その日俺は、朝から少し落ち着かなかった。
前日助けた(?)同じ学校の女の子が、会いに来るといっていたことをしっかりばっちり頭に収めていたからだ。
「・・・可愛かったな」
物腰は丁寧で、でも少しあわてんぼうで、照れやすいのか赤くなりながらあくせく返事を返してきた。
黒い髪の、小動物みたいな子。
・・・照れて真っ赤な顔で上目遣いされたときは、京子ちゃんの笑顔見たとき以上にどきどきしたって待て待て俺。落ち着け俺。
「おいダメツナ。遅刻するぞ」
「え!?うわわ!母さん行ってきます!」
「はーい。いってらっしゃい」
「おはようございます10代目ー!」
「よっすツナ!はよ!」
「ぉお!?おおはよう二人とも!」
急回転しだした日常に、すぐに彼女のことを忘れてしまったんだけど。
学校に行けば、やっぱりいつもながらのダメライフ。
ダメツナダメツナとはやされて獄寺くんがキレてそれを抑えて山本が笑って。
京子ちゃんの笑顔に癒されてまた授業中ポカをやって凹んで。
そんなことを繰り返していた、俺の日常。
それが破られたのは、お昼休みに入ってすぐだった。
今日は教室で食べようかーなんて、山本と獄寺君と机をあわせていたときだった。
教室から出て行こうとしていたクラスメートが出入り口で「うわ!」と叫んだかと思えば、でれでれしながら出入り口を封鎖し始める。
おい邪魔、といおうとしていたそいつの仲間も固まって、それから怪訝な顔をした。
でれでれしていたクラスメートもだ。
「おい沢田!」
「え?俺?」
「お前に客だ。チッ」
「(なんで舌打ち!?)」
物凄く理不尽だ。
それで騒ぎ出す獄寺君をなんとか抑えて、一体誰かと教室を出た。
出て、俺も固まった。
「こんにちは」
「あ、昨日の・・・」
あの子だ。
雲雀
ヒバリさんと関係あるのかな、なんて名前を聞いた瞬間逃げたくなったけど、ヒバリさんと違って全然暴力的じゃない、というか弱弱しくて放って置けなくて、つい手を差し伸べたくなる小動物みたいな子。
やっぱり今日も照れてるのか、少し赤い顔で俺を見上げてくる。
やばい、と思った頃には顔に熱が上ってきていた。
雲雀さんは、俺が覚えていたのが嬉しかったのか、ぱぁっと笑顔になってはいと頷く。
可愛い。
クラスメートがデレデレするわけだ。
「昨日は本当にありがとうございました」
「えっ、いや、大したことしてないし、そんなかしこまらなくても・・・」
「いいえ。転んじゃって恥ずかしかったし・・・制服も重くて助かったんで。ありがとうございました」
照れたように笑って、また頭を下げる雲雀さん。
確かにこの子じゃ、何着もある制服は重いと思う。
「それで、これ。よかったら食べてください」
「え!?本当に持ってきたの!?」
「はい。えと・・・ナミモリーヌのなんで、美味しいですよ。あと・・・えと・・・」
にこっと笑った雲雀さんは、また恥ずかしそうにかぁと赤くなって段々うつむいていく。
この子、いちいち照れ方が可愛い。
俺の不在を数分でも耐え切れなかったのか、獄寺君がガラッと扉を開けて顔を出した。
で、俺の目の前にいる雲雀さんを睨みつけると。
頼むから空気をよんでほしい。
そして誰彼構わず睨まないで欲しい。
「あ?お前なんだよ」
「ご、獄寺君!この子は・・・えっと、昨日帰りに会った子で・・・」
「あ、はい。沢田くんに助けてもらったんです。それで、お礼をしに」
案外普通に返事を返して、持っていた白い紙袋を持ち上げる。
ナミモリーヌ、とロゴの入った紙袋を見た獄寺君は、ぱっと顔を輝かせさすが10代目!と叫んだ。
