ちゃんがボンゴレの補欠(なんだよ補欠って)になってから、リボーンの所為で顔を合わせる機会が増えた。
昼休みは必ず一緒にご飯を食べてる。
帰りは一緒になんて帰れないけど、家に遊びに来るようにもなった。
俺のお陰だろ、とか言われたけど・・・まあ、うん、それはね。いいんだけどね。
「わ〜。こんなに傘下があるんだ」
「あったりまえだろ。なんてったってボンゴレなんだからな」
俺より獄寺君のほうが・・・仲良いんだよね・・・。(いや、俺は京子ちゃん一筋です)
今もお弁当を食べながら、獄寺君のどこで手に入れたのか分からない資料を見て説明を聞いて、懸命に頷いてる。
可愛い・・・けど、複雑だ。
山本は呑気に機嫌よくしてるけど。
クラスのやつらは、ちゃんをちらちら見たり俺を睨んだりうらやましそうに獄寺君を見たりしてる。
・・・分かるけど理不尽だ!
「お前も大分覚えてきたな」
「うん!えへへ。家でも見直してるんだ」
「へー。やる気満々じゃん」
「(やめてくれ)」
染まらないでそのままのちゃんでいて欲しい・・・。
山本と同じく、どうやらごっこ遊びだと思ってるみたいだけど。
それにしたって、この熱の入れようはちょっと、遊びにしては変かもしれない。
もしかしたら、獄寺君と仲良くなりたかったのかな。
・・・だとしたらちょっと凹む。
俺、当て馬かよ・・・。
「獄寺君がくれる資料、大事なところに線が引いてあってわかりやすいから」
「マジで?俺には全然くれなかったのにな」
「誰がテメーなんぞにやるか!」
「そーだよ。山本君はもうファミリーじゃん」
むっとしながら山本を見るちゃん。
うん。可愛い。
色々な表情見れるのは正直嬉しいけど、やっぱり複雑だ。
山本がでれでれ笑ってる。・・・のを見て、獄寺君が思い切りしかめ面だ。
ちょっと見せてくれよと山本がプリント(多分獄寺君がまとめてあげたレポート?)を取った。
あーとちゃんが声を上げる。
びきっと青筋立てた獄寺君(こわ・・・!)が、がばっとそれを取り上げた。
「テメーは見なくていいんだよ!」
「ははは!ケチくせーのなー」
「これはこいつに作ってきたんだ!おら、お前も簡単に情報を取られるな!命取りになることもあるんだからな!」
「うん、ごめん。ありがとう」
にこっとちゃんが笑う。
ちゃんに資料を渡してた獄寺君が、赤くなりながらそっぽを向いた。照れ隠しだ。
なんだかいい雰囲気の二人を見てると、うらやましく感じる。
俺も京子ちゃんとこんな風に・・・いやもーちょっとほのぼのしたいかな。
にこにこ笑っていたちゃんが、俺に顔を向けた。
目があっただけで、俺はどきっとしてしまう。
ちゃんの笑顔は、無邪気な京子ちゃんの笑顔とと違って、なんでか熱く感じられるから。
「ね、ツナくん。私少しはファミリーに近づいたかな」
「えっ!」
「バーカ。ンな簡単にファミリーに入れるかよ」
「そっか・・・まだがんばんないと」
むん、と手を握って気合を入れるちゃん。
正直がんばらないで欲しい。
可愛いままでいてほしい。ビアンキみたいになったら、ホントに俺、泣くかもしれない。
がんばれよーうん!と山本と盛り上がるちゃんを、俺は複雑な心境のまま見ていた。
少し頬を染めたちゃんが、ちらりと俺を見る。
また目があってまたどきっとした俺は、照れたように笑うちゃんに、なんとか笑い返した。
引きつってたかもしれない。



ちゃんが俺たちと一緒にいるのが当たり前になってきた頃、バレンタインが近づいてきた。
でもその前に、今日はちゃんのお菓子デーだ。
「うわぁ〜美味そう!」
「ほんとだなー。な、、食っていいか?」
「うん。どーぞ」
にこにこ笑いながら、ちゃんがマフィンを手でさす。
いただきますとそれぞれ声を上げて、俺はマフィンにかじりついた。
美味い・・・。
女の子(しかも可愛い上ヒバリさんの妹)の手作りお菓子食えるなんて、俺、本当に幸せものだ。
早速美味い美味いと大げさなくらい山本が褒めて、ちゃんに話しかけてる。
