※話の都合上、名前変換はありません
ふと気付いたとき、俺は獄寺隼人だった。
あれ?いつの間に?とか考えてても、やっぱり今の俺は隼人と母親らしき美人から呼ばれてるわけで。
今までの(隼人としての)記憶もあるわけで。
あれー?と、首を傾げる俺を、のほほーんと同じく首をかしげた母だけが、「隼人?」と不思議そうに見ていた。
後から気付いたが、世に言う転生というやつなんだろう。
それから俺は数奇な運命をめぐり、マフィアとしての人生をたどっていくことになる。
塞翁が馬
沢田綱吉(以下ツナ)は、自他共に認めるダメなやつだった。
それはもう、母親にまで(いや母親だからこそ)言われてしまうほどに。
それは彼に赤ん坊の家庭教師が現れ、これまでの人生が少しずつ変わり始めてからも、あまり代わりのない彼の個性(?)だった。
そんなダメライフを送っていたツナは今、物凄くぼーっとした転入生を眺めていた。
灰色の髪に、灰色の目。
顔は日系人のそれなので、恐らくハーフなのだろう。
ただ物凄くやる気が感じられない。
「イタリアに留学していた、転入生の獄寺隼人くんだ」
イタリアっていうとリボーンのふるさとと一緒か・・・と呑気に考えている間にも、クラスの女子たちが頬を染めてひそひそ話し出す。
やる気のなさそうな無表情がかなり魅力を落としているものの、見るからに美少年だ。
ちらりと気になっている京子を見れば、こころなしかニコニコ眺めていて一気にショックを受けた。
「(ちっくしょー感じわりーなーあの転入生)」
むっとしながら転入生を見れば、転入生もツナをじぃーっと見つめてくる。
なにか気に障ったのかと、チキンハートのツナは少しビビッた。
「獄寺君の席はあそこの・・・・・・獄寺君?」
先生が説明をしている途中で、彼がツナに向かってのんびり歩いてくる。
なんなのかと不安そのままに見上げれば、やる気のない獄寺が、ツナをじーっと見下ろした。
無言で。
「あ、あの・・・?」
「・・・はぁ」
「(た、ため息つかれた・・・)」
人の顔見て・・・と、ため息をつかれただけだが微妙に凹む。
一体何なのかともう一度顔を合わせれば、獄寺は少しだけ眉根を寄せた。
「・・・沢田綱吉?」
「え?う、うん・・・あの、どこかで会った?」
「ううん。9代目に、会ってこいって」
「え゛」
9代目、と言えばもうそっち関係にしか繋がらない。
思い切り顔を引きつらせるツナも気にせず、獄寺はまたやる気なさそうにため息をついた。
「き、君ってもしかして・・・そっちの?」
「うーん・・・さあ?どこにも入ってない」
「あ、そう・・・」
しーんと、微妙な沈黙が訪れる。
早く席についてほしいなとちらちら見ていれば、めんどくさそうに首をかいて、獄寺がまたため息をついた。
「アンタに会ったし・・・もう俺帰っていいかな」
「え!?(つーか俺に言われても!)」
「ご、獄寺君?学校はまだ始まったばかりなんだが」
「そうか・・・。学校って、通うものだっけ」
先生に声をかけられて、首をかしげた獄寺はのんびりぽんと手をつく。
怠け者もびっくりな速度の獄寺の動きに、クラスの全員が脱力した。
「し、知らないの・・・?」
「・・・んー。家で、大学まで終わらせたから」
「お、終わらせた?」
「勉強」
「ぇえ!?」
まさかの発言に、ツナ筆頭に大声が上がる。
マジで?ほんとうに?と周りからかかる声に、やはり獄寺は、物凄くのんびりかくりと頷いた。頭を落としただけにも見える。
はぁーと先生が胸を抑えて息をついている。
「じゃあ、お前なんで学校来たんだ?」
「義務教育・・・?」
「ああ。日本じゃ中卒まで義務だしな」
「あと、この人に会いに」
「ダメツナと知り合いなのか?」
「・・・知り合いの、知り合い?」
首をかしげながらも、問いかけに答えていく獄寺。
なんというか、質問するだけでも疲れてくる。
はぁーとツナまでため息をつくと、教師もため息をつき、いいから席に着きなさい、と獄寺に声をかけた。
めんどくさそうに周りを見回して、めんどくさそうに席に向かう。
めんどくさそうに座った獄寺は、まためんどくさそうにため息をついた。
「獄寺君て、めんどくさがりなの?」
「?・・・わかる?」
『(いや普通に分かるよ)』