「見ず知らずの女を助けるなんて!感動ッス!」
「え、いや、だから、そんなたいしたことしてないって!」
「いいえ。本当に助かったんで。良かったらお友達と食べてください」
「ええ!?いいよそんなの!悪いよ!」
「私のほうこそ、申し訳がたちません。お菓子だけなんで本当に申し訳ないんですけど・・・」
「いいって!そんなに気を使わないで!」
「いーんじゃねーの?折角持ってきてくれたんだしさ。お!これナミモリーヌのじゃん!美味いんだよなーあそこ。な!」
「はい!ケーキも他のお菓子もすっごく美味しくって!・・・あっ」
「山本!」
さらに現れた山本。
ついつい熱が入ったのが恥ずかしかったのか、また雲雀さんは赤くなって縮こまる。
にかっと笑った山本が、やったなツナラッキーじゃん、と肩をたたいてきた。
そのまま獄寺君とじゃれあいはじめるんだから、始末に終えない。
「えと、どうぞ」
「え・・・ごめん。逆に気を使わせちゃって」
「いえ!本当に嬉しかったんで。ありがとうございました」
お菓子を受け取って、申し訳なくて謝れば、雲雀さんは手を振ってから笑みを浮かべる。
頬の赤みが差したままの雲雀さんの微笑みは、なんていうか心臓に悪い。
「こっちこそありがとうね」
「いいえ。それじゃあ」
「う、うん」
にこりと笑って、雲雀さんはたかたか小走りに去っていく。
入っていったのはC組で、わざわざ来てくれたのかとまた心臓がきゅんと鳴った。
京子ちゃんやハル以外で、あんな可愛い子とここまで話したのは初めてだ。
「にしてもツナすげーのなー」
獄寺君とのじゃれあいを終えた山本が、頭の後ろで腕を組みながらにこにこ笑ってくる。
俺が首をかしげると、だってアイツ、と雲雀さんのいなくなった方を見た。
「ヒバリの妹だぜ?」
「・・・は?」
衝撃の事実(いや名前で怪しいとは思ってたけど!)に、思わず固まってしまう。
獄寺君も固まっていた。
「可愛いけどヒバリが見張ってるからって男子からは声かけらんなくってさ。ヒバリの妹と話すためにC組じゃ委員会とか係り決めンの、争奪戦になってたって話だぜ?」
「えええええええええええ!!?」
委員会と係りで争奪戦ってなに!?
大声で叫ぶ俺と一緒に、獄寺君もはあ!?と叫ぶ。
爆弾投下した山本は呑気に笑ってるけど。
「どこで知り合ったんだよー。超うらやましい」
「あいつ、ヒバリのスパイじゃないだろうな!」
「そ、そんなわけないって!ほんと偶然だったんだから!」
「へー。ラッキーだったな。ま!俺もおこぼれもらえてラッキーだったけどな!」
簡単に笑い飛ばせる山本が、今心底うらやましい。
本当に大丈夫なのかこれ毒入ってんじゃねーのか!と紙袋を指差す獄寺くんに、妹の方は大丈夫だってと山本も呑気に手を振る。
今までのことを思い出せば、確かに彼女に何ができると俺も肩の力を抜いた。
ただ、ヒバリさんに見つかったらタダじゃすまなそうだ。
「・・・あ。これ、手作りクッキー?」
「なに!?」
「いーなーツナ。俺にもくれよ」
「ふざけんな山本!毒味は俺がする!」
「毒味って!なんにも入ってないから!」
ヒバリさんが手を加えてなければだけど。
わあわあ騒ぎながら教室に入れば、嫉妬の視線が俺を襲う。
そこまでか!とも思ったけど、確かに雲雀さんは可愛いから仕方ないかも、とも思った。
・・・最強の兄を持つ妹だし。
というか早速獄寺君がクッキーの包みを開いてる。
あの、それ、俺が貰ったんですけど。・・・と言えれば苦労しない。
「あ!獄寺ずりー」
「お、俺のクッキー・・・」
しかも早速食べるんだから本当に始末に終えない。