くすくす笑いながら礼を言って、獄寺君から甘すぎるなんて文句付けられて苦笑いしながら謝って。
目があったちゃんが、頬を染めて、じっと窺うように俺を見てきた。
「あ、あの・・・どう、かな?」
いや俺は京子ちゃん一筋だ。
頭を振って、けど結局俺はへらりと笑い返してた。
「いつも通りすごく美味しいよ」
ホント、ビアンキにも見習って欲しいくらい。
俺の言葉を聞いたちゃんは、それはもう嬉しそうに、安心したように胸に手を当てて息をついてる。
よかった、なんて小声でつぶやいて。
・・・聞こえてるんだけど。
一々可愛すぎるんですけどどうしよう。
一々こう、男心を刺激させる行動をとるちゃんを見てると、確かに一人にできないだろうなと思う。
ヒバリさんが。
誕生日一緒なんだって嬉しそうに話してたし、兄弟仲良いみたいだし。
あの人、結構見張ってるようだ。(この前やっぱりすごく睨まれた)(けどちゃんをぽわ〜っと見てた男子を咬み殺してた)
「な、バレンタインどーすんだ?」
「(うわぁぁ聞いちゃったー)」
俺もすっげー気になってたことだ。けど聞けなかった。
獄寺君もさりげなく気にしてる。
きょとんとしたちゃんは、恥ずかしそうに身を縮ませて、ちらりと俺を見た。
どきっとする。
俺、もしかして?なんて時折思ってしまう。
けど、獄寺君のほうが仲良いし、山本のほうも同じくちらっと見てたしで、気のせいだろう。
・・・だって、これで期待して全然違ってたら俺、すっげー虚しいやつじゃん・・・。
「えっと・・・みんなに作ってこようかなって・・・思ってるんだけど・・・」
もじもじしながら言ったちゃんが、またちらっと俺を見る。
え、俺?
いや獄寺君も見た。
「いい、かなぁ?」
むしろごちそうさまです。
頭下げそうになった。
ちゃんの言葉を聞いて、山本が二カッと笑う。
そのままぽすぽすちゃんの頭を叩いた。
「むしろもらいてーって!じゃ、よろしくな!」
「う、うん!がんばる!えっと・・・」
「チッ・・・。授業料だ」
「うん!あ、あの・・・」
「お、俺にもくれるのっ?」
俺にまで顔を向けてくるちゃん。
つい問いかけてしまえば、こっくりうなずかれた。
も、もらえる!チョコもらえるって俺!母さん以外から貰ったことなかったのに!
やぁぁあったーーーー!!と大声で叫びたいのをこらえて、ありがとう!とそれでも結構な声量で叫んでしまう。
ぱっと目を開けたちゃんは、顔を赤くしながらううううんどういたしまして!と物凄くどもりながら返事を返してきた。
だから、そういう態度取ってると誤解されるって。
「じゃ、これでチョコ確実だな!」
「山本君はいっぱいもらえそうだけど」
「こんなヤツがもらえっかよ」
「そーかなぁ・・・?」
「山本も獄寺君もファンクラブあるし、多分相当すごいと思うよ」
「え!?ファンクラブ!?」
知らなかったらしい。
・・・まあ納得できる。
けど山本までマジで?とか言ってるあたり脱力する。
獄寺君は嫌そうに顔をしかめた。
「ツナくんもいっぱい貰いそう」
「いや、ちゃん、俺のことなんだと思ってるの」
自分のことくらい自分が一番よく知ってるよ。(あれ、涙が)
手を上げて即否定すれば、そうかな?と首をかしげるちゃん。
10代目がもらえないわけねーだろ、とか言う獄寺君はちょっとぶったたきたい。
お前らどんだけ俺を美化してるんだ。
「どんなのがいい?フォンダンショコラ作ってみようかな」
「んーあんまし詳しくないからよくわかんねーけど、普通のでいいぜ?あ、今言ったのも食ってみたい」
「うん、分かった」
「どーせだったらハートのチョコがいーな!でっかいやつ!」
「「んな!?」」
手でハートを作る山本に、俺も獄寺君も変な声を上げてしまう。
けどきょとんとしたちゃんは、うんわかったとあっさりうなずいた。
いや君いいの!?とか思ってもつっこめない。
獄寺君は、思いきり山本を睨んでるけど。(まさか両想い?)
