったの。それから、暇を見つけてはあの子と一緒にいたわ」
「隼人のお母さん・・・そんなに早くに」
「ええ。隼人が随分と小さな頃に。塞ぎがちだったあの子も、少しずつ笑顔を取り戻してくれた。けど・・・」
言葉をとめてうつむくと、ビアンキはまた鼻をすすってごしっと顔をこする。
ツナはしゃがみこんでビアンキを見た。
いつの間にやら、リボーンがビアンキの隣にいる。
「・・・ピアノの発表会の何度目かに、私も父もようやく隼人に食べさせているクッキーがポイズンクッキングだと気付いたの」
「(おせーーー!!)」
獄寺が哀れに感じられる。
つい顔だけでつっこんだツナは、ぐすっと鼻をすすった音で我に返った。
「それでも父は発表会を開くといった。私も、隼人が文句一つ言わないのに甘えて、いつも通りクッキーを作ったの。でもそれが間違いだった・・・!」
ぐっと両手を握り締めて、ビアンキは首を振る。
悲痛な声に、ツナもぎゅっと眉根を寄せた。
「ポイズンクッキングだと知っていて、あの子にクッキーを食べさせた。それにあの子も気付いた。・・・隼人は、私たちに裏切られたと思ったみたい」
「・・・」
「最初から自分を生かす気なんてなかったんだなって、利用するだけ利用してじわじわ殺していくつもりだったんだって――あの子に言われたときに、ようやくなにをしていたか理解したの」
震えながらズボンをつかんで、ビアンキは今にも涙をこぼしそうな目で語る。
ツナまで、つられて涙が浮かんできた。
ビアンキの目からぽろりと涙が落ちる。
「母親を失って、愛人の子である所為でたった一人だったあの子を、寂しがっていたあの子の心につけこんで利用し、追い詰めただけだった」
想像してみて、ツナはぎゅっと手を握る。
目の前がぼやきかけて慌ててふいた。
ビアンキが、ゆっくりと顔を上げる。
「嘘つき、って言われたわ。それから隼人は部屋にこもって、まったく会ってくれなくなった。・・・偶然会えたとしても、今みたいに逃げられて、追いかけても拒絶されて。・・・最後に会ったのは、あの子が城を飛び出した日よ」
「家出したってこと?」
「そうね・・・10歳くらいの頃。あの頃すでに生気のまったくない顔で・・・そのまま自殺するんじゃないかって、気が気じゃなかった」
またゆっくり顔を下げたビアンキは、ぎゅっと眉根を寄せて涙を落とす。
ぐすっと鼻をすするビアンキに、リボーンがハンカチを差し出した。
受け取ったビアンキはハンカチに顔をうずめて、ぐすぐすと鼻をすする。
「父の部下たちが捜索していて、あの子の口座からお金を下ろした形跡もあったから・・・まだ・・・」
「・・・まぁ、10歳の子供じゃあね(なによりすごく心配になるアレは)」
「いくら嫌われても、あの子は私の大事な弟なの。傷つけるつもりなんて、なかった・・・!」
とうとう嗚咽をこぼしながら、ビアンキは本格的に泣き始める。
どうしたものかとツナはリボーンを見た。
リボーンは、宥めるようにビアンキの足をポスポス叩いている。普通背中だが手が短い。
ため息をついたリボーンが、今度は口を開いた。
「だったらとっととケリつけるぞ」
「は?ケリつけるって・・・」
「獄寺はこの町からでねぇんだ。ツナがいる限りな」
矛先が自分に向いて、ツナはえ?俺?と首をかしげる。
呆れたようにため息をついたリボーンは、ぺしっとビアンキを叩いた。
鼻をすすりながら、ビアンキが顔を上げる。
「獄寺にとって、ツナは一番の居場所なんだぞ。あいつはツナと会ってからよく笑うようになった」
「隼人が・・・」
リボーンの言葉に、ビアンキが目を見開く。
そこまで酷かったのかと眉根を寄せたが、確かに初めて会ったときは、まったくの無表情だった。
「逃げれたとしても町内だ。探すぞ。ダメもとでも話しつけてこい。兄弟っつーんならなおさらだ。絆が深ければ深いほど、亀裂が入れば大きくなる。・・・本当に大事なもんなら、逃げてんじゃねーぞ」
「(か、かっこいー)」
くいと帽子をつかんで言い切るリボーン。
ツナはついつい感動してしまう。顔は引きつったが。
こくりと頷いたビアンキは、ごしごしハンカチで顔をぬぐうと立ち上がった。
「ツナ、おめーも行ってこい」
「う、うん」
元より探す気だったツナは、素直に立ち上がって家を出る。
ビアンキとは逆の方向に走って、手当たり次第に周ることにした。
というか、獄寺は目を離すのも心配だ。
一人暮らしだと聞いたときは本当に大丈夫かと心底心配した。山本も物凄く心配していた。
「静かなところにいそうだな・・・」
ぽつりとつぶやいて、目に入った神社に向かってみる。
たかたか走って林の中を突き進めば、大きな杉の木の下に、獄寺がぼんやりうつむきながら座っていた。
「隼人!」
「・・・ツナ・・・」
こじんまりと縮こまっている獄寺が、ツナの声に反応して顔を上げる。
真っ青だ。
大丈夫?と声をかけると、獄寺はこくりと頷いた。
「あの・・・ビアンキとの話し、聞いたよ」
「・・・」
「・・・あの、さ・・・」