む・・・とか唸った獄寺君は、また一つクッキーを取って食べた。
「これも大丈夫か。いやでもこっちには入ってるかも。いやこっちにも」
「おいおい獄寺。お前一人で全部食う気かよ」
「な!馬鹿野郎!どれに毒が入ってるかわかんねーだろ!」
「とかいってー。美味いから独占しよーとしてんだろ?俺もいただきー」
「あ!こんの野郎!」
「もういいよ獄寺君」
むしろこれ以上食うな、といいたくなる。
けど言えない。
わあわあ騒いで一つのクッキーを取り合う二人を無視し、俺もクッキーを一つ食べる。
「おいしい・・・」
貰ってよかった。
お弁当があるのも忘れて、ぱくぱくクッキーを食べる。
残り少なくなったところで二人が気付いて、やっぱり三人で取り合いになった。
「いーなーツナ。俺も助けてーなー」
「フン!テメーなんぞに助けられたって、お礼なんか誰も用意しねーよ!」
「ははは!ひでー獄寺!」
「(なんで笑ってられるんだ・・・)」
結構最初からだけど、自分の友人が分からなくなるときがある。
ナミモリーヌのお菓子は帰ってからガキどもに取られて、リボーンには「珍しいこともあるもんだ」とかおちょくられて散々だったけど。
お菓子のお礼、今度会ったら言うべきかな。
「・・・また食べたいなぁ」
二人に結構食べられてしまったし。
独占するなら隠れて食べるしかない、なんて無駄に作戦を練ってみる。
ってどの道俺じゃあ二度と貰えないだろうよ、と凹んでは、あの味を思い出して顔が緩んだ。



あれから、雲雀さんとは顔があうたび笑顔を向けられる。
頬を染めた、ちょっと恥ずかしそうな笑みだ。
俺もなんとか笑みを浮かべて頭下げるんだけど、言葉で挨拶交わせるほど近くに寄れたことはない。(女子が周りにいるかリーゼントが近くにいるから)
その笑みできゅんとする回数が増えたのは得・・・なのかな?
とりあえず、学校に楽しみが増えた。
「・・・はぁ」
ダメライフに変わりはないけどな!
「10代目。今日ゲーセンでも寄ってきませんか?」
「いいねー。行こうか」
授業が終わった放課後。
今日も京子ちゃん可愛かったな、とか今日は雲雀さんに一度も会えなかったな、とか考えながら獄寺君と歩いていた。
にかっと笑う獄寺くんは、俺の言葉一つで物凄く嬉しそうにする。
ある意味将来心配だ。
俺の未来も心配だ。
どこのゲーセン行くだの、今日女子がウザかっただの(うらやましいなオイ!)数学の宿題めんどいだの(手伝いはいりません本当)はなしていたときだった。
渡り廊下の出入り口を通過するところで、雲雀さんの声が聞こえた。
「あ、あの・・・ごめんなさい」
人差し指を口に当て、頷いた獄寺君と渡り廊下を覗いてみる。
廊下の外(獄寺君と初めて話した嫌な思い出の場所)に、先輩っぽい男子生徒と雲雀さんがいた。
物凄く恥ずかしそうに胸の前で手を握っていて、ぎゅっと口を結んでる。
本人一杯一杯なんだろうけど、可愛い。
多分告白なんだろうなーと思いながら見てたら、断られたんだろう男子生徒が険しい顔つきになった。
「なんでだ?俺は本気で君のことが好きなんだ」
「ご、ごめんなさい・・・。知らない人とは、無理です」
「これから知ればいいだろ?俺、ずっと君の事見てた。君のお兄さんとも上手く付き合う自信もある」
それこそ無理だと・・・
「(案外つっこみ上手?)」
物凄く納得する。
男子生徒はまだ微妙な顔だ。
本当にごめんなさい、と頭を下げた雲雀さんは、くるりと踵を返した。
けど、男子生徒が雲雀さんの手をつかんで、ぐいと引っ張る。
「いたっ!」