「ね、ねえちゃん?それ、大丈夫・・・なの?」
「なにが?」
「お前、ハート型のチョコなんて作ってみろよ。ヒバリになにいわれっかわかんねーぜ」
「(ナイス獄寺君!)」
そーいえばそーだっていうか、そっちが最優先だーー!!と今更ながらにつっこむ。
またきょとんとしたちゃんは、大丈夫とにっこり笑った。
「兄さんにもハート型のいつも作ってるから」
「・・・ハート」
「・・・ヒバリが」
「それヒバリ喜んで食うのか?」
「うん。ありがとうって全部食べてくれるよ」
「あはは!すげー!」
嬉しそうに笑うちゃん。
ホント、すごすぎる。似合わないにもほどがある。
その兄以外にハート型のチョコを上げると知ったら、どうでるか・・・。
お願いだからバレないようにしてくださいと、しっかり頼んでおいた。



バレンタイン当日。
俺は、相当に緊張していた。
ちゃんからチョコがもらえる。っていうのもそうだし・・・京子ちゃん、どうするのかな。
誰かに上げてないと良いけど、なんて不安を胸に、学校についてみれば男子がみんなそわそわしていた。
ちゃんの姿は、見てない。
京子ちゃんはいつもと変わらず。鞄以外には何も持ってないみたいだ。
そわそわ午前中を過ごして、昼一番に、俺は最初の幸せにぶち当たった。
紙袋とお弁当を持ったちゃんが、教室に現れたからだ。
「あ、あれ?獄寺君と山本君は?」
「あー・・・女子たちに追われて」
おろおろ周りを見るちゃんに、俺は頭をかきながら答える。
やっぱり、俺と二人じゃ期待はずれか。
俺の言葉を聞いたちゃんは、かぁと顔を赤くしながらそっか、と返してきた。
すいませんどうして赤くなってるんですか。
・・・ふ、二人きりって、気まずい。
「えっと、あ、バレンタインのチョコ!です・・・!」
「う、うん!」
三つ持ってた紙袋の一つをずばっと突き出されて、俺もがしっと受け取る。
多分、俺も顔が赤いと思われる。
てか、すっげー嬉しい。
めっちゃ嬉しい。
死ぬ気で嬉しい。
幸せだ・・・とその重みを噛み締めていたら、おろおろ周りを見たちゃんが、おそるおそる俺に他の二つも差し出してきた。
「あの二人にも、渡しておいて貰えるかな?」
「う、うん!いいよ!あ、ありがとうちゃん」
礼を言うのも照れくさくって照れながら言ったら、ちゃんはますます赤くなる。
だからどーして顔赤くするの!
「い、いいえ・・・!」
しかもそのまま黙り込む。
気まずい沈黙をとにかく破りたくて、ご飯食べようか!とまだ高いテンションのまま声をかけた。
う、うん、と俺と目も合わせずに頷いて、ちゃんは近くの席をくっつける。
今まで四人で食べてたからそんなに気にならなかったけど、二人で食べるって、なんかこう、恥ずかしい。
・・・つーか俺、今日すごく運良くないですか・・・!
今日晴れてよかったね、だとか、昨日のテレビみた?だとか。
山本みたいに面白い話題なんてふれないけど、ちゃんはそれでも話しに食いついてくれる。
ヒバリさんにチョコ渡したら、やっぱり喜んでもらえたなんて秘話まで聞けた。
物凄く緊張したけど、それなりに・・・はい、結構気まずかったです。ダメ男でごめんなさい。
こういうとき、山本だったらあっさり話題振って楽しい雰囲気にしてくれるんだろう。
獄寺くんだったら・・・無言か、マフィアの話でも聞かせてたんじゃないかと思う。
俺なんて、なんにも出来ない。
折角チョコをもらえて浮いていた気分が、ずぶずぶ沈むようだ。
ちゃんも、あんまり箸が進んでないみたいだし。
「え?それだけでいいの?」
「う、うん・・・なんだか、胸がいっぱいで」
「・・・」
だからその期待させるような反応なに!!?