恐らく、今クラスの全員がシンクロした。
かなりのんびり答えた獄寺は、みんな言ってくる、とこれまたのんびりぼやいた。
そりゃそうだよ、と声は上がらなかったものの、恐らく全員思っている。
「なんか・・・獄寺って脱力系だな」
「・・・?よく言われるけど・・・・・・はぁ・・・どうでもいいや」
『(だ、脱力系だ・・・)』
本日のHRは最後の最後まで、脱力しきって終わった。
なんか変な転入生がきたなーとぼやきながら、ツナは廊下を歩いていた。
そこで図体のでかい3年生にぶつかってしまい、危うく半殺しにあうところだったのだが、なんとか走って逃げる。
校舎の外にばっと飛び出たツナは、あっぶねーと息をついた。
「逃げ足は速い・・・」
「うっ!――って、君は転入生の!」
急にかかった声に驚いたツナだったが、いたのがやる気なさそうな獄寺と分かって驚く。
だが害はなさそうなので、気を抜いて息をついた。
「えと・・・なにしてるの?」
「・・・めんどい」
サボろうとしていたらしい。
ずーんと、ツナはまた獄寺の空気にやられて脱力する。
一日目にしていいのそれ、と問いかければ、こてんと首を倒してから、こくりと頷いた。
いーんじゃねーの、という感じらしい。
「ボンゴレファミリー10代目」
「えっ」
「・・・あんたを倒せばそれになれるっていうけど・・・はぁ」
「・・・なんか、やりたくなさそうだね」
見なくとも分かる。
脱力して肩を落としながらツナが言うと、獄寺はやる気なく目を閉じながらこくりと頷いた。
とことんやる気がない。
かと思えば、とことこやってきてぽんとツナの肩に手を置く。
「お互いに色々、大変そう・・・」
「ああ・・・君も、一応苦労してるんだ・・・」
似たようなテンションについなってしまう。
今にもため息をつきそうな獄寺は、目を閉じるとぽんぽんとツナの肩を叩いた。
「まぁ・・・・・・・・・・・・がんばれ」
「ってまる投げかよ!君もがんばれよ!」
「めんど・・・」
「少しはやる気を出せーー!」
あんまりにも低いテンションに、ついついツナはつっこんでしまう。
えーといわんばかりの顔をしていた獄寺は、ふと顔をそらした。
何を見てるのかとつられて顔を動かせば、つまらなそうに座ったリボーンがいる。
「リボーン!」
「思ったより早かったようだが・・・噂どおりやる気ねーな」
「お前の知り合いか?」
「俺がイタリアから呼んだんだぞ。ファミリーの一員だ」
「・・・これで」
思わず半目になってツナが指差せば、リボーンも無言で獄寺を見る。
その獄寺は、相変わらずやる気なさそうにリボーンを見ている。
「9代目が最も信頼してる・・・」
「そうだ。俺がリボーンだぞ」
「ふぅん。帰っていい?」
「やる気だせ殺すぞ」
「(リボーンイラだってる!)」
早速やる気のなさを発揮する獄寺に、リボーンが銃を向けて殺気立つ。
がーんとツナがショックを受けているうちに、ため息をついてリボーンが銃を下ろした。
「ツナを殺せば、お前が次期ボンゴレ10代目だぞ」
「えー・・・」
「何もせず帰ったら一生俺の下僕だぞ」
「えぇ〜・・・」
物凄くやる気ない。
どちらも物凄く嫌そうだ。
どっちか選べと、選ぶまもなく構えた銃をぶっ放しそうなリボーン。
ため息をついた獄寺が、どこからともなくダイナマイトを取り出した。
「ぇえ!?ダイナマイト!?」
「そいつは体のいたるところにダイナマイトを隠し持った、人間爆撃機だって話だぞ。またの名をスモーキン・ボム」
「・・・?」
「オメーだよ」
「だ、脱力する・・・!」
本人まったく分かってないらしい。首をかしげている。
がくーっとツナが肩を落とすと、ふぅんと興味なさそうな声が聞こえた。
顔を上げれば、獄寺はポケットからタバコを出す。
「・・・あ。タバコ、大丈夫か?」
「え?う、うん・・・」
「いいからとっととやれ」
「うわーー!!」
とうとうガウンと銃が火を噴くが、慌てるツナとは裏腹に、獄寺は至って普通。(やる気なし)
ん、と声を上げると、タバコに火をつけ――ダイナマイトの導火線に、タバコを火種に火をつけた。
「ぇえーー!?」
「殺し合い開始だぞ」
「ふざけんなよ!!ダイナマイト相手なんて冗談じゃない!!」