「それじゃ納得できない!!付き合ってみないと分からないだろ!!」
どんと壁にぶつかった雲雀さんが小さく悲鳴を上げるけど、男子生徒は熱くなって怒鳴りつけるだけだ。
身を縮ませながら男子生徒を見上げた雲雀さんは、涙目になりながら首を横にふった。
これじゃあんまりにもかわいそうだ。
「好きだからってあんなの・・・」
「男の風上にも・・・あ!」
雲雀さんの両腕をつかんだと思えば、にやりと笑った男子生徒が顔を近づける。
真っ青になった雲雀さんは、やだ!と叫んで身をよじった。
慌てて外に出れば、俺よりも早く(運動神経の問題ね)獄寺君がかけていく。
「の野郎なにしてやがる!!」
「ごは!!」
思い切り獄寺君のストレートが顔面に決まった。
殴られた男子生徒に引っ張られて、雲雀さんまで倒れかけるけど慌てて捕まえて引き剥がす。
思わず、というか仕方なくだけど、雲雀さんを抱きしめてた。
震えながら息を吐いた雲雀さんが、ひくっとしゃくりあげる。
しゃがみこめば、ぎゅっとシャツを握られた。
「大丈夫?」
「は、はいっ・・・」
震えた声で返事をした雲雀さんは、ぎゅっと眉根を寄せてそれでも泣くのをこらえてる。
もう大丈夫だからと背中を撫でたけど、震えながら頷くだけだ。
まだ脅えてる。
「テメェ、女に無理やりなんて許されると思ってんのか!!」
「ヒィィ!!」
獄寺君が胸倉をつかめば、男子生徒は頬を押さえながら震え上がる。
あの根性でよくもまぁと冷めた目で見ていると、ざり、と後ろから音がした。
「ねぇ。なにしてるの」
「(めちゃくちゃ怒ってるーーー!!)」
「にいさん・・・っ」
小さな声でヒバリさんを呼んだ雲雀さん(ややこしい!)が、安心したのかぽろりと涙を落とす。
すでにトンファー装備のヒバリさんが、それを見て思い切り殺気だった。
怖い。
本当に怖い。
「君たちになにしてるの」
「ち、違うの兄さん!沢田くんたちは私を助けてくれて・・・!」
「ふぅん」
「こいつが振られた腹いせに、そいつに無理やりキスしようとしてたんだよ!」
ふぅん・・・
「(こ、こえーーーーー!!!)」
さらに殺気だった。
獄寺君の馬鹿!と思うけど、矛先が俺たちじゃないからまだ安心だ。
うっすい目をさらに薄めたヒバリさんは、俺たちを通り越して男のもとへ行く。
もちろん男子生徒は、かわいそうなくらい脅えてヒバリさんを見上げた。
に交際を申し込むときは、僕を通すようにって言ってあったよね」
「(初耳だよ!)」
それ今決めたんじゃねーのと思っていたけど、はいぃぃぃぃ!!と叫ぶ男子生徒を見る限りどうやら本当にそういう決まりらしい。
雲雀さんは一生結婚できないんじゃないだろうか。
そんなことを呑気に考えている間にも、男子生徒がボッコボコに殴られていく。
雲雀さんは見たくないのか、俺にしがみついて肩に顔をうずめた。
役得だ。
山本がラッキーだと騒いでた理由が、今更になってよく分かる。
下手に近寄れば目の前の男の二の舞だろう。
「――さて。いつまで抱き合ってるつもり?」
「「!ご、ごめん(なさい)!!」」
ヒバリさんに睨まれて、我に返った俺と雲雀さん(やっぱややこしい!)は慌てて離れる。
また雲雀さんが真っ赤だ。それをみたヒバリさんは物凄く不機嫌だ。
次は俺か・・・!?とびくびくしていたけど、ヒバリさんはため息をついてトンファーをしまった。
「なにやってるんだい。変質者に会ったら咬み殺せって言ってただろう」
「そ、そんなこと言われても」
「(妹に咬み殺せって・・・)」
物凄い兄弟だ。
いや引いてるだけ雲雀さんは普通なんだ。