深く追求したい。
顔赤くしながら胸を押さえたちゃんは、そっと息を吐く。
恋、してるみたいだ。
誰にだろうとか、可愛いなーとか考えながらぼーっとちゃんを眺めてたら、ようやく女子をまいてきたらしい山本と獄寺君が戻ってきた。
「お、きてたんだな!」
「あ、お、おかえり」
あからさまにほっとするちゃん。
正直凹む。
いや、俺もほっとしちゃったけど。うん誰か来ないかなって思ってましたけど!
獄寺君はため息つきながら椅子をひっぱって、俺とちゃんの間に座った。
山本も同じく、だ。
「で、ツナはもうのチョコもらったのか?」
「う、うん。もらったよ。あ、二人の分もあるから!」
「お前なに10代目に押し付けてんだよ」
「だって・・・二人ともいなかったし」
ぎろ、と睨みつける獄寺君に、ちゃんがいじけたように言う。
その態度が、俺よりも気が知れてるっていうか。
この二人、やっぱり仲がいい。
あと10分しかないよ休み時間、とちゃんが言えば、山本が慌ててパンの袋を開けた。
俺はようやく息をついて、周りを見る余裕が生まれる。
生まれなくてよかったかもしれない。
・・・男子がみんなこっちを睨んでる・・・!!
「(そういえば、京子ちゃん誰かにあげたのかな・・・)」
見てみれば、黒川と楽しそうに話してる京子ちゃん。
ずっとここにいたから、昼休みは誰にもなにも渡してないみたいだ。
とりあえずよかったと、俺は息をついた。
他の時間はわからないけど・・・な。
「ん?なに?」
「・・・!う、ううん、なんでもない」
見られてる気がして顔を向けたら、ばっちりちゃんと目があった。
ちゃんはすぐ手と首を振って、パックジュース(とはいえお茶)を飲み始めた。
俺は、また京子ちゃんを見てため息が出てくる。
京子ちゃん、誰かにチョコ渡すのかな。渡したのかな。
「・・・」
「・・・」
また視線を感じた気がしてちゃんを見るけど、ちゃんは別の方を向いてた。
京子ちゃん?・・・じゃあ、ないか。
その後はいつもどおり山本が話題をふって獄寺君が突っかかったりつっこんだりちゃんがのったりして、残りの休み時間を過ごした。
放課後、リボーンに撃たれて家まで死ぬ気で帰って・・・まあ、アレコレあったわけだけど。
一応、生きてバレンタインは過ごせた。
「・・・あ。美味そう」
騒ぎが収まって、寝る前にちゃんから貰ったチョコを思い出した。
中を見たら、本当にハート型(めっちゃ可愛くデコレートしてある)のチョコとフォンダンショコラ(多分)が入ってた。
「・・・なんか、普通のチョコ貰ったのって・・・」
初めてで普通に嬉しい。
結局京子ちゃんとハルのはビアンキのポイズンクッキングで台無しだったし。
じんと浸って、とりあえず一口だけでもと思ってハートのチョコをかじった。
「ん?うわぁ。すげぇ。中にもチョコ入ってる」
しかもとろっとろのだ。・・・ピンク色、してる。
「・・・愛詰まってそう」
手が込んでるし、なんだか気合というか、意気込みというか。
好き〜っていう感情がこもってそうな感じ。
多分、獄寺君のチョコはもっとすごいんだろう。もしかしたら山本?
はぁ、とため息をついて、いや折角貰ったのにもったいない、と、中身が心配だったから結局全部食べてしまった。
ホワイトデーは、なにお返ししたら良いんだろう。
「よ!ツナ。のチョコ食ったか?」
「あ、うん!すごかったよね。中にチョコ入ってるなんて、相変わらず手ェこんでるよなー」
「え?・・・あ〜」
「え?」
「いんや、なんでも!な、獄寺!」
「・・・おー」
二人のチョコがどれだけデコレートされたたかは、聞けなかった。








(どうしたの?)(・・・ううん。なんでもない)(チョコ貰ってもらえなかったとか?)(ううん、もらって・・・はっ!)(へぇ・・・ふーん)