言ってる間にも、投げられたダイナマイトがドドンと爆発しだす。
うわぁーーーどひゃぁああと叫びながら避けていたツナは、行き止まりまで追い詰められたところで死ぬ気弾を打たれた。
「復活(リボーン)!!死ぬ気で消火活動!!」
「ふぅん?」
パンツ一丁でよみがえったツナを見て、獄寺が少しだけ口の端をあげる。
ツナはすでに放たれたダイナマイトの導火線を手づかみで消化し、全てを消した。
また獄寺が、ふぅんと声を上げる。
「二倍」
「消す消す消す消す消す!!!」
「へぇ・・・すごい」
物凄く呑気な声が、死ぬ気のツナと裏腹にのどかに響く。
死ぬ気炎ですらしぼませるほどの脱力した空気が流れるが、獄寺の手にさらに量を増して持たれたダイナマイトに、またツナの炎は燃え上がった。
「三倍」
ごそっと取り出したダイナマイトを、肘まで使って持つ獄寺。
しかしぽろりと一つ落ちると、崩れるように次々ダイナマイトが足元に落ち始めた。
さすがの獄寺も、目を見開く。
「しまっ・・・」
焦ったような獄寺の声。
しかしすぐにまたやる気のなさそうな無表情に戻ると、ふっと自嘲した。
「これで終わりかぁ・・・」
「消す!!」
「!」
目を細めて自嘲していた獄寺は、ダイナマイトを消し始めるツナを見てまた驚く。
ツナはそのまま他のダイナマイトも「消す消す消す消す!!」と消して回り、全てを消し終わったところで死ぬ気炎が消えた。
「はあ〜〜。なんとか助かった〜〜〜」
ほっと息をつきながら額をぬぐうツナ。
獄寺がもう攻撃の手を止めたとすっかり油断していた。
のだが、ぽんと肩を叩かれて、びくりと震えてしまう。
ゆっくり振り向けば、獄寺が物凄く近くでツナをじっと見ていた。
「うわ!」
「すごいな。ボンゴレ10代目。さすがドンだ」
「えっ」
こころなしか、獄寺の目がキラキラしているのに気づいてツナは顔を引きつらせる。
リボーンが、にやーっと物凄く楽しそうに笑った。
「決まりだな、獄寺。負けたんだから掟どおりツナの部下になれ」
「はあ!?」
「うん」
「ええ!?」
リボーンの言葉に驚いていたツナは、あっさり頷く獄寺にも驚く。
めんどくさそうだから嫌だって答えそうなのに!と、部下なんていらないと思ったすぐ後に思い至った。
絶対にそれが理由でファミリーに参加してなかったはずだと。
「いいの!?君それでいいの!?」
「うん。・・・10代目、面白いし」
「それが理由かよ!てゆーか部下なんて要らないって!」
「いらない?」
ぶんぶんツナが手を振れば、獄寺が少しだけ眉根を寄せて――まるで某CMの子犬のようにツナを見る。
ツナはうっと息を詰まらせた。
リボーンはただにやにや笑って二人を見ている。
あーうーと唸っていたツナは、ため息をついて肩を落とした。
「もう・・・普通のクラスメイトでいいじゃん。そんな部下なんてさぁ」
「・・・」
「あ〜〜〜・・・。ほら、色々これから一緒にやることになるんだし、友達とかさ。うん、友達とか!部下じゃなくて!」
「友達・・・」
どうしても部下にだけはなってほしくないツナは、ぶんぶん腕を振って獄寺に言う。
少しだけ目を丸くした獄寺は、友達・・・とまたつぶやいて表情を緩める。
それまでの無表情(やる気なさそうな)が、嘘のような変化だった。
笑みを浮かべて顔を上げた獄寺は、ツナに向かってうんと言う。
「友達な。10代目」
「う・・・うん!?10代目違う!10代目ダメ!!えーっと、ツナ!友達なんだから!」
「めんど・・・」
「とーもーだーちーなーの!友達なら名前で呼ぶの!!」
まためんどくさがり発動の獄寺に、ツナは叫んで言い聞かせる。
聞き分けのない子供のようだ。
顎に手を当ててんー・・・と小首をかしげた獄寺は、こくりと頷いた。
嬉しそうに顔を上げて、にこっと笑う。
あまりの衝撃に、ツナは固まった。
「ツナ。な。・・・ありがと、ツナ」
ぽかんと固まって、ツナはじっと獄寺を見つめる。
にこにこ笑っていた獄寺は、反応のないツナを見て首をかしげた。
それですら笑顔の衝撃につられて・・・可愛く見えるものだから、ツナはぶんと首を振る。
「ツナ?」
「う、うん。よろしくね、獄寺君!」
「・・・名前・・・」