「両手ふさがれたから出来なかったんだもん・・・」
「そういう問題!?」
「隙を見せるからそうなるんだよ。誰にしろ気を抜くなっていつも言ってるだろ」
「じゃあ兄さんにも?」
「頭の悪い質問は受け付けないよ」
むっとヒバリさんを見上げて、負け惜しみを言う雲雀さん。
やっぱり通じなくて悔しそうに眉根を寄せた。可愛いだけだ。
まったくとため息をついたヒバリさんが、雲雀さん(ホントややこしいな)の腕を引っ張って立ち上がらせる。
ぱんぱんと埃やら砂やらを払ってあげる姿は、どこからどう見ても兄だった。
獄寺君が珍しそうにまじまじ見てる。
物凄く気持ちがわかるというか、俺も同じだ。
「帰るよ」
「う、うん。あ!お礼まだ――」
「はぁ・・・。君たち」
一人おろおろしながら引っ張られる雲雀さん。
ヒバリさんが立ち止まってため息をついた。
そのまま行ってくれてよかったんだけど、くるりと俺たちに顔を向ける。
「今回のことに関しては礼を言うよ」
「あの、ありがとうございました!」
「フン!」
「え、いえ・・・(俺結局なにもしてないしというか珍しすぎて恐ろしい!)」
礼を言われても逆に怖かった。(雲雀さんだけで十分です!)
怖いもの知らずの獄寺君をヒバリさんが睨むけど、雲雀さんが服を引っ張って首を振る。
またため息をついたヒバリさんは、雲雀さんの頭をぽんと叩いた。
「ただし・・・に手を出したら咬み殺す」
「(ヒィイ!)」
出せるわけがない。
雲雀さんは赤い顔で一生懸命ヒバリさんの服を引っ張りながら、兄さん!と叫んでる。
単体なら可愛いのに。
「あの、本当に重ね重ねすみません。ありがとうございました」
「いや、お礼なら獄寺君に」
「10代目の優しさに感謝しとけよ!」
「(空気よめーー!!)」
テメーなんざとまだ続ける獄寺君の口を、慌てて塞ぐ。
きょとーんと首をかしげていた雲雀さんは、はい!とそれでも笑顔で頷く。
「あの・・・」
。もういいだろ」
「でも、ちゃんとお礼をしないと・・・」
「前にもお菓子上げたんだろ。だったらもう十分だよ」
おろおろする雲雀さんを、ヒバリさんが物凄く不機嫌な顔で説得しはじめる。
確かにあれは貰いすぎだったよなぁと思っていれば、獄寺君がまた暴走しだした。
「そうだ、またクッキー作ってきたら食ってやってもいいぞ!感謝の気持ちがあるなら10代目と俺に謙譲しろ!」
「君、なにふざけたこと言ってるの?」
「はい!じゃあ明日持ってきます!」
「(ヒバリさん無視したーーー!!?)」
ある意味最強なんじゃないだろうか。
やる気満々に両手を握っている雲雀さんを見て、ヒバリさんが物凄く顔をしかめてる。

「じゃ、帰ろう兄さん。小麦粉足りないから買わないと」
「あのね・・・こんなやつらに作らなくてもいいって――、聞きなよ」
「兄さんにも作ろうと思ってたんだけど・・・いらないなら沢田くんたちの分だけにするよ?」
「誰もいらないなんて言ってないよ。僕のだけでいい」
「一人分じゃあ作る気にならないもん。ジャム入りのも作るから、ほら行こう。さよならー」
話もそこそこ、雲雀さんはヒバリさんを引っ張って歩き出す。
しかも最終的に諦めさせた。すごすぎる。
草壁くんたちにもつくろうかな、と言い出したときは絶対ダメと即答されていたけど。
「つ、強ぇ・・・」
「あのヒバリも、妹には暴力振らないンすね」
さすがに妹にまで暴力ふるわな・・・ふるいそうだけど・・・可愛がってるんだろう。
あれだけ可愛いんじゃなぁ、とついこぼしてしまう俺に、獄寺君はなにも返してこない。
・・・え、納得?