ここまで来ておいて、言葉が浮かばない。
何を言おうかと目を泳がせていたツナは、はぁ、というため息を聞いて獄寺を見た。
「どうでもいい」
「いいって・・・」
「知らない」
「知らないって・・・!話だけでも聞いてあげたら?ビアンキ、君の事物凄く心配していたよ」
「・・・知らない」
「隼人・・・!!」
ふいと顔を逸らした獄寺が、かかった声にびくりと反応する。
息を切らせたビアンキが、杉に手をついて立っていた。
ぐっと眉根を寄せた獄寺が、立ち上がって逃げようとする。
隼人!!とまた叫ぶビアンキを見て、何故だかふらふら逃げている獄寺を見て、ツナは獄寺の腕をつかんだ。
「ツナ・・・!?」
「お願いだから!ちょっとだけでいいから!ね!」
物凄く嫌そうだが、もうビアンキはそこまできている。
ツナがつかんでいないほうの腕をつかむと、ビアンキははあーと息をついてしゃがみこんだ。
獄寺は懸命に顔を逸らしている。
「隼人・・・ごめんなさい」
「っどっかいけ!」
にべもなく切り捨てる獄寺に、ビアンキがまた泣きそうな顔をする。
ツナはぐっと手に力をこめた。
獄寺が困惑したような、泣きそうな顔でツナを見る。
きゅ〜んと子犬の鳴き声までプラスアルファで聞こえた気がして、ツナはぶんと首を振った。
「隼人、私も父もあなたを殺す気なんてなかったの。本当よ」
「どうでもいい」
「あなたが傷ついたのも分かってる。私たちの顔も見たくないと思われてもしょうがないとも!でも・・・!私は、あなたの姉でいたいの!あの時言った言葉は嘘じゃない!」
ビアンキの必死の叫びに、獄寺は眉根を寄せたまま無言になる。
それでも顔を逸らしたままだ。
肩で息をしながら、ビアンキは目を潤ませて声を上げた。
「あなたは大事な弟よ・・・!!」
「ぐはっ・・・!!」
「は、隼人!?」
ぐいと無理やり引っ張ったビアンキが、ぎゅっと獄寺にしがみつく。
途端に、真っ青だった獄寺がさらに顔をゆがめてうめいた。
尋常じゃないその様子に、ツナは慌ててしまう。
ビアンキは獄寺が何も言わず、抵抗もしない所為か、隼人・・・!と感極まりながらぎゅうぅぅぅと抱き潰している。
ちょっとやばいってなんかやばいよ!とツナが必死に叫んでも聞き入れない。
どーしよー!!と頭を抱えていると、のんびりリボーンが現れた。
「どうやら、獄寺のほうは本当にトラウマになってるよーだな。ビアンキの姿を見ただけで腹痛に襲われるようだぞ」
だから懸命に逃げようとしてたんだーー!!?って!隼人!!」
気付けば気絶している獄寺。
ビアンキをなんとかはいで、ツナは家に連れて帰った。
うなされながらも、獄寺は時折クッキーいらない・・・とつぶやいている。
物凄く獄寺が不憫に見えて、ツナはつきっきりで看病していた。時折ウザイランボを部屋から追い出しながら。
「うっ・・・」
「隼人、気がついた?」
「ツナ・・・」
「ビアンキはいないから。大丈夫だよ」
朦朧としながらツナを見る獄寺。
ツナの言葉を聞いて、獄寺は心底安心したようにため息をついた。
「・・・ビアンキのこと、トラウマになってたんだね・・・」
「見ただけで、腹痛が・・・うっ!」
思い出しただけで腹痛だーー!!
ぎゅるるるる、となる腹を押さえる獄寺に、ツナはあわあわ騒いでしまう。
そこに普通に入ってきたのはリボーンだ。
「ビアンキなら今、浜名湖に行ったぞ」
「は!?なんで!?」
「うなぎ食いてえって俺が言ったからだ」
「(なんで・・・!!)」
わけのわからなさに頭を抱えてしまう。
にやっと笑ったりボーンは、ひょいとベッドに飛び乗った。
獄寺は目を閉じて、はぁーとため息をついている。
「さっきのはビアンキの本心だぞ」
「・・・」
「嘘なんてついてねぇ。悪気がないことを知ってたから、お前も文句言わずにポイズンクッキング食ってたんだろ」
「え・・・?」
リボーンの言葉を聞いて、先ほどの話も関連していたのかとツナは目を見開く。
獄寺はぼーっと天井を見ていたが、くるりと寝返りを打ってリボーンから体ごとそらした。
「わかったらちったー優しくしてやれ。あいつは俺に会う前から、ずっとお前のことを心配してたぞ」
「リボーン・・・お前知ってて・・・」
くぴー
「って寝たーーー!!!」
物凄く曖昧なままで流された。
はぁーとため息をついて、ツナは膝立ちする。
覗き込めば、獄寺はすねた顔で壁を睨んでいた。
思わずくすりと笑ってしまう。
獄寺が、視線だけでツナを捕らえた。
「まぁ、腹痛っていう問題が残ってるけどさ、仲直りできてよかったね」
「・・・。ツナだけいればいい」
「・・・恥ずかしいこというなよ・・・」
無駄に赤面してしまう。
いいもん、とまだすねたように言う獄寺を、ツナは苦笑いしながら撫でた。
可愛いなこいつ、と内心思っていたことは、秘密だ。










(あら隼人)(うがっ・・・!)(ちょっ・・・!隼人ーー!?)(隼人ったら・・・仲直りした途端に姉を意識し出すなんて)(絶対ちげーよ!!)