「あー!えーと、隼人!うん隼人!」
「うん」
つい苗字で呼んでしまえば、一気に悲しそうな顔をされてしまう。
慌てて名を呼べば、また嬉しそうに微笑まれた。
きゅーんとしてしまったツナは、はっと我に返る。
「な、何で俺・・・ごく・・・隼人は男。男なのに・・・!」
「・・・恐ろしい威力だな。こんな武器持ってるとは思わなかったぞ」
武器じゃねーよ、とつっこみたかったがある意味武器なのでいえない。
はぁーとため息をついていると、ありゃりゃサボっちゃってるよと嫌な声が聞こえた。
見れば、先ほどぶつかった三年生たちだ。
「こりゃおしおきが必要だな」
「サボっていいのは三年からだぜ」
「何本前歯折って欲し〜い?」
「げっ」
げらげら笑いながら、三人組の三年生がやってくる。
じりじり下がっていたツナは、んー・・・という獄寺のやる気のない声を聞いて、そういえばこいつもいたと振り返った。
ら、獄寺がぽいとダイナマイトを投げた。
「あ」
ちゅどーんと音を立てて、ダイナマイトが爆発する。
吹き飛ばされて少しこげた三年生たちをじっと見た獄寺は、もう何本か取り出した。
「まだミディアム」
「ウェルダンまで焼いちゃダメーーー!!」
めんどくさそうに火をつけようとする獄寺を、ツナはなんとか止めにはいる。
もういいよ!そう?とでこぼこなテンションでやり取りをしているうちに、授業終了を告げるチャイムが鳴った。
次の日学校に言ったツナは、獄寺がいないことにほっと息をついた。
本人物凄くやる気ないが、それなりに周りを振り回してくれる。
しかし理科の時間にテストが返ってくると分かって、ツナのテンションは一気に下がった。
「沢田」
「はい」
やばいきた、と思いながら前に出れば、予想したとおり、嫌味な根津という教師が素直にテストを渡さない。
しかもそのまま嫌味を始めた。
点数までばらされてクラスメイトたちに笑われて、ツナはますますテンションを落とす。
そこに、獄寺がごく普通にクラスに入ってきた。
物凄く普通に入ってきたために、最初全員スルーしかけた。
「ってコラ!遅刻だぞ!今頃登校してくるとはどういうつもりだ!!」
「・・・」
早速しかりつける根津を、獄寺は無言でじーっと見つめる。
じーーっと。
じーーーっと見つめられた根津は、少し引いてからなんとか答えたらどうだ!!と怒鳴りつけた。
獄寺は首を傾げてから、のんびり口を開く。
「邪魔はしてない」
「そういう問題か!!」
「・・・邪魔、する?」
「するな!!」
物凄く会話がずれてる。
まだなにか言いたそうな根津を無視して、獄寺はツナに顔を向けた。
そして昨日と同じく嬉しそうに目を細め、にこぉっと笑う。
きゅん、とクラス中から音が聞こえた気がした。
「ツナ。おはよう」
しんとクラスが静まり返った。
獄寺は首をかしげて、ツナ?と声をかけてくる。
慌てて我に返ったツナは、おはよう!と返した。
獄寺はまた満足そうに笑う。
みんながざわつき始めた。
「獄寺のヤツ、どうしたんだ?昨日あんなだっけ?」
「つーかなんで沢田だけ?」
「あのギャップたまんない・・・!」
「子犬みたい!」
物凄く好き勝手言われてる。
クラスのざわめきで我に返ったのか、根津がコホンと技とらしく咳払いして、眼鏡を押し上げた。
「あくまで仮定の話だが、平気で遅刻してくる生徒がいるとしよう」
また嫌味が始まった。
「そいつはまちがいなく落ちこぼれのクズとつるんでいる。なぜなら類は友を呼・・・・・・・・・!?」
ギンッ、とクラス中の視線が根津に集まる。
ヤローテメーあの子犬になんてこといいやがる、だろう。言葉に表せば。
全員の殺気に青ざめて引いていた根津は、言葉に詰まって後ずさりした。
獄寺は怪訝な顔で根津を見ている。
「嫌味・・・」
「あ?なんだと?」
「嫌味。直球すぎ。・・・育ちの悪さが出てる」
獄寺の言葉に、ぽかんとしたクラスメイトたちがどっと笑い始める。
獄寺はまた首をかしげた。
根津は真っ赤になって震えている。
「貴様教師に向かってなんだその口の聞き方は!!それに私は東大卒だ!!」
「?だから?」
「っっ、この学歴社会において、お前のような知能の低いサルは確実に社会の足を引っ張るお荷物だ!!」
「先生それ二度目です」