次の日。
本当にまたクッキーを作ってきてくれて、しかも俺と獄寺君の分がしっかりあって、山本が相当に悔しがった。
「あの、雲雀さん」
「はい?」
「・・・お兄さんと名前被るからさ、名前で呼んでもいい?」
あれ?俺なに言っちゃってんの?
と思った頃にはもう遅く。
でも雲雀さんは、物凄く嬉しそうに笑ってはい!と頷いてくれた。
「えっと、それじゃあ敬語もなしで。俺のことはツナって呼んでよ」
「は・・・うん!えと、つ・・・つなくん」
「(なんでこんなに可愛いのこの子!)」
ものっすごく恥ずかしそうに赤くなって、うつむきながらぼそっと名を呼ぶひば・・・ちゃん。
俺は京子ちゃん一筋俺は京子ちゃん一筋、と脳内で呪文を唱える。
で。
気付いたらその間に、ちゃっかり山本が仲良くなってた。
周りの男子が、そりゃあもう俺にだけ嫉妬の目をむけてくる。
あれか。
山本とか獄寺君なら仕方ないとか思ってるのか。ええどうせダメダメのダメツナですとも!
「つ、ツナくん」
「あっ、な、なに?」
思考がぶっ飛んでたところに声をかけられて、変な返事になってしまった。
ひ・・・ちゃんは全然気にせず(というかこの子いっぱいいっぱいな顔してないか)、あのね、と言葉を続ける。
また恥ずかしそうに赤くなりながら。
「他にもお菓子・・・作ってきてもいい?」
「え」
「あああの、兄さんに作ろうにも一人分じゃやる気が出ないし、ほ他のも色々、作ってみたくて、その・・・め、迷惑ならいいです!」
「ぜ、全然迷惑じゃないよ!クッキーすごく美味しかったし!」
あくせくしながら勢いに乗って言ってくるちゃん。
俺も焦りながら返事を返してしまった。
俺の返事を聞いたちゃんは、それこそ嬉しそうな笑みを見せる。
俺は京子ちゃん一筋です!
「ありがとう!」
・・・俺は京子ちゃん一筋です・・・!
「いーなー。なあ、俺も貰っていーか?」
「え?うん。それじゃあ山本君のも作るね」
「俺にはなしかよ」
「(珍しい!)」
「うん。獄寺君のも作ってくるね」
というかちゃっかりしすぎじゃないだろうか俺の友達。
やりーと山本は喜んで、いや前のクッキーめっちゃ美味くてさーとそのまま会話を始めるのだから尊敬してしまう。
獄寺のヤツ独り占めしようとしてたんだぜーの一言でまた抗争が始まるのだから始末に終えない。
ちゃんはそこらへんなれてるのか(兄が兄だし)、よかったーと一人胸をなでおろしてる。
「口に合わなかったらどうしようかと・・・」
「ンだよテメェ。10代目に不味いもん食わせようとしてたのかよ」
「え!ち、違うよ。兄さんにちゃんと味見してもらったから大丈夫だとは思ってたんだけど。好みもあるし・・・」
「へー。いいなーヒバリのやつ」
ばくばく食べてたらしい。
しかもお礼にあげるクッキーまで狙ってたというのだから・・・まあ、昨日のを見る限り妹を守ろうとしていたのだろう。
まったく通じてないけど。
なんだかんだで仲良くなれて、それからの月曜日は二週に一度、ちゃんのお菓子デーになった。
また学校にくる楽しみが増えたけど・・・時折ヒバリさんににらまれるのが怖い。










(超うめー!獄寺の貰ってやるよ!)(よ、余計なお世話だ!)(ごめんちゃん。いつもこんなで)(ううん。すごく楽しい)(俺は京子ちゃん一筋・・・!)