「うるさい!!」
誰かが挙手してつっこめば、その生徒にも根津は怒鳴る。
ますます全員の殺気が高まる中、首をかしげていた獄寺が口を開いた。
「いまどき、学歴を気にする企業なんて役所関係くらいだと思うけど」
「は!?」
「ITからなにから、どんどん実力主義に路線を変えてる会社が増えてる。・・・古い」
ぼそっと言った最後の言葉までもが、教室内に響く。
その最後の一言に、また生徒たちがどっと笑った。
ツナも気分がよくなって、一緒に腹を抱えて笑う。
ぷるぷる震えていた根津が、とうとう叫んだ。
「貴様ら退学だーーーー!!!」
授業が終わってからは、本当に校長室に呼び出された。
クラスを出るときの根津は、それはもうクラスメイトたちに睨まれてびくびくしていたのだが。
なにげに、校長室の前にも全員がびったり張り付いている。
「落ち着きたまえ根津君」
「これが落ち着いていられるか!!私に暴言を吐いたのですぞ!!」
「暴言はその人。俺は単に、嫌味が直球だと育ちの悪さがにじみ出ることと、今はそこまで学歴社会じゃないことを教えただけ」
「うるさい!!貴様は黙ってろ!!」
まったく緊張感のない獄寺が、普通に根津に突っ込みを入れている。
図星どころか真実そのままだったのだが、根津は怒鳴り返して獄寺を睨んだ。
獄寺はめんどくさそうに突っ立っている。
「連帯責任で沢田ともども即刻退学にすべきだ!!」
「(なんで!?)」
「しかしですな、いきなり退学に決定するのは早計すぎるかと・・・」
「義務教育の中学を退学って、かなり無理があると思うけど」
宥めている校長に向かって、獄寺がさらっと言う。
一瞬空気が止まった。
獄寺は一人気にせず、さらに口を開く。
「PTAが黙ってないと思う。まず校長先生は責任を問われてえらい目にあう」
「そ、それは、うん。そうだね」
「マスコミにばれたら全国ネットで話題沸騰だな。点数が低い、遅刻をした、暴言を吐いたのは教師のほうが上なのにその三点だけで退学処分。高校でも注意程度で終わるのに並盛中学校はどうなってる、なんて。入学生減るよ」
「・・・!!」
中身の割りに、獄寺は物凄く普通にしている。
どうでもいいんだろう。めんどくさがりだ。
引きつって真っ青になった校長も気にせず、獄寺は扉の外を指差した。
「俺が言わずともクラスの人たちがまず親に言うだろうし。時間の問題だな」
「絶対に言うぞーー獄寺ーーー!!」
「そうだぞおかしいぞーーー!!」
バッチリ聞き耳を立てていたらしいクラスメイトたちが、わあわあと外で騒ぎ出す。
電話かけろーー!!どこが一番でかい会社だーー!!と騒ぎ出す生徒たちを見て、校長も根津も慌てた。
「それよりその人、こんなこともわからないのに本当に東大卒?東大卒のエリートなら、一番教員免許取りやすくて給料安い中学なんて入らないと思うけど」
授業聞いてても教科書読んでるだけだし、と、根津を指差しながらさらに獄寺が続ける。
しんと静まり返った校長室。
ずいと根津に一歩近づいた校長が、根津君、と声を上げた。
「少し話をしようか」
「こ、校長!!こんなヤツの話を信じるんですか!!」
「信じるも何も、彼はまっとうなことを言っている。当たり前のことを口に出しているだけでしょう。君に耳を傾けた私がどうにかしていたよ」
不信な目で根津を見る校長。
根津は青白い顔で、震えながら校長を見ている。
「ああ、君たち。貴重な休み時間なのに悪かったね。もう戻っていいよ」
「はい」
「は、はい(終わっちゃったーーー!!?)」
何事もなくすんでよかったが、なんとも複雑だ。
にっこり微笑む校長に返事を返したツナたちは、校長室を出た。
後ろから根津の叫び声が聞こえるが、ツナも獄寺も、校長室の前にいたクラスメイトたちも全員無視だ。
「やるじゃねえか獄寺!!」
「すごいよ!校長と根津言い負かすなんてさ!!」
「・・・?思ったこと、言っただけだけど」
自覚がないらしい。
だぁーとまた脱力したツナたちは、とにかく助かったと気を取り直し、教室に戻った。
その後、根津は学歴詐称で解任となった。
(隼人すごいよ)(?どこが)(え・・・色々?)(・・・俺はツナのほうがすごいと思うけど)(え?どこが)(色々)